…前回のお話の後書きには『次でラストですよ~』なんて言ってました…ほざいてました…
すみませんでした
…ではどうぞ
ああ…
俺ァ昔っから人に騙されて裏切られることが多くってなぁ…
『なんだ…!?こんな夜中に何事だ!』
あの日だって深夜にも関わらず突然あいつらぽっくんの部屋に入ってきやがった
『武提督!…御覚悟!』
『御覚悟を!』
『御覚悟!』
いやぁー…マジでぼくちんビビったぜ…
あ、これが謀反なんだ…マジであるんだなーってさ…
『ま…松永少佐?…明智中尉……小早川少尉…か?……うぉおっ!?』
暗がりだったから顔を確認しようとしたらあいつら灯油ぶっかけてきやがった…
奴等本気だったわ…
3人とも目がやべぇイっちゃってっからさぁ…
『…げほっ…何故…何故こんなことを…!…そんなに…そんなに俺が憎いのか!松永!』
灯油まみれの俺がそう言うとよ…松永のハゲ野郎がすっげぇ良い笑顔でこう言うんだよ
『…これは天誅である!誰の言葉にも耳を傾けない馬耳東風の貴様が海軍に居て良い理由はない!』
『然り!誅伐を喰らうが良い!裏切り者め!!』
…マージ訳わかんねぇって…パッパラパーな事ばっか言いやがってよ…
でもこの意味不明な言葉を聞いてピンときたわけさ…流石西の名探偵!あたいったらやるねぇ
『…お前ら…寝返ったんだな…?…天誅軍に!』
俺が問うと、奴等は答えなかった…
いや、奴等の答えは投げられたライターと、手に持つ拳銃…オラへの発砲だった
ぼっ
『うぉぉおあああぁぁあ!!!ぎゃぁっあぁああ!!!』
灯油だらけの俺はさぞかしよく燃えたんだろうな…いや、萌えた、か?ひゃははは…
『ははははは!!滅せられよ裏切り者めが!』
『紀伊の海は、日本の海は貴様なんぞに渡しはしない!朽ち果てよ裏切り者め!』
『燃えろ!燃え尽きて灰となれ!裏切り者め!!』
『…貴方達……何っ…何をしているの!!!』
…狭霧が奴等を殺し、火だるまの俺を助けてくれた…
感謝してもしきれねぇな…
…しかしまさか信じていた部下達に裏切られるとは…
…いや、別に信じちゃいなかったが…
ん?…奴等が執拗に言ってきた裏切り者って…
どういう事だ?
俺が誰を裏切ったってぇ言いてぇんだ?
…調べる時間は…ねぇなぁ…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
播磨鎮守府 本館男子トイレ
播磨の少女達が身につけている人工艤装
その人工艤装のコントロール権を手に入れようと意を決して作戦本部のある階へとやってきた田中と坂本
「…あれだけ意気込んでいたわりになぜトイレへ?お腹痛いんですか?」
ジト目で田中を睨む坂本
「…ああ、いてぇよ…胃がきりきりするっつの…いや、よく考えなくてもよ、流石にここから先勢いで行くのは無理だろ…」
「…まぁ…そうですね…ここまで見張りの1人もいなかったことが不気味ではありましたが…流石に会議室には武装した者も含めて十数名はいるでしょうからね…このまま行けば僕たちは撃たれて終わり、ですね」
ドックからここまでは確かに誰とも会うことはなかった
お陰でものの数分で会議室近くまでこれはしたが、このまま突撃すれば当然無事ではすまない
「……吉津根のクソ野郎と…取り巻きのあの二人か…で、他に誰かいたっけか…」
「…イタリアさんを秘書艦にしていた方ですね…土佐の提督で…ええと……女性の方です」
「…いたな…そういや…」
ああ、と思い出したかのように田中は頭をぐしぐしと掻く
坂本はメガネをくいっと指であげる
「…それと…いるとしたら柴山大佐ですね…武大佐はあの話しぶりだとどこかへと行かれたと思いますし…いるとしたら影武者の方ですかね…」
「…好き勝手やってドロンだもんな…マジで自由だよな。あの人…」
田中達に絡んできたと思ったら突然助けたりして急にいなくなる…
自由人な武の事を思い出しながら田中はポケットからタバコの箱を取り出す
「…あ、田中君…トイレは禁煙ですよ?こんな時ぐらいタバコは「そう怒んなよ学級委員。こんな時だからこそ…」
タバコを取り出して一本口に咥え、ライターを取り出す
そして取り出したライターを見て田中の言葉が消えた
動きがぴたりと止まった田中を見て坂本は首をかしげる
「…田中君?」
「…なぁ…坂本…吉津根中将ってよ…基本的には規律を守る人、だよな…?」
「…規律?…まぁ…そうだと思いますよ?…かなり自分に都合の良いとんちに言い換えたりしますけど…」
坂本の返答を聞いて田中はにやりと笑い、ライターを眼の高さへ持ってくる
「…実ぁよ…前千草先生から聞いたことあってな…播磨鎮守府はケチられた海軍施設だから建物自体にはスプリンクラーが付いてねえだってよ」
「…?…そうですか…」
「だから火災報知器が鳴ってもスプリンクラーが付いてねぇから避難するしかねぇんだってさ」
田中がそこまで話すと坂本も彼が何を言いたいか気付き、トイレの天井に視線を上げる
「…まさか…」
「…規律を重んじる吉津根大先生なら…俺らの思う通りの行動してくれると思うぜ?…なぁおい、ちょっと肩車してくれ」
田中がライターを天井に設置された火災報知器に向けてくいっくいっと合図すると、坂本はにこりと笑う
「え、ええ」
「…っし…もうちょい右だ右」
田中を軽々と肩車する坂本の表情は余裕の色を見せている
常日頃から己の身体を鍛えている坂本からすれば、田中などまるで羊毛のような軽さだろう
「…へへ…こんなことやんのいつぶりだろうな…ガキの頃に「ああ…僕の後頭部に田中君の田中君が…暖か「おいやめろ。そういうこと言うなやめろ」
ようやく届いた火災報知器
田中はライターの火をつけ、それに当てる
「…そういえば…夢崎中尉達は大丈夫でしょうか…」
「え?…あ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…これは一体何のつもりですか!?」
執務室では、千草を強襲したガスマスク装備の黒服の戦闘服姿の武装兵士3人組が、市川と夢崎を椅子に縛り付けていた
「黙れ!」
「…ぐぁぅっ!」
3人組の1人が持っていた自動小銃のストック部分で市川の顔面を叩きつける
だが椅子に縛られている市川は頭だけ仰け反り、床に倒れることはなかった
2人の武装兵士もその様子を見て鼻で笑う
「おいおい…勝手に殺すなよ?今はまだ生かしとけって指示なんだからよ」
「そうだぞ?…あの軍医みたいに殺すんじゃないぞ?」
ガタガタと椅子を動かしながら夢崎が声を荒げる
「…おめら!よぐも市川ば…!それに軍医殺すたどはどった事だ!おめら千草せんせさ何すたぁ!!」
「ははは…何言ってんのかさっぱりわからん」
武装兵士の1人が笑いながら自動小銃の銃口を夢崎に向ける
「お前らはもう終わりだぞ?…なんせあの吉津根中将を怒らせたんだからな…この作戦が終わる頃にはお前らは2人ともあの世だろうさ」
「そうそう。俺らはお前らの首を刈るためにやってきた素敵な天使だ…はははは」
武装兵士2人はけらけらと笑う
「…貴様らぁ!!……おい、市川!大丈夫か!市川!」
夢崎が縛られ、顔を俯かせている市川に問う
市川はボタボタと鼻から血を流しながらゆっくり頷く
「…は…はら…おれは……」
"鼻が折れた"と言っているようだ
市川は椅子に縛られたままぐったりとしているものの、生きていたことに安堵する夢崎
「(…くそっ…まさに絶体絶命…どうやって逃げるか…相手はマシンガンを持った3人…ガスマスクのせいでどこを見てるかわからんな…)」
身動きも出来ず助けも呼べない…
夢崎は内心乾いた笑いしか出てこなかった
「(…扶桑…お前は…無事なのか…?…無事でいてくれているのか?)」
その心に思い描くは夢崎の教え子、扶桑
夢崎が初めて播磨で指導した少女
だが扶桑や赤城達が出撃したことを夢崎と市川はまだ知らない
「(…俺もここまでなのか…?…くそ…)」
なるようにしかならないか、と半ば諦めて眼を閉じた夢崎
すると3人の武装兵士のうち1人の肩がぶるりと震える
「…やべ…ちょっと俺トイレ行ってくるわ」
「ああ?…んだよ…緊張感持てよ」
「わかったわかった…早くしろよ?」
2人の武装兵士に茶化されながらバタバタと執務室から出ていく黒服の男
残った武装兵士2人は変わらず、夢崎と市川に銃口を向けている
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
執務室近くの男子トイレ
「…ふぅ………あー…」
間に合った様で、ガスマスクをつけた武装兵士は小便器に溜まりにたまった尿を噴射している
『じょぼじょぼじょぼじょぼ…』
「…おー…出る出る……」
なかなか止まりそうにない小便
そんな武装兵士の背後にある大便器用の個室の扉
閉まっていた扉がゆっくりと音を立てずに開かれる
そこにいたのは顔と手を、くすんだ色の包帯でミイラ男のようにぐるぐる巻きにした男が1人…
武大佐だった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ちっ…おせぇな…」
「…まさかクソか?」
執務室
トイレに行った1人が帰ってこないことに苛立つ2人の黒服武装兵士
椅子に縛り付けられ、ぐったりした市川の様子を心配そうにちらちらと視線を向ける夢崎
なんとか隙を見て、と考えてはいるが、自分自身も思ったよりもきつく椅子に縛られており、目の前の2人が隙を作ったところで何か出来るとは夢崎は思えなかった
「(…万事休す、か…思えば…海軍になってがら散々であったな…尉官試験には二度落ぢるす、尉官になっても就いだのは吉津根せんせ…ほんに毎日胃締め付げらぃるような気持ぢだった…)」
走馬灯のように様々な思い出が夢崎の頭の中を駆け巡る
「(何の因果が播磨さ左遷さぃで……いや…うん。そうだな…扶桑さ…皆ど出逢ったはんでごそ…)」
そこで夢崎ははっとする
"万事休す、だと?"
愛する者達を頭に浮かべておいて何を弱気なことを考えているのだと自嘲する
「(…馬鹿だ…わっきゃほんずなすだ!…大馬鹿で阿呆!…ほんずなすだ…!…なーに諦めでらんだ…!男だるもの惚れだ女のためさ…!仲間のためさ今こごで命懸げずにいづ懸げるんだ!!)」
意識を切り替えた夢崎は座らせられた椅子、その後ろに縛られた腕を静かにもぞもぞと動かす
「(……これは縄じゃない…恐らく…プラスチックの…あれだ…あの…縛るやつか…)」
夢崎、結束バンドの名称が出てこない
両手首を縛られていることを改めて感覚で確認すると、ぐ、ぐ、と軽く引っ張る
「(…やっぱり硬いな…だが…)」
武装兵士の二人は丁度夢崎達から視線を外している
「(…わぁの筋肉の……敵じゃあねぇっ!)」
段々と両手首に力を入れていく夢崎
鼻息を静かに、しかし荒くする
「…ふぅ~……ふぅ~…」
静かに、じっくりと自身の両手首に掛けられる結束バンドを引き伸ばそうとする
「………っ…!!」
顔を赤くしながら、目の前にいる男二人に気づかれないように慎重に行動する
気づかれればもうそれで終わりだ
「(…見へろ東北魂!…こった紐っきれ…!こざがすい!)」
力の入りにくい体勢のまま、ゆっくりと力強く結束バンドを引き伸ばしていた夢崎の動きがピタリと止まる
武装兵士二人を見上げた夢崎の鼻からはだらりと血が垂れた
解放された両手首の感覚
なんとか結束バンドを力で引き伸ばすことに成功
夢崎は静かに後ろ手で結束バンドを外すと、一つ深呼吸し、自分に近い男の方を見ておい、と声をかける
「…ああ?…なんだぁ?」
「…最後に…タバコ…一本貰えるか?」
鼻血を垂らしながら不敵に笑う夢崎
男は肩でため息を一つ
「…ああ、わかったよ…最後の一本だ…味わって吸えよ?」
きっと夢崎も市川も現在進めている迎撃作戦が終わる頃には死んでいるだろう。
ガスマスクを着けた武装兵士は、自分の手で殺すとわかっているこの縛られた男の最後を同情し、太もものポケットからタバコの箱を取り出すため視線を下に下げる
武装兵士が視線を下げた瞬間だった
両手を後ろに回していた夢崎が視線を落としたとみられる武装兵士の両肩を瞬時に掴み、右肩を引き寄せるように武装兵士の身体を半回転させる
そして振り変えさせた武装兵士の腰に装備されていたナイフを掴み、彼の喉元に刃を当てる
「…動ぐなぁ!!」
「…お?」
執務室入り口側に立っていたもう1人の武装兵士が夢崎達の方を見る
椅子に縛られたままの意識が朦朧とする市川と、その横には仲間である武装兵士を盾にナイフを突きつける夢崎の姿があった
「…え、おいおい…マジかよ…」
入り口側に立つ武装兵士が呆れるように呟くと、盾にされた武装兵士もゆっくりと両手を上げる
「…おい…ま、待ってくれ…まずはナイフをしまえ…な?…おい、お前も撃つなよ?」
夢崎に捕まった武装兵士が震えた声で入り口側で立つもう1人の武装兵士に忠告
しかし忠告された武装兵士は鼻で笑い、人質がいるにも関わらずゆっくりと自動小銃を夢崎に向ける
「…なっ!…仲間がどうなっでも良いのが!?」
「…任務遂行の為に犠牲はつきものだ…悪く思うなよ?」
自動小銃を構えた武装兵士はそう言い、引き金を引く
「ばっ…やめっ!」
「…!!」
夢崎は人質にとった武装兵士の背にすぐに隠れる
それと同時に発砲音が連続で執務室に響く
放たれた銃弾が何発も盾にされた武装兵士の身体に撃ち込まれ、壁やガラス窓にも被弾し、執務机の書類が破れて宙を舞う
「……お?」
仲間を射殺しておいて特に焦る様子もない武装兵士は、弾切れを起こした自動小銃のマガジンをゆっくりと外す
夢崎は撃たれ、血塗れの武装兵士を抱き抱えながら、彼を射殺して悠々とマガジンを交換している目の前の武装兵士を睨む
「おめ!この男は仲間なんだびょん!?なすて撃った!!」
「…ったく…さっきあのジジイ殺した後変えればよかったな…ん?…あ?もしかして敵の心配してるのか?あんた…すげーな…」
血塗れの武装兵士をゆっくりと床に寝かし、鼻息を荒くして怒りの表情で立ち上がる夢崎
この武装兵士は仲間を仲間とも思っていない
ただの"駒"としか認識していない
敵であろうとも、人として…軍人としてやってはいけないことをしたこの目の前の男に夢崎は憤怒しているのだ
「…なんだその眼は…お前ムカつくぜぇ…脳天撃ち抜いてやるよ」
笑い混じりにそう言って武装兵士は夢崎の頭に新たなマガジンを装填した自動小銃の銃口を再び向け、引き金に指を当てる
「おんやぁ~。たーのしそうなことしとるじゃあないかぁ~」
不意に聞き覚えのない能天気な声が夢崎と武装兵士の耳に入る
二人して見ればいつの間にか執務室の扉が開いており、士官服を着た背の高い包帯男が立っていた
「………大佐?…紀伊の武大佐殿…ですか?」
夢崎に銃口を向けたまま、包帯男、武の階級章を見て武装兵士が問う
「…大当たりずら。…なぁんだぁ?もしかしなくても取り込み中じゃあないの?これ」
武装兵士と話す武の雰囲気を感じ、夢崎は表情を険しくさせる
「(…この話すぶりだど、この武どがしゃべる男も吉津根せんせ…いや、吉津根側の人間が…!くそっ…もうどうにもいがねが…)」
一思いに手榴弾の一つでも持っていれば…と夢崎は後悔する
ちらりと市川の方を見るが、まだ復活しているようには見えない
椅子に縛られたまま頭を垂れてぐったりとしている
「…今は作戦行動中のはず…何故ここに?」
武装兵士が武に問うと、武は自分の背中に片手を回し、サイレンサーつきの拳銃を取り出す
「何故って…」
そして取り出した拳銃を何の迷いもなく武装兵士の足に向け二発発砲
「…!うっぐぁあっ!いっでぇあっ!!」
武によって両ひざを撃ち抜かれた武装兵士は悲鳴を上げて床に倒れ込み、両手で持っていた自動小銃も落としてしまう
「いぎぃぃぃぃいい!痛いぃぃいい!!な、なんで…!!大佐ぁ!」
痛みで泣き叫ぶ武装兵士の額に銃口を押し付ける武
「くくく…ひゃははは…なんで、だろうなぁ…まぁ命が助かっただけでも儲かりもんだろぉ?…なぁ!」
そう言って拳銃を振り上げ、武装兵士の顔面に拳銃のグリップ部分を叩きつける
「…がっ!…!」
武は再び拳銃を振り上げ、再び武装兵士の顔目掛けて何度も叩きつける
「…がっ…やっ…やめっ…!がっ!…!」
8発ほど拳銃のグリップで叩かれると、武装兵士の身体はだらりと力が抜け、装備するガスマスクの空気穴からはぽたぽたと血を滴らせる
その徹底的な暴力具合に夢崎が顔をしかめる
「…あぁ…やぁっと気ぃ失ったか…ひゃははは…あー疲れた」
「…もっと他にやりようがあったでしょう…手刀で気を失わせるとか…」
「ああ?…おみゃーさん映画の見すぎだず。後ろから首チョップで人間気絶するわけねぇだろう?」
首を横に振って呆れるように話す武
夢崎は自分の頭をぽりぽりと掻く
「…我々を殺すつもりですか?」
「いぃや?そ~んなことしないよぉ~…あれだろう?お前ら田中と坂本の部下だろ?…なんとかセンセーってやつ」
「…う…少佐…達の…お知り合い…ですか?」
地を這うような声
今までぐったりしていた市川が声を震わせながら顔をゆっくりと上げる
気を失っていたと思われていた市川の声ではっとした夢崎はすぐに市川の拘束を解こうとする
武は自身の腕時計の針を見て、頷く
「…さっき知り合ったのさ。仲間…じゃあないねぇ…協力者ってところだなぁ…ちなみに営倉に捕まってた二人を助けたのはわたくしです」
拘束を外してもらった市川は縛られていた手首の力を確認するように振りながらはは、と苦笑い
「…なるほど…それで?…お二人の頼みで僕達を助けてくれた、というわけですか?」
市川の問いに武は人差し指を立てる
「ノン。そうじゃあない…実は『ジリリリリリリリリ』
武が話を続けようとすると、執務室、もとい基地全体に非常用ベルの音が鳴り響く
驚く市川と夢崎
武は嬉しそうに天井を仰ぐ
「…あいつらなにかおっ始めやがったなぁ?……よし。説明は後だ!とにかくここからトンズラかますぞ!レッツ外だ2人とも!」
楽しそうに武が腕を振って走る素振りを見せる
夢崎は市川を椅子から立たせ、歩きだそうとしたその時だった
『どこに行こうってぇんだ…!悪党が!』
スピーカーから流れるようなノイズ混じりの声と共に執務室の扉、そして扉回りが爆風の様なもので破壊される
木くずやコンクリート片が宙を舞い、扉があった所には見慣れぬ2メートルは有に越す人間大サイズのロボットのようなものが立っており、その左右には人影が見える
「…ちっ…速すぎるっつぅんだよ…」
低い声で呟く武は、すぐさまロボットに拳銃の銃口を向ける
「…おいっ!…あんた何を!?」
「!?」
全く躊躇のない武の流れるような動作に驚く夢崎と市川
だが武は二人を気にすることなく引き金を引く
「…ぎゃんっ!」
武がロボットに向けて発砲すると、サイレンサーの利いた銃声が聞こえ、その弾はロボットの顔部分を覆う防弾ガラスに当たり、弾かれる
そして弾かれた銃弾はロボットの右側に立っていた人影の頭部に被弾する
木くずや土ぼこりではっきりとは見えないが、女性の声が上がり、後ろに倒れ込むように見えた
発砲した武は拳銃の銃口をふっ、とカウボーイのように息を吹きかける動作をする
だが顔は包帯で巻かれているため、銃口へは息は届かなかったようだ
「…な、なんてことを!…あんた!なにをやってるんだ!」
武の行いに夢崎が怒鳴る
武装兵士は殺さなかったくせにこのロボットには一切の躊躇もなく頭を狙った
更に巻き添えまで出した
その意味が理解出来なかったのだ
「…だぁってさ…しーかたねぇじゃんかさ…"あいつら"は殺しとかなきゃダメなんだからさよ…」
「…あ、あいつら?」
武の言葉に夢崎と市川は恐る恐るロボットの方を見る
けたたましく鳴り響く非常ベル
土ぼこりが消えていくと、人形のロボットの腕が震えていた
『…め…ぇら……』
恨みの籠った声
だがその声に市川はともかく、かつて吉津根と様々な鎮守府へ移動していた夢崎には聞き覚えがあった
『…てめぇらぁっ!!!よくも…!よくもぉぉおおああ!!!』
パワードスーツに身を包んだ正義の提督
柴山大佐だった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『村雨!…村雨ぇえええ!!!』
パワードスーツを装着した柴山は倒れ込んだ少女、村雨を抱き上げようとする
彼女は艤装を展開する前に頭に銃弾が撃ち込まれた
村雨の頭の約半分が吹き飛んでいる
故にもう彼女の息はない
柴山の左側に立っていた白露は村雨の有り様を見てゾッとし、すぐに艤装を展開させる
『…てめぇっ!!武ぇえ!なんで殺したんだ!村雨がなにしたってぇんだよぉおお!!』
叫び声にも似た柴山の訴えに武はやれやれといった風に両手をあげて首を振る
「…っそーん。あたっちゃったーん。事故っすよ事故ー…っつーかあんたこそ戦闘モードでやって来て…某達に何するつもりだったでござるかぁ?」
煽り、おどけてはいるが、武も武で内心焦っていた
「(…クソッタレ…この馬鹿のせいで全ての予定が台無しだ…存在がイレギュラー過ぎて草も生えねぇな…)」
今回の作戦
これは間違いなく吉津根中将ないし海軍上層部の関係者達の陰謀だ
そんなことは武にはすぐわかった
全身の大火傷のせいで自分の命はもう長くない
ならば最後に一つ海軍らしく成し遂げてから退こうと作戦参加時には考えていた
吉津根の不正を暴き、将校の座から引きずり下ろす…
だが途中、田中や坂本と出会い、また関わってしまった為に彼の心の奥底にある良心が刺激され、老婆心で彼等の手助けを行っている
「(…この二人は吉津根の不正を知る大事な証人…死なせるわけにゃあいかんよな…)」
武はちらりと夢崎と市川を見る
「(…仕方ねぇ…少し怪我するくらいあいつらも許してくれっだろ…)」
武は声を小さくして夢崎と市川に伝える
「…ここにいたら全員殺される…俺が後ろの窓ガラスに銃弾撃ち込んであの阿呆の注意を引く…そっからお前ら窓から飛び降りろ…んでもって俺の艦、敷島へ行け…あとは俺の部下が上手くやる」
武の指示に夢崎が顔を歪ませる
「…に、逃げるだなんて…私も共に戦いま「そーゆーのいらねぇから。お前らは大事な証人だからな。悪いけど何から何まで丁寧に助けるこたぁできねぇ…とにかく飛び降りてすぐ向かえ。いいな?」
村雨の死体を壁側に寝かし、立ち上がる柴山
『…てめぇら!…なぁにごちゃごちゃ言ってんだ!…全員ぶち殺してやる!』
「奴さんもヤル気満々…じゃあ早速始めるか」
武がそう言うと、夢崎は頷いて市川に肩を貸 し、すぐにでも動ける準備をする
そして武は柴山の方を見たまま銃口を後方、窓ガラスの方へと向け
「二兎を追う者は一兎をも得ず…ってな…お前の目的はおいらだろ?正義マン君」
2発発砲、それと同時に夢崎と市川がヒビの入った窓ガラスに向かって走り出す
『…なんのつもりだぁ!!』
柴山もパワードスーツの右腕に装着された機銃の銃口を向けようとするも、武を狙うか、夢崎達を狙うかで一瞬だけ迷ってしまう
「…白露!お前はあの二人を殺せ!」
「わかった提と…きゃっ!」
白露が言い終わる前に武が白露に向かって発砲
だが艤装を展開している彼女にとっては拳銃の弾は飛沫のようなもの
驚きはするが、全くダメージはなかったが、短期な彼女を怒らせるには十分だった
「…こぉのぉっ!!」
夢崎達を撃とうとしていた艤装の主砲を武に向ける白露
彼女の標的から外れた夢崎と市川は尽かさず窓の外目掛けて飛び込み、二人はそのまま窓ガラスを突き破って階下へと落下していった
「…ひゃははは…こんなことくらいで死ぬんじゃあねぇぞぉ?若ぇの共!」
夢崎達が執務室から脱出できたことを喜ぶように不敵に笑う武
見事誘いに乗せられた白露は顔を赤くして身体を震えさせ
「おっ…おまぇえええっーーー!」
武に向かって砲撃
しかし白露の砲撃と同時に、執務室の天井が崩壊し、再び土埃が目の前に吹き上がる
『…へっ…勝手に撃ってんじゃあねえよ…白露』
硝煙の上がる主砲を武のいるであろう方向に向け、肩で息をする白露に柴山が気取った風な台詞を吐く
「…はぁ…はぁ…はぁ…」
『…村雨の仇は俺が取りたかったんだがな…まぁいいさ…正義の勝「いやー…まいったまいった…」…!?』
死んだと思われたはずの男の声がし、柴山と白露は眼を見開く
先程と同じ様に晴れていく土埃
『…なっ…て、てめぇ…!!』
武の目の前に、彼を守るようにして艤装を展開し身構えるは綾波型の少女
武の秘書艦、狭霧だった
見れば白露の砲撃をその身体で受け止めたようだ。制服が所々破れている
「…まだ生きていてくれたんですね。提督」
狭霧は柴山達から目を離すことなく後ろに立つ自分の提督へ声をかける
「…ああ。お前さんのお陰であとちょっとで圧死するところだったけどな…天井から登場たぁ粋だねぇ。狭霧ちゃんよぉ」
「…お褒めに預かり光栄です。提督」
『…てめぇ…!武ぇええ!きったねぇ!きたねぇぞ!仲間なんて呼びやがって!この悪党がぁっ!』
だん、だん、と地団駄を踏む柴山
武は肩でため息を吐く
「…YOUはそれしか言えないでごじゃるか?…それよりさぁ…聞きたいことアンデスケドー」
『ぁあっ!?悪党と話すことなんざねぇよ!…なんだよ!言えよはや「会議室にわたちの影武者いたっしょ?そいつ生きてまちゅよね?」
柴山、沈黙
誰のことだよ、といった風に白露に視線を向ける柴山
白露は主砲を武達に向けたまま
「…あ、えっとほら…あの…会議室で提督が殺した…」
白露がそこまで言って『あーあー』と思い出す柴山
『あの悪党なら俺「もういい」
柴山の言葉を遮る武
白露の説明で例の影武者がどうなったか、武は理解したようだ
武の雰囲気が変わる
否、変わったように白露は感じる
静かな怒りが武から溢れ出てくるように
「…提督…」
心配そうに武の名を呟く狭霧
しかし武は彼女に答えることなく拳銃を持っていない手で、器用に自分の頭に巻かれた包帯をほどき始める
「……蘭丸には"バレたら命乞いして逃げろ。そうすりゃあ殺されはしねぇだろ"っつって伝えたんだがな…そうか。殺したのか…」
静かにそう話し始める武の雰囲気を感じ、柴山はへっ、と笑う
『悪党の命乞いを聞くはずねぇだろうが!…奴は俺の正義の鉄拳で嬲り殺した!…はははっ!…奴が文字どおりひき肉になった瞬間は感最高だったぜ!』
顔の包帯を全て取り、外した包帯を執務室の床に捨てる
武の素顔は肌色が一ヶ所もなく、皮や髪の毛が焼けたケロイド状…まさにゾンビやグールのような姿だった
「…ああ、そう…ひき肉に……なるほどなぁ…」
武の素顔を見た柴山は、探偵が犯人を暴く時のように彼に向けてびしりと指を指す
『……おおっ!…化け物…化け物っ!…ばーけーもーの!!…ははは!!なーんだよ…やっぱ俺が思った通りだ…!お前は完璧な悪役だ!…まさに…まさにまさにまさに俺の好敵手に相応しいぜっ!』
拳を握り、テンションの上がる柴山に対して武は落ち着き、首を左右に伸ばしてこきこきと音を鳴らす
「…なぁ狭霧…今こそ逃げ出す最後のチャンスな訳だけど?」
武に問われた狭霧は後ろに立つ武の方にちらりと顔を向けてにこりと笑う
「…地獄の底まで御一緒致します…武提督」
狭霧からの返答を聞いて武はにやりと笑い、ため息混じりに呟く
「…嗚呼…ほんっと良い女だなぁ…流石のぼくちゃんも胸が高まるぞい…」
戦闘時とは思えない暢気な口調に柴山は目に見えてイラついている
『…よぉ…もうお喋りは終わったのか…?一瞬で消し炭にしてやるぜ!』
「ち、ちょっと提督!火炎放射はまずいって!」
『なぁーに…どうせいつも通りに「いつも通りに''なかったこと''にすればいいってか?」
「「!?」」
目を見開いた白露と、柴山が武に視線を向ける
「な…なん…で…」
武の言葉に一番驚いたのは柴山の隣で構える白露だった
目を見開いたまま指を震えさせる
彼女の反応と同じ様に柴山も言葉をつまらせている
『…はっ!?…意味…わかんねぇよ!…なに言ってんだこら!!』
柴山が吼え、武は再び怪しく笑う
「…ぼくちゃんはな…喧嘩する相手のことは徹底的に…それこそしりの毛一本まで調べ尽くしてから喧嘩する主義だ。敵を調べて弱点、弱み…誰と会ったか。その日までに1週間食べた食事から便所にいった回数まで調べあげる…勝つために、な…」
武の説明に狭霧がくすりと笑う
「…ふふ。ストーカーみたいですね」
「…柴山…お前さんのことも調べたよ…いや、調べようとした…」
パワードスーツのせいで顔は見えないが、柴山が戸惑っているのを空気で感じる武と狭霧
『…』
「"情報"っつーのはなかなかに顕著でな…どんなに武勲を挙げた立派な将校や士官だって必ず1つの汚点や弱味、後ろめたいことが見つかるもんだ…だが柴山大佐…不思議なことにどの新聞も、どの基地の作戦報告書にもあんたにゃあ武功の情報だけしかなかった…汚職も賄賂を渡した証拠もなーんもない…」
武の推理を聞き、白露が一歩踏み出す
「…せ、正義のヒーローな提督なんだから汚職の記事なんてあるわけないじゃん!いい加減にしてよ!」
白露の怒鳴り声にも武は怯まない
「…ひゃははは…そう。出来すぎる程に全くの汚点が見つからなかった…それを切っ掛けに俺ァある噂を思い出した…古い古い噂だ」
バツの悪そうな顔をする白露
「"佐世保の時雨"」
その単語を聞き、パワードスーツの指をぴくりと動かす柴山
狭霧は白露と柴山の動きを見逃すことなく構えている
「…前任提督時代から籍をおく佐世保鎮守府の武勲艦…佐世保の提督なら当然知らねぇわけねぇよなぁ?…噂っつぅのはその武勲艦の事さ」
『…』
武は拳銃を構えたままもう片方の手で自分の頭に人差し指を押し付ける
「…荒唐無稽、妄想話のような夢物語のオカルトで眉唾な御伽噺だが…」
「どうやら佐世保には''言ったことを実現させる艦娘''がいるって噂だ」
ぶわっと白露の額から脂汗が滲み出る
白露の反応を真横で見た柴山はすぐに武に左手の火炎放射器を構える
「…その反応じゃあ…噂は真実だったか…」
火炎放射器を向けられた武は焦る様子もなく地の底のような冷たい声を出す
柴山が放射しようとした瞬間、艤装展開していた狭霧が柴山の火炎放射器を掴み、柴山の手から引き抜く
『…っ!てめっ!』
「させません!」
無理矢理火炎放射器を取られると、柴山のパワードスーツ後部のガスタンクに繋げられたガスチューブも一気に引きちぎられる
反応の遅れた白露が狭霧に攻撃しようと主砲を向けるも、狭霧の初動の方が早く、狭霧は片手に奪い取った火炎放射器を持ったまま、もう片方の手で持つ主砲を白露の頭へ向ける
火炎放射器を取られた柴山
狭霧に主砲を向けられ、動けない白露
武は口許をつり上げる
「ひひひひ…ひゃははは…チェックメイトならず、だな」
『…てめぇ!油断させやがって…!なにするつもり「あーなるほどなるほど…そんなチート能力があれば、たとえどんなに悪いことしてもなかったことにも出来るわけだ…くくく」
「何かを盗もうとも、人を殺そうとも…全て正義のために、だなんて言いながら事実をねじ曲げているわけだ」
武は目付きを鋭くさせキッと柴山を睨み、改めて拳銃を柴山に向ける
「…テメェの身勝手で矮小な正義のためなら、どれだけの命を奪っても構わない、と?…そぉんな考えを持ってる奴こそがよぉっ…」
『…くっ…』
柴山、強く拳を握る
「…悪、なんじゃあねぇのか?ええ?おい」
『…だぁぁああまぁれぇええええ!!!』
武の言葉を聞き、パワードスーツのゴツイ両手を広げて武に襲い掛かる柴山
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
武と柴山が対峙する数分前
会議室
けたたましく鳴り響く非常ベルを聞き、作戦司令官吉津根は席から立ち上がる
「非常事態ですよぉー!!総員!すぐに訓練通りに避難経路を辿り外へ避難しましょう!!」
声を大きくし、そう指示する吉津根
河野と小高、そして会議室に設置された装置やパソコンなどの機器を操作する士官達も驚いた顔で吉津根を見ている
「何をしているんですか!…非常ベルが鳴った際には避難をする!これは規則ですよ!?従いなさい!」
若干イラついている吉津根の元へ近づいてきたのは河野だった
「…あ、いや…へへ。吉津根先生…これは恐らく何らかの誤作動かと思われます。すぐに我が兵を各階に「ぅぉおだまりなさい!規則は絶対ですよ!?火事に巻き込まれてしまっては元も子もありません!すぐに避難をしなさい!」
そう強く言い、吉津根は河野や小高、その他大勢の士官達へ手を叩きながら捲し立てる
「ほらほらほらほら!!押さない駆けない喋らない!お・か・しを忘れずに!迅速に避難しますよ!先頭は私です!黒田少佐!貴女は後方につきなさい!」
吉津根にそう命令された黒髪の女性提督はぎょっと驚く
「こっ…ふ、ふぇえっ!…わ、私が…ですかぁ…?」
わたわたする黒田を他所に、吉津根は士官達を会議室中央に並ばせる
「ほらほらほらほら!もう火の手は近いですよぉ!?二列縦隊!二列縦ぅぅうう隊いぃ!ほら!行きますよ!」
上着のポケットに手を入れて会議室の壁に寄りかかり、その様子を見てた淡路基地、河野少佐の秘書艦鈴谷も苦笑い
「…は?マジ…?ねぇー提督。これ絶対罠だと思うんだけどー?」
鈴谷は面倒くさそうに河野に近づきながらぼやくと、河野も咳払い
「…わかっている…くそっ…吉津根先生にどう言ったところで変わらん…仕方ない。ここから出るぞ」
ぼやきながらも吉津根を止める様子も見えない提督に、鈴谷は内心ため息
「(メンド…せっかくこれから面白そうだだっつーのに…)」
「さぁー!皆さん逃げますよぉー!?テンポよく迅速にぃー!!」
キビキビと動く吉津根を筆頭に、列をつくって並んだ士官達は会議室から出ていく
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
吉津根達が退避した数分後、会議室の扉が静かに、ゆっくりと開かれる
「…マジで誰も…いねぇ…」
扉の隙間から会議室の様子を見た田中が呟く
「…みたいですね…まさか本当に避難するとは…いや、むしろ田中くんもよくあの土壇場で思い付きますね…」
「…ああいう奴ってめちゃくちゃな割に変なところで規則正しくしたがるからな…まぁいいや。今のうちだ!」
扉を開き会議室に入る二人
見渡せば設置された各パソコンの電源はついたまま、先程の会議のままの長テーブルには飲みかけのコーヒーカップも置かれている
「…くそ…パソコン多すぎだろ…どれが制御装置だ?」
がちゃがちゃと持ち主のいなくなったパソコン画面を見てはこれは違う、これも違うと顔をしかめる田中
「…早く見つけなきゃならねぇっつー「…あの…」うぉおっほぉおっ!!?」
目的のものを探している途中、突如声をかけられ驚き跳び跳ねる田中
声をかけた主は土佐海軍工廠基地女提督、黒田少佐だった
黒田は落ち着いた様子で秘書艦イタリアと椅子に座り紅茶を飲んでいる
「…い、いつからそこに…?」
「え…最初からですけど…」
坂本からの質問に、さも当たり前のように答える黒田
黒田の横に座るイタリアも小さく頷く
「…私達、存在感うすいみたいですね」
田中と坂本は緊張する
この女提督も吉津根の仲間ならば他の兵士も呼ばれては困る。しかし下手に手を出そうものなら彼女の秘書艦に返り討ちにあう…
「…あんた…俺らを待ち伏せしてたのか?」
田中が問うと、黒田ははぇ?、と目を丸くする
「…え、あの…皆さん避難してしまいまして…え、えへへ…流石に作戦本部に誰もいないのはまずいかと思って…あ、あはは…」
「なら、俺達を捕まえんのか?」
田中が睨むと、黒田はふるふると首を横に振る
「…ひっ…いえ…あのぅ…私は特になにもするつもりはありませんが…」
黒田の答えに田中と坂本は目を合わせる
「…僕たちは播磨の艦娘達の出撃を止めようと思ってここまで来たわけですが…それはあなた方にとっては都合が悪いのでは?」
「…え…いえ…えーと…」
黒田はイタリアと顔を合わせ、少し困ったような表情になる
そして黒田の代わりに姿勢を正し座っていたイタリアが立ち上がり、答える
「今回の迎撃作戦には参加していますが、吉津根中将達の思惑に手を貸した覚えはありません。今も提督が説明されたように、作戦本部に人がいなくなってはいけないのでここにいるだけですから」
「…詮索する時間がねえ…敵でないなら教えてくれ。人工艤装の制御装置…コントロールできるパソコンはどれだ?」
田中がそう問うと、会議室のデスクの上に設置されたパソコンを見渡す黒田
「…え、あ、いや…どれがどれとは…あはは…」
「…恐らくあれかと…吉津根中将はこの部屋ではあのパソコンしか使用していませんでしたから」
なにも知らない黒田は苦笑いし、イタリアがひとつのパソコンを指差す
それは会議室中央にあるデスクに置かれたパソコン
坂本はすぐにそのパソコンデスクに着く
「…わかるのか?坂本」
「…いえ…まだなんとも…」
坂本の操作するパソコン
彼の背後からモニターを田中が見つめている
「…文字だらけで…マトリックスみたいだな…」
「プログラミング言語ですね。コンピュータプログラムを動かすための…まあ…信号や記号のようなものです」
「…わかんのか?」
「…少しなら…」
カタカタとキーボードを鳴らしながら操作する坂本
田中はその操作されているモニターを見て目を細めている
「…全然わっかんねぇ…これがなん
田中が問おうとした時、会議室とは違う場所から銃声がいくつも聞こえた
緊張する田中と坂本
黒田も震えながらイタリアの陰に隠れている
「…なんだ…?…銃声…?」
「…見に行っている時間は無さそうですよ」
坂本の操作するパソコンの横に置かれたとある装置に田中は注目
インカムのようなものと、卓上スタンドにのせられたマイク…
「…こいつぁ…まさか…」
それは海上にいる少女達と会話することができる無線機器だった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
同時刻 海上
土佐沖の海上を約40名の播磨鎮守府の少女達が泣きながら、また苦痛の表情をしながら進む
「…と、止まらない…誰か…」
「…う、うう…どうしよう…」
脚に装着された人工艤装は外れず、進路を変えることもできずに無情にも前へ前へと航行する
「…く…」
混乱しつつある皆の気持ちをなんとか落ち着かせようと思う赤城でさえも、今の自分の状況、そして吉津根の言葉の後で皆にどう言葉を掛ければいいかわからず、苦渋の表情で唇を噛む
「(…どうしよう…どうすれば…なんとかしなければ…でも私なんかが何をできるというの…)」
大切な者を護るために彼女達は決意した
僅かな希望を信じ海に出た
戦える方法があるならばと海に出た
しかしそれは、その想い、気持ちは一人の将校の言葉で打ち砕かれた
不安定となった皆の心
このままではたったひとつの軋みで全てが決壊…完全に崩壊する
戦う術がなくなった彼女達
ただでさえ戦闘に出たことのない少女達に今の状況はあまりにも理不尽
金剛でさえ両ひじを抱え、震えている
「…夢崎中尉…」
扶桑も両手を自身の胸に当て、目を強くつぶり遠く離れていく夢崎の名を呟く
そんな少女の中の一人、神風は他の少女達よりも、より焦燥した表情でぶつぶつと何かを呟いている
「…嘘…嘘嘘嘘…なんで…どうして出せないの…?」
神風の着る袴の首もとは湿っている
それは海水の飛沫ではない
彼女の顔を大量に濡らしている脂汗だった
播磨の少女の中では唯一艤装の展開できる神風
だがその事は本人以外知るものはいない
「…か、神風ちゃん…」
神風の左側を航行する鈴谷が心配そうに彼女を見つめる
神風の右側を航行する霰も同じ様に神風を見ている
「…」
鈴谷と霰の視線に気づいているのか気づいていないのか…
神風は強く目をつぶる
「(なんで…出てよ!出て出て出て!出ろ出ろ…出ろっ!!)」
今作戦…もはや作戦とも呼べないものではあるが、今回の事に参加することになって神風はもしもの時は自分が艤装を展開して皆を助けると考えていた
だからこそ原因不明で、理解不能で艤装が出せない今の状況で頭の中が真っ白になり、気が動転してしまっているのだ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少女達の不安を気にすることなく海は穏やかで、太陽は空高く燦々と輝いている
少女達の中から誰かの鳴き声が聞こえてくる
鼻をすする音、嗚咽する声が聞こえてくる
ただ死地に、ただただ命を散らしに行くだけの存在となった少女達は絶望し、言葉すら発することは出来なくなっていた
少女の一人、朧も今回ばかりは自身の死を悟り、胸元で手を握り体を震わせる
視線を足元へ落とし、脚につけられた人工艤装の航行進路を無理矢理変えようとするが、"ほぼ"人間の少女の力しかない朧には艤装の進路を変えられなかった
スケートシューズやローラーブレードのように自由に自分で向きを変えられそうだが、実際は艤装内部に取り付けられているコンピュータが既に目的航路に設定されており、航路を変えたくても人間の力程度の彼女らには不可能だった
その上脚に装着した艤装は足首よりも上まで入るハイカットシューズタイプのような形状のもので足首にしっかりとベルトで固定されている
故にこの艤装を外すには専門の人間か、自分で足首を切り落とすしかない
「…先生……くっ…」
朧は強く眼を瞑る
情けないとは思う
だがやはり願ってしまうのは、考えてしまうのは自分にとってのヒーローの存在
もうここまできたら助けて貰えないとわかっていても、彼等を…彼を想ってしまう
潮風が朧の頬を撫でる
朧は強く閉じていた眼をゆっくりと開ける
不思議なもので、いつの間にか遠くなっていたような気さえもしていたのだった
「…ふふ。なんだろう……今先生の声がしたような気が…」
『……いっ!おい!聞こえるか!?』
突然の無線に海を進む一同は驚き、顔を上げる
この声
全員に聞き覚えがある
むしろこれまで毎日聞いていた、聞き慣れた声
聞き間違えるはずもない男性らしい低めの、だが優しさすら感じる耳心地の良い声
気づけば朧は涙をボロボロと流していた
朧だけではない
金剛や鈴谷達も安堵の表情で驚きつつ、喜んでいる
「先生っ!!先生ー!!」
思わず誰かが叫ぶ
それは彼の安否を確認するかのように
『…悪い…遅くなった…!皆無事か!?今どんな状況だ!?』
『…た、田中君…どうぞ、って言わないと…』
『あ、そうか!どうぞ!』
無線の向こうから聞こえてくる田中と坂本のいつものやりとりに、赤城は涙目になりながらもくすりと笑う
「…お二人もご無事のようでなによりです…今のところ、全員無事です…ただ、どの辺りを航行中かはわかりかねます…どうぞ」
田中達を心配させないように、凛とした喋り方でインカム越しに返す赤城
『おお!赤城か!またしゃべれて嬉しいぜ!……って、わかりかねます?…人工艤装にコンパスとかは付いてないのか?…どうぞ』
田中の返答を聞いて、何人かの少女達は疑問に思う
田中は自分達が背負っている人工艤装…もとい、なんの役にも立たない鉄クズの事を何も知らないのだろうか、と
「…いえ、あの…既にご存知かもしれませんが…私達が背負ったこの艤装に艦としてのちからはありません…海を航行することだけは出来るようですが、主砲や魚雷もないので戦うことや、舵もないので航路を変えること…そしてコンパスもないので自分の現在位置なんかもわかりません…どうぞ」
現在自分達が装着している人工艤装の説明を端的に話終える赤城
『…じゃあなんだってお前らを海に…』
そこまで言って田中も吉津根の狙いを理解したのか、返答が止まる
『…』
『…田中君。キレたくなる気持ちはわかりますが、今は時間を無駄にしている暇はありませんよ』
よくよく耳をすますと、坂本が田中をフォローする声が聞こえる
そのやりとりを聞いているだけで、田中が吉津根に対して怒りに震えている姿が少女達には容易に想像できた
『……悪い…ああ、そうだな……とにかく、お前らの艤装をなんとかして止める。もう少しだけ待っててくれ…どうぞ』
無線越しに聞こえる田中の言葉
それは一種の救いの言葉だったのかもしれない
少女達に希望の光が見えはじめ、赤城も頷く
「…はい。信じ『……!!!?いっ…!てめっ!…んだごらぁっ!!』
田中達に何かあったのか、そこでぶつりと無線が切れてしまった
「…ど、どうしたんですか!?田中先生!」
赤城が叫ぶが何の反応もない
「…田中先「なに…あれ…」
誰かの呟きがインカム越しに皆に伝わる
先頭を航行する長良の声だった
少女達は航路の先に注目
あまりにも遠すぎてよく見えないが、水平線をバックに人影のようなものが3つ、うっすらと見える
金剛も眼を細めてよく見ようとするが、やはり小さい目標は見えずらいようで瞼を擦る
「…あ…れ……は……」
遠くに見える人影のようなものがぱっと一瞬光を放ったように見える
「…光った…?」
愛宕が呟くと同時に何かが空気を切るような、きぃん、という音がし
大きな破裂音と共に長良のいた場所で爆発が起き、火柱が上がった
「長良さん!!」
赤城が叫ぶも既に彼女の身体はなく、無情にも長良が履いていた靴型の片方の艤装だけが黒煙を吐きながら航行している
長良の惨状を目の前で見た少女達から悲鳴があがる
「きゃぁああああ!!嫌だ!嫌だー!」
「先生ぇええ!!いやぁああ!!」
「助けてっ!助けてぇえっ!!」
錯乱し、混乱するも脚は固定され逃げることも出来ない
そして少女達は見た
正面から自分達へ向かって飛んでくる数えきれない程の砲弾や機銃の弾を…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
同時刻 播磨鎮守府 会議室
会議室に置かれたパソコンのモニター、本体、折り畳みテーブルにパイプ椅子が散乱している
土埃等が部屋中を舞い、どこからか焦げる臭いすらする
「…坂本!…大丈夫か!?」
無線機を左手に持ったまま床に倒れた田中が、隣に同じ様に倒れる坂本の名を呼ぶ
田中達から離れた場所にいた黒田はひーひー言いながらイタリアの背後に隠れている
「…う、な、なんとか!…いったい何が…!」
「あはははは…なーんだ。戻ってきて正解じゃーん」
少女の楽しそうな声が聞こえた
会議室に充満する土埃が晴れていく
「…おいおいおいおい…マジかよクソッタレ…」
少女の姿を見た田中が呆れるように、諦めるように笑うと、顔を上げた坂本も苦笑い
「…ええ。ここまできて…まだエンディングじゃあないんですね…」
破壊された会議室の扉から入ってきたのは艤装を展開させた艦娘
淡路基地、河野少佐の秘書艦、鈴谷だった
「…あ、やっべ…砲撃しちゃ駄目なんだっけ。まぁ、いっか♪」
思い出したかのように笑う鈴谷は、田中と坂本を小馬鹿にするように見下ろす
「…せーっかく楽しなってきたっつーんやからさっ……邪魔ァすんほななぇよ粗チン共がヨォ!!」
淡路基地の鈴谷が啖呵を切っている時の顔は、それはそれは般若のような恐ろしい表情だった
はい
お疲れ様でした
約2ヶ月、全く投稿できなかったことを謝罪します…
播磨編のお話も見て貰った通り、もう終わりに近づいて…というかもう既にフィナーレに入っているので、次のお話で…
あ、いや、止めます…
次回をお楽しみに
はい