迷宮には喰種が潜む   作:たーなひ

8 / 9
なんとなく、サブタイトルのところに話数の他にサブタイトルらしきものをつけてみることにしました。理由は単純。後で見返した時にどこの話かわかりやすくするためです。


八話〜豊穣の女主人〜

「それじゃあ……ベル君の仲間が増えた事を祝ってぇ〜〜〜……かんぱーい!!」

 

「「かんぱーい!!」」

 

ジョッキを合わせる音が“豊穣の女主人”の店内に響く。

 

 

「しかしまぁ……こういう店に来たのは初めてだな」

 

まさに酒場という印象が最も適しているだろうその雰囲気。

客層も冒険者らしき者が多く、酒に酔って顔を赤くしながら飯を食らっている。

 

カウンターにいる恰幅の良い女の人が恐らく店主だろう。すごく貫禄あるし。

ウエイトレスは皆女性で、エルフやヒューマン、猫人(キャット・ピープル)などと多様だ。しかも美人。

 

「ほらほら、どんどん食べてよ!」

 

無邪気にそう言うベル。

差し出されたのは……おそらくスパゲティ。

 

「………」

 

「?どうしたんだい?サクヤ君」

 

「……いえ」

 

(分かってたことだけど……やっぱり無理だよなぁ……)

 

喰種は人肉以外の物を口にすることが出来ない。

当然人間の料理は毒そのものであり、栄養にすらなりもしない。

もしかすると食べれたりしないだろうかと思ったが、残念ながら食べられないようだ。

 

「頂きます」

 

だが、そのスパゲティを……。

 

「あむ……」

 

食べた。

 

 

「どう?美味しい?」

 

(ゲロまずだよ。残念ながらね)

 

「そっちのも食べて良いかい?」

 

「あ、うん!どんどん食べてよ!」

 

吐き気を催す程の不味さ。

だがそれをおくびにも出さず満面の笑みを作り上げてスパゲティを口に放り込んで行く。

水で口の中に残る不味さを流し込みたいが、水をがぶ飲みしていれば流し込んでいる印象を抱かれてしまう。なるだけ水を飲まず、自然に、自然に食事を取る。

 

 

喰種が人間社会に溶け込む上で、避けて通れないのは飲食の問題だ。

人肉以外には水とコーヒーしか飲めないが、それはなんとか誤魔化すことが出来る。だが、食事に関しては誤魔化しようがない。人肉を面前で食べられる訳も無いし、人間の料理を一口を口にしなければすぐに喰種だとバレる。

そこで、喰種は人間の料理を食べている“フリ”をするのだ。

噛むフリをしつつ、噛まずに飲み込む。飲み込んだ物は早いうちに吐き出す必要がある。

これを習得していれば、人間の社会で溶け込む事ができるのだ。いや、溶け込む上では必須の技術ですらある。

勿論、食べ過ぎれば腹を下すから食べすぎてはいけないが。

 

当然、サクヤもこれを習得している。

 

この世界に喰種が居ないのであれば、そこまでのカモフラージュをする必要は無いのではないかと思うかも知れない。

実際、食事を取っている所を見た事がない→人肉しか食べないなんて発想が飛躍することは無いだろう。

だが、人前で一度も食事を取らなければ不信感は段々と募っていく。

不信感は不審に。不審は疑念に。疑念は確信へと至り、気付いた時には喉元に刃が突きつけられている……なんて事が起こり得ないとも限らない。

だから、最大限出来ることはやるべきなのだ。

 

 

 

「で、どうだったんだい?」

 

「何がですか?」

 

ヘスティアがふとベルに問いかける。

 

「サクヤ君の調子というか、組んでみた感じとかさ」

 

「それが聞いて下さいよ!サクヤって凄く強くて、素手でモンスターをなぎ倒していくんです!」

 

「…素手で?また見た目に似合わず豪快な……」

 

「ね!サクヤ」

 

「んぁ?あぁ」

 

(やめろ、俺はまだ吐き気と戦ってるんだ。あまり話しかけないでくれ……)

 

「それじゃ、パーティーを組んだ感じでは問題なさそうかい?」

 

「はい!」

 

「そうですね」

 

答えた後、グビっと水を煽り、口に広がっていた不味さを洗い流していく。

 

 

 

「貴方がベルさんの新しい仲間ですか?」

 

突然、ウエイトレスから声を掛けられた。

銀……いや、どちらかと言うと灰色の髪と、薄鈍色の瞳を持ったヒューマンの少女。因みに控えめに言って美人だ。

 

「まぁ、はい」

 

「あ、自己紹介をしてませんでしたね。シル・フローヴァです。お名前はなんて言うんですか?」

 

「拝・サクヤです」

 

「オガミさん…ですか?」

 

「あぁ、サクヤ君は極東の名前だからオガミが家名なんだよ」

 

「そうなんですか!じゃあ、サクヤさんとお呼びしますね!」

 

「どうぞどうぞ」

 

(なんか……距離が近い……いや、話すのが上手いのか)

 

こういう風に距離を詰めてこられるのは正直苦手だ。

ついつい胡散臭く見えてしまう。

 

「コラァ!!シル!!サボってんじゃないよ!!」

 

カウンターの方から野太い怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「ミアお母さんに怒られてしまいましたので、仕事に戻りますね」

 

ペロリと舌を出し、ベルに向けて手を振りながら去っていく彼女。

 

(……あざといなぁ)

 

手を振り返すベルと、それを物凄い形相で睨み付けるヘスティア。

 

デレデレするなー!とベルを怒鳴りつけるヘスティアを肴に水をちびちびと飲んでいると、ふと視線を感じた。

 

見れば、『ミアお母さん』と呼ばれていたカウンターにいる店主が此方を………いや、俺を見ていた。

 

(…………?)

 

俺がそれに気付くとすぐに目線を切ったが、確実に俺を見ていた。

 

(単純に従業員を捕まえてしまったから……とは考えにくいな)

 

恨みがましい視線では無かったように思える。

 

「どうしたの?サクヤ」

 

「……いや、何でもない。これ食べていいよ。私はもうお腹いっぱいだから」

 

「サクヤって小食なんだね」

 

「まあね。コスパの良さがウリだからさ」

 

「……よく分からないけど、一杯食べないと大きくなれないよ?」

 

「おや?セクハラかい?」

 

ニヤリと笑ってやれば、ベルも意味を理解したのか、顔を真っ赤にする。

 

「い、いや!ち、違くて!」

 

「何言ってるんだベル君ー!!!」

 

またワーワーと慌ただしく騒ぐヘスティア。

 

(ホント、愉快な人達だなぁ……)

 

また水をちびちびと飲みながら、ヘスティアの百面相を楽しんだのだった。

 

 

 

 

その数日後。

 

 

「なぁなぁかぁいそうぅ〜〜〜!?」

 

「は、はひっ!?」

 

ベルが思わず悲鳴を上げてしまったのは、ギルドのアドバイザーでもあるハーフエルフのエイナ・チュールの剣幕故だ。

 

「キィミィはっ!私の言った事全っ然わかってないじゃない!!5階層を超えた上にあまつさえ7階層!?迂闊にもほどがあるよ!」

 

「ごごごごごめんなさいぃっ!」

 

ここまでエイナが怒っているのにも理由がある。

つい1週間と少し前の事だが、ベルは5階層で絶対絶命の危機に陥ったことがあるのだ。上層に中層のモンスターであるミノタウロスが現れ、当然敵うはずもなく逃げ回っていたのだが、遂に追い詰められてしまう。そこで彼を助けたのが都市最強と名高い【ロキ・ファミリア】の若き剣士、“剣姫”アイズ・ヴァレンシュタイン。それからベルはアイズにほの字になっているのだ。

 

 

「ま、待ってくださいっ!そのっ、僕っ、あれから結構成長したんですよ!それに、仲間も増えましたし!」

 

そこで、エイナはピタリと動きを止める。

 

「……仲間?」

 

「はいっ!」

 

「…………………」

 

確かに、パーティーを組んでいれば対応の幅はかなり広がる。

だが、【ヘスティア・ファミリア】へ入団して冒険者登録をしている人間が居れば間違いなく自分の目に止まっている。それが無いということは、その仲間というのは恐らく他派閥。

何も他派閥の冒険者とパーティーを組むのは珍しいことでは無い。珍しいことではないが…………。

 

エイナはベルをじっと見つめる。

 

この純朴そうな少年は、見るからに騙されやすい。しかも単純で、嘘をつくのが下手だ。これほどまでに詐欺に合いやすそうな少年もそうはいないだろう。

 

「その仲間って、どこのファミリア?」

 

「え?えっと……それが……聞いてないんですよね……」

 

「……聞いてない?」

 

「教えられないって言われてて……」

 

怪しい。

派閥の所属を隠すのはやましい事があるからだ。勿論当人達の間で止むに止まれぬ事情があるのかも知れないが、客観的に見れば怪しいと思わざるを得ない。

 

「その冒険者ってどんな人?」

 

「どんな…?うーん……凄く強くて……強い……です?」

 

悲しいかな。サクヤがベルに与えていた印象は、『素手でモンスターを嬲り殺し、血塗れになっても気にしないヤベー女』であった。実際、ダンジョン以外で一緒にいる事が少ないこともあって、性格を知り尽くす事は出来なかったのだ。

 

「そ、それだけ?」

 

「え?い、いや〜……」

 

流石に『血塗れになっても気にしない女』…とは言えない。

強いという点以外には怖いとか、そういう類の印象しか出てこない。

 

 

「失礼なやつだな。もっと可愛いとか美人とか言えないのかい?」

 

「え?」

 

「あ、サクヤ!」

 

「あまりレディを待たせるもんじゃないぞ?随分と遅いもんだから、何かあったのかと思って職員に聞いたらこの部屋だと教えてくれてね」

 

突然入ってきた女性に困惑するエイナを他所に、どういう経緯でここに来たのかを説明する“サクヤ”と呼ばれた女性。

 

「ご、ごめん」

 

「ま、別に良いんだけどさ」

 

サバサバとした雰囲気や、可愛いというよりもカッコいいという印象が先走るその見た目のせいか、どこか男っぽさを感じさせる。

 

「あ、あの〜…?」

 

「拝・サクヤだ。よろしく、エイナさん」

 

極東の名前だから、拝が姓かとエイナはアタリをつける。

それよりも、気になる事があった。

 

「なんで私の名前を……?」

 

「ベルから聞いてるからね。アドバイザーさんの話は」

 

「話?」

 

「ちょっ!サクヤ!」

 

ベルが慌ててサクヤの口を塞ごうと立ち上がるが、それよりもサクヤの口の方が早かった。

 

「凄い美人だってね」

 

「……………ちょっと、ベル君ったら……」

 

頬を染め、照れた表情でベルを見てしまうエイナ。

又聞きとは言え、褒められている事が分かると嬉しいものだ。

 

「い、いやっ!ち、違くて!……サクヤ!」

 

ベルもまた、顔を赤くして弁明を試みようとするが上手い言葉が思いつかなかったため、サクヤを咎めるように声を上げる。

 

「ハッハッハ。良いじゃないか。悪口を言ってた訳でもないんだし」

 

「そういう問題じゃないでしょっ!?」

 

煩すぎて他の職員に叱られるまで、騒がしさは留まる所を知らなかったという。

 

 

 

「……で、彼女がその一緒にパーティーを組んでいる冒険者ってことで良いのかな?」

 

「あ、はい」

 

「いっつもウチのベルがお世話になっております〜」

 

「あ、いえいえ。アドバイザーですから……」

 

「サクヤは一体誰の立場なんだ……?」

 

「……うーん」

 

エイナは冒険者と聞けば真っ先に思い浮かぶようや筋骨隆々の無骨な男をイメージしていた為、彼女が仲間だと言われた時には驚いた。

話してみても胡散臭そうな感じでも無く、どちらかと言えば単純に親しみやすいという印象だ。

それにベルとも良好な関係を築けているようで、楽しそうに会話をしている様は二人の信頼感を感じさせる。

ベルが『強い』としか言えない程には強いらしいし、実力の方も申し分なさそうだ。

 

 

一先ず、彼女の事は置いておこう。

 

仲間が増えた事は非常に喜ばしいことではあるが、7階層やその先に進むには足りない物がいくつもある。

 

「……君達、明日って時間ある?」

 

「明日…?まぁ、僕は大丈夫ですけど……」

 

どうなの?と、ベルがサクヤの方を向く。

 

「私も問題無いが……」

 

「じゃあさ、一緒に防具を買いに行かない?7階層やその先に進むには、ベル君の装備だと厳しいからね。折角だし、オガミさんも一緒に」

 

 

そうして、明日はベルとサクヤ、エイナの3人でショッピングに行くことになったのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。