ちなみに昨日もデイキャンプしてました。更新遅れて申し訳ないです。大変楽しかったです。
花山とゆんゆんは現在、気球の上から機動要塞デストロイヤーを眺めていた。
事の起こりは今朝、アクセルの街にデストロイヤー警報が鳴り響いたことに始まる。
阿鼻叫喚。騒然とする街の中、ギルド職員に頼まれ先行偵察部隊として二人は気球に乗り込んだ。
デストロイヤーの背部には、上からの攻撃への対策として自立型ゴーレムがバリスタを装備して待ち構えている。
その射程に気球が入らないよう高度に注意しながら、双眼鏡でデストロイヤーを観察しているギルド職員は苦々しげに呟いた。
「マズいですね、一直線に向かってくる……。あと一分ほどで気球の下をデストロイヤーが通過します。街の人々に残された猶予は30分ほどしかありません。」
「ゆんゆんの魔法でどうにかならねえのか?」
「デストロイヤーには常時強力な魔法結界が張られているんです。私の魔法ではおそらく傷一つ付きません……。」
花山の疑問をゆんゆんが否定する。
すると花山は少し考えた素振りをした後、今度はにやりと笑った。
「……殴れば壊れるんだな?」
「えぇ、まぁ、物理攻撃は効くと言われていますが……。」
「……そうか。」
ギルド職員の答えに満足そうな顔をした花山は、今度はゆんゆんに向き直る。
「ついてくるか?」
「え?は、はい!」
質問の意図がわからず、しかし半ば花山薫の追っかけと化しているゆんゆんは思わず首を縦に振る。
すると突然、花山がゆんゆんに抱き着いた。
「あ、あの、ハナヤマさん!?何を――」
いきなりのことに顔を真っ赤にしたゆんゆん。
しかしその抗議の声を遮るように、突如彼女の視界が大きく動いた。
「……え?」
あまりの出来事にギルド職員から呆けた声が漏れる。
なんと花山は自分の背中を地面に向け、今まさに真下を通過しようとしているデストロイヤー目掛けて落下したのだ。
ゆんゆんを抱きかかえたまま。
「きゃああああああああああああああああ!!」
ゆんゆんの絶叫が雲一つない空に響き渡る。
真っ赤だった顔は驚くほど真っ青になっており、先ほどの自身の返答をやや後悔しながら空気を切り裂いていく。
10秒ほど経っただろうか。
花山の腕の中で強烈な衝撃を受けたゆんゆんは、ようやく落下が止まったことを理解した。
デストロイヤー背部にできたクレーターの中心で花山の腕から抜け出したゆんゆん。
落下の衝撃とでフラフラな頭を覚まし、花山に声を掛ける。
「ハナヤマさん!大丈夫ですか!?」
対して花山は平然と立ち上がる。
背中に何本もバリスタの矢が刺さっているにも関わらず、特に気にする様子もなくあたりを見回している。
「うまく乗れたみてぇだな。」
「……そうですね。」
――それって失敗したら地面に叩きつけられてたってことですか?
喉まで出かかった言葉をゆんゆんは飲み込んだ。
地面の上もデストロイヤーの上も大して変わりはないだろうと思ったからだ。
他にも『なんで落ちた衝撃で矢が貫通してないんですか?』とか『矢が刺さったままで痛くないんですか?』等々色々な疑問が浮かんだが、ゆんゆんは考えるのをやめた。
「……ハナヤマさんは凄い。それでいいや。」
小さく呟いたゆんゆんは何も言わず花山の背の矢を引き抜いていく。
当然ながら痛がる様子は一切ない。
自分がついていくと決めた漢の規格外さに圧倒されていると、いつの間にか彼女たちの周りにゴーレムが集まってきていた。
「ハナヤマさん、急いでゴーレムを倒して中枢に向かいましょう!街に着くまでもうそんなに時間がありません!」
「……そうだな。」
「『ライト・オブ・セイバー』!」
花山が眼鏡を外すと同時に、ゆんゆんが魔法で切りかかる。
広範囲のゴーレムが一刀両断にされたのを見て、ゆんゆんは歓喜の声を上げた。
「乗り込んじゃえば魔力結界の影響を受けないのね……!私も役に立てるかも!」
ゴーレムを真っ二つにするゆんゆんの背後では、花山がゴーレムを粘土細工のように潰し、千切り、破壊していく。前蹴り一発で地面へと落下してくゴーレムもいた。
「もうゴーレムはいないみたいですね。……でも、どこから入りましょうか……?」
僅か30秒足らずでデストロイヤー背部のゴーレムを一掃した二人。
とはいえ目的はデストロイヤーの侵攻の阻止であり、そのためには内部へと侵入しなけらばならない。
窓や扉といったものが見つからない以上、ゆんゆんの疑問はもっともだ。
「……ん。」
首を傾げたゆんゆんに、花山は背を向けてしゃがんだ。
「えっと、ハナヤマさん、これは……?」
「……乗りな。」
「ええ!?の、乗るって背中に!?」
幼少期ならいざ知らず、14歳にもなって他人に、それも異性に背負われるというのはゆんゆんにとってかなり恥ずかしいことだった。
「しっかり掴まってな。」
意を決して背中に飛びついたゆんゆんを持ち上げると、花山は右腕を大きく振り上げた。
そしてそれを思い切り足場に叩きつけると、拳を中心に大きめの穴が開き、瓦礫と化した足場とともに花山達は内部へと落下した。
「怪我はねぇか。」
「はい、ありがとうございます!」
ゆんゆんを降ろした花山は彼女の無事を確認すると辺りを見回した。
「お前は奥に進みな。」
「……ハナヤマさんはどうするんですか?」
「脚壊してくる。」
そう言って花山は横の壁を破壊すると。右の四本足の付け根を目指して歩き出す。
ゆんゆんはその背を見送った後、自分の役割を全うしようと中枢を探し始めた。
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ゆんゆん達がデストロイヤー内部に消えるまでの一部始終を見ていたギルド職員は、双眼鏡から目を離すと天を仰いだ。
「……夢でも見てるのかな……。まぁいいや、ギルドに報告しに行こう。」
ギルド職員はアクセルへと引き返した。
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一方アクセルのギルド内では、機動要塞デストロイヤー討伐のための会議が開かれていた。
「それではお集りの皆さん、ただいまより緊急の作戦会議を行います!」
ルナの指示で着席した冒険者たち。
その数はゆうに100人を超え、特に男性冒険者は真剣な面持ちで集まっている。
サキュバスの店のため……もといアクセルの街のため立ち上がった彼らは、デストロイヤー討伐のため次々に案を出していく。
「なぁアクア、お前ならデストロイヤーの魔力結界を破れるんじゃないか?」
行き詰った会議の中、口を開いたのはカズマだった。
「んー、やってみないとわからないわよ?」
アクアの返答にギルド内は大騒ぎとなる。
魔力結界さえ排除できれば、めぐみんの爆裂魔法で何とかなるはず。
頭がおかしい呼ばわりしながらも、冒険者たちの期待のまなざしがめぐみんへと集まっていく。
「うぅ、我が爆裂魔法でも、さすがに一撃では破壊できないかと……。」
顔を赤くしながら、めぐみんはぼそぼそと言った。
空気が少し重くなる中、せめてあと一人爆裂魔法が使えるやつがいればという思いが彼らの中に渦巻いていく。
そんな期待に応えるように、ギルドの戸を開けてウィズがやってきた。
「すみません、遅くなりました。私も一応冒険者の資格を持っているので、お手伝いできればと……。」
途端にギルド内は歓声に包まれる。
騒がしくなった冒険者を鎮めるようにルナが二回手を叩いた。
「では、店主さんが来たのでもう一度まとめます。まずアークプリーストのアクアさんがデストロイヤーの魔力結界を解除。そしてめぐみんさんが爆裂魔法を撃ちこむ。という手はずになっていました。」
「それでしたら、私も爆裂魔法が使えるのでめぐみんさんに協力しますよ。……狙う場所は足がいいですね。機動力さえ抑えてしまえばあとは何とでもなると思います。」
ウィズの助言により作戦が固まった。
ルナの号令で前衛職はハンマー、軽装の者はロープを持ち、万が一の場合には突入できるよう用意している。
「冒険者の皆さん!まもなく機動要塞デストロイヤーが現れます!住人の方々は町の外へ避難を!冒険者の方は戦闘準備をお願いします!」
冒険者がアクセルの正門前に集まってほんの数分後、ギルドからの緊急放送とともにデストロイヤーがその姿を現した。
今回の作戦指揮はカズマに一任されている。
作戦主要人物がカズマのパーティーメンバーだからなのだが、そのメンバーの一人は指示を聞かず頑固に最前線に立っている。
ダクネスの説得をあきらめたカズマはめぐみん達の所へと戻ってきた。
デストロイヤーはもうすぐ射程距離に入る。あとはカズマが号令を出すだけだ。
「責任重大だぜ畜生。指揮官なんてのは本来ハナヤマさんみたいな人が……そういえばハナヤマさんどうした?」
「ゆんゆんも見かけませんね、避難したのでしょうか……。」
「カズマ!めぐみん!もう近くまで来てるんだから無駄話してないでよ!?」
「あの人が避難するとは思えないけどまあいいや!時間がない!アクアッ!頼むッ!!」
アクアに急かされ、カズマが指示を飛ばした。
「『セイクリッド・スペルブレイク』!」
アクアの周囲に複雑な魔法陣が浮かび上がったかと思うと、その手には白い光の玉が浮かんでいた。
そしてそれを前にかざし、デストロイヤーに向けて打ち出してた。
光の玉がデストロイヤーに触れた瞬間、その巨体を覆っていた薄い膜のようなものが浮かび上がる。
一瞬の抵抗の後、それはガラスが割れるかのように粉々になった。
「ウィズ、めぐみん!爆裂魔法で足を吹き飛ばしてくれ!!」
指示を聞いてウィズが詠唱を始める。
カズマが爆裂魔法を馬鹿にしたことで発破をかけられためぐみんも、怒りで口元を引きつらせながら力強く詠唱をする。
不意に、誰かがカズマの袖を引いた。
振り返った先に居たのは何やら息を切らしたルナだった。
「今連絡が入りました。カズマさん、お二人を止めてください!」
「え?なんでまた急に!?それに爆裂魔法を止めたら街が!」
カズマは混乱した。先ほどまで対デストロイヤーに向けて冒険者をまとめていた彼女が何故いきなり止めるのか。
それに爆裂魔法は言って止まるものでもない。特に頭のおかしい紅魔の娘の方は。
そんなカズマの疑問を払拭するルナの言葉と、二人の詠唱が終わるのは同時だった。
「中にハナヤマさんとゆんゆんさんが乗り込んでいるんです!」
「「『エクスプロージョン』!!」」
慌てて身体を反転させたカズマは確かに見た。
向かって左――めぐみんが狙っていたほうの足が二本、デストロイヤーが爆裂魔法を受けるよりも一瞬早く千切れ落ちたのを。
それは爆炎に包まれ崩れ落ちるデストロイヤーの中に、確実に二人がいることの何よりの証明だった。
前後編という事で。
次回更新も楽しみにして頂けると嬉しいです。