大本営の資料室   作:114

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はい、元のお話に戻します


File8.田中と松井と山田

それが夢だとすぐに山田は理解した

 

 

 

どこかの、遠い昔に…きっと子供の頃に来たことがあるような映画館、山田は椅子に腰掛け、スクリーンをぼうっと眺める

 

 

後方より照らされる映写機の光が正面のスクリーンに当てられる。

 

映されている映像は若い男性士官が数人の少女達と幸せそうに笑いあっている姿

 

 

 

山田は自分が昨日見た報告書の一番最初のページを思い出す

 

紙の報告書の一番上に挟まれていた男性士官の写真

 

そして今観ているスクリーンに映る男性が重なる

 

 

 

 

本郷提督だ、と気がつく

 

 

 

音声は聴こえないが、彼等が楽しそうに話しているのが解る

 

 

 

「…こんな未来も…あったのかなぁ…」

 

 

 

 

本郷提督の結末は報告書を閲覧したので知っている

 

 

ストレスで鬱になった本郷提督は首をくくり、彼にもっとも近かった駆逐艦と、彼に恋をした戦艦は自主解体

 

 

ラブストーリーとしては誰も結ばれない、そして重々しく、最悪の結末の物語

 

 

 

しかし映されている本郷提督達はそんな鬱蒼とするラブストーリーと真逆の世界にいるように感じる

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

自分の背後に誰かがいるのを感じる

 

椅子に座ったまま上半身だけでゆっくりと後ろを振り向くと、官房を被る小太りの中年男性が席に挟まれた通路に立ち、スクリーンを鬼のような形相で眼に涙を浮かべ睨み付けていた

 

 

 

「…武藤……中佐?」

 

 

 

この男は何故こんなにも本郷提督を嫌うのだろう?

 

この男は何故あんな凶行に及んだのだろう?

 

 

 

 

…何故この人は泣いているんだろう

 

 

 

 

様々な想像が山田の頭の中を駆け巡る

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「んあ…」

 

 

 

 

目が覚めるとそこは昨日入所した寮の自身のベッドの上だった

 

 

 

「んー…?」

 

 

 

寝ぼけ眼で枕元にある時計を手に取る

 

 

「…ぅう…起きなきゃ…」

 

 

 

のそのそと起き上がり、寝癖のついた少女は洗面所で顔を洗い、歯を磨く

 

 

 

「んむむ…むむむ…む~…」

 

 

 

しゃこしゃこと歯磨き粉を纏った歯ブラシをリズムよく自身の口のなかで縦横無尽に動かす

 

 

 

(なーんか…夢見てたなぁ…どんなだっけ…)

 

 

 

「ガララララ…プェァッ!」

 

 

 

なかなか思い出せない半透明な記憶の事を考えながら口を濯ぎ、少女は着替えに入る

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

資料室前廊下に続く扉にたどり着く山田

 

 

「おはようございます!」

 

 

「ああ、おはようございます」

 

 

山田は扉の前にいる初老の男性警備員に元気よく挨拶をする

 

 

「今日は走って行かなくて良いんですか?」

 

 

初老警備員はふんわりした優しい笑顔で山田から出された身分証を確認しながら問いかける

 

 

「あ、えへへ…いや~昨日は遅刻したかと思ってて…今日は大丈夫ですよ!」

 

 

「あはは…そうですか」

 

 

初老警備員は扉横の壁に付けられている操作盤で何やら操作をすると、鍵が解錠され、両開きの扉が開いた

 

 

 

「さ、どうぞ」

 

 

「ありがとうごさいます!行ってきます!」

 

 

そう、ここ大本営は日本国海軍の総本部

 

資料室は軍の秘密の宝庫なのだ

 

なので常に警備員が立ち、特別な施錠装置の付いた防弾扉で守られており、この先、第1から第4資料室へ立ち入れるのは選ばれた職員、将校、担当官、そして特別な許可を得た者のみなのである

 

 

 

(…っていっても、厳重に守られているのは第1から第3資料室までなんだっけ…)

 

 

 

ふと山田は昨日の第4資料室の光景を思い出す

 

 

タバコの煙を資料室にこもらせないためだけに、空気を入れ換えるように窓をオープンさせていた田中

 

 

ちなみに第1から第3資料室までの部屋は窓が付いておらず、毎回扉の開け閉めするときには身分証を扉横の端末にかざす

 

 

 

廊下を歩いてると第1資料室の扉が見えてきた

 

 

 

(ああ…昨日はちゃんと見てなかったけど、立派な扉だなぁ)

 

 

第2、第3資料室を通りすぎ、自身の担当部署、第4資料室の前に到着する

 

 

他の部署と違い、木でできた古い扉が山田を出迎える

 

 

 

 

「…うーん…格差が…」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

第4資料室

 

 

 

「おはようございます!」

 

資料室の扉を開け、こちらにも元気一杯に挨拶をする山田

 

 

 

「…うーす」

 

 

対する第4資料室の図書委員長、田中中尉は山田に目線を送ることなく、自身の寝癖も直さずに、火の着いてない咥えタバコのままソファーに座り机の上に乱雑した資料をガサガサと纏めていた

 

 

 

「…えー…田中先輩!そういうの良くないですよ!朝は元気に挨拶しましょうよ!」

 

 

 

荷物と官房を入り口近くの床に置きながらぼやく山田

 

 

「あーはいはい、おはようおはよう…ってお前まだ2日目なのにテンション高いな…」

 

 

 

ジト目で山田を睨む田中

 

 

「…あ、と…こーゆーの駄目、でしたか?」

 

 

一気にシュンとテンションが下がる山田

 

 

 

「いや…別に構わねぇよ…昨日も言ったが固いより全然良い…」

 

 

 

「はい!」

 

 

眩しいくらいの笑顔で返事をする山田

 

 

朝からこの元気っ子は…と苦笑いする田中だった

 

 

「昨日はあんなテンション低かったのにな」

 

 

いたずらな笑みでソファーの背もたれに背中をのせ、タバコに火を着ける

 

 

 

「あはは…いきなりあんな大量の情報量が頭の中に入ってきましたからね…最後の方はちょっと疲れてたんですよ…でも沢山寝たので元気いっぱいです!」

 

 

 

ふんす、とどや顔で答える山田

 

 

「あらあら…なんや、元気な声した思たらなんでここに駆逐艦の子がおるんや?」

 

 

 

「はぇ?」

 

 

資料ファイルが詰め込まれ、乱立した棚奥から田中よりも少しばかり高い男性の声が聞こえ、こちらに近づいてくる

 

 

「…ど、どちら様でしょうか…?…って、駆逐艦の子って!?」

 

 

 

「っひひひ…冗談やで、キミんことは加藤のお父ちゃんから聞いとるで、山田ちゃん」

 

 

 

「…は、はぁ」

 

 

引き笑いをし、おどける

 

 

そんな青年の飄々とした態度にジト目で応戦するが、彼の士官服の襟に付いている階級章を見てハッとし、思わず背筋を伸ばし敬礼する

 

 

 

「じ、じ、じ…准将…!?」

 

 

 

「んっふふふ…」

 

 

 

青年は不適な笑いをつくり、腕を組む

 

その姿はまるで敵か味方かわからない、謎の登場人物が現れたかのように…そしてその姿を見て一歩後ずさる山田

 

 

 

「な、何故ここに准将…閣下が…」

 

 

 

「ふっふっふ…」

 

 

青年は不適な笑いをやめない

 

それを見てる田中は心の中でツッコミを入れる

 

 

(なんだこのコントは…)

 

 

 

田中は一つため息

 

 

 

「おい、やめろまっつん」

 

 

「え?」

 

(まっつんて……上官ですよ田中先輩!?)

 

 

田中の態度にヒヤッとする山田

それもそのはず中尉と准将だ。階級はまさに兵士と王国大臣補佐のような差がある

 

 

そんな田中の言葉を聞いて青年はすぐに飄々とした態度に戻り

 

「いや~すまんすまん…キミ反応おもろいな~」

 

 

 

「…ぇ」

 

 

 

驚き固まる山田に青年は往年のアイドルのようなポーズをビシッと決め

 

 

「松井やで!まっつんって呼んでや!」

 

 

 

「…」

 

「…????」

 

 

 

資料室の空気が凍りつく

 

呆れる田中

固まる山田

へらへらしている松井

 

 

「たっ…どっ……え?…はっ!?」

 

 

「落ち着け山田…昨日言ってたもう1人のここの担当官だよ…自称な」

 

 

「…准将が…」

 

 

山田、驚愕

 

 

「まっつんやで」

 

 

 

 

「え、いや…准「まっつんやで!」

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

どかり、と松井は田中の座るソファーの横に並ぶ

 

 

「あれやん、山田ちゃんタナちゃんのこと田中先輩呼んでるらしいやん。せやったら僕のこともマッツン呼んでや」

 

 

畏まる山田

 

 

「いやぁ…流石に准将に対してアダ名なんて…」

 

 

「なら俺みたいに先輩付けりゃあ良いじゃねえか」

 

 

 

「…ではまっつん先輩とお呼びします!」

 

 

 

山田、松井に敬礼

 

 

 

「…んはははは!対応はやっ!でもかめへんでー!」

 

 

松井は声高らかに笑う

 

 

「んで、早速だが山田」

 

 

田中が改まって真面目な表情で山田に問いかける

 

 

 

「…昨日話した武藤の案件「見ます!」

 

 

 

「…お?」

「…む?」

 

 

田中の質問に被せ気味に答える山田

 

 

山田の返答に驚く田中と松井

 

 

「…え、あっ…な、なんか…あはは…読まなきゃ…というか…その…」

 

 

 

田中と松井は山田のはっきりと答えない途切れ途切れになる言葉を茶化すことなく待つ

 

 

 

ふう、と山田は深呼吸し、しっかりと田中の目を見て

 

 

「…大隅警備府が…彼女達が関わる話ならば私はちゃんと知らなければいけないのかな、と…そう思ってます……多分…」

 

 

 

「…多分、ね…」

 

 

「…へぇ…」

 

 

 

田中は面白そうに、松井は興味深そうに反応する

 

 

 

山田は顔を赤くして、手をもじもじとさせ田中から視線を下げる

 

 

 

「…中途半端に片足だけ突っ込むのは嫌ですし…」

 

 

「…」

 

 

松井は山田の答えに嬉しそうにそわそわしている

 

 

 

「…だ、駄目ですよね…こんな理由で…やっぱり大丈「わかった」

 

 

「んぇ?」

 

 

 

田中は山田の答えに被せるようそう返し、机の上に準備していたファイルを手に取る

 

 

そんな田中に松井は目もくれずひひひ、と山田を見ながら嬉しそうに引き笑いをたてる

 

 

「山田ちゃんは責任感強いんやなぁ…見習うところやなぁ」

 

 

「え、いやぁ…そんなこと、ないですよ…ただあの…」

 

 

 

「…どうした、他になんかあんのか?」

 

 

 

山田は恥ずかしそうに、かつ申し訳なさそうにボソボソと語りだす

 

 

「…あの…頭がおかしいって思うかもしれないんですけど…なんか夢で見た気がするんです…本郷提督や電さん達…そして武藤中佐を…」

 

 

 

それを聞き、松井は目を大きく見開き驚く

 

 

「…夢って…」

 

 

 

「…夢の内容ははっきりとは覚えてないんですけど…でも、それもあって、ちゃんと…見たいかなって…」

 

 

 

「ほら」

 

 

田中は山田にファイルを差し出す

その表情はさっきまでの真剣なそれではなく、どこか優しそうな雰囲気も漂わせている表情だった

 

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

「お前の気持ちはわかったよ…それに別に頭おかしいなんて思わねぇし、そんな理由で、つって笑うつもりもねぇ」

 

 

 

山田は田中から差し出されたファイルを両手で受けとる

 

 

「あとはお前の目で…」

 

 

 

「閲覧しろ、ですよね?…わっかりました!」

 

 

 

 

 

ソファーに腰掛け、山田はファイルを捲った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回後日談と茶番で1話完結するつもりでしたが、前置きがちょいと長くなったので、キリの良いこの辺で投稿しますです


次回、大隅の後日談になります
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