バンドリ! 恋愛短編集   作:黒マメファナ

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【宇田川あこ】キミが照らす闇の道標

 宇田川あこは、ファンタジーの世界に魅入られていた。原点としては姉のカッコいい姿。それを自分なりに追い求めていくうちにたどり着いたものが、ファンタジーの世界だった。

 自分を表現できるゲーム、NFOと出逢い、そして大切な友人と出逢い、彼女はゆっくりと変わっていた。

 

『あこちゃん、お疲れ様、今回復するね』

「ありがとーりんりん!」

『付き合っていただきありがとうございました』

「いえいえ、紗夜さんこれで素材は揃いそうですか?」

『ええ』

 

 現在は同じバンドを組んでいる白金燐子と氷川紗夜とともにクエストのリザルト画面を見ながら達成感に頬を緩ませた。ハイレベルプレイヤーであるあこと燐子、そしてミドルプレイヤーである紗夜、そして、かわいらしい女性アバターがもう一人いた。

 

「お疲れ様~」

『お疲れさま、また足引っ張ってごめんね』

「ううん大丈夫! りんりんの回復はすごいんだから」

『はい……いていただけるだけで、攻略が楽になりますから……』

 

 あこがボイスチャットでゲームをする最大人数は彼女を含めて四人、その四人の中で黒一点である彼にあこは問題なーしとフォローする。確かにまだまだ動きに無駄は多いものの、着実に上達している。紗夜の遠慮することなんてありませんという言葉も合わさって電話越しの少しだけ高いテノールボイスがありがとうとあこの耳朶を打った。

 

「あ、そうだ! 今からさ、ラーメンでも食べに行かない?」

『い、今から……?』

『私はもう食事を済ませてしまいました』

『あー、っと僕は大丈夫だよあこ』

「ホント!?」

 

 唐突に決まったオフ会に参加するのは結局彼だけとなり、ログアウトする。折角だから迎えに行く、と言われて楽しみに待っているあこに姉の巴がタオルで髪を拭きながらどこか行くのかー? と声をかけた。

 

「うん! ラーメン!」

「お、いいなアタシもついてっていいか?」

「え……あ、おねーちゃんはダメ! これはあこのデートだから!」

「で、デートぉ?」

 

 幼い印象のある妹には似つかわしくない単語に巴は素っ頓狂な声を上げた。

 だがあこはそう、と邪気のない笑顔を花開かせ、さっきまでゲームをしていたんだからよくよく考えてゲーム仲間の燐子か紗夜あたりだろうとアタリを付けた。巴も知るこの二人は夜にラーメン屋に行くというイメージがつかないことだけが引っかかる部分ではあったが。

 

「あ、迎えに来てくれたみたい! じゃー、行ってくるねおねーちゃん!」

「お、おう……大丈夫かな、あこのヤツ」

 

 もしかしてゲームで変な男にそそのかされて、そんな悪い方向に思考が進み幼馴染たちに連絡をしたものの心配性だ、大丈夫でしょ、とすぐさま返事をされて不承不承ながら納得することにした。

 

「わー! えーっと、出迎えごくろう……なんちゃって」

「はいはい、闇の女王様は今日も元気だね」

「そりゃもう! 妾は闇の住人、夜こそが──えっと、えーっと」

「ごめん僕はそれ助けてあげられないかな」

 

 とにかく会えたことがうれしいことを伝えたかったあこは普段はツインテールにしている、降ろした髪を撫でつけながらこんな時にりんりんがいたらなーと唇をとがらせた。あこの言葉を適切に拾い、言葉を補完してくれる存在は燐子だけで、彼にはその翻訳をすることはまだできなかった。

 

「……そうだね」

「うん? どしたの?」

「なんでもないよ」

「えーっ、気になるよ~!」

 

 姉である巴、リサ姉と呼ばれる今井リサ、尊敬するRoseliaのメンバーたち。また他にも彼女がカッコいいと評するものはたくさんある。だけれど自分は彼女に未だカッコいいと目を輝かせてもらったことはなく、それが少しだけ気がかりだった。

 ──気分転換で始めたオンラインゲーム。その中で初心者の頃に出逢い、何度も助けられたネクロマンサーが彼女である以上、仕方のないことではあるのだが。

 

「というかあこはこんな時間にラーメン食べて大丈夫なの?」

「えー、だってさ~」

「だって、そんなにお腹減ってたの?」

「違うよー」

「え、じゃあなんで」

「なんででしょう!」

 

 いやわかんないよと考えることなく苦笑いをした彼に向かってあこは唇を尖らせた怒り顔をする。わかってほしい、伝わってほしいけど言葉にしていくのは少しだけ怖い。そんな気持ちを彼にぶつけていく。だがわからないまま彼は首をかしげるだけだった。

 

「むー」

「考えてもわかんないって」

「そうかもだけどさ……」

 

 不満顔をするあこに彼は少しだけ遣る瀬無い顔をした。隣を歩いているもののその距離はいつも遠くにある。男と女というだけではない、彼女の中で尊敬するもの、そうでないものの彼は後者に分けられているような気がしていた。

 

「わかんなかった代わりに今日は奢るからさ」

「ホント? あ、でも……」

「いいっていいって」

「ありがとっ」

 

 しゃべっている間に巴のラーメン屋に到着し、あらかじめ決めていたメニューと追加で餃子を注文する。二人前の量を頼んだことで首を傾げたあこに彼は今日も助けてもらったからお礼にね、と笑みを零した。

 

「う……そういうとこはなぁ……もうっ」

「……あこ?」

「なんでもないっ」

 

 そんな時、あこのスマホが震えた。燐子からのメッセージが表示されていた。

 普段の彼女からは想像もつかないくらいに明るい印象で、頑張ってね! とNFOで燐子の職業でもあるウィザードが親指を立てるスタンプが送られてきており、あこはいつから気づかれていたのだろうと顔を赤らめた。次いで紗夜から不純異性交遊は感心しませんのできちんと手順を踏んでからお互い責任を取れる年齢になってから、と長文で送られてきた。更に燐子だけでなく紗夜にもバレていたため余計に驚くことになった。

 

「どうしたのあこ?」

「え、あ、いや……えっと」

「もしかして親御さんとかお姉さんに怒られた?」

「ううん! 大丈夫!」

 

 心配そうな顔をする彼にあこは必死に首を横に振った。思わぬ応援を受けて赤くなってしまう顔を抑えた。その後は雰囲気の変化に気づかない彼は何もない雑談をしていると餃子とラーメンがやってきて、二人は麺をすすっていく。

 

「ん~、おいしーね」

「おいしい」

「でしょー? おねーちゃんのお気に入りなんだよ」

「背油豚骨を夜に……ってのは冒涜的だけどね」

 

 カロリーなんて気にしてるの、ひーちゃんみたいとあこは笑い、彼はひーちゃんという聞いたことのない名前を問いかけ、また話が広がっていく。あこはオフでも会話が途切れることがないという能力を持っていた。そんなうらやましいながら聞いていて飽きない楽しい会話が、彼の心を温かくした。

 

「ねね! 次のイベクエも一緒に行こーよ!」

「え、僕も参加できるの?」

「うん! むしろあのパーティだとタンクの紗夜さんしか前衛いなくてさ」

「……あ、僕がいたらってこと?」

「そ! あことりんりんにタゲが向かなくなったらラクだし、いざとなればあこがタゲ取って回復もできるじゃん!」

 

 言動からは考えられないくらいにきちんとした作戦を油に浮かべていくあこに、彼は驚きとともに尊敬の眼差しをした。

 いつだって誰かの後ろについていくあこの背中を彼は常に追いかけていた。

 

「やっぱ……」

「ねー聴いてる~?」

「聴いてるよ」

 

 二人の、というよりあこが発案したのを彼が聞き入れるという作戦会議はラーメンが空になってもしばらく続いていた。

 流石にそろそろ帰らなくては、なによりもあこの両親や姉が心配してしまうかもしれない。そんな気遣いを感じつつも、彼は言い出せないまま、ふと窓の外を見た。

 星はあまり見えないけれど、月は街灯に負けずにその優しい光を地上に降らせていた。

 

「……あこはさ」

「うん」

「カッコいいよ」

「……そうかな、えへへ」

「うん、僕の中では世界一だ」

 

 あこにとって世界一カッコいいのは巴、だけれど彼の世界では自分が一番だと、少し気恥ずかしそうに呟かれたことで、あこの頬はこれ以上ないくらいに緩んでいた。そして月光、少しがらんとした店内のBGMから、懐かしの恋の歌が彼女の背中を押していく。

 

「あこもね~、世界一だよ?」

「……何が?」

「世界一、キミが好き」

 

 机に置かれていた彼の手にそっと手を重ね、あこは動揺を隠しながらまっすぐに誰に力を借りることなく自分の言葉で伝えていった。

 自分は彼に恋をしているのだと、彼に伝えていった。

 

「あこが……僕を?」

「うん、好き。あこね、キミがチョー好きなの」

「……言い方軽い」

「えーっ!」

 

 満面の笑みで、一度口から出してしまえばもう恥ずかしさもない素直な想いを彼にすんなりと躱され、あこは不満の声を上げた。

 噓偽りのない気持ちだということは彼には伝わっていた。だけれど店員が、大衆の目があるこの場所で告白に返事をすることは、まるで公開処刑だという気持ちが強かった。

 

「……移動しよ」

「あ……うん」

 

 手を引かれ、あこは立ち上がる。支払いをスマホの電子マネーで支払い、あこと手を繋いだまま月明かりの道へと出ていった。

 あこは触れ合っている手の熱にドキドキしながら彼の横顔を見上げる。

 

「あこは、僕と……どうなりたい?」

「そんなの……! あこの傍にいてほしいよ。ずっと、あこの目指してるカッコいいを、見ててほしい」

「……そっか」

 

 彼はゆっくりと月明かりを見上げた。

 ──初めてのゲームで右も左もわからなかったあの日、確かクエストの時間帯は夜だったなということを思い出した。その日に、彼は引っ込み思案なウィザードとやたらと元気なネクロマンサーに出逢い、こうして今はゲームではなく現実で隣を歩いている。その中で抱いていた気持ちも、抵抗なく口に出せる。彼は月に照らされるあこを見つめた。

 

「僕も……」

「えっ」

「僕もあこのこと、好きだよ」

「……あ、え……本当?」

「うん。闇の女王に誓って」

 

 はじめは驚き、そして喜びにあこの表情は色を変えていく。想いはこの手の中にあるものと同じだということ。そして、なによりもまっすぐに伝えてくれたことが、あこには涙を流してしまいたくなるほどの嬉しさがあった。

 

「じゃあ、これからは……恋人?」

「そう、なるね……なんか恥ずかしくなってきた」

「えー! ねね、これからもデートしよ! 次いつ暇~!?」

 

 グイグイと変わらない勢いで笑みを浮かべるあこと、今日は勇気と羞恥が許容量をオーバーしたと日を改めようとする彼の攻防は賑やかで、これからの日々を街灯の影に照らし出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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