逆行者にしてシアルフィ公子シグルドはソファーに横たわりゴロゴロとだらける銀髪褐色の美少女に暗黒神ロプトウスは情報交換だのなんだのの前にまず真っ先に聞かなければならないことがあった
「ロプトウスなんのつもりだ?どうしてシアルフィ城にいる!あとなぜ偽名など使っている!」
「ハハハハハ!おいおい質問は一度に一つ!これは子供でも守るルールだろうに。それに私がなぜロプトウスではなく偽名を使ってるのかなんてちょっと考えてみれば分かる理屈だぞ?お前の仕える国家はロプトウスなどという名前を子供に付けても許されるようなそんな寛容な国家だったか?…シグルド、おまえそこまで鈍かったのか?それはあのアルヴィスとやらに出し抜かれるわけだ、こりゃ二回目も危ういな」
かの竜の不遜極まる態度に血は沸き立ち、神経は逆撫でされるのだが怒っていても話が進まないのでそれらを抑え、シグルドは哄笑する竜へ静かに質問を始めた。
「偽名については理解した。確かにロプトウスの名はこのユグドラル大陸では禁忌だ」
「理解して貰えて重畳だよ。スクルド、良い名だろ?この大陸では『未来』を意味するそうだな。過去へ逆戻り未来を修正する私にはうってつけだよ」
出来の悪い教え子がようやく答えにたどり着いたのことに満足したのか、はたまた安易すぎるそのネーミングをシグルドに披露できたのがよほど嬉しいのか満面の笑みを浮かべ、かぶりを振るロプトウスもといスクルド。
「ではスクルド、改めて教えてくれないか?どうしてお前はここシアルフィ城に待中…それも長などやっているんだ?」
「それも簡単な話さシグルド。私は貴様の力になる。この時間旅行の前にそう誓ったはずじゃないか?とはいえ汗臭い一兵卒などまっぴらごめん、しちめんどくさい数字を弄る官吏なんてさらに御免。だったらお前のコネを最大限利用し、権力にも手が届く待中になるしかないだろう?ああ潜り込んでこの府の長になるためにちょいとロプトの秘術は使わせてもらったがなそれくらいは許せよ」
何を当たり前のこと言っているんだととでも言いたげな不思議そうな顔でシグルドの瞳を覗き込み、寝転がったまま傍に置かれた机の上の焼き菓子をぽいと口に運ぶスクルド
「お、お前まさかシアルフィの民に洗脳でも使ったのか!?ふざけるなよこの駄竜が!」
「だ、だから仕方なかったんだってば!時空移転してみたら私は今よりさらに7年前に飛んでるし!身体だって幼児になってたし!この国の身分制度無茶苦茶厳しいから端女みたいな仕事しかなかったし!もうほんと大変だったんだってば!ちょっとくらいのインチキは許せよおおおおお!」
シグルドはスクルドのローブの首元をつかみ前後にゆすり、スクルドはスクルドでいたずらがばれた小さな子供のように苦しい言い訳をつらつらと並べあげる
お互いが疲れ果てるまでやったあと二人の間にまあもう仕方ないよね…やっちゃったし…などという諦観のまじった生ぬるい空気が流れ出す
「まああれなんだろ?洗脳っていっても無害なんだろ?じゃあまああれなんじゃないか…」
「理解して貰って感謝する…いやもうほんとそういう事だから…いっぱいいっぱい頑張ったから…それにだ、お前だってオイフェが来る4年後まで自分の待中がいないと困るだろ?」
「まあそうだな…ああそういえばスクルド、なんで私たちはてんでバラバラの時間軸に飛んでるんだ」
不思議そうな顔でシグルドの瞳を覗き込み寝転がったまま傍に置かれた机の上の焼き菓子をぽいと口に運ぶスクルド。
「知らん…というか多分私のミスだ、すまん」
「やっぱりお前はダメな子だ!ダメな子だ!」
「うそうそうそ!痛い!ごめんって!許してって!痛いって!シグルド―!」
今度は寝転がるスクルドをむんずと抱えいたずらをした幼子にやるように尻を結構な力ではたき出すシルフィ公子。
暗黒竜の力で肉体的損傷の過半は防げるはずなのだが、それでも痛い物は痛いようでスクルドは半べそをかいて許しを乞うた。
「し、シグルド!そ、それでもこの時間的猶予はお前の味方になるはずだぞ!この四年間でどう動くかが今後起こってしまう悲劇を止めるカギになってくるはずだ!だからさ、おしり叩くの止めろよ!痛いし何より恥ずかしいわ!」
痛みと羞恥で悶絶してる黒いトカゲ様をソファーにポイと投げ捨て、シグルドは言われた言葉を思案する
「確かにそれは私も考えていた。生前の私がもう少し宮廷に顔が売れていれば、もう少し強力な軍を持っていれば何かが変わっていたかもしれないのに…私は…」
「なにそう自分を責めるな友よ、あの世の歴史書を散々読み漁ったが王朝創始者の父という提灯記事だということを差し引いたとしてお前は良き司令官、良き統治者、良き友として描かれていた。お前はきっとよくやったんだよ…お前の出来る限りを…それに今のお前には私がいる。それを忘れてくれるな」
「ロプトウス…」
シグルドは誰かに聞かれてしまったら極めてまずいことになるであろう彼女の真名を今だけは後先考えず呼ばずにはおれなかった。
そしてスクルドは湿っぽい空気を吹き飛ばすように努めて明るく宣言する
「さあ明日から忙しくなるぞ、わが主シグルド様!未来は変わる!絶対にお前と私で変えてみせよう!」
「ああよろしく頼むぞ。ところでスクルド、ディアドラはどうしたんだ?お前と一緒に居るのか?」
不思議そうな顔でシグルドの瞳を覗き込み、寝転がったまま傍に置かれた机の上の焼き菓子をぽいと口に運ぶスクルド。
「知らん…というか多分私のミスだ、すまん」