地上の世界が崩壊してからいったいどれ程の年月が流れたのだろうか。
それを推察できるような資料は何処にも存在しない。
だがそれでも、地下世界の歴史において過酷だった開拓時代の記憶は語り継がれている。
人類は残された最後の世界で生き抜くために、これまでに得た叡智の全てを結集し、そして人々は一致して開拓に挑んだのだ。
かつて闘争と競争の果てに地上を追いやられた人類は、地の底に楽園を創り上げるべく、ついに最高の博愛を達成せしめたのだ。
だが地下世界の歴史を見る限り、それは一時的なことでしかなかったようだ。
地下世界の発展のために様々な方法が試行されたが、その中において最も成功を収めたのが、前述した企業システムであった。
共存しなければ生きていけぬ過酷な環境において、それでもなお競争を大原則とするシステムが成り立ったことは皮肉なものである。
結局、人類というものは本能の奥底に、他者との闘争というものが刷り込まれているのかもしれない。
企業システムが地下文明の発展に重要な役割を果たしていることは既に述べたが、一方でそれが競争を原則としている以上、各企業間で紛争が起こるのもまた必然であった。
地上に文明があった時代において、このような紛争を解決する最終手段は戦争と言う名の暴力であり、それは国家と言う最大単位の公的機関において行われた。
だが、国家の存在しない地下世界では企業そのものが紛争の当事者であり、その結果、紛争を解決する暴力手段を各企業が有しようとした時代もあったといわれる。
しかし、暴力という非生産的な行為を専門に行う集団を独自に維持することは大変難しく、またそれが他企業との緊張状態にあってさらに増大を続け、それがまた緊張を呼び起こすという悪循環を生み出すに至り、企業システムは暴力手段に新たな方式を創り上げたのだった。
暴力を専門的に管理する組織が誕生したのだ。
紛争の発生に伴い、依頼に応じて戦力を派遣する。その戦力差は依頼料に比例する。どこの企業にも属さないまったく独立した組織。
その名をレイヴンズ=ネスト。渡り烏たちの巣。
企業ではない。ネストそのものは固有の意思を持たないのだ。
ネストが行うのは、レイヴンと呼ばれる傭兵たちに依頼内容と報酬を仲介するだけ。
レイヴンたちがどこの企業にどれだけ属しようとも一切の関知はしない。
レイヴン同士が敵対しようとも自由なのだ。いや、暴力を管理するという組織の性格上、紛争の全てはレイヴン同士の戦いによって行われなくてはならないのだ。
このシステムにより各企業は固有の暴力組織を維持する必要がなくなった。
必要なときに必要なだけネストからレイヴンを調達すれば良い。
雇ったレイヴンはもしかしたら、以前その企業に敵対している企業に雇われていたかもしれない。いつ何時、レイヴンが裏切らないという保証は無い。
だが、それがどうしたというのだ。
敵の戦力も所詮傭兵なのだ。もとより同業者同士、相戦う宿命を背負った傭兵たちなのだ。企業に対する忠誠心など意味が無い。
レイヴンが忠誠を誓うのは、報酬、ただそれだけである。
レイヴン。
それは高額の報酬と引き替えに、どんな危険な依頼をも遂行する最強の傭兵達。
彼らはAC(アーマード・コア)を自在に操り、たった一人で一個機動大隊に匹敵する力を持つ。
それはこの世の中で、もっとも危険で強い存在。
そして何者にも束縛されない、誰よりも自由な存在に与えられる称号。
それが、レイヴン。