青葉と片腕のない司令官さんの甘い日常です
映画を見に行った後、ファミレスでの感想会になります
「――それでですね、クライマックスのシーンすごくなかったですか!?」
興奮が収まらない状態で、青葉は言葉をまくしたてます。テーブルをはさんで向かいに座る司令官さんはニコニコと青葉の話を聞いてくれていました。
映画を見に行った後の帰り、近場のファミレスで感想会です。
「すっごい予算を使ってるな~っていうシーンの連続で、ずっとワクワクとドキドキが止まりませんでしたよ。最後、主人公がとどめをさすシーンなんてあれ、全部CGですよね?」
青葉たちが見に行ったのは、外国のマンガが原作のヒーロー映画。世間でも話題になっていて、今年の興行収入ナンバーワンらしいです。
実際、前評判の通り終始楽しいが続く、まるでジェットコースターのような映画でした。終わった瞬間、青葉は感想を言いたくてずっとうずうずするほどでした。
そしてファミレスに到着するや否や、決壊したダムのように語り始め、現在に至ります。
「もう少しいい表現の仕方はなかったの……? いや、アクションシーンはすごい迫力だし、カッコよかったけどさ」
青葉の感想に困惑する司令官さん。青葉と違って冷静です。確かにゲンキンな言葉しか出てないですねと笑ってしまいました。
とはいえやっぱり、司令官さんも楽しかったようで言葉の端々が弾んでいます。そして今度は司令官さんのターンのようです。そのまま言葉を続けました。
「……なにより動きの一つ一つがいいよね。ダークヒーローってことで、王道な立ち回りじゃないのが特に。スタイリッシュに小気味よく動いて相手を翻弄させるアクションがらしいと思えるいい動きだと思ったよ」
そうです。今回の作品はヒーローはヒーローでも、ダークヒーローもの。正々堂々としたカッコよさではなく、卑怯と罵られようとも自分の正義を貫く芯の強さがカッコいい魅力の作品でした。
「しかもそのキャラクター性もちゃんと理由があるのがいいですよね。それが実は……っていうギャップを作っているのもまた、すごいなーって」
「それなら――」
青葉たちは交互に感想を語り合います。あそこがよかった、ここがカッコよかったと。言葉のぶつけ合い。だけど共通してその原動は、映画が凄く楽しかったということ。
好きな人と、こんなにも感情を共有できるなんて、この上なく嬉しい。そのことが何より、青葉を笑顔にさせます。
せっかく来た料理を食べるのも忘れて、青葉たちは言葉を重ね合わせました。
「――それでですね。ふと思ったんですが、主人公ってなんだか司令官さんに似ていません?」
「ボクに? ないない」
唐突に湧いてきた言葉を勢いのままに。司令官さんは苦笑を浮かべます。青葉も、なんでこんなことを言ったのだろうと自分でも不思議です。
ですが、次に浮かんだ言葉を零したらなんだか納得できました。
「大切な人のために素直になれないところとか、そっくりだと思いますよ」
なるほど、青葉が感じたのはそういうところでしたか。
主人公はちょっとキザに気取っていて、だけどそれは自分の本心を隠すため。ヒロイン対してなかなか素直な感情を伝えれていませんでした。司令官さんも時々格好つけることがあります。そして青葉に秘密のことが多い気がします。話していて、時々すごくはぐらかされていると感じるときがありますから。
うん、確かにそっくりです。
「そんなことないと思うけど……」
似ている認定されたことが気に食わないと、珍しく拗ねた様子の司令官さん。レアな表情に思わず可愛いとときめいてしまいます。カメラを持ってこなかったのが悔やまれました。
「いえ、そんなことありません。だって青葉になかなかな言ってくれないじゃないですか」
「えー……、ちゃんと好きだっていつも言っているけど?」
「ちょ……!」
司令官さんからの不意打ちに、思わず青葉は赤面。その反応に、司令官さんは楽しそうな笑みを。うぅ……イジワルです!
「もう、なんでそういうことをあっけらかんに言えるんですか! 恥ずかしいじゃないですか!?」
「あはは、ごめんごめん」
笑いながら謝る司令官さんは、全く反省した様子を見せません。まったくと、青葉は呆れてしまいます。
まあ、青葉も怒った表情をしている反面、心の中では嬉しさでニヤニヤ笑みを浮かべてしまいましたが。
「……でも、好きっていう気持ちは本当だよ。これは本音。だけど、別の本音はもうちょっと待っててね」
スッと、優しい表情になる司令官さん。その移り変わりに思わずドキリ。ふとした拍子に見せる、仮面の下の素顔のような雰囲気に心はほだされてしまいます。
そうしてまた青葉ははぐらかされてしまいましたが、それでもいいかと思わされているのです。
甘く、ちょっぴり刺激的な人。本当に司令官さんと一緒にいるだけで、心がポカポカ元気になります。
もっともっと色々と話したりない。そんな気持ちで一杯でしたが、そろそろお腹が空いてきました。グゥっと小さな音が鳴り響き、青葉は急いでお腹を押さえます。
……今の、聞かれていませんよね?
恐る恐る司令官さんの様子を伺います。大丈夫、気づかれていないようですね。内心ホッと安堵します。
「さ、そろそろご飯を食べようか。せっかくのご飯が冷めちゃうし。何よりボクはお腹が空いちゃったよ」
……あ、、これは気づかれてしまっていたようです。そのうえであえて知らんぷり。そしてさりげなくご飯が食べれるように促してくれています。
「むぅ。……まったく、司令官さんはなんでこんな優しい動きがサラリとできちゃうんですか」
「なんで不満げなのか、そっちの方がボクはわからないよ」
青葉の理不尽な不満に困惑する司令官さん。その反応が楽しくてクスクス笑ってしまいました。ごめんなさい、からかっただけなんです。
そのことに気づいたようで、司令官さんも苦笑を浮かべていました。
「さ、そんなことよりご飯をいただきましょう」
手を合わせていただきます。ナイフとフォークを手に取ります。青葉が食べるのはハンバーグ。焼けたお肉の香ばしい香りと、トマトソースのマイルドな酸っぱい香りが混ざり合っておいしそうです。
司令官さんも手を合わせた後にお箸を持ちました。司令官さんの方は生姜焼き定食。こちらも焼けたお肉とちょっと焦げたお醤油の香ばしさ、しょうがの香りが食欲をそそります。
「それにしても、本当にここでよかったの?」
青葉がハンバーグを切り分けていると、尋ねてくる司令官さん。生姜焼きをつまみながらご飯を食べるその表情には少し不安というか、申し訳なさが浮かんでいました。
「なにがです?」
首をかしげながら、青葉はハンバーグをパクリ。食べなれた味、安定したおいしさです。
「いや、せっかくなんだからもう少しいい場所をリクエストしてくれてもよかったんだけどね。給料も入ったばっかだしさ」
ああ、なるほど。青葉がファミレスを選んだのを遠慮だと思われていたのですね。それが申し訳なかったみたいです。そんな司令官さんに対して、青葉は微笑みながら返します。
「大丈夫です。青葉はむしろ、ここがよかったですから。ここならドリンクバーもありますし、少し騒いでも全然大丈夫ですから。感想会にはうってつけな場所です」
「それは確かにそうだけど……」
表情がまだ渋いままの司令官さん。気を使わせてごめんと謝ってきます。ホント、真面目なんですけど、こういうところで融通が利かないんですから。青葉は内心ちょっぴり呆れてしまいます。
ふぅっと一呼吸。それからフォークでひょいっと司令官さんの生姜焼きを一切れいただきます。そのままパクリ。お醤油の絡んだお肉の味。しょうがのパンチが効いたアクセントと合わさってハンバーグとはまた違った和風のおいしさ。
いきなりのことにちょっぴり驚いた表情の司令官さん。そんな彼に、青葉は自分のハンバーグを一切れ、フォークに刺して差し出します。
「はい、司令官さん。おすそ分けです。こういうのも、ファミレスならではじゃないですか?」
「……まったく。青葉はどうしてこういうことをサラリとできるかな?」
「なんでそんな不満そうな口ぶりなんですか」
今度は司令官さんが理不尽な不満を口にします。だけどその表情は笑っていて、なるほど、先ほどの意趣返しですか。
青葉が意図をくみ取ると、司令官さんはニヤリと笑います。つられて青葉もニコリ。このわざとらしいやり取りにお互い笑みを漏らしました。
同じことで笑いあえるって、楽しいだけでなく幸せ。そんな感情が沸き上がってきます。
ひとしきり笑いあってようやく一息。すると司令官さんがパクっと青葉のフォークに刺さったハンバーグを食べました。
「うん、おいしいね。確かにこうやって分け合える楽しさを味わえるのはファミレスならではかもね」
モグモグと司令官さん。青葉が差し出していたとはいえ、あまりの不意打ち。目を丸くしてしまいます。
それでも次の瞬間にはハッと我に返って、そして気づいてしまいました。これってもしかしなくても間接キスじゃないですか!? それどころか『あーん』まで!?
意識した途端、急に恥ずかしさがこみ上げてきました。うわわ、なんとか顔には出さないようにしましたが、それでも内心ワタワタとしてしまいます。
青葉の必死の我慢。だけど司令官さんはそんな状況お構いなしな様子。
「こういうのが、幸せの味なのかもね」
更に不意打ちとしてキザなセリフ。もう、今度こそ青葉の顔は真っ赤です。
「そんな恥ずかしいセリフ、言わないでくださいよ!」
照れ隠しに声を荒げる青葉。だけど司令官さんはそんな青葉の様子を見てただただ楽しそう。むぅ、なんだか負けた気がします。不機嫌に頬を膨らませました。
このままでは収まりがつかない青葉。ここはひとつ仕返しを企みます。
「そんなにキザなセリフがお好きでしたら、映画で主人公がヒロインに言っていたキメ台詞を言ってくださいよ。それまで恥ずかしいセリフは禁止です」
「えー……あれ?」
司令官さんの困った顔。青葉は内心ニンマリします。
映画で主人公が言ったキメ台詞、敵との一騎打ちに赴く主人公を心配したヒロインに向けた言葉。すっごく格好つけたキザなセリフ、だけどそれが青葉は大好きでした。だから青葉は大好きな司令官さんに同じことを言ってほしかったりします。
だけどもやっぱりとてもクサい言葉。司令官さんは恥ずかしそうに言うのをためらっていました。
「どうしたんですか司令官さん?」
「いや……まぁね」
きょろきょろと視線を泳がす司令官さん。口元を押さえてこみ上げる感情を抑えるよう。こんなにも恥ずかしがる司令官さんはとてもレア。青葉は喜んでしまいます。
「まあいいか。いくよ……?」
ようやく覚悟を決めたみたいで、コホンと一回咳払い。それでもなかなか言い出せず、口をもごもごしていました。本当に新鮮な反応。見ていて飽きません。青葉がそんなことを思った矢先に口を開きました。
「……オレにとって君は日常の象徴だ。日常のためなら、オレはどんなにも残酷になれる。そして必ずキミの元へと戻ってきたい。もし、オレが再びキミの前に現れた時、キミはオレを受け入れてくれるか?」
キャー! 思わず黄色い悲鳴を上げてしまいそう。それほどまでに司令官さんの言葉はカッコよかったです。普段とは違う一人称のギャップ。加えて、照れが残っているのが可愛くて……。本当に、撮影するものを持っていなかったのが悔やまれます。
「はい、これでいい?」
まだ恥ずかしさが抜けきらず、頬を赤らめている司令官さん。その表情もいいですね。普段は青葉が赤面させられる一方なだけに、今回はいつもの仕返しができて青葉はホクホクです。
「はい、満足です。たとえ劇中のセリフでも、司令官さんが言っていると思うと、すごくうれしくなっちゃいます」
青葉はニッコリとした笑みで返しました。すると司令官さんもちょっと嬉しそう。なんだかんだ満更でもなかったみたいです。
「それならよかった。……今夜はキミを返したくない」
青葉が喜んだのが嬉しかったのか、司令官さんはさらにセリフを言います。だけどなんか違和感。
「そんなセリフ、ありましたっけ?」
青葉は首をかしげます。どんなに記憶を探っても、映画でそのような言葉を聞いた記憶がありません。
「ないよ。だってこれはボクのセリフだからね」
「……え?」
数秒経って、青葉はようやく言葉の意味を理解します。その瞬間、あっという間に青葉の頭は茹で上がりました。それってもしかして……。
「え、え……? いきなりどうしたんですか?」
頭では言葉の意味を理解しているのですが、それでも混乱を隠し切れません。ニコニコと笑みの浮かべる司令官さんに問います。
「ちゃんと青葉のリクエストを言ったからね。それならもう、恥ずかしいセリフを言ってもいいよね?」
あ、自覚はあったんですね。……って、そうじゃなくて。
やっぱり青葉の想像通りということで……よろしいのでしょうか?
「えっと。ふつつかものですが……」
面と向かってのお誘い。そんな甘くて刺激的な言葉に恥ずかしさで萎縮してしまいます。うぅ……司令官さんの顔をまともに見れません。
それでもチラリと上目遣い。すると司令官さんもどうやら、自分の言葉に照れてしまっているみたいでした。
そんな状況がおかしくて、青葉は思わず吹き出してしまいます。つられて司令官さんもクスクスと笑いを漏らします。
「やっぱり、青葉といると甘くて、ちょっと刺激的な気持ちになるよ」
あ、おんなじ。こんなところでも司令官さんと気持ちのシェアができて、青葉はすごく幸せな気持ちになりました。
この幸せも、司令官さんと同じだったらいいな。心の中ではにかみます。
終