この素晴らしい侠客立ちに祝福を   作:単三抜き電池

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しばらく戦闘なしの地の文が続きますがお付き合いいただけると嬉しいです。


プロローグ

花山薫は侠客であり、漢である。

 

たとえ警察とヤクザという間柄であろうとも、友のために泣き、地に額をつけようとするものがいれば儀を以て動くのが花山薫という漢だった。

 

かくして花山薫はかの剣豪『宮本武蔵』との死合いに挑み――敗北した。

 

「今夜はよォ……」

 

――嘘つきばっかりだ……………………

 

刃牙に、内海に、武蔵に見送られながら花山は病院へと運ばれていく。

 

腹に、顔に、そして何より、”侠客立ち”にも新たな傷を刻まれた花山薫。

 

そんな、生死の境を彷徨う彼の精神は今、不思議な空間へと呼び出されていた。

 

 

 

 

 

真っ白い部屋の中。気付けば花山はそこにいた。

 

彼がまず驚いたのは自分の身体のことだった。出血がなく、痛みがない、おまけに服装はいつもの白いスーツに革靴。つい先刻宮本武蔵と死闘を繰り広げた彼の身なりがこの様なものであるはずは到底ない。仮に傷が癒え目を覚ましたのだとしても、ここが病院のベッドの上でなく病衣も着ていないというのは少々おかしな話である。

 

そして花山の目の前では、背から翼の生えた少女が深々と頭を下げている。

 

「初めまして、花山薫さん。突然この様な場所にお呼びしてしまい、本当に申し訳ありません。」

 

「……嬢ちゃん、頭を上げな。」

 

そういわれた少女はゆっくりと身体を起こすと、花山が疑問に思っているであろうことの説明を始めた。

 

ここが死後の世界であること。

自分が前任からこの場所を引き継いだ女神であること。

異世界への転生を斡旋していること。

 

その他ほかの死者への説明と同じ内容のものを一通り話し終えた少女は、一度目を伏せると意を決したように花山へ向き直り、再び頭をさげた。

 

「そして最後に、花山さんに謝らなければならないことがあります。……実は貴方はまだ()()()()()()()()()。」

 

先ほどまで静かに聞いていた花山も、さすがにこれには驚いた。

 

ヤクザ――それも日本一の喧嘩ヤクザと称される彼は、明日を見る生き方をしていない。だからこそ彼は強く、そして潔い。死後の世界に自分がいると聞かされればそれを受け入れるだけの度量は持っている。

 

しかし、まだ生きているにも関わらずこの場所にいるとすれば話は別だ。何故という疑問は当然浮かんでくる。

 

そんな花山に対し、謝罪の姿勢のまま少女は続ける。

 

「宮本武蔵との死闘後病院に運ばれたあなたは現在、昏睡状態のまま手術を受けています。死亡こそ確定していませんが、大量の出血と内臓へのダメージで非常に難しい状況にあるのは事実です。」

 

「……」

 

「私は花山さんに異世界へ行って頂きたく、生死の境にいるあなたを無理やりここへ連れてきました…。先ほどご説明した通り、異世界は魔王によって脅かされています。貴方ほどの逸材を送らない手はないのです。」

 

顔を上げた少女は縋るような眼で続ける。

 

「失礼は重々承知しております。勿論タダでとは言いません。もし転生していただけたなら、冒険終えた後それを元の世界での数分の夢として処理し、必ず一命をとりとめた状態で元の世界へ送り返すことを約束します。ですのでどうか、魔王討伐に力を貸していただけないでしょうか。」

 

 

 

暫くの沈黙の後、花山は一つの問いを投げかけることにした。

 

「嬢ちゃん、少し前に烈って男が来なかったかい?」

 

「…烈永周さんのことですね?残念ながら天界の規定により、20歳を超えた方は天国または地獄に直接送られてしまうのです。」

 

なるほど、と花山は思う。

 

拳雄烈海王が異世界で戦力にならない訳がない。そんな彼がすでに死んでいるにも関わらず、死にかけの自分を無理に引っ張ってくる理由はわかった。

 

しかしそれでも、花山はあまり乗り気ではなかった。

 

「……人様の喧嘩に、首突っ込むもんじゃねえ。」

 

異世界とはいえ他人の勝負に加勢する。これはあまりに花山の美学とかけ離れている。

さらに言えば、生にしがみつくために何かをするという行為もまた、彼の生き方にはそぐわない。死ぬときは死ぬ。生きるとは生きる。それでいいのだ。

 

「……ピクル。」

 

不意に少女が呟いた名は、花山の関心を大きく引いた。

「彼がかつて相手にしていた恐竜。それらを上回る生物たちが、異世界にはいます。」

 

ほんのわずかな時間の押しっくら。ピクルとの接点はそれだけだ。しかし、その先を望む心が、喧嘩師としての血が騒いだことも否定できない。

かつてピクルを『比べっこが大好き』と称した花山もまた、比べっこが大好きなのである。

 

そんなピクルの旧友以上の生物がいる。

 

この言葉は花山の心を大きく動かし、彼の口は自然と笑みに歪んでいた。

 

「……わかった、連れてきな。」

 

「ありがとうございます!では異世界にもっていく特典についてですが――。」

 

少女が言うには、転生者は一つだけ好きな恩恵を授かって異世界に行くことができるそうだ。

最強の特殊能力、圧倒的な才能、はたまた神の武器に至るまで、なんでも。

 

しかし、そんなものも花山が欲しがらないのは少女も十分理解していた。

 

「さて、ここまで説明しましたが花山さんには特別にこちらでアイテムをご用意しています。」

 

少女はそう言うと、パチンと指を鳴らす。すると虚空から麻袋が一つ現れた。

 

「この中には、向こうの世界で生活するに十分なお金と、それから――。」

 

少女が麻袋から取り出したのは、ワイルドターキーの瓶。彼女はそれを開けると、どこからともなく取り出したグラスに注いでいく。

不思議なことに、グラス一杯分注いだにも関わず、瓶の中身は一切減っているように見えなかった。

 

「このように、女神の力で一切減ることのない酒瓶をつけさせていただきます。勿論、味も劣化することはありません。」

 

少女は『どうぞ』と言ってグラスを花山に渡す。花山はそれを一気に飲み干すと

 

「うめえ……。」

 

と呟いた。そして少女から麻袋を受け取ると、彼の足元に魔法陣が浮かび上がる。

 

「花山さん、私のわがままを聞いてくださってありがとうございます。貴方が魔王を打ち倒すことを心より祈っています。」

 

「……ありがとよ。」

 

それは何に対しての感謝だったのか。祈りか、酒か、はたまた強敵との出会いか。

 

兎にも角にも花山が異世界へと旅った。

 

一人残された少女は、大きくガッツポーズをすると、叫んだ。

 

「よしッッ!!これで見られるッッ!!花山薫対魔物ッ花山薫対魔王軍ッッ!!垂涎もののプラチナカードッッ!!」

 

アクアの後任の女神は、喜声が木霊した――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




花山のしゃべり方これでいいのか?って思って原作見てもあんましゃべってないから困ります。
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