創星記ー異伝ー FFXV~冒険の果てに待つものは~ 作:星野啓
誤字は後程訂正していきます。
アーデン面白い。
ルーナイケメン
アーデンについていくと大きな部屋に通される。たくさんのトランクが並び、軍人たちの手で開かれている。少し距離を置いてサイズの小さめの服が何着か入ったトランクが開けられていた。
「こっち」
「え?うん」
トランクの前に鏡が据えられ、衣紋掛けに2着の服がかけられる。アーデンがそのうち1着を手に取って、モルガンテにあてる。黒を基調とした服で、少し今のアーデンの服に似た、ヒラヒラした服だった。
「うーん、なんかやっぱ違うね」
あーもういいよ、と手伝っていた兵を下がらせたアーデンはもう1着の方をあてがった。
「お、おい。なんで今更服なんだよ。いつもの軍服があるだろ!それじゃダメなのか?」
「ダメじゃないけど、面白くないし」
「人で遊ぶのやめろってば」
諦めたようにアーデンの差し出す白を基調としたゆったりとした服を鏡越しに見る。どこかしらテネブラエの作りに似ているが、首元には銀があしらわれ、しっかりとした作りだった。
「偶には父親らしいこともしないとねぇ」
ギョッと後ろを向くと猫のような顔をして笑っているアーデンと目があった。急いで前に向き直し、されるがままになった。
(なんだ?あの顔。怒ってはいないし、喜んでもいないような...“父親”?もしかして父上に対して嫉妬、なんてありえないか。あのアーデンだもんな)
ふと気になったことをモルガンテが口に出す。
「この服ってアーデンの趣味か?」
「キミに服くれる人間って帝国で俺以外にいるの?変なのとつるまないで欲しいんだけど」
発言だけ見れば立派な親のそれだが、何度も言うが話しているのは“あの”アーデンである。どうしても裏がないか探ってしまう。疑わしげな視線を受けて、アーデンがやれやれと首を振って、モルガンテに着替えてくるようにいう。
部屋に備えられた衝立の奥へと入り、モルガンテはいそいそと支度を整える。やがて白い衣装に包まれたモルガンテが出てきた。腰には二丁の銃がホルスターに納められてついている。
「うん、いいねぇ。いつも黒っぽいからたまにはいいんじゃない?」
「...意外。黒の方がいいって言うと思った」
そういうとアーデンは複雑な表情を一瞬してから、それを笑顔の裏に隠してしまう。
「まがりなりにもオウジサマだね、馬子にも衣装?」
モルガンテの頭に軽く手を何度か置くと、アーデンはいつもの服装から、やや古めかしい洒落た燕尾服の様な衣装に、帽子と傘を空中から取り出して身につけ、モルガンテに手を差し出した。
「エスコートしていただけますか、
恭しくその手を取ってモルガンテは頭を下げる。
「よろこんで、
【同時刻インソムニア、王の剣執務室】
「第1王子が見当たりません。計画を阻害される前に探しますか?」
緊張感に満ちた声が響く。
「ルーチェ、今は抑えろ。今動けば計画が逆に破綻する可能性がある」
生真面目な男を抑えながら、今はまだ待てと、いい含める。
「わかりました。任務を続行します」
「頼んだ。帝国からの返答はあったか?」
「はい、将軍。自治領を作るという約束は本気のようです。本日、具体案が提示されました」
「よし。計画決行までは隊に紛れて行動しろ。反対派に気づかれるなよ」
「はっ」
ドラットーは確固たる意志を持って言い渡す。
「故郷は我々の手で救うのだ!力を借りずとも、我々自身で自由を勝ち取れ!」
決意に満ちたものを阻めるものなどいなかった。
これは人によって故郷を踏みにじられた、1人の男と仲間たちの恐ろしいほど堅い決意。覚悟の表れであった。
神凪の日誌第2巻より
「拝謁かなって誠に光栄です。改めて、お心尽しに感謝します」
テラスの階段を側近を伴って登ってきたイドラに、レギスは出来るだけ柔和な笑みを浮かべた。相手の方が腹芸は1枚も2枚も上手の様だ。
「こちらこそ、ご足労をお掛けしました、イドラ陛下。よくぞこの様な遠い場所まで」
「如何程の苦労でもありません。明日は両国にとって記念すべき日になりますな。それにしてもインソムニアは美しい街だ」
イドラは後ろに見えるビル群の夜景や、花火に照らされた宮殿を手に示しながら、そう口にする。
そんなイドラに軽く会釈を返しながら、眼力鋭く向かい合う。
「都市計画も、ご指導願いたいものだ。和平の証として」
和平の部分を強調して話すイドラに対して、「よろこんで」と返答はするが、レギスはこのイドラの態度から、ただならぬ物を感じとっていた。イドラは表舞台を宰相に明け渡し、玉座を開けた傀儡の王と揶揄されていたはずだ。しかし目の前のイドラからはその様な脱力した様な印象は一切持てない。いまだ衰えぬ蛇の様な目に、焦げ付いた羨望が見え隠れした様にみて取れた。話が途切れイドラが従者と共に場を離れた絶好のタイミングを見計らい、クライレスがするりと王の元に戻ってくる。
「油断ならぬ相手、だな」
「何かあったのか?」
表情を曇らせる王に、臣下は眉根を寄せる。夜闇に輝くインソムニアとは打って変わって2人の話し合いは暗く静かに進む。首を振るだけで答えた王に対し、クライレスは全てを察した様だった。
「準備は進めておくぞ、レギス」
「頼む」
短く言った王の言葉は、花火の音にかき消された。
「美しいインソムニアもこれで見納めかと思うと、存外勿体なく感じるものだね」
父王の様子をテラスの反対側から見守っていたモルガンテの視界に、琥珀色の液体の入ったグラスが差し出される。初めて気がついたとばかりに振り向けば、アーデンが同じ色に染まったグラスを片手に掲げ、乾杯の仕草をしていた。周囲の人の声も聞こえぬほど、見入っていたらしいことに気がつき、慌ててグラスを受け取る。
「勿体ないって?景色のことか?」
「さっきの俺の話聞いてなかったでしょ。君がそんなにご執心なのは、輝く未来の花嫁でも、美味い酒でも、美しい景色でもない。“滅び逝く国”なんだね」
否定できなかった。この国で過ごした時間はあまりに短い。しかし、星の命運のためとはいえ、城を、街を、故郷を潰さねばならない。モルガンテ個人に戦争という大義名分がない以上、それはあまりに空虚なものだった。
手の中に収まったグラスから、かすかに酒精を感じる液体を飲み下す。一瞬喉の奥がカッと燃え上がる様な感覚がして、何も感じなくなった。
くらりとする視界の中で、酒には強いと思っていた自分に対して、ぼんやりとし始めた頭で考えを巡らせようとする。
「あ、れ...」
ふらつき始めた身体を支えようとテラスの手摺に手を伸ばそうとしたが、うまく掴めず体が傾いでいく。
「おっと」
軽妙で明るい声が耳元に聞こえる。自分たちの様子に誰かが気がついたのか、パタパタとした足音と心配げな声がする。最早目も開けられぬほど混迷する意識の中、アーデンの取り繕った様な声をぼんやりと聞く。
「申し訳ありません、調子に乗って飲み過ぎてしまった様で、......いえいえ、御手を煩わせるわけには....そうですか、では.....あぁ、.....ございます....、......どうも、... 」
よくもまぁそんなに綺麗に嘘が出てくるものだと感心しながら、モルガンテの意識は闇に落ちた。そのため最後の一言はモルガンテの耳には届かなかった。
『ありがとうございます“陛下”』
柔らかな布の感触を指先に感じて目を開くと、枕の下にカサリと音を立てる物がある。一気に意識を覚醒させ部屋の中を見回す。どうやら城の中の客室らしい。自動発動の幻惑魔法は継続しており、視界には赤い髪が垂れている。枕元についた手に紙の感触を感じて拾い上げる。これが先ほどの音の正体らしかった。
アーデンからのいつもの手紙。いつもより少しだけ長い。
ーおはよう、お寝坊さん。薬がうまくいったなら、お前が目を覚ますのはフィナーレの5時間前の世界だと思うよ。世界が終わるまで後5時間。なんかコレ変な小説の冒頭文みたい。俺は先に観客席に引っ込むとするよ。折角念願の王都陥落が見られる。
「何が“お寝坊さん”だよ。俺に薬もったって自分で書いてちゃ世話ないぜ」
ツッコミを入れながらモルガンテはその先を読み進める。
ーそういえばテネブラエの掃除の時に使った
「俺が殺し嫌いなの知ってるくせにな」
ー次に会うのは、日が昇ってからになりそうだね。君が何を救い、何を切り捨てるのか、これは“君”だからできる選択肢だ。楽しませてくれよ?
「高みの見物、か。でも俺はプレイヤーの方が好きなんだ。観客席じゃ面白く無い。受けて立つさ」
最後まで読み終わって目を離すと、手紙が勝手に燃え上がる。相変わらず魔法のセンスは誰の追随も許さない。恐らく現代ルシスにおいて、アーデンを上回る術者はいないだろう。
(単に年の功ってのもあるだろうけどな)
心のなかで鼻で笑ったモルガンテの耳に、ノックの音が飛び込んだ。
***
モルガンテの部屋のドアが開けられたのと同時刻、神凪ルナフレーナが宿泊する部屋の扉もまた開かれた。
「グラウカ将軍、何故ここに?」
ホテルの中ではあまりに浮いてしまう出立の、ニフルハイム帝国将軍がそこに立っていた。息を飲むルナフレーナに構わずグラウカは流体金属でできた鎧の体で踏み込んでくる。
『昨夜宴の席で言っただろう“私のために働いてもらう”と』
鎧の中からくぐもった機械音で発音されるグラウカの声。確かに身に覚えのあるセリフだったが、ルナフレーナは言う通りに動こうとは思っていなかった。
「私が貴方の言う通りのままになるとでも?」
その言葉に何が面白かったのかグラウカは笑い始めた。
『囚われの身で、人質として差し出されているお前に、何ができる?何も出来ん。お前も、お前の国も。帝国に屈した』
畳み掛けるグラウカに対して、ルナフレーナは毅然と目を向ける。平穏なホテルの一室が、まるで戦場かの様な緊迫感を纏わせる。
「国が屈したからと言って、その国の人々の心まで支配したつもりですか?少なくとも私は、帝国に屈した覚えはありません。何かを滅ぼし、そして手に入れた物に正義などありません」
『清廉潔白なお前に何がわかる!』
気がつけば部屋中央のソファに押し付けられていた。
「くっぁ」
激情のままにグラウカが続ける。
『奪われた物を己が手で取り戻す!誇りを!それの何処が悪だというのか!』
「う...誇りを、取り戻しても、踏みにじられた、もの、たちの、思いは、...どうなるのです」
押し付けられながら、首にある甲冑を手で押さえながら反論する。
「過去...を...悔やんでばかり...では、未来は、変えられ...ない」
絞り出されるルナフレーナの言葉に、苛立ちを募らせたグラウカは、ルナフレーナを振り払い、叫ぶ。
「あぁ!」
『我らは過去の甘さを思い知らされた!もう2度と人を信ずるものか!変えられないだと?踏みにじられたのは我らの誇りだ!』
不妨にぶつけた頭や首を庇いながら、ルナフレーナは壁にぐったりと体を寄せながら反論する。
「これから、踏みにじられる....者...たちも...おり、ましょう。痛みは...ただ悲しみ..を、産む...のに...」
それをこの武人は理解し得ないのだろうか?
薄れゆく意識の中、ルナフレーナは必死で訴えた。グラウカが流した涙を、さらに流させる愚かな行為を止めようと、手を伸ばした。
『お前にはわかるまい。神凪のお前になど...』
完全に意識を飛ばしたルナフレーナを見下ろし、その手を地で染め上げた男の嘆きが続く。
『誰にも理解される必要などない。我らは我ら自身の手で、取り戻す。それが唯一の方法なのだ』
背後の扉から王の盾が入室してくる。帝国兵であるグラウカに膝まづき、「ご命令を」と短く言葉を吐く。
「この女を連れて行け。あとは手筈通りだ。レギスを殺し、指輪を奪取して帝国へ差し出す」
淡々とした機械の声が、王の盾に命を下す。
「故郷の誇りにかけて」
一斉に頷いた王の盾は、ルナフレーナを持ち上げ、部屋の外へ運び出していった。
***
「失礼する」
息が止まった。
扉が開かれた先に立っていたのは、国王のレギスであったからだ。
今のネヴィラムの姿は帝国宰相の息子、モルガンテ・イズニア。
レギスの息子であるネヴィラム・ルシス・チェラムではない。
慌てて取り繕う様に、片足を下げて礼をすると、レギスは笑いながら片手を上げてそれを制した。
「レギス陛下御自らこの様なもののためにお運びいただけるとは」
「存分に楽しまれたようだが、自らの身を大切にされよ」
いたずらを仕掛けるような顔で、あるいは若者を嗜めるような言葉をかけるレギスに、何も言うことができなくなり、下を向く。
「醜態を晒しました。申し訳ございません。両国の和平を思うと気が緩んでしまったようで」
本心は真逆だが、最もらしい嘘をつく。その言葉に笑いを交えた顔を真顔に戻しつつ、レギスはモルガンテに椅子に座るように勧める。
「実は、貴殿と話がしてみたかったのだ」
それは思いがけない言葉だった。敵国の宰相の息子に、一国の王が”話がしたい”とは。アーデンでもここまでの突拍子の無さはないような気がする。
(試したことがないから知らないだけかもしれないケド...)
「それは、なにゆえでしょうか?」
「いやなに、大した事では無い。私にも貴殿の様な年の頃の息子がおりましてな。機会があれば、年の近い貴殿の方が、お分かりになるのではと思ってな」
緊張して固まるモルガンテに対して、レギスは明るい顔で語る。昼下がりの城内は、式典直前であるからか、いつもより騒がしく、部屋の外では多くの人間が行きかう足音が耳に届く。
扉の前にクライレスが控えているのか、外でやり取りをする声がかすかに聞こえた。
「それは、どのようなことでしょうか?」
「...これからしばしの間会えなくなる息子たちに、何か贈ってやりたいと思い、考えたのだがこれが難しい課題でして」
切々と語られるレギスの言葉に耳を傾けながら、モルガンテはいま、この話をしている
「息子達には、これから王族と言う立場ゆえに期待や、運命がのしかかると思う。せめてその背を押し支えてやることができればと。いや失礼。よくよく聞いてくださるので話過ぎてしまいましたな」
「御身には、何か考えがおありなのではないですか?」
面映ゆそうに髭のある頬を指で撫でる王に対して、
その言葉は自然とモルガンテの口について出た。父の顔が何かを定めているように見えたからだろうか。
言ってしまってから、何を言っているのか、と思い直したがレギスはその答えが気に入ったのか、その顔に笑みを浮かべた。
「....手紙を、届けていただきたい。息子たちに。他ならぬ貴殿に頼みたいのだ」
「何を、おっしゃっているのか、私は...」
敵国の人間で、と慌てて続けようと困惑した声を出すモルガンテに対して、静かに沈黙していた老いた王は、ややあってゆっくりと口を開いた。
「...貴殿は、このルシス王家に伝わる伝承をご存知だろうか?」
「....創星記と呼ばれるものでしたら、少しばかり、聞いたことがありますが」
それが何か、と尋ねると王は王家にのみ伝承されてきた数奇な運命を辿った、ある兄弟王子のことを話した。
曰くその兄王子は生まれてしばらくしてから特異的な能力があるとわかり、民を救うために奔走したのだという。しかし兄王子の記録はある一点で途絶えた。それ以後王家には兄弟が生まれることをよく思わないものが増えたのだという。
モルガンテ、いやネヴィラムすら聞いたことのない王家の秘事だった。
「それ、は...」
頭の中でピースが次々に埋まっていくような感覚に襲われ、混乱する感情の中、辛うじて出した声は震えていた。
「其方に伝えるかは迷った。だが、これから息子たちに私の思いを届けてもらう相手に、これから旅立とうとする子に、隠し立てをするのは、フェアじゃない。そう思って話した」
正面に座る王の顔は、託す者の目だった。信じて後に繋げようとする親の目。
部屋の中に慌ただしい足音が戻ってくる。開けられた窓から西日になりかけた太陽が、王の姿を照らしていた。
「レギス陛下、お受けいたします。ご子息に必ず手紙を届けると、陛下の思いを届けるとお約束いたしましょう。陛下のそのお覚悟に必ず報いてみせます」
そういうとモルガンテはルシス式の礼で王へ忠誠を示した。その礼に王は、悪戯が成功した後のような達成感に満ちた表情で手紙を手渡し、「頼むぞ」と手をそっと添えた。シワのよった歴戦の王の手が、ことさら暖かくモルガンテを包んだ。
『時間だ、そろそろいくぞレギス』
無遠慮なノックと共にクライレスが扉から顔を覗かせる。
「わかった」
短く返答した王は晴れやかな表情で部屋を出て行く。その背を追うクライレスが、ふとこちらを見てニヤリと笑ってから、何も言わずに王を追って部屋を出て行った。
嵐が過ぎ去ったかのような静寂の中、モルガンテは次の行動に移すべく、身の回りを整え、大切な手紙を異空間に仕舞い込んだ。