墓地での出来事の翌日。
「すごい!何ですかこの数値は!?特に筋力と生命力!こんな数値今まで見たこともありませんよ!?」
ギルド内に受付のルナの声が響き渡る。
一斉に集まった視線の先にいたのは、ウィズに連れられギルドへとやってきた花山だった。
昨夜。墓地からの道すがら、自分の状況を花山はかいつまんで話した。
「じゃあまずは冒険者ギルドですね、今日のお礼もありますし明日一緒に行きましょう!」
そう言われ転生二日目でギルドへとやってきた花山。
先ほどのルナの声で人だかりができ、『見ねぇ顔だな』『貧乏店主さんの知り合いみたいだぜ』などと軽い騒ぎになっている。
「他にも敏捷性に器用度も大きく平均を上回ってますよ!……ただ……。」
「ただ?」
花山の代わりにウィズが尋ねる。
「知力があまり高くないのと、その……魔力が……全くありません。」
「ええ!?」
「……。」
魔力がない。
これは冒険者にとっては致命的と言える。回復、ステータスップ。スキルはいずれも魔力なしでは発動できないからだ。
「これだけのステータスをがあるのにもったいないですが、冒険者稼業はやめたほうがいいかと……。」
「……構わねえ。登録を続けな。」
「ちょ、ちょっとハナヤマさん!冒険者になるつもりですか!?魔力が無いんですから辞めたほうがいいです!」
「……なんでだ。」
「なんでって……いいですか?魔力がないということは、呪文もスキルも使わずにクエストをこなすってことです。常識的に不可能です!」
必死に花山を止めようとするウィズ。だが彼女は、目の前の漢が常識外れであるということをまだ知らない。
「関係ねぇ。」
「~~~~~ッ!」
一切の説得を無駄と思わせる一言に、ウィズは言葉を失った。
「あの~、では職業を選んでいただけますか?……とはいっても魔力0だと基本職の『冒険者』しか選べませんが……。」
「……ん。」
もったいない。そんなことを呟きながらルナはカードの職業欄に『冒険者』と記載した。
かくしてアクセルに『冒険者』花山薫が誕生したのだった。
花山がギルドを訪れる少し前。
クエスト掲示板の前で、ゆんゆんは悩んでいた。
彼女は優秀な冒険者だ。職業は上級職であるアークウィザードであり、多彩な魔法を持ちながら前に出て戦うこともできる。
そんな自身の万能さも手伝って、今まで彼女はぼっち……もといソロでクエストに行っていた。
だが、今回は少し状況が違った。
「うーん、難しいクエストしか残ってない……。」
張り出されているのはどれも非常に難易度の高いクエストばかり。
噂では最近この辺りに魔王軍の幹部が住み着いたため、弱いモンスターが隠れてしまっているらしい。
クエスト達成できなくもないだろうが、万が一の場合を考えると、一人で行くのは少し不安だった。
(そうだ!学園でめぐみんが私にやったようにしていれば……!)
ぼっち気質のゆんゆんに他の冒険者を誘う勇気はない。そこで彼女が考えたのは『掲示板の前でウロチョロして、誰かが声をかけてくれるのを待つ』という、彼女の中では親友となっている人物から着想を得た作戦だった。
彼女の往復はしばらく続く――。
「これがクエスト掲示板。ここからクエストを選んで受注するんです。」
ウィズは花山にギルド内部の案内をしていた。
「最初は簡単なクエストを受けて、徐々に難易度を上げるようにしてくださいね?でないと下手をすれば死んでしまいますよ?」
そう言いながらウィズは張り紙を見る。
「あら?高難易度のクエストしかありませんね……。残念ですがハナヤマさん、クエストはまた今度にしましょう。」
そんなウィズの言葉を無視し、花山はクエスト掲示板を物色し始めた。
「ハナヤマさん!これはハナヤマさんにはまだ無理なんですって!簡単なクエストが出たときにしましょう!」
いくら花山のステータスがよくても、彼はスキルも使えないレベル1の冒険者。ウィズが止めるのも無理はない。
「難しいから、やらねぇ。易しいから、やる。そういうもんじゃねぇだろう。」
「……分かりました。今回は特別に、私もついていきます。」
魔王軍幹部の彼女は魔物と戦うのを好まない。
だが花山の説得を不可能と悟ったウィズは、みすみす死地へ送る訳にもいかないと手を貸すことにした。
「クエストに一人で行くのはあまりオススメしません。高難易度なら尚更です。まあ今回で分かって貰えるとは思いますが……。次回からはちゃんとパーティを組んでクエストに行ってくださいね?……て、あら?」
そこでウィズはようやく、クエスト掲示板の前で行ったり来たりしている少女に気が付いた。
奇妙な行動の意図を察したウィズは、もしかしたら次回から花山と組んでくれるかもと期待して声をかけることにした。
「あの、よかったら一緒にクエストに行きませんか?」
ウィズの言葉に、ゆんゆんは嬉しそうに振り向いた。
「私でよければ是……非……」
ゆんゆんの笑顔は一瞬で凍り付いた。
振り向いた先にいた茶髪の美女――の隣。圧倒的体躯を持つ漢の、見下ろす疵面の威圧感たるや。
「初めまして、私はウィズと言います。こちらは花山薫さん。お名前を聞いても?」
我に返ったゆんゆんを次に襲ったのは羞恥心。全く知らない人の前で自己紹介をするという恥ずかしさにもじもじとしてる。
「わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして上級魔法を操る者!やがては紅魔族の長となるもの……!」
真っ赤な顔で言い放ったゆんゆんは、笑われるのを予期して気が重かった。
「まぁ、紅魔族のアークウィザードなんですね!心強いです!」
ところが笑われるどころか帰ってきたのは称賛の言葉。花山も黙ってはいるが真剣に聞いている。
「あの、私の名前を聞いて笑わないんですか……?」
ゆんゆんが恐る恐る尋ねる。口を開いたのは花山だった。
「人様の名だ、笑っていいもんじゃねぇ。」
(あれ、この人もしかしてすごく良い人なのかも……顔怖いけど……)
ゆんゆんは少し感動していた。
「実はこの方、冒険者になったばかりなんです。力を借して頂けますか?」
「もちろん、協力させてもらいますッ!」
涙が出そうなのを堪えると、ゆんゆんは嬉しそうに言った。