ありふれた世界に星の白金は輝く   作:ユフたんマン

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決闘

「これより、光輝と承太郎による決闘を執り行う!!」

 

メルドの声が訓練施設に響き渡る。対峙するのは承太郎と天之河。天之河が勝てば承太郎は檜山達に謝罪をし、これからの生活態度を改めることを要求される。承太郎は戦うメリットはないが、これ以上関わられるのは面倒という理由で、承太郎はこれからは俺に重要なこと以外話しかけるなということを要求した。

 

「始めッ!!」

 

木剣を手に持つ天之河が承太郎との距離を詰めるために疾走する。承太郎は動かずドッシリ構え、最上段に木剣を構え、迫りくる天之河の脳天に振り下ろす。

 

「甘いッ!!」

 

天之河は承太郎の剣を受け流すように斜めに構え、衝撃を軽減する。剣を振り終えたばかりで隙だらけの承太郎に天之河は剣撃を放つ。それは首の付け根へと直撃し、勝利を確信する天之河。しかし焦らない。一度引き再度距離を詰め、余裕を持って勝利しようとする。しようとした。

 

だが、その意思に反して剣は動かない。

 

「痛えな…オラァッ!!」

 

「カハッ…!?」

 

承太郎は掴んでいた。天之河の木剣を。

承太郎は剣を引っ張り天之河を引き寄せ、脇腹に回し蹴りを放つ。蹴りを喰らった天之河は、衝撃により空気を吐き出し剣を離してしまう。そのまま背後に吹き飛ばされる。

 

「オラ、返すぜ!!」

 

天之河から奪った木剣を投げ付ける。剛腕から投げられた木剣は、一種のミサイルと化し、天之河を穿とうと迫るが、寸でのところで躱すことに成功する。

 

「なッ!?き、汚いぞ!!」

 

「汚いもなにも決闘ってのは剣だけでヤルもんじゃあねーぜ」

 

ズドンッと天之河の後ろで大きな音が鳴る。それを天之河は青くした顔で見る。剣が着弾した壁は陥没し、大きなクレーターを作っている。当たれば確実に戦闘不能になる。それに天之河は戦慄する。

 

「まだだぜ」

 

もう一本、もともと持っていた木剣を同じように投げ付ける。天之河は過敏に反応し、動こうとするが、途端に足を止める。

 

「舐め…るなぁああ!!!」

 

目前に迫る木剣を叫びながら掴み取る。天之河の手の皮は捲れ血を流すが、天之河は気にせず剣を持ち直す。自分の信じる正義のために、自分の信念を貫き通すために。

 

「限界突破ッ!!」

 

天之河から黄金の光が溢れ出す。そして駆ける。先程よりも速く。そして強く。何もかもが倍以上の力になり承太郎に襲い掛かる。

 

「ウォォオオオオオオオッ!!!」

「オオラオラオラオラァッ!!!」

 

天之河から凄まじい威力の剣撃が繰り出される。それを承太郎は拳で迎え撃つ。剣が迫れば拳で弾く。拳が迫れば剣で受け流し弾く。高らかな効果音を鳴らしながら一発一発、拳と木剣が交わる度に空気を揺るがす。

正面からの激突。ほぼ互角の打ち合い。上回ったのは天之河だった。

 

「ハァッ!!」

「グッ…!!」

 

天之河が振り上げた木剣は承太郎の拳を大きく上に弾き退け反らせる。これは一瞬の隙。しかしその隙は天之河にとって充分なものであった。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れーー“天翔閃”!!」

 

木剣は天之河の魔力を纏い光り輝く。それは悪を断罪する正義の光。天之河にはこの技以上に強力な神威という技があるが、それは詠唱時間が長い。よって、同系列であり、詠唱が短く強力な天翔閃を選択したのだ。

 

(これは…マズいぜ…!!)

 

承太郎は初めて危機感を抱く。これを喰らえば負ける。そう本能的に理解したのだ。承太郎はこれまで禁じていた力を解放する。承太郎は天之河を認めたのだ。承太郎は今まで天之河を口先だけの野郎だと思っていたが、この戦いで彼への印象は変わった。やると言ったらやる…信念を貫き通す、まだまだそれは小さなものだが、彼からもほんの一筋の黄金の精神を垣間見たのだ。

 

(なかなか熱い奴じゃあねーかッ!!)

 

「スタープラチナッ!!」

 

承太郎と迫りくる木剣の間にスタープラチナが顕現する。そして振り抜かれる拳。それは木剣を横から殴打し軌道を大きくずらす。

そしてスタープラチナの瞳は驚愕する天之河を射抜く。

 

「いくぜオイッ!!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオオラオラオラオラァッ!!!」

 

数多の衝撃が天之河を襲う。目に見えない何かに高速で殴られている。右腕、左腕、右足、左足、胴体、そして顔面。ありとあらゆる部位を容赦なく穿たれる。そして…顎に今までの中で最も強烈な一撃が襲い掛かる。

 

「ブ…ぁ……」

 

勢いよく宙へと飛ばされる。そして地面へと衝突する直前に、承太郎が片手で受け止める。

それを見たメルドは天之河が気絶したことを悟り、決闘を終着させる。

 

「勝者、空条承太郎ッ!!」

 

メルドの声が訓練施設に木霊する。それと同時にギャラリーの生徒達は、まさか天之河が負けるとは思っていなかったため、大きくどよめく。

そんな中、承太郎は白崎の下に瀕死の天之河を差し出す。

 

「悪いが治してやってくれ」

 

「う、うん!!」

 

白崎が詠唱を唱えると、天之河は光に包まれ、急速に傷を治していく。

 

「素行を直すつもりも檜山たちに謝るつもりも一切ねーが、特訓になら付き合ってやる。そう起きたら言っといてくれ」

 

承太郎は白崎に伝言を託し、ざわめきが残る訓練施設を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

天之河との決戦が終わった。ベッドで寝そべりながら振り返る。正直言って危なかった。最後の場面でスタープラチナを出し渋っていれば負けていたのは俺だっただろう。それ程までに天之河は強かった。もともと前の世界で武道を習ってきたというものもあるだろうが、決定的なものは技能の存在だった。限界突破。言葉の通り、反動はあるが一時的に全ステータスを倍に引き上げる技だ。

幽波紋はこの世界の常識を超えたものだ。この世界の人間にバレれば俺は解剖やら幽波紋を解明するために躍起になるだろう。その可能性が日本でも0ではないということにため息が漏れる。

そのような問題もあり、スタープラチナはいざという時にしか使うつもりはなかったが、その考えは今日打ち砕かれた。幸い俺の幽波紋は時を止める以外はどうにか紛らわせることが出来る範囲だ。不自然なのは俺が触れていない箇所にスタープラチナの拳が穿つことだ。

それをどうにか改善しないといけない。今のところ思いつくのは初期、承太郎が自分に向けて放った銃弾を掴み取った時のような腕だけ、つまりはスタープラチナの一部を顕現させることだ。

試しに行ってみれば思ったより簡単に出来た。だがそれだけだ。これだけでは大差変わらない。俺が目指すべきはスタープラチナとの一体化だ。わかりやすく言えばセッコのオアシスのようなもんだな。俺自身がスタープラチナを纏い、同じ速さで俺が動かなければ幽波紋の違和感というものは隠せない。

ステータスプレートの内容を隠蔽する方法もあるが、看破する技能もないとは言い切れないため、早急な対策が必要だ。この世界、俺より強い存在など幾らでもいるのだから。

 

いきなり話が変わるが、明日はオルクス大迷宮とやらに遠征に行くらしい。何か嫌な予感がするが気のせいだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺たちはメルド団長が用意した馬車に乗り込む。目指すはオルクス大迷宮近隣の町、ホルアドだ。そこは冒険者の町とも言われ、オルクス大迷宮に挑戦するために集まった冒険者が、それに便乗し儲けようと集まった商人達が、それぞれ集まりできた町だそうだ。

 

そして馬車に揺られること約1日、ホルアドに到着した俺達は王国直営の宿に泊まるそうだ。馬車から降りた俺は座りっぱなしで固まった体を伸ばす。う〜ん、気持ちいい。

宿は王国の部屋と比べると手狭かつ、2人部屋だが、普通の宿に比べれば充分広い。部屋に適当に荷物を置き、夜の街に繰り出す。せっかく異世界に来たのだ。異世界の町、よくあるファンタジー世界の町を見ておきたかったのだ。夜は治安が悪いのか、怪しい闇市的なものはあるのかなどだ。

出かける際、同じ部屋の南雲に止められかけたが、問題なく外出することが出来た。

 

さて、何をしようか。と、そう言えばこれから自立するのだから先に冒険者登録をしておこう。というわけで冒険者ギルドに向かうことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金属の重々しい扉を開ける。そこはギルドのホルアド支部だ。中に入ればまぁ予想通り、薄汚れた西部劇の酒場のような場所だ。先程まで騒がしかったのだが、俺が入った瞬間、場に静寂が訪れる。そして俺に視線が集まる。初めて見る俺を品定めするかのように凝視する視線。まったく煩わしい。薄汚れたオッサンに見つめられても嬉しくもなんともない。逆に不愉快だ。

 

そんな視線を無視し受付に向かう。受付嬢にステータスプレートを渡し用件を言う。

 

「冒険者登録をしたい。出来るか?」

 

「は、はい!かしこまりました。冒険者の登録ですね。少々お待ち下さい」

 

一瞬顔を赤くし硬直していた受付嬢だが、すぐに切り替えキビキビと動き出す。そしてものの数十秒、ステータスプレートが返却される。

 

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空条承太郎  17歳 男 レベル : 8

天職 : 断罪者   職業 : 冒険者   ランク : 青

筋力 : 341

体力 : 280

耐性 : 157

敏捷 : 162

魔力 : 30

魔耐 : 80

技能 : 断罪・精神異常耐性・状態異常耐性・剛力・自然治癒・気配遮断・気配察知・威圧・言語理解

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ステータスプレートには職業とランクが追加されていた。ランクとは青から金まであるらしく、階級制なんだとか。まぁテンプレテンプレ。

用件も済んだことだし出るか、と引き返そうと足を進めれば、俺の進行方向にニヤニヤと笑いながら足を通路に出している冒険者がいた。周りの冒険者もニヤニヤと笑っている。ふぅん、テンプレテンプレ。

 

絡むのはめんどくさいので華麗に迫る足を回避しギルドから出る。冒険者は追いかけてきそうだったが、スタープラチナで後ろから酒瓶で軽く殴り、乱闘騒ぎにしその場から脱出する。

 

 

その後は怪しい店を数店周り、適当に魔道具を購入し宿に戻った。治安はギルドでお察しだったが悪かった。

部屋では何やら悶えている南雲がいたが、無視して寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァッ!!」

 

そして更に翌日、俺たちはオルクス大迷宮に挑んでいた。俺は筋肉質なネズミを殴り飛ばし、絶命したのを確認後、魔物の核といえる魔石を剥ぎ取る。

 

「よし、下がっていいぞ!」

 

メルド団長に言われ素直に従いクラスメイトの最後尾に戻る。ここから特に記述することはない。様々な魔物が現れるが、全てクラスメイト達に蹂躙されていく。このままじゃあ何もなく終わりそうだな。

 

「天翔閃!!」

 

天之河が俺にも放った技を魔物に放つ。魔物はチリもなく消え失せ、それだけに留まらず光の本流は大迷宮の壁に直撃する。

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうすんだ!!」

 

「す、すみません…」

 

魔物を消し飛ばし満足そうな顔をしていた天之河に拳骨が襲いかかり、メルド団長に説教される。それを遠巻きに見ていた俺だが、天之河の一撃で崩れた壁の奥の部屋に煌めく宝石を見つけた。見つけてしまった。

 

「あれは…」

 

あれは確かグランツ原石。宝石の原石のようなもので、王族や令嬢への人気が高く、求婚の際に使われる宝石トップ3にランクインしている。

まもなく俺以外の全員も宝石の存在に気づく。

 

メルド団長の説明でその求婚で使われている、そう聞いた白崎含む女性陣は素敵…と頬を赤くし、想い人から求婚される自分を想像する。

 

それを見た檜山は意気揚々とグランツ原石に近寄る。取ろうとしているのだろう。メルド団長が注意するも、檜山は止まらず触れてしまう。あいつ、何も反省していない。あれだけ警告したというのに…

檜山がグランツ原石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が展開される。俺たちはこれを一度見て、食らったことがある。これは…

 

「転移の魔法陣…!!」

 

おおよそどのゲームでも1番厄介なトラップだ。ポケダンで階段の目の前でワープさせられ、モンスターハウスに入ってしまった時には発狂してしまったものだ。当然その時は死んだ。ゲームを投げ捨てた。

 

光に視界を潰され、次に光が収まると、そこは巨大な石造りの橋だった。やはり転移されたか。警戒し周りを見れば、混乱している生徒たちと、的確に指示を飛ばすメルド団長と騎士達。

 

次の瞬間、橋の両端に魔法陣が展開され、そこから骸骨兵のような魔物と、凄まじい威圧を放つ巨大な魔物。名は…

 

「まさか…ベヒモス…なのか…?」

 

ベヒモス…悪魔の名を持つ怪物が俺たちの前に立ち塞がった。


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