迷宮には喰種が潜む   作:たーなひ

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読んでくれてありがとうございます。


一話

ーー喰種(グール)ーー

 

見た目は一見普通の人間と変わらないが、その実人間を喰らう化け物である。

常人の4倍以上の身体能力を有し、再生力すらも兼ね備えているだけではなく、人間の武器では喰種の皮膚に傷をつけることすら難しい。

さらに、喰種特有の器官ーー赫包(かくほう)ーーを持ち、そこから触手のようなものーー赫子(かぐね)ーーを出すことが出来る。

 

だが特筆すべきは喰種の身体能力よりもその食性だ。

 

人肉しか食べることが出来ない。

 

それが喰種が恐れ怖れ畏れられてきた理由。

アレルギーのような生温いものではない。

喰種は人肉、水、そしてコーヒー以外は口にすることが出来ない。そもそも消化すら出来ないのだ。むしろ毒ですらある。

加えて言えば、人間の食べ物は美味しく食べることも出来ない。人間から喰種になった男曰く、スポンジだとか腐ったなんとかだとか……とにかく食えるようなものではないということだ。

 

その分人間に比べれば幾分か燃費は良く、一ヶ月に一度程食事を取れば生きられる。

だが、食事を取るのも簡単では無い。それぞれには“喰い場”と呼ばれる縄張りのようなものが存在し、その中にいては自由に人間を狩ることも食べることも許されない。かと言って誰の縄張りでもない場所で狩ろうとすれば、同じように考える者たちとの争いになる。

喰種の食事の確保も簡単では無いのだ。

さらにそれに拍車を掛けるのが、喰種の飢餓だ。人間の空腹感とは比べものにならない程に辛く苦しく、理性が飛ぶ。

 

とは言え、喰種は如何せん数が少ない。

路地裏や人気の無い所さえ通らなければ、一度も喰種に襲われずに一生を過ごすことも不可能では無い。

 

そして多くの喰種は、人間に紛れて生活している。

それほど優れた種であるなら、隠れるような真似をせずとも人間を好きなように殺せば良いと思うかもしれない。

 

そう出来ないのは、CCGと呼ばれる機関に、喰種捜査官がいるためだ。

通常の兵器ではダメージを与えられない喰種の皮膚も赫子であればダメージを与えられるという点に着目し、その赫子を武器に変え、戦うのが喰種捜査官。

常人の数倍の運動能力を持つ喰種と渡り合う程に訓練された捜査官の存在のせいで、喰種は好きなように狩りを行うこともできないのだ。

 

故に、喰種は人間に紛れ、闇夜に紛れて人を喰らう。

 

 


 

 

(知らない天井だ………)

 

目覚めて真っ先に思い浮かぶのがそんなことはであることに微かに安堵を覚えながら、辺りを見回す。

 

(まずは状況把握が先決か)

 

見たことのない部屋。どこか時代遅れな雰囲気を感じる。

出入り口は………木製と思われる扉が一つ。

監視カメラの類は無し。

そして……人の匂い。

 

そこまで情報を集めた所で、次は自らの様子を確認する。

 

(拘束具の類は無し。

赫子は………大丈夫。問題無さそうだ。赫子が出せるということは、恐らくだがCCGの施設では無い。CCGの施設であれば、赫子を使えなくなるガスだかなんだかが充満してると聞いた記憶がある」

 

(服は………なんだこれ。やっすいボロ布を纏わせただけみたいな…………んんん???)

 

(なんか………体がちっちゃくないか?手も………足も………)

 

何度も確認するが、明らかに手足が短く、小さくなっている。とてもではないが、176センチの男性の身体とは思えない。

 

 

「どうなっているんだ………」

 

(ん?今のは誰の声だ?)

 

明らかに男性ではなく、女性の可愛らしい声が聞こえた。

 

 

 

「…………んんんんん????」

 

 

(俺の声じゃねぇか…………)

 

 

どうやら、俺は女の子になったようだ。

 

 

 

 

 

一頻り動揺したところで、先程までは気にしてすらいなかった鏡に向かって歩いていく。

 

(なんだこの感覚……変な感覚だ)

 

歩幅も違えば、体の重さも目線の高さも違う。

ベッドから降りた直後は危うくこけるところだった。

 

 

なんとか鏡の前まで辿り着き自分の姿を確認すると、嫌でもこの不可思議な現実を認めなくてはならなくなった。

 

(どう見ても女………だよなぁ………)

 

艶のある綺麗な黒髪のセミロング。

女性らしい顔立ち。

俺が声を出すたびに同時に開き、可愛らしい声を発する口。

推定だが、身長は150センチ前後辺りだろうか。

恐らくだが、年の頃は14〜16。

 

……やっぱり誰がどう見ても女だ。

 

因みに、男と女の違う所もしっかりと確認済みだ。

別にどうでもいいことだが、胸はそこそこあった。

 

 

一体どんな施術をすればこんな風になるというのだろう。プチ整形で済ませられるようなものではない。

だがCCGの技術であれば、こんな訳の分からない事も出来そうな気もする。

ただそうなると、拘束具は愚か監視すらないこの現状に納得がいかない。

 

(……いや、あり得ないことでもないか)

 

もし外に何人もの特等捜査官や白い死神がいるのであれば、俺が暴れたとしても易々と捕まえられるだろう。

であれば、態々拘束や監視をする必要も無い。暴れたら取り押さえられるだけだ。

その場合は脱出は諦めるしか無い。

 

 

念のために、改めて赫子を展開してみるが、以前と変わらない様子で展開出来た。

 

(この際、俺がどうしてこうなっているのかは一先ず保留だ。今必要なのは情報と……………肉か)

 

先程までは気がつかなかったが、かなり腹が空いている。

まだ我を忘れるほど辛くはないが、早めに肉を食べないと満足に戦闘も出来なくなってしまうだろう。

 

 

(しかし……………似ているな………………)

 

(まるでーーーー)

 

 

「あれ、起きたんですね」

 

ドアが開き、一人の少年が入って来た。

 

(いけないいけない。足音にも気付かない程思考に没頭していたとは……)

 

「あ、はい」

 

応えると、どこか安心した様子の少年。

白い髪に赤い眼。幼さと純朴さを感じさせる顔立ちは、白髪や赤眼と相まってウサギを彷彿とさせる。

 

「ちょっと待ってて下さいね!」

 

そう言って少年は部屋を出て行ってしまった。

 

 

 

 

もう一度少年が戻って来た時、少年はもう一つの生物を連れて来た。

黒髪のツインテールであるからか幼さを感じる容姿だが、その胸は見た目にそぐわない程に大きい。

 

「やぁ、目覚めたようで良かったよ。僕はヘスティア!」

 

その生物はヘスティアと名乗った。

人の形、人の言葉、人の声を紡ぐその生物。

 

一見すると人間にしか見えないその生物が、人間……喰種ですらないことを喰種の本能は敏感に察知していた。

 

(なんだ……コレは……)

 

「あの……ここは……?」

 

だが永らく人間の社会に溶け込んでいた事が功を奏したのか、動揺を隠し仮面を貼り付けながら言葉を紡ぐ事ができた。

 

「ここは僕のーー僕達の本拠(ホーム)さ」

 

見ての通り立派なものじゃないんだけどねと、苦笑しながら言うヘスティア。

 

「いえ、そうではなくて……地理的な方の……」

 

「あぁ、そういうことかい。と言っても、細い道にある寂れた教会だよ。ちょうどウチの前に倒れていたんだけど、覚えてないかい?」

 

「教会……?」

 

(教会……ということはここはの中?にしては些かボロっちいが……)

 

「あれ?覚えてないのかい?」

 

キョトンとした様子のヘスティア。

 

「はい。それどころか、ここが何処かも良く分かってないんです」

 

そう言うと、白髪の少年とヘスティアは顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

聞けば、ここは“オラリオ”というらしい。

無限にモンスターが生まれるダンジョンを中心とした巨大な都市。それがオラリオ。

 

そして現状では異世界と断定するしかない程に変わった世界には、神が居る。

比喩でもなんでもない。正真正銘の神だ。

曰く、大昔に暇を持て余した神達が娯楽を求めて降りて来たそうな。

笑い飛ばしたかったのは山々なのだが、ヘスティアがその神の一人であるということを告げられてからは、納得せざるを得なかった。

実際に神であるのか否かはどうでも良い。とにかく、俺が食えないと判断する生き物を判別出来るなら問題ない。

 

 

そして下界の子供達は、神によって『恩恵(ファルナ)』を刻む事が出来る。『恩恵』を刻まれた下界の子供は、常人以上の身体能力を得る事が出来る。

さらに『経験値(エクセリア)』を貯めることによって、“レベルアップ”することができるらしい。

にわかには信じ難いが、【ステイタス】の更新の様子を生で見せられてしまっては信じる他無かった。

 

そんな『恩恵』をこの迷宮都市オラリオで活用しているのが“冒険者”。ダンジョンで魔石やドロップアイテムを換金することで生計を立てる者達の総称。

俺の前に座っているこの白髪の少年ーーベル・クラネルーーも冒険者らしい。

 

 

 

「ーーーと、まあ、とりあえずはこんなところかな?何か思い出したかい?」

 

一通り説明を終えたヘスティアが俺に聞いてくるが、正直お手上げだ。

全く理解が追いつかない。

 

「いえ……何も……」

 

「どうしてあんなところに倒れていたのか、それも覚えてないのかい?」

 

「はい」

 

そう。こうなった経緯が何一つとして思い出せないのだ。

 

自分の名前も、同胞の名前も世話になった人も、敵の名前も、住所も思い出せるのに、こうなる直前の記憶だけが曖昧だ。

 

「そうか………。あ、そうだ。名前を聞いていなかったね」

 

(名前か……)

 

偽造の身分証や運転免許証、偽名はいくつか持っているが、自信を持って名乗れるのはこれだけだ。

 

(オガミ)サクヤです」

 

「……姓前に来るということは……それに黒髪黒目……極東から来たのかな?」

 

(極東?)

 

そう言えば、ヨーロッパ圏で日本は極東と呼ばれていた気がする。

 

「ご両親は?」

 

「両親は……分かりません」

 

そう言うと、怪訝そうな顔を見せる。

 

「……分からない?」

 

「何処にいるのか、そもそも生きているのか、死んでいるのかも分からないです。そもそも顔も覚えてませんしね」

 

事実だ。

物心ついた時から肉親と呼べる存在はおらず、帰る場所はあの喫茶店以外には存在しなかった。

まあ、その喫茶店も無くなり、親のように思っていた人も亡くなってしまったのだが。

 

(……っと、雰囲気が暗くなってしまったな)

 

初めて会った人間に聞かせるような話では無かった。

二人ともが地雷を踏んでしまったと思ったのか気不味そうな顔をしている。

別に気にしなくてもいいんだがなぁ………。

 

だが、良いきっかけにはなった。

 

 

「……そろそろ行きたいと思います。ご迷惑をお掛けしました」

 

粗方の情報は集まった。後は自分の目と耳で確かめていけば良い。何より、人間にこれ以上借りを作るのはあまり気が進まない。

そう思って切り出したのだが、二人の反応は芳しくない。

 

「……当てはあるのかい?」

 

「無い……ですけど、歩きながら探すしか無いですかね。歩いているうちに記憶が戻るかもしれませんし」

 

「それは………うん、そうだね。ベル君、荷物を持って来てくれるかい?」

 

「あ、はい」

 

別の部屋に行ったベルが、すぐに戻って来た時には、鞄と呼ぶにはあまりにもお粗末な皮の袋を抱えていた。

 

何かと思ったが、それを俺に向けて差し出して来た。

 

「……これは?」

 

「倒れていた君が大事そうに抱えていた物だよ。中身は見ていないから安心してくれ」

 

「はぁ…」

 

一体何なのだろうか。

あれほどの衝撃の事実に驚いた今なら、生首が入っていてもそれほど驚かないだろう。いや、人間の生首であれば思わずかぶりついてしまうかしれない。

 

 

鞄のような物を受け取り中を開くと、その中には布に包まれた何かがあり、さらにその中も布に包まれており、計4枚もの布に包まれていた。

二人には見えないように鞄の中で身長に布を剥がしていくと、ようやく本体が姿を現し…………。

 

 

(ーーーーー!)

 

 

思わず息が止まった。

 

幸か不幸か生首ではなかったが、生首以上に衝撃的な物だった。

 

それはマスク。

人間に紛れて暮らす喰種にとっての必需品。戦闘時に顔が割れる事を防ぐためのもの。

 

以前愛用していた物とほぼ……いや、サイズ以外は全く同じマスク。

 

何故コレがここにあるのか。

 

全く持って見当もつかない。

 

だが、そんな事を考えるのは後で良い。

 

 

 

今はとにかく、腹が減った。




ダンまちのSS書くのめっさ久しぶりなんやけど、こんな感じでどうでしょう。
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