創星記ー異伝ー FFXV~冒険の果てに待つものは~ 作:星野啓
合流しないなぁ。
ーNext stepー
「やっと来たね。来るって聞いて待ってたよ」
雨上がりのハンマーヘッドのガレージで、シドニーが手を振っていた。
「無事で、ほんとに良かった」
そういって手を握てくれるシドニーの手は、雨のせいかとても冷たくなっていた。
長い間、それこそ将軍から知らせを受けてからずっと外に出て、ノクティスたちを待っていたのかもしれない。
「天気も悪くて、大変だったね」
気遣いを見せてくれるシドニーに、プロンプトが安心したような声で声をかける。
「ここまでは、帝国軍も来てないみたいで、良かったぁ」
「将軍は?」
ぽつりとノクティスが聞くと、シドニーは一行を店の奥に促しながら
「用事があるからってもう出ていったよ。じいじに、色々伝えてあるみたい」
と話す。店の奥の古びたソファにノクティスたちを座らせると、壁際にある棚から、タオルを人数分出して手渡してくれる。
数日前まで滞在していたハンマーヘッドで嗅ぎなれた、エンジニアの匂いがかすかに香るタオルに、やっと現実味を取り戻していく。
「来るって聞いてから、ずっと心配して待ってたんだよ。じいじも、私も」
そっと暖かなマグをノクティスに渡しながら気づかわし気な視線を向けてくるシドニーに
「ありがと」
と礼を言ってマグを受け取る。暖かなココアが、シドニーの心を表しているかのようだった。
「シドは、どうされているんだ?」
イグニスが尋ねると、シドニーは顔色を曇らせた。
「...いつものじいじと、ちょっと違うんだ。なんだか、元気がないみたいでね」
話をするシドニーの顔は、今にもこぼれそうな涙を、堪えている顔だった。
「そっか...」
そういったっきり、ノクティスも口を閉ざしてしまう。
よく父親から旅や冒険の話を聞いた。どんな武器でもたちどころに改造しようとする少年の様な仲間の話は、幾度となく聞いた。そしてその話の終わりには、かなず父は悲しそうな顔をしてこう言うのだ。「もう、長く会っていないな」と。それが誰のことを指すのか、ノクティスは知っていた。優しい父が、心を痛めていることも。悔やんでいることも。
今の自分たちのように、とても仲が良かったことも。
マグの中身がすっかりなくなり、雨に濡れた髪が渇いてくる頃。
「落ち着いたら、会ってあげてよ」
そういうシドニーの言葉に促されて、シドがいるという、車庫の奥へと向かった。
真っ暗な車庫の中。所狭しとタイヤや、部品が置かれている部屋に交じって作業用のデスクがちょこんと部屋の隅に置かれていた。デスクの上には、工具に交じってフォトフレームが一つ。
そのすぐ隣に肩を落とした老人が一人、座り込んでいた。
「シド?」
そっと声をかけると、しゃがれた声が語りだす。
「目的は『クリスタル』と『指輪』を奪うことだった...」
「!...では、停戦の意志は、初めからなかった、と?」
イグニスの確信めいた発言と共に、グラディオラスは眉間にしわ寄せて首を左右に振った。
「うそ...」
プロンプトは茫然と言葉を失っていた。
「何 騙されてんだよ!」
絞り出すように憤った感情をそのまま吐き出すと、黙ってうなだれていたシドがぴしゃりと言葉を遮る。
「バカ言え!...そう簡単に、騙されるもんかよ。王都で起きたのは一方的な襲撃なんかじゃねぇよ。あいつは、城で戦争をしたのさ。迎え撃ってやるつもりでな」
ちらりとノクティスのほうを見て苦く笑って見せてから、老兵は力なくうなだれて、吐息をこぼすように言葉を紡ぎだす。
「だが...備えちゃいたが、力及ばなかったってのが、現実だろうよ」
口を開こうとしたイグニスを遮って、“細けぇことは、コルの坊主に聞きな” そう言葉を締めくくったシドは、最後まで信じていた光が失われてしまったことに、耐え忍んでいるようだった。
ふらつきながら立ち上がったかつての盟友は、ガレージの外に出ていきながらやるせない思いを若者たちに投げかけた。
「オレはレギスと、顔も合わせちゃいねぇんだ。もう何年んも前からな」
“王の墓所”に行ってみな、とコルからの伝言を伝えたシドは、ガレージの椅子に深く腰掛け帽子をぐっと深く被り直し低くぽつりとノクティスに向かって呟いた。
「おめぇは、親父より長生きすんだぞ。そんで親父より、幸せになれ」
「じいじから、話聞けた?」
ガレージの反対側でレガリアの整備をしてくれていたシドニーが、近づいてきたノクティスに声をかけた。
「あ..。うん、将軍が“王の墓所”に向かったって。だから俺らも今からそこ行くとこ」
「そっか。話、聞けたんだね。よかった。レガリアにちょっと口に入れられるもの積んどいたから、道すがら食べて。あと、これ...何か聞いてる?」
シドニーの手にあったのは、出発の日にネヴィラムが持たせてくれたボトルだった。
「あ、それ兄貴が...」
「ネヴィン?」
不思議そうな顔をするシドニーの反対側で、イグニスがノクティスに尋ねる。
「ノクト、ボトルに何か入ってないか?」
イグニスに言われるままにボトルに目をやると、確かに紙状の何かが入れられているのが分かる。
「なんだ?メモか?」
隣からグラディオラスがのぞき込む。
「メッセージボトルなんじゃない?...ネヴィン、おしゃれな恰好してるし。プレゼントもおしゃれにしたかったんじゃないかな」
淋しそうな口調でプロンプトがノクティスの持っているボトルを写真に撮る。
もう会えないかもしれない兄が残した手紙。
ボトルの封をそっと外して、中に入っていた手紙を取り出したノクティスは、見る見る内にその表情を変えることになる。入っていた手紙の内容が、想像していたものとは違ったからだ。
[親愛なる弟とその仲間諸君]
で始まる手紙は、ある夢の内容について語られることから始まっていた。
______________________________________________
親愛なる弟とその仲間諸君
このボトルを開けてるってことは、事故じゃない限りは“困ったことになった”ってことだな?
渡すときにも言ったが、これは魔法のボトルだ。困った時に開けるんだ。
うっかり開けちまったならここで読むのをやめて、困ったときまでしまっとけ。いいな?
よし。では今困っているお前に、一つ夢の話をしよう。
1人の王子が、国を追われる夢だ
王子は思わぬ時から、思わぬ敵に追われるようになる
信じて慕った見方はもはやなく
王子は王座へ上る
上る階段は羅刹の道
そんな夢を見た時から、俺は二つほど覚悟していた
一つはこのルシスが破れる事
二つ目は、わが最愛にして第113代国王、レギス・ルシス・チェラムとの別れだ
国が亡べば王も滅ぶ
それが道理だ
父上は王としての責務を全うされるだろう。俺の夢は知ってるな?
“死神サマ”の見せる夢は、人の死を予言する。これは覆ったことがない
次代国王はお前になる
俺はクリスタルに拒絶されたせいで王位継承権は無いからな
つらい責を背負わせる兄を許してほしい
お前より先に人生を生きてきて、外を歩いてできるだけ役に立つように準備してきたつもりだ
出来れば頼ってくれ
それに、お前は王様に成っても一人じゃないよ
隣を見てごらん
今両隣にはきっと、イグニスやグラディオがいてくれるだろう?
目の前にはプロンプトがいてくれるかもしれないな
彼らは守るべきルシスの民であると同時に、お前を支えてくれる“仲間”だ
王様も一朝一夕でなれるもんじゃない
父上もそう言ってた
俺も、生き残ることができてたら真の王ノクティスを支える臣となる
歩け あゆみを止めるなよ、新たなルシス王
お前の兄貴より
追伸
フルーレ嬢のことは心配するな。兄貴がわが身に変えても守って見せるぜ☆
お前の武運を祈ってる
_____________________________________________________
「....兄貴、また一人で先行きやがって」
「ノクト...大丈夫か?」
側にいたイグニスが、様子が変わったノクティスを気遣う。
手紙から目線をあげたノクティスは、手紙の兄から言われた様に、周囲を見渡してみる。
気づかわし気な目でノクティスの様子を見ている参謀イグニス。
怪訝な顔をしながら、手紙から覚悟を定めている盾のグラディオラス。
同じ目線からそっと隣に寄り添おうとしているプロンプト。
それぞれの目がノクティスへと注がれていた。
まだ戸惑っていて、何も言わず笑って送り出した父王の面影が消えない中、無理やり前に踏み出さねばならない状況を共に乗りこえようと、模索している仲間の顔である。
「まだ、旅はできる。か」
「え?」
口に出してみた言葉に、プロンプトが反応する。
「お前が言ってくれたんだろ?“旅ができる”って」
「う、うん。そうだけど...」
「ルーナも、きっとあきらめてない。兄貴も...」
「そうだな」
「ルナフレーナ様は神凪でおられるしな」
イグニスとグラディオラスがうなずいて見せる。
「俺は、“真の王”になれって言われても、何していいのか分かんねぇ。けど、今俺があきらめちゃいけないのは分かる」
考えている頭はごちゃごちゃで、口に出すことすら自分にとってはままならない。
それでも、“今”言わなければならないとノクティスは感じていた。
「親父がなんで俺になにも言わなかったのかって!笑って送り出しただろって!なんで親父が、俺だけ残したのか。それもわかんねぇ。王子だけ残したって、国がなくなっちまったら終わりじゃねぇかって!」
「ノクト...」
涙の混じった声で、思いの丈を迸らせる。掠れそうな声と、頭にめぐる酸素が無くなってしまいそうなほど息を吐き切った時、ノクティスの両肩に手が乗せられる。
イグニスとグラディオラス。二人が肩をなでていた。
「ノクト!」
目の前からプロンプトがノクトを包み込む。同じ背丈のプロンプトが、少し力を込めてノクティスを抱きすくめる。肩で息をしながら、ノクティスは頬に涙が伝う感触に初めて自覚できた。
「シャキッとしろよ、王子。待っちゃくれねぇんだ」
「いけるか?ノクト?」
「いきなり王様、だもんね」
やっとの思いで涙を止めたノクティスが、恥ずかしそうにシドニーからタオルを借りて顔を拭い終わったあたりで、三人から声がかかる。
「おぅ、ノクティス」
三人の声に応えようとしたノクティスに、ガレージから出てきたシドの声がかかる。
雨は、いつの間にかやんでいた。
「なに?」
ノクティスの傍近くまで歩いてきたシドは
「お守りだ、もってけ」
とノクティスの手のひらに腕輪を握らせる。
表面にルシス王家の紋章と、レガリアの印章に似た模様が彫られたもので、内側にも美しい文字の装飾が施されていた。一部分黒ずみが見られ、古びている印象の装備だった。
「これって...」
「俺が、お前の親父と一緒に旅してた時に、俺が作って彼奴にやったもんだ。お前の親父と俺は最後、喧嘩別れしちまってな。そん時彼奴が投げてよこしやがった。今度はちゃあんと守れるように、もってけ」
ぎゅっと、手の上から皮のグローブに包まれた骨ばった手が握りこんでくる。
「うん。ありがとな、シド」
まっすぐ目を見て礼を言うと、シドは微かに帽子を下げて、またガレージへ戻っていってしまう。その様子を見送って、レガリアの傍で待ってくれていた仲間に告げる。
「行こう。コルに会いに行く」
「うっし、運転はイグニスに任せよう。おめぇはちったぁ休め」
後部座席に共に乗り込みながらグラディオラスがやや乱暴にノクティスの頭をなでる。
シドニーはイグニスに、目的地である王の墓所の位置を説明し、隣に座るプロンプトがそれを聞きながら地図にメモをしている。
シドニーに見送れらながら、一行は王の墓所へと出発したのだった。
次こそは兄貴と合流したいなぁ。
弊小説の兄貴は、弟のこと大好きです。
けど一方で、使命についても非常に冷静に受け止めています。
そこが弟との違い。