花騎士短編オムニバス   作:桃色レンコン

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お酒お酒飲めますよー!お酒飲めますよー!
ブロッサムヒルはフェリアの花園でお酒飲めますよー!
バナナオーシャンはいい汗かいてお酒飲めますよー!
ウィンターローズは暖を求めてお酒飲めますよー!
ベルガモットバレーは山の幸でお酒飲めますよー!
リリィウッドは紅葉見ながらお酒飲めますよー!
コダイバナは勝利祈願でお酒飲めますよー!
ロータスレイクは特に理由ないけどお酒飲めますよー!
お酒お酒飲めますよーお酒飲めますよー!


酒飲みオンナ

窓から眩しい光が射し込み、朝を迎えたことを告げている。

未だに覚醒しきっていない頭で無理やり体を起こし自身の体に目を向けると、ここでようやく自分が何も身に纏っていないことに気付いた。

 

「すぅ……すぅ……」

 

隣から可愛い寝息が聞こえそちらに目を向けると、自分と同じように裸でベッドに入り、幸せそうな寝顔をしている花騎士がいる。

何故彼女がここにと疑問符を浮かべていたが、脳が徐々に覚醒してきたことでようやく前日のことが甦ってきた。

 

今日は休日。そしてブロッサムヒルの城下町で祭りが行われる日である。

彼女とは以前から一緒に祭りを回る約束をしており、そのために昨夜はここに泊まり同じベッドで一夜を共にしたのだった。

 

時計を見ると習慣として体に染み着いたいつもの起床時間。祭りは昼からなのでかなり余裕はあるが、酒をしこたま飲んだ彼女には朝食をしっかり摂らせて体調を整えた方がいいだろう。

寝顔をもっと見ていたいという欲求をぐっと堪えて裸の彼女に手を伸ばし、双丘の方向に伸びかけた手に軌道修正をかけて肩を揺する。

 

「んん~?……んぅ…んぁ、だんちょぉ……おはようございます…。ふぁー…んんー…!」

 

目を覚ました彼女……騎士団の部下であり恋人でもあるヘザーは体を起こし、こちらに挨拶をして豊満な乳房を隠すことなく体を伸ばした。

 

 

 

しばらく二人でベッドから出ずゆったりとした時間を楽しんでいたが、空腹を感じたことでようやく起きる決心がつく。

さすがにこんな朝っぱらから裸のまま過ごすわけにもいかず早々に着替え、ヘザーが台所に立ち朝食の準備を始める。

その間に昨日ベッドに入る前に脱ぎ散らかした服を籠に放り込むが、そこには当然ヘザーの服や下着も含まれている。

 

「風に舞うふんふふーん♪」

 

では今彼女が着ているのは何かというと、ヘザーが以前ウチのタンスに押し込んだものだ。そこから当たり前のように引っ張り出して着替え、男である自分に女物の服や下着の片付けを任せてくれているという現状に、エプロン姿で鼻唄を唄っているヘザーの背中を見ながらこそばゆさを感じてしまった。

 

 

 

「何だかこうしてると、私たち夫婦みたいですね」

 

ヘザーが作ったスクランブルエッグとトーストを食べていると、向かい合って食べているヘザーがニコニコとしなが言ってくる。

確かにヘザーとは恋人だし、一端の男と女として何度も愛を囁きあい朝を迎えてきた。

おまけに最近は彼女がここに泊まる頻度も増え、服や食器といった私物もどんどん増えてきている。先程の料理も、調理器具や調味料の配置を完璧に理解して台所を完全に使いこなしていた。

 

言われてみれば、こうしてヘザーと食卓を囲むのもだんだん当たり前のように感じている自分がいる。

 

「んふふ~。じゃあ旦那様~。わたしぃ、欲しいものがあるんですぅ~」

 

頬を赤らめ上目遣いでぶりっ子しだすヘザー。だが残念ながらその目論見は目線でバレバレである。

先日騎士団上層部の上司から貰った上物の酒。それを飾っている棚を先程からずっとチラチラ見ていたのだ。唐突に言い出した甘い言葉も、これを引きずり出すための謀略であろう。

 

だがダメだ。これは祝い事などの然るべき時に開けると決めているのだ。何より今はまだ朝。おまけに昼からは二人で祭に行くのだから飲んでいいわけがなかろう。

 

「えぇー…団長ばっかりツテでそんな良いお酒貰えてずるいですよぉ!ちぇ~、デート前の景気付け作戦失敗です。……でも、夫婦みたいって思ったのは本当ですよ?」

 

…なら、ヘザーさえよければ一緒に住もう。

今は時々泊まるくらいでヘザーの物も少ししか置いてないが、ここにヘザーの物も持ち込んで一緒に生活しないか?

その時に、二人に開けて飲まないか?

 

「だん、ちょっ…!えっ、えぇっ、同棲!?きゅ、急にそんな事言って困りま、いえ、困らないんですが…。そ、その…よろしくお願いします」

 

不意打ち気味に提案したせいで断られたらどうしようと内心ドキドキしていたが、ヘザーは受け入れてくれた。

こちらからも、よろしく頼む。

 

「あ、勿論それだけじゃ絶対に足りませんから同棲のお祝いをするときはもっとたくさんお酒を用意しましょうね♪」

 

……彼女がうっとりするような良い酒を用意しなければならないな。

 

 

 

そんなやり取りで午前中が過ぎ、日が天高くまで登り詰めた。

騎士団長と花騎士としてでなくただの一組の男女として城下町を訪れると、そこは既に熱気で包まれていた。

 

「おおーっ!ブロッサムヒルは普段から人が多いのに今日はまた一段と凄い数です」

 

今日は、待ちに待った城下町での祭だ。

温暖で気候が安定したこの時期のブロッサムヒル、しかも女王陛下のお膝元である城下町で行われるということもあり、毎年かなりの規模で行われている。人が集まれば金も集まるということで、各国から稼ぎを求めて来た商人や料理人が屋台が開き街は大にぎわいだ。

 

そして当然、そんな各国の料理に合うような様々な酒も提供される。

 

「くぅ~!待ってました待ってましたー!さあ団長っ!今日は昼からお酒を飲んでおやつがわりにお酒を飲んで夕飯と夜食と一緒にお酒を飲みまくりますよーっ!」

 

そして当然、呑兵衛はこのテンションである。

ヘザーが祭に参加したがっていたのは、屋台の料理ではなく酒が目当てだからだ。

各国から持ち寄られた酒を美味い食べ物と共に飲み歩くことが出来るということで、数日前から随分とテンションが上がっている。

 

「ごくっ、ごくっ、ごくっ……!かーっ!やっぱりどんな時でもまず一杯目はこれですねー!濃くていいですねー。そしてこの唐揚げもいい塩梅で…美味いっ!」

 

気付けばヘザーは既に祭の目的にありついており、唐揚げをアテに飲み始めていた。

じゅうじゅうとまだ音を立てている熱々の唐揚げに、シュワシュワと泡立ち白と金のコントラストを描く酒。そんなもの合うに決まっている。反則的組み合わせだ。

 

「これほんと美味しいですっ。団ちょ…あなたも食べてください、はい、あーん♪」

 

往来のど真ん中だというのに唐揚げを差し出され一瞬躊躇してしまうが、同棲が決まり新婚ごっこに興じているヘザーは期待のこもったキラキラとした目でこちらを見てくる。

これを無下に断るなど男が廃る。周囲の暖かい目を意識せぬようヘザーの手で口に運んでもらい、咀嚼して味わう。

 

…美味いっ!

噛むたびに柔らかな肉が弾けてジューシーな肉汁が口の中に広がり、旨味を舌にもたらしてくる。味付けも脂の旨さを引き立てるよう絶妙な加減がされており、いくらでも食べられそうである。

だが何かが足りない。いや、足りないものが何かなど最初から分かりきっているではないか。

 

「ふふっ、はいどーぞ」

 

ヘザーが差し出してきたコップを受け取り中身を一気に飲み干すと、炭酸が口内の脂を押し流しすっきりとさせ、代わりに美味い苦味とアルコール特有の熱さをもたらしてくる。

この出会いのために両者は生まれてきたのかと思わせるようなタッグ。酒が飲めることがどれほど幸せなことなのかと分からせられ、心は完全に屈服していた。

 

酒と料理に舌鼓を打っていると、ふと今手に持っているものが何なのかを理解する。

これは…もしや先程までヘザーが口を付けていたコップではなかろうか?

彼女の方を見ると悪戯成功と言わんばかりの表情を見せているが、酒とは明らかに違う原因で真っ赤であった。

 

「え、えへへ…今までいっぱいキスして、それ以上のこともいっぱいしてきたのに…何だか恥ずかしいですね」

 

自爆気味のヘザーが微笑ましく、そしていつも以上に可愛く思える。

 

ウチのお嫁さんはいたずらっ子だな。

 

「おおお、およっ!?だ、団長っ、まだ、まだ早いですよぉっ!?」

 

お返しとばかりにヘザーの耳元で囁くと、お嫁さんという言葉に過剰に反応し朱色が耳まで広がっていく。

さすがにからかい過ぎたと思ったが、どうやら浮かれているのはヘザーだけではなかったようだ。

 

まだまだ日は高い。ここで愛を囁きあってもいいが、それで互いに疲れ果ててはせっかくの祭を楽しめない。

増えてきた人混みではぐれないよう手を差し出すと、ヘザーは嬉しそうに握り返してきた。

 

「もうっ、いたずらっ子はどっちですか!よーしっ!こうなったら団長の奢りで夜まで飲みまくりますよー!」

 

勘弁してくれと笑いながら、手を繋いだまま二人でゆっくりと歩きだした。




ブローディアやシイタケといった村娘もいいですが、ツツジやヘザーといった街娘もいいですよ~。

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