「もうすぐ始まりますね……」
クリスマスプレゼントのマフラーを首に巻いたマーガレットはグリフィンドール対ハッフルパフの試合が始まるのを今か今かと待っていた。彼女の膝にのるネモも色違いのマフラーを巻いている。
「今日をずっと楽しみにしていました。やっと最年少シーカーの活躍をこの目に焼きつけることができます」
そう語るマーガレットの青い瞳はきらきらと輝いていた。
——彼女は本当に変わらない。
隣に座るマーガレットの表情を横目で見ながら、クィレルはそんなことを思う。
一年間の壮絶な旅を終えたクィレルに対する人々の態度というのはまちまちであった。ある者は彼と距離を取るようになり、ある者は彼を軽んじるようになり、極々一部の者は彼を不審の目で見るようになった。
だが、マーガレットだけは違った。彼らがまだ教師と教え子の関係であった時のように、彼女はいつもクィレルのことを先生と慕い、憧憬のまなざしで見つめる。それが彼にとっては嬉しかった。
だが、それは同時にクィレルを苦しめるものでもあった。変わらないマーガレットの存在は自分があまりにも変わってしまったことを否応なしに自覚させる。
クィレルは自分の
ご主人様の命を受け、グリンゴッツに忍び込んだ。城にトロールを招き入れ、まだホグワーツに来て日の浅い生徒たちとかつての一番の教え子の命を危険に晒した。そして、「生き残った男の子」を殺そうとした。
自分はもうホグワーツの教師ではなく、ホグワーツの敵となったのだ。
今の変わり果てた自分がマーガレットの憧れであり続けようなど、おこがましいことはわかっている。でも、彼女にだけは自分の愚かな部分を見られたくない。
だから、ご主人様に言われるがままハリー・ポッターを殺そうとしていたあのクィディッチの試合の日も、彼女がなにか見てしまわないように眠り薬を盛ったのだ。
「先生?」
マーガレットに軽く肩をつつかれ、ようやく彼女が自分に話しかけていたことに気がついた。
「は、は、はい。ど、どうかしましたか?」
「大丈夫ですか? 先生、最近はお疲れの様子といいますか、なんだか難しそうな顔をしていらっしゃることが多いですから」
「す、す、少し考え事をしていました。さ、最近は考えねばならないことがお、多くて……」
「そうでしたか」
マーガレットは心配そうな顔をしていたが、ポケットからチョコレートの包みを取り出すとにっと笑う。
「先生、よければどうぞ。考え事をするときに甘いものはぴったりですから」
「あ、ありがとう」
魔法薬の入っていないビターなダークチョコレートを口の中で転がしながら、クィレルはふと思い出す。そういえば、一つ知りたいことがあった。
「か、考え事の一つといいますか……。ミス・マノック、君に聞きたいことがありました」
「はい、なんでしょうか?」
「一年の旅を終え、ホグワーツに戻ってきたら君に聞こうと思っていました。もっとも、今更聞かなくともわかりきったことではありますが」
一瞬、ご主人様に教えられた開心術でも使ってみようかとクィレルは考えた。だが、感情がすぐ顔に出る彼女相手にはその必要もない。
「……そう緊張しなくとも。ただ、私がここにいない間、君がなにを思って教授の仕事をしていたのかが知りたいだけですよ」
マーガレットがクィレルの身になにがあったのかという真実を知らないのと同じように、クィレルもマーガレットがあの一年をどのように過ごしていたのかを知らない。だから、教師という自らと同じ立場となり、彼女がなにを思ったのかを知りたかった。
「その、人に教えることはこんなに楽しいことだったのかと思いました。それこそ、わたしは人に教えてもらってばかりでしたから」
「……き、君らしいですね。で、ですが、大変だと思ったことは? 辞めたいと思ったことは?」
本当はマーガレットが弱音の一つや二つを吐くことを期待していたのかもしれない。そうすれば、まだ彼女に教えられることはあるのだと、まだ自分は追い越されていないのだと安心できたから。
「辞めたいとは絶対に思いませんでした。もちろん大変なこともありましたけど、それ以上にこのホグワーツに残れることが嬉しくて……。それに——」
その時、試合の開始を告げるホイッスルが鳴った。観客たちはわっと歓声を上げ、クィレルのすぐ隣にいるはずのマーガレットの声をもかき消す。
「それに、こうして先生のもとでまだたくさんのことを学ばせていただけることが、わたしにとってなによりも重要なんです。だって、先生はわたしの——わたしの憧れですから」
「……あなたの怪しげなまやかしについて聞かせていただきましょうか」
「で、でも私は、な、なにも……」
「いいでしょう」
グリフィンドールの勝利を祝うかのようにホグワーツ城が赤い夕日に照らされていた頃、薄暗い森の中には二人の男と彼らの様子を木の上から見下ろしている者
「それでは、近々、またお話をすることになりますな。もう一度よく考えて、どちらに忠誠を尽くすか決めておいていただきましょう」
魔法薬学教授はマントを頭からすっぽりとかぶって来た道を戻る。一部始終を目撃した緑色の瞳の少年は誰にも見つかることなくその場から立ち去った。
あとに残されたのはある一点を見つめ、石のように立ち尽くす防衛術の教授と——。
「……ネモ?」
突如、彼の目の前に舞い降りた青い目の鴉だけだった。
「どうしてここに?」
鴉はじっとクィレルのことを見上げている。首に巻かれた白いマフラーが、この
「ミス・マノックは? 君がいないと心配するでしょう?」
ネモは——当たり前だが——なにも答えない。
だが、その代わりにある者が口を開いた。
「聞け、クィリナス」
「ご、ご、ご主人様。……い、いかがなさいましたか?」
「この鴉。貴様をつけてきたのではないか?」
いくら鴉が賢い生き物とはいえ、それはないだろう。わずかに首を傾けているネモを見ながら、クィレルはそんなことを思う。
「貴様がホグワーツにトロールを招き入れた時もそうだ。ずっとあとをつけてきて、貴様が三頭犬を相手に苦戦している姿も見ていたではないか」
「た、たしかにそうでしたが、あれはミス・マノックが『わたしの代わりに』と……」
「『わたしの代わりに』貴様を見張れとでも命じていたのだろう」
「まさか!」
クィレルが悲鳴にも似た声を上げた。まさかそんなはずはない。縋るような思いで青い目の鴉を見る。
けれど、ネモはなにかを感じ取ったのか、クィレルを置いて空高く飛び立った。
「……逃げたか。クィレル、あの女にも用心しろ。貴様はずいぶんと信用しているようだが、あれにはなにか裏がある」
「そ、そんなこと……」
クィレルはマーガレットの顔を思い浮かべる。きらきらと輝く青い瞳、コロコロと変わる表情。それらは彼女がまだ少女であった頃となにも変わらないはずだ。
「貴様はあの女のことを変わらないと思っているようだが、本当にそうか? 誰も彼もが貴様への態度を変えるなかで、どうしてあれだけが昔のままだといえる? 貴様のことを探るため、嘘をついているとは思わないのか?」
「彼女は、ミス・マノックは私のことを——」
「開心術も使っていないのに、よくもそこまで信じられるものだ。あぁ、そうか。貴様はまだ自分はあの女に慕われていると思い込んでいるのか。だが、あれも貴様と同じ
忘れかけていた焦燥の念が再び動き出す。マーガレットがいずれ自分を
「あんなのが教授とはホグワーツも落ちたものだな……。クィレル、くれぐれもあの女に出し抜かれるな。貴様もあれには負けたくないだろう?」
「……はい」
ヴォルデモートの言葉はクィレルにとって猛毒であった。毒が全身を回るかのように、不安が頭の中を駆け巡り、恐怖が彼の心を蝕む。
いつの間にか、西の空にあったはずの太陽は沈んでいる。夜の闇がすぐそこまで迫っていた。
——そして、それから数ヶ月ほど経った夏の夜に事は起きた。
その夜、クィレルはヴォルデモートに命じられるまま禁じられた森にいた。彼の目線の先では足に深い傷を負ったユニコーンがもがき苦しんでいる。
今夜、クィレルに下された命はユニコーンの血を捧げろというものだった。ユニコーンの血は口にした者の命を長らえさせる。しかし、その血が唇についた瞬間からその者は呪われた命を生きるということもクィレルは知っていた。
だが、ずいぶんと長く憑りつかれていたせいで、クィレルにはヴォルデモートに抵抗するだけの気力も体力も残されていない。自分がヴォルデモートを生かしているのか、それとも自分が生かされているのか。それはもう、彼自身にもわからない。
「クィレル、とどめを刺せ。その血を早く——待て。誰か来る」
咄嗟にクィレルは身を隠した。息を殺し、大きな樫の木の影から様子をうかがう。誰かの姿はまだ見えないが、落ち葉を踏みしめる足音は徐々に徐々に近づいていた。
禁じられた森に、それもこんな真夜中に目的もなくやってくるなどまず考えられない。現にクィレルだって、ヴォルデモートの命があったからここにいた。では、この足音の主はいったいなんのために真夜中の森にいるのか?
暗闇に目をこらすが姿は見えない。だが、足音はたしかに近づいてきている。ならば、自分はつけられていたのか。そうクィレルが考えるのは自然なことだった。
ハグリッド、スネイプ、そして——ダンブルドア。自分に疑いの目を向けているであろう人間の顔は、ただ一人をのぞいていくらでも思い浮かぶ。だから、誰が来たとしても今更驚くようなことはない。クィレルはそう思っていた。
だが、月明かりに照らされてその姿を現したのは青い目の鴉だった。
ネモは手負いのユニコーンのことを凝然として見る。そして、その光景をクィレルは呆然と見つめていた。
どうしてあの鴉がここにいるのだと疑問が渦巻く。だが、考えれば考えるほど、これは偶然などではないという思いが強くなった。
思い返せばハロンウィーンの夜、ネモはクィレルから片時も離れなかった。禁じられた森でのスネイプとの密談もネモは盗み聞いていた。
それだけではない。食事の席でやけに隣からの視線を感じることもあれば、夜の見回りを終えると私室の前で待ち伏せされていることもあった。
「ここでなにをしている?」
逃さないよう背後から近づき、鴉に杖を突きつける。クィレルの存在に気づき、ネモはゆっくりと顔を向けた。
「君はいったい……。なんのつもりなんだ」
鴉はなにも答えない。
ただ、クィレルのことをじっと責めるような目つきで見ていた。
「その目……」
自分を見つめる鴉の青い目が、かつて自分のことを見上げていた少女の青い瞳と重なる。
「……マノック」
海のように深く、空のように澄んだ青色をクィレルは直視することができなかった。目の前にいるのは
クィレルにそう錯覚させるほど、ネモの目は飼い主とよく似ていた。
「君も私のことをそんな目で見るのか」
冷たい視線がクィレルに突き刺さる。この青い目をこれ以上は見たくない。そして、この青い瞳に見られたくない。
だからだろうか——。
「——
彼の知るなかでもっとも恐ろしい呪文を口にしかけていた。
自分がしでかしかけたことへのおぞましさで我に返れば、ネモの姿はどこにもない。咄嗟に辺りを見回すが、
とはいえ、
だが、ゆらゆらと近づいてくる光をクィレルは見つけた。一羽が去り、一人が残され、そして
まだ姿は見えないが、クィレルはそれが誰であるのかもう確信していた。今度はただ一人の顔だけが彼の頭に思い浮かんでいたのだ。
「……マノック。あぁ、そうか。三頭犬に比べれば、私一人など大したことないと」
思い出すのは数か月前のこと。青い目の鴉に導かれた先でクィレルが目にしたのは、禁じられた廊下にいたかつての教え子の姿。ハロウィーンの夜のように、彼女が自分の助けを必要としているのだと彼は思った。
だが、その期待は裏切られた。
防衛術教授が、そして魔法薬学教授ですら歯が立たなかった三頭犬から無傷で逃げおおせた現マグル学教授。ペットパーティーの会場に帰ってきた彼女が種明かしとして口にしたのは
そんな有名なエピソードを前マグル学教授のクィレルが知らないはずもない。
どうして早く気づけなかったのか。そして、どうしてよりにもよってマグル学の知識でマーガレットに先んじられたのか。
「たしかにあの時は出し抜かれたが、私には
杖を握る手に自然と力がこもる。クィレルは思った。あの魔女よりも自分こそが強い魔法使いなのだと、優れた魔法使いなのだと証明できるのは今夜なのではないか。
偶然か必然か、こうして舞台は整えられたのだった。
禁じられた森での一件はおおむねクィレルが思い描いたとおりに事が進んだ。
かつての恩師を前にしてマーガレットは手も足もでなかった。その間の彼女にできたことといったら、怯えた目でクィレルを見上げることくらい。
クィレルとマーガレット、二人の力の差は歴然としていた。
だが、その一方でクィレルの予想とは違うこともあった。
近頃のネモの行動はすべて飼い主たるマーガレットの指示によるものだとばかり思っていたが、どうやらそうではないようだ。
クィレルがのぞき見たマーガレットの記憶からわかったことといえば、彼女があの森を訪れたのは本当にペットを探していたことということ。それにどれだけ記憶を遡ったとしても、マーガレットがクィレルのことを疑っている様子はなかった。
しかし、マーガレットがなんの命令もしていないとすると、ネモは自らの意思でクィレルを見張るような動きをしていたことになる。
だが、そんな都合の良いことはあるのか? 相手はたかが鴉ではないか。
だからこそ、クィレルはもう一度確かめなければならないと思った。
ネモがあの森にいたのはただの偶然だったのか。それとも、マーガレットがまだなにか隠しているか。
彼女が医務室にいる間はダンブルドアの目もあって近づけなかったが、今ならばじっくりと問いただすこともできる。そう考え、クィレルはマグル学教室の扉を叩いた。
「開いています。その、どうぞお入りください」
二度目のいささか乱暴なノックのあと、部屋の主は声を裏返らせてそう答えた。
「は、は、入りますよ」
クィレルは静かに扉を開ける。西日の差し込む教室の中には一人と一羽が立っていた。
「き、き、君が倒れたと聞いたときはお、驚きました。た、体調はいかがですか? ま、まだ顔色がよくないようですね。それに、そんなに震えて……。ミス・マノック、どうかしましたか?」
クィレルが姿を現したことに対し、マーガレットはあきらかに動揺している。彼女の怯えた瞳を見て、クィレルは手にしていた杖を握り直した。
「君はあの夜のことをなにも憶えていないと聞きましたが……。もしかして、なにか思い出しましたか?」
あの夜のことをマーガレット・マノックは憶えている——。
彼女の体が一際大きく震えたのを見て、クィレルはそう確信した。
忘却術の理論は完璧に覚えていたはずだったが、使うのは初めてのことだったからうまくいかなかったのだろうか。それとも、ダンブルドアになにか吹き込まれたのだろうか。
が、その理由がどうであれ、マーガレットに記憶があることはクィレルにとって好ましくなかった。
「ガアガア」とうるさい鴉の声は無視し、クィレルはマーガレットとの距離を詰める。
「ミス・マノック、正直に教えてくれませんか。あの夜、なにがあったのか憶えているのでしょう?」
もう一度記憶を消すべきか。それとも、今度はもっともっと長い眠りにつかせ、自分がこの城を去るまで目覚めないようにするべきか。
そのどちらにせよ、マーガレットが相手ならそう難しいことでもない。
クィレルはずっと震えたままのマーガレットに杖を向けた。飼い主の危機を察知し、ネモも飛びかかる。また、あの夜と同じことが——
「——
——起きなかった。
「あの、ごめんなさい。わたしが倒れてから、えっと、少しネモも気が立っているみたいで……。ごめんなさい、先生に不快な思いをさせてしまいました」
そう言いながら、マーガレットは杖を握った右腕を下ろした。クィレルは自分がこの予想外の出来事に動揺している間に彼女が反撃しようと企んでいるのだと推測していたが、どうやらそうではなかったようだ。
「ごめんなさい……。ごめんなさい……」
俯いたまま、マーガレットはしきりに同じ言葉を繰り返す。その声は今にも泣きだしてしまいそうだった。
「先生、正直にお話します。あの夜、あの森の中であったことは本当に、本当になにも憶えていないんです。でも、昨晩、夢を見ました。その、森の中で傷ついたユニコーンと……先生の姿を見てしまう夢を」
床に座り込み、ボロボロと涙をこぼすマーガレットのことをクィレルはただ黙って見ている。
「ごめんなさい。夢だって、わかってはいるんです。でも、なぜだか先生にお会いするのが怖くなってしまって……。でも、わたしが一番怖かったのは、自分が先生に疑いや恐怖を少しでも抱いてしまったことで……。本当に、本当にごめんなさい」
クィレルはマーガレットが嘘をついていることに気がついた。だが、それは彼女があの夜、あの森であったことを憶えていないと言ったことではない。その真偽など、今の彼にとってはこの際どうでもよかった。
クィレルがマーガレットに触れると彼女は小さな悲鳴を上げ、肩をびくりと震わせた。そして、恐る恐るといった様子で顔を上げる。彼女の青い瞳には涙と恐怖の色が浮かんでいた。
——彼女は本当に変わらない。
今更ながらクィレルはそう思った。マーガレットは感情がよく表情に現れるたちである。楽しいことがあれば笑い、面白いことがあれば目を輝かせる。
そして、今は怯えで瞳が揺れていた。彼女が
「ミス・マノック、それは……」
いっぱいに溜めた涙のせいでマーガレットの青い瞳はきらきらと輝いている。そのどこか懐かしいまなざしがクィレルの良心を呼び覚ました。
「……それは悪い夢ですよ」
クィレルの嘘をマーガレットはただ黙って聞いていた。
「——
ゴブレットから元の姿に戻った
「あの、助かりました。
こうして
ならば、変わってしまったのは——。
「だから、これからも
「それは……」
憧れなのだと、あなたのようになりたいのだと自分の背中を追い続けた教え子をクィレルはもうこれ以上裏切りたくなかった。
「できない約束です。もう、私と君は会うことがないのですから」
かけられた言葉にも、伸ばされた手にもクィレルは気づかないふりをする。そして、折よく現れたグリフィンドールの一年生たちと入れ替わるようにマグル学教室をあとにした。
今日のことでクィレルには痛いほどわかったことがある。それは、マーガレットがずっと変わらず、自分のことを慕い続けてくれていたということだ。
だというのに、自分は勝手な思い込みのせいで、情けない嫉妬のせいで彼女のことを疑い、傷つけた。
長い階段を下りながら、クィレルは自嘲ぎみに笑う。
この魔法の城に仇なす者がホグワーツの教師であるなど馬鹿々々しい。かといって、ユニコーンも
そして、とある少女の憧れであり続けることから自ら逃げ出したなど愚かしくてたまらない。
今はあれほど愛したマグル学の教授ではなく、闇の帝王の忠実なる下僕にもなれない。そして、大切な教え子を導き、ときには守ってやれるような「先生」に戻ることはきっとできない。
ならば、この変わり果てた自分は何者なのか? クィレルは自分の行く末も帰るべき場所も見失った。彼はもう “誰でもない”のであった。
たいへんご無沙汰しておりました。
次話で「賢者の石」編の本当のラストです。