『グルァァァアアアアアッ!!』
ベヒモスが吠える。そして生徒達は一斉に恐慌状態に陥ってしまう。ここにいる殆どの人間が死を感じたのだ。
さらに背後からは骸骨の魔物、トラウムソルジャーが現れ退路を塞いでいる。
そんな中いち早く正気に戻ったメルドが矢継ぎ早に指示を飛ばす。
それは騎士達でベヒモスの足止めをし、生徒達をその間に逃すというものだ。勿論、それに納得しない者がいた。
「待ってください、メルドさん!俺たちもやります!あの恐竜みたいな奴が1番ヤバイでしょう!俺たちも…」
「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!奴は六十五階層の魔物。かつて最強と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさといけ!!私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!!」
メルドの危機迫る表情に天之河は一瞬怯むも、見捨てることが出来ないと踏みとどまる。
メルドが天之河をもう一度説得しようとした次の瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進する。
すぐさま騎士達が光の結界、聖絶を張り辛うじてベヒモスの突進を防ぐ事に成功する。
「我々では少ししか時間を稼ぐことが出来ん!さっさと撤退しろ!」
「嫌です!メルドさん達を置いて行くわけにはいきません!絶対皆で生き残るんです!」
「馬鹿者め…!!」
そう話している間にもベヒモスは聖絶を打ち砕かんと何度も頭を打ち付けている。
徐々に聖絶はヒビ割れ、隙間から血走った目がギョロリとメルド達を睨み付ける。
「俺が足止めする。テメェらは後ろの骨をどうにかしな」
この喧騒の中、そこまで大きな声でなかったのにも関わらずメルド達の耳によく響いた。承太郎だ。承太郎が発したのだ。
「だから撤退しろと言っているだろ!どうしてこんな時に我儘ばかり言うんだお前らは!」
メルドが青筋を立て怒鳴るが、承太郎は態度を崩さず、声を荒げず静かに対応する。
「馬鹿はどっちだ。かつて最強だった冒険者が手も足も出なかった魔物、ならテメェらはその冒険者が手も足も出なかった魔物を充分な時間足止め出来ると思っているのか?」
「むぅ…それは」
現在、聖絶でギリギリ抑えられているがもう限界に近い。それにベヒモスの一撃をいなすにもかなりの魔力と集中力がいる。もっても数分程度だろう。その数分で後ろでパニックになっている生徒達が、背後から迫る複数のトラウムソルジャーを殲滅し避難出来るか…かなり難しいだろう。天之河のようなカリスマを持つ人間がいれば話は別だろうが、決して彼が退くことはない。承太郎にもカリスマはあるが、いかんせん日本での行いから人望がない。従わず一部の生徒が反発する可能性がある。
「天之河は後ろの奴らを纏めて突破しな。そら、南雲のヤローがテメェを呼びに来てるぜ」
「天之河くん!!」
承太郎の言葉通りに南雲が後方から駆け寄ってきた。皆が驚愕している中、南雲は天之河に掴みかかるような勢いで捲し立てる。
「早く撤退を!皆のところに!君がいないと!早く!」
「南雲!?何故ここに来たんだ!!それに君も俺に下がれと言うのか!?メルド団長達を置いて行けと!?」
「あれが見えないの!?皆パニックになってる!リーダーがいないからだ!」
南雲が後方でパニックになっている生徒達を指を刺しながら、普段からの温厚な態度からは考えられない程の剣幕で天之河を怒鳴りつける。
「一撃で切り抜ける力が必要なんだ!皆の恐怖を吹き飛ばす力が!それが出来るのは天之河くんだけでしょ!前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」
呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る天之河は、承太郎に視線を送り、何かを否定するようにブンブンと首を振り南雲に頷いた。
「ああ、わかった。直ぐに行く!メルド団長!すいまーー」
「下がれぇーー!!」
天之河の言葉は途中で遮られ、メルドの声が周囲に響き渡る。それと同時に聖絶がガラスのようにひび割れベヒモスに破られる。
「オラァッ!!……チッ!!」
承太郎がすぐさまベヒモスの頭部に拳を叩き込み、ベヒモスから放たれた暴風を相殺するが、単純に力負けし後ろに弾き飛ばされる。
「空条くんッ!!」
「南雲ォ!!振り返るな!!テメーがここに出てきたって事は策があるっつーことだよなぁ!?ならさっさとそれを実行しろ!!俺はこんなのでやられる程やわじゃあねぇぜ!!」
「…ッ!!天之河くん!!一瞬だけでもベヒモスに隙を…!!」
「任せろ!!」
南雲が天之河に声をかける。ベヒモスは既に額を赤熟化させ、こちらにそれを放たんと跳び上がる。
「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!ーー“神威”」
それに対し天之河が放つは現段階での最強の一撃、神威。聖剣から極光を放ち、凄まじい威力に空気が振動する。
聖剣から放たれた極光は、宙のベヒモスをも呑み込み、光が周囲を塗り潰す。誰もがやったか…そう思った次の瞬間、凄まじい激震が生徒達に襲い掛かる。
「無傷…だと…!?」
神威を放った天之河の目の前、あと一歩でも前に出ていれば巻き込まれていただろう。そこにベヒモスが頭から橋に突き刺さっていた。しかも無傷で…だ。バタバタと元気よく額を抜こうと暴れている。神威でベヒモスの着弾位置をずらしていなければどうなっていたか想像した天之河は恐怖に冷や汗を流す。
「十分だよ天之河くん!“錬成”!!」
南雲が地に手をつけ魔力を流す事で、ベヒモスの埋まっている頭部周辺の橋が隆起し、ベヒモスに覆い被さる。南雲の策とはただ単に錬成で足止めするという単純なものだが、効果的面、ベヒモスを押さえ付けることに成功する。
「今のうちに撤退を!!」
南雲は錬成でベヒモスを拘束しながらメルドに自身が考えた、この場で全員が助かる唯一の策を伝え撤退を促す。メルドは一瞬、南雲1人に背負わせるにはあまりに大きなリスクに顔を顰めるが、南雲の目を見たメルドは決心する。
「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから…頼んだぞ!」
「はい!」
メルドはそう言うと、周りの騎士達に向けて指示を出し撤退して行く。天之河も流石に状況を理解し、背後にいるトラウムソルジャーを一部を殲滅し、恐慌に陥る生徒たちを鼓舞する。すると生徒たちにちょっとばかしの余裕が生まれ、冷静になり次々とトラウムソルジャーを駆逐していく。
「クゥ…ッ!!まだ早い…!!もう少し…!!!」
錬成で押さえつけられているベヒモスだが、やはりかつて最強と謳われた冒険者を容易く葬った魔物、すぐに変形し取り囲む石畳から抜け出そうと暴れ始める。一挙一動に連続で錬成を強いられ、膨大な魔力が一気に吹き飛んでいく。魔力を回復するポーションを使っているがもう既に焼け石に水の状態。
後ろでは未だトラウムソルジャーを突破出来ずにいる。このままではベヒモスは脱出し、ここにいる皆が殺されてしまうだろう。
このままでは…だ。
「オラァッ!!」
先程吹き飛ばされた承太郎が戻ってきたのだ。ベヒモスの錬成から抜け出していた頭部を力一杯殴り、錬成の沼に埋め込む。
「オラオラオラオラオラオラァッ!!」
ベヒモスが挙動を起こす度に殴り付け、錬成からの脱出を許さない。このお陰で南雲の錬成にかける魔力が減り、魔力の残量を維持しながらベヒモスの足止めを出来るようになった。
「全員退避完了ッ!!撤退しろッ!!」
背後からメルドの叫び声が聞こえる。それと同時に全ての魔力を使いベヒモスを拘束する。魔力を枯渇してしまい南雲は動けなくなるが、承太郎が南雲を担ぎすぐに撤退を始める。
「ごめん…ありがとう…」
「口を閉じてな。舌噛むぞ」
承太郎たちがベヒモスから離れて数秒後、背後でベヒモスが錬成から抜け出し、怒りの咆哮を上げながら承太郎たちを追いかけようと四肢に力を溜めた。
だが次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。夜空を流れる彗星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージは一切受けていないようだが、しっかりと足止めにはなっている。
「チッ…!!」
承太郎が舌打ちした。次の瞬間、逃げ切れると頬を緩めた南雲の表情は凍り付いた。
無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ。
行き先はベヒモスから…承太郎達へ…
「オラァッ!!」
承太郎がスタープラチナの拳で火球を弾くが、それはその場で爆発し、爆風で承太郎の身体は宙に投げ出され後退する。受け身を取りながら着地した承太郎だが、後ろから迫るベヒモスと、前方から迫る無限湧きのトラウムソルジャーにため息を吐きながら呟いた。
「やれやれだぜ…」
承太郎のそんな声が聞こえた瞬間、南雲は宙に放り出されていた。魔法の弾幕と大量のトラウムソルジャーのちょうど隙間の低空に承太郎は南雲を放り投げたのだ。
「う、うわぁああああああああッ!!!?」
悲鳴を上げる南雲。当然である。それをメルドがある程度衝撃を弱めながらキャッチし、それを白崎が治療する。
「大丈夫!?南雲くん!!」
「大丈夫!!だけど空条くんが!!」
橋の上では迫りくるトラウムソルジャーを倒しながら撤退する承太郎の姿が。魔法の弾幕も、魔力を使い切ったのか数を減らし既にベヒモスの足止めとして全く機能していない。
ベヒモスが跳び上がり、赤熟化した額で承太郎に突進する。承太郎をそれを回避するが、ベヒモスの突進は橋に直撃し、大きな音を立てながら崩壊していく。
承太郎は崩れゆく橋から一刻も早く避難しようとするが、崩れゆく足場を踏む瞬間、足をトラウムソルジャーに掴まれてしまい、足を踏み外す。
先程あれだけ猛威を振るったベヒモスも、悲鳴のような断末魔を上げながら奈落へと落ちて行く。当然、飛行手段を持たない承太郎も同じだった。足を掴んでいたトラウムソルジャーはすぐに始末した承太郎だが、そこから何か出来ると言うわけでもなく、奈落へと姿を消していった。
「僕が空条くんを…僕の策が空条くんを殺した…」
▽▽▽
目を覚ますとそこは天井があった。ただし白い天井ではなく、洞窟の岩の天井だ。ああ、俺は橋から落ちたのか…
ひとまずその場で立ち上がり身体を解す。バキバキと音が鳴る。自然治癒が発動している筈だがまだ痛みが残っていることからかなり重傷だったのだろう。
さて、俺はどこまで落ちた?橋からでは下の様子が一切見えない程の高さ。そんな高さから落ちたら例え水の上だろうが身体はバラバラになるだろう。しかしなっていないということは運良く横穴に入り込み助かった…ということだろうか…。
取り敢えずスタープラチナの指パッチンで火種を作り、近くに落ちていた魔物の死体を燃やす。水の上に落ちた事で体がびしょ濡れ、このままでは風邪を引いてしまう。こんな状況での風邪は死の宣告と同様だ。異臭が凄まじいことになっているが我慢し暖を取る。
担いでいたバッグを漁り、無事なものを確認していく。ポーションは殆どが割れ使い物にならなくなり、タバコは水没し、町で買った魔道具も壊れていた。無事だったのは少量のポーションと携帯食料のみ。これは早めに上へ戻らねば飢え死にしてしまう。
しばらく暖をとっていると、服は乾き腹が鳴る。携帯食料を軽く腹に入れ立ち上がる。オルクス大迷宮から脱出だ!!
と気合いを入れ直したはいいものの出口が見つからない。まだまだ軽く見て回ったばかりだが、食料となるものも見当たらない。強いて言えば最初の場所の水、そこにいた異形の魚ぐらいだろうか。食べられるのか?
探索を続けていると、この階層での初となる魔物と遭遇する。見た目は小さな白兎だ。見た目は全然弱そうだがかなり深層の魔物、油断はできない。
「がッ…!?」
突如腹に鈍痛が走る。俺は後方に吹き飛ばされ、口から肺の空気と血を吐き出す。何が起こった!?何も見えなかったぞ!?
先程俺がいた場所を見れば、そこには蹴り終えた態勢で俺を嘲笑うかのように見ている兎の姿が。まさか奴が…!!
「スタープラチナッ!!」
俺がスタープラチナを出すのと同時に兎も駆ける。スタープラチナの拳は迫る兎を吹き飛ばさんと殴りつけるが、兎は一歩も引かず拮抗する。
「互角だと!?」
スタープラチナは連続で兎に連打を喰らわせるが、兎は両足をバタバタと動かすことでスタープラチナの連打を全て相殺する。
「…ッ!!
拳と足が衝突した瞬間、指を伸ばし兎を串刺しにする。不意をついた一撃だったため、これが外れていれば敗北していただろう。絶命した兎を放り投げようと腕を振るった瞬間、脇腹に先程と同じ鈍痛が走る。
横に一体…ッ!潜んでやがったか!!くそ、肋が折れたか…!?
スタープラチナの弱点、それは他と戦っている時に本体がガラ空きになるところだ。スタープラチナを俺が纏えていれば、今の奇襲もこれほどダメージが入ることはなかっただろう。
すぐにスタープラチナを前に出し、ポーションを煽り構える。
………兎の様子がおかしい。震えて…いる…ッ!?
背筋にゾワッと悪寒が走る。すぐさまその場から前方へハンターよろしく前転回避するが、背後からの一撃は胸元を大きく抉る。
「ぬぅ…!!」
切り裂かれた胸元を押さえるが、ドクドクと流れる血は収まらない。先程まで俺がいた場所には大きな熊のような見た目をした、爪の長い魔物が、涎を垂らしながら俺を見据えていた。
や、やばい!!このままじゃあ…死ぬ!!!
魔物は腕を俺に向けて…振り下ろした。
高評価が…欲しいです…!!(高評価乞食)
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