剣の示す道   作:シュリンプ1012

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 はじめましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。どうも海老です。また懲りずに新作作っちゃいやした。……久しぶり過ぎてなんか怖い(?)


一、怠慢なる剣

 桜舞い落ちる、4月の初春。ほんのり暖かい陽気に、心を許してしまいそうな季節。

 この時期といえば学生は入学式・始業式、社会人は入社式などなど、期待や不安の溜まった恒例行事があるのは周知の事実だろう。とやかく言っているこの俺も、今年から高一となるので漏れなく当てはまっている。

 

 ならば期待や不安があるのか?と問われると、はっきりと言ってノーと言える。別段、新たな出会いを期待している訳でもないし、学業においての不安もない。……いや後者はちょいとあるかもだが。それはもう、ないに等しいと思っていただきたい。

 

 そんな訳なので、こうして入学式三日前になっても心が躍るとか、興奮して夜も眠れないとかも起こらない。その証拠に、今の俺は部屋の中で大の字でぼーっと寝っ転がっている。うーん、この体たらく。

 

 

「……あー…」

 

 

 小声で無意味に喉を震わせる。だがその声に振り向く人間はここにはいない。それもそうだ、両親二人は共に仕事、兄弟である長男の兄と長女の姉も、『春休みだぜヒャッハー!!』などと抜かしてどっかに遊びに行っているので、家には一人なのだ。

 

 

「ワン!ワン!!」

 

「あー…ケンシロー、起きたんか…」

 

 

 そこでツッコミを入れるかのように遠くから一吠え。おっとそうだ、厳密に言えば一人と1匹だった。今さっき吠えたのが我らが愛犬ケンシロー。この家の番犬であり、癒し犬でもあるキュートな雄犬。あぁ、見てるだけで脳みそとけりゅ〜…。

 

 

「さぁケンシロー?こっちおいぶしゅっ」

 

 

 とてとてとケンシローがこちらに歩いてきたので寝転んだまま呼ぶと、目に入らなかったのか、はたまた目に入りつつ無視したのか、態々俺の顔を踏み付け、そのままどこかへ行ってしまった。

 ……何故だか、ケンシローは俺にアタリが強い。俺が手招きすると無視するか突撃してくるかのどちらかで、一向に撫でさせてくれる気配がない。そのくせして他のみんなには撫でさせるって……俺悲しむよ?

 

 

「はぇ〜…暇だぁ…」

 

 

 進学先の高校から出された課題も昨日終わらせてしまったし、ホントに何にもすることがない。

 ふーむ困った困った……。いかんせん自分にはこれといった趣味もないから、こうしてやるべきことを終わらせてしまうとダラダラと過ごすしか……。

 

 

「……」

 

 

 ……ないと思ってたのだが。キョロキョロと視界を変えて何をするか模索していると、視界に入れたくないものが入ってしまった。

 

 無造作に壁に寄りかかっていたソレ。黒色に少し濁っていて、触るのに少し抵抗のある持ち手の柄。元は綺麗に整えてあったはずの、四つの竹を束ねる先革(さきがわ)中結(なかゆい)

 

 俺は何を思ったのだろうか。だらけていた身体を持ち上げ、ソレに近づき、そして持ち上げた。

 

 何年も使っていなかったからか、ピンッと張っていた筈の弦はもう緩くなっており、今の俺の気持ちを表すようにだら〜っとしていた。

 

 

 ––––竹刀。武道の一つである『剣道』において、なくてはならない、最も手入れを施さなければならないモノ。それこの部屋に、一本だけ無造作に置かれていた。

 

 …まぁ最も、今の俺は剣道なんてやらないが。

 

 

「……せっかくだし…な」

 

 

 だがここでまた同じように置けば、俺はこのまま晩飯時まで夢の中にいるだろう。それはそれで引きこもりみたいだし、何なら最近運動してないし。ぐうたらして太ってしまうのも嫌だし……。

 

 てな訳で。手に竹刀を携えて、俺は久々に庭で素振りをする事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

「いちっ……にっ……さんっ……!」

 

 

 軽く準備運動をして、いざ素振り開始。最初にやる素振り内容としては、最も基本的な正面打ちをする事にした。

 

 肩を使って竹刀の剣先を後ろ斜めまで上げ、すり足で前進するとともに竹刀を下ろす。後退するさいも同じように振り上げ振り下ろし……。

 

 最も基礎的ではあるが故に欠かしてはならない練習。だが、こうしてやってみると、あの頃の時よりも格段に下がっているのが自分でも分かる。

 

 ……矢張りやっていなかったせいだろうか。受験勉強がってのもあるけど……それ以前に、なぁ…。

 

 

「にじゅうはちっ…にじゅうきゅ…さんじゅっ!!……と…いったん休憩…」

 

 

 手を膝につき、息を切らす。たった三十本やっただけでこれとは……流石の俺も驚きを隠せない。はぁ、これじゃ全然ダメ……

 

 

 ……って何考えてんだ俺。別にまた始まる訳でもないんだから、あんまガチでやる必要ないじゃん…。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 あの時にわかった筈だろうが。……なんか自問自答みたくなってきた。

 

 

「今日はもうやめとく…「素晴らしいです!!」……へ?」

 

 

 ここいらで切り上げようとした刹那、道路側から可愛らしい声が聞こえてきた。なんだなんだと思い振り向いてみると。

 

 

 両端で美しく束ねられた純白の髪。俺からも分かるぐらい、キラキラと輝かせる青味がかった翡翠色の目。美しくも可愛らしい顔立ち。世間ではこういった顔を美人顔と呼ぶんだろう。俺もそうだとは思うよ、うん。

 

 

「一本一本、丁寧に…それでいて覇気のある素振り!!私の生涯の中で、こんなモノ見たことがありません!!まさにブシドーです!!」

 

「あっえっと……どうも?ありがとうございます…?」

 

 

 

 ……なんか褒められたんだが?さっきまで俺、本気でやっても意味ないみたいな事思ってたのに褒められたんですが??有り難く受け止めようにも、こう……素直に喜べないんやが???

 

 

 あとブシドーってなんやねん。

 

 

「よかったら今の素振り、撮らせてください!!」

 

「え"っ」

 

 

 慣れない事に戸惑っていると、今度は撮影の申し出を受けてしまった。

 いや、撮らせて下さいってなんだよ!?えっそんなに綺麗だったの俺の素振り?あんなの振り回してたようなもんだったよ?あんなのが撮りたいのこの人!?

 

 

「……はっ!すみません、名前をまだ教えていませんでした!!私は若宮イヴです!!」

 

「えっこのタイミングで自己紹介!?」

 

 

 なっ、何なんだこの人……礼儀正しいんだけど…礼儀正しいんだけど圧が凄い。壁越しなのに凄い圧力を感じる…。

 

 

「お願いします!お願いします!!」

 

 

 仕舞いには、若宮と名乗った女性がその場で土下座直前までいく始末。突然の奇行に戸惑う俺。あっ、奥さんやめて!!俺を白い目で見ないでぇぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 その後、ずっと土下座されては困るなぁと思った俺は、恥ずかしながらも撮影の許可を受け入れる事にした。

 もんの凄く目を輝かせて動画を撮る彼女に気を取られそうになりながらも、しっかりと素振りをした訳だが……はたして彼女の言う通り、しっかりと綺麗に振れていただろうか?自分的には全くそう思わなかったんだが…うーん。

 まぁ、考えても無駄な事だ。もう今後一切、竹刀に触れることはないだろうし。また彼女に会える訳でもないんだから。

 

 そう思いながら自分の箸を手に取り、美味しい美味しい晩飯を食べ始めた俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

『いちっ……にっ……さんっ……!』

 

 

 

「……矢張り、何度見ても綺麗です…」

 

 

 この日–––若宮イヴは思いもよらない出会いを果たした。

 

 その日は珍しく昼の時間帯に仕事が終わり、折角だからとパスパレのメンバー達と寄り道をし、普段通らないような道を進んでいった時のこと。見慣れない景色に少しばかり興奮し、彼女は意気揚々と足を進めていた。

 鼻歌交じりで新曲の歌詞を歌い、軽い気持ちで右へと曲がる。そうして彼女は見つけてしまったのだ。

 

 

 一、ニ、と規則正しく、リズムに乗った声。正確に、それでいて力強い打ち。前後に動くにも関わらず全く乱れることのない姿勢。

 

 遠目に映っていた少年の素振り。彼からは隙という言葉が一切合切出てこない。

 それ故なのか。彼女は素振りをする少年に駆け寄り、あまつさえ声を掛けてしまった。挙句の果てには撮影させてもらえるか聞いてしまった。

 少年も渋々と言った感じで撮影を許可し、素振りをする様を撮らせてあげた訳なのだが…少々強引過ぎたなと彼女は心の中で反省する。

 

 

 とここで、彼女はあることを思いつく。

 

 

「……そうです!明日、パスパレの皆さんにこの動画を見せてあげましょう!」

 

 

 何を思ってそう考えたのか。だがこうして彼女は、仲間たちに今日撮れたこの動画を見せることを決意してしまった。

 

 それが、彼–––桐島隆嗣(きりしまたかつぐ)を波乱万丈たる『出会い』へと誘うことに––––

 

 

 

 

 

 そしてこれが

 

 

 

 

 

 彼が切り捨てた筈の『過去』を呼び起こすとは–––

 

 

 

 

 

 まだ誰も、知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 






 次回。先輩にるんるんされながら連れてかれる(かもしれない)。
まっ、気長に待っててくださいや。
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