イシュタルのジジイに案内されたのは、長いテーブルが幾つも並んだ大広間だ。
運ばれた飲み物をちびちびと飲み、安全かどうか確認してから一気に喉に流し込む。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱している事でしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞きくだされ」
生徒達が鎮まるのを確認し、イシュタルが紡いだ言葉は要約するとこういうことだった。
この世界はトータスというらしく、人間族と魔人族、そして亜人族が存在している。この内人間族と魔人族が長年の間争っているらしく、最近までは戦力が拮抗していたが、最近になりその均衡が崩れたそうだ。数で勝っていた人間族に対し、質で勝っていた魔人族が魔物の使役に成功し、人間族のアドバンテージは亡くなったのだ。
まぁそんなこんなで人類滅亡の危機。そこでエヒトが俺たちがいた世界、上位の世界から魔人族を打倒しえる力を持った俺たちを召喚したというわけだ。
やれやれ、厄介ごとを無関係の俺たちに押し付けないで欲しいぜ。
「ふざけないでください!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!!私たちを早く帰してください!きっと、ご家族も心配しているはずです!貴方達のしていることはただの誘拐ですよ!!」
説明を聞き終え突然立ち上がり猛然と抗議する。それは畑山先生だ。ウガーッと叫ぶ先生を見て他の生徒たちはほんわかとした雰囲気になっているが、次の瞬間、一気に凍りつくことになる。
「お気持ちはお察しします。しかし…貴方方の帰還は不可能です」
「ふ、不可能って…ど、どういうことですか!?喚べたのなら返せるんでしょう!?」
「先程言ったように、貴方方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、貴方方が帰還出来るかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」
「そ、そんな…」
先生はストンと脱力したように腰を椅子に落とす。そして動揺が生徒たちにも広がっていく。
俺からすれば元の世界にはそこまで未練はないが、今まで承太郎がホリィさんと過ごしてきた日々は記憶に刻まれている。心優しく、子供思いな母さんは、俺がいなくなれば確実に大きなショックを受けるだろう。最悪の場合心に大きなダメージを与えてしまい、心の病になってしまうかもしれない。それは避けたい。早く帰り安心させたい。
心底ここの世界の戦争やらに興味ないし関わらないつもりだが、ここはイシュタルの本拠地。しかも教皇という立場の人間だ。下手に断れば始末するために刺客を送られる可能性がある。
天之河が無駄にキラキラしながらカリスマを発動し、戦争に参加するように促す。ヤベエなこいつ。戦場に一般人を巻き込もうとしてるぞ。まぁ小説で言えば序章でしかないし、この状況に興奮しているだけかもしれない。涙目で止めようとしている先生に加勢して否定したいが、新たな問題に巻き込まれる可能性が出てくるため黙って成り行きを見ておく。
イシュタルは一層笑みを浮かべ天之河を見つめていた。
「やれやれだぜ…」
召喚された次の日。王様や皇太子などお偉いさんとの挨拶も全て終わり、これからは俺たちのステータスを調べてこれからの特訓方式を決めていくそうだ。
騎士団団長のメルド・ロギンスが、みんなに銀色のプレートと針を配り、そのプレートの説明を行なっていく。
「よし、全員に配り終わったな?このプレートはステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるもだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
非常に気楽な喋り方をするメルド団長。彼の性格は豪放磊落。これから一緒に戦う仲間にカタッ苦しくしてられるか!ということらしい。まるで親戚の叔父さんのように俺たちに話しかけてくる。
まだ説明は終わっていないが、何となく使い方がわかった為、勝手に針で血を流しステータスプレートに押し付ける。すると何もなかったプレートに文字が徐々に浮かび上がっていく。
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空条承太郎 17歳 男 レベル : 1
天職 : 断罪者
筋力 : 220
体力 : 180
耐性 : 80
敏捷 : 60
魔力 : 10
魔耐 : 50
技能 :断罪・ 精神異常耐性・状態異常耐性・剛力・自然治癒・気配遮断・気配察知・言語理解
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はて…断罪者とな…?メルド団長が言うには天職とやらはゲームでいう職業のようなものであり、技能はそのままのスキルだ。てっきり俺は天職が幽波紋使い、技能に幽波紋があると思っていたが意外にも記載されていなかった。
少し不安になりスタープラチナを出すが、どこにも違和感はないし問題なく出せる。恐らくだが幽波紋はこの世界における法則に当て嵌まらないのだろう。まだまだ憶測でしかないが、これしか幽波紋が載っていない理由を説明出来ない。
もともと幽波紋はこの世界に来る前から使えていたものだ。魔法や技能のような魔力頼みのものではなく、幽波紋は強い精神力を必要とする。よって魔力で起動するステータスプレートには表示されなかったのだろう。
しかし、やはり上位世界から来たという恩寵をかなり受けている。体の調子が良いということもあり、幽波紋の調子もかなりいい。今では前の世界のスタープラチナよりパワーやスピードは上がっているだろう。
「ほお〜、流石勇者様だな。レベル1で既に3桁か……技能も普通は二つや三つなんだがな……規格外な奴め!頼もしい限りだ!」
メルド団長の快活な声が響き、どよめきが走る。どうやら天之河が勇者だったようだ。まぁ性格的にもアイツが勇者だとは思っていたため驚きは少ない。少し胸を張り誇らしそうにしている姿に少しイラッとしてしまった。
話を余り聞いていなかったがこれ団長に報告していくスタイルなのか…メルド団長が俺を見ていたのでプレートを差し出す。
「断罪者…か。聞いたことがない天職だがステータスや技能的にも戦闘職に違いない!ステータスも筋力と体力に関しては勇者をも上回っている!いやぁ、大型新人が大量だな!!」
ガッハッハと豪快に笑うメルド団長。プレートを返され元いた場所に戻る。次は南雲の番だ。
南雲のステータスプレートを見たメルド団長は、今まで規格外のステータスばかり確認してきた為、ホクホクしていたが、「うん?」と笑顔で固まる。「見間違いか?」というようにプレートを叩いたり光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートを南雲に返した。
「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛治する時に便利だとか…」
錬成師、それで思いつくのは錬金術といったサポート職だ。武器を造ったりと色々と出来る万能職だ。しかしこの世界ではかなりありふれた職業らしい。
メルドのマイナスな言葉にいつも南雲を目の敵にしていた男子達がくいつく。くいついたのは白崎に惚れているであろう小物感溢れる男、檜山大介だ。他にも、檜山を筆頭に何人かが南雲に絡む。
「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か?鍛治職でどうやって戦うんだよ?メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」
「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国のお抱えの職人は全員持っているな」
「おいおい南雲〜。お前、そんなんで戦えるわけ?」
「さぁ、やってみないとわからないかな」
「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボい分ステータスは高いんだよなぁ〜?」
檜山は南雲から俊敏な動きでステータスプレートを奪い取る。そしてステータスを見た檜山達は大声で馬鹿にし笑い出す。
南雲のステータスはオール10、この世界での平均的なステータスだ。さらに技能は言語理解を除き一つだけという。無能だと笑い南雲を苔にする檜山達。南雲に想いを寄せているであろう白崎を見れば、体がプルプルと震えている。そろそろ噴火しそうだ。
こういったことに敏感そうな天之河は離れた場所で坂上と談笑している。こういう時にこそテメェが出てこいや、そう思った俺は悪くない。
柄でもないが仲裁に入る。これ以上放置しておくと白崎がプッツンして面倒臭いことになりそうだ。
「つまんねーことしてんじゃあねーぜ」
檜山の手からステータスプレートを奪い取る。そこまで大きな声を出したつもりはなかったが、意外にもその場に声がよく響き渡り、静寂が生まれる。
「右見てみな」
檜山達、南雲を笑っていた男子が言われた通りに首を動かすとそこには顔に血管を浮き出させ、背後に般若を浮かび上がらせたマジギレ寸前の白崎の姿が。それを見た男子達はヒュッと息を呑み顔を蒼くする。
というか白崎って幽波紋使いだったのか…
「ほら、次は奪われねーようにするんだな」
「あ、ありがとう。空条くん」
ステータスプレートを南雲に投げ返し元いた場所に戻る。途中で白崎の異変に気付いた天之河が声をかけるが「天之河くんには関係ない。ちょっと今話しかけないで」と拒絶され轟沈していた。
「オラァ!!」
自分の身の丈よりも大きい大剣を叫びながら振り回す。振りかぶった大剣は見事的である大木を斬り倒す。俺が持っているものは市販で売っている1番安いナマクラだ。それで大木を両断出来る見事としか言いようがないだろう。しかし…
「違うな…」
何故か手に馴染まない。理由は単純、承太郎の体が受け付けないのだ。元々承太郎は喧嘩に武器を使わない。基本ステゴロだ。それに拘りがあるのかはさておき、拒否感が凄まじい。しかし物理無効の敵が現れれば俺の剛力は無力になるため、魔法を一切使えない俺には別の攻撃手段というものは必要である。
体に馴染まないのはどうしようも無い。いざとなれば咄嗟に盾にすることも出来るだろう。王宮の宝物庫から適当に持ってきた大剣と、持っていた安物の大剣を持ち帰る。軽く震えば、大木を豆腐のように最も容易く切り裂く。
「……フン」
大剣を地面に放り投げ、胸ポケットから煙草を取り出す。スタープラチナの指パッチンで摩擦熱を発生させ火をつけ一服する。
フゥ〜…最初は煙草に忌避感があったが今ではそんなものは既に一切残っていない。しかし問題は煙草の数が無いということだ。
召喚されてから二週間、こっちの世界で補充出来るはずもなく…
トータスの煙草もあるにはあるらしいが、中毒性など、危険性がないとも言い難い。よって簡単に手が出せないのだ。
煙草の吸い殻を捨て、大図書館に向かう。俺はもうそろそろでこの国から出て行くつもりだ。俺は人間族と魔人族の戦争やらに何の関係もないし興味もない。正直なところ、会ってもない赤の他人の命よりも自分の命の方が大切なのだ。それに俺の身体は承太郎の借り物なわけで、勝手に傷付けようものならオラオラされてしまいかねない。
図書館に着いた。大きな両びらきのドアを押し開け中に入る。視線が集まるが無視して魔物大全やらトータスの地理やらが載った本を適当に取り、図書館を後にする。司書に注意されたが、王様に許可は貰ってあるぜと適当な嘘をつき自室に戻る。俺はゴロゴロしながら本を読むタイプなのだ。
本を自室に持ち帰り本を置いて、訓練施設に向かう。俺の剣の扱いは素人と言っても過言ではない。力任せに振るしか能のない男だ。少しなりにもメルド団長から得られるものは得て置きたい。
向かう最中、何やら呻き声と笑い声が聞こえた。ショートカットして窓から窓に移動しなければよかった。面倒ごとは苦手なんだ。やれやれだぜ。
窓を開けて上半身を覗かせると、そこには血反吐を吐きながら、腕を曲げてはいけない方向に曲げられ悶絶する南雲と、それを見て馬鹿みたいに笑う檜山達の姿が。
流石にこれは…俺じゃあなくてもプッツン来るぜ…
▽▽▽
「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さぁ〜、マジやる気あんの?」
檜山は南雲を見て馬鹿にしたように笑う。彼は南雲の右腕をグリグリと踏みつける。ミシミシと人間の体からなってはいけないような音も聞こえる。もう既に南雲の身体はボロボロだった。戦闘職の檜山、中野、斎藤、近藤。いつも南雲に絡み、馬鹿にし嫌がらせをする小悪党4人組。今まででも暴力は何度か受けたことはあったが、ここまでやられるのは南雲にとっても初めてのことだった。明らかに度が過ぎている。そう、彼らは突然手にした力に酔っているのだ。漫画やアニメ、創造の世界の力だったものが使え、さらに憎い南雲はロクな力を持っていない。彼らからしたら今の南雲など格好の餌でしかないだろう。
さながら彼らの頭の中では、自身達はさながら悪者をやっつけるスーパーヒーローのように見えているのだろう。やっていることは集団リンチに変わりないが。
「うぅ……」
南雲は呻くだけで何も答えない。南雲は悔しさに打ち震えるも何の行動も起こさない。ただただ耐えるだけである。それには訳があった。南雲小さな頃から人と争うこと、相手に敵意や憎悪を持つということが苦手であり、自分が折れ、我慢すれば終わるという思考に陥っていたのである。
(あ、もうダメだ……)
南雲の視界がボヤけ始める。南雲もここまでやるかと心の中で悪態を吐きつつ意識を落とそうとしたその瞬間、冷たく、重い。そんな声がこの空間を支配した。
「落ちるとこまで落ちちまったな檜山…これまでにも幾度と無く警告してきた筈だが…まさか弱者を痛ぶる外道になってたとはな…やれやれだぜ」
底冷えする声を発するのは不良として県単位で有名な空条承太郎だった。彼の口癖のやれやれだぜ。それには諦めと呆れ、そして怒りの感情が含まれていた。
ドドドドドッ、空気が震える。空条承太郎の放つ謎の凄みのある威圧感。それに檜山達小悪党達は冷や汗が止まらない。
「飲みな」
体力が回復するポーションを南雲に飲ませる。効果は薄かったが、先程と比べだいぶ楽になった。
「テメェ達にはそろそろ口じゃあなく…こっちで分からせた方がよさそうだな!!アアッ!!?」
拳を強く握り檜山達に歩み寄る承太郎。その威圧感に檜山達は震えが治らない。
「ひ、ヒィ!?…い、いや待て…!!ここに風撃を望む…今の強くなった俺たちなら空条にも勝てるぞ!!風んッ……あ、ちょ、や、やめてくださいッ!!」
魔法を詠唱し終え、勝てる可能性は高いと踏み、後ろで震える仲間達に喝を入れようとした檜山だったが、魔法を撃ち出す直前に承太郎に頭を鷲掴みにされ、その痛みで魔法を解いてしまう。
「俺は優しいからな。一思いにぶちかましてやるぜ…!」
承太郎は腕を大きく振りかぶり…
「オオラァッ!!!!」
振り抜く。檜山は綺麗な弧を描いて背後に吹き飛び、壁に打ち付けられ失神する。
それを見た近藤、斎藤、中野は一斉に承太郎に土下座し詫びるが、当たり前ながら承太郎はそれで治らない。
「俺はやると言ったらやる男だぜ。反省も何もしねーような奴らを許すと思うか?」
その言葉に絶望した三人だったが最後の抵抗とばかり承太郎と戦ったが、全員、壁、床、天井に上半身を埋められる結果となった。
「何やってるの!?」
突然、怒りに満ちた女の声が聞こえた。白崎香織だ。想いを寄せる南雲がボロボロの姿で倒れているのだ。彼女のその怒りはもっともだろう。
「白崎、南雲に治癒魔法を頼むぜ。あと、この伸びてる奴らにはやらなくていいぜ」
承太郎が言い終わる前に南雲の治癒を開始する。それを見て承太郎は少し口角が上がる。
「やれやれだぜ」
承太郎はそう締め括り、その場を去ろうとしたが、それは第三者の介入によって遮られることとなった。
「おいッ!!空条!!一体これはどういうことだ!!」
遮ったのは勇者の天之河だ。
「大丈夫か檜山!!」
「……あ、あれ?」
天之河が唯一突き刺さっていなかった檜山の頬を叩き起こす。檜山は目覚めたと同時に自分が置かれている状況を理解し、天之河を承太郎と対立させるように振る舞う。即ち、保身に走ったのだ。
「ひッ!!?空…ヅゥッ!!」
わざとらしく殴られた箇所を押さえ呻く。その咄嗟の演技には流石の承太郎も舌を巻いた。
「落ち着け檜山。一体何をされたんだ!?」
ブルブルと震え、檜山は先程のことを大袈裟に、有らぬ事実を加え脚色し天之河に語った。しかし埋まっているメンツがメンツのため、天之河と一緒にいた坂上や八重樫雫もすぐにそれが嘘だと見抜き呆れる。南雲もよくそんな嘘を寝起きに瞬時に言えるなと呆れた。
普段からの彼らの行ないや言動を見て、通常の思考回路を持つ者ならすぐに見破れる嘘。それを信じる奴などいない。そう皆が思っていたが…
「香織…檜山達を治療してやってくれ…空条…お前はなんてことをしたんだ…!!決闘しろッ!俺が勝ったら檜山達に謝ってもらうぞ!!」
勇者である天之河がそんな嘘を信じた。これには檜山も内心ニッコリ笑顔。
「いや、流石にそれは嘘でしょ」
「それくらい俺でも分かるぞ」
天之河に坂上と八重樫が待ったをかけるが勇者(笑)は聞く耳を持たない。
「空条は元々日本でも毎晩出歩いて一般市民を病院送りにしているんだぞ!!それに檜山は南雲のことを思って特訓をしてあげていたそうじゃないか!!そんな彼らの善意をめちゃくちゃにしたんだ…!!許せない!!」
一般市民…承太郎は内心首を傾げる。承太郎が病院送りにしたのは突っ掛かってきた不良や、カツアゲをするクズばかりだ。そこらの奴らとは違い空条承太郎は無意に喧嘩をしない。
「ま、まって天之河くん!!空条くんは僕を助けて…」「無理するな南雲。南雲も空条に脅されているんだろう?檜山から聞いたさ。安心してくれ。俺が空条を倒してやる。だからそう怯えなくてもいい!!」
当事者である南雲の承太郎を庇う台詞に、脅されているのだと思考し安心しろと投げかける。南雲からしたら安心できる要素がない。
承太郎はこのやり取りを見てこう思った。
あー(察し)
承太郎は何かを察した。