迷宮には喰種が潜む   作:たーなひ

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九話〜買い物〜

 

今日は、昨日約束した通りエイナ、ベル、サクヤの三人で買い物に来ていた。今は待ち合わせ場所から移動している所だ。

 

その行き先はと言えば、バベルだとエイナは言う。

バベルには神の住処と公共施設と武器屋なんかのテナントがあるとサクヤは聞いていたが、ベルはただ公共施設があるだけだと思っていたらしい。

しかも目当てはあの【ヘファイストス・ファミリア】の店舗。都市でも屈指の鍛治系ファミリアだ。

 

 

バベルに着くと、エレベーターに乗って上へと上がる。

この前恩恵を刻んだ時にこれに乗って降りて来たから特段不思議に思う事はなかったが、ベルはかなり驚いていた。

科学技術が発展していなさそうな世界でエレベーターがどう動いているのか疑問だったが、どうやら魔石を利用しているらしい。不思議パワーだ……。

 

 

バベルの4階に到着したので一度降りる。目当てはもう少し上らしいが、折角だと言う事で見て行く事になった。

 

(たっっか……!)

 

3000万という価格を見て思わず驚いてしまった。

隣のベルも大体似たような反応だ。

 

すげぇな【ヘファイストス・ファミリア】。ここら辺のテナント全部が一つのファミリアの店なのか……。

 

「ああ、この4階から8階までのテナントは全部【ヘファイストス・ファミリア】のものだから」

 

…………すげぇな、【ヘファイストス・ファミリア】。

 

 

ファミリアの規模の大きさに圧倒されていると、店員が声を掛けて来た。

 

「いらっしゃいませー!今日は何の御用でしょうか、お客様!」

 

(ん?なんか聞いた事のある声が……)

 

店員の方を向くと、黒いツインテールの幼女のような容姿。かと思えば異様にデカい胸がアンバランスさを感じさせる。

さて、誰あろう。

 

「……なにやってるんですか、神様」

 

「……」

 

そう。ベルの主神、ヘスティアであった。

 

(バイトをする神様……威厳とかどうなのだろうか)

 

ワーワーと言い合っていたが、上司らしき男の声でヘスティアは仕事に戻って行ってしまった。

 

「……あ、相変わらず、変わった神だね?」

 

「お見苦しいところを見せてすいません……」

 

「大丈夫だよ。じゃあ、上に行こうか?」

 

もう一度エレベーターに乗り上の階に着くと、またまた『ヘファイストス・ファミリア】の店舗が並んでいた。

 

しかしその階にある武器は比較的安く、俺たちの手持ちで十分に買える程度の値段だった。

 

どうやら、まだ未熟な頭角を見せていない鍛治師が打った武器なようで、確かにショーケースに入っていたような武器達とは扱いも違う。

 

 

ここが目的のフロアらしく、別れて自分の目当ての装備を探すことになったのだった。

 

 

(折角だし……武器でも探すか)

 

素手での攻撃力には限界がある。多少怪我をしても治るとは言え、下の階層に進めば攻撃が通らなくなるのは時間の問題だ。実際、7階層のキラーアントの甲殻ですらも手が貫通しなくなっている。まだ打撃として通っているから良いとしても、アレより堅牢になってくるといよいよ素手では厳しくなってくる。少なくともレベルが上がるまでは。

勿論、赫子を使えば攻撃力は申し分無いのだが、いかんせん使うのはリスクが大きすぎる。

 

そこで必要になってくるのが、高い殺傷能力を持った武器だ。それも人というよりもモンスターを狩りやすいもの。

 

急いで用意しなくても良いように思えたが、折角来たのだから探して行こう。

 

「サクヤは何を見てるの?」

 

「あぁ、私は武器を見ようと思ってね」

 

「武器も使えるの?」

 

「んー……多分ね」

 

実際、武器はあまり使った事はない。赫子を武器のように展開することはあっても、武器を使った記憶は殆ど無い。精々喰種捜査官のクインケと呼ばれる武器をちょっとばかし借りたぐらいだ。

上手く扱える自信は無いが戦闘の基本は既に出来ているのだから、慣れてしまえば扱うのはそう難しく無いはず。

 

 

ベルはベルで防具の買い物があるので、バラバラに店内をブラブラと歩き出した。

 

ナイフにバゼラード……長槍に大剣……。

武器を眺めるのも楽しいものだ、などと思いながら流し見て行く。

 

 

ふと、エイナさんが声を掛けて来た。

 

「あれ?もしかして、サクヤさんって今まで素手で……?」

 

「まぁ、そうだね」

 

「へ、へ〜……」

 

スッとエイナは俺の手に視線をやると、すぐに目を逸らした。……なんか若干引いてない?

 

「うん?なんか付いてました?」

 

「あ、ううん!なんでもないの!」

 

「?」

 

血がまだ付いてたりしたのかとも思ったが、真っ白い綺麗な手だ。この手を見てどこに引く要素があるのだろうか……分からん。

 

「え、えーっと、ど、どんな武器を探してるの?」

 

「うーん……」

 

どんな武器……か。

今俺が求めているのは安定性や取り回しのしやすさ以上に破壊力、攻撃力だ。

ベルの使っているナイフ程のレベルであれば破壊力も問題無いのだが、アレはトップブランドである“ヘファイストス”の名が刻まれた一級品の武器だ。数百……いや、数千万ヴァリスは優に超えてくるはず。流石にまだそんな額の武器を買う事は出来ないので、武器の特性として高い攻撃力が見込めるものが望ましい。

となると、やはり大剣や大太刀、戦斧、戦鎚のような重量武器になってくるか。切れ味は勿論必要だが、それに加えて武器そのものの重さも非常に重要だ。ある程度大きい武器であれば、この辺りに置いてある安物でも十分な攻撃力が見込めるはず。

 

「大剣みたいな、重たい武器が欲しいかな」

 

そう言うと、エイナは疑うというよりは、心配するような視線を向けてくる。

 

「重たい武器って……使えなきゃ意味ないんだよ?」

 

(む?そんなに非力に見えるかな……)

 

確かにそれほど筋肉があるようには見えないが、筋肉の密度なんかは人間とは比べ物にならない。まぁ、そんなことをエイナは知る由も無いのだが。

 

「心外だな、エイナさん。こう見えても力には自信があってね」

 

「えぇ?うーん……」

 

(やっぱり信用されてないな……)

 

まさか壁を壊して見せる訳にもいかないし……と、どうやって力を見せるか考えていると丁度ベルが声を掛けて来た。

 

「これにしようと思うんですけど……って、どうしたんですか?」

 

ここでふと名案を思い付いた。

 

「おぉ、良い所に来たな、ベル」

 

ちょいちょいと手招きをすると、防具が入った箱を持ったまんまこちらに近付いて来る。

 

「手ぇ出して」

 

「え?うん」

 

頭に疑問符を浮かべたベルが右手を差し出すと、俺はその手を握って握手を交わす。

 

「え?サ、サクヤ?」

 

「エイナさんがね?私が非力っぽく見えるらしいんだ」

 

「はぁ……」

 

「でも、こうすればちょっとは力があるってこと……分かるんじゃないか?」

 

「え?…………っ!ちょっ!サクヤ!?痛い!痛いって!」

 

右手に力を込め、ベルの右手を砕かんとする。

 

「イダダダダ………!!」

 

叫び声が若干悲痛になってきたので、流石にそろそろ止めておこう。

 

パッと手を離すと、ベルは右手をさすさすとさする。

 

「いやー、悪いね。力を見せる方法がこれしか思いつかなくってさ。ポーションやるから許しておくれ」

 

いくら俺が喰種とは言っても、殺しもしないのに痛めつけるのは趣味では無い。一応申し訳ないと思う程度の気持ちはある。

 

「そういうのは先に言ってよ!」

 

恨みがましい視線を向けて来るベル。

 

「いや、ホントごめん。今度なんか奢るよ」

 

「もう……」

 

不満はありそうだが、一応怒りは収めてくれたようだ。

しかし……人が良過ぎないだろうか。ハッキリ言ってこれは本気で怒っても文句は言えないレベルのはずだが……。

 

 

「……ま、これで力があるのは分かったでしょ?」

 

「えぇ……う、うん……」

 

また引かれてる……流石に仲間を実験台にしたのは心証が悪かったか。

 

「で?ベルは何の用だったんだ?」

 

「あ、そうそう。これにしようと思うんですけど……」

 

そう言って、装備品の入った箱を見せてくる。

中に入っているのは、白い軽鎧(ライト・アーマー)なようだ。

 

「あれ?もう決めちゃったの?」

 

「はい!」

 

「そっかー……良さそうな鎧を見繕ってあげようと思ってたんだけど……うん。ベルくんが使うんだもんね。キミガこれ、って決めたんなら、それでいいと思う」

 

「……ありがとうございます」

 

そう言って、ベルは会計をしにカウンターへ向かって行き、それを見届けたエイナも店内を物色しに行った。

 

 

(んじゃ、俺も探しますか……)

 

予算は10万ヴァリス。ベルの予算である1万ヴァリスと大きく違うのは、俺自身の食費などの生活費がほぼ0に等しいからだ。

 

(それにしても……良い武器が全然見つからない)

 

初めは、どうせ武器の良し悪しなど分からないし多少は安物でも……と思っていたのだが、これが思いの外分かるもので、多種多様な武器を使う捜査官達と命を削り合っていた時間は無駄では無かったと思い知らされる。赫子で武器を形成しているということもあってか、自分が思っているよりも武器の良し悪しは分かるらしい。

 

「まだ探してるの?」

 

店内の物色が4周目に突入したところで、ベルが声を掛けて来た。

どうやら無事に買えたらしく、白い鎧と緑のプロテクターを持ってホクホク顔だ。

 

「そうなんだよ。中々お眼鏡に叶う武器が無くてね」

 

「他の店に行ってみる?」

 

「……そうしようか」

 

 

 

カウンターの前を通り店の外へ出ようとして、ふと立ち止まった。

 

「サクヤ?」

 

「……ちょっと待っててくれ」

 

俺の目に止まったのはカウンターの奥。売り物というよりも、飾り物のように壁にかけられている大鎌(サイズ)

黒いーー恐らく鋼の柄に、紫色の光を発している刃。大鎌(サイズ)と呼ぶには余りにも禍々しく、どちらかと言えば死の大鎌(デス・サイズ)と呼ぶのが相応しいだろう。

見るからにここに置いてある武器の中でも特別良い武器に見える。

 

「……あれは?」

 

店員に声を掛けると、あぁ、と続ける。

 

「見ての通り大鎌だよ」

 

「そりゃあ分かるが……売り物なんだよな?」

 

飾り物にするには些か派手さに欠けているから、おそらくは売り物だと予想した。

 

「……オイオイ、嬢ちゃん。アレを買う気か?やめとけやめとけ」

 

だが、店員は心底心配しているかのように購入するのを勧めなかった。そこまで高い武器なのだろうか。

 

「……なんでだ?」

 

ここだけの話だが、と前置きをして話し始める。

 

「ありゃあな、呪われてんだよ」

 

「……はぁ?」

 

「おっと、勘違いすんじゃねぇぞ?実際に『呪詛(カース)』がかかってるってわけじゃねぇ。“曰く付き”って事だ」

 

「と、言うと?」

 

「元々よ、大鎌使いってのは少ねえんだよ」

 

「はい」

 

それは大いに理解出来る。

明らかに剣や槍とは形状が異なる為、扱いが難しいのだ。比較的扱いやすい剣よりも敷居が高く、使いこなすにはセンスが必要だ。

その点、普段から赫子を鎌の形に取って武器にしていた俺であれば問題無いだろうが。

 

「数少ない鎌使いは、コイツをこぞって使おうとしたらしい」

 

見るからに立派だから、当然、使いたい冒険者も多かったことだろうと想像はつく。

 

「最初に買った一人目は運悪く“怪物の宴(モンスター・パーティー)”にあったらしくてな。その使い手は食い殺されたらしい」

 

怪物の宴。一ヶ所に、一斉に大量のモンスターが生まれることだ。数の暴力に、数多の冒険者が命を落としたと聞く。とは言え、そう何度も何度も起こるようなものでも無い。運が悪かったと言うしか無かっただろう。

 

「二人目は強化種。三人目はダンジョン内で闇討ち。四人目はまた“怪物の宴”」

 

「そりゃまた……」

 

「そっからも何人か続いたらしいが、10人を超えた辺りから買う奴は居なくなったって話だ。そんだけ使い手が尽く居なくなってるってのに、毎度毎度キチンとこの店に戻って来るってのが“曰く付き”って言われる理由だな」

 

話を聞く限りでは、紛うことなき“曰く付き”だ。ただの不幸と言うには余りにも出来過ぎている。使い手を殺す武器…ってところだろうか。

別に物に意思が宿ると本気で信じている訳でも無いが、魔法やら神やらがいる世界なら物に意思が宿った所でそこまで驚きはしない。

廃棄すれば良いとも思ったのだが、そんな武器を処分したら後が怖いということで仕方なく飾っているらしい。

 

まぁ、関係無いが。

 

「で、値段は?」

 

そう聞くと、信じられない物をみたように驚いた。

 

「は?……嬢ちゃん、話聞いてたのか?」

 

「ちゃんと聞いてたさ」

 

「じゃあなんで」

 

「何、どうせ呪いやら不運やらで死ぬようなら所詮はそれまでだったってことだろう?死んだのを武器のせいに出来た彼らは幸せだろうよ」

 

「……俺が売った武器が原因で死なれちゃ寝覚が悪いんだよ」

 

「心配するな。次にこの武器が返ってくる時は、私の『ただの鈍だったよ』って言葉と一緒だ」

 

数秒睨み合う。

 

逸らしたのは、店員の方だった。

 

「……ハン!威勢だけは良いみたいだな。予算はいくらだ?」

 

「え?10万だけど…」

 

「じゃあ10万だ。さっさと払いな」

 

「……そんなに適当に値段決めて良いのか?」

 

まさか、俺が千だと言えば千で済んだのだろうか……?

 

金を払いながら問いかけると、知るか、と言ってから続ける。

 

「どうせ値札なんてねぇんだ。気にすんな」

 

「……それもそうか」

 

無茶苦茶なようだが、無いものは無いのだから仕方が無いだろう。であれば今自分の命に賭けられる最大の価値を賭けさせるのは当然だと言える。

 

 

「おらよ」

 

差し出された大鎌(サイズ)を受け取ると、ずっしりと重さを感じる。

 

「ありがとう。おっちゃん」

 

「ぜってぇもう来んなよ」

 

既に何かしらの作業に移りながら、ぶっきらぼうにそう言う店員。良いやつじゃないか。

 

初めての“自分の武器”というものにワクワクとしながら、ベルとエイナに合流した。




サクヤの容姿が欲しいって感想を頂きましたので、折角やし二ヶ月ぶりにペンタブを握ってみようかなと思います。やる気はあるけど下手くそやから期待はするな。
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