その日は、10月に入ったというには不釣り合いで真夏を思わせるように日差しが強く、太陽がむき出しになった路面を照り付けていた。しかし、これもレースに対するドライバーの熱量がそうさせているのかもしれない。
パドックはちょうど日陰になっているから暑さはだいぶ和らいでいるものの、それでも長袖だとすこし汗ばんでくる。これから約2時間、この暑さの中でらぁらがライバルたちと孤独な戦いをするのだと思うと、いくららぁらが自分から名乗り出たこととはいえ、みれぃは、らぁらのことが心配になって、居ても立っても居られなくなった。
「そふぃ、ちょっとここ頼むぷり」
それだけ言うと、みれぃは、チーム代表であるにもかかわらず、そふぃの返事を待たずしてさっと路面上へと駆け出していった。そふぃは、そんなみれぃの後ろ姿を見て、少しほほえましく思え、うめぇぼしを食べて、みれぃの代わりにレース開始直前のチームを切り盛りし始めた。
らぁらは、マシンの中でひとり震えていた。ぎゅっと目をつむってしまう。3回のフリー走行と予選での走行で、ある程度F1マシンを操縦することに慣れてはきたものの、いまだに時速300km以上まで加速することが怖い。あんなに長いと思えた西ストレートも一瞬で130R、シケインが現れる。今までのダンスとはあまりにもリズム感覚が違うし、タイヤバリアやグラベルがあるとはいうものの、クラッシュをするのは最悪の場合死に直結するので、それらに対する恐怖をいまだに拭うことはできない。前日の予選でも、ペッパーが単独でクラッシュを起こしており、マシンが反転して、フロントノーズ部分がバラバラに砕けているのをこの目で見てしまった。コックピット後方上部のインダクションポッドも損傷していたようだ。ペッパーこそ無事だったものの、一時意識を失っていたようで、衝突した場所が悪ければ大惨事になっていたという話も聞く。らぁらは、精神的に、この決勝で優勝するどころか、完走することすらも危うかった。
少し目を開けると、チームのスタッフが、タイヤウォーマーでタイヤを温めてくれているのが目に入った。そのたびに、感謝の気持ちと、これほどまでやってくれているのに、完走できなかったら申し訳ないという気持ちがこみあげてくる。マシンの操縦をみれぃに代わってほしかったが、他方、自分がみれぃのようにチーム代表を務めることもできないだろうことは自覚していた。自分ができることは、いつものようにがむしゃらにマシンを操縦することだけだった。今ではその取り柄さえ、恐怖の中で沈黙している。
フォーメーションラップが近づいてきた。ふと顔を上げると、みれぃがこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。思わず笑顔がこぼれてしまう。手を思いきり上げて、思い切り振りたいが、マシンの中で思うように手を動かすことができないのがもどかしかった。
みれぃは、らぁらのマシンのすぐ横まで来ると、らぁらに顔を近づけてこう言った。
「大丈夫ぷり?」
「うん……」
「元気ないぷりね。まだ、マシンに乗るのが怖いぷり?」
「うん……」
「このフェラーリのマシンは、そんなに簡単には壊れないぷり。タイヤバリアもそこら中に張ってあるぷり。大丈夫ぷりよ」
「でも昨日の予選でペッパーがクラッシュしてて、衝突の場所がちょっとずれてたら命に関わる重大事故になってたかもっていうスタッフさんのお話を聞いたよ! それに、2014年の日本グランプリでF1ドライバーのビアンキ選手が死亡事故を起こしたって……」
「ペッパーのクラッシュは、ペッパーが無茶な操縦をしたのが悪いぷり。ププカはランオフエリアが広いし、らぁらはそんな無茶な運転をしないから、大丈夫ぷりよ。それに、2014年の事故だって、あれはハイドロプレーニング現象によるものぷり。昨日からずっと晴れてるし、今日もレース終了まで雨の予報はないし、大丈夫ぷり」
「うん……、だけど、なんだか嫌な予感がするの」
「それはどんな予感ぷり」
「よく分からないけど……」
「それなら、ただらぁらが悪く考えてしまっているだけぷり。そんなのらぁららしくないぷりよ」
「そうだけど……」
「F1は、好きぷり?」
「うん」
「なら大丈夫ぷり。らぁらの実力をひびきやレオナたちに見せつけてやるぷり」
「かしこまっ!」
らぁらは、いつものようにピースを目の横で決めてみせる。しかし、やはりこの恐怖は簡単に拭えるものではなかった。しかしながら、みれぃは、わざわざレース直前にもかかわらずらぁらに声を掛けに来てくれて、これだけ心配してくれているのだ。スクーデリア・そらみスマイルというチームのためにも、そしてみれぃのためにも、自分が優勝して、あのセインツが着て以来となる伝説のコーデを獲得しなければならない。
みれぃとともに、スタッフたちがマシンを駆け足で離れていく。らぁらは、ステアリングを握りしめ、そして大きく深呼吸をした。もうすぐ、フォーメーションラップが始まる。
セーフティカーが発進して、フォーメーションラップが始まった。ひびきは、ペッパーに続いて2番グリッドからスタートする。昨日の予選は、自分としても上出来だった。マシンが5台と少ないことから、予選はノックアウト方式ではなく、いきなり、決勝のスタートグリッドを決めるものとなったが、そんな緊張もなく、一回の走行で自己ベストを出すことができた。1分30秒114。フリー走行でも31秒を少し切るくらいだったのでそれと比べたら申し分ない。ペッパーが1分29秒台をたたき出したのには恐れ入ったが、彼女は、クラッシュも起こしているし一発の速さがあるだけと見え、決勝ではおそらく相手にならないだろうと思った。2番グリッドとダーティサイドになってしまったけれど、1コーナーまでにうまくポジションを取ることができれば、1コーナーでの争いをうまく抜けられるだろう。
ファイナルエアリーを出したらぁらに負けた。神アイドルグランプリでもあのらぁらのチームに負けた。2度も負けた。もうリベンジのチャンスはないと思っていたところで、プリパラ運営から突然発表されたこのププカでのプリパラGP。優勝者には、あのセインツが獲得して以来、誰も獲得することがなかった伝説のコーデを得られるという。これはらぁらたちにリベンジする絶好の機会である。もう負けるわけにはいかない。このプリパラGPでまたしてもらぁらに負けて、さらに伝説のコーデを彼女に譲ることは許されることではないのだ。
逆バンクを抜けて、右左にステアリングを切りながらタイヤを温めるようにして走っていると、サイドミラーに、後ろのドレシGPのレオナが見える。そういえば予選を3番手で終えたみかんは、なんらかの行為でペナルティを受けて5グリッド降格処分を受けたらしい。彼女が何をしたのかには興味がなかったが、あのやっかいなみかんをレオナが防いでくれるというならこちらとしても好都合だった。レオナは、走りこそ安定しているが、彼女が自分を捉えることはないだろうと思っていた。メルセデスの良さを引き出せていないのだ。まぁせいぜい僕の役に立つがいい。
他方で、今回、フリー走行の様子や予選の様子から、らぁらはマシンの操縦が苦手と見え、だいぶ苦戦しているようであった。彼女はいつも苦戦しているようだが、今回のプリパラGPでは違う。これで勝ってもあまり手応えはないが、あのイタリアの駄馬を使っているくらいだから、そもそもルノーを使う自分に勝てるはずがないのだ。ひびきは、何もなければ、優勝するのは自分であると確信した。
チームラジオがつながる。
「ひびきさん、がんばってね。落ち着いて、熱くなりすぎないようにね」
「まほちゃーん、がんばれー」
ふわりとファルルの応援が心地よい。ふと笑みがこぼれる。ヘアピン出口での加速でマシンが少しぐらついてしまった。張り詰めた1時間ないし2時間の直前の最後の癒しのひと時を感じる。フォーメーションラップもスプーンカーブにまで差し掛かり、フォーメーションラップも半分以上を消化した。スタートグリッドまであと少しで戻ってくる。決勝は、間もなく始まる。
「さぁ、各マシンフォーメーションラップへと発進していきました。実況は私、赤井めが兄ぃが担当します。また、解説は、大神田グロリア校長に来ていただいております。大神田先生、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたしますわ」
「きゅいいいいい」
大神田グロリア校長の愛用のハンドクリーナーであるリナちゃんも元気いっぱいである。
「まず、今回のコース、ププカサーキットをご紹介いたしましょう。全長5807メートルのこのコースを53周、307.771キロメートルの戦いです。18のコーナーがあり、世界屈指のテクニカルコースとしてドライバーから愛されています。路面温度は38度。本日は、雨の予報はあるようですが、レース中には降らないだろうとのことです。
さて、今回初開催となるプリパラGPで、合計5チームが参加しておりますが、大神田先生、それぞれのチームを見て、いかがでしょうか」
「そうですね、どのチームも今日のためにがんばって練習を重ね、マシンをセッティングしてきたとうかがっています。出場するみなさんにはぜひとも精一杯がんばってほしいですね」
「今回のピット戦略は、どのようなものになるのでしょうか」
「今回のピット戦略は、どのチームも2ピット作戦を考えていると思われますわ。プリパラGPでは、タイヤはソフトとスーパーソフトの2種類のタイヤを3セットずつ持ち込んでいます。そして、予選で使ったタイヤが決勝のスタート時のタイヤとなります。5チームとも予選でスーパーソフトタイヤを使用していますが、2種類のタイヤをどちらも使用しなければなりませんので、それぞれのチームがどの時点でどのようにソフトタイヤを使用するかにも注目ですわ」
「う~ん、なるほど。ちなみに、大神田先生、ズバリ、今回の優勝候補というのは、どのチームでしょうか」
「どのチームも甲乙つけがたい、と言いたいところですが、やはりトリコロール・ルノーは頭一つ出ているというところでしょうか。ひびきさんのドライビングにはセンスを感じますわ。フリー走行や予選での走りを見ていても、S字を抜けていくときに一度も全くマシンがぶれていなかったのはひびきさんだけでしたから。130Rにも果敢に飛び込んでいきますし、優勝は大いにあり得ると思いますわ。
他方で、ドレシGP・メルセデスのレオナさんもフリー走行から安定した走りを見せていますし、ガァルマゲドン・ロータスのみかんさんもひびきさんに次ぐドライビングセンスの持ち主だと思いますわ。ノンシュガー・フェラーリのペッパーさんは、予選での単独クラッシュが気になるところです。ただ粗削りな走りから、巷ではチェザリス選手のように、『走る解体屋』とのあだ名もつけられているようですけれども、一発の速さのある存在ですから、やはり無視はできないものと思いますわ。
スクーデリア・そらみスマイルのらぁらさんは、どうしてもまだ、アクセルを踏み切れていない感じがあります。そこさえ克服できれば、勝負はどうなるか分からないと思いますわ」
「そうですね。さて、今日の決勝のスタートグリッドの紹介です。昨日の予選で1位になったノンシュガー・フェラーリの太陽ペッパー選手がポールポジション。このままの勢いで突っ走ってポール・トゥ・ウィンを飾れるでしょうか。2番グリッドは、トリコロール・ルノーの紫京院ひびき選手。安定したドライビングで、今大会注目の選手です。3番グリッドには、ドレシGP・メルセデスのレオナ・ウェスト選手。前を行くペッパー選手・ひびき選手を捉えられるか。4番グリッドは、スクーデリア・そらみスマイルの真中らぁら選手。いつものような思い切りのなさが心配されますが、決勝ではどうなるでしょうか。5番グリッドには、ガァルマゲドン・ロータスの白玉みかん選手。昨日の予選では、3位のタイムを出しておりましたが、道路上にバナナの皮を投棄したため、5グリッド降格処分を受けた上で、最後尾の5番グリッドからのスタートです。この位置からどこまで巻き返せるのか、注目です」
「あら、ペナルティの対象行為はそんなことだったんですね。それならば失格処分にしたうえで、プリパラ自動車連盟から追放されてもおかしくないのですが……。事故もなく、けが人もなかったとのことですし、決勝ではさすがにそんなことはしないと思いますので、そういうことを踏まえての判断なのでしょうね」
「各マシンがスタートグリッドまで帰ってきました。まもなくスタートです」
レオナは、マシンを揺すりながらフォーメーションラップを走行し、ホームストレートまで戻ってくると、ひびきの真後ろを離れて、ペッパーの後ろに入り、3番グリッドにマシンを止めた。
緊張する。
今まで、ドレシGPのチームで何度もスタートとタイヤ交換の練習をしてきた。しかし、決勝のこのスタート直前になると、少し早く反応して動いてしまうのではないかという不安が襲ってくる。ジャンプスタートをすればドライブスルーペナルティが課されてしまう。ピットインすると約22.6秒に停止時間を足したタイムを失うことになるが、ドライブスルーペナルティが課されれば、優勝争いから一気に外れることになる。それは、スタートの練習で失敗するたびに感じたことだった。最初にチーム内で、スタートを試しにやってみたとき、タイミングを全然つかめずに、フライングをしてしまった。レッドシグナルが消えると思うタイミングが若干早い。それで苦手意識がついてしまったのか、なかなか克服できなかった。ダンスのときは、もっとうまくやれるのに……。
思えば、今回マシンに乗るのは、ドロシーかシオンだと思っていた。最初にドロシーが「僕が乗る!」と手を挙げたとき、「ドロシーがそう言うなら」と言ったのは、ドロシーの勝気な性格がドライバーとしてふさわしいと思ったからだ。逆に、おとなしい性格のレオナは、ふさわしくないと思った。レオナをドライバーに指名したのは、シオンだった。シオン曰く、ドロシーは自分の判断で突っ走ってクラッシュを起こしそうで、安心できないとのことだった。他方で、レオナなら、シオンが落ち着いて指示を出せるし、戦略をチームで検討していくことができる、ということだった。
とはいえ、実際にフリー走行などで走ってみると、ほかの人はみんな、自分のタイムを上げようと必死なのだ。レオナは、どうしても、他人に進路を譲ろうとしてしまう。アクセルを踏み込んでほかの人のポジションを奪いながらタイムを上げようとすることができない。それは、ドライバーとして致命的な欠点だと、痛感した。
うまくいかない。その思いが、レオナ自身の動きをがんじがらめにし、余計に縛り付けてくる感じがする。しかし、もう何を考えても遅い。エンジン音が、それまでの低く重い音から、高く軽い音に変わる。レッドシグナルの最初の一つが点灯したのだ。
「各マシンがスタートグリッドに着きました。伝説へのポールポジションを取ったのはノンシュガー、それに並ぶは、プリパラ史上最強のドライバーひびき。後方には、シルバーアロー、赤い跳ね馬。大会をカオスに叩き落す天使も控えているぞ。セインツに並ぶために用意された片道切符。その栄光を手にするのは誰か。さぁ、プリパラGP、今、スタート!
ああーっと、みかん選手、いいスタートを切った。ペッパー選手が二番手か。ひびき選手がそれに並んでいる。おおっと、レオナ選手が出遅れている。らぁら選手の後方につく。ああっと、ひびき選手が出る! ペッパー選手も譲らない!
しかし、1コーナーを取ったのは、みかん選手! みかん選手がポジションを4つ上げてきました。続いてひびき選手。3番手にペッパー選手。らぁら選手が4番手、レオナ選手がポジションを2つ落としています!」
「おっと、ここでドレシGPとガァルマゲドンのチームラジオです」
「『レオナ、勇猛果敢、スタートはよくやった。終わったことは気にするな。次のことを考えろ、作戦は変えないからな』
『うん』」
「『みかん、よくやったぞ。ほめてつかわす。あとで肉まん3個やろう』
『わーい。やったなの。うれしいなのー』」
ペッパーからしてみれば、してやられた、という気分だった。みかんが5番グリッドまで降格したことで油断をしていた。いや、油断をしてたのは、ペッパーだけではなかったのかもしれない。今、目の前を走行しているひびきもそうだったかもしれなかった。今はそのひびきにも先を行かれ、3番手に甘んじている。タイヤの摩耗状況としては、ひびきが予選で一回のアタックをしただけだったので、そのタイヤは、ペッパーのタイヤよりもだいぶ状態が良いように予想される。
前に2台もマシンがあり、闘志があいつらを抜かせと叫んでいる。しかし、それでどんどん勝負を仕掛けていけば、ただでさえタイヤを消耗しやすいドライビングスタイルなのに、さらにタイヤを消耗させていくことになる。頭では冷静になって考えられるが、どうしても本能がその思考を止めていた。2周目。まだひびきは目の前にいる。1秒もないくらいの差だ。もうすぐDRSを使用できる。それまでこの差を維持する必要があったし、できるなら、それまでに抜いてしまいたかった。目標はひびきに勝つことではない。一位を取ることなのだ。そのために、みかんを追っていかなければならない。
ひびきは、スピードを抑えているようだった。みかんとの距離は少し離れていく。こんなところで蓋をされていては、たまったものではない。早く抜いてしまわないと。そのとき、チームラジオがつながった。のんからである。
「ちょっと、ペッパー。タイヤを温存すること、分かってる?」
「でも、ひびきが前に……」
「でもじゃない。ひびきさんもペースを抑えてるの。そのタイヤであと15周くらいは走るんだから、ちゃんとペースを考えて」
「分かった。でもDRSが使える最初の周回まで粘らせてほしい」
「じゃあ、3周目までだからね」
しぶしぶではあるが、こののんの指示には従わざるを得ない。のんは怒ると怖いのだ。それにサパンナのお母さんにも連絡されてお母さんからも怒られることになる。それは、予選でのクラッシュ後に実際にあったことである。
2週目のシケインの前をひびきと約0.5秒の差で駆け抜けた。これで、ホームストレートでDRSを使うことができる。シケインをテイルトゥノーズで駆け抜ける。最終コーナーを立ち上がると、KERSを使った。
リアウィングを開いて、どんどんマシンを加速させる。ペッパーは、スリップストリームに入ったと思った。マシンが、ひびきのマシンにどんどん近づいていく。この感覚がたまらない。ひびきがマシンを左右に振るのにつれて自分も同じようにマシンを振る。ひびきが左にマシンを振り、ストレートの中央ややアウト側に寄ったところで、ペッパーは、一気にイン側にマシンを振った。ペッパーのマシンはぐんぐん伸びて、ひびきのマシンと横並びになる。そしてふっとひびきの姿がペッパーの視界から消えた。
ペッパーは1コーナーのインを取った。そしてペッパーのマシンはコーナーを曲がるのに膨らむ。ひびきは、ペッパーよりも早く速度を緩め、1コーナーに浅く侵入し、2コーナーでインを取った。そうして、そのままもう一度ひびきが前に出た。
「現在は、1番手みかん選手、そこから3秒離れてひびき選手、さらに1秒後にペッパー選手、そこから7秒後にらぁら選手、そして1秒遅れてレオナ選手となっています。大神田先生、レースとしても少し落ち着いてきたでしょうか」
「そうですね。ただ、もう15周目に入ってきていますから、予想では、もうそろそろ1回目のピットインがあるころではないでしょうか」
「そうですね。ああー、ひびき選手がファステストを更新しました。34秒9ということで、34秒台に入ってきました。一方でみかん選手は、少しタイムが落ちてきているようですね前の周では、36秒3のようです」
「そうですね。みかん選手は、今日、かなり調子がよさそうだったんですけれども。スタートからかなり飛ばしている印象があったんですけれども、ここで遅くなるというのは、タイヤが限界を迎えているのかもしれません。予選でも、ペッパー選手に並んで多くアタックしていましたから、厳しいかもしれませんね」
「ええ。これは、ひびき選手が追い上げてくるでしょうか。おっと、ここでガァルマゲドンチームラジオです」
「『みかん、魂を交換する時間であるぞ』
『はいなの。タイヤを交換するってことなの』」
「ああ、やはりみかん選手はここでタイヤを交換するようです。ああ、確かに、今ガァルマゲドンピットクルーがピットに出てきていますね。どちらのタイヤに交換するのでしょうか」
「ん、ピットクルーの人数が多くありませんか?」
「ああ、そうですね。確かに一人多いかもしれません。何か秘策があるのでしょうか」
「みかん選手、今、ピットに戻ってきました。用意されているのは、スーパーソフトタイヤです。さぁ、ピットの時間は、どれだけか。おっと少し手間取っているか? 今、発進しました。今、3秒6という数字が表示されています。大神田先生、ちょっとガァルマゲドンチームはタイヤ交換に時間が掛かってしまいましたかね」
「そうですね。何かあったんでしょうか。画面上では何も確認できなかったのですが、タイヤ交換が終わった後も『ストップ』の表示が出されていましたよね。タイヤがうまく装着されたか確認していたのでしょうか」
みかんは、決勝当日、かなり調子がよかった。おそらくレース直前に肉まんを5個食べたからであろう。体に力がみなぎるのを感じた。昨日の予選では、肉まんを1つしか食べなかったので、力がでなかった。そのせいで何度もアタックをしたのに、結局3番手に甘んじる結果になってしまったのである。まぁ、バナナを仕掛けたことなども原因であるが。予選の後、あろまとガァルルといろいろ相談した結果、肉まんが足りなかったのではないか、ということで落ち着いたのだ。そして、今日、肉まんを5個食べたら、スタートからものすごく調子が良い。他方で、周回を重ねるごとに、どんどん調子が悪くなった。一時期は6秒差くらいあったのに、いつの間にか3秒差までひびきが迫ってきている。タイヤも限界を迎えていたので、ちょうどいいということで予定通りピットインをすることになった。
ピットに戻ってくると、タイヤとともに、熱々の肉まんが用意されていた。それをピットクルーから受け取って一つずつ口の中に入れていき、急いで食べる。本当はあろまから食べさせてもらいたかったけれど、あろまは、今、チーム代表で忙しいし、ガァルルも、データとにらめっこしているはずだった。タイヤ交換が終わったのに、食べるのに時間が掛かってしまったが、それでも3個を3秒ちょっとで食べたのだから早い方だろうと思った。腹ごなしが済むと、ピットレーンを通ってもう一度コースへ戻っていく。もうすでにらぁらとレオナはホームストレートを通っていて、15秒ほど差があった。スタート時とは違い、自分一人での走行となる。後続を気にせず、のびのびとドライビングできる。他方で次のひびきがタイヤ交換から戻って来たときに、自分がひびきの前にいる状況を維持しなければならない。ひびきとは、目に見えないながらも、今も闘争状態にある。
「猪突猛進、レオナ、プッシュだ! タイヤのことは気にせずどんどん攻めていけ。この周入れてあと2周したらその次の周でピットインだからな」
ドレシGPのチームラジオで、シオンからの連絡があった。現在18周目に入り、もうレオナ以外のドライバーは全て1回目のピットインを終え、現在のラップリーダーはレオナだった。14秒ほど後ろにみかんが迫ってきている。ただ、らぁらが前からいなくなり、思い切り飛ばせるようになったからなのか、タイムも34秒台に入り、今自己ベストを更新し続けていた。タイヤが摩耗しているとは思えないほど調子がよい。
現時点でソフトタイヤを装着しているのは、そらみスマイルのチームのみで、あとは、みんなスーパーソフトである。そらみスマイルも、17周の最後にピットに入っていったので、ドレシGPとピット戦略は似ていると思われた。第2スティントをソフトのタイヤで長い周回走った後、最後にスーパーソフトに履き替えて、一気に追い上げるのかもしれない。
結局、らぁらを抜かすことはできなかった。らぁらが、予想していた以上にブロッキングがうまかったこともあるが、なかなかいいポジションを維持することも難しかった。オーバーテイクをしようとすれば、相手のマシンとすれすれで闘うことになる。自分が追突すれば、一歩間違えると、相手を吹っ飛ばしてしまうこともあり得る。そういうことを意識すると、微妙に1台入れるようなスペースが空いていてもなかなかそこに突っこみづらいし、らぁらのマシンと衝突しそうだと思ってしまい、スピードを緩めてしまう。スペースにさえ入ることができれば、メルセデスの馬力であとは抜けると思うのだが。
相手をどかせるほどの気概が必要だった。ドロシーなら間違いなく、自分が引くのではなく、相手に譲らせようとするだろう。そして衝突したら、相手のせいにするだろう。シオンだって一歩も譲らないはずだ。F1ドライバーはそういう人が向いているのだと思う。オーバーテイクをしようとするときは、ドロシーやシオンに代わってほしかった。しかし、それはできないし、自分は、任されたのである。自分の性格を言い訳にしてオーバーテイクをしなくてもいいということにはならない。自分がこの状況をなんとかしなければならないのだ。
そのとき、レオナの心を読んだのか、もう一度チームラジオが入った。
「レオナ、焦らなくてもいい。まだレースは半分以上残ってる。これからどういうことが起こるかも予測できない。しかし、進取果敢。ときには大胆に突き進むことも重要だ。あのとき、レオナがいなかったら、ドレッシングパフェは解散していたんだ。私は、あのときのレオナくらい、強引に突き進んでほしいんだ」
「あ、レオナ。僕だよ。ドロシーだよ。レオナ、遠慮なんてしてないで、ガツンとぶつかっていってやれ。誰かが文句言ってきたら、僕が言い返してやるから。ぶつかった相手に対して、気にする必要なんてないんだからね」
「おいドロシー、勝手に人のマイクを取るな」
「ああ、なんでだよ。僕が誰のマイクでレオナと話したっていいだろ」
「シオン、ドロシー、ありがとう。わたし、がんばる」
レオナは、このとき、ドレッシングパフェというチームを再認識した。レースは一人でするんじゃないんだ。ドレッシングパフェの仲間がいて、ほかのクルーの人がいて、みんなで一つのレースを戦っているんだ。わたし一人が不得意なことに挑戦しないなんてことは許されない、みんなががんばらなきゃいけないんだ。
ピットレーンに入ると、少し安心した。ドレシGPのいるピットに入り、タイヤ交換を待つ。ここでは、ドロシーとシオンが上から見守ってくれているはずだった。シオンとドロシーがさっきのチームラジオでの言葉をもう一度語り掛けてくれているようだった。レオナにとって、それがとても心強かった。
「さぁ、レオナ選手がピットに入りました。らぁら選手の位置は? 今、シケインを抜けています。レオナ選手は、タイヤ交換が終わって、ピットレーンに戻っていきます。らぁら選手が、シケインを抜けて最終コーナーを立ち上がる。これは、どっちが前に出るんだ。らぁら選手が一気に加速して、ホームストレートを抜けてくる。レオナ選手は、ピットレーンを出た。1コーナーでの勝負になる。どっちが前に出るのか。レオナ選手が前に出ているか。う~ん、らぁら選手届きません。らぁら選手が外から攻めます。レオナ選手が1コーナーを曲がって、そのまま2コーナーへ向かう。らぁら選手は攻めきれない。レオナ選手、4番手に浮上しました!
いや、まだらぁら選手の追撃は続いているぞ。らぁら選手はマシンをレオナ選手のマシンの後ろにぴったりくっつけています。テイルトゥノーズの闘い。激しい火花が散っている。らぁら選手が外にマシンを振った。ペアピンで攻める。しかし、レオナ選手がこれを見事にブロックしています。レオナ選手、らぁら選手を完全に抑えました」
「ここで、全車ピットインを終えましたので、もう一度順位を整理しましょう。1番手みかん選手、そこから5秒離れて2番手ひびき選手。3番手はペッパー選手、トップとの差は7秒。4番手レオナ選手、トップとの差は13秒、5番手にらぁら選手で、トップとの差は15秒となっております。それにしても、みかん選手が速い。1回目のタイヤ交換の後、水を得た魚のように、ぐんぐん後続を引き離していきます。ああ、またみかん選手がファステストを更新しました。1分32秒6」
「みかん選手は、決勝レースのスタートの時からかなり調子がよさそうに見えますわ。ただ、1回目のピットストップの前に、一気にペースが落ちたことが少し気になります。何かトラブルを抱えていなければよいのですが」
「さぁ、30周目に入っていますが、さきほどまで飛ばしていたみかん選手のペースがなかなか上がりません。むしろ少しずつ落ちています。ああ、30周目は1分35秒6。これはちょっと厳しいか。ああ、ひびき選手がここまで近づいてきています。だんだんその姿が同じカメラで映るようになってきました。その差は2秒弱。みかん選手に一体何が起こってるんだ」
「う~ん、みかん選手が1回目のピットストップを行ったのが……15周目ですわね。タイヤに限界が来ているのでしょうか。ただ、さきほどからの走りを見ていても、特段タイヤに負荷がかかっているようには見えないのですが……」
「う~ん、今、国際映像でみかん選手のタイヤをアップした映像が流れているのですが……、う~ん、特にひどい摩耗は見受けられませんか」
「そうですね、ブレーキのときにタイヤをロックさせて一面だけタイヤを削ってしまうと、フラットスポットが出来てしまうことがあるのですが、そういうものはないようですし、ブリスターなどもないようですが……」
「いわゆる、タイヤの崖が来たということでしょうか」
「タイヤにそれほどひどい摩耗は見られないので、おそらくは違うと思いますが……、ちょっと不可解ですね。何かマシンにトラブルがあったのかもしれません」
「おっと、ここでガァルマゲドンチームラジオです」
「『もう限界なの、早くピットに入れてほしいなの』
『ダメだダメだ、ケルベロスの餌の時間はまだ先だ』
『ほんとにもう限界なの』
『お主は3ピット作戦でもするつもりか! あと5周待て』
『分かったなの……』」
「これは、タイヤに限界が来ているのかもしれませんね」
「そうですね。何かマシントラブルを抱えているという感じではなさそうですわね」
ひびきは、みかんを視界に捉えていた。ようやく捕捉した。1回目のピットストップ前は逃げ切られてしまったが、今回は捉えられると確信した。みかんのペースは26周目あたりからどんどん落ちているらしい。ふわりからのチームラジオで、それを聞いていた。ボードでも教えてもらっていた。それまでひびきは、みかんのプラス0.8秒のタイムで走っていたが、26週目で0.5秒のマイナスに変わったらしい。27週目から29週目でだいたい1秒ずつ近づいているらしかった。この1周で同じように1秒削れば、ホームストレートでDRSを使用できるようになる。オーバーテイクは、それからじっくりやってやる。
後ろからみかんのマシンを見ていると、マシンは安定しているように見えた。S字やヘアピン、スプーンカーブなどのコーナーでも特段、タイヤが滑っている様子はない。どこか分からないが、マシンにトラブルでも抱えているのかもしれない。しかし、そうであれば、そんなやつに付き合っているわけにはいかない。後ろからペッパーも来ているのだ。ペースが落ちたみかんのために、ペッパーとの差まで縮められるのはごめんだ。
130Rをフルスロットルで抜けて、シケイン直前にブレーキをかけると、みかんのマシンの真後ろについていた。次のホームストレートでDRSが使える。みかんの後ろにぴったりとくっついてシケインを抜けて最終コーナーを立ち上がる。
DRSを使用できる区間に入った。KERSを使用し、リアウィングを開ける。もはやスリップストリームに入る必要もなかった。みかんは、抜かせまいと必死にマシンを左右に振って抵抗するが、ひびきがアウトにマシンを一気に振ると、ひびきのマシンはぐんぐん伸びて、みかんを追い抜いた。ひびきが1コーナーを悠々と駆け抜けていく。取った。遂にここまで来た。
「ひびきさん、よくやったわ。上出来よ。このままの調子でがんばって」
「まほちゃん、すごーい!」
ふわりとファルルのチームラジオからも歓喜の声が聞こえる。形式上、そして実質上のトップ。残り23周。喜びたいが、油断は禁物。もう一度気を引き締めて、レースに集中する。もはや、ひびきを止める者は誰もいない。
らぁらは、5位に陥落したことで、これではもうダメだと思い始めた。結局マシンをフルスロットルにすることができていない。自分でも不思議だったが、レオナを抜かせないようにすることはできていた。ただ、これでは優勝は難しい。5位に陥落した今ではもう。
怖いとは思いながらも、結局はアクセルを踏むこと自体はできている。スタートも悪くはなかった。しかし、他のドライバーが速度を上げているところで、自分が速度を上げていなければ離されるだけである。1位の状態でブロックしながらポジションをキープできているというのであれば、話は別であるが、今は最下位だ。速度を上げなければ追いつくことはほぼ不可能である。雨がいいタイミングで降ってくれれば順位が上がるかもしれなかったけれど、みれぃからのチームラジオによれば、さっき抜かれたレオナが同じピット戦略を採っているらしい。であれば、よくて2位であった。どうしようもない壁がらぁらの前に立ちはだかっている気がした。周回を重ねれば重ねるほど離されていく。何かを思い切っているように突き進む130Rでのレオナの姿は、希望の光がか弱く、小さくなっていくように、どんどん小さくなっていった。泣きたかった。自分のふがいなさ、みれぃやそふぃがあんなにがんばってくれていたのに、自分だけ何もできていないという申し訳なさ。
しかし、ここで泣くことはできないのだ。泣きたいと思えば思うほど、みれぃやそふぃの悲しそうな顔が脳裏に思い浮かぶ。そして、泣けば、レオナの姿は見えなくなるのだ。歯を食いしばってなんとか涙をこらえ続けている。でももう限界だ。そんなときに、チームラジオがつながった。
「らぁら、大変ぷり。今、めが姉ぇの緊急の発表があって、この大会で伝説のコーデを取ったチームが神アイドルになるらしいぷり。そして、今、神アイドルのアイドルは、伝説のコーデを取れないと、神アイドルのランクをはく奪されて、パーフェクトアイドルのランクに落とされるらしいっぷり。最初に公表されたルールは全てチェックしたけど、こんな内容は書いてなかったっぷり。今めが姉ぇに抗議してるところなんだけど、『システムで~す』とか言って全く話にならないぷり。こんな後出しじゃんけん絶対に認められるはずないんだけど、ともかくらぁらは、気合入れてがんばってほしいぷり」
「らぁら~、がんばれ~、ぷしゅ~」
「そふぃは、ぷしゅぷしゅしてないで、マシンの状態をちゃんとチェックするぷり。とにかく、らぁら、らぁらだったら、絶対大丈夫ぷり。怖がることは何もないぷり。こんなときに言うのもなんだけど、実は、みれぃもそふぃも、プリパラGPでは不安でいっぱいぷり。このプリパラGPで、スクーデリア・そらみスマイルとして初めて乗りこんだときから。今までのステージとは違う、慣れない判断ばかりで、この判断で本当にいいのか、このセッティングでほんとにいいのか、いつも悩んでたぷり。だけど、そういうときにらぁらが声を掛けてくれたり励ましてくれてここまでやってこれたんだぷりよ。らぁらは気づいてなかったかもしれないけどね。
みれぃはこれまでずっとらぁらの近くでらぁらのことを見てきたから分かる。らぁらなら今の状況を打開できる力を持っているぷり。どんな結果になっても誰も文句は言わない、言わせないから、全力で行ってくるぷり」
「かしこまっ」
「元気がないぷりよ」
「かしこまっ!」
「それでいいぷり。いつものらぁらに戻ってるぷり。じゃあ、がんばるぷりよ」
らぁらは、精一杯の声で応答すると、そのみれぃの返事に、自分の背中をばんと押してもらえたような気がした。今まで3人で支え合ってどんな困難も乗り越えてきたのだ。このプリパラGPだってそう。3人で作戦やマシンのセッティングを考えてきた。今は、マシンに一人で乗っているけれど、それでもいつもずっと、自分の近くにみれぃもそふぃもいて支えていてくれている気がする。それがとても優しい雰囲気でつい笑みがこぼれてくる。ヘアピンを立ち上がるらぁらの手に力が入る。もうためらってなんていられない。みれぃやそふぃのためにもがんばらなきゃ。このレースは、あたし一人のものじゃない、あたし一人がこのレースの結果を背負うわけじゃない、3人で作って3人で戦うんだ。どんな恐怖だって、みれぃとそふぃがいれば打ち克てる。3人でこのレースに勝ちたい。スプーンカーブを抜けて、西ストレートに入っていく。らぁらの足に力がこもる。あたしは絶対に負けない。ギアが上がり、スピードがぐんぐん伸びていく。130Rを全速力で抜ける。らぁらのマシンは、ついに時速320キロメートルにまで達した。
PFIA RACE CONTROL: INCIDENT INVOLVING CAR5 (MIKAN) NOTED EATING “NIKUMAN”S DURING A RACE
「さぁ、レースも終盤に差し掛かっています。全マシン、最後のピットを終えました。現在、42周目に入っています。
さて、先ほど表示されましたとおり、みかん選手の行為について、審議に入ったようです。いったい何があったのでしょうか。今、国際映像では、先ほどのみかん選手のピットインの様子が映し出されていますが……」
「あれ、今何かを受け取りましたか」
「あー、何かを受け取りましたか。ちょっとこの映像ですと、遠くてよく分からないのですが……。確かにみかん選手、タイヤ交換のみにしては、ピットインに時間が掛かっていましたからね。それと何か関係があるのでしょうか」
「ピットクルーが何かを渡すような格好をして、みかんさんがそれを受け取ったように見えましたが……」
「うーん、ちょっとわかりづらいのですが、確かにそのようにも見えますね。うーん、ここは、審議結果を待ちましょう」
「そうですね」
PFIA TIME PENALTY; MIKAN SHIRATAMA +10SECONDS STOP
「先ほどの審議の結果が出たようです。あー、10秒停止ペナルティですか。これは痛い。みかん選手、痛恨のペナルティ。さきほどから、またみかん選手のペースが上がってきていましたが、もはやこれまでか。ここでガァルマゲドンチームラジオです」
「『どうしてなのー』
『肉まんを食べてたのがバレた。くそう、腹が減っては戦ができぬと言うではないか!』
『あら、バレちゃったなの』
『みかん、バレたガル。バナナの皮をコースに置いて撤退ガル』
『あ、バカ、チームラジオでそれを言うではない』
『あ、ごめんなさいガル』
『みかん、今ガァルルから聞いたのだが、もうすぐコースが暗黒に包まれ、地獄の血の池がひっくり返るそうだ』
『すごい強い雨が降るってことなの』
『そうなった段階でタイヤを地獄用に変える。そこで天から喰らいし罰を受けようぞ』
『分かったなの』」
「あー、みかん選手、肉まんを食べていたんですね。それでピットストップに時間が掛かっていたようです」
「確かにプリパラGPのレギュレーションによると、こぼすと汚いのでマシンの上で飲食をとることは禁止、となっていますわね。みかん選手の場合、すぐにお腹が空いてしまって力が出ないので、それでピットイン時に食べていたということでしょうか」
「ああ、なるほどー。そうすると、今ペースが上がっていても、また終盤で、タイヤの崖のようにがくっとペースが落ちる可能性があるわけですね。
それと、さきほどのチームラジオで、強い雨が降るというようなことが伝えられていましたが……。あー、だいぶ空が暗くなり始めていますね。今、国際映像では、トリコロールのチームの雨雲レーダーが映っていますが、かなり濃い色の青が近づいているのが分かります。レース前の予報では、高確率でレース中は降らないだろうと言われていたのですが、ここに来て雲の発達が速くなっています。これはレースの最後に一波乱起こるかもしれません。
おや、ただいま入った情報によりますと、もう西の方では雨が降り始めているようです。これは、12コーナーからスプーンカーブの辺りでしょうか。ああ、確かに、お客さんもちらほらとカッパを着ている人や傘を差している人が増え始めています。大神田先生、これ、どのタイミングでタイヤを変えるんでしょうか」
「はい、このまま雨がひどくなってくると、西側だけが降っているとしても、インターミディエイトに変えることにはなるのでしょうが、他方で東側はまだドライですわ。周回数も少ないだけに変えないという選択肢もあり得るかもしれません。特にらぁらさんやレオナさんは、さきほど新品のスーパーソフトに変えたばかりですから、変えない可能性もありますわ。コース全体で雨が降ればレイン用に交換するとは思いますが、それまでどう出るか、予想できません」
「レオナ、ピットインだ。変幻自在、インターミディエイトに変える」
「分かった」
「ひびきさん、レイン用のタイヤに変えるわ、ピットインよ」
「賛成だ。スプーンのところがかなり滑ってしまう。ドライのままだと危険だ」
「ボックス、ボックス、ボックス。ペッパー、インターミディエイトに変えるからピットに戻ってきて」
「いらない! 大丈夫」
「大丈夫じゃないの! これから雨がもっとひどくなってくるんだから。昨日みたいに危険な目に遭うのはペッパーなんだよ」
「大丈夫。この雨は、すぐ止む!」
「もう、ペッパー言うこと聞いて」
「風の音、空の声、聞こえるんだ」
のんは、頭を抱えた。今大会、ペッパーは比較的おとなしくのんの言うことを聞いてくれていたが、ここに来ていきなりかみつきだした。昨日のクラッシュが頭をよぎる。ペッパーがホームストレートで前を走っていたみかんに追突し、そのままマシンごと空中に放り出されたのだ。おそらくスリップストリームで近づきすぎたのである。マシンは空中で反転し、そのままマシンの下が上を向いた形で飛んで落ちていった。その様子を目の前で見ていて、のんは、あまりの衝撃に呆然としていた。ちりはその場でうずくまっていた。本当にもうダメかもしれないと思った。事態のひどさとは裏腹にマシンは軽快に空を飛んでいた。
マーシャルがすぐさま駆けつけてペッパーをマシンから救出したとき、のんはペッパーがまだ生きているという報告を受けて一気に涙があふれてきたのだった。ペッパーは意識を失っていたものの、それ以外は意外にも無傷で、そのまま病院に行って精密検査を受けたが異常は見つからなかった。ペッパーは、病院から帰ってくると、空を飛んで楽しかったなどと、あまりにも呑気なことを言っていたので、のんは思わずペッパーをどついてしまった。その後、なんとか仲直りをしたものの、あのときに感じた衝撃は、しつこい油汚れのように今も脳裏にこびりついている。ペッパーが空中に放り出されるようなことが二度もあるとは思えないが、それでも雨がこれからひどくなれば、前方のマシンの水しぶきで視界が悪くなり、また追突して大クラッシュを引き起こすおそれはある。
「ペッパー、そこにかしこまりなさぁい!」
「それはできない」
「なんて強情なの……」
「ペッパーは、勝ちたいんだ。のんもちりも、勝ちたくないのか」
「そりゃ、勝ちたいけど……」
「だったら残って走るしかない」
「もう……」
のんは、チーム代表としてどのような判断をしたらよいのか分からなかった。ペッパーの意思を尊重してあげたいと思う。しかし、こういうときは、ドライバーのことを考えて、ドライバーの意思を捻じ曲げてでもチームオーダーに従わせた方がいいのではないかとも思う。ギリギリの判断を迫られるが、もう迷っている時間はない。
「のん、コースの状況やマシンの状態はわたくしがきっちり把握いたしますわ」
ちりが、頭を抱えてうつむいているのんの肩に優しく手を置く。その手がのんの背中を押していた。
「分かった。ペッパー、そのままコースに残って。後はこっちで対処するから。だけど、どこでどうするかは、こっちから指示があったらそれに従って」
「分かった。のん、ちり、ありがとう」
のんは、この判断が正解なのかは分からない。その判断をしたことで不安でいっぱいであった。しかし、そんな不安を拭い去ろうとするかのように、必死に画面を見つめた。
「らぁら、ピットインぷり。雨がひどくなるぷり。みれぃの計算では、安全のためにも、ここでタイヤを変えておくぷり」
「ううん、あたし、コースに残る」
「そんな、無茶ぷり」
「大丈夫。ここで残らないと、この後ひびきさんの前に出る機会なんてない。このあたしたちの神アイドルのランクがかかってるんだもん。みんなであんなにがんばって、いろんな人に支えられて勝ち取ることができたものなんだもん。簡単に捨てていいものじゃない。このレース絶対勝たなきゃいけないの。それに、みれぃとそふぃがついていてくれるもん。絶対に乗りきって見せる」
「そんなぁ。みれぃ個人の意見としても、らぁらを、この雨の中ドライタイヤで走らせるのは、あまりに危険すぎて許すことはできないぷり。神アイドルのランクなんて後からいくらでも挽回できるけど、命は代えられないぷり」
「みれぃ、あたし、大丈夫だから、信じて」
「らぁら……」
「みれぃ、小鳥さんたちがこの雨はすぐ止むって。だかららぁらを信じましょ」
「そふぃまで……。もう分かったぷり。らぁら、そのままコースに残るぷり。だけど、みれぃと1つだけ約束してほしいぷり。生きて帰ってくるって。絶対守ってほしいぷり。守らなかったら絶対許さないぷりよ」
「うん、みれぃ、そふぃ、ありがとう、あたし、最後までがんばる。3人で、チームのみんなで優勝を勝ち取るんだ」
「さぁ、現在43周目ですが、雨がひどくなってきました。コース全体で降ってきましたね。まず、ひびき選手がピットに入ります。続いてレオナ選手。ペッパー選手は、ピットに入りません。おおっとらぁら選手も、これはコースに残るということでしょうか。いやぁ、判断が別れました。これはいったいどうなるんだ。
ひびき選手が、ピットレーンを出ていきます。らぁら選手との差は、10秒といったところでしょうか。ペッパー選手とらぁら選手は、タイヤ交換しなかったことが吉と出るか凶とでるか」
「ペッパーさんとらぁらさんとの差が、今、5秒ですか。らぁらさんは、先ほどからペースがかなり上がっていますわ。こちらも追いつきそうですわ」
「ああ、確かに、らぁら選手の42周目のタイムが、1分30秒7。33周目あたりからかなりペースが上がってるんですね。一方で先ほどの42周目のペッパー選手のタイムが1分31秒3ですから、一周でコンマ6秒縮めていますね」
「この優勝争いからも目が離せませんわ」
6raps Remaining
「あーっと、ペッパー選手が、大きくはみ出している。その隙にらぁら選手が前にでた!これでスクーデリア・そらみスマイル1位! この決勝で、初めて1位に踊り出ました! そらみスマイル陣営もこの大喜びです。優勝まであと6周。このタイミングで、らぁら選手が1位に躍り出ました!
さきほどのリプレイ映像です。ああ、ペッパー選手、スリップしてしまっています。これは、スプーンカーブの辺りですか。う~ん、ペッパー選手、ここで痛恨のミスが出てしまった。」
「ペッパー選手は、今日、すごくいいレースをしてただけに、このミスは悔やまれますわ」
「おっと、そのミスをついて、ひびき選手も迫っています。その差は、3秒。これ、もしかしてドライタイヤは、相当厳しいんですかね」
「その可能性はありますわね。さきほどひびきさんがチームラジオで言っていたと思うのですが、スプーンカーブのあたりの路面コンディションがかなり悪そうですわ」
「そうすると、らぁら選手ももしかしたら、ということもあり得るかもしれませんね」
「そうですわね。あそこでタイヤを交換する方が正解だったかもしれません」
「う~ん、らぁら選手は耐えられるか、スクーデリア・そらみスマイル、正念場が訪れています」
4raps Remaining
「ああ、やはり起こってしまった! らぁら選手がスリップしている。そして、その横を、ひびき選手が、今、通過した! ひびき選手、1位を取り戻しました。ペッパー選手は、どうだ? らぁら選手は、今コースに復帰。ペッパー選手は、届かない。ただ、そらみスマイルは、喜びもつかの間、2位に陥落しました!」
「これ、さっきのペッパーさんと同じ、スプーンカーブの入り口ではないですか」
「ああ、今、リプレイ映像が流れています。う~ん、確かにそうですねぇ。やはりドライではきつかったか。ひびき選手、余裕でらぁら選手の横を通り過ぎて行っています」
「おや、これ、雨が止んでないですか」
「ほんとですわ、止んでますわね」
「今、国際映像では、トリコロールのチームが、雨雲レーダーの見つめる様子が映っていますが、ああ、確かに青い部分が消えています。こちらは、トリコロールチーム代表緑風ふわりさんですが、険しい表情です」
「これでは、ある程度は雨水のあるところを走ることでインターミディエイトでも対応できるのですが、路面状況がドライになってくると、ちょっとひびき選手には厳しいかもしれません。あと4周ですか? あと3周ですか。これはどうなるか分かりません」
「らぁら選手とひびき選手の差は、現在約2秒ですから、大神田先生、これ、場合によってはすぐに追いついてということもあり得るのでしょうか」
「その可能性は大いにあると思いますわ。ドライのタイヤの方が、レイン用のタイヤよりも速いので、路面状況がドライに近づけばらぁら選手がまた逆転する可能性は、十分ありますわ」
らぁらは、申し訳ない気持ちになった。あれだけ信じてくれと言ったのに、結局スリップしてしまった。ペッパーが目の前でスリップをしたときは、ラッキーだと思ったのに、まさか自分も同じ場所でスリップするとは。ひびきが目の前を悠々と走り抜けていくのを見て、ひどく悔しかった。それでも冷静にマシンを発進させてペッパーには抜かされなかったのは、最低限の仕事をしたということではある。まだ諦めない。コーナーでリアタイヤが若干流れてしまうのを感じながら、必死でひびきを追いかける。水しぶきで前が全く見えないけれど、赤いひびきのマシンの光だけは、この目でしっかりと捉えている。その光だけを捉えている。その光は、小さくなっていくことはない。だんだんと近づいて大きくなってきている。
ストレートを駆け抜けていくときのエンジン音が軽くなっていく感じ、ギアを一気に落とすときの何かが爆発したような激しい破裂音。これらの音を残して、らぁらのマシンは、前にいるひびきだけを追っていく。残りは後3周。S字、逆バンク、ダンロップコーナー、デグナー。ひびきのマシンが残すエンジン音を切り裂いて、らぁらがどんどん加速していく。
みれぃからのチームラジオで、だんだん空が晴れてきていることを聞いた。同時に前を走るひびきのタイヤから排出される水しぶきの量がどんどん減ってきていることに気づく。これなら、いける。スプーンカーブをなんとかきれいに曲がり、西ストレートへ、そして130Rへと飛び込んでいく。ひびきのマシンはスピードが上がらず、もはや目の前にまで迫った。手を伸ばせば届く距離だ。希望の光は完全に捉えた。
周回遅れとなったみかんを抜いて、最終コーナーを立ち上がる。前を行くひびきがDRSを使用したようだ。らぁらも、DRSとKERSを使用して、前を行くひびきを追う。すぐにひびきの真後ろに入った。ひびきがマシンを内に振った。らぁらは、それを見てマシンを外に振る。みれぃとそふぃが後ろからマシンを押しているかように、らぁらのマシンはぐんぐん伸びていき、コントロールラインを超えたときには、ひびきのマシンに並んでおり、そして完全にひびきを追い越した。そのまま、らぁらは、後ろを確認することなく、1コーナーを曲がっていった。
スピードが思った以上に出ないことに、ひびきは少しイラついた。もっと速く走行しなければ、追いつかれてしまう。そんな焦りともどかしさがごちゃまぜになっている。ペッパーとらぁらがスプーンカーブでスリップしたことはドライを選択した当然の結果だと思っていた。しかし、思ったほどはタイムが開かない。あと3周を耐えられるかどうか、いや、「どうか」という疑問形で考えるのではない。耐えなければならない。耐えるためにどうするかを考えるべきだ。
ふわりが、悲し気な声で、空が晴れてきたことをチームラジオで伝えてきた。あいつは自分の判断でタイヤをレイン用に変えさせたために、このままひびきが負けたら、自分がひびきの敗因を作ったことになると悲しんでいるのだ、と分かった。馬鹿なやつだと思う。タイヤ変更は自分も変えるべきだと思ったから変更したのだし、あのときは誰だってこんなことになるなんて予想しなかった。自分がふわりと同じ立場でも変えさせたに違いない。現に、こうして1位にいるのだ。あの判断が間違っていたはずがないのだ。ドライで突っこんできたらぁらとペッパーが異常なのだ。
このまま負けるわけにはいかなかった。負けてふわりを自責の念にからせて悲しませるわけにはいかない。勝たなければならない。
しかし、ミラーで後ろを確認すると、無情にもらぁらが自分を射程圏内に捉えているのが分かった。どうしたら……。前方を見ると、赤い光が見える。あれは、おそらく周回遅れとなっているみかんのマシンだ。あのみかんにシケイン直前のDRS検出ポイントで追いつけば、DRSを使用できる。それで、この周を乗り切るしかない。
130Rを抜けたところで、みかんに追いついた。と同時に、ミラーに映るらぁらの姿がかなり大きくなっている。万事休すか。しかしDRSは使用可能となった。あとは、これに託すのみ。最終コーナーを立ち上がり、KERSを使用し、DRSも使用する。マシンは加速していくが、やはり、ドライほどには速度が上がらない。らぁらが自分の真後ろについているのが分かった。ふわりが、心配そうにこちらを見つめているのが手に取るように分かる。スリップに入れさせないため、そして1コーナーでインを取れるようにするため、マシンをイン側に振る。しかし、らぁらは、そこでマシンを外に振った。この瞬間、ひびきは、抜かされると思った。あの思い切りのよさというか、その行為そのものが物語っているような感じだった。そして、そう思ったときには、すでにらぁらが隣に並んでいた。そして、そのままらぁらのマシンが自分の前方に現れ始める。速度が出ない。もっと速いスピードがほしい。そう思っても、速度は思ったようには上がってくれない。らぁらのマシンがどんどん遠ざかっていくのを後ろからずっと見ているしかなかった。完全に負けた。ひびきは、初めてそう実感した。
Final rap
「さぁ、らぁら選手が、ファイナルラップへと入っていきました。今、悠々と1コーナー、2コーナーを曲がっていきます。ひびき選手とは差がありますが、一つ一つのコーナーを丁寧に曲がっていきます。
かつて、奇跡を起こしました、誰も到達したことのない、ファイナルエアリーを出しました、そして、神の領域に到達しました。今、これから、新たな伝説を作ろうとしています。ステージとは異次元のこのF1の舞台で、初代王者に輝く栄光を手にしようとしている。ああ、今シケインで大歓声が上がっています。さぁ、最終コーナーを立ち上がった。この雨の大波乱のレース、それを制したのは、神にも認められ、みんなから愛されたアイドル、スクーデリア・そらみスマイル、真中らぁら、奇跡の、大逆転勝利!」
「続いて、ひびき選手が2位でフィニッシュ。続いて3位でペッパー選手がフィニッシュしました。あー、今、らぁら選手が、ウイニングランで、手を振って観客の声援に応えています。『かしこまっ』のポーズを決めて、ゆっくりと、ゆっくりと、喜びをかみしめながら、コースを走っています」
「『らぁら、よくやったぷり! 優勝ぷり!』
『らぁら、優勝おめでとう』
『みれぃ、そふぃ、ありがとう! みんなのおかげだよ!』」
「さて、今日のレースの結果です。トップチェッカーを受けたのは、真中らぁら。奇跡の大逆転勝利を手にしました。他方、天候の変化に涙をのんだのは、2位の紫京院ひびき。続いて3位は太陽ペッパー。4位はレオナ・ウェスト、5位は白玉みかん、以上完走5台の決勝レースでした」
「さぁ、今、らぁら選手のマシンが、ゆっくりとピットレーンに戻ってきました。マシンを止めて、ステアリングを丁寧に外して、身体をマシンから抜け出し、そしてもう一度ステアリングをはめなおします。ああ、今、らぁら選手の代名詞『かしこまっ』が出ました! 両手を高く上げて喜びを表しています。
そこへ、ひびき選手がやってきました。ああ、抱き合っています。ひびき選手がらぁら選手のヘルメットをたたいて、何か二言三言口にしました。ああ、らぁら選手は、ペッパー選手とも抱き合っています。喜びが爆発しているようです。いやぁ、それにしても今日のレース、大波乱のレースでしたね」
「そうですわね、まさか、途中で大雨が降って、しかもそれがすぐに止んでしまうなんて、レースの開始時に誰が予測できたでしょうか。その天候によって一番影響を受けたのがらぁらさんとひびきさんだと思いますわ。2人は正反対の結果になってしまいましたが、ひびきさんは、最初から最後までミスなくドライビングされていましたし、らぁらさんも途中から、思い切りのいいドライビングをみせてくれました。今後が楽しみですわ」
「きゅいいいいい」
「さぁ、今から、表彰が行われます。まずは、3位のペッパー選手が、続いて2位のひびき選手が表彰台に上ります。そして、1位のらぁら選手、大歓声を受けて、今、表彰台の一番高いところに登りました。ああ、らぁら選手が飛び跳ねています。
それでは、そらみスマイル代表曲の『トライアングル・スター』が流れます。そして、チームの旗が表彰台の後ろに掲揚されます」
「今、らぁら選手にトロフィーが送られました。おおっと、トロフィーが重いのでしょうか。らぁら選手が落としそうになりました。それをひびき選手がそっと支えています。周りでは少しどよめきが起こった後、笑い声も聞こえています。らぁら選手もこれには苦笑いです。さぁ、ひびき選手にトロフィーが渡されました。そして、ペッパー選手にもトロフィーが渡されました。
さぁ、カルメンの音楽とともに、シャンパンファイトです。しかし、みなさん未成年なので、今回はコーラで行っております。まず、らぁら選手がペッパー選手にかけにいった。ひびき選手は、一人でラッパ飲みをしています。それを見て、らぁら選手がすかさずかけにいく。その後ろからペッパー選手が迫って、今、らぁら選手のウエアの中に直接コーラを注ぎ込みました。らぁら選手、驚いています。
らぁら選手は、そのまま前に出ました。ああ、チーム代表のみれぃさんに上からコーラを掛けています。みれぃさんはそれを顔から気持ちよさそうに浴びていまね。ああ今度はそふぃさんです。そふぃさんは、クラゲのようにくねくねになってしまいました」
「大神田先生、今日のレースを振り返っていかがでしたか」
「はい、序盤は、みかん選手がロケットスタートを決め、その後はひびき選手やペッパー選手がうまく、ミスなくまとめていましたわ。中盤から終盤にかけてレオナ選手やらぁら選手も徐々に調子を上げてきたようで、レースの行方が分からなくなり始めたころ、雨という魔物が現れましたわ。あれでレースが混乱したのですが、そこをうまく抜け出したのが、らぁらさんとひびきさんでしたわ。最後はこの2人のデッドヒートとなったのですが、タイヤ選択で分のあった、らぁらさんに勝利の軍配があがりましたわ。最後に思い切ってドライタイヤで勝負を仕掛けたらぁらさんに勝利の女神が味方したのかもしれません」
「はい、そうですね。今回は、5人で死闘が繰り広げられました。次回はあるのか、あるとしたらどうなるのか、激戦のプリパラGP、今回は、この辺で失礼します」