コードギアス 救済のシンデレラ   作:灰色

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短い?


STAGE.-X
1.


皇暦2016年 エリア11 トーキョー租界

 

廃墟(ゲットー)の中に浮かび上がる近未来都市の中心。

行きかう人々の中、大きなキャスター付きかばんをひいた灰色の少女はいた。

肩より少し下まで届く灰の髪は束ねられることはなく、人形のような容姿をした彼女自身とはとはひどくアンバランスだ。

まるで棄てられた玩具のような。

時刻は午前七時より数分前。

通勤するサラリーマンや学生の中で彼女は異彩を放っていた。

おそらく未成年、ハイスクールに通っているような年頃の少女が平日の朝に私服でいるのだ。

 

「ここで待ち合わせってことだけどねー」

 

近くのベンチに座り、少女は一息をつく。

ちらちらとこっちを見てくる不特定多数の人々の視線が気 になった。

実は彼女は現役の軍人であり、彼のノネット卿の推薦でここ、エリア11のとある部署に配属された。

まだ正式な着任ということではないので私服でいる、ということ見知らぬ彼らが知るわけもなし。

結果として非行少女のような雰囲気を醸しださせていた。

配属先の迎えと約束した時間まではあと30分ほどある。

 

「朝ごはん食べてなかった」

 

彼女がわざと口に 出して呟いてみるとお腹が鳴った。

少し先にはホットドッグの露店がある。

 

「1人で携帯端末をいじっていても仕方がないので買ってみようかね」

 

空しさを紛らわせようとまた呟き、彼女の足は露店へと向かった。

治安がとても良いと評判のトーキョー租界だが全財産の入ったカバンを置いて行くのはあまりに不用心だということで少女はまたも少し頑張ってカバンを引く。

 

「すみませーん、もう開いてますかねー?」

 

「はい!いらっしゃいませ!」

 

店主は元日本人(イレヴン)だった。

店主の話す言葉は少しだけぎこちない。

 

「”スペシャルドッグ3つください”」

 

あえて少女は日本語で告げた。

 

「っ、”かしこまりました!少しだけお待ちください!”」

 

一瞬、ブリタニア人 が日本語を話したことに驚いたようだが店主は元気よく日本語を返した。

 

「”朝早くから大変ですね”」

 

ホットドッグが出来上がるまでの暇つぶしも兼ねて少女は店主に声をかけた。

 

「”いいえ!

私たち名誉ブリタニア人がこうして商売させていただいているだけでもありがた

いことですよ”」

 

言葉とは裏腹に卑屈さなど感じさせない営業スマイルの店主だった。

 

「……」

 

少女は笑いながら口を閉じた。

そのまま少女はホットドッグが出来上がるまで何も語ることは無かった。

 

「”はい、どうぞ”」

 

「ありがとうね」

 

あえて日本語で返さず少女はお金を支払い店を後にした。

途中から話さなかったのは店主の卑屈な言葉に腹を立てたわけではない。

偽善だというのはわかっている が店主にああ言わしめた自分に腹を立てただけだ。

彼らにそうさせたブリタニアに軍人として仕えている時点でそのようなことを思うべきではない。

―――まったく、いくらいろんな経験を積んでいるとはいえまだまだ心がみだれるねー。

さっきまで座っていたベンチにもう一度腰掛けると少女は買ってきたホットドッグにかぶりついた。

思ったよりは熱くはない。

そのおかげで味がしっかりと伝わってきた。

ケチャップとマスタードだけの大味なものではない。

何かは分からないが独特の風味が出ているものの、味のバランスはいかほども崩れていない。

単純ゆえに差が分かりやすい。

 

「あふい……けど美味しいね」

 

それから十分ほど経って。

少女がホットドッグを食べ終わる頃、 待ち合わせの相手が訪れた。

 

「ええと、貴女が今度うちに配属される方かしら?」

 

軍服に身を包んだ大人の雰囲気を感じさせる女性だ。

 

「はい、おはようございます」

 

「あらあら、こちらこそ。

セシル・クルーミーです、よろしくね。

少し早いかもしれないけど特別派遣嚮導技術部へようこそ」

 

「久し……はじめましてグレーシャ・E・ピースリーです」

 

 

 

軽い自己紹介を済ますと二人は大型のトレーラーに乗って、朝の租界を移動していた。

セシルにとって、今回配属される年下の少女、グレーシャの存在は待ちわびたものだった。

彼女が属する特派は男ばかりで数名在籍する女性も別の部署を兼任していたりでろくに会話もしていない。

常駐する職員の中でほぼ唯一の女子だった わけだ。

そんな中、あの変人主任から女性の配属を聞いた時には年を忘れてガッツポーズをとってしまったほど。

 

(いやいや、まだそんな年じゃないわよね……?)

 

以前の自分を思い出して若干ダメージを受けかけたがセシルは必死で回避した。

嬉しさのおすそわけで得意料理のひとつである特製おにぎりも振舞ったことだし大人の女性としての面子は保てたはず。

あいにくほとんどの職員は食後だったらしく食べたのはその主任だった。

なんやかんやと愚痴りながらも食べきってくれた彼に感謝しているが感想が

 

「ボクみたいな壊れた人間をもってしても救いを求めたくなっちゃったよーあはー」

 

なんて抽象的 なのはいただけない。

と、ここまで運転しながら考えてセシルは一人の世界に入っていたことに気がついた。

 

「ピースリーさんだったかしら」

 

信号で車が停まったこともありグレーシャの方へ顔を向けてセシルは話しかけた。

人と話すときには出来るだけ目を見て話す、というのはセシルが気にかけていることだ。

グレーシャの瞳を見る。

会うのは当然初めてだというのに彼女の薄い青の瞳に既視感を覚えた。

 

「グレーシャでもいいですよ?」

 

「あら、よかったわ。

私もあまり堅苦しいのは好きじゃないのよ。

私のことも好きに呼んでちょうだい」

 

「宜しくお願いしますね、セシルさん」

 

ほほえみつつグレーシャは言葉を返す。

 

「ええ、あらためて宜しくねグレーシャちゃん」

 

「ちゃんはないと思うんだけどね……」

 

セシルは信号が変わるのを確認してからトレーラーを発進させた。

 

(よかったわ、良い子みたいで)

 

そういえば、と前置きしてからグレーシャがセシルに話しかけてきた。

 

「セシルさんは以前帝都のほうの学校に通われていたんですよね?」

 

「ええ、そうよ」

 

「生前父が帝都の大学でサクラダイト研究の手伝いをしていたもので」

 

質問の内容以前に”生前”というフレーズがセシルの耳に付いた。

が、彼女も大人だ。

好奇心こそ湧いてくるが会って間もないセシルが聞くべきことではないだろう。

 

「あらそうなの?

でも残念ね、ピースリーさんてお名前 には聞き覚えはないわ」

 

「父の旧姓はケイスティといいます」

 

ケイスティという姓には聞き覚えがあった。

というよりも研究室時代の先輩のものだ。

 

「ええ!?

グレーシャちゃんって先輩の娘さんなの?」

 

「セシルさんが今言った先輩と言うのがグラッド・ケイスティという名であれば」

 

間違いなく昔世話になった名だ。

だが名字も違うしあの当時グラッドは娘が居るなどとおくびにも出していなかった。

流石にもうグレーシャは生まれていたはずの頃だ。

 

「母がちょっとした貴族でして。

その名前が父には邪魔だったようです」

 

「そんなことが……」

 

にわかには信じられないが言われてみればグレーシャには父親(グラッド)の面影がある。

そしてグラッドは薄い青味のある瞳だった。

先程感じた既視感はこれだったようだ。

 

「失礼かもしれないけどお父様は亡くなったの?」

 

わざわざグレーシャは生前というフレーズを使ったのだ。

確認の意味を込めて問いかけた。

 

「ええ、5年前に母と共に事故で」

 

「そうなの……」

 

率直に言って残念だった。

もうあの頃には戻れないことは分かっていながらも、もう戻れないのかと思ってしまう。

 

「父からセシルさんたちのことはたくさん聞いておりましてねー」

 

暗くなった雰囲気を取っ払うようにグレーシャが笑いながら言った。

 

「じゃあ聞かせてくれるかしら?

先輩は私たちのことを何と言っていたのか」

 

セシルはグレーシャの心遣いに感謝しつつもむずがゆい思いを感じていた。

今でさえまだまだ未熟な自分のもっと未熟なころだな んて懐かしいことだろうか。

グレーシャとの会話は思ったよりもはずみ、気がつけば目的地の軍施設は目の前だった。

 

 

グレーシャはセシルについて軍施設を歩いていた。

 

「今日の予定は顔見せと特派で今研究していることの説明ね。

だいたい午前中に終ると思うけど大丈夫かしら?」

 

セシルの言う内容はグレーシャが聞いていたことと変わっていない。

なので問題があるはずもない、

 

「はい、そのあとはこの施設の見学などさせてもらってもいあですかね?」

 

「構わないわ。

でも私は午後から今研究中の装置のミーティングがあるから一緒には行けないわ。

誰か道案内はいる?」

 

グレーシャからのセシルの印象もまた世話焼きの姉を持ったようで上々である。

 

「ありがとうございますね。

大丈夫ですよ」

 

「そう?

っと、お待たせしましたー

ここが私たちの部屋よ」

 

セシルのIDを読み込ませるとドアは素早く開いた。

 

「さぁさぁどうぞ。

ちょっと今散らかってるけどごめんなさいね」

 

その部屋は研究室というよりもKMF用のハンガー兼開発室といった風だった。

おそらくKMFが4騎も並べば埋まってしまうほどの大きさだ。

なかなかに広い。

部屋の4分に1ほどは機材で埋まっておりその機材からのびたケーブルは人型のフレームにつながっている。

今は人が居ないらしく電気が落ちているためその全貌を見ることが出来ない。

 

「こんな機体見たことありませんね。

どう見ても既存のフレームとは違う……」

 

驚きがグレーシャの口を衝いて出た。

グレーシャの記憶には全くない構造をしているのが暗がりでも分かった。

 

「あら?

ロイドさんにはここで待っておくように伝えたはずだけど……」

 

セシルが入口付近のモニターを操作すると部屋に明りがともった。

フレームの中心、作業用スペース―――本来ならば動力機関が入るのだろうか―――で白衣の長身が横になっていた。

 

「もーロイドさん?

またそんなところで眠って」

 

ぷりぷりと怒りながらセシルがフレームの足元まで行く。

セシルの声で目が覚めたのか男が身を起こした。

長身痩躯の白髪眼鏡。

グレーシャはロイドから変人の気配を感じ取った。

 

「おはようセシル君ー」

 

「おはようございます……じゃなくて、ロイドさんまたそんなところで寝てたん

ですか?」

 

「おめでとう、だーいせーいかーい!

どうせ朝待ち合わせするならここでずっと研究を続けてたんだよ」

 

「はぁ、グレーシャちゃんこの人がうちの主任よ」

 

「はじめましてぇーロイド・アスプルンドでーす」

 

 

 

「……とまぁうちでの仕事はこんなところかしら」

 

予定の昼よりも説明は長くかかった。

研究がしたいから、と説明から抜け出そうとするロイドをセシルが笑顔(げんこつ)で引き留めるという茶番が幾度も繰り返されたからだ。

ロイドにとっては本気だったのかもしれない。

 

「ありがとうございました。

新世代型KMFの開発に携わることができるとは思ってもみませんでしたね、ほんと」

 

「はいはい、それでセシル君午後の会議はいいの?」

 

暇そうにたて肘をついていたロイドがセシルに問いかけた。

時刻は12時40分。

 

「え? えーっ?

もうこんな時間なの!?」

 

午後からの会議とやらがそろそろ始まるらしい。

 

「資料取りに行かなきゃ。

グレーシャちゃんお先に失礼するわね」

 

「それではまた」

 

セシルはロイドとグレーシャを置いて走り去って行った。

 

「それでは私も失礼しますね」

 

「あーちょっといいかな?」

 

立ち去ろうとするグレーシャをロイドが止めた。

 

「?」

 

「エニアグラム卿から聞いたんだけどさぁ、グレーシャ君はKMFの騎乗経験長いんだよねぇ?」

 

さっきまでのつまらなそうな顔はどこへやら。

ロイドの瞳は知的好奇心にあふれている。

 

「そうですねー多分クロヴィス殿下の親衛隊連中に比べたら10倍は」

 

経験時間でいえば嘘ではない。

 

「んっふっふー、やってみない? デヴァイサー」

 

ロイドは部屋に立つフレームを指差した。

ろいどの口ぶりからするにデヴァイサーとは操縦者のことを言っているのだろう。

 

「ちょっと考えてもいいですかねー。

わざわざデヴァイサーを指名するってことはそれなりの性能を要求するってことですよね?」

 

もし誰でも良いならば決まっていないはずがない。

 

「うんうん!

話が早くて助かるねぇ!

着任は明後日だからその日の帰りにでもどうかなぁ!

シュミレーターに乗ってみない?」

 

早口でロイドがまくしたてた。

グレーシャはKMFに乗ることは嫌いではない。

昔から何度もあの鋼鉄の騎士となり戦場を駆けてきたのだ。

 

「わかりました、なにか備える物などはありますか?」

 

「今晩にでもスリーサイズをセシル君にでも送っておいてくれるかなぁ?

はいこれが彼女の連絡先、話は僕が通しておくからさ」

 

ぐいぐいと迫ってくるロイドに等間隔にグレーシャは距離をとった。

 

「それじゃ今度こそさよぉーならぁー」

 

満足したのかロイドは鼻歌を歌いながら機材へと向かった。

傍目から見ても完全に自分の世界へと入っている。

 

「失礼しますね」

 

ロイドの後ろ姿に頭を下げて部屋を後にする。

ひらひらと手を振る彼の後姿が印象的だった。

 

 

 

グレーシャが立ち去った後の特派の部屋で、ロイドは彼女が出て行った扉に目をやった。

 

「グレーシャ・E・ピースリー。15歳にしてサクラダイトの大量利用に関する論文を発表。

そしてあのナイト・オブ・ナインからKMF戦のお墨付きを得ている」

 

そしてクロヴィス親衛隊のナイトメアパイロットの最低騎乗時間は1000時間。

 

「いくらなんでも騎乗時間10000時間なんてありえないよねぇ」

 

冗談の可能性だって当然ある。

笑いながらグレーシャは答えたのだ。

 

「おもしろい子だなぁ」

 

ただグレーシャがロイドの好奇心を満たせるかどうか。

それだけが楽しみだ。

 

 

 

午後、日が沈んできた頃。

グレーシャはシンジュクゲットーを訪れていた。

夕陽をあびる廃墟には哀愁がただよっている。

それだけではない。

名を、誇りを、平穏を。

様々なものが奪われた怨嗟が聞こえてくるようだった。

昔見た(・・・)面影など全く見て取れない。

 

「さてと帰りますかね」

 

これから住むところまでは1時間ほど。

何事もなければそれくらいで帰れる。

 

「”おいおいブリキ野郎がこんなところで何やってんだよ”」

 

「”嬢ちゃん、ここらは危ないってきいたことないのかい?”」

 

そう、何も無ければ。

 

「”どいてくれる?”」

 

気がつくと二人のイレヴンの男がグレーシャの行く手をふさいでいた。

正確にいえばもっと以前より人の気配には気づいていたのだ、が無視していた。

皆遠巻きにグレーシャを観察するばかりで何もアクションは起こしてこなかったためにだ。

 

「”おぉ、日本語上手いねぇ”」

 

1人は痩せた長身でニタニタと笑っている。

 

「”てめぇブリキ野郎が日本語喋ってんじゃねぇぞ!”」

 

もう1人はがっしりとしまった体系をしてグレーシャへの敵意を隠そうとしない。

こんな廃墟なのだ。

グレーシャも治安が悪いというのは重々承知していたので備えはある。

それにしてもここまで堂々と絡んでくるとは。

 

「”おい! 無視してんじゃねぇ!”」

 

がたいの良い方がグレーシャの胸倉をつかもうと腕を伸ばしてきた。

遅い、せいぜい喧嘩慣れしたチンピラの動き。

グレーシャは男の腕をつかみ捻るようにして背後に回る。

 

「”! イテェ”」

 

「うわあ!」

 

そのままその男の尻を蹴りもう1人へと体当たりさせるようにぶち当てた。

 

「”私はブリタニアの軍人だ

これで見逃してやるからさっさと立ち去れ”」

 

あえて威圧的に告げて男たちの目をじっと見つめる。

睨むでもなくじっ、と殺意だけを込めて。

 

「ヒいぃ」

 

「”覚えてやがれ!”」

 

案の定男たちは街並みへと逃げ去って行った。

ふぅ、とグレーシャは息をついて男たちの逃げ去った旧市街を眺めた。

 

「”で、あなたは今の馬鹿のお仲間かしら?”」

 

周りに聞こえるよう、わざと声を出した。

 

「へぇ、気づいてたのかよ。

ブリキの兵隊さん」

 

男たちが逃げ去ったほうとは反対側から人影が現れた。

 

「お上手だね」

 

1人の青年だ。

彼の紅い髪は夕陽の中で良く映えた。




騎乗時間のくだりは捏造です。そんな設定は公式では無かったよね?

主人公の父親の苗字を変更しました。
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