はい。
播磨編後編第2話目、どうぞ
播磨鎮守府 会議室
いつか少女達とアメリカのマーチングバンドの大会映像を視た会議室
しかし今は様々な通信機器等を配備し、それらを操作する通信士達
さらに会議室中央には長テーブルを合わせて立てられ、あっという間にちょっとした作戦室となっていた
中央テーブルを囲むように5人の士官が椅子に座り、彼等の背後には秘書艦と見られる艦娘達が立っている
様変わりした会議室にやってきた田中と坂本、そして赤城の三人は部屋の様子を見て驚きを隠せない
ちなみに流石にこの場でジャージは不味いということで、田中と坂本は正装である純白の士官服に着替えてきていた
久しぶりの制服に田中は襟のチクチク具合が少しだけ気になっていた
「…さぁ、田中少佐、坂本少佐…あなた達の椅子はあります。どうぞ…ああ、秘書艦は二人の後ろにでも立ちなさい?」
東海支部中将、吉津根にそう言われ、敬礼して自分達の席へと向かう二人
赤城もむっとしながら二人についていく
田中と坂本が席に座ると、立っていた吉津根がにこりと微笑む
「…各々揃いましたね…では作戦会議を行います…今回、お伝えした通り紀伊南沖…約800海里付近にて深海棲艦群を発見。その数14隻…恐らく空母クラスに戦艦クラスもいると推測されています。我々はこれを迎撃するため二群に別れて作戦行動を行います」
淡々と吉津根が説明していると、5人のうちの一人の男性が勢いよく席を立ちあがる
「…っしゃあっ!悪モン退治か!燃えるぜえっ!」
まるで少年漫画の熱血漢のような雰囲気の男性佐官、西海支部直下、佐世保鎮守府提督、柴山大佐だった
「提督かっこいい!」
「提督素敵!」
秘書艦として立っていた白露と村雨が柴山を囃し立てる
「…あ、あの…柴山大佐…どうか静粛にお願いします」
低い声で囁くように小声で柴山に注意するのは5人のうちの紅一点
まるで呪いのビデオに出てくるような長い黒髪…片眼が隠れるほどの前髪を揺らすは南海支部直下、土佐海軍工廠基地提督、通称亡霊提督、黒田少佐だった。彼女の背後には秘書艦、戦艦イタリアが就いている
「…ちっ…黒田さんよぉ…おめぇもちっとぁ明るい声出せっつーんだよ!んな根暗だから亡霊なんて呼ばれんだろうが!」
「うう…ひ、ひどい…」
柴山と黒田のやり取りを横目で馬鹿にするように見ている2人の中年男性士官
一人は細身で髪をオールバックにした性格の悪そうな、顔色の悪い40代中盤に見える男性佐官
南海支部直下淡路基地、河野少佐
河野少佐の席の後ろには秘書艦、鈴谷が腕を組んでつまらなさそうに立っている
そして河野の隣の席に座るは小太りのスキンヘッド、腹の内が黒そうな雰囲気の40代前半に見える男性尉官
東海支部直下志摩鎮守府、小高大尉
秘書艦は戦艦榛名。
彼女は小高の席の後ろに立ち、顔を俯かせてぶつぶつとなにやら呟いている
彼女の手首には何本もの切り傷が見える
「いやぁ…こういう場だ…もう少し品のある態度を取るべきでしょう……ですよねぇ?河野少佐殿」
「ええ。ええ。全くですなぁ…これは海軍の品格に関わりますからなぁ。ははは」
二人の慣れた話しぶりを見たところ、どうやら河野と小高は顔見知りのように見える
田中と坂本はこれからどうしたものかと考えながら用意された席に座る
「…ん?」
座った席の向かい側に、もう一人士官が居たことに気づく田中
凛とした雰囲気を漂わせ、姿勢正しく座る若い男性士官は田中と目が合うと、小さく会釈する
「…?」
ここでようやく落ち着いたと判断した吉津根が咳払い
「…静かになりましたね…では、改めて会議を始めましょう『お待ちを!今会議中です!』…?」
会議室の外の通路がなにやら騒がしい
長テーブルを囲む面々が会議室の扉に注目していると、扉が勢いよく開かれ…もとい、蹴破られた
「ぃよおっ!楽しそうなことやってんなぁ!「はなっ…離してください!」
見知らぬ誰かの首根っこを掴んで会議室に入ってきたのは紀伊海軍航空基地提督、武幸一大佐その人だった
隣には秘書艦狭霧が立っている
士官服を着た包帯男の突然の登場に提督の面々は息を飲む
「…どちら様でしょうか…あいにくハロウィンまであと三ヶ月もありますが…?」
吉津根が問うと、包帯男武は高笑い
「ひゃははは!ご挨拶じゃねえか吉津根中将さんよぉ!…あぁんたが呼び出したんだろう?俺様もよぉ?」
「…武…大佐ですか?…お久しぶりですね…ははは…随分と…イメチェンされたんですね?」
勝手にパイプ椅子を開き、どかりと座って提督達の座る円卓に並ぶ武はテーブルに足を乗せる
「…た、武提督…その態度はあまりにも「おぉ黒田か…相変わらず貞子だな。それじゃあ美人が台無しだぜ?」
同じ南海支部仲間の黒田が注意をしようとするも、武にはぐらかされる
吉津根はじっと武を見る
手も顔も包帯だらけの武の表情は読めない
「…ァア…別に今朝から仮装してきた訳じゃねぇよ…バァーベキュウウしてたら服に火が燃え移っちまってなぁ…一張羅のパンツがオシャカさ!ひゃははははは!」
一人狂ったように笑う武を疎ましそうに睨む小高と河野
「…ふん…その面じゃあ笑っているのかどうかわかりませんな…不気味なものだ」
小高が嫌味っぽくそう言うと、武の笑いがぴたりと止まる
今にも誰かを殺すんじゃないかという張りつめた空気に緊張する田中と坂本
「…ァア…そうだよな…これじゃあ笑顔かどうかわかんねぇか……ぉおい!誰か紅持ってねぇか?…黒田!おめぇ持ってるよな?貸してくれぇい」
「え、あ、はい…」
突然求められた口紅の要求にわたわたする亡霊提督黒田
後ろに立っていた秘書艦イタリアから口紅を受け取ると、武の座る椅子まで持っていく
「…『え、あ、はい』……はっ…ひゃはははははっ!」
黒田の真似をしながら笑う武は借りた口紅の蓋を開けて自分の顔、包帯で覆われたその口元に紅の先端が折れるくらいに力強く半円の線を描く
それはまるで真っ赤な口が笑っているように見える様だった
武は河野と小高の方を見て首をかしげる
「どうだぁ?…ハッピィーな笑顔だろぉ?…ふふっ…く…ふひ…ひゃははは!」
まるで狂人のような行いに会議室がしんと静まり返り、武の笑い声だけが木霊する
「…では、改めて会議を続けますよ…まずはこちらのスクリーンをご覧ください」
吉津根が合図を送ると、会議室前方に大きなスクリーンが用意され、スクリーンには地図が映し出される
「…紀伊より南東南方面約800海里に現れた深海棲艦群…その数は14隻でありますが、艦種、編成等ははっきりとはしていません。空母級や戦艦級というのもあくまで推測。確定した情報ではありません。故にまずは先遣隊として播磨鎮守府艦隊には敵情視察、偵察部隊としてポイント付近まで近づいてもらいます」
「ちょ…ちょちょちょっと待ってください吉津根中将!」
吉津根が説明していると、田中が焦ったように彼の説明を遮る
説明が遮られたことで吉津根は疎ましげに田中を睨むも、再び笑顔に変わる
「…とはいえ、ここ播磨に在籍する艦娘は艤装が出せません。これでは海に出ることすら困難でしょう。そこでこの兵器の出番です」
ぱっとスクリーンに映し出されるは阿賀野型や夕張型の艤装のような操縦桿付きの軽巡洋艦の艤装のようなもの
映像を視た赤城は口を開けて驚く
「…これぞ日本国軍海軍の技術の結晶!最高機密軍事兵器!対深海棲艦戦闘用人工艤装兵器“真風“です」
おお、と河野と小高が大きく拍手をし、黒田は口を開けてぼうっとスクリーンを見ている
柴山も腕を組んでつまらなさそうに映像を見て、武は黒田から借りた口紅の先端をくりくりといじる
「…し、真風?…なんなんですか…それ…」
田中は声を震わせて吉津根に問う
「人の手で作り出した深海棲艦と戦うことの可能な人工艤装です。これならば艤装の出せない艦娘でもあっという間に歴戦の戦士に早変わり…兵装は155ミリ連装砲3基6門、500ミリ四連装魚雷発射管2基8門に100ミリ連装高角砲2基4門搭載…艦本式ミニタービン6基に速力は最高32ノット。装甲は15ミリCNC「ちがっ!…そうじゃありません!吉津根中将!」
がたん、と椅子を倒して田中が立ち上がると、提督達は彼に注目する
「…せっかく説明しているんですから最後まで聞いていただけませんかねぇ?」
呆れるようにそう返す吉津根に対して坂本も椅子から立ち上がる
「…彼女達は戦えません。その人工艤装の訓練すらしていません吉津根中将」
「問題ありません。この艤装にはセミオートノマスプログラムが搭載されていて自動で航行可能です。それにこの作戦本部から遠隔操作で艤装操作による攻撃は可能なので彼女達に訓練は必要ありません」
にこりと笑い坂本に返答する吉津根
坂本も負けじと彼を睨む
「これだけの提督達がいてなぜ彼女達が危険な海域に出なくてはならないのですか!…偵察ならば他の方の艦隊で出撃すれば済むことでしょう!」
「そ、そっすよ!わざわざ俺ら…播磨が出る必要ないっすよ!」
気持ち坂本の影に隠れながら田中も言い返すと、口紅をいじっていた武がくくくと引き笑い
「…ふひゃははは…とんだ茶番だな…」
笑い、ボソリと呟く武
その声を聞いていた狭霧は静かに眼を閉じる
「…田中少佐、坂本少佐…私はあなた達を大変素晴らしいと評価しています…」
突然感傷に浸るような声を出し、吉津根は皆に背を向ける
「問題児ばかりといわれたこの播磨を立派に立て直し、艦娘達と信頼関係をも築き上げた…その功績は大きい…ならばもう一山越えてみようではありませんか!…この作戦に参加した暁にはお二人の昇格…いや、2階級特進を約束しましょう!…それに人工艤装を使ったこの作戦に参加した全艦娘達にも恩恵を考えています。戦えることがわかれば元の鎮守府に戻ることも可能ですし。引き続き播磨で戦いたいと言うのなら支部から資材や資源の援助も今以上に協力しますよ」
吉津根の思いきった条件に驚く提督面々
「に、2階級特進…!?お、おい少佐達よ!こんなチャンスもうないぞ!?これは受けるしかないだろう!」
河野がわざとらしく田中と坂本にそう話しかけてくる
あまりにも河野の喋りの速度の勢いが良かったのでテーブルには彼の唾が飛んでいる
「…や…ですけど…俺らにはあいつらを「まぁまぁまぁ…突然こんなことを言われれば驚きますよねぇ。なのでほんの少しだけ考えるお時間を差し上げましょう」
田中の意見を遮るように吉津根が喋り、壁に掛けられた時計に視線を向ける
「…そうですね…今から1時間差し上げましょう。この緊急時に1時間も、ですよ?…佳いお返事を期待しています」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
こうして作戦会議は始まったばかりだというのに一時中断となった
数名の提督達がいなくなった会議室では通信士の者達と吉津根、河野、小高が残っており、会議で使われたテーブルを囲んで座っている
「…吉津根先生…何故奴等に時間など与えてやるのですか?…先生の御命令ひとつで奴等は反論も出来ずに言うことを聞くというのに…」
「そうです。それに2階級特進だなんて…奴等には勿体なく思いますぞ!」
河野、小高がこそこそと吉津根に意見すると、吉津根はふふふ、と余裕そうに笑う
「…なに。最後の時を共に過ごすくらいの時間は与えてやろうかと思いましてね…」
吉津根の返答に河野と小高は拍手する
「流石吉津根先生!なんと慈悲深い!」
「さすがです吉津根先生!あんな無知で矮小な存在のことですら気遣うとは!…まさに次期元帥に相応しい御方です!」
ふふん、と得意気な顔で笑う吉津根
河野がすす、とテーブルの上に身を乗り出す
「…吉津根先生…例の作戦も準備万端…いつでも可能です」
「…ふむ。流石は優秀な私の教え子達ですね…では…あとはあのお二人の決断を待ちましょうか」
河野と小高は元々東海支部勤務だった
その頃の二人の教育担当が吉津根…
彼に指導されているうちに吉津根を信用し、彼の思想に同調し、崇拝するようになった
故に東海支部とは違う支部直下の鎮守府に着任しても吉津根の言うことを聞く都合の良いコマとなったのだ
「…こんなに優秀なあなた方の事を…出来の悪いあの二人には見習って欲しかったですが…残念です」
ふぅ、と小さくため息を吐く吉津根
小高がにこりと笑う
「…致し方ありませんよ…夢崎中尉もまだまだお若い…」
「…ふ。そうですね…ですが若気の至りで師を欺くことが許されるものですかねぇ?」
吉津根がにたりと粘着質な笑顔を作ると、小高と河野は緊張し、唾を飲み込む
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、播磨鎮守府執務室
神妙な顔でソファーに座るは田中、坂本、市川に夢崎
赤城は他の少女達に話しに寮の方へ行った
「…私は反対です。危険すぎます」
吉津根達との先ほどの会話を二人に説明すると、夢崎がすぐに反対。市川も頷く
「僕も同感です。そのような人工艤装なんて信用できません。この話は断るべきです」
「…け、けどよ…この作戦が無事終わればあいつらも元の鎮守府に戻れるわけだろ?…もともと嫌々でここに来たっつーやつらばっかだって話だし…吉津根中将ももう播磨には手を出さないっつってっしよ…」
田中のなんとも情けない声、言葉を聞いて、坂本は眉間にしわを寄せて田中を睨む
「…嫌々?…田中君…あなた本当にそう思っているんですか?」
珍しく田中に強く言い放つ坂本を目の前に、市川と夢崎は二人して驚く
「…え?」
「…彼女達が嫌々で音楽隊をやっているように見えたんですか?無理矢理やらせたと思っているんですか?…あんなに楽しそうにトレーニングして、楽器を吹いて叩いて…商店街の方々から可愛がってもらえているのが嘘だと…あなたにはそう見えているんですか?」
う、と田中は眼を泳がせて背中を丸める
「…元々吉津根中将にはめられて…その反抗心から彼女達に協力しましたね…けれど彼女達と共に過ごして……本当に反抗心だけで今まで行動していたんですか?指導していたんですか?…彼女達が大切だからここまでやってきたんじゃないんですか?」
「彼女達を見て本当は気がついているんじゃないんですか?あの子達が今の播磨に満足しているって…戦いたいのではなく皆と演奏がしたいんじゃないかって!」
「…それは…や…勿論…見ててわかるけど…よ…」
田中&漣キャッチの時もそうだったが、普段怒らない人、もしくは声を荒げない人が怒ったり声を張ったりするとこうも違うのか、と市川は一人納得する
逆に普段荒い口調で斜にかまえたような態度の田中がしおしおと縮んでいく様は気を抜けば吹き出してしまいそうだ
いじけるように自分の右手のギプスをちりちりと指でいじっている
「…なら。この話は蹴りましょう…あれだけの鎮守府の提督達がいるんです。播磨から戦闘員を出さずとも動いてくれるでしょう…命令違反でも懲罰でも僕たちだけが受ければ済む話です。違いますか?夢崎中尉。市川少尉」
突然振られた市川ははっとするも、夢崎は落ち着いて深く頷く
「…ええ。この身一づで済むのであるだばなんぼでも罰は受げますじゃ。そえで彼女達の死ぬ確率ゼロさ近づぐのだば命など惜すくはね」
「…勿論です。それに命令違反で殺されることはありませんからね」
二人の返答を聞いた坂本は田中ににこりと微笑む
それを見た田中も呆れるように笑う
「…そうだよな…ああ、ほんとお前らマジで馬鹿だ…」
そう言ってソファーから立ち上がる田中は首をポキポキと鳴らす
「…迷っていた俺はもっと大馬鹿だ…行こう。吉津根ん所に」
意を決した田中達は執務室から出ていく
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
田中達が相談をし始めた頃、播磨鎮守府の39人の少女達も談話室に集まり、会議を行っていた
「…人工艤装…」
赤城から話を聞いた金剛は呟く
鳥海も拳を震わせ
「…つまりそいつがあればあたし達もじゃんじゃか戦えるっつーわけだよな!」
「待ってよ鳥海…簡単に結論付けないで!…あとじゃんじゃかってどういう意味!?」
鳥海を止める摩耶。
初月も頷く
「…その…なんとかって中将は信用できるのかい?…どうも危険な臭いしかしないんだが」
初月の質問で赤城に全員の視線が向く
赤城はしっかりを初月の眼を見て唇を一度噛む
「…正直信用は出来ません。何故なら播磨の…私達、戦えない艦娘を解体したがっているのはその吉津根中将だからです」
ふん、と初月は鼻で笑う
「…ふむ。赤城さんがそこまではっきり言い切れるくらい信用出来ないのなら、危険を省みずに僕たちが戦う意味がないと思うわけだが…?」
でも、と愛宕が呟く
「…こんな緊急時にまで中将は私達に何かしてくるつもりなのかしら…」
赤城は顔をうつむかせて首を横に振る
「…わかりません…けれど。もしも…もしもその艤装を使って本当に戦えると言うのなら…あくまでも個人的な考えではありますが、これは私達から先生達への恩返しになるのではないか…とも、考えています」
うん、と扶桑と山雲も頷く
「…確かに…私達は先生達から与えられてばかり…甘えてばかりね…」
「…私達が深海棲艦を追い払えるのに役立てれば先生達の階級も上がって、色々と今よりも快適になるんですよね~?」
後ろのほうで伊19が三隈にこそこそと話しかける
「…少佐から大佐に昇格って凄いことなの?」
「…わからないわ…でも二階級特進の意味って…確か…」
うーん、と三隈は考えるもののなかなか思い出せない
がやがやと騒ぎ始める少女達
そんな中、誰よりも一人落ち着いた少女が壁際に立っている
「…」
神風だった
真剣な表情で口元に手を当てる神風は考える
これは間違いなく罠……それも99.9%の確率で罠だ、と…
だが残り0.1%で人工艤装が本当に使えるものならばどうだろう。
「(偵察任務…恐らく誘導も兼ねているのかしら…恐らく簡単に済むような任務じゃないわね…ううん。艤装なら私は展開させられる。いざというときなら戦えると思う…けど…)」
神風は過去の記憶を脳内に呼び覚ます
自分の練度に自信があったからといって、僚艦の能力を確認もせずに突っ走った…
その結果どうだったか
自分以外の僚艦は沈み、その責任を負わされた
後悔してもしきれない…
だからこそ今回ばかりはあのときと同じ事を繰り返させるわけにはいかない
「(…私が勝手なことをすれば…今度は播磨の皆が沈んでしまうかもしれない…)」
再び仲間を失うかもしれないという恐怖が勝ったのか、神風はなにも言うことなく壁に背を預ける
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少女達が話し合いを始めて約10分…
音楽隊の演奏ではあんなにあっという間だった10分が、今日は特に…まさに人生で一番長く感じた者が多いことだろう
結局どうするか…
話は平行線のまま少女達が頭を抱えるなか、一人の少女が手を上げた
「…私は戦いたいです」
宗谷だった
一同の視線が宗谷に向けられるも、彼女は周りの眼を気にすることなく椅子から立ち上がる
「…先ほど赤城さんが仰った先生達への恩返し…ありだと思います。私達の活躍が巡り巡って先生達の為になる…これほどの幸せはそうそうありませんからね」
「…宗谷さん」
「…あ、あたしも戦いたい…です!」
宗谷に続き、手を上げたのは朧だった
手を上げた朧を見て宗谷はふ、と笑う
「…これは強制ではないと思いますよ…無理はせずとも「無理なんかじゃないから!」
いつもならただ張り合うだけの二人だが、今だけは違う
"大切な人の為に戦える"
今までしたくても決して出来なかったことができるかもしれない。その可能性がある
宗谷も朧もそれを感じ、手を上げたのだ
「…わ、私も行くわ!」
「あたしも!」
「私だって!」
宗谷と朧の決意を目の前で見た少女達は、我も我もと次々に手を上げていく
黙っていた金剛も椅子から立ち上がり、赤城と向かい合う
「…きっと田中先生達ならば私達が戦闘に出るのは反対するデショウね…」
呆れるように笑う金剛に、笑顔で返す赤城
「…ええ。…きっと大反対されたでしょうね」
「…ふふ。自分達は命懸けで私達を助けようっていうのに…ズルい人達デス」
大切な人達の為に戦うことを選んだ少女達は立ち上がる
「…これは海軍の為なんかじゃあありません…大切な人達への恩返しのため!…行きましょう!皆さん!」
鼓舞するように赤城がそう力強く言うと、少女達の顔つきが変わる
「…ぁ…」
談話室から出ていく少女達
その中で山雲はふと医務室で休む親友の姿を思い出す
「…」
しかし静かに首を横に振ると、少女達の後を追いかけた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ぃよお…新人提督ちゃん達じゃあないの」
播磨鎮守府会議室へ向かう途中、田中と坂本を待ち受けていたかのように狭霧を連れた包帯男、武大佐が廊下に立っていた
包帯の口の部分には、先ほど口紅で描いたギザ歯つきの真っ赤な口が笑っている
「…えっと…さっきの…」
武の名前が出ない田中は言い淀む
こうして合間見えるのは初めての田中と坂本は改めて武の身長の高さに驚く
成人男性の平均程度の身長を持つ自分達よりも頭1つ分程度高く感じる
まさに隣に並ぶ狭霧と見比べると巨人と小人だ
「紀伊海軍航空基地の武大佐だ。竹じゃあないぜぇ?」
ひゃははは、と笑う武
会議室へ急ぐ気持ちを抑えて田中と坂本はすぐに敬礼
「失礼致しました。播磨鎮守府提督。田中少佐です」
「同じく坂本少佐です。ご無礼を「ああ、ああ、敬礼はいらねぇよ」
敬礼しようとした二人を止め、田中と坂本の間に割り込んで肩を組んでくる武
武からはなんとなく腐臭が漂ってくる
「…先輩提督としてイィ~ことを教えてあげちゃうぜぇ…」
漂ってくる腐臭を我慢しながら二人は頷く
「…日本のため、国民のため、正義、大義、忠義なんてあんまぁい思想があんなら…海軍なんてとっとと辞めちまいな…じゃねぇと命が幾つあっても足りないぜぇ?」
小声で二人にそう話す武
その凍り付くような声色に、まるでナイフの刃を喉元に突きつけられたような気さえする田中と坂本は驚いて何も返せない
「…あぁ…俺みたいに寝ている間に火ィ点けられるかもしれねぇからな?…いいか?…海軍はお前らが思っているような「おい武。何してんだ」
更に掛けられる別の声
三人が振り返ると、両手を水で濡らした佐世保鎮守府提督、柴山大佐が武を強く睨みつけていた
彼の後ろには村雨と白露もいる
「……あーあ…みつかっちったなぁ…ひゃははは…なぁに…先輩提督として可愛い後輩にレクチャアしてあげてるところさぁ…」
田中と坂本の肩から腕を下ろすと、武は柴山の目の前に立つ
柴山はどちらかといえば身長が低い方だ
目の前の長身男に対し、どこか敗北感を感じながらも柴山は包帯男を睨む
「…近づくんじゃねぇよ…てめぇ腐った卵の臭いすんだよクソッタレ」
「おーおー…初対面でひでぇ言われようだな…なに?トイレ行ってたのかなぁ?ハンカチくらい持ったらどうだ?…バッチィヒーローは…エンガチョだ。ひゃははは」
高笑いする武の態度に対してへっ、と柴山は鼻で笑い返し、武の横を通りすぎると更に田中と坂本の間を通る
「…おう、新人共…てめぇらに正義の心があるなら教えてやる…」
振り返った柴山はしゅびっと、と武を力強く指差す
「…こいつは悪だ!まごう事なき悪!…悪であるこいつの言うことに耳を傾けんじゃあねぇ!」
言葉を失う田中と坂本
ふ、とキザっぽく笑う柴山
「武…言葉巧みにこいつらを仲間に引き入れようとしてたみてぇだけどな…こいつらは正義の芽だ!てめぇの言葉は届かねぇってよ!なぁ!」
「…え」
「…や…はぁ…」
茶番
早く吉津根のところへ行きたい田中と坂本は柴山のテンションに退いていた
「…なぁ…なぁなぁなぁ…柴山ちゃんよぉ…そいつら早く中将んところ行きたがってるみたいだから行かせてやったらどうだい?話ならボクチンが聞いてあげるからさぁ?」
「ああっ!?上等だこら!……っ!………ちっ……作戦の最中背中に気ィつけろよ?…クソッタレが!」
啖呵を切った瞬間、一瞬だけ身体が硬直したように見えた柴山は、ぶつぶつと言いながら再びトイレの方へと向かう
白露と村雨は、武のとなりに立つ狭霧を睨み付けながら柴山の後を追う
柴山達が通路の角を曲がって姿が見えなくなると、武は肩をすぼめる
「…背中に、ねぇ…正義を掲げる提督の言葉とは思えねぇなぁ……しっかし佐世保の提督は下痢症って噂は本当っぽいねぇ…常におしめ着ければ良いのになぁ」
武がそう言うと、狭霧はぷふっと吹き出す
「…まぁあいいや…悪かったねぇ新人ちゃん達…引き留めちゃってさぁ」
「…いえ…じゃあ自分達は失礼します」
田中と坂本は武に敬礼し、会議室の方へと走っていった
彼らの姿が見えなくなるまでふりふりと手を振る武
「…あの方達…気に入ったんですか?」
「…ああ…まだ希望があって、青臭くて…なにより若い…あんな奴らが傷つくところは見たくねぇなぁ…ひゃははは…」
先程の会議室の時と違い、武のその声は僅かながら慈しむような、優しいトーンだった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
播磨鎮守府 医務室
「ふへぇ…節々が痛い…」
カーテンで仕切られた医務室のベッドでおでこに冷えるシールを貼った漣が体をよじる
『…おー…漣ちゃん。無理に動くんじゃねーぞ?』
カーテンの向こうから聞こえるは千草の声。
漣が思うに、千草は医務室の自分の机でいつも通り新聞を読んでいると予想する
「……なんか…今日静かじゃないですかぁ?…うーん…」
いつもなら皆楽器を準備して練習に入る頃だろう。
指揮者である自分が一人練習を休んでしまったことの罪悪感に苛まれながら漣はそう呟く
『…んー?……ああ、多分まぁなんだ……みんなでピロートークでもしてんじゃあねぇか?』
「…ぴろ…?なんです?それ…」
意識が弱くなっているせいか、呑気に返す漣とは裏腹に、カーテンの向こうにいる千草は強張った表情で窓の外に見える鎮守府正面を見下ろしていた
「…なんで支部の奴等が…」
鎮守府正面、門から入った広場には軍事輸送トラックや、将校の乗った車や対空装備の乗せられた装甲車など、約12台の様々な車両が停まり、播磨鎮守府を占拠するように武装した海兵達が基地広場や本館に入っていくのが見えた
トラック後方の扉が開くと、更に武装した海兵達が降りてくる
「…」
千草が門の外を見れば古川や揖保川が士官数人と話している
いや、あれは話しているというよりも士官達に何か問い詰められているように見える
「……こりゃあ…不味いかもな…」
年の功と言うべきか、千草はこの異常な事態になにかピンとくるものがあったようで、義足を引きずりながらなにやらごそごそとし始める
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
播磨鎮守府 会議室
「…やぁ…随分遅かったですねぇ。お二方…」
会議室の扉が開かれると、先程と変わらない位置に吉津根、小高、河野、若い男性士官が座っており、黒田は立って、会議室の隅で自分の秘書艦のイタリアとなにかを話している
田中と坂本は小さく深呼吸し、会議室へ入る
「…遅くはないかと思います。約束の時間までまだ20分ありますから」
揚げ足を取る様にそう返す坂本
小高と河野はいやらしくにやついている
「…なにか?」
坂本が睨みながらそう返すと、ささっと視線を背ける小高と河野
丁度武と柴山も会議室に戻ってきたのを見て、吉津根は田中達の席を指差す
「…まぁ……先ずは座りましょうか…どうぞ?田中大佐。坂本大佐」
「…は、はい……って…」
吉津根から言われた言葉に違和感を感じた田中の動きが止まる
「…中将…今…なんて…」
田中の隣に立つ坂本も口を開け、眼を大きく開く
呆ける二人の表情を見た吉津根が満面の笑みを浮かべる
「…いやぁ。二階級特進…おめでとうございます。田中大佐。坂本大佐」
どくん、と二人の心臓が鳴ったのがわかった
田中の膝がびくりと震える
冷や汗がどんどん背中を伝うのがわかる
「…や…な、何言ってんすか…ま……は?」
ぶんぶんと頭を振る田中
「…違っ…違います!俺らは断わるために来たんです!…あいつらを作戦に参加はさせま「いやぁ…本当に提督想いのぃいい娘達でした」
吉津根の言葉が田中の話を遮り、直立したまま田中と坂本はぎょっとする
「…か、勝手に…出撃させたんですか…?…僕達にどうするか聞いておいて…中将!!」
思わず声を張り上げる坂本
対する吉津根は涼しい顔で首を横に振る
「総勢"39"人…皆あなた達の為に戦いたい、と…そう仰っていましたよ…ねぇ、小高大尉、河野少佐?」
「ええ。間違いなく自分達から戦いたい、と言っていましたね。吉津根中将」
「間違いはありませんね。提督達の為に、と言っていました。吉津根中将」
小高達の言葉を聞いて田中と坂本は困惑した表情になる
河野は先ほどから黙っている若い男性士官に問う
「なぁ、君も聞いていただろう?」
若い男性士官はぐ、と唇を力強く結び…
「……は…た、確かに言ってはいました…が…ですがあれは「ほぅら!証人は4人!嘘は言っていないぞ!?貴様らこそ勝手なことを言うんじゃあない!」
河野に馬鹿にするように言われ、左手の拳を強く握る田中
その顔もわなわなと震えている
「…ふざ…ふざけんな!!あいつらはどこだ!!」
田中が怒鳴ると吉津根は両手の小指を自分の耳の穴にすぽっ、と入れる
「んぁあー…聞ぃこえませぇんねぇ…くっ…くふふふ…あなた達が時間を無駄にしている頃、彼女達は判断した。行動した…それだけですよ…くひゅひゅひゅひゅ…」
「…きっ…吉津根中「うるっせぇな!だぁってろよ新人!!」
今にも吉津根に飛びかかろうとする田中に怒鳴ったのは、腕を組んでつまらなさそうに椅子に座る柴山だった
蔑むような目つきで田中と坂本を睨む
「…こいつぁ正義の為の戦いだろうがよ…てめぇの艦娘は正義を遂行するために自分等の運命を選択したんだろうがっ!…うだうだ言ってねぇで俺みたいにどしっと構えてろよ」
「…なっ!…」
自分の言いたかったことを言えて柴山は満足そうだ
田中の怒りのボルテージは更に上がる
「…へっ…お前らも俺みたいになりたいんだろう?…正義の海軍提督によぉ…なら正義のなんたるかってのを俺の纏うオーラを見て学べ。そして感じろ!…そして味わえ!!」
こんなふざけた男の相手をしていられない
そう判断した田中と坂本は会議室から出ていこうと椅子に掛けることなく踵を返す
「…まだ作戦会議の途中ですよ?…勝手な行動は許されませんよ?」
嬉しそうに薄ら笑いを浮かべる吉津根が田中達にそう告げるも、二人は聞く耳を持たずに扉の方へと向かう
「…そうですか…それは残念…」
吉津根はそう呟き、扉横に立つ士官に眼で合図を送ると、士官は田中達の方へと近づき、突然田中の左腕を掴む
「いった…んだてめ「黙れっ!」
突如掴まれた腕を振りほどこうとする田中。
しかし彼の腕を掴んだ士官は掴んだ左腕をひねり、田中を床へと転ばせる
「田中君!…ぐあっ!」
同じく坂本も別の士官に背中から羽交い締めにされ、壁に押し付けられる
「ざっけんな!どけっ!クソッタ…いでででっ!!」
合計4人の士官達が田中と坂本の身動きを封じると、吉津根が椅子から立ち上がり、二人の方へと近づいてくる
「…勝手な行動は許さない、と…命令しましたよねぇ?命令違反は重罪ですよ?くふふふふ」
イタズラの成功した子供のように嬉しそうに笑う吉津根は床に押し付けられる田中を見下ろす
「安心してください…あなた達の大切な駒は私がちゃぁあんと処理してあげますから…今頃彼女達はドックで新たな艤装を装備している頃でしょう…くひゅっ…くひゅひゅひゅひゅ…」
「てんめぇ…!…離せっ!…離せくそギツネっ!」
「…おほっ…おほほほ!さぁらぁに上官への暴言とはっ!?…大佐ぁ…あなたどれだけ罪を重ねるおつもりですかぁ?」
田中と吉津根のやり取りをにやけ面で見ている小高と河野
どうしようとおろおろする黒田
我関せずで腕を組んで眼を瞑る柴山
武も何も言わずテーブルに足を乗せている
壁に押し付けられた坂本も眼を瞑り万事休すか、とあきらめかけたその時
「…吉津根中将!もうその辺でよろしいかと!」
「…?」
床に押し付けられた田中は、声を出した者の方に視線を向ける
あの若い男性士官だった
吉津根は若い男性士官の方にゆっくりと首を向ける
「…おや…おやおやおや…少尉殿が私に指図をするおつもりですか…?」
「おい!無礼だぞ若造が!」
「そうだ!少尉ごときが吉津根中将になんて口の聞き方を!!」
吠える小高と河野を片手で制する吉津根
若い男性士官は姿勢正しく吉津根の方を向く
「…作戦開始時刻が遅れてしまうかと…大佐殿方を罰するのであれば作戦終了後に罰するべきかと進言致します」
力強くはっきりと言い切る男性士官
吉津根はふむ、と頷く
「…確かにそうですね。わかりました。彼らの処遇はひとまず保留としましょう…二人を営倉に連れていきなさい」
吉津根が田中達を押さえつける士官達に命令すると、士官達は二人を捕まえたまま立たせる
「…お待ちください吉津根中将」
「…今度はなんですか?少尉…」
若い男性将校は吉津根に敬礼
「若輩者が出過ぎた真似を致しました。自分への罰として、せめて私が彼らを営倉に連れていきます」
若い男性将校がそう言うと、吉津根は彼をじっと見る
「……少尉。あなたは学びのためにここにいるのでは?」
「…は。ですが吉津根中将ならびに上官方の貴重なお時間を奪ってしまったのも事実。…吉津根中将、どうか…」
ふう、と吉津根はため息
「わかりました…では二人を連れていきなさい。少尉」
吉津根がそう命令すると、若い男性士官は再度敬礼
「は!ありがとうございます!…大井!」
彼の秘書艦である大井を呼ぶと、彼女も吉津根に敬礼し、押し付けられている田中達のところへ向かう
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
播磨鎮守府 一階倉庫前
若い男性士官と艦娘、大井に捕まえられてやって来たのは基地本館一階でもひときわ人が来ない通路だった
「…もう良いだろう……大井」
「はい」
若い男性士官がそう言うと同時に田中達を掴んでいた大井の手の力が弱くなる
「…?…おい…ここは営倉じゃねぇぞ?」
掴まれていた腕をほぐしながら田中が大井にそう言うと、つん、と顔を背ける大井
「…提督の命令ですから」
坂本も首を擦りながら若い男性士官に問う
「…どういうおつもりですか?」
そう問うと、若い男性士官は官帽を脱ぎ、二人に頭を下げる
「…無礼な態度、申し訳ありません。田中大佐。坂本大佐…ですがあの場ではこうする他なかったかと…」
鋭い目付きの細身の男性士官は申し訳なさそうにそう説明する
「…あんた…吉津根の子飼いじゃなかったのか?」
「勿論違います…吉津根中将は有能な将校とお聞きしていたんですが…うむ。やはり噂は噂、ですね…」
若い男性士官はああ、と思い出すように田中達に敬礼すると、大井も倣って敬礼する
「自己紹介が遅れたこと。お詫び致します…西海支部直下大隅警備府提督。鴛渕少尉です…どうぞよろしくお願い致します」
どうやら田中達の営倉行きは、大隅警備府提督の鴛渕とその秘書艦大井によって阻止されたようだった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ち、千草先生…?」
医務室にて、千草はまだ体温が高く意識が朦朧とする漣の体を毛布で軽く巻くと、お姫様抱っこのように持ち上げ、寝ていたベッドからベッドの下へと場所を移す
幸い足の高いベッドだったので、小柄な漣はベッドの下の隙間に収まった
更に漣の姿が外側から見えないように、ベッドの下に医療用の包帯やガーゼ、ゴム手袋などが入っていた段ボールを並べ始める千草
『…悪ぃな漣ちゃん…窮屈だろうがちぃっとここに隠れてろや…いいか?…何が起きても、何が聞こえても絶対に声を出すなよ?…んでここから出るな…いいな?』
初めて見る焦りの表情の千草を見て、熱で頭が動かない漣は困惑する
「…え…や…なんで…先生『いいな。絶対ここから出てくるなよ?先生との約束だ』
一方的に会話を切られる漣
それと同時に医務室の扉が開く音がし、何人かの足音が聞こえてきた
「おい軍医。ここに艦娘はいないか?」
突如医務室に入ってきたのは全身黒色の戦闘服を着て武装した3人の男達だった
千草は何事もなかったかのように、椅子に座って新聞紙片手にコーヒーを飲んでいる
「…ああ?ここにゃあいねぇよ…っつーかおめぇらなんだ?いきなり入ってきて突然んなこと言ってきやがって…おめぇら隣の部屋でバタバタやってただろ。うるっせぇんだよ」
「…播磨の艦娘は全部で40隻いる…だが出撃したのは39隻だけだ。あと一人どこかに隠れているのはわかっている」
男の一人が千草に詰め寄るも、千草は表情ひとつ変えない
それどころか余裕のあるようにくくくと笑う
「…だぁから知らねぇよ。見ての通りここにゃあ俺一人しかいねぇ…」
ここで会話を聞いていた漣はピンときた
千草は漣のことを庇っている、と…
理由はわからないがこの男達は漣を探している
それを千草は理解してあえてシラを切っているのだ
「…そうか。では調べさせてもらうぞ」
「おぅ!ざけんな!いねぇってんだろうが!」
千草にとって予想外だったのか、男達は引き返すことなく千草のデスク周りや薬品の入る棚の扉を開けたりなどして雑に捜索し始めた
流石に千草も椅子から立ち上がり、男の一人の服を掴む
「おいっ!てめ「…っなにをする!軍医!」
千草は掴んだ男の胸元を掴み直し、凄む
「…馬鹿野郎が!…ここは怪我人を手当てする場所だ!…怪我人作る道具持った野郎共が好き勝手やってんじゃあねぇよ!」
「…貴様!離れろ!」
掴まれた男が暴れると、デスクの上に置かれていた治療器具が床に落ちて甲高い音が医務室に響く
残る二人の男達が千草に銃を向ける
「おい!その手を離せ!撃つぞ!」
「軍医!離せ!」
銃を向けられた千草は自分に銃口を向けた男を見ると、にやりと口の端をつり上げ…
「…ぉああっ!!」
掴んでいた男から手を離し、銃口を向ける別の男に突っ込んでいく千草
「貴様ぁっ!!」
瞬間、男の持つ銃の引き金が引かれ、医務室に機関銃の発砲音が炸裂する
はい。
お疲れ様でした
いつもの流れになってきましたね
新たに登場した狂人提督に亡霊提督。腰巾着提督達に正義の味方…
まぁ柴山さんは安定の、ですね
さてさて少女達がどうなるか…次回更新をお待ちください。
なお、播磨編後編はそこまで長くしないつもりなので…はい。ご安心ください