コードギアス 救済のシンデレラ   作:灰色

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4.

「久しぶりだね、グレイ」

 

「懐かしいあだ名だね、それ」

 

およそ4年ぶりの再会は落ち着いたものだった。

普通に再会できたことを喜び、普通に笑いあう。

親友に会えたのならばそれだけで十分に過ぎる。

 

「とりあえず隣いいかな?」

 

「構うわけないね」

 

ぽんぽんとベンチの隣を叩くと少々恥ずかしげに笑いながらスザクは腰をおとした。

 

「昼は驚いたよ。

急にグレイが目の前に出てくるんだから」

 

正に劇的だったね、と冗談めかしてスザクは言った。

考えてもみれば再会したタイミングは到底「普通」と呼べるようなものではなかった。

あの後、セレッソとかいう男をグレーシャが勢いでのしてしまった後確か純血派と自称していた男たちも目の前で同僚が気絶してしまい気が動転していた。

その驚きの衝撃が怒りの炎に転じる前に機先を制してくれたのはセシルだった。

グレーシャとスザクの頭を下げさせつつ食堂の外へと連れ出してくれたのだった。

きっとセシルが居なければもっと大事になっていただろう。

 

「確かに劇的だね。

……もうちょっと自制しないとね」

 

「……」

 

呟くグレーシャをスザクは珍しげに眺めていた。

 

「どうしたのスザク。

やけに私の顔を見て」

 

ふぉーりんらぶっちゃった?

 

「ははは、ううん。

変わったね、グレイ」

 

「どこらへんが?」

 

「何て言えば良いんだろう。

ちゃんと自分を省みることが出来るようになってるね」

 

こ、こやつ……!と相も変わらないスザクの天然ぷりに振り回されている。

昔は反省することが出来なかったとでもいいたいのだろうか、この男は。

 

「まったく、そういうところだけは変わってないね」

 

「どういうところだい?」

 

「その遠慮しないところ」

 

思えば初対面からそんな感じだったかも知れない。

女と遊ぶなんてカッコワリー、とか言ってた気がする。

―――ってそれは違うかね。

 

「うーん、そういうことはよく言われるけどあんまりわからないなぁ」

 

アハハ、と苦笑するスザクをジト目で見てみたがそういった視線こそなれっこのようだ。

 

「スザクは晩ごはん食べたの?」

 

「僕はまだだよ」

 

グレーシャとしては聞きたいことはいくつもある。

今の生活はどうだ、とかそういう日常のことだけではなく。

なぜ名誉ブリタニア人になったのか。

なぜ軍人に、ブリタニア軍人になんてなったのか。

なぜ「僕」と言うようになったのか。

疑問はこんこんと湧いてきて今すぐにでも答えを求めようとグレーシャの心のなかで暴れまわる。

外に、グレーシャの心の壁(がまん)を壊してでも外に向かおうとする。

しかしグレーシャは親友の頑固さを知っている。

たとえグレーシャの思っていることをスザクにぶつけたとしても、その壁を崩すことは容易ではないだろう。

 

「とっととごはんを食べるのが先決だね」

 

「そうだね。

僕も門限があるから」

 

さて、エリア11に来て以来、いつも一人だった夕食。

今晩は多少賑やかになるかもしれない。

 

 

 

 

「ごちそうさま」

 

「お粗末様だね」

 

グレーシャの家で二人が夕食を食べ終えた頃、時刻はもう少しで8時をまわろうかという頃だった。

どの部署に配属されているとか階級がどうとか他愛のない会話をしながらの食事はとても楽しかった。

まるで以前に日本に住んでいた時のように。

 

「驚いたよ。

グレイがこんなに和食が上手だなんて」

 

台所で食器を洗いながらスザクは笑った。

現在グレーシャはその後ろでりんごをむきつつ、

 

「おだてたって嬉しいだけだね」

 

まんざらでもなかった。

エリア11に来て、家族のような存在と食事をとることが少なかったから浮かれているのだろうか。

 

「どこで料理をならったんだい?」

 

「こっちに来る前は寮みたいなとこで生活してたって言ったよね。

そこはいろいろと当番制でやっててね」

 

「ナインのノネット・エニアグラム卿のところで暮らしてたんだったね」

 

「スザク、それで間違ってないけどナインのノネット卿と言ってほしくないね。

私を育ててくれたのはあくまで"ノネットさん"なんだから」

 

「うん、"ノネットさん "のどころだ」

 

「それでよろしい」

 

ふわりとした時間が流れた。

すこしの沈黙の後グレーシャが口を開いた。

 

「ところでさ、スザクに聞きたいことがあるんだよね」

 

「僕がどうしてブリタニア軍人になったかだよね」

 

まったく……いらないとこだけ鋭いんだから。

 

「だけってわけじゃあないんだけどね

一先ずそれを教えて欲しいんだよね」

 

「グレイはトーキョー祖界に来て、エリア11に来て何か思ったりしたかな?」

 

スザクの声に硬質の響が混ざった。

 

「僕は」

 

グレーシャの返答を待たずに言葉は続ける。

もとより返事を求めて放った質問ではないことがグレーシャにはわかっていた。

 

「ここが歪んでると思った」

 

今、自分に背を向けている少年の表情がきっと歪んでいるということも。

 

「租界はどこだって豊かで、満ち足りていて、笑顔に溢れてる。

でもその笑顔は他人の上に成り立っている笑顔だ。

それは……こんな現状はきっと間違ってる」

 

グレーシャはその背中に十字架を見た。

何かに対する脅迫じみた思いを。

その何かの正体はわからない。

ただ、その思いの根源はいまだ見えない。

 

「意地悪なこと聞いてもいいかね?」

 

「よろこんで、とは答えたくないなぁ」

 

苦笑したスザクからは拒否はない。

 

「どうしてスザクは日本解放戦線とかの反政府(ブリタニア)組織に参加しようと思わなかったの?

現状が間違ってるって言うんだったらそれこそブリタニアをぶっ壊さなきゃいけないよね」

 

―――お前のやり方はきっと「正しい」のかもしれないけれど、それで結果は出るのか。

そう問うた。

 

「違う。

違うんだよグレイ。

すぐに暴力に訴えるのは間違ってる。

間違って得た結果に意味はないんだから」

 

「……」

 

「……」

 

水のしずくが作るリズムが台所を満たした。

 

「はぁ、スザクはやっぱり馬鹿だね。

ほんとに頑固者だね」

 

「それ別の友達にも言われたよ」

 

はにかむスザクを見ているとこれ以上質問を投げかける気も失せてきた。

親友相手に尋問まがいのことをこれ以上続けるのも馬鹿らしい。

 

「友達……ね」

 

「ああ」

 

「また時間があるときにでも聞かせてよね。

その友達のこと」

 

「プライバシーの範囲内でよければ」

 

こうして話す機会はまたあるのだから。

 

「スザクあーんして」

 

あえて大きめに切ったリンゴをスザクの口に押し込んだ。

 

「へ?

はひはほふ(ありがと)ほほほひはほ(おどろいたよ)

 

「いきなり口に突っ込んだ私が悪かったからまずは飲み込もうねー」

 

ちょっとしたイタズラにも律儀にお礼を述べるようなこの友人を責めることはしたくないのがグレーシャの偽りのない本心だ。

 

「あら、時間大丈夫だよね?」

 

スザクが帰らなければ、と言っていた時間よりも数分過ぎていた。

 

「ありがとう、美味しいよ。

りんごを片付けたら帰ろうかな」

 

 

 

 

「それじゃあね」

 

「ごちそうさま。

とても美味しかったよ」

 

「何度も言うね」

 

「何度だって言うさ。

それじゃあおやすみ」

 

「うん。 ばいばい」

 

門の前でスザクと二、三言葉を交わすと彼は帰路に就いた。

広いとはいえ同じ職場だ。

グレーシャは少し明日の出勤が楽しみになった。

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