創星記ー異伝ー FFXV~冒険の果てに待つものは~ 作:星野啓
モルガンテの軽い説明
ノクティスの兄ネヴィラムの帝国のすがた。表向きアーデンの息子兼、副官。ネヴィラムが魔法で姿を変えている姿。髪と目の色がアーデンと同じ色になる。
Chapter01 嵐の最中 前編
ーmarionette manー
どれくらい走っただろうか。毛に埋もれていた顔を上げると、日は完全に傾き、大地を真っ赤に染めていた。狼は疾走を続け、国境を遥かに超えた場所にいるようだった。
(どこまで走っただろうか。この辺りはまだダスカ地方のようだが)
日が沈んで仕舞えばまだこの辺りは肌寒い。しかもシガイが出る。アーデンの所までたどり着ければ何も問題ないだろうが。
そう思っていたネヴィラムの下で、狼がスピードを落としていく。それに気がついたネヴィラムが前方を見ると、黒い艦影が見えてくる。アーデンの座乗艦、“ノーチラス”。帝国機動戦艦の中でも足の速い方の艦だ。黒いカラーリングで統一されており、中に執務室も“一応”完備されている。アンカーを打っている艦の船底まで走って行った狼は、大柄の男が立っている前まで走り、ゆっくりとネヴィラムを下ろして消えた。鼻を擦り付け名残惜しそうにしていたのが印象的だった。
「やぁ。遅かったから迎えをやったんだけど、役に立ったかな?」
「いや?壁外で車がないって言うのは中々地獄だし」
ドクン
一歩踏み出し、歩き出したつもりだった。鼓動が一拍打った途端、カクリと体の力が抜ける。倒れ込む前に、アーデンに受け止められたと思った途端、全身を剣で貫かれたかのような痛みがネヴィラム襲う。一瞬飛んだ意識の向こうに吹き飛ばされるバイクと、クロウが見えた。
「ちょっと!今度は何したのさ、しっかりしなよモルガンテ」
名前を呼ばれている事はわかるが、声が出せない。説明することができないもどかしさと、痛みでアーデンのストールを握りしめる。急速に失われる魔力に合わせて、身体が軋む。身体中痛くないところがなかった。
「何やらかしたかは、後で聞かせてもらうからね」
そう言ってアーデンは
「アーデン様、如何致しましたか」
船内の狭い廊下を進んでいると、廊下の奥から厳めしい顔つきで右目に眼帯をした老人がアーデンに問いかけてくる。
「あぁ、船長。丁度そこで息子を拾ってね」
「!...モルガンテ様は、お怪我を負われたのですか?」
苦しそうな顔をしているモルガンテを指して、厳しい顔をする老人に、アーデンは軽い口調で答える。
「いやぁ、そう言うわけじゃないと思うんだよね。取り敢えず寝かせようと思うから、王都まで任せるね。ネモ船長」
ネモに肩を竦めて見せたアーデンは、そのまま船室の扉をくぐった。
「下ろすよ。息してる?」
触れた所が焼かれるように痛く、二の句を告げないでいるモルガンテ にアーデンが軽い口調で尋ねる。モルガンテは、答える代わりに左手でシーツを握り込み、空いている右手で左腕をきつく掴んで身をよじった。身を絞るような呻き声が漏れ、顔は苦悶に彩られていた。
「魔力を補填する速度に、身体がついてってないね。だから言ったんだよ。『自分を大事にしなよ』って。君は小さかったから覚えてないかもしれないけど。まったく馬鹿な子だねぇ、君は。そこまでしたって、誰が君に報いてくれるんだい?」
苦しむモルガンテの様子に、呆れた口調でアーデンが呟く。小さな声だったが、モルガンテの耳には届いたのか、切れ切れに何事か呟いた。気がついたアーデンが耳を寄せる。
「....それ、でも、いつか、だれか、を、すくえたら...」
“きっと素敵だ”
アーデンは口の動きだけでつぶやかれた最後の言葉を聞いて、この愚かな子供を今すぐにでも滅茶苦茶にしてやりたくなった。最早意識まで手放してしまった養い子は、神々から拒絶され、絶望を味わったはずだ。だが未だに誰かを救おうとする。子供の中の何がそう決意させるのかがアーデンには理解できなかった。
人に裏切られて幾星霜。
記憶の彼方で綺麗な髪が、目が、口が、何か言っている。
しかし今のアーデンにはそれが何者なのか、分からなくなっていた。
急激な魔力消費のせいなのか、それとも苛む痛みのせいなのか、ひどい悪夢を見た。それはモルガンテにとって見慣れた光景だった。王都インソムニアが、火に包まれ荒廃し、ひどく真っ暗な中、父やノクティスが彷徨う夢。父とノクティスは血まみれで、こちらに向かって虚ろな目を向けて、何かを言う。何を言うかはその都度違ったが、今回はただ口から血を溢れさせ、何か言いたいのか口を動かすだけだった。
聞き取ろうと一歩踏み出したモルガンテの前で、父王の顔が苦しそうにゆがむ。何があったのかと父を見れば、父の胸には見慣れた剣が刺さっていた。
父王から贈られた、
鋭い剣先には、目も覚めるような鮮やかな、赤色が見えた。
額の冷たい感覚で、目覚めると
「だいぶうなされてたね。大丈夫?」
枕元に腰かけたアーデンが視界に入った。震える手で額にあるアーデンの手を取る。
体から痛みは消えていた。しかし手にはまだ、父王を刺した感覚が残っているように思えて、恐怖が手から這い上がってくるようだった。
「...ここ、どこだ?」
ゆっくり間をおいてアーデンが答える。
「ノーチラスの中。執務室に備えられているベッドの上。君は夜、この艦に合流してすぐに倒れた。で、夜通し寝てた。ほら、夜明け見える?」
戦艦の小さな窓から薄っすらと沈んでいく月が見え、だんだん白んでいく空が見えた。納得した様子のモルガンテがゆっくりと体を起こすと、アーデンが背中にクッションを差し込む。凭れてろ、ということらしい。
「で?説明してくれる?何があったか」
執務室に格納されている椅子を出して固定し、体ごとモルガンテに向き直ったアーデンが問う。
「...1人、人間の運命を捻じ曲げた。それだけだよ」
「ふぅん。で、その体たらくってわけ」
低く、少し掠れた声だった。どこか嘲りの様な言葉。しかし、どこか怒りにも似た感情を感じる声。
「今回は魔力消費が膨大だった。防御に、大規模な幻影魔法も組んだから。彼女をガラードまで逃がすなら、ここまでしないと助からない」
クッションにありがたく背を預けながらモルガンテが説明する。
「うまくやりなよ、“その時までは”。モグーナに死なれちゃったら、ノクティスをいじめるしか楽しみがなくなっちゃうじゃない」
暗闇から道化が笑う。そう、遠からず滅ぶ道だ。真の王が世界から闇を消し去らなければ、この世界は滅ぶのだと、この星に生きるものなら赤子だって知っている。すべてを信じているかは、別として。
「...ジョーダンじゃない。いい加減人をおもちゃにするのやめろよな。特にノクトは。それこそ、宿願を果たす前に壊れちまったら、本末転倒になるのはアンタのほうだ」
あと、モグーナって呼ぶな、と付け加えると、道化は先ほどと違い、至極機嫌のよさそうな顔をして
「やだよ。俺の可愛いモグーナ。大丈夫だよ、加減して遊ぶからね。...あぁ、早く真の王サマになってくれないかなぁ。まだ壊しがいがないよ」
楽しそうなアーデンに対し、モルガンテは寝返りを打って仰向きになり
「じゃあ、
と囁くような声で言った。それを聞いたアーデンは身を乗り出し、同じ色をした頭を自身の胸元に引き込んだ。
ー...まだインソムニアに着くには時間がある。せめてそれまでは俺の可愛いモーガンでいて
ゆっくりと、とても静かに発せられた声だった。胸元に引き込まれたモルガンテには少しくぐもって聞こえたその唐突な言葉は、
身を離したモルガンテの指に、アーデンが何かをはめる。右手だ。一晩中握り締めていたせいか、力がまだ抜けていない手を取って、人差し指にはめられた“それ”はひんやりとしていた。
「これ貴重なものだから、壊したり無くしたりしたらダメだからね」
真っ黒な指輪だった。父王が身につけている光耀の指輪と違って非常にシンプルで、表面に細かな文字が彫り込んであるようだった。
「なんで俺に指輪なんだ?今更俺に首輪のつもりなのか?」
人差し指に嵌った指輪に触れながら、少しづつ差し込んでくる朝日に灼かれるアーデンの頬を、日差しから避けてやる。揶揄うようなモルガンテの言葉に対して、アーデンは人差し指を立てて、まるで教師か何かのように説明する。
「これは、そうだな。言うなればストッパーだよ。君の急激な魔力の吸収を抑えられる。昨日みたいな無茶は出来なくなるけど、少しは長く生きられる。壊れるまでのタイムリミットが伸びるわけだ」
そう言われたモルガンテからは、途端に表情が抜け落ち、様子が一変する。白磁で作られた精巧な人形のような顔をして、その琥珀のような瞳には何も浮かんでいなかった。
「そんな顔しないの」
アーデン は両手でモルガンテを挟み込み、真正面から向き合う。モルガンテの意識が強制的に引き戻される。
「君にはまだ、やることがある。でしょ?」
「わかってる。言われなくても、やり切るさ」
人形に表情が戻り、見開かれたままだった目が瞬きを始める。モルガンテに人間らしさが戻ってくるのを、アーデンは満足そうに眺めていた。
目標達成のために生まれた、ネヴィラムのもう一つの仮面。それがモルガンテという存在だ。この世のどこにも実体は存在しない架空の人物。帝国宰相アーデン・イズニアの息子であり、宰相府の副官という立場だと知られているが、その実態は、己の運命を呪った1人の少年が、苦しみの中で作り出した生み出したもう1人の
顔を上げた生贄が足掻くための手札を切る。
「アーデン 。残念だが“可愛いモーガン”の時間は終わりだ」
その答えを聞いたアーデンが歯を見せてニンマリと笑う。
「じゃあ行こうか、モルガンテ・イズニア副官。国崩しの時間だ」
体の内側に、冷たい炎が燃えている気がした。
宰相府の皮肉屋で、冷静で嫌味な副官が顔をもたげる。
「お供します、とか言えばいいのか?この場合」
「何拗ねちゃってんの、モーガン、カワイィ」
気持ち悪い声出すな!とアーデン の顎を下から押し上げ、眼前から退かすと、床に足を下ろした。
機械の力で対流する風が、冷たく足元を抜ける。執務室のクロークを開け、モルガンテの服を引っ張り出すと、無造作に身につけた。ハンガーに掛かっていた王都警備隊の服は、武器召喚と同じ要領で仕舞う。
軍靴を履き終わった頃、部屋の通信機が着信する。
「どうした?」
『副官殿、目を覚まされましたか。では
「了解した、艦長。宰相閣下もお連れする」
『ありがとうございます。では後ほど
「お待ちしておりました。体調は如何ですかな」
髭を蓄えた老齢な艦長が、
「ありがとう艦長、問題ないよ。」
体を気遣う艦長に、笑ってみせてから艦橋中央へ移動する。眼前にはインソムニアの絶対的な防御『魔法障壁』が広がっている。これがあるために、この戦艦もインソムニアに直に着陸することはできない。周辺の谷に待機させることになっている。着陸態勢に入る中、艦橋に遅れてアーデンが入ってくる。
「閣下、予定通りのポイントで着陸します」
完全な棒読みで、モルガンテがアーデンに呼びかける。
「なんか
脇に立っていたモルガンテの頭に、衣紋掛けのように帽子をかぶせながらアーデンが問いかける。被せられたモルガンテはため息とともにその帽子を脱ぎ手の中で玩ぶ。
「一応、貴方の部下です。一応ね」
その寸劇の様子に、いつもの仕事ぶりを知っている部下たちから苦笑いが漏れる。任務中である現在、一寸先も見えない戦場で戦う艦内の兵たちにとって、魔導兵を運用する部隊に配属されることは、評価される反面、臆病者の誹りを受けることもあった。しかし宰相府直属部隊であるこの
そしてこの艦だって実質仕切っているのはアーデンではなく、艦長であるネモとモルガンテだ。日常業務についても宰相が真面目にやっているところを誰も見たことがない。きっとこの副官がしっかりしているから、大丈夫だろうというのが、宰相府直属部隊の常識だった。
「艦長、俺たちが降りたら半舷休息とする。警戒態勢オレンジで待機してくれ何かあったら即応を頼む。ただし迎撃のみだ。こちらから射つな。絶対に」
空気を断ち切るようにモルガンテが言い渡す。空気が張り、緊張感が艦橋に戻ってくる。
「了解しました」
優秀な艦長は、うなずいた後復唱し、伝令が艦全体に伝わっていく。これがニフルハイム帝国の日常であり、戦に明け暮れる国の宰相副官、モルガンテ・イズニアの日常だった。モルガンテは背筋に這い上がる寒気を感じ、抑えるように拳を握り込んだ。
その様子を後ろから見ていたアーデンは、何も言わずにその手から帽子を取り上げて、クルリと被り直した。
「そうだった、モルガンテ。一度ガーディナに降りるからね」
まるで天気の話をするようにそう告げるアーデンに、モルガンテは怪訝な表情で振り返った。
「ガーディナ?なんで今ガーディナなんだ?ただの港町だろ?」
思わず口調が普段のものになったモルガンテに対して、眉を軽く上げたアーデンは笑みを深くした。モルガンテはそのアーデンの笑みだけは嫌いだった。琥珀色の目が爛々と輝き、獲物を見定めた目をする時、アーデンは復讐鬼に戻るからだ。
己の運命を呪い、神々を恨み、愛する人を討たれた悲しみに呑まれた復讐鬼。
今に生きる何人たりとも今の男の目には映らない。
その瞳の中にモルガンテは、いない。
「...せっかくだしノクティス王子に会っておこうと思ってねぇ。彼、どうせ今海を渡るためにガーディナにいるでしょう?君も来るんだ」
「...」
“おいで”という割に、拒否権のない言葉に、何も言えないモルガンテを置いて、艦は順調にガーディナに向かって飛ぶ。艦橋の大きな窓からは美しい海の光が見え、戦を知らぬ白い雲が日差しをやさしく遮っていた。
「俺はまだ、彼奴に会うつもりはない。無理やり連れて行っても一言も話さねぇからな」
「いいよ、モルガンテは俺の人形ね」
鼻歌が聞こえてきそうな声で即答したアーデンに、モルガンテは噛みつくように言い返す。
「俺はご自慢の機械人形とは違う!」
貝のように口を閉ざしたモルガンテは、そこからガーディナから艦に帰るまで、本当に一言も話すことは無かった。
主人公ノクティスがいないFF15。今作の主人公はネヴィラムとノクティスのダブル主人公なので、両方に見せ場をあげたい。