原作:トランスフォーマー
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浮遊大陸の中央に座する神殿から、奇妙な信号が衛星へと発せられるのを目撃したビースト戦士たち。浮島、ブリガドゥーンはサイバトロンらの活躍によって、原始の岩山へと塔ごと崩れ落ちていった。したがって、かの青い信号の手がかりは失われたのである。
「大変な戦いだったな。基地に帰還次第、各員メンテナンスを済ませてC/Rチェンバーに入れ」
部隊を率いるコンボイは、これまでにない死闘の生還に安心すると同時に、いつ果てるとも知れない『ビーストウォーズ』に疲弊を感じていた。その意思が命令の声色に表れていたと言っても過言ではない。
「拙者は持ち場に戻るでござる。少々、思索に耽りたいのでな」
「ああ」
ホワイトタイガーに擬態するトランスフォーマー──タイガトロンのメモリーには、新鮮なる悔恨がある。コンボイに対し、話の継ぎ穂すら与えず踵を返す白い背には、先ほどの浮島が戦火によって生態系ごと破壊されてしまった事への自責の念があった。
「ダァ、マジで甘っちょろい奴だぜ。戦いには犠牲があって当然なんだよォ」
「止すんだダイノボット。そういう風に考えない人だっているんダナ」
デストロンも戦力を回復するまで、活動は沈静化の一途を辿るだろう──
そこにいた全員がそう考えていたが、そんな妥協的な安堵を一笑に付するのはタランスであった。残忍なるこの尖兵はエイリアンの意図を知り、ブリガドゥーンの墜落を調査しに来ていたのである。
「ウヒャ! こりゃいい道具を見つけたもんッスね……! アタチは運に恵まれているッス!」
浮島の破片から、かなり古い形態のトランスフォーマーが出土したのだ。タランスは幸いにも、単独でその場に居合わせる事ができた。
「コイツは確か、惑星探査に駆り出された奴ッス。このデカブツの力を借りればセイバートロン星に帰れるッスよ……メガトロンのオタンコナス共がこの星で息絶えるのを見れないのは残念ッスけどね……グフ、グフフ!」
およそ、短く見積もったとしても500万年に亘る眠りから白皙の鉄人は目覚めた。山岳の岩肌から、その翼を生やした巨人はひょっこりと頭を出して、タランスの低俗な声に気がつく。
「む……そこの小さき友人よ。良ければ、ここがどこか教えていただけないかな」
太古の地球に姿を現した無機質な生命体は柔らかな物言いで、小さき混沌の眷属に語りかける。
「え? あ、お、おおっと! なな、なんでしょうか旦那……あ、アタチはタランスと申しますです」
「おや? 妙だな、言葉がわかるのかい? この星の言語なんてまだ学習していないが……ひょっとすると、君は、ああ、タランス君はトランスフォーマーなのか? だとしたら、私の知らない機構を持っているようだけど」
態々声に出して状況を説明する律儀なロボット生命体は、未来人と言って差し支えないタランスにそっと手を差し伸べる。あまりにも角ばり、武骨の指は、そうとは思えない温かみがあった。
「だ、旦那がおネムの間に色々あったんスよ……それより、聞いて欲しいッス。アタチはさっそく故郷セイバートロン星に戻らなくっちゃいけないんスよ! そのおっきなボデーに乗っけてって──」
「タランス君、すまないがそれは不可能だ。私の体に損傷がないか今診断してみたが、恐らくエネルギー不足が祟って、この惑星の重力では第一宇宙速度が出せるかも分からないんだ。エンジン部の故障も無視できないが、これはリペアによって解決できるから、手伝ってはくれないか」
藁にも縋る思いだったが、棚から牡丹餅でもあったな、とタランスは額に手を当てた。自分にはまだ、作戦とバックアップがいるではないか。そう紫の腹の中で言い聞かせて己を発奮させた。
「わ、分かったッス。そいじゃ工具をば……」
「ありがとう、助かるよ。君くらいのサイズなら、私のボディを修理するのに適しているだろう。ああ、私の名前はスカイファイアー。惑星探検隊員さ」
冷酷に他者を欺くタランスだが、面と向かって善人を騙すような、セールスマン的な手法には造詣がなかった。
*
溶岩の高熱がメガトロンのボディを、フレームを蒸した。
「ぶぁっかもん!! あの謎の兵器を台無しにしよってからに!」
「スンマセンメガトロン様! で、でもあのクモ女が裏切ってオレをいじめたんですよ」
黄緑のバイザーには、彼が崇拝する君主の赤い目が光っていた。スコルポスは、浮島の調査報告を行なっていたところである。
「ブラックウィドーが裏切っただと? そんなものはとっくに想定済みだア! だからお前をお目付役にしてやったというのに……カーッ、どいつもこいつも悪の手先っちゅー自覚があんのかねコイツらはぁ」
武装を解きモニター前に鎮座したまま、メガトロンは歯を食いしばり顎をさする。彼には悩みが尽きなかった。
「今のところ数では奴らにアドバンテージがあるだろうが、俺様の部下はあまりアテにできんしな……タランス! おい! ウヒャヒャグモは何処に行ったんだぁ!」
ひとつの姦計を閃き、その謀に必要不可欠なデストロン兵の名を呼ぶ。
「メガトロンさま、タランスは白くておっきいロボットと一緒にピクニックしていたぶ~ん。ボクちゃん、ちょっと前に見ちゃったぶん!」
「なんだと? 奴め何か企んでいるとは思っていたが……テラザウラー、追跡するぞ! スコルポスも同行しろ!」
「了解ザンス!」
再生プールに入ったまま、不快な羽音を齎したのはワスピーターである。縦に割れた大顎が蠢き、二人目の裏切り者が現れる可能性を語った。メガトロンは柔弱なその声を耳に、重い腰をあげる事にした。新たな策を、その優秀な回路で創造しながら。
「ぶーん、ボクちゃんはどうしたら──」
のろまなワスピーターのセリフに、スコルポスは大バサミを胸の前に置き、不満げにしていた。
「お前はお留守番に決まってるだろーが! お前までついてきたら、誰がここを見張るのだこのトンチキ!」
ぬらついた肌をした紫紺の恐竜は舌を伸ばし、威嚇の如く口を開いた。右腕のその頭は、まるでメガトロンとは別な意思があるかのように振舞う。
「ワスピーターは使いやすいが、オツムが弱くてかなわん。スコルポスも盲目的で扱いはラクだが、コイツもノータリン……どいつもこいつもまったく」
出撃に際し、そう独り言ちて拳を震わせた。テラザウラーはタランスの息がかかっていてもおかしくなく、そもそも前科があるので基地に単独では置かせられない。ワスピーターは裏切りができるほど知能も実力もあるとは考えにくいが、武装の限られたこの惑星では航空戦力として大きい優位性を得られる。しかしながら、手負いの部下を二人連れて行ったところで作戦に支障が出ては本末転倒である。
よって、ワスピーターは修復がてら本城の見張りを任せ、いざという時に盾になる兵士、スコルポスを自分の護衛にするのが道理だろうと、メガトロンは導き出した。
「やれやれ、どこかから優秀な駒が降ってはこないものか」
この暴君は、物と自分だけが、自分を裏切らないのを知っている。
*
川や密林の望める山脈の頂に、スカイファイアーたちは異様な出会いを果たしていた。二人は異様だと感じながらも、しかし建設的であった。種々の目的のために。
「こ、これでどうッスか?」
「飛行に関わる機能は何一つ問題ない。あとはエネルギーだが……しかし、君は有能な技術者だな。今のセイバートロニアンは皆こうなのかい?」
「ま、アタチのテクノロジーで右に出る者はいないッス。ウヒャヒャヒャ!」
密偵たるタランスも満更ではなかったが、目の前の『道具』を篭絡する欲の皮が突っ張る心理をひた隠すのに気を取られていた。
「それよりエネルギーッスね! この辺りなら谷底にでもエネルゴンクリスタルがあるはずッス」
「エネルゴンが原生しているのか。変わった惑星だな」
タランスにとってその言葉はまるで演技みたいに聞こえていた。鎌をかけられている感じがして、それは焦燥感に繋がっていく。
「ほ、ほらさっさと歩くッスよ! 早くしないと悪い奴らに捕まるッス──」
「随分おっきな白鳥さんだなァ、タランスよ!」
「ギクーッ!」
タランスの示す通り、谷底に妖しく透き通る水晶、エネルゴンクリスタルが顔を覗かせていた。しかし、メガトロンの到着がこれほど迅速なものとは予想しなかった。副官スコルポスが歯を見せて笑い、そのリーダーメガトロンは口をへの字に曲げている。
「あの二人は君の事を知っているようだが、仲間かい?」
「ちちち、違うッス! ……ああもう、こうなったら逃げるが勝ちッスよ! スカイファイアー! アタチを乗せて遠くへ飛ぶッス早くっ!」
スカイファイアーが足元へ歩み寄る小さい友人を見下ろし、気長な視線を彼に送っているうちに戦闘が開始された。
「ウラウラウラ! オラッ!」
「おわっ……穏便にはいかなさそうだな。よし、共に逃げよう、トランスフォーム!」
「オラオラ、だめです、当たってるのにちっとも効きません」
スコルポスのミサイルが白く大きな機体に直撃するも、容易に修復可能な軽傷といった所であった。
「問題ない、撃ち続けておけ。……あよっこいしょ、っと」
むろん、こうしたメガトロン側の劣勢は彼による演出に他ならない。スコルポスの火力で以って、旧式のトランスフォーマーが巨大で頑丈であるのを証明させ、タランスらに油断を与えた。
「タランスめ、やはりセイバートロン星へ帰るのに異常な執着があるようだな」
取り出した水平二連のスナイパーライフルが執拗にタランスを狙う。その銃弾には細工が施されているのは、本人のみぞ知る。
「コノッ」
少々危険な賭けだったが、エネルゴンキューブを精製する要領で、彼はエネルゴンによる弾薬を先んじて用意しておいたのである。バレットは火を噴き、不安定なエネルギーの塊は宙を裂き、一直線にジェット機にトランスフォームした彼へ着弾した。
「ぐわあああっ」
地上で起きていたら、地形が変形してもおかしくない爆発が白んだ空を満たした。清澄な空は燃え、黒い破片が辺りに散り、スカイファイアーは絶叫のまま、遥か海の向こうへと墜落していった。
「……テラザウラーは逃げ延びたタランスを助けるはずだ。奴には吐いてもらわねばならない真実と、それにまだ利用価値がある。勝手な事をしてもらっては困るわい」
裏切り者候補に力を誇示し、反逆が愚かであるのを力によって伝えたメガトロン。
「メガトロン様、ありゃなんだったんでしょうか。ずっと遠くの氷山に落ちていきましたが」
「なに、我々には関係のないデカブツだ。古い古いご先祖サマだ」
先代とも言える『メガトロン』の命令を脳裡で反響させながら、自称メガトロンはこの惑星がその地球である可能性が高まっている事実にほくそ笑んだ。
「オレ様に何を教えてくれるかな、アイツは」
*
惑星エネルゴアに不時着して以来、最速を誇ると謂われたアクサロンは専ら臨時基地としてコンボイが指揮を執るサイバトロン戦士の拠点と化していた。
「みんな、これを見て」
「ん? おお! おいなんだソレ!」
ライノックスの手には、小型のカメラが握られていた。チータスは物珍しそうにして、通路から走って来た。
「おお、これはアレを改造して作ったんだな? 確か映像出力機能を流用したと……」
コンボイが関心を持って述べる。ライノックスは父性の溢れる声で応じる。
「そうだよ。タイガトロンが送ってくれた、あの」
「あ、ああ……オレが撃ち損ねたヤツね、ハハ、ハ、……」
「で? 胴体をもぎ取ってモニターをくっつけただけにしか見えないソレは何に使うワケ?」
そうやかましく口を挟むネズミを恨めしく見遣るのはダイノボットだ。
「今から説明するって流れだったろうが……ちったァ黙って聞いてろこの胴長ネズミ!」
「短足恐竜には言われたくないね!……あ、オイラも短足か」
「静かに! これはいわゆる隠しカメラなんダナ。これを今、デストロン基地に置いてきて欲しいんだけどー、ああ」
ラットルを除くサイバトロンは、彼を見つめた。オマエしかいない、任されてくれ、そういう意味を多分に含む視線だ。
「安心してよ。僕が途中まで飛ばしてってやるからさ」
エアラザーが手をひらひらさせ、冗談交じりにネズミの工作兵を勇気づける。
「ば、バカ言うなよな! いくらラットル君が強くて賢くて素早くてサイバトロンに必要不可欠な存在だとしても、潜入なんて」
「さっきあの辺りを偵察してきたけど、警備は手薄のようだよ。ワスピーターかブラックウィドーくらいしかいないんじゃないか? とにかく、チャンスは今だ、行こう」
ラットルはがっくりと俯いた。なんだかんだ、こういう役割は自分しかできないのを分かっているからだ。だから断らない。
ハヤブサに掴まれながら、その小さな両手でスパイカメラを受け取る。
「じゃ、コレ頼んだよ。何かあったら連絡するんダナ」
「ふぁーい……」
仲間のサイから託されたそれは、デストロンに一芝居打たせるユニークなアイテムとなるのだが、この時はそんな未来を誰も知らないのである。
無印ビーストウォーズの中盤、浮島のデスマッチ直後のお話です。
原語版だとこの回の次はインフェルノ登場回ですけど、今回は日本版ってことで『メーク・ドラマだデストロン』の少し前くらいの出来事になります。