大本営の資料室   作:114

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はい

本当はゴールデンウィーク中に更新しようと思っていたんですが…


はい。遊び過ぎましたね。

ではどうぞ





File81.少女達のプレリュード⑥

 

 

 

目が覚めると、そこは鉄と油の臭いが充満する工廠でした

 

 

艦娘としてこの世に生を受けた私を…

 

戦う能力のない私なんかを提督は、基地の皆さんは暖かく迎え入れてくれました

 

 

『戦うことだけが君の使命ではないよ』

 

 

提督は仰ってくださいました

 

 

しかし…私は…

 

私はそのようなことを仰ってくださる提督の為に戦いたいと…

 

提督の為に戦果をあげたいと思うようになりました

 

 

ある時は対深海棲艦の艦艇に乗り、他の海軍の方と共に戦い、またある時は明石さんが開発してくれた私専用の兵器を使い、深海棲艦と戦いました

 

 

『もうやめよう…君の戦う姿は見ていられない…』

 

 

何を仰います提督…

 

 

私は他のケッカンヒンとは違います…

 

艤装が出せない…艤装のない状態であろうとも海の上で傷付けば入渠で怪我はなおります

 

 

 

『…だめだ。僕は君が傷付くところは見たくない』

 

 

ああ、提督からそのような御言葉…

 

私には勿体ないです

 

 

『…何故僕のいうことを聞いてくれない…宗谷…』

 

 

これは私の意思です

 

貴方の為なのです

 

 

 

…何故泣いていらっしゃるのですか?

 

 

 

 

私は…

 

貴方の為ならどのような事だってできます

 

貴方が望むのならば勝利を…

 

貴方が私に沈めと御命令くださるのならば喜んでこの身を深海へと沈めましょう…

 

 

 

尊敬する提督の為に…

 

 

ああ、尊敬だなんて陳腐な感情ではありません…

 

 

貴方は…提督閣下は崇拝すべき存在…

 

 

貴方の喜びこそ我が幸せ

 

 

 

 

…だからこそ…まるで礼儀のないあの女達を私は許しません…

 

 

貴方には私がいればいい

 

私だけがいればいい…

 

 

 

提督…

 

"貴方"という  存 

 

 

 在

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

1930

 

 

 

「…ねぇ、なにやってんのさ…」

 

 

播磨鎮守府 艦娘寮談話室

 

 

遅めの夕食を終え、寮へ戻ってきた朧を仁王立ちして待っていたのは同室の漣だった

 

横には曙が椅子に座って頬杖をついている

 

 

 

特に漣は不機嫌そうだ

 

 

基地本館から寮の部屋へ戻るには、談話室を抜けなければならない

 

自分達の部屋の窓から入ることも出来なくはないが、生憎朧にはそんな元気は残っていない

 

それに同室の漣にはもう色々とバレているようだ。ここで遠回りしたところで寮の部屋で同じ問答になるだろう

 

 

内心ため息しながら漣に眼を向け

 

 

 

「…なにが?意味わからない」

 

つん、と一言返し、さっさと談話室を抜けようと漣の横を通ろうとする朧

 

しかしその手首は漣によって掴まれる

 

 

「…とぼけないでよ!昼間あの海兵達と一緒にいたじゃん!」

 

漣が強く声を放つ

珍しく張った漣の声に、椅子に座っていた曙はびくっと、肩を震わせる

 

 

「…漣には…関係ないでしょ?」

 

「関係あるよ!朧がやったのは私たちへの裏切り行為だよ!あんな奴らと仲良くしたら駄目だって!」

 

 

ふぅ、と曙は息を吐く

 

 

「…そうね…ま、どうせ海兵と一緒にいたって…いいことなんて無いわよ…?」

 

「そうだよ!海兵なんて優しくしてくれるのは最初だけ…すぐに捨てられるに決まってんじゃん!」

 

 

「…」

 

漣と曙に畳み掛けられるように言われ、きっ、と二人を睨む朧

 

 

「ね?…朧にはあんな辛い想いしてほしくないんだよ…だからもうあいつらの所なんて行かないで、漣達と「離してよっ!」

 

掴まれた漣の手を振り払う朧

 

 

珍しく張った朧の声に、椅子に座っていた曙はびくっと、肩を震わせる

 

 

「…漣はいいよね…どんな形にせよ…かつては"提督"と関わることができたんだからさ…」

 

「…はぁ?…なに…それ…意味わかんないこと言わないでよ…」

 

振り払われた手を擦る漣はむ、としながら返す

 

 

「…朧は…あたしは……」

 

そこまで話して朧はくっと顔を伏せて言葉を切る

 

曙が朧の手を見ると、朧の両手はふるふると小さく震えている

 

 

「なにさ!…何か言いたいことあんなら言えばいいじゃん!漣の言うことが間違ってるって言うの!?」

 

「ちょ、ちょっと漣…落ち着きなさいよ…」

 

顔を赤くし、ボルテージが上がった漣

 

空気を読んで曙が漣をやわらかく止めようとするも、漣は朧に近づきながら段々と声を荒げボルテージをも上げていく

 

 

「だいたい何なのその言い方…友達に対して使っていい言い方じゃないよね!…そもそも…いっつも1人で暗くしてるから漣が声かけてあげたっていうのにさ!私が声かけなかったら今でも1人っきりで「漣!止めなさい!」

 

 

曙に強く呼ばれようやく我に返る漣

 

肯定派の朧と否定派の漣…このまま続けさせれば喧嘩になると見た中立派の曙の判断による制止…

 

談話室にいた他の艦娘達も漣達に注目する

 

 

「…漣…アンタこそ…そういう言い方は違うんじゃないの?」

 

曙に諭され、朧の方を見る漣

 

朧は俯き、目元を震わせていた

 

 

「…ぁ…ち、ちが…おぼ…」

 

 

漣が言い終わる前に、朧は走って談話室から外へと出ていった

 

 

「どうしたの?何かあったの?喧嘩?」

 

様子を見ていた神風がトコトコと曙に近づき、声をかける

 

えーと、と曙が返答を迷っていると、漣が首を横にふる

 

 

「…なんでもないし…喧嘩なんか…してないから…」

 

 

「…そうなの?…でも今「なんでもないからっ!」

 

神風の言葉を遮り、漣も談話室から部屋の方へと足早に出ていってしまった

 

はぁ、と大きくため息する曙

 

 

この曙は漣、朧とは特別仲が良いわけではない

 

七駆の繋がりということで今回漣の方から喧嘩をしないように中立に…間に入ってくれと頼まれてここにいた

 

 

 

「(…なによ…漣からお願いしておいて勝手にキレて帰るなんて…ほんっと頭がガキね…馬鹿馬鹿しい…)」

 

 

もう漣のお願いは聞くのやめよう…

 

曙はそう心に決めて談話室から部屋の方へと、とぼとぼと少しだけ寂しそうに出ていった

 

 

 

そんな寂しそうな曙の背中を見て神風も眉を寄せる

 

 

「…面倒くさい娘達ねぇ…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

2000

 

 

 

播磨鎮守府本館 屋上

 

 

執務という名の雑務を終え、赤城監督からの監視を掻い潜り屋上へ1人やってきた田中

 

 

手すりに肘をのせ、ぼうっと真っ暗な瀬戸内海を見つめる

 

 

「…あっちの方にあんのが…おとこかしまか…全然見えねぇけど…」

 

 

そう呟き、田中はズボンのポケットから煙草の箱を取り出し、箱から一本取り出し、口に咥え、ライターで火を点け、それを吸う

 

 

 

「ふぅい~…」

 

 

 

大きくため息するように、煙草の煙を吐く田中

 

 

ここ播磨に来てから初めて吸う煙草の味は格別であった

 

 

 

 

 

「…提督…煙草は身体に良くないんだよ?」

 

「…うぉぉあっはっはぁっ!!うぉへっ!げへっ!げへっ!」

 

 

突然背後から声をかけられ、完全に気をぬいていた田中は驚き、煙草の煙がへんなところに入り、咳こみ鼻と口から煙を吐く

 

 

「…な、なんちゃって…ごめんなさい…大丈夫です…か?」

 

「げほっげほっ!」

 

 

朧は申し訳なさそうに田中の背中を優しく叩く

 

田中、涙を少し流しながら指でオーケーサインをつくり朧へ向ける

 

 

「…ぇほっ!…大丈夫大丈夫…あー…びっくりしたわ…うそ、ビビってねぇし」

 

「なんですかその無駄な強がり…」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

播磨鎮守府本館 屋上

 

 

…執務という名の雑務を終え、赤城監督からの監視を掻い潜り屋上へ1人やってきた田中

 

 

手すりに肘をのせ、ぼうっと真っ暗な瀬戸内海を見つめる

 

 

「…あっちの方にあんのが…おとこかしまか…全然「たんがしま、ですよ?」

 

 

 

田中の隣に同じように手すりに手をのせた朧が冷静に突っ込むと、表情こそそのままだが、田中の耳が真っ赤に染まっていく

 

 

「…そう、だよな…いや、試したんだよ…朧を…」

 

「…そうですか…というか、なんでさっきと同じことしてるんですか?」

 

 

田中、咳払い

 

 

 

「……それよりも…なんだってここにいんだ?…良い子はお休みか、部屋で友達とガールズトークの時間だろ?」

 

「…ガールズトーク……あはは…まぁ、そうですね…そんな話もたまにします」

 

 

困り顔で笑う朧を見て、何かに気づく田中

 

煙草の煙を吸い込み、朧のいる方向と逆の方に煙を吐く

 

 

「…なんかあったのか?…っつーか、さっき俺のこと提督って言ってなかったか?…初めて言われたぜ」

 

「…そうですよね…播磨の娘達は海軍…特に提督って存在を嫌っている人ばかりなので…」

 

「…ふーん…お前は提督嫌いじゃないのか?」

 

 

田中の質問に、朧はすぐに言葉を返さず手すりを握ったまま空を眺める

 

 

「……よく…わかりません…あたしは…朧はこれまで"提督"と接したことが無かったので…」

 

「…接したことがない?」

 

 

田中が聞いていた話では、播磨にいる艦娘達は皆艦娘の能力がない

 

故にその当時着任していた基地の提督や、同僚の艦娘達からひどい扱いをされて、ここにやってきたと聞いている

 

ならば朧もそういった扱いをされたものだと、田中は勝手に考えていた

 

 

田中はそんな考えを払拭するように頭を小さく横にふる

 

 

「…多分…誰かを提督、って呼んだの初めてです……うん…こんな感じなんですね…」

 

 

朧は小さく笑う

 

田中もふ、と笑い 

 

 

「…俺もここに来て初めて艦娘に提督って呼ばれたよ……ああ…こんな感じなんだな」

 

「…」

 

田中の台詞を聞いていた朧が顔を俯かせる

 

「…ん?どうした朧」

 

 

問われた朧は眼を少し泳がせ、手をもじもじとさせ、申し訳なさそうに顔を上げる

 

 

「…えっと…あんまり…ここじゃその言葉を言わない方がいいですよ…」

 

 

はて、と田中は頭を傾げるが、ああ、と思い出す

 

 

 

「…提督って言葉か…まぁ…そうだよな…ここじゃ好まれなさそうな単語だし「いえ…そっちじゃなくて……艦娘…です」

 

 

は?、と眉を上げて驚く田中

 

 

「…え、いや…は?…」

 

 

田中のリアクションを見た朧はあはは、と困ったように笑う

 

 

「…ここのみんなは…自分のことを"艦娘"とは思っていません…"あの人達"みたいに海に浮かべないし…戦えもしない…あたし達は欠陥品ですらない……何の役にも立たない生き物ですから」

 

 

「…なんだよそれ…」

 

 

自分達を艦娘とも思わない、朧ははっきりとそう言った

 

 

「…事実ですから…ここでは作戦なんて立つことはないし、哨戒も演習もなにもありません…みんな日々を適当に過ごしているだけですから」

 

「…朧…」

 

 

 

 

 

好きな時に食べ、好きな時に寝る

 

お喋りをしてても誰かに怒られることはないし、ある程度の欲しいものもまずまず手には入る

 

 

だがそこに本当の意味での自由はない

 

 

艦娘としての意義もない

 

ここの艦娘達は自分から正門の裏にバリケードを作り、自ら世界と縁を切ろうとしているのだ

 

 

初日に赤城が言った"遠征も哨戒も出来ない"の意味をようやく理解する

 

 

田中はふぅ、と煙草の煙を吐く

 

 

「…なら」

 

煙草を地面に捨て、靴の裏で潰して煙草の火を消す

 

そして右手を朧の頭に乗せる

 

 

「とっととあのクソバリケードぶっ壊そうぜ…んでもってまずは播磨の空気を入れ換えよう。外の空気も吸えば…あれだ。また違った考えを持てるようになるからよ」

 

 

「…少佐…」

 

 

この朧はわりと人懐こい少女だ

 

頭に乗せられた手を払うことなどしない

 

 

 

「…それに…朧は欠陥品以下のなんの役にも立たない生き物なんかじゃねぇよ……むしろ俺はお前がいてくれたことに感謝してんだ…」

 

 

「…感…謝…?」

 

 

朧がまんまるな瞳で田中の顔を見つめ、聞き返すと、ああ、と田中は頷く

 

 

「…初めて会った時に俺達の事を手当てしてくれただろ?…あれがなかったらマジでメンタル的にもヤバかったかもしれねぇからな…それにって…うぉ!?」

 

 

キメ顔で言いきろうとした田中だったが、その言葉は最後まで続かなかった

 

 

田中の胸に朧が突然顔を埋めてきたのだ

 

 

 

「…あー…えっと…朧…さん?」

 

「……ごめん…なさい…」

 

 

 

謝罪しながらも田中の胸に顔を埋めたまま、顔を上げない朧

 

その光景だけ見れば、学校の屋上で告白された先輩と、告白し、受け入れてもらいつつ恥ずかしそうに彼の胸に飛び込んだ少女のようなシルエットだった

 

 

「…いや……もしかしてお前泣いてんのか?」

 

田中が問うと、ぐすっ、と鼻をすする音が聞こえる

 

「……泣いで…まぜん…」

 

 

 

 

 

"なんの役にも立たない存在"

 

 

 

朧は今まで自分のことをずっとそう思っていた

 

 

そしてそれを誰かに言うことも相談することもなかった

 

しかし田中達と出会い、この数日間で彼のことが気になり始めてきた朧は、話の流れに乗せたとはいえ、彼に自分が今まで感じていた想いを打ち明けたのだ

 

 

そして朧が最も聞きたかった答えを田中はあっさりと返してくれた

 

 

 

声を殺して肩を震わせる朧の頭を再度撫でる田中

 

 

「…俺は…いや、俺だけじゃない…坂本だって…多分赤城や三隈達だってお前の味方だ…何かあればなんも気にせずいつでも言えよ?…な?」

 

「……はい…」

 

ずず、と鼻を啜る音と共に頷く朧

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

「…もう一度よろしいですか?」

 

 

 

 

執務室 2100

 

坂本、赤城がソファーに座って話していると、執務室の扉が開く

 

入ってきたのは先ほど抜け出していた田中と、彼の隣に立った

 

 

 

朧だった

 

 

 

開口一番に田中からあることを言われた赤城はため息交じりに聞き返す

 

 

「…あ、いや…なんか朧がルームメイトと喧嘩したみたいでさ…今夜だけでも赤城…さんの部屋で寝かせてあげられないかなーって…」

 

 

田中は焦りながら、赤城を怒らせないように言葉を選びながら説明しながらも、内心諦めていた

 

 

たかがルームメイトと喧嘩したくらいでこんなお願いを聞いてもらえるはずないな、と…

 

 

赤城は朧をじっと見る

 

そして朧も申し訳なさそうに赤城の目を見る

 

朧の雰囲気から"色々"と察した赤城が頷く

 

 

「…わかりました…朧さん。今夜は愛宕さんのベッドを使ってください」

 

「…あ、ありがとうございます。赤城さん」

 

 

朧が礼を言うと、赤城はいえ、と言って田中を睨む

 

 

「…私の眼を盗んで執務室から抜け出して、勝手に不浄な欲望に従って貴女を口説こうとした質の悪い人の側から一刻も早く離さなければ、と思いましてね」

 

 

 

「…ひっでぇ言い方だな…だけどそうしてくれるんなら助かるぜ…俺らん所寝かせるわけにゃあいかねぇし…うん、流石にこればかりは俺もどうしようかと思ってたからな…」

 

 

ぽん、と朧の頭に手を乗せる田中はため息交じりに苦笑い

 

 

「すいません…田中少佐…」

「ああ、気にすんなって」

 

 

その後、朧は寮の赤城達の部屋へ行き

 

坂本、田中、赤城の3人はもう少しだけ翌日行うバリケード撤去の手順を確認した

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

同時刻 

 

 

寮の一室、電気が消えた部屋で、ベッドに寝転がるは漣だった

 

 

真っ暗な天井を見つめ、数度目のため息を吐く

 

 

 

 

「…」

 

 

思い出すは朧から言われた言葉

 

 

 

『…漣はいいよね…どんな形にせよ…かつては"提督"と関わることができたんだからさ…』

 

 

仰向けだった姿勢から、漣は横へと寝転がる

 

 

 

「…意味…わかんないし…」

 

 

以前いた鎮守府で、漣は経験した

 

 

提督という存在が優しいのは最初だけだ

 

自分という存在を大切にするのは最初だけだ

 

 

戦えないとわかるや否や、すぐに飽きられ捨てられる

 

 

 

「…朧は…知らないだけじゃん……」

 

 

 

不貞腐れながら、漣は目を瞑る

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

翌日 播磨鎮守府正門裏

 

 

0600

 

 

正門裏に集まったのは播磨の艦娘達が着る訓練用青ジャージを着た田中と坂本。

 

勿論予備の新品ジャージである

 

 

胸のところには"播磨"と刺繍が入れられている

 

二人の監視役の赤城が、手伝いに高雄、三隈、鈴谷の三人

 

そして肯定派の艦娘達で朧、初月、扶桑、霰、夕雲、初霜、宗谷の7名

 

 

汚れてもいいように皆、田中達と同じ青い訓練ジャージを着ている

 

 

 

「今日はよろしくお願いしますね!田中少佐!坂本少佐!」

 

 

朝も早いというのに、首元まできっちりとジャージのチャックを上げ、目をキラキラさせた宗谷が田中達にびしりと敬礼する

 

 

「…あ、ああ…こちらこそよろしくな…」

 

 

若干たじろぎながらそう返す田中は、赤城と高雄に頭を下げている朧を見る

 

 

「昨日は泊めてもらってありがとうございました…迷惑かけてごめんなさい」

 

 

朧が謝ると、赤城はにこりと笑う

 

 

「構いませんよ…あのままでは朧さんが悪い狼に食べられてしまうところでしたから」

 

「おい、その一言で傷付いた無実の狼が一匹いるわけなんだが」

 

 

ジト目で赤城を睨む田中の背中を、まぁまぁと宥める坂本

 

 

「…しかし…随分早い時間ですね…」

 

 

高雄が問うと、田中が頷く

 

 

「…鈴谷の話だと、金剛達が朝早く起きて何かをするってことはほとんど無いんだとさ。だいたい10時頃まで各自部屋から出ることはないっつー話だ。…まぁ、揃って夜型なんだろうな…だから朝早くちゃっちゃとやって、とっとと撤収っつー戦法だ」

 

 

びし、とサムズアップを高雄に向ける田中

 

しかし逆に坂本は神妙な表情で高雄に問う

 

 

「…ですが…本当に我々の手助けをして良いんですか?…もしもこの事が…その……僕や田中少佐を嫌っている方々に見られれば貴女達が嫌がらせの標的になる可能性も…」

 

 

「…私は…大切な妹を助けてもらった御礼がしたいので…」

 

 

腰の低い高雄に対して、田中はぱんぱんと明るく坂本の肩を叩く

 

「…なーに。いざとなったら俺らが無理矢理やらせたっつー事でいいじゃんか!な?」

 

「…そう、ですね。それで丸く…は収まらないでしょうが、それで貴女達に被害が出ないのであれば…はい」

 

 

 

「…じゃ、始めっか!」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

早朝から始まった正門裏のバリケード撤去作業

 

 

古川達から借りたリアカーや台車等の道具、更にごみ袋や軍手などの消耗品を使い、元気一杯 作業を始めた田中達は順調に撤去作業を進めて…

 

 

 

なかった

 

 

 

 

作業開始30分で扶桑が腰の痛みを訴え、夕雲、霰が熱中症気味でダウン。鈴谷も息が切れ始めてはいたが、なんとか頑張ろうとして転倒、田中の作業を妨害する

 

 

「…お前ら体力無さすぎだろ…」

 

 

ジャージの上着を脱ぎ、各自腰を下ろして休む少女達を横目にぼやきながら作業を続ける田中

 

ふと何かに気づいて三隈の方を見る

 

三隈は田中とは数メートル離れた場所で木材を撤去している

 

軍手は着けてはいるが…

 

 

「…おーい、三隈ー」  

 

「…え?」

 

不意に呼ばれ、田中の方を見ようとすると、何かがぽーん、と投げられた

 

 

「…これ…」

 

それは力仕事メインの田中が使っていた厚手のゴムイボ付きの手袋だった

 

 

「木材、たまに釘とか出てっからさ…気休め程度だけどそれ使えよ」

 

「…え、でも…」

 

 

田中の手を見れば素手だ

 

きっと今の今までこの手袋をはめていたのだろう

 

 

「いーからいーから…あと、熱中症とかあぶねぇから無理すんなよ。まじで」

 

 

そう言って田中は、自分の作業に戻ってしまった

 

 

田中から受け取った手袋を見て、三隈はふふ、と皆に見られないように小さく笑う

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

0700

 

 

「皆さん、どうぞ」

 

 

赤城と高雄が両腕一杯に抱えて持ってきたのは、ペットボトルのスポーツ飲料だった

 

 

涼しい朝とはいえ、蝉の声が聞こえるこの季節

 

水分補給しなければ熱中症で倒れてしまう

 

 

赤城達から飲み物をもらった少女達は、スポーツ飲料で喉を潤す

 

 

「少佐達もどうぞ」

 

「お、助かるぜ!」

「ありがとうございます。赤城さん」

 

 

田中と坂本も赤城からスポーツ飲料をもらい、口から一気に身体の中へと流し込む

 

 

「…っくぁー!生き返るぜー!」

「飲み物の代金は田中少佐につけておきましたから」

 

「…いい笑顔でなんてことしてんだよ赤城様…」

 

 

ま、千いくらくらい別にいいか、と田中はもう一口飲みながら、一人だけ休まずにせっせと撤去作業を行う少女を見る

 

 

「…おーい……ぇと…そ、宗谷ー?…お前も休んだらどうだー?」

 

 

彼女と少しだけ距離があったので、ちょっとだけ声を張る田中

 

作業を行っていた宗谷は手を止め、田中の方へ振り返ると、敬礼

 

 

「…もったいないお言葉!少佐方のお役に立てるのならばこの宗谷!例え死んでもご命令を遂行しま「いーからお前もこっちこいって」

 

 

呆れたように田中がそう言うと、しぶしぶ皆が集まるところへやってきた宗谷

 

 

「…ほれ」

 

ぽん、とスポーツ飲料のボトルを宗谷に投げると、おっとっと、と良いながらキャッチする宗谷

 

 

「…あ、ありがとうござ「敬礼も別にしなくていいって…それよりもしっかり水分補給しとけよ?」

 

「…あ、はい……」

 

 

知らない人が見ればコントのような田中と宗谷のやり取り

 

しかし肯定派の少女達は何か気になるのか、心配そうに二人のやり取りを見ている

 

 

「…ん?どうした、朧」

 

 

肯定派の視線に気づいた田中が朧に問うも、朧は首を横にふる

 

 

「ううん、なんでも…ないです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…仕方ない!お前にも一口やろう!さぁ!僕がもらったスポーツ飲料だがお前にやろう!ぶちゅっと飲み口に唇をつけて舌で舐め回すように味わうがいい!舌で舐め回すように!」

 

「…いえ…僕も全く同じ飲み物を頂いてるので結構です」

 

「遠慮しなくていいぞ!…はっ!…ま、まさかこんな飲み物じゃなくて…ぼ、僕の…僕の身体から滲み出たスポーティーなドリンクを直接「はいはい、熱中症かしら。初月ちゃんもあっちで休憩しましょうね」

 

 

初月が坂本に対して、一方的に不穏な会話をしていると元気になった夕雲が初月を連れていく

 

そんな光景を見て田中はつい呟いてしまった

 

 

 

「…ブッ飛んでるな…」

「…あの娘はあれが平常運転ですから…」

 

 

田中の隣に立ち、同じ光景を見ていた朧が返す

 

 

「…お前は…疲れてないか?みんなにも言ったけど、朧もあんま無理すんなよ?」

 

 

田中の言葉に朧は照れくさそうに笑う

 

「ううん大丈夫です。…なんだか楽しいです…みんなでひとつの事やるってことなかったので…」

 

 

そう語る朧の表情は優しい

 

田中もつられてわいわいと楽しそうに話す少女へ目を向ける

 

 

 

「…こんなん序の口さ…それにまだ…"皆"じゃあない…これから播磨の他の奴ら皆でこんなことじゃなくて、もっともっと楽しいことやろうじゃねぇ「カッコつけるのは結構ですけど。むやみやたらに女性に色目を使うものではないかと」ひょぁあっ!」

 

 

不意に背後から掛けられた声で危うく飲み物を落としそうになる田中

 

 

「み、三隈!…驚かせんなって…あー…びびった…」

 

 

恐る恐る振り返ると、青ジャージの上着を腰に巻いた三隈が腰に手を当てて田中をジト目で睨んでいた

 

汗でほんのりとシャツが透けているように見える

 

 

田中は目をそらすように、顔を手付かずの廃材へと視線を向ける

 

 

「……別に色目なんかつかってねっつの…よっしゃ。んじゃそろそろ再開しますか」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

田中達がバリケード撤去作業を再開させて数分

 

 

別棟 連絡通路

 

 

 

連絡通路を歩くは金剛

 

普段のこの時間ならば自室で憂鬱な朝を感じているだろう

 

しかし今日は違う

 

 

かつて姉と呼んだ女性、愛宕の見舞いをするために、早めに寮の部屋を出ていたのだ

 

無事愛宕の見舞いを終わらせ、自室に戻ろうと進んでいると、ふと窓から見える正門の方を見る

 

 

「…!……あいつら…こんな時間に…」

 

 

見えたのはバリケードを撤去している肯定派の艦娘達

 

金剛は窓に手を当て、眉間にしわを寄せる

 

 

更によくよく見れば田中と坂本も作業を行っているではないか

 

 

「…海兵…ああ、そっか…」

 

 

田中達の姿を見て金剛は一人納得する

この時間なら自分達は殆ど寮に閉じ籠っている

 

何かをするなら今の時間が好都合なのだろう

 

 

「……やっぱり…あいつらの肩を持つんデスね…」

 

 

朧達を見て呟く金剛

 

肯定派は何かと否定派の金剛達と意見も考えもぶつかることが多い。

 

今行っているバリケードの撤去作業も、恐らく肯定派の方から協力したいだかなんだかと言い寄ってきたのだろう、と…

 

 

「(まるで飼い主に尻尾をふる犬デスね…情けない)」

 

 

…とはいいつつも、愛宕が怪我をした原因となった正門裏のバリケード…

 

金剛が播磨に来る前から出来上がっていたバリケード…

 

ないならないで色々と助かるのは事実

 

故に金剛は田中達の邪魔するつもりはなかった

 

 

 

 

「…ん?」

 

 

金剛はバリケード撤去作業を行う田中達に2つの影が近付いていることに気づく

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「おい!」

 

 

 

正門裏

 

 

「…あん?…げっ…」

 

 

気が強そうな女性の声を聞いた田中は振り返る

 

そこにいたのは否定派の鳥海と摩耶だった

二人とも随分と怖い顔をしている

 

 

「こんな朝っぱらからなにやってっかと思えば…!てめぇら今すぐその作業やめろ!」

 

「そうですよ!こんなこと許されません!」

 

 

肯定派の面々は気まずそうに顔を背ける

 

 

「…鈴谷!お前までなにやってんだよ!裏切る気か!?」

 

「…えっ…あ…そ、その…」

 

名指しで怒鳴られた鈴谷がおろおろとしていると、三隈が言い返してやろうと息を吸い、一歩前へ出ようとするも、田中の手が先に三隈の前に伸びる

 

 

「ちょいまち」

 

 

「…海兵!…お前がこいつらを先導したんだな!?」

 

「許せない!今すぐ彼女達を解放しなさい!」

 

 

鳥海と摩耶がそう言うと、田中はあはは、と苦笑い

 

 

「…ひっでぇ言い方だな…まぁ……そうだな。うん、俺らが無理矢理やらせた」

 

「少佐!」

「なに言ってるんですか!」

 

宗谷と朧が叫ぶも、田中は二人に向かって手を上げて制止

 

 

「…まぁ聞けよ。お前らあれだ…俺らはただの清掃運動をしているだけであって、んな怒られるようなことはしてねぇわけだ。オーケー?」

 

 

「うるせぇ!何がオーケーだ!この扉は私達の反抗の意思の象徴なんだよ!」

 

「そうです!それをそんな下らない理由で崩そうとしているだなんて!」

 

 

「…坂本ー!ヘルプ!」

 

泣きそうな田中は坂本の方を向き、助けを止める

 

坂本はあははと笑い、ひとつ咳払い

 

そして鳥海達の前へ一歩出る

 

 

「…あんたか…今度はどんな言い訳をするつもりだ?」

 

「ええとですね…昨日、ここで愛宕さんが怪我したのはご存じですよね?」

 

 

田中と違い、物腰柔らかく話し始めた坂本の雰囲気に若干怒りのボルテージが覚める摩耶と鳥海

 

 

「…ああ。知ってる」

 

「はい。その原因のひとつがこの正門なんですよ…普段の物資の搬入はそこの警備員用の出入り口からとお聞きしました。ただ、普段でも搬入するのにかなり危険で時間もかかると…」

 

坂本の話に鳥海と摩耶は顔を合わせて頷く

 

「確かに…注意して搬入しねぇとあぶねぇっちゃあぶねぇ…時もある…」

 

「ですよね?…そこで今回、一時的に正門を開くようにして、しばらくの間…そうですね。試験的に正門から搬入をしてみてはどうかと思って作業させていただいたんですよ。もちろんそれで問題あるようなら再び元の状態に戻すつもりです」

 

 

 

そう言ってにこりと笑う坂本

 

そんな坂本の話を聞いて、坂本の達から少し離れていた鈴谷は隣に立つ赤城に耳打ちする

 

 

「…え…あの…撤去した廃材…また戻すんですか…?」

 

「…大したでまかせです…よくもまぁあんなにぺらぺらと出てくるものですね…」

 

 

 

「や、やっぱり無理です!信用出来ません!」

 

そう返された坂本はうーん、とわざとらしく唸り

 

 

「…なら…また愛宕さんの様に怪我人が出てもいい、ということですか?…貴女方の反抗の象徴…確かにプライドや意思は大切なものです。戦う上で、生きる上で心を保つために重要なものだ…ですがそれは仲間の、友人の命や身体を蔑ろにしていいものですか?今回はたまたま打撲で済みましたが、あの大荷物です、下手な箇所にのしかかれば命を落としていたかもしれない…」

 

「…う…」

 

坂本の指摘に言葉を詰まらせる鳥海

 

「…今回の事故を見て、田中少佐と相談して少しでも皆さんの、事故や怪我の可能性を下げるために撤去作業をやらせていただいています」

 

更なる坂本の圧しに鳥海達は目を泳がせる

 

 

「な、ならなんで鈴谷達もその作業やってんだよ!お前ら二人で相談してたんじゃないのか!?変だろ!」

 

 

当然の質問にようやく田中が前へ出る

 

 

「…こいつらが外の物で欲しいもんがあるっつーから…それをここに入れる事を条件に俺らが無理言って手伝わせてんだよ…なんか文句あるか?」

 

 

田中ははっきりとそう言いきる

 

その彼の背後では肯定派の少女達が睨むように鳥海と摩耶をじっと見ていた

 

田中達が来た初日の夜とはまるで逆の立場となった二人

 

自分達の背後には否定派の艦娘はいない

 

 

気まずさを感じ取った二人は一歩退き

 

 

「…ちっ…くそったれ共!…行くぞ、摩耶」

 

「…あ、ま、待ちなさいよ鳥海!」

 

 

踵を返した鳥海と摩耶は本館の方へと歩いていく

 

背中が小さくなっていく鳥海と摩耶を見ながら隣に立つ坂本へ語りかける田中

 

 

 

「…なぁ、坂本よ…」

 

「…?…はい?」

 

「…俺の…士官学校の時の知識が合ってるならさ…」 

 

「…はい」

 

 

「…あいつらの雰囲気って…逆、じゃね?」

 

「……そう、ですね…」

 

坂本はそう相づちし、右手中指で自分の眉間を触る

 

 

田中と坂本が話しているその背後、初月だけが腕を組んで坂本をじっと見ていた

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

正門裏  0800

 

 

 

「よし、撤収!」

 

 

田中の一言で作業の手を止める面々

 

赤城が頷く

 

 

「…そうですね…金剛さん達もここに来る可能性がありますからね」

 

額の汗をタオルで拭いながら鈴谷が呟く

 

「…ううん…その可能性はないかも…摩耶と鳥海の…その、雰囲気というか…多分チクることはないと思う…」

 

 

「…ま、なんにしてもとっととずらかるか…後片付けは俺と坂本でやるから、お前らは戻っていいぞ。その方が良いだろ」

 

ボロボロの木箱を、廃材が並べられた場所に置いた田中がそう言うも、肯定派の艦娘達はその場から離れることなくおろおろとしている

 

 

「…ええと…いえ、少佐達だけでやられるのは危険かと…」

 

 

腰にコルセットを巻いた扶桑が心配そうにそう言ってきた

 

霰や初霜も扶桑の言葉に頷く

 

 

それもそうだろう。

 

先程の摩耶と鳥海は赤城達の眼もあって田中達に暴力は振るわなかったと見えた

 

しかしこれが田中と坂本の二人だけであれば下手をすれば否定派の艦娘総出で暴行を受ける可能性がある

 

扶桑達はそれを心配しているのだ

 

 

「…そうですね…田中少佐。皆さんでやりませんか?…どうせなら皆さんで作業した方が効率が良いかと…」

 

坂本も田中へ進言

 

 

「…なんだよ…お前まで金剛達にボコられるのが怖いのか?」

 

「…好き好んで殴られたい人はあまりいないかと…ですが田中少佐がやる、と仰るのならばお付き合いしますが…?」

 

 

坂本にさらっと笑顔で嫌味を言われた田中ははいはい、と両手を上げる

 

 

「…冗談だよ…んじゃ、とりあえず道具は隅の方へ置いておくか…」

 

三隈が廃材を指差し

 

 

「…避けた木箱や木材の廃材はこのままで良いんですか?」

 

「ああ、どうせ撤去が終わったら業者にもってってもらうしな「田中少佐。これ、どうします?」…うん?」

 

 

朧に呼ばれ、そちらを振り向くと、朧が四角い枕サイズの取っ手付きの四角いケースを手に持っていた

 

 

「…ああ…それ……は……え?」

 

朧の手に持ったケースを見て固まる田中

 

赤城もケース視線を向ける

 

 

「…田中少佐?…こちらは?」

 

 

 

坂本もケースに目を向けると、おお、と驚く

 

 

「…驚きましたね…こんなものがあるなんて…」

 

「…ああ、楽器ケースだ…トランペット…いや、このサイズはホルンか?」

 

 

田中から聞きなれない言葉を聞いて、鈴谷が首をかしげる

 

 

「ほるん?」

 

「…金管楽器のひとつですよ」

 

坂本がそう一言返すと、霰や夕雲も不思議そうな顔をする

 

 

「…キンカン…?」

 

「…がっき…って、あの楽器ですよね?…軍楽隊の…」

 

 

楽器のことを知らなさそうな夕雲達の反応を見て、田中はつい呟いてしまった

 

 

 

「…………マジか…」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…お前ら…テレビとか観ないのか?…ネットとかあんだろ?」

 

「…ええと…テレビ自体は…あるにはありますけど…基本的に皆さん本の方を読む方が多いので…」

 

「…うん。観ませんね…というか朧はテレビの使い方わかりませんし」

 

「マジかよ…でもあれだろ?…ほら、艦艇時代にゃ…あれだ、軍楽隊が乗船してたりとか…」

 

「…確かに数人の軍楽隊が乗っている艦艇もあったと思いますけど……鈴谷はそういった記憶は…ありませんね」

 

「…あ、そう…そういうもんか…?」

 

 

 

 

播磨鎮守府本館 廊下

 

0820

 

 

三階の廊下を進み、突き当たりの両開きの扉の前で足を止める田中達

 

 

あの後、ホルンと別にトロンボーンのケースも廃材の山から見つかった

 

 

どうしようかと悩んでいた田中と坂本だったが、霰の「音楽室、ありますよ」の一言で、こうしてこの部屋までやってきたのだ

 

 

「…ここが?」

 

田中が隣に立つ霰に問うと、霰は頷く

 

赤城は首をかしげ、この部屋の記憶を思い出しながら答える

 

 

「…この部屋は…確か…以前は倉庫…として使っていたような気が…します」

 

 

はは、と田中は笑う

 

 

「…確かに…見る人によって楽器ケースはなんだかよくわからないただの箱だからな…そりゃここも本来の使われ方もされずに物置くだけの倉庫にもなるか…」

 

 

「…私…ここに入るの初めてです…」

「…私もです…なんだかどきどきします」

 

腰にコルセットを巻いた扶桑と、初霜が気持ちわくわくといった雰囲気で笑っている

 

 

田中はドアノブに手を乗せ、軽く捻る

 

 

鍵は閉まっていない

 

 

「…うっし…開けるぞ」

 

 

かちゃり、と控えめな音がして音楽室の両扉が開かれる

 

 

 

 

 






はい

お疲れ様です

朧と漣…二人の関係はこの先どうなるのか…

無意識にたらしとなった田中は誰とくっつくのか…


次回をお楽しみに


※なお、File75にて深刻なタイムパラドクスな表記があったため修正致しました

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