創星記ー異伝ー FFXV~冒険の果てに待つものは~   作:星野啓

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今回のキーワード
父王の真意とは
アーデンの服のセンス


Chapter01 嵐の最中 中編Sideアーデン

ーEncounterー

 

王子一行から十分に離れた駐車場で、アーデンは自分の愛車に乗り込む。隣には先ほどから一向に口をきかない静かな人形、モルガンテ。

「ねぇ、機嫌直してお話ししようよ。何日かぶりの弟くん、どこもケガしてなさそうでよかったじゃない」

車を発進させながらアーデンが呼び掛けるが、モルガンテは黙って運転しろと言わんばかりにちらっとアーデンを見ただけで、すぐに景色に視線を戻してしまった。その様子にアーデンは何も言わず、車を走らせる。

 

 

やがて艦との接触ポイントについたが、日の光を嫌うアーデンは岩場の陰に避難する。非常に開けた高台で、ガーディナの一帯を見渡すことができた。モルガンテは隣にいるアーデンを置いて、陰から出ると、草の生茂る野原を横切り、崖の淵までゆっくりと歩いた。崖の下に広がる海は大きな波音を立てて打ち付け、よく晴れた乾いた風が潮の香りを運んできた。モルガンテは、沖に浮かぶ島影を眺める。モルガンテ自身はあの島に行ったことは無い。しかし、中の様子はよく知っていた。

 

<神影島>

 

ルシス王国の聖地であり、王家が所有し管理する場所の一つでもあるあの島は、モルガンテ(ネヴィラム)の夢に何度も登場していた。

 

(あの島で、悲しいことが続く...それを俺は止めたいのに、力が足りない)

 

風に遊ばれていた髪が、不意に収まる。上を見ると帽子をかぶせられていた。誰の帽子かは、言うだけ野暮だ。高い背の後ろには黒い艦影が迫りつつあった。魔道機関の音と、人工的にたてられた風がなびく。アーデン顔には濃い影ができていく。

 

「そろそろ行くけど、気は済んだ?」

この男にかかれば、ロマンチックな気遣いも、ノスタルジックな哀愁もどこかへ吹き飛ぶ。ただ修羅たらんとしたアーデンの在り方が、風情という人らしさを拒絶しているようだった。

モルガンテ(ネヴィラム)がアーデンを知ったときにはすでに復讐の鬼と化していた。そうでなかったことなど一度もない。ただその合間に垣間見せる一面をモルガンテ(ネヴィラム)は知っていた。

 

 

ーいつか。

 

不意に手を伸ばしてきた養い子の様子に、先程とは違う様子を認めたアーデンは、モルガンテのしたい様にさせた。

不意にモルガンテが焦点の定まらない目をしていう。

「いつか、本物の貴方を、俺に見せてくれないか?」

アーデンは初めは何を言っているかが理解できなかった。

「急にどうしたのモーガン?」

モルガンテが後ろに見える島を、右の人差し指で示しながら、左手でアーデンの服を握る。

「いつか、いつかあの島からアンタが解放されたら、いいのにな」

そう思って。と泣きそうな顔をするモルガンテの顔が、その白い服が、風になびく髪が、アーデンの記憶の彼方の誰かと重なった。

 

「なぁ、アーデン 」

『ねぇ、アーデン 』

 

記憶の中の麦畑と似ても似つかぬ緑豊かな野原で、色も長さも違う髪、でもその表情が、どこか“彼女”を思わせた。

「■■■」

口にしたはずの名前は、空虚な吐息となって漏れただけだった。

 

彼方に消えてしまった影を捕まえる様に、アーデンは目の前の養い子を腕の中に閉じ込めた。

 

腕の中でモルガンテは、黙って抱きしめられながら、空を見上げて密かに思う。

(ほらカミサマ。まだこの人はこんなにも人らしいのにどうして化物にしてしまうんだ?)

 

 

ーloseー

 

 

 

(ふね)に戻ると、先ほどの憂などかけらも感じさせない、道化らしい動きでアーデンが入ってくる。

高機動戦艦としての能力を遺憾無く発揮したノーチラスの眼下には美しい王都の街並みが広がりつつあった。

 

艦橋(ブリッジ)に一歩、踏み出すと片手を広げ

「美しい、王都インソムニア。今頃ルナフレーナ様が到着されている頃だろう。あぁ、惜しいねぇ。綺麗な花嫁サマ!見たいなぁ、ねえ?モグーナ」

とその場でアーデンが一回転して見せた。道化のように振舞うアーデンに対して養い子の反応は非常に冷ややかなもので

「デカイおっさんがオヒメサマみたいな格好しても締まらないですよ。閣下」

とこちらもアーデンのおかげで、いつもの様子を取り戻せていた。

「冷たいねぇ」

フンと鼻を鳴らすのみにとどめたモルガンテはそこから着陸まで一切話さなかった。

 

(今から故郷を焼こうというときに、どんな顔をすりゃ良い)

 

一見不機嫌に見えるモルガンテと違って、アーデンは何がそんなに機嫌を良くするのか、笑みを絶やすことはなかった。笑いが収まった艦橋には、魔導機関が唸る音が響く音と、軍靴の響きだけがたっていた。

 

インソムニア郊外に着艦したノーチラスは半舷休息に入り、見送りの兵たちが見送る中、ルシスからの迎えの車に乗り込む。運転手に断りを入れ、モルガンテが運転席に座る。車内にはすでに、二フルハイム帝国国王イドラ・エルダーキャプトが乗り込んでいた。見送りの兵にいまだ手をひらひら降っているアーデンに早く車に乗るようモルガンテが促す。

 

「陛下がお待ちです。閣下、お早く」

「わかってる、よ」

失礼いたします、とイドラに話しかけ長身のアーデンが身をかがめて乗り込む。ちなみにアーデンの正装についている腕の大きな羽飾りはモルガンテが預かった。邪魔すぎる。

後部座席の二人の様子を見てから、モルガンテは正面に目線を戻した。

「じゃあモルガンテ、よろしくね」

「畏まりました」

 

できるだけ物静かにモルガンテは車両を発進させる。車内は非常に静かなもので、イドラはじっと焦点を一つに止めて何も言わない。普段よくしゃべるアーデンの口もさすがに今の瞬間は動かずのんびりとした様子で車外に流れるインソムニアの景色を眺めていた。

門での警備を通過し、インソムニアに中心を進む。

ネヴィラムとして見慣れているはずの景色だが、幼少期から過ごしていなかったからか、モルガンテはいまだに身になじまなかった。他人の家に来ている、そんな感覚を覚えながら車を進ませていると王都城が見えてくる。車寄せに車を寄せると同時に後部座席のドアが開けられ、SPが張り付く。報道関係は規制されていて王国広報のカメラが1台こちらを向いているだけだ。夕方のニュースには今カメラに映っているであろうイドラの姿が流されるだろう。

柔和な笑みを浮かべ緩やかに手を振る年老いた皇帝。ルシスの民にはどう写るだろうか。

明日の記念式典が国内に大々的に報じられているため、余計に今、王都城周辺にいるのは、警護を任されている王都警護隊と王の剣のみだった。

 

ゆったりとイドラが降車し、少し遅れてアーデンが車を降りる。ネヴィラムにとっては見慣れた顔ぶれが出迎えに立っている。しかし今の立場は敵国の宰相、その副官兼護衛の立場であるモルガンテ。

顔を変え、姿を変えた赤毛の青年将校なのである。生まれたころから知っている人間たちが、見知らぬ顔でこちらを見るのを、モルガンテはアーデンの後ろに控え、表情を変えずただ前だけを見ていた。

「出迎え、感謝いたしますぞ、ルシスの方々」

そういうイドラの声に、ルシス王国宰相のクライレスが笑みを浮かべながら答える。

「遠路はるばる、よくぞお越しくださいました。イドラ・エルダーキャプト陛下。先ほど、テネブラエ当主ルナフレーナ様もお付きになられました。今夜は夜会を開かせていただく予定です。それまではどうぞおくつろぎください」

イドラと硬く握手を交わしたクライレスは、一行を城の中へと導いた。

 

廊下の脇を足早に王の剣が抜けていく。モルガンテは1度見た人間の顔は忘れない。あれはニックス・ウリックとリベルト・オスティウムだ。挨拶もおざなりに血相を変えて走っていく2人と関係すること、と想像したモルガンテは一つの答えにたどり着く。

 

「きみ、何か余計なことしてない?」

隣に歩いているアーデンが身を屈めて耳元でささやく。

「“なにも”。閣下、陛下の御前ですお戯れはお辞めください」

側から見れば、宰相がオキニイリの従卒を揶揄った様に見えただろう。全く耳に入っていない様子のイドラより、そばを歩いているクレイラスの視線が気になった。モルガンテはげんなりとしたが、努めて硬い声を出す。

 

「これは、イドラ陛下。遥々良くぞお越しくださいました」

謁見の間に通された一行を、ルシス王が王座から出迎える。

「宰相殿も、何度も足を運んでいただき、苦労をかけた」

 

アーデンに呼びかける王の顔をモルガンテは目にすることが出来なかった。顔を見せろと、言われて初めて目にできる。ただの一回の従卒にとって王は雲の上の存在だ。

「これはこれは、レギス陛下。“世界”のためです。どれほどの苦労がありましょうか!」

イドラの弁を代替する様にアーデンが挨拶を返す。傍らから出てきたアーデンにも、イドラはなにも言わなかった。

レギスが一拍置いて、アーデンに話しかける。

 

「宰相殿、今日はご子息までお連れくださったのか?」

突然のルシス王(父親)の言葉に、モルガンテの体がびくりと痙攣する。自分の父親に対してこれほどの恐怖を抱いたことなど一度もなかった。

モルガンテの様子をしってか知らずか、アーデンが一歩進み出て、片手を差し出してその背にモルガンテを隠す。胸に手を当てて礼を取ったアーデンがレギスに返答する。

「数年前に打ち捨てられていた所を拾いまして、今は私の副官を任せております」

「ほう、お若い様に見えるが御立派な御子息をお持ちの様だ」

「いえいえ、陛下。陛下のご子息には叶いませんよ」

アーデンの声を聞きながら、だんだんと冷静さを取り戻したモルガンテは、面をあげよ、と呼びかけられても冷静にルシス王(父親)と対面することはできた。

毅然と(こうべ)をあげる。レギスの瞳にはいつもの温かさにかわって、硬い色が浮かんでいた。

 

「お初にお目にかかります。ニフルハイム帝国宰相付、副官を拝命しております。モルガンテ ・イズニアと申します」

なんとか声を震わせずに言い切った。そのかわり後ろでに隠した拳の震えは止められなかったが。

「よくぞおいでくださった。調印式までルシスを堪能されよ」

「ご配慮に感謝いたします」

かけられた声は何時もの父の声だった。自分に向けられていないとわかっていながら、緩む目尻を抑えることができなかった。

 

 

一通りの挨拶を終えたニフルハイム帝国一行は、宿泊先のホテルに通された。イドラはその年齢もあり、夜会まで休むことになった。そもそも最近のイドラ・エルダーキャプトは無気力で王座に座るだけの存在だとモルガンテは認識していた。アーデンが唆し、動かしさえしなければ、絶望の中でもがく事をやめたただの人形に過ぎないと。

実際その通りに見えた。

 

ホテルの個室で、モルガンテは1人、窓辺に腰掛けてウェルカムドリンクを傾けながら、1週間前まで自分の国だった街を、暗雲たる思いで見つめていた。

唐突に部屋の中にノックが響く。

 

「モーガン、こっち来なよ。夜会用の服選んであげるから」

ドアで隔てられたせいでくぐもっているが、間違えなくアーデンの声だった。

「服なんてアンタ興味あったのか」

ドアを開けながらそう返事すると

「まぁね。現代(いま)の服は好きになれないけど」

と肩を竦められる。アーデンは過去の話をあまりしない。今日はとても珍しい日だと、モルガンテは思う。宿願達成までの第一歩を踏み出せて、こんな男でも喜ぶものなのだろうかと、ふとそんなことがよぎったが、素直に男の言うことに従うことにした。




[謁見のシーンもしゲームでするとしたら、アコルドの首相との腹芸みたいになるかも。どれだけ信頼を得られるかによってこの後の自由行動時間が伸びてレアアイテムゲットとか面白いかも]
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