花騎士短編オムニバス   作:桃色レンコン

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開花寝室やジューンブライドver寝室を見ると「やっぱりハス様って『あの』ロータスレイクのトップに立つ、セダムやリラタや司聖官達の上司にあたる人なんだなぁ…」って再認識させられますね。


見たことの無い景色

ロータスレイク水中都市の王城。

私的に何度も足を運んだこの場所だが、今日は任務のためにブロッサムヒルの騎士団の団長という公的な立場としてここにいる。

 

「確かに、事前に渡されていた目録通りの現物と資料を受け取りました。我が国の機関でも重要課目として研究し、成果を各国と共有させていただきます。ブロッサムヒルの騎士団長様、本日はご足労頂きありがとうございました」

 

そしてその城内の応接室にて、花騎士であると同時にこの国の女王でもあるハス……の部下のカキツバタと机を挟んで対面していた。

 

 

 

今日ロータスレイクを訪れているのは、任務であるものを届けに来たからだ。

最近対害虫の研究機関で開発された映像を記録・出力する魔法がかけられた水晶である。

もしこれが実用化されれば伝令の確実性を上げたり、害虫の行動を記録して早期に弱点の発見出来るようになるかもしれない。

だがこれはあくまで試作品であり、性能もコストも実用化には程遠いため各国で共同研究することになったのだ。

そんなまだ一般には出回っていない非常に重要な物品であったため、この国の女王であるハスとも面識のある自分が水中都市への護送兼説明役として派遣されたのだ。

あいにくハスは急な要件が入り対応出来なくなったらしく、側近であるカキツバタとこうしてやりとりをすることとなった。

 

 

 

カキツバタは受け取った試作品と資料を大切に仕舞い込むと、すぐにこれを研究施設へと届けると言い立ち上がる。

ならば自分も荷物持ちとして一緒に行こうと告げると、カキツバタは丁重にそれを断りカバンを持ち上げた。

 

「団長様。私に構うよりも早く会いたい方がおられるのではないんですか?今頃要件も終わっているはずですから、この時間なら自室に戻って寛がれていると思いますよ」

 

そんな簡単に自分にこの国のトップである女王の所在を教えていいのだろうか?いくら何でもそれは無防備すぎやしないか。

苦笑しながらそう告げると、カキツバタは悪戯っぽくウィンクして勿論ダメだと言い放った。

 

「でも団長様だから特別にオーケーです!私は団長様を信頼していますし、団長様はそれに応えてくださる誠実な方だと理解しているつもりです。何より!あの方自身が団長様と会いたがっておられるのですから!さあさあ、お仕事の時間は終わったのですから、部屋の場所はご存知ですし後はお二人でごゆっくり!」

 

そう言ってカキツバタは満面の笑みで応接室から出ていった。

…そこまで信頼されているのであればそれに甘えよう。何より、カキツバタの言った通り彼女に早く会いたくて仕方がなかったのだ。

応接室から出て何度も通った城内の通路を歩いていくと、迷うことなく目的の部屋に辿り着く。そして部屋の扉をノックして声をかけると、中から部屋の主の入室を促す声が聞こえてくる。その声に従い中に入ると、

 

「団長!あぁ、久しぶりだなぁ…。ずっと卿とこうして抱き合いたかったんだ…!」

 

豪奢な衣装を身に纏った長いピンク色の髪の少女……この国、ロータスレイク水中都市の女王ハスが嬉しそうな顔をして胸に飛び込んできた。

 

 

 

ロータスレイク女王のハスとブロッサムヒルの騎士団長の自分は、国も身分も違えどれっきとした恋人同士である。

この国に私的な理由でたびたび訪れるのも、当然ハスとの逢瀬のためだ。

お互い女王と騎士団長という多忙な身分のためなかなか会う機会を作るのは難しかったが、それでもハスが花騎士としてブロッサムヒルを訪れたり自分がロータスレイクに任務で来た時には必ず顔を合わせて甘い時間を過ごしてきた。

 

 

 

しばらく二人で抱き合い、たっぷりと時間をかけて唇を重ねる。離れていた分の時間を取り戻さんと言わんばかりに温もりを求めあい、唇を離した頃にはお互い息が上がってしまった。

 

「すまなかったな団長…。本来であれば私自身が卿を迎え入れ対応したかったんだが、どうしても外せなかったんだ…」

 

ハスは申し訳なさそうに言葉を紡ぐが、この国の女王であるハスは多忙を極めていると分かっている。今日こうしてちゃんと会えたのだから問題ない。

 

「う、うむ…公務では無かったのだが…まあ、卿と会えたことに比べれば些事だな!立ち話もなんだ。話したいことだって山ほどあるし座ろう」

 

そう言ってハスはメイドを呼び茶を持ってこさせ、二人で語り合いながらゆったりとした時間を過ごしていった。

 

 

 

ところで今日はちょっとした面白いものを持ってきたのだ。ぜひハスにも見て欲しくて無理を言って借りてきものだ。

 

そう言って荷物の中から持ってきたものを取り出しテーブルの上に置く。それをハスは興味深げに見て、その正体に気付くとあっと驚きの声を上げた。

 

「なっ、これ…例の水晶ではないか!まだ実用化されていなかったはず…なぜ卿がもう一つ持っているんだ?」

 

微弱ながらも魔力を帯びた透明な球。それは、任務でこの国に運び込み先ほどカキツバタに引き渡した水晶と同一の物である。

 

実はこれは先輩の騎士団長から借りた物だ。実験の一環で実際にこの水晶を使っている先輩があちこちで撮った各地の珍しい風景が記録されており、その内容が面白かったためぜひハスと一緒に見たくて頼み込んで借りてきたのだ。

 

「ほう、卿がそこまで言うほどとはな。ここで一緒に見よう。楽しみだ!」

 

ハスは他国の風景と聞き、目を輝かせながら水晶に手をかざし大量の魔力を送り込む。すると水晶が光りだし、溜め込まれた映像が流れ出してきた。

 

「なるほど…確かにこれは面白いな……」

 

本来であれば実際に旅して目にするか絵で見るしかない珍しい風景が、空中に投影され目の前に映し出されていく。

ノイズ混じりで途切れることもあるとはいえ音まで入っており、二人で持ち主の達者な実況や解説に聞き入ってしまう。

本来の持ち主である先輩騎士団長は士官学校時代から口が達者であり、その才能がいかんなく発揮されていた。

 

「これは良いものだな。この目で実物を見るよりも遥かに劣ると思っていた映像がこうも娯楽として成り立つとは。もしこれが一般に払い下げられ出回るようになれば世の中はひっくり返ること間違い無しだ。戦いの補助としてのみならずこういう使い道もある……実用化の研究だけでなくこうした利用法も今の内から研究させるのもアリだな…」

 

ハスが映像を楽しみながらも別の利用方法を考えていると、先輩団長の恋人である花騎士の映像が映し出される。

楽しそうに未発表の新作の服に着替えては撮っている先輩に意見を求め、褒められるたびに嬉しそうに笑っていた。恋人に向けられる彼女の表情はとても眩しく、彼を愛しているのがそれだけでよく伝わってきた。

そして最後に彼女の生まれ故郷の雪景色を背景に彼女を映したところで水晶の光が消え、記録されていた映像は終了した。

 

 

 

「彼女とは花騎士としての任務で何度か一緒に戦ったことがあったが…そうか、彼女が話していた恋人が卿の先輩だったのか…」

 

途中まで楽しそうにしていたハスであったが、彼女の姿を見てから何やらしんみりとした表情を浮かべていた。

 

「彼女は恋人と共に自由に色々な場所に行き、様々な思い出を作っているのだな……。それに比べて私は卿と逢うことすら難しく、恋人らしいことを全然出来ていないな…」

 

そんなことはない。逢った回数や頻度など些細なことだ。何より愛し合っているのが大事な事だろう。

そう言ってハスの言葉を否定するが、ハスは力なく笑いを返す。

 

「今日卿を出迎え出来なかったのもな、父が直接出向いてきて見合いの話を持ってきたからなんだ。『お前は女王なのだから相応の相手を伴侶にしなければお互いに苦労するぞ!』とな。余計なお世話だと聞き流していたが……こうして楽しそうに色々な場所を恋人と共に訪れる彼女の姿を見ると、あながち間違いではないかもしれんと思ってしまった。私は卿の重荷になっているのではないか、とな」

 

ハスがそこまで言ったところで椅子から立ち上がり、彼女をギュッと抱きしめた。

恋愛の形は人それぞれなのだ。彼女達には彼女達の、自分達には自分達のやり方というものがある。ハスが言ったようなことなど自分は一度も思ったことなど無い。たとえ今はなかなか逢えなくとも、自分の横に立っているのがハス以外の女性であるなど想像出来ないし、ハスが自分以外の男の物になるなど想像すらしたくない。

 

「団長……んっ…」

 

こちらの考えを告げ、その想いを行動で示すためハスの唇を塞ぐ。

ハスもそれに応じてこちらの背中に手を回し、抱き返してくれた。ハスと会えないことに比べてば自由に様々な場所へ出歩けないことなど小さなことだ。何より、これから二人で歩んでいくことこそが思い出なのだ。

 

口付けはヒートアップし、舌を絡ませ合っていく。ハスを求め、より深くで繋がりたいという興奮が高まりハスのスカートに手を伸ばし

 

「……コホン」

 

……ずっと同じ部屋にいてお茶を淹れてくれていたメイドさんの咳で、二人きりではなかったことをようやく思い出した。

 

「だだだ団長っ!今日は泊っていくのであろうっ!?そろそろ客間に荷物を置いて来てはどうだろうっ!?夕食も共にしようっ!?」

 

そうだなっ!ではそろそろ一度お暇させてもらおうかなっ!?あと水晶を預けた研究施設に挨拶に行きたいしなっ!?

 

「うむっ!では施設までの道案内を手配しようっ!それまで部屋でゆっくりしていってくれっ!なっ!」

 

揃って顔を真っ赤にし大急ぎで体を離し、早口で捲し立ててその後の行動を口にする。

二人の慌てように流石に申し訳なさそうにしていたメイドさんを尻目にハスの部屋を出て、他の使用人に用意された客間まで案内してもらった。

 

 

 

その後ハスと共に夕食を楽しみ寝る時間となったが、そこでようやく例の借り物の水晶が無いことに気付いた。

夕食の時にはハスは何も言っていなかったが、よくよく思い返せばあの時水晶を荷物の中に戻した記憶はない。

ならば、あれは今ハスの部屋にあることになる。借り物であるし、何より大切な物なので本来は常に手元に置いておかなければならない物だ。

 

ちらりと時計を確認したあと、大事な物を取りに行くのだから仕方ないという言い訳をして部屋を出る。

そしてハスの……夜中の女性の寝室まで赴きドアをノックし、部屋に招き入れられた。

 

 

 

しばらくして扉の鍵が閉められ、次に開けられたのは朝日が射し込む時間になってからであった。




後日例の水晶を返しに先輩の執務室を訪れると、映像に映っていた恋人の花騎士も一緒にいたので礼と共に映っていた服のことを褒めておいた。

「あら、あのハス様の恋人の団長さんに褒めて貰えるなんて光栄ね♪…そうだ!もしよければ前一緒に任務に就いたよしみってことでハス様に服をプレゼントさせてもらえないかしら?」

それはありがたい。ハスも以前一緒に戦ったことを覚えていて話していたから喜ぶだろう。今度こちらに来る予定があるからその時に是非渡してあげてほしい。

「ふふっ。女王様にも着てもらったブランドってことでロータスレイクに支店を作るとき良い宣伝にもなるわね♪ハス様は可愛い系も大人っぽいのも似合うだろうし次に会う時までに気合を入れて作るわよー!」

これを機にその後もハスと彼女の交友は続き、ハスは彼女との文通で絵葉書を貰うという楽しみが増えたのだった。
ちなみに先輩と彼女の結婚式ではサプライズでメッセージを送り、他国の女王直々のメッセージということで参加者の度肝を抜かせていた。
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