創星記ー異伝ー FFXV~冒険の果てに待つものは~ 作:星野啓
ーmergeー
「まずはどこへ?」
ボロボロの服を着たまま瓦礫同然の王都を2人の男が歩く。活気に溢れていた王都にはもはや人の影すらなく、朝焼けに染め上げられていく街にはシガイの気配も消えた。静寂の中2人の足音だけが響く。
「ニックスはガラードへ。クロウがそこで踏ん張ってくれているはずだから」
何でもないように首だけ此方に向けながら、ネヴィラムが話す。ネヴィラムの言葉にニックスは咄嗟に反応することができなかった。何故なら今この第一王子が語った名は、死んだと思っていた大事な妹分の名前だったからだ。
呆気に取られているニックスの気配を察してか、悪戯が大成功した時の悪童の顔で、ネヴィラムがニヤリと笑う。
「生きてるよ、彼女」
此処で一発顔面に入れなかったことを、ニックスは無性に誰かに褒めて欲しかった。
(因みにこの時のネヴィラムの悪人面は養父譲り)
「ックソ...お前にゃ色々言いたい事はあるけど、礼は言っとく」
「毎度あり」
にっこりと満面の笑みを浮かべた。
「....俺“は”?じゃあネヴィンは?」
頭の中で引っ掛かりを覚えた事を指摘すれば、ネヴィラムはニックスに別行動を提案する。
「ニックスはガラードでクロウと合流してほしい。その後の事は、また指示するから」
と端末を手渡す。ニックスが王都で使用していたインカムと酷似した耳に掛けるタイプと、ノクティスも使用している様なタブレット。受け取りながらもなおも言い募ろうとしたニックスに、ネヴィラムはズイと指を眉間に突き出す。
「クロウに顔を見せてやってくれ。俺が無理やり巻き込んじまった。死んでた方がマシかもしれない世界に」
後半の尻すぼみな物言いに、ニックスはネヴィラムの優しさを感じ取って黙った。代わりに、勝手に1人で走って行こうとしている友人に、声をかけた。
「どうしたってお前は無茶するだろ?だから約束だけは守れ!国の前にお前を大事にしろ、でないと俺が国崩ししてやる」
やりかね無い凶悪な顔で、街を半壊させた男が凄む。
「わかったわかった。そんな顔するなって、怖いから」
早口で捲し立てると、ヨシ、と肩をパンと叩き、街の出口から反対側のハイウェイへ歩き去っていく。
呆気のない事だったが、再会が約束された別れは、
寂しくなかった。
「さてと....」
強化魔法をかけていた腰のポーチから、通信用の端末を出す。幾つかのボタンを押し(タップできない。何故なら液晶じゃないから)ノーチラスの艦橋に繋げる。どうせアーデンはいない。今クリスタルを本国まで輸送の真っ最中で、流石に手は抜けないだろう。
「モルガンテ様、ご無事でしたか。今どちらに」
時期に繋がった回線に、頼れる老齢な艦長が応える。
「今首都攻略戦の成果を見て回っていたところだ。攻略戦の指揮は今誰が取っている?」
「それは....」
ザッとノイズが入ったあと、「いけません!」だの「まだ動かれては!」だのと喧騒が向こう側から伝わってくる。
「.....どうした艦長、混線か?」
「モルガンテ、俺だ」
聞こえたのはしゃがれた老人の声ではなく、疲れを滲ませた青年の声だった。
「もしかして、レイヴスか?」
「あぁ、前線の指揮も俺が。お前は無事だったらしいな、モルガンテ」
「怪我を、したのか?」
真面目そうな青年の顔が、脳裏をよぎった。ネヴィラムとモルガンテを行き来する生活の中で、この苦労性な青年の存在はある意味で貴重だった。同じ歳の妹を重ねたのか、何くれとなく世話を焼いてくれる、兄の立場が多いネヴィラムにとって、兄と呼べる存在だった。モルガンテの立場となってからは、素性を明かさないながら、歳の近さからか、生来の面倒見の良さなのか、少々刺々しいが対等に接してくれる数少ない人物の中の1人である。ネヴィラムにとってもモルガンテにとっても、出来れば失いたくなかった。
「腕を持っていかれただけだ。今は義手を手配している所だ。前任のグラウカの鎧に使っていた」
流体金属で覆われた大きな鎧。故郷を守るために燃え尽きた男の最後を、思い出してしまった。
「そうか...」
沈んだ声だったのだろう。上の空な返事に対して「大丈夫か?」とレイヴスが呼びかけてくる。
「大丈夫。レイヴス、片腕持ってかれたのか?」
いつもの調子に声を戻して尋ねると、レイヴスが気にするなと言わんばかりに返答する。
「奢った俺に対する、罰なんだろうな。これは」
晴々としたレイヴスの声に、モルガンテはとある伝説を思い起こしながら語りかけた。
「大昔のどこかの話みたいだな」
「あぁ、太陽に手を伸ばした愚か者の話だな。確かに。だが俺は後悔はしていない。愚者は経験から学ぶものだという。俺は俺なりにやるだけだ」
やはり自信に満ち溢れた一角獣を止める事は、乙女でもない限り無理らしい。乙女でもまして女でもないモルガンテが、どうしようもないのだ。
「あぁわかったよ、もう何も言わないさ」
投げやりに返事したモルガンテに、衝撃の言葉が伝えられる。
「それと、お前に伝えることがある。人事の件だ」
「?」
首を傾げたモルガンテにレイヴスは、静かな声音で告げた。
「俺の治療が終了し次第、俺がルシスの暫定統治を任される」
その言葉は帝国軍人としてのモルガンテは、ただの事実として聞き入れた。
しかし、ルシス王家の第1王子のネヴィラムとしては、諾々と飲み込むことができなかった。
相反する感情が、一瞬自分の内から濁流のように押し寄せ、言葉が出なくなる。
「ッ...」
その様子をレイヴスはいかに理解したのか。通信の向こう側からは、何も聞こえてはこなかった。
時間にして一瞬の間が空き、モルガンテがネヴィラムを置き去りにして口を動かした。
「わかった。じゃあ、今レイヴスは本国に向かってるわけだな?帰ったら俺の機体返せ。宰相府の正式許可はまだ下りてないんだ」
「っふ、何の話をするかと思えば、そのことか。悪かった。本国に帰還次第、宰相の母艦のほうに送り返す。」
「暫定統治を任されるなら、将軍職だな。昇進を祝う方が先だったか?テネブラエの人間が最高位になっても祝福してくれる奴は少ないだろうし、俺ぐらいは祝ってやろうか?」
「それこそ、心にもないだろ?モルガンテ。お前はそんなことを気にする男ではないと思うが?...だいたい、あの無粋な宰相の部下に、そんな気遣いができたとは」
口先だけの軽口の応酬が、無関係なところで滑っていく。他愛もない会話が終わったときには、やっと
「では、また。しばらくは顔も見れんな。体に気をつけろ」
「今だって声だけ...わかった。レイヴスもな」
そういって端末の電源を落とす。だらりと手をたらし、ぼんやりと空を見上げる。
空は何食わぬ顔で雲を流していく。機能と変わらぬ、しかし決定的に違う朝。
モルガンテの表情の乏しい顔から、苦労性な王子の顔に戻って、武器召喚と同じ要領で愛用のバイクを取り出し、またがる。荒れた衣服も同じく着替える。
(フルーレ嬢は、おそらく難民に紛れて進んでいるはず。誓約をやるならまずは...あそこか)
なんとなく場所を予想しながらエンジンをスタートさせる。
***
「ここで一泊するか」
どうせ財布は宰相サマ持ち。
贅沢をしても一本どころか、ネジが恐ろしい本数が飛んでいるあの御仁が、一泊の贅沢にとやかく言うタチじゃないのは、10数年の付き合いでネヴィラムに染み付いている。
ガーディナの街まで一昼夜走り続けて、砂だらけになった上着を手で払う。料理人も寝心地の良いコットもない中で、侘しいキャンプをする気には結局なれなかった。渡船場の脇のパーキングにバイクを止め、食事をするためにホテルシーサイド・クレイドルに向かった。
「....アンタ?もしかして第1王子ぃ?」
後ろから急に声をかけられて、ネヴィラムは気を抜いていたことに気がつく。舌打ちをする前に公用の顔(朗らかな王子の顔)に切り替えて振り向くと、茶髪に緑のネクタイにアクセサリーを身につけた若い男が座ってこちらに手を招いていた。
「失礼だが...貴方は?」
「あ、そんなに警戒しないでよ。王子...っとアンタも王子様だった。弟君の方にはもう挨拶したんだけど、オレ、ディーノ。アクセサリー屋兼新聞記者ってとこ」
「ノクトにはたまに驚かされる。アイツいつの間にか顔広げてるから」
やれやれと首を振って見せると、「へぇ」とディーノが首を出す。
「?...どうかしたか」
「いや、噂じゃ完璧なお兄ちゃんで、家に寄り付かない鉄壁の外交官って触れ込みだったんで。意外と...」
一旦そこで言葉を切ったディーノは、伺うように顔を見てくる。
(こいつ、最期まで生き残りそうな奴だなぁ)
その用心深いところにネヴィラムが感服しながら、ディーノの警戒を解くように声をかける。
「別に不敬罪なんて吹っかけたりしないよ。ノクトは世渡りなんて知らないから、今後も何かと声かけてやって欲しいな」
ほっとした態度になってディーノは握手のための手を出す。
「なんだ。意外とオニイチャンも気さくな方じゃん。ここら辺もこないだ帝国軍の宰相がきてたらしいから、気をつけてネ。俺、応援してるから」
「っふ。ありがとう。応援には応えないとね」
思わず笑ってしまいながら手を出して握手を交わす。
ディーノは目の前の優男がなぜ笑ったかはわからないだろう。
いつの日かこの男こそ、その帝国宰相の後ろにいた青年だと知ったら、どんな反応をするだろう。そんな想像をしてしまって笑っていたなんて。誰も想像できまい。
(誰にも言えない、俺の秘密)
踵を返した後ネヴィラムは、うっそりと笑いを浮かべてホテルに向けて歩を進めた。
「いらっしゃいませ!あ、ネヴィラム様。ご無事でしたか。ルシスの本国が襲撃されたって聞いて、不安だったんです。ニュースでは亡くなられたって...」
ホテルの受付嬢は堰を切ったようにネヴィラムに声をかけてきた。
「ご心配をおかけしました。引き続き国民の皆様にはご苦労をおかけしますが、一刻も早く混乱を収束できるよう最善を尽くして...」
「ネヴィラム様!」
言葉を途中で止められたネヴィラムは、下げていた頭をそろりとあげる。目の前の受付嬢の目には涙が浮かんでいた。若い、恐らくノクティスぐらいの年齢の受付嬢の涙に、ネヴィラムは内心焦った。
(おいおい!頼むからこんなところで泣かないでくれ!俺が泣かしてるみたいじゃ....)
「ネヴィラム様。私、恋人があの戦いで、死んじゃったかもしれないんです。王の剣にいて...それで....」
そこまで言って受付嬢はハッとしたように口つぐみ、小さくごめんなさいと謝ってきた。
「申し訳ない。彼らに護衛を任せたのは、王家です」
謝る彼女に、ネヴィラムは本心から頭を下げた。
戦いになれば人が死ぬ。
それは至極当然で、覆し用のない事実。
そしてそれぞれには、家族も、恋人もいる。
それをわかっていて、ネヴィラムは命を選択した。
「必ず、彼らに報いることが出来るよう、全力を尽くします」
そう言ったネヴィラムに、彼女は
「『あの日』調印式の日、なんだか様子がおかしくて...。『これで故郷が救われる』とか言って、それで、私、何も言えなくて....。ネヴィラム様、王都に戻られた時、もしまだ覚えてくださっていたら、これを彼に渡してくださいませんか?」
と縫い目の見えないハンカチを差し出してきた。
「お預かりします」
「彼の名前はソニト。ソニト・ペラムって言います。王子、お願いします」
頭を下げられる資格はない。この手で見殺しにしたかもしれない。それでも彼女は恋人の無事を一心に祈っている。恐らく、恋人を止められなかった自分を責めながら。
(俺も、自分を責めてるのか。自己満足とわかっていながら)
ホテルの部屋でベットに横になりながら、受け取ったハンカチに慎重に保護魔法をかけ、武器召喚とは少し違うプロセスで仕舞い込む。
(届けて、あげたいな)
カッコ()の中が心情ですね。
書き方を変えてみました。
なんだかスコールみたいになったなぁ。
長らくお待たせしました。思い出したように投稿しますのでまたお待ちくだされば幸いです。