東春秋に、なれなかった男   作:女王の橋

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東春秋
同期。大学のゼミも一緒、学科も一緒、取ってた授業も大体一緒。
以上の事か一馬の比較対象は東という高い目線に。
ある事件をきっかけにギクシャクしている。




第一章 再起 004 東春秋①

気まずい。非常に気まずい。

 

空気を読んで間に座ればいいものの、東を隣の席に押し付けてくるのだから気遣いのベクトルがズレている。

 

「お待たせいたしました。ルビーカシスとギネスでございます。」

「ではでは!横山君の正隊員復帰を祝って…乾杯〜!!」

「「乾杯…」」

 

恐らく東も彼がいるとは知らされてなかったのだろう。

かなりバツが悪そうな顔をしている。

 

「2人して何しかめっ面してるの!久しぶりに顔を合わせたんだから少しは話しなさいよ」

 

勢いに任せて物事を進める沢村に若干イラつき睨みつけるも、本人はすっかりマスターと談笑しており虚しくなった。

 

「小荒井と奥寺は元気か?」

「あ、あぁ。あの2人は元気が有り余っているよ」

「釣りには最近行ってるのか?」

「いや、スナイパーの訓練指揮が忙しくてな。時間を取れてないんだ」

 

気まずい。非常に気まずい。

何より会話が続かないし、意識しなくとも尋問のようになってしまう。

 

「横山君、こういう時くらいトリオン体を解除したらどう?」

「あ?解除ってお前…」

「沢村!」

「…ごめん。うっかりしてた」

 

見かねた沢村が助け舟を出してきたが逆効果であった。

一馬は自宅で過ごしている時以外はトリオン体を解除しない。

事情は彼女もよく知っているはずだが、久しぶりだからかうっかり出てしまったのだろう。

 

「剱持さん、ジャックダニエルのストレートを」

「おい」

「こちらでございます」

 

長い付き合いだからわかることだが東はバーボンは得意ではない。ましてやストレートなど。

さらに何を思ったのがショットグラスの中身を一気に飲み干す。

 

「!!…はぁっ」

「おい、無理すんなよ」

 

大きく深呼吸をし、前髪をかき上げると意を決したように話し出した。

 

 

「なぁ横山。俺は今でも後悔してるよ」

「あの時、お前を信じて待つべきだった」

「それは…わかんねえだろ」

「横山、聞いてくれ。俺は…」

 

「桶狭間!お前の好きな桶狭間だ!」

 

「え?」

「あの時信長は雨が降るって確信があって、奇襲できるって確信があって行動を移したんか?」

「…いいや。それを含めて信長の天運だった」

「だろ。もしもやたらればはない。卒論の時、俺に散々指摘してきたくせに」

 

最初に頼んだブラックレインはとっくに飲み干したのだが、わざとらしくシャンパングラスを傾けて口をつけてみせる。

 

「東さ、俺は蟠りがないって言ったら嘘になる」

「また3人で馬鹿やりたいとも思うよ」

「でもまだ自分自身消化し切れてない部分があるんだ。だから今はそういう類の話はしたくない」

 

「お前の懺悔みたいなのを聞くのはちょっと待ってくれ。少なくとも素面じゃ無理」

「…わかった」

 

東は納得がいっていない様子だったが、最後には諦めて頷いてみせた。

 

「さて…剱持さん、サイドカー三つ!ブランデーはヘネシーのXO使って!」

「かしこまりました」

「ちょっと!誰の払いだと思ってるのよ!?」

「おい横山、サイドカーは勘弁してくれ」

「うるせー。俺の復帰祝いだろ、少しは合わせろよ」

 

結局その日は日付が変わってようやくお開きになった。

 

ーーーーーーーーーー

 

朝方の体調は最悪であった。

相変わらず東とは会話は少なかったが悪くなかったと思う。

 

防衛任務には明日の夜から入ることに決まった。

面識がある隊員とはすぐに顔を合わせることになろうが、迅からのオーダーの一つに着手するべくひとまず本部の食堂へ向かった。

 

 

残念なことにお目当てのカレーは売り切れであった。

ちなみに一馬の好きなトッピングはカツでもなくナスでもなく卵黄である。

仕方なく気まぐれチャーハンに卵黄を落とし未練がましく味わうことにした。

ただ昼時な事もあり席が空いていない。

 

辺りを見渡すとこれでもかとわかりやすい金髪頭。

4人テーブルを2人で使っているではないか。

彼とはそこそ仲が良いため、ひとまず声をかけることにした。

 

「よう、洸太郎。相変わらず、すげー金髪だな」

「一馬さん!やっと戻ってきたんすね!」

「昨日な。堤と小佐野は元気してる?」

 

一馬は仲の良い隊員、とりわけ気の許した隊員は下の名前で呼ぶ。

それは男女共に変わらない。尤も、それが軋轢を生む事も多いのだが。

 

「諏訪さん、こちらの方は?」

「あぁ、お前は前のシーズンの終盤にデビューしたから知らねーだろ。」

「横山一馬さんだ。おっかねえ顔してるがこれでもまだアラサー」

「おい洸太郎、てめー」

 

すかさず金髪頭をくしゃくしゃにかき混ぜてみせる。

じゃれあう2人はさながら兄弟のようだ。

 

「あ、あの!諏訪隊に入隊しました、笹森日佐人です!よろしくお願いします!」

「おぅ…なんて礼儀正しいやつだ…」

「一馬さんこの後暇っすか?良かったらウチの日佐人を一丁扱いてやってもらえねぇ?」

 

良いように使われている気もしたが丁度よい。

前シーズン漆間隊に属していた一馬は終盤に関しては諏訪隊とのマッチングが無かったので笹森を知らない。

それに訓練室に頻繁に出入りしている諏訪なら新顔にも詳しいだろう。

 

「10本。それで諏訪、お前このあと小1時間付き合え」

「よっしゃ!日佐人、またとねー機会だぞ。モノにしてこいよ」

「はい!横山さん、よろしくお願いします!!」

 

震えるほど良い子すぎる…

ヤンキーギャンブラー隊に彼はもったいない気がするのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

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