青葉と片腕のない司令官さんの甘い日常です
目覚めた時、隣に好きな人がいる幸せ。ただ、それだけを書いた青葉の話です
夢から覚めた時、目の前には幸せがありました。
優しい朝の陽ざしが顔を撫でます。
だけどまだ眠さを残した思考、油断すればすぐさま夢へと溶けてしまいそう。ぼんやりとしたまぶたをこすり、小さくあくび。
「……司令官さん」
まどろみの中で青葉は呟きます。愛しい人の名前を。隣で眠る、その人を。
口にすると、それだけで笑みがこぼれます。
目と鼻の先、お互いの吐息がかかってしまいそうなほどの至近距離。青葉の大切な人の顔が目の前に。
思わず表情がほころんでしまう幸福感。朝の空気は冷たいけれど、頬がとても温かいです。
司令官さんはまだ夢の中。すやすやと寝息を立てています。今週は忙しかったかですから、きっとお疲れでしょう。もう少し寝かせておいてあげませんと。なにより、こんなにも気持ちよさそうに寝られたら、起こしてしまうのが忍びないです。
だけどそれとは別にして、もぞり、もぞりと身じろぎを。
腕を伸ばして司令官さんに抱きつきました。彼の寝顔を見ていたら、なんだか無性に甘えたくなってしまいました。そんな、青葉のわがまま。
「んぅ……」
青葉のハグに反応してか司令官さんもまた、青葉の背に手を回してギュッと。きっと無意識、だけどもその抱擁が求められているみたいでとても嬉しく、ちょっと照れくさいです。
「ん、青葉……」
しかも名前を呼ばれてしまいました。たとえ寝言でも、満ち足りた表情で呼ばれてしまったら、嬉しそうな笑みを浮かべられてしまったら、意識せざるを得ません。
司令官さんが青葉を夢見てくれている。それもきっとステキな夢の中で。そんな事実が心をホクホクさせてしまいます。
「えへへ。青葉はここですよ……」
そっと頬を撫でます。それからもう一度ギュ。
同じお布団に包まれる温もり、抱きしめられる安心感。お互いの素肌を密着させる心地よさが青葉の心に幸せを咲かせました。
まるで春のような暖かさ。心がポカポカ夢心地。
そう言えば春眠暁を覚えずなんて言葉がありましたが、なるほど。
「これは……ずっとこうしていたくなっちゃいますね」
永遠に続いたらいいのにとすら思えてしまうほどの魅惑に満ちたこの時間。早起きは三文の得なんて言いますが、それすらいらないと思えるほどの贅沢です。
笑みをこぼして、司令官さんの体温を感じます。これは青葉が独り占めしている温かさ。
それからもう一つ、青葉には独り占めしている物がありました。
「この寝顔も、青葉だけのものですね」
穏やかな表情。規則正しい寝息を立てる安らかさ。普段のキリっとした表情からは想像できないほどに無垢な顔。まるで子供のような愛おしさを覚えてしまう純真な寝顔。
それを誰よりも近い場所で独占できる喜びに、青葉はほっぺを赤くさせます。
「それにほら。ほっぺも、ツンツンできちゃいます」
芽生えたいたずら心にそそのかされて、指先で司令官さんの頬をつつきました。ぷにぷにとした感触。細身な割にがっしりとした身体とは反対に、ここはとても柔らかい。なんだか楽しくなってきちゃいます。
「あぁ、大好きな人と眠れるって、すごく幸せ」
目を覚ました時、愛しい人が隣にいるってすごく幸せ。
満ち足りた感情を、吐息と共に呟きます。
まるで夢のような出来事。まるで陽だまりにいるような、心の底から癒される時間。
だからなのかもしれません。夢はいつか覚めてしまう。それは一足先に目覚めた青葉も、司令官さんもまた同じ。
「ぅ、うぅん……」
小さな唸り声をあげる司令官さん。まぶたを小さく震わせて、もうすぐ夢の世界から出てきてしまいそう。
ずっとこの安らかな寝顔を見ていたかったですけど、それももう終わりです。ふわりと浮かんだ泡が水面で弾けるように、司令官さんもまた、まどろみからパチンと目を覚ましました。
「ん? ……おはよう、青葉」
司令官さんは優しく微笑みました。まだ眠さの残る、ふやけた微笑み。つられて青葉の心もふやけさせます。
「おはようございます」
青葉も力の抜けたはにかみで返します。それから小さなあくびをもう一度。
「まだ、眠いね」
司令官さんは笑みをこぼしました。彼もまた、あくびを一つ。青葉のがうつってしまったみたいです。
「そうですね。起きたら何をしましょうかって、寝る前はお話していましたけど……」
今日の予定は起きたら朝ご飯を一緒に食べて、お洗濯をして、それから……。
そんな夢を思い描いていましたが、今はそれよりなによりも。
「あはは、その予定はもう少し後にズレそうだね」
「はい。だって……」
彼を抱きしめる腕に、力を入れます。密着する身体。伝わる体温、それと鼓動。
ドクンドクンと奏でる、司令官さんの心音。まるで子守歌のように優しいリズム。
「もう少し、こうしていたいです」
「それはいい考えだね。ボクも、青葉の温かさを感じていたいよ」
そう口にして青葉の頭を優しくなでる司令官さん。大きな手のひらに包まれて、まるで春のような心地よさ。この温もりに、気持ちよさで青葉は目を細めます。
「そう言えば青葉、夢を見たんですよ」
ウトウトと、再び青葉の意識は夢の中へと誘われます。もにゃもにゃと寝言のような呟きをポロリと。
「どんなの?」
司令官さんの問いかけに、青葉はゆっくり目をつむります。まぶたの裏に浮かぶ光景。それはとても暗い群青。
「具体的な内容は思い出せないです。だけどお腹がキュッとなってしまうような……すごく寂しい夢でした。」
まるで決して浮かぶことのない冷たい群青の奥底に、一人でいるような気持ち。夢の中の青葉はそんな孤独感に包まれていました。
だからこそ目覚めたとき、隣に司令官さんがいてくれて青葉はとても救われました。
「怖かったね。今度はよい夢が見れるかな?」
目を開いて司令官さんを見れば、彼は優しい表情でニコリと微笑みます。そんな顔を見せられては、青葉の答えは決まってしまいます。
「もちろんです。司令官さんが包んでくれていますから」
青葉は司令官さんの胸に頬ずり。惚気てしまうほどの愛しさ。
「それはよかった。ボクが青葉の安らぎになれているようで」
「当り前じゃないですか。今から夢を見るのが楽しみになるくらいです」
口にはしますが、実のところ青葉にとって今この時間が一番幸せです。ずっとこうしていたいけども、甘いホットミルクのような睡魔におぼれてしまいそうです。
微笑む司令官さん。つられて青葉も微笑みを浮かべます。だけどそれはもう、眠さに蕩け切った、だらしのない微笑み。
でもそんな表情に、司令官さんは愛しそうな表情をしてくれました。
「もう一度、お休み青葉」
「はい……起きた時、もう一度おはようございますができますね」
小さいけれど、とても幸せなやり取り。それが再びできる喜び。
同時に、司令官さんが青葉の額に軽いキス。心に染み込んでくる幸福感に包まれて、青葉はスヤスヤと寝息を立てました。
あぁ、起きたらもう一度、好きな人が隣にいる幸せを味わえるんですね。そんな、春のような気持ちに抱かれました。
終