異世界帰りの少年の大事件 ~TSした元男の娘の非日常~   作:九十九一

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 態徒がボロボロになるという、最悪の事態を目の当たりにした依桜は、言い表しようのない怒りを覚えた。

 

 未果の時も、同様に怒りをあらわにしていたが、あの時は自分にも原因があると思っていた。もっと早く仕留めていれば、未果に凶弾が当たることはなかったと。

 

 だが、今回は違う。

 

 自分の知らないところで、大事な友人が傷つけられ、ボロボロにされた。

 

 これがいくら、体育祭というお祭りであったとしても、これはやりすぎである。

 

 友達を大事にする依桜からしたら、あり得ない行為だ。

 

 ただでさえ、態徒は酷い目(嫉妬ややっかみ)に遭っていると言うのに、この仕打ち。

 

 普段温厚で、優しい依桜と言えど、怒らないわけがないのだ。

 

「ねえ……佐々木君、って言ったよね? 君は、何をしているの?」

 

 抑揚もなく、感情を一切感じ取ることができない声で、藤五郎に尋ねる。

 

「そ、それは、ですね。め、女神様に悪い虫が付いていたから、懲らしめようと……」

「悪い虫……ね。ボクは、態徒をそんな風に思ったことはないんだ。たしかに、変態な言動を取ったり、行動をしたりするけど……それでも、すごく、優しいんだよ。絶対に相手を傷つけまいとしているんだよ? なのに……君はそれをした」

 

 言葉を紡ぎながら、ゆっくりと舞台に近づく。

 

「――ッ」

 

 ただ依桜が近づいているだけなのに、藤五郎は怯え、後ずさる。

 

 それを見ても、依桜は何も感じず、ただただ言葉を続ける。

 

「君が、態徒の何がわかるの? 変態でも、友達思いの優しい人なのに。そんな人を、ボロボロになるまで、一方的に痛めつけて、楽しかった? そうなんだよね? だって、さ遠目に見た時、君の表情は……たしかに、笑っていたんだもん」

「そ、それは……」

「それと……たしか、晶に対してもどうこうする、って言ってたよね? あの時は冗談と捉えていたんだけど……これを見てる限りだと、やるよね? 佐々木君」

「い、いえ、お、俺は――」

「否定、するの? 少なくとも、たった一人の人間を、こんなにボロボロになるまでやっておいて……今さら否定? ねえ、君は、ここまで痛めつけられる人の気持ちって、知ってる? ボクはよく知ってるよ。骨は折れ、内臓は潰れて血反吐が出て、筋肉はズタズタ。あまりにも痛みが激しすぎて、視界は歪み、呼吸も苦しい。得物を持つ手に力も入らない。そんなボロボロな体になりながらも、前々と進まないといけない。これの辛さが、君にはわかる?」

 

 もちろん、依桜が言っているのは、異世界で体験した……実話だ。

 

 何の力も持たず、ただの高校生でしかなかった依桜が体験した、凄惨な実話。

 

 異形とも呼べる魔物たちに、ちっぽけな力で対抗しなければならず、ただただ帰るためだけに頑張り続けてきた依桜は、痛みをよく知っていた。

 

 攻撃するということは、それには怪我をさせてしまうかもしれない、殺してしまうかもしれない、そう言った可能性がある。だからこそ、生半可な気持ちでしてはいけない。するのなら、殺すほどの覚悟を持たなければならない。

 

 そう考えているのだ。

 

 当然、格闘技の試合などは、しっかりとしたルールが存在している。

 

 この格闘競技においても、細かいルールは設定されていなかったものの、当然、大けがを負わせてはならない、殺してはならない、という、暗黙のルールだってあった。

 

 当然、出場している選手は、ほぼ無意識で思っていたはずだ。

 

 怪我はさせたくない。殺したくない、と。

 

 だからこそ、他の試合において、怪我をしたり、殺しに発展しそうなことをしている人はいなかったのだ。

 

 だが、藤五郎はそれを破ったのだ。

 

 明らかに、殺す一歩手前まで来ている。

 ここまで来ているのならば、依桜が容赦をする必要はない。

 

「先生。お願いがあります。……たしか、一応は勝ち、なんですよね、佐々木君の」

『え、ええ。ですが、ここまでやると、失格ということに……』

「そのまま決勝に進ませてください。それで、もう一つ……。えっと、確かボクの準決勝の相手は……あ、見吉君、だったよね?」

『そ、そうです!』

「ボクの不戦勝、でいいかな?」

『ど、どうぞどうぞ! 元より、負けるつもりでしたので、構いません!』

「ありがとうございます。……というわけで、先生。このまま試合ということでいいでしょうか?」

『わ、わかりました!』

 

 有無を言わさない依桜の迫力に、先生すらも敬語を使う。

 それほどまでに、依桜が放つ殺気は強かったのだ。

 こくりと頷いてから、依桜は態徒の所へ。

 

「態徒、大丈夫?」

「へ、へへっ……か、かっこわるい、とこ、みせちまった、か……?」

 

 意識はほとんどないに等しいのに、態徒は依桜の問いにちゃんと反応した。

 そんな痛々しい姿に、依桜は胸が痛くなった。

 

「……待ってて。佐々木君は、ボクが倒すから」

「お、おぅ……む、無理はするな、よ?」

「うん。任せて」

 

 依桜のその言葉を聞いた瞬間、態徒の意識は落ちた。

 

 バレないように回復魔法を態徒にかけていためだ。

 

 依桜が『鑑定(下)』を使い、調べられただけでも、肋骨三本が折れ、右腕は粉砕骨折していた。もしかすると、内臓も危ないかもしれないと思い、最大で『ヒール』をかけた。

 

 依桜の場合は、魔力量が異常なので、『ヒール』でも、十分対処可能だ。

 

 態徒が眠ったのを確認してから、先生たちに保健室へ連れていくよう頼んだ。

 そして、その通りにした先生たちを見送ってから、藤五郎に向き直る。

 

「さて……始めよっか」

「い、いや、お、俺はきけ――」

「棄権は許さないから。あ、そうだ。参った、降参って言うまで続けることにしようよ、この試合」

「わ、わかった、ま、まい――」

「残念。言わせないから」

「へ――?」

 

 藤五郎が言うよりも早く、依桜は藤五郎の背後に回り、ツボを押した。

 成功率は下がるが、一応針なしでもできるのだ。

 そして、それは見事に成功した。

 

「な、なんだ? と、とにかく、まいっ――うぐっ!?」

 

 体にこれと言って異変がなく、何もなかったと不思議に思いつつも、参ったと言おうとした瞬間、藤五郎の体に激痛が走った。

 

「とりあえず、先生。開始の鐘をお願いします」

『わ、わかりました! 放送部!』

『はいぃ! え、えっと、美天杯決勝戦……か、開始です!』

 

 カァン! というゴングが鳴り響いた。

 

「あれ? こないのかな?」

 

 開始のゴングが鳴ったのに、藤五郎は一切動かない。いや、動けずにいた。

 むしろ、動いたら何をされるかわからないという恐怖心が、そうさせていたのだ。

 

「なら……こっちから行きますからね」

 

 そう言った瞬間、依桜が消え、気が付けば、藤五郎の背後に回っていた。。

 いや、実際は消えたように見えただけで、こちらの世界の人からは見えないほどのスピードで動いただけだが。

 

「――ッ!?」

 

 依桜が背後にいることに気づき、慌てて回避を取るが、時すでに遅し。

 

「ふっ――!」

 

 淡白い光を発している手刀を、容赦なく脇腹に入れる。

 

「がっ、ああ!?」

 

 その瞬間、目に見えていた黒いオーラのような物が小さくなった。

 依桜はそれを見て確信した。

 

(ブライズは、佐々木君に憑りついているみたいだね。……とはいえ、態徒をあそこまでやった以上、許さないけどね)

 

 それに、ミオが言っていたが、ブライズが憑りついたとしても、それはあくまでも負の感情を増幅させるだけにすぎず、仮に行動に移したとしても、その人が願っていたことなので、許さなくていい、と。

 

 つまり、はなから許す気はない、というわけだ。

 

 それから、依桜の手が淡白い光を放っていたのは、その手に『聖属性魔法:浄化』を付与したからだ。

 今回、ミオが依桜に習得させた魔法は、『聖属性魔法』と『付与魔法』の二つだ。

 『付与魔法』は、何かと利便性が高く、様々な状況に対処可能にできる。

 

 ただし、基本的な六属性のどれかを使用できなければ、ほとんど宝の持ち腐れになるのだが。

 と言っても、ほかにも使用できることがあり、『回復魔法』や、『身体強化』を付与することができる。

 

 こちらの用途は、あまり知られていないが。

 

 ミオからの情報で、ブライズは『聖属性魔法』に弱いので、かなり効果的なのだと。

 

 そしてそれを試した結果、見事にダメージを与えることに成功。

 

 相手は、幽霊のような存在なのだが、怒りのあまり、それがすっぽり抜け落ちているので、依桜が怖がっていないのだ。

 

 本来なら、怖がりながら対処していることだろう。

 

「ぐっ、うぅっ……せっかく、丁度イイ、人間のカラダに憑りツイたの、ニ」

 

 ここで、まさかの事態発生。

 

 ミオが言うには、これと言って理性などない、と言っていたのだが、藤五郎に憑りついていたブライズは、なぜか、言葉を発した。

 

 これには、依桜も一瞬だけ動揺したが、すぐさま、攻撃に戻る。

 

「はぁっ!」

「うぐぉおおおおおおおっっ!?」

 

 今度は、『浄化』を乗せたハイキックを側道部めがけて放つ。

 そしてそれは、見事に直撃し、吹き飛ぶのではなく、まるで回転するかのように地面に激突。

 

 これは痛い。

 

「い、いでぇ……いでぇよぉ……」

「あれ? なんで、たった二回の攻撃でそんなに痛がってるの? 君が態徒にした攻撃って、もっと多くて、もっと怪我をさせていたよね?」

 

 と言ってるが、実際、依桜が放っている攻撃は、かなりの痛みを与えている。

 

 藤五郎が態徒に与えた痛みよりも遥かに強い。

 だが、怪我を一切負わせていないのだ。

 

 これの原理は単純なものだ。

 

 依桜は『浄化』以外に、何気に『ヒール』も付与している。

 それによって、どんなに大けがを負ったとしても、『ヒール』によって瞬時に回復しているため、怪我したそばからその怪我が治る。

 

 ちなみに、痛みも消したりするのだが、その辺りは、痛みはなくならないように依桜が魔法を少し弄ったりしている。

 

 これは、通常時の依桜ならできないが、どういうわけか、今の状態の依桜は魔法を少し改変して使えている。

 

 異世界にいた時も、こんなことはできていなかったのだが。

 

「それじゃあ……これは、態徒の腕を踏み砕いた分ね?」

 

 そう言うと、依桜は藤五郎を情報に投げ飛ばして、落ちる寸前に、無防備な脇腹辺りに蹴り飛ばした。

 しかも、空中だったため、その衝撃を逃がすことなく、ダメージを入れていた。

 

 もちろん、『ヒール』を纏っている蹴りなので、背骨が折れた瞬間に回復している。

 

 あるのは、骨が折れた時の激痛だけだ。

 

「ぐ、うぅっ……いでぇ……いでぇよぉ……も、もうやめて、くださいぃ……」

「……ふーん? 佐々木君、止めてほしいって懇願するんだ? そっかそっか。……やめてほしいかな?」

「お、お願いしますっ……! も、もう、やめてくださいぃ……!」

「やめてほしい?」

「うーん……ダ~メ♪」

 

 依桜が見惚れるほどの満面の笑みで却下した。

 その絶望的な依桜の言葉に、藤五郎は絶望の表情を浮かべた。

 

「これ以上に痛い思いをしていた態徒は、そんな情けないことを言わなかったよ?」

「そ、それはっ……」

「みんなね、態徒や晶のことを酷く言ってるけど……そんな人たちよりも、あの二人のほうが全然強いよ。どんなに力が強くても、どんなに頭が良くても、それを扱う人の心が強くなければ、悪いほうに行くだけ。今の佐々木君みたいにね」

「……」

「ボクは、友達を傷つける人は絶対に許さない。でも、ちゃんと謝れるならいいの。その人が更生できるのなら、ボクは構わない。でも、それすらできないのなら……ボクは、容赦しないよ」

 

 ピンポイントに強い殺気を送りながら、最後の一言を言った。

 それを聞いた瞬間、ものすごい勢いでこくこくと首振り人形のように首を振っていた。

 

「それじゃあ、最後にこれだけして、許します」

「え――?」

「じゃあね♪」

 

 最大限の笑顔を浮かべて、依桜は『浄化』と『ヒール』を纏った手刀を首に打ち込んだ。

 

「かはっ……」

 

 よく聞く、短い呼気を発した直後、藤五郎は意識を手放した。

 

「先生、これ、ボクの勝ち、でいいんですよね?」

『あ、ああ! 男女依桜さんの勝ちです!』

 

 その瞬間、

 

『わあああああああああああっっ!』

 

 という歓声が、グラウンド一体に響き渡った。

 

『すごい、すごいです! まさに、瞬殺! 四回の攻撃で、佐々木藤五郎君、ダウンです! 見事! 見事としか言いようがありません! よって、優勝は一年六組男女依桜さんです! これにて、美天杯、終了! 会場にいる皆様、出場した選手の皆さんに惜しみない拍手をお願いします!』

 

 放送の実況? により、会場は拍手と歓声の嵐に包まれた。

 

 そして、依桜は思った。

 

(……あ。れ、冷静に考えれば、これ……相当目立っちゃってるよぉ!)

 

 と。

 

 しかし、今さら冷静になったとしても、後の祭り。

 すでに会場は熱狂状態。

 しかも、気のせいか、女性の人中心に熱い視線を向けられているように感じた。

 だが、依桜はきっと気のせいだと、自分に言い聞かせた。

 

 その後、依桜は同性愛疑惑がかかったことも相まって、同性(外見上の)からの告白が激増し、困り果てることになるのだが……この時の依桜が知る由もなかった。




 どうも、九十九一です。
 やっと、八話続いた話が終わった……。長いよ……。まだ一日目だよ……。
 ええーと、一応、次の回で一日目が終了です。
 ……こんな、あほみたいに長い体育祭とか、普通ないよ……と思っていますが、何とかがんばります。
 明日もいつも通りだと思いますので、よろしくお願いします。
 では。

依桜の異世界に滞在していた三年間の話をやってほしいかどうか

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