【悲報】刹那の妹に転生したけど双子の片割れが一方通行な件について 作:篠原えれの
「セルゲイ・スミルノフ中佐の副官として参りました。元超兵機関出身リンコ・ファークナー少佐であります。」
人革連の司令室にて、リンコはスミルノフ中佐に対して名乗る。
リンコはこれでやっとスミルノフ中佐と会話することが出来るのである。敢えてそうなることを避けていたというのがこの場合正解だが、二人とも初対面である。
「活躍は聞いている。私も君の部隊に何度か助けられた覚えがある。」
「光栄です」
言って、リンコはスミルノフ中佐と握手する。すると司令が部隊について説明を始めた。
「さて、この部隊では技術顧問としてヘルメス=バーボン博士が着任する。少佐以外に超兵2名が新たに配属となる他、ファークナー少佐には新たなMSが支給される。ヘルメス博士、自己紹介をどうぞ」
例の科学者がゴーグルを取って二人の方を見る。彼の名前はどうやらヘルメス=バーボンと言うらしい。
「僕には、特に名乗る名前なんて無いんだけどね。敢えて名乗るならヘルメス=バーボンと名乗らせて貰うかな。対ガンダム鹵獲隊の技術顧問として専任された以上努力することにするよ。初めましてだね。スミルノフ中佐にリンコ・ファークナー少佐」
ヘルメスはスミルノフとリンコを凝視する。すると、世界が止まった。リンコが抵抗する暇もなく、リンコとヘルメス以外の時間が停止する。
「君がハシャ神管轄の転生者であることは知っているよ。リンコ・ファークナー少佐。君が掲示板を使ってソレスタルビーイングの転生者と接触をしようとしているのも、僕は視ている」
「(時間が止まっている。それより何の話をこいつはしている?こいつは何なんだ).........!」
「驚いたかい?僕はね、自分で開発した物がどこまでこの世界で通用するか試したいだけなんだ。その許可も一応貰っているんだよ。ハシャ神より遥上位の位置に存在する神様って奴にね。ハシャ神は八百万の神の一部だからギリシャ神話とか北欧神話より立場が弱くて利用しやすくてありがたいよ。あぁ、僕はいきなりこんな世界でゴジラやフェストゥムみたいな奴らを戦わせたり核戦争をしたい訳じゃないよ。そこは安心して貰ってもいいかな。保証するよ。僕はただ、僕の考えた兵器を使った人のあがきをこの目でみたいだけさ。この世界は、君も薄々勘づいてるだろうけど紛い物でも特別紛い物の世界だからね。どうなろうと構わないのさ」
リンコはヘルメス=バーボンが話していることが理解できなかった。ヘルメス=バーボンはつまりこの世界で人を使った実験をしたいと言っているのだろうか。人があがく様を見たいということは人々が兵器を使った結果、どう動くかという観察をしたいということだろうか。
そのためなら、人の命なんてどうなろうと構わない。この世界は紛い物なのだから。ヘルメス=バーボンは、この世界の人達がどうなろうと気にならない。どう動くかその過程が見たいだけである。
「は?何言ってんだお前。お前、ほんとに神様か?この世界は確かにどんな世界と比べても紛い物かもしれない。でも、」
リンコは草薙素子としてのロールを捨て、素の口調でヘルメス=バーボンに反論した。リンコはヘルメスの前で偽りの自分を演じても意味が無いと悟った。ヘルメス=バーボンはリンコの発言を容赦なく遮った。
「どんなに紛い物の世界でも、人は生きているんだって君は言いたいのかい?そんなの、とっくの昔に僕は知っているし理解しているさ。だから見たいんだよ。人が、僕の考えた兵器を使ってどこまで抗えるのか見てみたいのさ。人の生き様って奴をね。僕は神様だ。僕自身が紛い物かもしれないけど、人々の世界に手を加えたり見ることが出来ることを許された存在だ。」
「お前、ほんとにこの世界のことに関してどこまでも他人事のように喋るな?!そんなにこの世界がどうでもいい存在なのかよ!」
ヘルメスの言葉はリンコを怒らせるのに充分な言葉だった。神様というのはどこまでも身勝手で、特にヘルメスの在り方は強欲で傲慢だと感じた。
「あぁ。どうでもいい存在さ。こんな世界は数多と存在するからね。正史でもない平行世界の一つや二つを潰しても、誰も怒らなさいさ。怒るのはその世界の住民だけで、僕はこの世界において何も失うものがない」
「クソったれ。これだから神様ってのは嫌いなんだ。その理論だと何を言ってもこの世界の人達とお前は分かり合えない。話し合いすら許されない。何勝手に人を、世界を見捨ててんだ、神様の癖に」
「だって僕がやろうとしていることぐらいで、世界が滅ぶなんて上も思ってないからだよ。言っただろ?僕はこの世界で核戦争をしたりゴジラやフェストゥムを戦わせたい訳じゃない。僕はただ僕の考えた兵器を使った人のあがきを見たいだけさ。それぐらいなら世界の被害もそんなに出ないのさ」
ヘルメス=バーボンは心底つまらなさそうにリンコ・ファークナーを見る。話し合いをする気がないのはそっちも一緒じゃないか。ヘルメス=バーボンは呆れた。
「君のその体は君が使っていいものじゃないね」
「俺だって好きにこの世界に転生した訳じゃない。草薙素子に転生したいとも願ってないよ」
「じゃあ、その身体を草薙素子に返そう。うん。我ながら良い妙案だ」
「は?お前、何を言ってるんだ」
機嫌良さそうにヘルメス=バーボンはそう呟いた。リンコはヘルメスの言葉が理解できない。
「(ーー逃げられない!)」
リンコはもう、ヘルメス=バーボンから逃げられない。動けない。リンコの足元には既にヘルメスが放った魔法陣から無数の黒い手が伸び、リンコを放さない。
「僕は人があがく様を見るのが好きだからね。すぐにその体を取り上げたりしないからそれは安心してくれたまえ。僕はとても優しい神様だと思うんだね。君の身体を草薙素子に返す条件は、幾つかある。まず一つ目。君がもし人革連から
ヘルメスは満足気に語った。リンコは元々ヘルメスに勝つことなど許されていなかった。黒い手が、リンコを放さない。放さない。黒い手はリンコの身体に入って行く。
「うん、契約完了だね。」
「何が契約完了だ、お前が無理やり押し付けたルールだろうが。クソが、もう喰らってしまったもんは受け入れてやるよ。お前が作ったルールには従う。まだ死にたくないからな。仲良くソレスタルビーイング相手に戦争しとけばいいんだ。どうにでもしてやる。クソ野郎」
「その意気込みのままよろしく頼むよ。君は物事を受け入れるのが速いタイプで、状況をいち早く理解してくれて何よりだ。因みに僕のことは掲示板に書き込めないし、開いてる間は僕の存在ごと忘れるからそこのところはよろしく」
「はぁ?!」
「じゃあ、そろそろ時間を元に戻そうか。
ヘルメスはどこまでも笑顔でそう言った。