迷宮には喰種が潜む   作:たーなひ

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四話

「モンスターが逃げたぞー!!!」

 

ぼちぼち祭りを楽しんでいるとどこかから声が上がり、続いてどこかで爆発音が鳴り響いた。

 

モンスターを都市内に連れ込んでる訳だから、そういう事が起きるのはおかしなことでは無いだろう。

ただ、市民としてはたまったものではない。楽しい祭りがモンスターパニックになるのだから、この後主催の【ガネーシャ・ファミリア】には苦情が殺到することだろう。

 

こういう混乱した状況下は、喰種が数人分の肉を確保するチャンスだ。暗闇や混乱と言った要素は、尽く人間よりも喰種に有利に働きやすいと言える。

決まって行方不明者が出てくるし、近くの路地で死体が〜なんてニュースもザラにある。

まぁ、今回俺は腹が満腹だから人を襲ったりする必要はないんだが。

 

 

(……さて。どうするか)

 

どんなモンスターが逃げたのか知らないが、俺が勝てないモンスターが逃げ出している可能性は十分にある。

そう考えると、この人混みに従って逃げるというのが最も無難な選択だろう。

だが、これは逆にチャンスでもある。

こういう場面で人を助けて回れば、間違いなく善人アピールに一役買うはず。

リスクはあるが、逃げや守りに徹しさえすれば死にはしないはず。

 

(……よし。じゃあ行きますか)

 

 

喰種は感覚器官も人間より優れている。

特に嗅覚は、血の匂いを嗅ぎ分けたり、喰種か人間かを嗅ぎ分けたり出来る程発達している。

 

屋根に登りその嗅覚をフルで活用し、血の匂いを探し出す。

 

(……あっちか)

 

少し遠いが、かなり出血しているようだ。

腹でも貫かれたのだろうか。

 

(行ってみる…………あ、やっぱやめよう)

 

その方向に足を向けると、何やら蛇のようなものがウネウネと動いている。この距離であの大きさなら、おそらくかなり大きい。

出血の主には申し訳ないが、あの大きさのモンスター相手に戦うのは些か分が悪そうだ。精々頑張ってくれ。

 

(他は………お?)

 

血の匂いを嗅ごうと思ったが、その前に破壊音が鳴り砂埃が舞っている場所がある。

だが破壊の激しさとは反対に、あまり血の匂いは感じられない。上手く逃げおおせているということだろうか。

 

(行ってみますか)

 

もし負けそうなモンスターならば隠れて様子を伺っていれば良い。

 

 

 

鼻息を荒くして暴れているモンスター。

白い毛並みと、人の体以上の太さを持つ腕。大きいゴリラのようなモンスターは、何かを追っているかのように暴れまわっていた。

 

(デカいな……だが……うん。負けはしなさそうだ)

 

あれだけの肉が太いと倒すのには一苦労……もしくは不可能だろうが、逆に言えばそれほどスピードは無い。いずれ来るスタミナ切れや上級冒険者まで粘ることは可能に思える。

 

問題は、このモンスターが何を追っているのかという事だ。

絶えず移動しているこのモンスターは、俺がかなり近づいているにも関わらずそちらにしか意識が行っていないようだった。

逆に言えば、それだけ執拗に追われているにも関わらず未だ捕まっていないということは、恐らく一般人ではないだろう。

 

(まぁ、一先ず追いますか)

 

 

 

しばらくするとある程度の広間に出た。

どうやら追われていた人物は迎え撃つ事にしたようだ。

 

相手は………………あ?

 

(ベル?)

 

まさかまさか、唯一の顔見知りとも言える彼との邂逅。

こんな所で会う事になるとは思わなんだ。

 

ベルはスピードではモンスターに勝っているようだが、パワーも殺傷力も足りていない。圧倒的なリーチと破壊力を持ち合わせたモンスターの攻撃は、みるみるうちにベルを追い詰めていく。

 

(やばいな……アイツ負けるんじゃないか?)

 

見れば、ナイフで斬りつけたようだが傷一つ付いていない。あの白い剛毛に防がれてしまったようだ。

決定的なまでに殺傷力が足りない。

加えて目立つのは戦闘経験の無さだ。恩恵のおかげか身体能力には目を見張るものがあるが、素人臭さがある。新人の喰種捜査官でももう少しマシだろうに。

 

(あ)

 

ベルが吹き飛ばされた。

クリーンヒットでは無かったが、何せあの剛腕だ。

モロに体に入らずともかなりのダメージだろう。

 

その証拠に、ベルに動き出す様子は見えない。

 

(オイオイ、死ぬわアイツ)

 

どうする……。

助ける……にしても少しリスキーではある。見た限り躱し続ける事はギリギリ可能だろうが、一撃でもまともに喰らえば喰種と言えど無事ではいられないだろう。

 

だがそれでも唯一の顔見知り。見捨てるには些か惜しい。

 

それに、今考えついたが、ファミリアならばヘスティアの所に入れば良いのではないだろうか。

見たところベルしか仲間は居ないようだし、規模も小さい。

まさに思っていた通りの、理想の物件だ。

であれば、助けたい方が良いだろう。

 

(んじゃま、行きますか)

 

ベルを助ける為に屋根を蹴り、間に入ろうとするーーーー

 

 

 

『ガシリ』

 

 

 

ーーーーが、それは叶わなかった。

 

 

「は?」

 

 

体が前に進まなかったのだ。どれだけ進もうとしても、ピクリとも動かない。

 

それは俺の腕が掴まれているからだと気付くのにそう時間は掛からなかった。

 

後ろを振り向くと、2メートルはゆうに帰る程の大男が俺の腕を掴んでいた。

 

「…………………」

 

(全く気づかなかった……。俺が?後ろを取られたのか?人間に?)

 

もう一度言うが、喰種の感覚器官は人間のそれを大きく凌駕する。

それでも気づかなかった……いや、反応出来なかったのか?速すぎて。

 

………と、言う事はーーー。

 

(ーーー紛れもない強者)

 

雰囲気やこの距離に来るのに気づかなかった事ももそうだが、俺の腕を掴む手がこの男の強さを教えてくれる。

 

互いの視線が交錯すること暫し。

そこで俺は、ようやくこの男が人間ではなく、獣人であることに気付いた。恐らくだが猪人(ボアズ)

 

だがしかし、意図が読めない。

なぜ俺をこうして掴んで動きを止めているのか。俺の知り合いではないなずだし、こんなことをされる理由が無い。……というか、早く離してくれないとベルが殺されてしまう。

 

「離してーーー」

 

「ーーーダメよ。あの子の邪魔をしては」

 

離してくれ。

そう言おうとした所で、美しい声が降ってきた。

 

声の方に視線を向けると、つい先程すれ違った綺麗な女神がそこに立っていた。

 

「少し待っていなさい。すぐに遊んであげるから」

 

「……?どういうーーー」

 

…ことだ?と続けようとしたが、女神に視線を向けられたかと思った瞬間、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「おはよう」

 

そう言われて、ようやく意識が覚醒する。

 

まず自分の状態。

縛られて……もない。拘束や体のだるさも無く、眠気もない。

至って健康状態だ。

 

次に目の前の相手。

扇状的なまでに肌が露出した黒のドレス。ドレスの上からでも容易に欲情を促される体付き。総じて評するなら、目を逸らせなくなる程の美貌………いや、そんな言い方すらチンケに感じる“美”そのものの結晶がそこにいた。

 

そして場所。

正面は一面ガラス張り。上品なカーペット。あまり物が無いにも関わらず質素さを感じさせず、寧ろ豪華さを感じさせる。

 

改めて正面に座る女神を見やる。

声や雰囲気、状況から察するに、ローブを纏っていたあの女神と同一人物だろう。

 

何故こんな状況になっているのかは全く分からないが、とりあえず相手の様子を伺ってみることにしよう。

 

「……おはようございます」

 

とりあえず、挨拶をしておく。挨拶は大事だからな。

 

「あら、落ち着いているのね」

 

「まぁ……そうですね」

 

もちろん混乱はしているが、慌てふためく程ではない。目の前に白い死神が居るとか、実は今までのは夢で目が覚めたらCCGの実験施設でした!とかに比べれば幾らかマシだ。

 

「………………」

 

ワイングラスを弄びながら、此方を真っ直ぐに見据えてくる。

 

何を考えているのか全く分からず、いたたまれなさのようなものを感じる。

 

……もしかすると、こちらから質問するのを待っているのだろうか。

 

「……貴女は?」

 

「フレイヤよ」

 

(ほう……フレイヤ……。

 

 

 

……フレイヤ!!!????

 

フレイヤって!都市最強派閥の一角じゃねぇか!!嘘だろ!?)

 

何の冗談だ一体。

都市最強派閥の主神が目の前って本当に何の冗談だ。

 

「あの……もしよろしければ、よろしければで良いんですが帰り道を教えて頂いても宜しいでしょうか?」

 

「………」

 

ニコリと微笑を作るフレイヤ様。

 

(あ、ダメですか。そうですかそうですよねごめんなさい)

 

 

「…………貴方、あの子とは知り合いなの?」

 

「あの子?」

 

「貴方が助けようとしてたあの子よ」

 

……もしかしてベルの事か?

 

「顔見知りって感じですかね。それがなんですか?」

 

「いえ、なんでもないわ」

 

……分かんねぇ。本当にどういう意図があんのか分かんねえ。

 

ワインを一口煽ってグラスを置いた後、目を鋭くして此方を見据える。

 

「……貴方、何者なのかしら?」

 

「へ?」

 

「初めて見る魂。器と中に入っている魂が別のような……器の中に入っているのが別の魂であるような……不思議な魂」

 

立ち上がり、こちらに歩いて来る。

何故か分からないが、動く事が出来ない。

 

なんだ、何を言っている?魂?

 

「フフ…動揺しているのね。安心して。何も考えなくて良い。()()()()()()()()()()聞いておくわ」

 

フレイヤ様の指が、俺の胸を撫でる。

 

そしてまた、意識を失った。

 

 

 

 

 

次に目を覚ました時も、先程と全く同じ部屋、同じ状況だった。

 

「本当、下界の子供達は面白いわね」

 

クスクスと楽しそうに笑っているフレイヤ様。

どうやらデジャブでは無かったようだ。

 

しかし、何が“面白い”というのだろう。

 

 

 

喰種(グール)に異世界……本当に不思議だわ……」

 

 

「………は?」

 

 

「確かにこの世界に喰種なんて種族は居なかったはずだし、信じるしかないのでしょうけど……」

 

 

「……は?は?は?」

 

 

「あの子程じゃないけれど興味深いわ」

 

「一体何を………」

 

「あら?どうしたの?」

 

「どうしたって………何故、それを……それらを知ってる?」

 

「何故も何も、貴方自身から聞いたのよ?」

 

「……一体どういうーー」

 

フレイヤに詰め寄ろうと歩を進める。

 

しかし、それは一瞬で目の前に現れた大男に止められる。

 

「貴様から近づく事は許さん」

 

「あぁ?」

 

どこにいたのか知らないが、目の前に一瞬で現れた猪人(ボアズ)の男は無機質な声でそう言った。

 

俺の腕を掴んでいたあの時とは違う、明確な敵意を視線に滲ませ、此方を見据える。

 

 

そこでふと思い出したのは、俺の餌になったあの3人組の冒険者との話。

 

 

『この都市で一番強い冒険者ァ?』

 

『そりゃあ唯一のレベル7の“猛者”だろうよ』

 

『んだよ、んな事も知らねえのか?【フレイヤ・ファミリア】の団長の猪人(ボアズ)だよ』

 

『名前?名前はーーー』

 

 

ーーーオッタル。

 

姓も無く、ただそう呼ばれている都市最強である唯一のレベル7。

 

目の前に立つ男がそのオッタルである事を疑う余地は無かった。

 

 

俺の目の前に立っているのがホンモノの化け物であるという事を理解すると、途端に頭がクリアになっていく。

ハイになっているのか、はたまた単に命を諦めてしまったのか…、自分でも分からない。

 

(バレてしまったのは仕方が無い。俺に危険を感じ、殺す気ならすぐに殺しているはず)

 

だがまだ生きているという事は、俺に何かしらがあるということだ。

 

詰め寄る前ーー元いた場所に戻り、改めてフレイヤ様を見据える。

 

微笑を崩さず、ただ俺の事を面白そうに見ている。

 

「落ち着いたかしら?」

 

「まぁ、はい」

 

「人間の肉しか食べられないなんて、気の毒ね」

 

全く思って無さそうだが、そこはスルーだ。

 

「美味しいですよ?フレイヤ様も食べてみたらどうですか?」

 

「フフ…遠慮しておくわ」

 

ワインを煽り、飲み終えたグラスをテーブルに置く。

 

そして、微笑を称えたまま口を開く。

 

 

「貴方、私のファミリアに入る気は無い?」

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