大本営の資料室   作:114

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プレリュード、7話目にございます

職員や肯定派の艦娘達と少しずつ距離が縮まっていく田中君

これからどうなるのか…


関係ありませんが、投稿する前に見直していた時に思ったのが、田中君と宗谷ちゃんのやりとりが現在の田中君と山田さんのやりとりに雰囲気が似てますね



はい

ではどうぞ







File82.少女達のプレリュード⑦

 

 

 

『あたし、綾波型駆逐艦、朧…誰にもまけない…多分』

 

 

…気がつくと、あたしは船ではなく人の身体で…そんな言葉を無意識に発していた

 

 

ここ…どこだろう…

 

 

…?

 

あたしの姿を見た…えっと誰だろう…真面目そうな女の人?がどこかへ電話しはじめた

 

 

なんだか電話口の相手に謝って…あ、こっちきた…

 

 

…え?…待機?…あ、はい…

 

 

…それからあたしはどこかの部屋へと案内され、"次の命令"が来るまで待機となった

 

 

…トイレもついてるし、毎日食事も出る…たまに食事を持ってきてくれる人と話したりもした…

 

 

でもその部屋から出ることは禁じられていた…

 

 

…だって"最初の命令"しか貰ってなかったし、最初の命令は、"その部屋で次の命令が出るまで待機"だったから…

 

 

部屋の窓から見えるのは、楽しそうに話す女の子達…あたしとは違う女の子達…

 

羨ましかった…

 

あたしはこの部屋にずっといなきゃならないのに、あの娘達はみんなで話して、みんなで走り回って、みんなで笑いあって、みんなで泣きあって…

 

 

…みんなの中心にはいつもあの男の人がいる…

 

あたしは会ったことも話したこともない…

 

いつもこうやって遠くから見ているだけ…

 

 

この小さな世界で、何日もあたしは1人で過ごした…次の命令を貰える日を夢見て…

 

 

 

…十数日たったある日、遂にその日がきた…

 

最初に出会った真面目そうな女性に部屋から出るよう命令された…

 

 

…嬉しかった…

 

やっとあたしも誰かの役に立てると思った…

 

 

 

 

…でも車に乗せられて、気がつけば…

 

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

播磨鎮守府 音楽室  

 

 

0820

 

 

 

かちゃりとドアノブが回され、ゆっくりと開かれる扉

 

 

部屋の中、カーテンが締め切られているため薄暗く、ぱっと見た感じ20畳程度の広さがあるように見えるが、乱雑に置かれた段ボール等のせいで狭くも見える

 

 

「…ん…埃っぽいな…」

 

 

埃を吸わないように口元を腕で覆いながら壁の証明スイッチを押す

 

 

ぱ、と部屋の天井に設置された蛍光灯が点灯する

 

「…蛍光灯はまだ生きているんですね…」

 

坂本がそう呟き、音楽室の中に入り、辺りを見回す

 

 

どの段ボールも埃が被り、黒板は所々剥げている

 

壁掛け時計の時は止まっており、壁に掛けられた音楽家の肖像画は何枚か床に落ちている

 

 

「…初めて入りました…」

 

「…あたしもです…」

 

 

初めて見る不思議な空間に、三隈も朧も驚きを隠せない

 

 

「…マジで何年も使ってなかったって感じだな…ん?…あそこは…」

 

 

部屋内を見回した田中は、黒板の横に扉があることに気づく

 

 

「…なんでしょうか…あそこは…」

 

「…いや、まぁ…楽器倉庫かなんかだろうな…部屋の作り的に…」

 

 

頭をかしげる赤城の質問に、さも当たり前といった感じで答える田中は、正門裏の廃材の中から手に入れたホルンとトロンボーンの楽器ケースを両手に、部屋に乱雑された段ボールの障害物を避けながら扉の方へと歩いていく

 

そして宗谷もとてとてと田中の後に続く

 

 

「…き、危険ですよ!少佐!私もお供します!」

 

「は?…いや、音楽室が危険なわけあるか。学校の階段じゃねぇんだから…」

 

 

「(階段?)」

 

「(…学校の?…)」

 

「(…階段……)」

 

「(どういうこと?)」

 

 

田中の理解しにくい突っ込みに、朧や赤城達は頭にクエスチョンマークを浮かべる

 

だが田中は彼女達のリアクションに気づかない

 

 

楽器倉庫と見られる扉の前にたどり着いた田中は、鉄製のドアノブを捻る

 

 

「…お、鍵は開いてんな…」

 

 

鉄製の扉を開けると、音楽室の半分ほどの広さの、壁側に大きめの棚が並ぶまさに倉庫と呼べるような部屋だった

 

 

「…おお」

 

「…謎の箱?が沢山ありますね」

 

 

田中の背後から倉庫の中を見ていた宗谷は、自分が想像していた光景とは少し違った倉庫の中を見て呟く

 

 

「…えーっと…この辺か…?」

 

 

楽器ケースを手に、田中は倉庫の中に入る

 

「ちょ…少佐!私もご一緒します!」

「…いや、いいって…ケースしまうだけだし…」

「しょうさぁ…」

 

 

宗谷の情けない声を無視しつつ、開いている棚へホルンとトロンボーンのケースをしまう田中

 

「…ん…こりゃティンパニか……なんだよ…バネぶっとんでんじゃねぇか…そっちはチャイムか…数本空いてんな…ありゃりゃ…こっちのコンバスのヘッド破れてらぁ…」

 

 

「…田中く…少佐は楽器がお詳しいんですね…」

 

いつの間にか倉庫の入り口から顔を覗かせる坂本が声をかける

 

 

「…ん…まぁ………それなりに…」

 

照れるようにぼそっと返す田中を見て宗谷は敬礼

 

 

「宗谷!覚えました!そちらがチョイムで、そちらがコンパスですね!…そしてこのおっきいのがチンポニです!」

 

「…そいつぁとんでもねぇ間違いだ…覚え直した方がいいぞ、宗谷隊員」

 

 

棚へ楽器を戻し終えた田中は、手の埃をぱんぱんと叩いて落とす

 

 

「…うっし、こっちの方が楽器も喜ぶだろ」

 

「…喜ぶものなんですか?」

 

 

宗谷の問いに「しまった」と田中はすぐに後悔

 

つい余計なことを言ってしまったと反省する

 

 

「…今のは忘れてくれ」 

 

 

恥ずかしさで顔を赤くした田中は、宗谷へ顔を向けられなかった

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

その後、音楽室を後にした田中達一行は解散し、田中と坂本は私室へ、朧達も朝食を取るために食堂へと向かった

 

 

 

播磨鎮守府 別棟

 

医務室

 

 

0900

 

 

「…おう、早ぇな赤城ちゃん」

 

「おはようございます。千草先生」

 

医務室の扉が開かれて赤城が入ってくると、椅子に座って新聞を呼んでいた千草は新聞をたたむ

 

 

「愛宕ちゃんならそっちのベッドだぜ」

 

「ありがとうございます」

 

 

頭を下げた赤城は愛宕の使用しているベッドの方へ近づき、カーテンに手を当てる

 

 

「…おはようございます。愛宕さん」

 

「おはようございます。赤城さん…あ、カーテン開けてもらって大丈夫ですよ」

 

 

愛宕からの返答をもらって、カーテンをゆっくりと開く赤城

 

そこには病衣を着てベッドに腰かける愛宕がいた

 

 

「…足の調子はどう?朝食は食べれたの?」

 

心配そうに問う赤城に対してぽやぽやとした笑顔を返す愛宕

 

 

「…ご心配お掛けしました。痛み止めも効いているので…今は大丈夫ですよ。朝ごはんもちゃんと食べました」

 

「…そう…よかった…」

 

 

それから赤城は昨日あの後どうなったのかを、そして今朝からバリケードの撤去作業を始めたことを愛宕に説明した

 

 

空気を読んで千草は医務室から出ていっている

 

 

10分程会話を続けていると、赤城は愛宕の異変に気づく

 

彼女はもじもじとしだしたのだ

 

 

「…ええと…御手洗い…行く?」

 

「あ、いえ…違いますっ!…ええと…その…」

 

はっきりとしない愛宕の態度に頭をかしげる赤城

 

 

「…ぇと…田中…少佐は…私のこと何か仰ってましたか?」

 

「…ええと…ごめんなさい……少佐は……少佐?」

 

「その………何か…言ってたかなっ…て…思い…まして」

 

 

だんだんと顔を赤くし始め、反対にぼそぼそと小さくなっていく声を聞いてああ、と赤城は理解するが…

 

 

「…特になにも…」

 

一言返すと、愛宕はずん、と肩を落とす

 

 

「…ええと…ああ、貴女のこと…心配していましたよ…田中少佐」

 

…嘘も方便

 

赤城がそう言うと、愛宕は目に見えてパッと明るい表情になる

 

 

「…んもう!赤城さんも人が悪いです!…そっか…えへへ…」

 

 

両手を頬に当てて喜ぶ愛宕

 

そんな彼女を見ながら『これくらいの嘘で喜ぶならいいか』と苦笑いで返す赤城

 

 

「(…朧さんや三隈さん…鈴谷さんだけでなく愛宕さんまでとは…)」

 

 

あの男のどこに惹かれる部分があるのだろうか、と赤城は内心難しい気持ちになる

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

同時刻 食堂

 

 

「…Bランチ1つと……あと…Aランチ2つお願いします!」

 

 

遅めの朝食

 

食堂のカウンターに並んだ肯定派の艦娘達

 

その中で並んだ朧は元気一杯に厨房にいるおばちゃんへと注文する

 

 

「…朧さん…本当に一人で持っていけますか?私も手伝いましょうか?」

 

朧の後ろに並んでいた初霜が心配そうに問うも、朧はにこりと笑う

 

 

「ありがとう…ワゴンもあるし、あたし一人で持っていけるから大丈夫!」

 

朧と初霜のやり取りを見ていた初月があ、と声をあげる

 

「そうだ!坂本少佐には僕が口移しで「はいはい初月ちゃん、後ろ詰まってるから早く進んでね」

 

無事夕雲に止められ渋々列に合わせて進む初月

 

 

 

ランチの盛られたトレーを受け取り、キッチンワゴンに載せる朧

 

「じゃあ、あたし少佐達の所行ってくるから」

 

「気をつけてね、朧さん」

 

 

扶桑から言われ、うん、と頷く朧はキッチンワゴンを押しながら食堂から出ていく

 

 

 

 

 

「…で?皆さんどうだったんですか?」

 

 

食堂のテーブルに着いた肯定派の面々に一言そう問うは三隈

 

 

皆三隈の方に視線を向ける

 

「…え?…どう…って…三隈姉、どういうこと?」

 

三隈の隣に座る鈴谷が眉を寄せて聞き返す

 

 

「…田中少佐と坂本少佐の事を間近で監視していたんでしょう?貴女達のお眼鏡にはかなったのかしら…」

 

三隈が扶桑に向かってそう言うと、手に取っていた箸をトレーの上に置く

 

 

「…監視、とは穏やかな言葉じゃないわね…でも…そうね…少なくとも信用は出来る方々、とは思えるようになったけれど…」

 

扶桑に続いて夕雲と初霜も頷く

 

 

「…まぁ、信頼、とはまた違いますけどもね…悪い人たちではなさそうですね」

 

「…そうですね。なんというか…興味を惹かれるというか…着いていきたくなるようなお二人ですね」

 

 

 

「…そう。それはよかったです…」

 

扶桑達の返答を聞いて、三隈は一言返し、ため息混じりに食事を始める

 

 

「(…なんだか…もやもやする…なんだろう…この感じ…)」

 

 

そう考えながら食事をする三隈を心配そうに横目で見ながら、鈴谷も箸を進める

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

播磨鎮守府 ドック

 

 

1015

 

 

広く、天井の高い播磨のドックには、天井を突き破って空へと伸びる一台のクレーンがある

 

 

そのクレーンの先端、ジブの方にシートを敷いて座るは漣、山雲、親潮の3人だ

 

ここは漣達の秘密の場所でもある

 

 

嫌なことがあった時、喜びを分かち合う時、この三人はいつでもここに集う

 

 

「…漣ちゃ~ん…元気ないけどどうしたの~?」

 

 

強い陽射しが3人を包む

 

麦わら帽子を被った山雲が膝を抱えてジブに座り込む漣の顔を覗き込む

 

 

「…そうよ…なにかあったの?」

 

山雲と似たような麦わら帽子を被った親潮も、同じように心配そうに漣に問うも、漣は白い帽子を深く被る

 

 

「……朧と…喧嘩したってゆーか……うん…」

 

 

播磨の艦娘の中でも特に仲のいい二人に昨夜の事を話し始める漣

 

 

 

 

 

 

「…それは~…う~ん…だねぇ~」

 

「でしょ!?…ほんっと朧ったら分からず屋なんだからさ!」

 

 

話を聞いていた山雲の言葉につい声を荒げてしまう漣

 

 

「…ううん…漣ちゃん…そうじゃないと思う…」

 

思いがけない親潮の言葉に眼を大きくする漣

 

「…確かに…朧ちゃんのした事は…私だって嫌だ…あんな士官の手伝いをするなんて…うん。裏切り行為だって思う…」

 

「…なら!」

 

「でも…"一人ぼっちだったのを助けてあげた"、なんて言い方はよくないと思う…士官達への悪口なら私はなにも言わないけど、朧ちゃんのことをそう言う風に言うのは違うんじゃないかな」

 

 

「…あれは…つい…」

 

親潮の言葉に眉をひそめる漣

 

山雲もジブから足を投げ出してぶらぶらと動かす

 

 

「…朧ちゃんにも言いたくない、触られたくない過去があったんじゃないかしら~…そこはお友達としてちゃんと謝った方がいいと思うな~」

 

「…」

 

 

山雲にも言われ、昨夜曙に言われた言葉を思い出す

 

 

『…漣…アンタこそ…そういう言い方は違うんじゃないの?』

 

 

俯いた漣は親潮と山雲に聞こえないように唇を尖らせて呟く 

 

 

「……そんなこと…わかってるし…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

執務室 1100

 

 

「…はぁ!?マジかよ!」

 

「マジですが」

 

 

執務机を叩く勢いで田中が驚きの声をあげる

そしてそれを冷静に返す赤城

 

 

数分前、田中は昨日送られてきた物資の納品書を発見、しかしどう見ても海軍の関係するそれではなく、個人で書いたであろう右肩上がりの癖のある文字の、手書きの納品書だった

 

 

赤城に問うと、彼女からは意外な返答が返ってきた

 

 

『昨日運ばれていた物資は海軍からのものではありませんよ?』

 

 

田中は驚愕した

 

 

確かに納品リストを見ればお菓子や化粧品、生活雑貨用品に生理用品…そして大量の食料や飲み物にお酒等々…軍からの物資とは思えない内容だ

 

しかしまさか海軍からの物資でないとすると…

 

 

『これらの物資は…播磨に住む近隣の皆さんからの援助なんです』

 

 

田中は愕然とした

 

 

整理された執務室の資料を確認すると、確かに日本国軍海軍から届けられた物資の納品書もある

 

しかし"数人分"の僅かな食料と飲料水、何に使うのかわからないノートや鉛筆等の文房具用品など物資と呼ぶには御粗末なものだ

 

 

 

故に田中は腕を組んでしぶしぶ納得をする

 

 

 

「…まぁ、まぁまぁまぁ…確かに軍からのこの物資…いや、もう苦学生への仕送りレベルの量だけじゃあな…」

 

 

「…播磨には現在40人以上の者がいます。海軍からの物資の量ではとてもじゃありませんが生きていくのは無理です」

 

 

赤城の言葉に、流石の田中も茶化すことなく頷く

 

「…めちゃくちゃだな…援助って…市とかか?」

 

田中の問いに首を横にふる赤城

 

「…あ、いえ…詳しくは古川さん達がご存知かと…物資の手配などは古川さん達がやってくれているので」

 

 

赤城の言葉に口をあんぐりと開ける田中

 

そこへ丁度トイレを済ませた坂本が執務室へ入ってくる

 

 

「…今戻りまし……田中少佐?」

 

 

播磨に来て数日

 

トイレから戻ってきた坂本は、初めて田中と赤城が向かい合って真剣な表情で何かを話している光景を見て、なにかあったのかと唾を飲み込む

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…ふむ。なるほど…古川さん達からの援助…ですか…」

 

 

ソファーに座った赤城から話を聞いた坂本が納得するように頷く

 

 

「…週に一度、手配された運送業者の方が運んでくださるんです…何度か御断りもしたんですが…」

 

 

申し訳なさそうにそう説明する赤城を横目にふぅ、と田中はため息し、ソファーにどかりと座る

 

 

「…海軍からの物資だけじゃあ食べていくのは不可能だ…聞きゃあお前ら金も持ってねぇっつー話だし…とりあえずは仕方ねぇだろ」

 

坂本もソファーに座る

 

「…週に一度であれだけの量の物資とは…」

 

そう言って、何台も愛宕と高雄が運んでいた昨日の搬入の光景を思い出す坂本

 

 

「あ、いえ…昨日のはいつもの分より多いです…先週雨が続く日が多かったので…今週の分は先週の分と一緒に運ばれてきたんですよ」

 

 

「ああ、なるほど…」

 

 

坂本が赤城に相づちをうつと、田中はよっこいしょ、とソファーから立ち上がる

 

 

「…ま、とにもかくにもとっととあのバリケードは取っ払った方が良さそうだな…」

 

そう言って田中は執務室の扉の方へと向かう

 

 

「…田中少佐?勝手に出ないでください」

 

「赤城監督俺に厳しくねぇか?…ただのトイレだって」

 

「嘘ですね。またどっかで煙草でも吸うつもりでしょう?」

 

 

赤城の鋭い質問に、田中の扉に伸ばされた手がびくりと反応する

 

 

「………いいや?…」

 

「…それに、金剛さん達に見つかったらまたひどい目に会う可能性があります。田中少佐なら特に」

 

「え、俺なら特にって…なにそれ酷くない?」

 

 

ジト目で赤城を睨む田中

 

坂本はつい数分前にトイレへと執務室を出ている

 

その時は赤城は何も言わなかった

 

だが何故自分にだけ厳しく接するのか…

 

 

「…とにかく。執務室から出るなら私も付き添いますか「いや、もううんこが半分こんにちわしてるから行ってくるぜ」ちょっ!…少佐!」

 

 

赤城の呼び止めにも応じることなく、スタコラと執務室から出ていってしまった田中

 

坂本もあはは、と苦笑い

 

 

「…多分、田中少佐なら大丈夫ですよ…初日にあれだけ打ちのめされたので、何か起きたとしても上手く躱せるかと…」

 

「…ですが…」

 

 

坂本もリラックスするようにソファーに座り、ふぅ、と息を吐く

 

 

「というよりも…鳥海さん達とのやりとりを体験しておいて同じ様な態度をとる方ではありませんよ。きっと一服してすぐに帰ってきますよ」

 

そこまで言われて、赤城も呆れるように肩を落とし、ソファーに再び座る

 

 

「…私は知りませんからね」

 

 

小さく笑う赤城

 

徐々に変わりつつある赤城の態度に坂本もふふ、と笑う

 

坂本の笑顔を見た赤城がむっとした表情で彼を睨むと、執務室の黒電話が突然鳴り出した

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

1130

 

播磨鎮守府 正門前

 

 

警備事務所

 

 

「今週末は雨らしいね」

 

「…おん?…そうだったか…雨かぁ」

 

 

事務所にてお茶を飲みながら駄弁っている老人警備員が二人

 

 

古川と揖保川である

 

 

昨日の搬入事故の応援で少しだけ腰を痛めてしまい、今日の業務は緩くやっている

 

 

そこへ扉をノックされる音が聞こえる

 

 

「…ん?誰かな…?」

 

 

受付の窓からはノックの主が見えないないため、古川は椅子から立ち上がり扉の方へ向かう

 

 

ドアノブを捻って扉を開ける

 

 

「はい…おや…?」

 

扉の向こうにいたのは田中だった

 

「…田中少佐…」

「あ、どもっす」

 

古川は田中へ敬礼をする

 

「…ようこそ、警備事務所へ…昨日はお疲れ様でした」

 

「いや~…古川さんと揖保川さんもありがとうございました!ほんっと助かりましたよ!…身体、大丈夫すか?」

 

 

田中がそう言うと、古川はあはは、と少し恥ずかしそうに笑う

 

 

「…ええ。まぁ…愛宕ちゃんは大丈夫だったんですか?」

 

「…ええ、今は医務室で休んでいますよ」

 

 

ふむ、と古川は頷くと、田中と改めて向き合う

 

 

「…それで…今日はどんなご用ですか?」

 

「…用って程でもないんですけど…」

 

 

そこまで言って田中は古川と揖保川に深く頭を下げる

 

 

「…物資、ありがとうございます!…っていうかすいません…俺、播磨の…事情っつーか…全然何も知らなくて…食べ物とかてっきり海軍からのもんだって思ってて…」

 

 

田中の突然の礼に驚く古川

 

「…あ、いや…頭を上げてください田中少佐…むしろ謝罪すべきは我々の方です」

 

 

そう言って古川と揖保川は田中へと頭を下げる

 

 

「申し訳ありません。少佐」

 

古川達の謝罪を受けるも、何故謝られているのかわからないため田中は頭をかしげる

 

「…我々は最初、あなた方を勘違いしていました…あの子達を苦しめるために…解体するために支部からやってきたんだろうな、と…だが昨日の田中少佐や坂本少佐…それにあなた方と行動する赤城ちゃん達を見て考え直したんです」

 

 

「…」

 

古川がそこまで言うと、揖保川が続ける

 

 

「彼女達を解体するのに、あそこまでやるだろうか、とね…赤城ちゃん達もあなた方を信頼しつつある…それで、揖保川と話し合いまして、我々もあなた方のお手伝いをしよう、と…」

 

 

「…そうだったんすか…」

 

古川達の言っていることをやっと理解し、頭をぽりぽりと掻く田中

 

 

「(…んま…そりゃあそうだよな…まだ大して知りもしない奴が提督として着任したって最初から信用ある訳じゃねぇからな……いや、むしろこの話の内容としては俺らってばちょっと信用度が上がったってことだよな…?喜ぶところか?ってゆーか…)」

 

 

「…赤城…さんから信用がある感じはまだ感じないっすけどね…はは…」

 

 

でも、と田中は続ける

 

 

「…古川さん達から協力してもらえるんならこれ以上心強いことないですよ!ありがとうございます!」

 

 

そう言って頭を下げる田中を見て、ふふふ、と笑う古川

 

 

「…では…我々が知る限りの情報をお教えします…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

1150

 

播磨鎮守府 別棟 医務室

 

 

「ちわっす」

 

「…おぅ、田中少佐じゃねぇか」

 

 

開いていた医務室の扉から顔を覗かせると、千草が椅子に座って新聞を読んでいた

 

 

そして気のせいか、千草が田中の名を出した瞬間に愛宕のいるであろうカーテンに閉めきられた空間からごそごそと衣擦れの音がする

 

 

「…愛宕ちゃんの見舞いかい?」

 

「ええ。…大丈夫そうっすかね?」

 

田中は問いながら閉めきられたカーテンへと視線を向ける

 

 

『ど、どうぞ~』

 

聞こえてくるは少し焦りの混じった愛宕の声

 

 

愛宕からの返答を聞いて、しゃっ、とカーテンを開ける

 

 

「…お、おはようございます!田中少佐!」

 

「…おう、おはよう…おはよう?…怪我の調子はどうだ?…って、一日じゃ変わんねぇか」

 

 

ほんの少しだけ崩れた病衣を直しながら、顔を赤くした愛宕が笑顔で田中を迎える

 

「…あ、えっ…い、痛み止めのお薬のお陰ではいっ!今は大丈夫です!…それと…改めて昨日はありがとうございました。助けていただいて…」

 

ベッドに腰かけたまま頭を深く下げる愛宕に、田中は「はは」と笑う

 

「…助けてくれたのは千草先生さ…俺はただお前さんをここに運ん「おいおい。そーゆーカッコつけは好感度下がっちまうぜ?少佐」…う」

 

 

振り返れば千草はにやにやと笑いながら田中を見ている

 

 

「…ま、まぁとにかくだ…お前…愛宕は引き続きここでしっかり治療しろよ?無理して怪我悪化させんなよ?」

 

「…はい!ありがとうございます少佐!」

 

 

よし、と頷いた田中はカーテンを閉めようと手を伸ばすと、愛宕が寂しそうな表情になる

 

 

「…あ…もう行かれるんですか?」

 

「…え?…あ…おう…ま……!!!」

 

 

たじろいだ田中が愛宕のとある部分を見て眼を見開く

 

 

「…田中少佐?」

 

愛宕に呼ばれ、すす、と彼女から顔を背ける田中

 

「…や…あれだ…散歩次いでで様子を見にきただけだからさ…うん、また来るわ」

 

早口気味でそう言うと、手早くカーテンを閉める

 

 

『あ、少佐~』

 

 

 

 

 

愛宕の声を無視し、医務室を出ていこうとする田中へ千草はぼそりと囁く

 

 

「…愛宕ちゃん……すげぇだろ?」

 

 

その一言で、田中は十数秒前の光景がフラッシュバックする

 

 

薄手の病衣、熱を帯びた肌、艶のある金髪の美女

 

 

そして、たわわに実った柔らかそうな愛宕の大きな大きな…

 

 

 

「…健康優良善良男児には刺激が強ぇっす…千草先生…先生はよく平気っすね…こんな女だらけの職場で…」

 

顔を赤くした田中が小声でそう返すと、千草はくっくと笑う

 

 

「…ああ…15…いや、20若けりゃあ俺もあの娘ら襲っちまうところだったんだがなぁ…まぁ、なんだ…少佐。若くて勃つうちに色々とヤッといたほうが良いぜ?」

 

「…下ネタっすか?」

 

「マジだマジ」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

1215

 

 

播磨鎮守府 執務前廊下

 

 

 

人目を気にしながらようやく執務室に辿り着いた田中はため息を吐く

 

 

 

「…ったく…あのエロジジイめ…何が勃つうちにだ…余計なお世話だっつの…」

 

 

そう言いながらも、愛宕の見事なメロンカップを思い出す

 

 

「…しかし…"あれ"は反則だよな……くそっ…勿体ないこと……いや、なに言ってんだ俺のバカタレ」

 

 

 

ぶつぶつと独り言を呟きながら執務室の扉のドアノブに手を振れる  

 

予定よりも時間が掛かったが有益な情報を手に入れた

 

「遅い」、と赤城にちょっと小突かれるくらい我慢するか、と

 

 

そんなことを考えながら扉を開く    

 

 

 

 

 

 

 

「…あん?…坂本…?」

 

 

執務室の扉を開いた田中

 

見れば坂本と赤城が向かい合ってソファーに座っている

 

赤城は先程と同じ様に背筋を伸ばして…

 

そして何故か坂本は、少し背中が丸くなって俯いているように見える

 

 

 

「…?…なぁ、聞いてくれよ…さっき古川さん達と会ったんだけどよ…なんか播磨って派閥?みたいなのがあってさ…」

 

 

そう話しながら執務室に入る田中に対して坂本の反応はない

 

 

「…?坂本少佐?」

 

名前を呼ぶと、ようやく顔を田中へと向ける坂本

 

「…ああ…はい…」

 

 

その表情は青ざめていた

 

 

ふぅ、と小さく息を吐いた赤城がソファーから立ち上がり、田中に眼を向けることなく執務室から出ていってしまった

 

 

「…?…ああ…なんだ、坂本…お前もしかして赤城に怒られたのか?…あ、もしかして俺のせ「田中君」

 

「…うん?」

 

 

不意に名を呼ばれた田中は、坂本と向かい合うようにソファーに座る

 

 

「…つい先程…東海支部、吉津根中将から連絡がありました…」

 

明らかにテンションの低い声で話し始める坂本

 

坂本がそこまで言うと、田中は「あちゃー」と自分の頭を叩く

 

 

「…そういやぁゴタゴタしてて挨拶と報告し忘れてたぜ…じゃあ中将に怒られたのか?」

 

「…僕は…今のこの状況は変わるものだと考えていました…きっと僕達が着任したことで今いる播磨の艦娘の娘達とは別に改めて戦力を補充…今後はフィリピンやマレーシアで戦う日本国軍海軍への援軍や進軍等の任務を行うことができる、と…」

 

 

「…は?…いや…そうじゃねぇのか?…だってここにいるのは戦いに出れない艦娘達しかしいねぇし…俺らだってゆくゆくは前線へ艦隊出撃させなきゃだろ?」

 

 

顔を俯かせたまま、自嘲気味にくっくと笑う坂本

 

 

「…なぁ、中将は何て言ってたんだよ…俺らはこれからどうすればいいんだ?」

 

 

 

「…管理」

 

「…は?」

 

 

坂本は両手で自分の顔を抑え、肩を震わせる

 

 

「…現状維持…無期限で播磨鎮守府の管理を続けろ……と…戦力の補充はしない、と…」

 

 

「…ふっ…ふざっけんな!んだよそれ!」

 

坂本に対して怒鳴った田中が執務机の上の黒電話に手を掛ける

 

ダイヤル式の古い黒電話で東海支部の番号を引く

 

 

「……もしもしもしもし!こちら播磨鎮守府!至急吉津根中将へ取り次いでくれ!」

 

いらいらしながら応答を待つ田中

 

田中はちらりと坂本の方を見るが、坂本は項垂れたままだ

 

 

「………もしもし!吉津根中将ですか!?はい!田中少佐で……は?…」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

同時刻 東海支部

 

 

吉津根中将の私室

 

 

首もとに白いナプキンを掛け、洋食と見られる優雅な昼食が並べられたテーブルを前に、黒電話の受話器を耳に当てるは吉津根だった

 

受話器から続く電話線、それは吉津根の背後に伸びており、壁際には1人の男性士官が黒電話の本体を持って立っている

 

 

「…坂本少佐には要件はお伝えしましたよ?…最初の命令通り、播磨の"管理"をお願いします」

 

『…そんな…!話が「え?話が違う?」

 

 

しゅるりとナプキンを片手で外す吉津根

 

 

「…違くないですよ?私は確かに言いましたから…それに貴殿方は提督としてはまだまだ新米…そんな方達にいきなり艦隊運用なんぞ無理に決まっているでしょう…これは私からの優しさです。まずは播磨で海軍とはなんたるかを学びなさい…」

 

 

『吉津根中将!』

 

 

あー、と吉津根はわざとらしくなにかを思い出した風な声を出し

 

 

「…ただ、まぁ、そうですね…今の播磨鎮守府の艦娘が全て沈んでしまっては致し方ありませんからね…その時は戦力の補充を手配しましょう」

 

『…し、沈んだら…ですか?』

 

「…ええ。播磨は、現状艦隊保有数をオーバーしているんです。だから新たな戦力を補充できない…椅子が足りないなら…ね?わかるでしょう?」

 

『…』

 

田中の反応を楽しんでいるのか、くっくっと吉津根は笑い、テーブルに置かれたフォークを手に取る

 

 

「…まぁ、沈むにしても海に出れないのであれば…解体、という方法もありますけどねぇ」

 

『…!?……それは不当解体じゃ…「とにかく、現存する艦娘がいては新たに戦力を補充することは出来ません…まぁ、時間を掛けてじっくりと考えて、行動してくださいね」

 

電話をしながら、皿に盛り付けられた料理にフォークを勢いよく突き立てる吉津根

 

フォークで突き刺した料理を自分の口へ持ってきて、じっくりと時間を掛けてかぶりつく

 

 

 

 

「…これも…むぐ…経験でふよ…んぐ…へ・い・へ・ん」

 

 

『…』

 

 

「……っくん……ああ、そういえば…播磨の艦娘達とは話しましたか?」

 

『…はい?…ええ…まぁ…何人か…』

 

 

ぎし、と椅子を鳴らして吉津根は椅子に背を預ける

 

 

「…後から聞きましてね…播磨の艦娘はなかなかに暴力的で質の悪い者が多い、とね…もし君達に何かあったらと心配していたんですよ…暴力…受けていませんか?」

 

 

『………ええ。今のところは…』

 

「…ふむ。もし暴力の事実があれば上官への暴行ということでちゃんと解体理由にもなりますから…もしなにかあれば必ず私に知らせなさい。いいですね?」

 

『…お気遣い、ありがとうございます…』

 

 

田中からの返答をもらうと、吉津根はにこりと笑う

 

 

「…礼には及びませんよ。あなたも坂本少佐も"私"の大切な部下ですからね…それでは」

 

 

『…えっ…あ、いや、吉津』

 

 

田中が喋り終わる前に電話を耳から離す吉津根

 

 

「…夢崎中尉」

 

「はっ」

 

 

名を呼ぶと、吉津根の背後に立っていた男性尉官が一歩前へ出て、吉津根から受話器を渡されると、それを本体へと戻して田中との通話を切る

 

 

「…通信科の田貫大佐へ連絡しなさい。これより私以外からの通信を除いて、播磨からの通信、連絡は全て遮断させなさい…そうすれば彼等も動いてくれるでしょう」

 

「…恐れながら吉津根先生…何故そこまでして…それに播磨の担当官は鈴木中将では…」

 

 

30代と見られる男性尉官、夢崎が問うと、吉津根は持っていたフォークをテーブルにそっと置く

 

「…ああ、播磨のお話をした後、何故か鈴木中将に別の任務が入ってしまったようでしてね…いやはや…不思議な偶然があるものですねぇ…まるで誰かが手回しをしたかのようですねぇ…」

 

「…そ、そうでしたか…」

 

 

「それと…あそこの艦娘は全ていなくならなければなりません。それが海軍を生かすためですからねぇ」 

 

「…生かすため…ですか…」

 

 

グラスに淹れられた水を飲む吉津根

 

「…それは一体ど「さぁ、夢崎中尉。私はなんと命令しましたか?」

 

 

静かに、しかし低くはっきりと吉津根が喋ると、夢崎と呼ばれた尉官はびくりと肩を震わせ黒電話を片腕に抱えて敬礼

 

 

「は!失礼致しました!直ぐに!」

 

 

 

吉津根の私室から出ていく夢崎

 

扉が閉まると吉津根は昼食を再開する

 

 

 

「…くくく…ああ…そうですとも…あの兵器崩れ共は本来この世に存在してはならないんですよ…」

 

先程と違い、フォークを使わずに素手で料理を掴み、それを口に運ぶ吉津根

 

 

 

「海軍の闇を知る者達…いつどうやって消そうかと思っていましたが…くくっ……鈴木中将…若い士官達……嗚呼…よい駒を見付けてしまったものだ…」

 

 

ぐちゃりぐちゃりと料理を咀嚼し、飲み込む

 

 

 

「…ふぅ……良い働きを期待していますよ?…田中少佐、坂本少佐」

 

 

 

張り付けられた能面のような笑顔で1人そう呟く吉津根だった

 

 

 

 

 




はい

お疲れ様でした

ここにきて吉津根さんの再登場です
はい、例のごとく吉津根さんもお腹の黒そうな雰囲気ですね


戦力もなしに田中少佐達はこれからどうするのか…


次回のお話をご期待ください

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