コードギアス 救済のシンデレラ   作:灰色

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6.

走り去るシュタットフェルト嬢を見送ってからグレーシャは自宅の門をくぐった。

ただいま、となかば惰性になりつつある声をあげつつ玄関の戸を開くものの返答はなく、人の気配に反応したセンサーが点けた光だけが彼女を出迎える。

 

「いちいちこれじゃあ電気代の無駄だね」

 

別段お金に困っているためにこぼれた言葉ではなく、ただそんな性質なだけだ。

後でライトの設定をいじっておこう、と思いつつ台所で夜食の準備をする。

手軽にパスタでも湯がいて食べることにしようか。

それにしても、と。

脳裏に浮かぶのはさっき出会った……訂正、襲ってきた少女のことが気になった。

かかわりは今までほとんどなかったがお隣のシュタットフェルト家はなかなかのお転婆姫をかかえているようだ。

シュタットフェルトというとそれなりに名が知れた貴族のはずだ。

 

「カレンちゃんだったね」

 

カレン=シュタットフェルトに会ったのは今日で二度目だった。

一度はエリア11に来て早々、登校しようとする彼女に偶然出会った時に挨拶をした。

赤い髪を肩まで伸ばしたカレンは美少女というよりも薄幸な雰囲気のする少女に思えた。

しかし、気弱に微笑むその姿を見てグレーシャはすぐに猫をかぶっているのがわかった。

直感ではなく経験でそう思った。

スラリと伸びたカレンの肢体には目立たないような、それでいてしなやかな筋肉が見て取れた。

まるでKMFのパイロットのような筋肉の付き方をしているようであった。

何より話しかけた瞬間にみせたグレーシャ(こちら)を警戒する目の鋭さ。

 

「まさに野獣の眼光だね?」

 

とはいえわざわざ初対面の少女の化けの皮をはがしてやる、なんて発想に至るわけもない。

貴族令嬢ともなれば完全に御遊びでKMFを持っていてもおかしくない。

KMFを用いたスポーツだって少なからずあることだし、とその日はそのままお別れだ。

そして今日の一件。

対応できないような体術ではなかったが、避ける必要はないと直感した。

犯人は御隣の令嬢であるとはいえ本来は通報なりすべき事例だ。

ともすればカレンは反ブリタニア思想をもつブリタニア人、主義者の可能性がある。

 

「…………」

 

黙っているべきことではない……のだが。

グレーシャにはカレンの後ろ姿が気になっていた。

そのために踏ん切りがつかなかった。

 

「むむむむむー」

 

よくノネットからは悩みすぎだと言われていた。

一度決めたことに関しては愚直にすぎるほどだ、とも。

例えばカレンがスザクの道を阻むというのであれば敵だと断じることができる。

必要であればどのような手段であれ講じよう。

ただスザクにかかわること以外となると思考が鈍ってしまう気がする。

―――こんな時、ノネットさんに相談できればいいのに。

 

 

 

悩み事をしながらの食事というものは味気のないもので、時間の経過が早くなっていく。

まるで思考だけが空回りをして、気がつけばいつの間にやら自分で張った湯船に浸かっていた。

まとめていない髪がたゆたっている。

 

「んー……駄目もとでノネットさんに電話してみようかねー……」

 

そもそも忙しかったならば接続がつながることはない。

実用性のみで選んだ防水機能付きの携帯端末を手に取りノネットのプライベートチャンネルにコールをかけた。

2回、3回と呼び出し音が鳴聞こえる。

4回目は聞こえなかった。

特徴的な接続音がなるところまではいつもと同じで誰も出ることはないのだと思う。

 

『もしもし。 おはよう、グレイ』

 

多分忙しいから誰も出ないと思うんだけどね、というグレーシャの思考は意外にも外れたのであった。

 

「んえっ?

ノネットさん!?」

 

『ああ、私だ。

ノネット=エニアグラムだぞ』

 

電話口から聞こえた声は確かに彼のナイト・オブ・ナインにしてグレーシャの大切な家族であるノネットのものだった。

 

「え、えっと、最近は長期の任務で忙しかったんじゃないんですかね?」

 

『その件はついさっき片がついたんだよ。

久しぶりに一息ついてたところだ』

 

「片をつけた、ですか」

 

『ああ。

まだ報道にもなっていない件だからグレイが知らないのも当然だな。

詳しいことは言えないが皇帝陛下の暗殺を企む―――』

 

「そんなこと電話で言ってもいいんですかね!?」

 

『安心しろ。

この回線が外部に漏れるようなことがあればそれこそブリタニアは終わりだぞ?』

 

「自分がそんな重要な回線を使っていることを今再確認しましたよ」

 

そういえば以前に皇室並みのセキュリティに守られた回線だぞ、と冗談めいて言っていたっけね……。

 

『それで、どうしたんだグレイ。

ただの近況報告か?それとももう帰ってきたくなったのか?』

 

「違いますよ。

ただノネットさんにもアリスたちにも久しぶりに会いたいですけどね」

 

『あいつらも最近は特に忙しいからな。

それに電話なんてしたらあいつらのことだ、我慢ならなくなってお前に会いにいくだろう』

 

「あははーそれは同感ですね。

本人もそこはわかってるみたいでたまに手紙が届く程度ですよ」

 

『それで、本当にどうしたんだ?』

 

「んーとですね」

 

『何に悩んでいる?』

 

やはりというべきか、分かりやすいだけなのか。

ノネットには見透かされていたようだった。

 

「単刀直入に言いますとですね、ちょっと襲われたと言いますか」

 

『話はよーく分かった。

今から専用騎と一緒にエリア11に向かう』

 

「ちょっと!?」

 

ノネットの声音が一段低くなった。

例えるならば覚悟を完了しちゃった感じで。

 

「ともかく最後まで聞いてくださいよ……」

 

『はっはっは、今のは冗談だ』

 

いいや、今のは確実に本気だった。

模擬戦で相手が予想以上に強くて()る気が満ち溢れた声だった。

 

『話の腰を折ってすまないな、で詳しく聴かせてもらおうか』

 

「ええとですね―――」

 

 

 

『なるほどな』

 

ノネットにはカレンの名前を伏せて相談した。

もしカレンが主義者であるならば皇帝の騎士であるノネットが直接ではないにしろ動かなければならなくなってしまう。

というか名前を伏せたところで事実をそのまま伝えてしまえば同様だ。

局所を改変しつつ特に悩んでいること、グレーシャがどうすればいいかを尋ねた。

 

『お前がその”三月ウサギ”を拘束すべきかどうか、か』

 

三月ウサギとはカレンの名前を誤魔化すために言った偽名だ。

カレンと三月ウサギに何か共通点を見出したからではなくあくまで偶然、悪意や偏見は込めていない……はず。。

 

「自分のことは自分が一番分かっているだろう、なんて言わないでくださいね?」

 

『お前に関してはそう言ったって無駄なのはわかっているさ。

まったくワガママめ』

 

「えへーすみません」

 

だって自分を持っていないのだから。

 

『いいさ。

私がグレイに言いたいことは騎士としても家族としても同じだ』

 

その声はまさしく慈愛に満ちている。

 

『拘束すべきだ。

通報、が出来ないのならその”三月ウサギ”の情報を私に話せ。

私自身が動くことは出来はしないだろうが解決してやれる』

 

それ故にグレーシャの安全をもっとも重視した案だ。

 

「普通に考えればそうなりますよね」

 

『むしろそれ以外の考えが浮かぶほうがおかしいだろう』

 

「たしかにそーですね」

 

当然グレーシャ自身そうすべきだとは分かり切っている。

なのに、―――。

 

『やっぱりな』

 

思考を遮るように、電話口からノネットの声が漏れた。

 

「……はい。

そうしたくありません」

 

正規の軍人になり、驕ったか?

否、グレーシャはそれ程度では慢心などできない。

ノネット卿の下で最も深く教え込まれたことは「自らの弱さ(ちから)を履き違えないこと」。

 

『もしお前1人でどうにかするというならば私は止めようとは思わない。

それが私の下を卒業したお前への敬意だ。

ただ……忘れるなよ?』

 

天井から滴り落ちた雫が浴槽の縁に落ちて一際音を立てた。

 

『私はお前を愛しているんだ。

大切な私達の家族を』

 

これはホームシックになったのかもしれない、とグレーシャは頬を伝う雫を拭った。

 




あまり進展はありませんがこれからへ向けて、ということでひとつ。
かなり今更になりますが評価してくださった方に感謝を。また読んでくださった方にも感謝を。
では。
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