ベルディアとの戦いからしばらく。
未だ興奮冷めやらぬギルド内は、二人の人物を取り囲んで大盛り上がりを見せている。
「……勇敢な戦いぶりで見事魔王軍幹部を相手に打ち勝ったハナヤマさん。そしてアークプリーストとしてその魂を浄化したアクアさん。お二人の功績を称え、デュラハン討伐の懸賞金を両名に1億5000万エリス贈呈いたします。」
ルナが言い終えると、周囲でドっと歓声が上がった。
「い……1億……5000万エリス……。」
初めて見る大金にカズマは生唾を飲んだ。
「ちょっと!これは私が貰ったんだからね!あげないわよ!?」
「な、お前!いつもは一人損すると『パーティでしょ?』とか言ってたかってくるくせに!汚えぞ!?」
「そうですよアクア、ここは平等に分けるべきです。」
「二人の言う通りだアクア。それに我々は殆ど何もしていないんだ。喧嘩になるくらいならいっそ彼に全額渡すという手も……。」
「いやよ!これは私のお金なんだから!ツケを払ったりお酒を買ったりするんだから!」
何やら口論が起き始めているカズマ達を尻目に、花山はゆんゆんの所まで歩いていく。
「お前の分だ、取っときな。」
そう言うと花山は5000万エリスをゆんゆんに渡す。
「そんな、貰えません!私何もしてないのに……。」
「仲間ってのは、報酬を分け合うもんだ……。」
ぶっきらぼうにそう言う花山を見ながら、渋々ゆんゆんはお金を受けとった。このお金は出来るだけハナヤマさんの役に立つように使おうと彼女は内心決意する。
「見ろアクア、あれがパーティーの正しい姿だ。お前も元ナントカなら少しは見習ったらそうだ?」
「元じゃなくて今も女神なんですけど!……わかったわよもう……。」
渋々アクアが報酬を分けたあと、カズマは花山のそばへとやってくる。
「いやーすいませんねハナヤマさん、俺たちまでおこぼれ貰っちゃって……。ところで、転生するとき女神に何を貰ったんですか?」
カズマは花山に一番気になっていることを聞いた。魔王軍幹部に殴り勝つほどだ。よほど凄いものを貰っているのだろう。
そんなカズマの期待を裏切るように、花山は一本の酒瓶を取り出してみせた。
「こいつだ。」
「え?いや、それただの酒じゃ……。」
「……見てな。」
そう言うと花山は自身の口めがけて酒瓶を逆さにした。
絶え間なく流れる酒をガボガボと飲み続けること約20秒。机に戻された酒瓶には未だ満杯の酒が入っている。
「飲んでも減らねぇ、らしい。」
「こんな……もっと強い武器とか凄い才能とかあったのに、なんでこんな物にしたんですか?」
腑に落ちないといった表情のカズマに、花山はグラス注いだウィスキーを差し出した。
「
かっこいい。素直にカズマはそう思った。強者でありながら弱者を決して踏みにじらない彼の美学。思っていたヤクザとまるで違うという事を理解したカズマは。花山に対する警戒心がかなり薄れた。
そんな本物の漢に注いでもっらた酒を飲む。カズマのいい気分は自分の仲間に邪魔された。
「今飲んでも無くならないお酒って聞こえたんだけど!?」
「おいアクア、今俺たちは真面目な話をしてるんだよ。宴会の女神様はあっちで宴会芸でもやってろ。」
「私は水の女神よ!謝って!誠心誠意謝って!」
睨み合うカズマとアクア。気にせず酒を煽る花山に、今度はダクネスが話しかけてくる。
「な、なぁハナヤマ、今度一緒に強いモンスターに嬲られ……いや強いモンスターの討伐に行かないか?」
「何頼んでんだダクネス、お前の性癖にハナヤマさんを巻き込むんじゃねーよ!」
「見ただろう彼の戦いを!一切攻撃を避けないあの姿勢……彼ならきっと私の気持ちがわかるはず!!」
「ハナヤマさんの美学とお前の性癖を一緒にするんじゃねーよポンコツドМクルセイダー!」
「なんという侮辱……んんっ!」
頬を赤らめるダクネスを無視してカズマは花山に向き直る。
「そういえばハナヤマさん、報酬金は何に使うんだ?」
「……ん……。」
花山は考え込んだ。現状の生活に特に不満はない。武器や防具も買う必要のない花山にとって、この世界での金の使い方というのはなかなか思いつかなかった。
「……酒――」
「ハナヤマさん!!」
「カズマ!!」
花山の言葉を遮ったのはゆんゆんとめぐみんだった。
二人の異様な気迫に四人は思わず注視する。
「「家を買いませんか!めぐみん達よりも立派な!!」」
ましょう!ゆんゆん
二人の声が同時に響く。バチバチと視線を交わす二人を見ながら、花山は呟いた。
「家か……。悪くねぇな。」
「確かに、俺もそろそろ馬小屋を出たいしいいんじゃないか?……張り合う必要はないと思うけど。」
「駄目ですよカズマ、この自称ライバルに格の違いを見せつけてやるのです。」
「めぐみんこそ、アッと言わせてやるんだから!」
ずいぶん前からヒートアップしていたのだろう。すっかり暴走状態となった紅魔族二人は尚も騒いでいる。
「あれ?ハナヤマさん、どっか行くのか?」
「ウィズの所に用事だ。」
そう言って花山は出口へ向かう。カズマの後ろにいるのは言い争う紅魔族二人と酔っ払い女神、そして変態クルセイダー。特に迷うこともなく、カズマは花山の後を追った。
「この間の礼だ。」
ウィズ魔道具店についた花山は、ウィズに5000万エリスを渡した。一度きりとはいえ花山にとってはウィズも立派なパーティーメンバーだ。
「頂けませんよこんな大金!大したこともしていませんし、私のことは気にせず自分のために使ってください。」
案の定ウィズはこれを断った。だが、強情なのは花山も同じだ。
「一度出した銭だ。引っ込められねぇ。」
「……分かりました。今度このお金でハナヤマさんの役に立つ道具を買ってきますね。」
――道具なんて使わないかもしれないですけど。
そう付け加えて、渋々ウィズはお金を受けとった。
「ところで、こんな大金いったいどうしたんですか?」
「あれ、ウィズは知らないのか?この前魔王軍幹部のベルディアってやつが現れてな。ハナヤマさんが倒したんだよ。」
花山にに変わりカズマが答えると、ウィズは大きく目を見開いて驚いた。
「ベルディアさんを?あの方は魔王軍の中でも相当な剣の腕だったのですが……。もしかしてまた素手で?」
「そうなんだよ、褌一丁で一太刀も避けずに……って、なんかベルディアを知ってるみたいだな。」
「言ってませんでしたっけ?私も魔王軍の幹部の一人なんです。」
「……マジ?」
カズマが固まった。まだウィズとの付き合いが浅い彼には、ウィズを倒すという選択肢は当然出てくる。
だが問題は花山薫がウィズと懇意にしているという事。最悪の場合、花山薫を敵に回すという事態になり得るのだ。
さび付いた機械のように首を回し花山を見上げると、彼は一切動じた様子を見せずカズマに言った。
「こいつの事は俺が保証する……立場は関係無ぇ。」
「ハナヤマさん、ありがとうございます……。それにカズマさん、私は結界の維持をしているだけの雇われ幹部ですから。……もしハナヤマさんたちが他の幹部も倒して魔王城に乗り込むことになったら協力しますよ。」
「うーん、それならいい……のか?」
カズマが首をかしげる横で、今度は花山が一歩前に出た。
「いいのかい?俺はウィズの仲間の仇ってことになるが……。」
極めて真剣な表情でそう尋ねる花山に、ウィズは少し悩んだ顔を見せると
「ベルディアさんは……私のスカートの中をよく覗こうとする人でしたし、特に仲が良いという訳でもなかったので……。それに今でも心は人間のつもりですから。」
どこか寂しそうにウィズはそう言った。
空気が少し湿っぽくなったその時。
「ごめんください。ウィズさんはいらっしゃいますか?」
表の戸から、中年の男が入ってきた。
この男は不動産業を営んでいるらしく、所持している屋敷に悪霊が住み着いているため何とかしてほしいという相談をウィズに持ってきたのだった。
「悪霊討伐なら、ギルドに依頼したほうがいいのでは?」
ウィズの疑問は当然のものだが、すでにそれは試した後らしい。
「悪霊を何度払っても、新しい霊が住み着いてしまうのです。なので 今は貸出どころではなくなってしまって……。」
「話は聞かせてもらったわ!!」
男の話に割り込むように、アクアが勢いよく扉を開けて入ってきた
「そう言う事ならこの女神にしてアークプリーストであるアクア様が引き受けてあげようじゃないの!……って、あー!あんたこの前のリッ――モガッ」
「お前はちょっと黙ってろアクア、てかお前らよくここがわかったな。」
「ハナヤマは目立つからな。人に聞いたらすぐに分かった。だがカズマ、何も言わずに置いていくなんて……私はそういうの……嫌いではないが……。」
もじもじし始めたダクネスの後ろから、今度は大粒の涙を流すゆんゆんが出てきた。
「ハナヤマしゃん……っ!!私捨てられてないですよね!?」
泣きながら抱き着くゆんゆんに花山が困惑していると、めぐみんが口を出す。
「ハナヤマ。ゆんゆんには友達がいないんですから、一人で置いていくなんて真似はご法度ですよ。もう少し気を使ってあげなくては。……まぁ捨てられたんじゃないのかと泣かせたのは私ですが。」
「結局お前が一番悪いんじゃねーか!!」
カズマのツッコミが響く。
「まぁ、なんだ……。すまなかった。」
当の花山はゆんゆんの頭に手を当て、子供をあやすようにそう言った。
「あの~」
すっかりめちゃくちゃになってしまった店内の空気を戻すように、中年の男が口を開いた。
「アークプリーストと仰っていましたが、もしや依頼を引き受けてくださるんですか?」
「えぇ、この私が悪霊なんて一瞬で片付けてあげるわ!そんなアンデッモガモガ……。」
カズマから解放されたアクアが自信気にそう語るが、ウィズへの罵詈雑言が出そうなところでカズマに再び口を抑えられた。
「私も店のほうがありますし、皆さんがやってくださるならとても助かりますが……。」
「ウィズさんがそう言うのであれば、彼らに依頼することにしましょう。上級職のアークプリーストにもなればきっと上手くやってくれるはずだ。報酬は……そうですね、除霊が済んだら屋敷に無料で住める。というのはどうでしょう?」
「いいじゃない!丁度家も探していた所だし、受けましょ!?ね、カズマ!」
結局一同は依頼を受けることになり、中年の男は帰っていった。
静かになった店内で最初に口を開いたのはゆんゆんだった。
「勝負よめぐみん!屋敷の悪霊を先に除霊させたほうが勝ちよ!」
「いいでしょう!屋敷を手に入れるのはこの私です!」
自信満々にゆんゆんと対峙するめぐみんに、カズマは耳打ちする
「いいのか?勝手にそんな約束して……。」
「フッ、多少浄化魔法をかじっているとはいえ彼女はアークウィザード。本職のアクアがいる我々の勝ちは決まってますよ。私は勝てない戦はしないのです。」
めぐみんの言葉にカズマは若干引きながら、今度は花山に声をかける。
「ハナヤマさんも、そういう事でいいか?」
「……ん……いや……まぁ……。」
花山の返事はどこか曖昧だった。
するとそんな様子を見て、アクアがニヤニヤと声をかける。
「あれ~?もしかしてハナヤマさん、悪霊が怖いのかしら?ププッ!」
瞬間、花山は大きく目を見開きアクアを睨んだ。おまけに体の輪郭はオーラでも出ているかのようにグニャグニャと歪んでいる
「おい馬鹿!!ハナヤマさん凄い顔してるだろうが!すんませんハナヤマさん!!」
「と、とにかく今夜屋敷の前集合ですからね!逃げないでくださいよゆんゆん!」
めぐみんがそう言い残し、カズマ一行はそそくさと出て行ってしまった。
「あの、私もついていきましょうか……?」
ウィズがそう声をかけた花山の背中は、いつもよりほんの少し小さく見えたという――。
カズマかゆんゆんには木崎ポジになってほしい今日この頃。だって花山さん口数少ないんだもん……。