異世界帰りの少年の大事件 ~TSした元男の娘の非日常~   作:九十九一

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16件目 学園祭の開幕

 ボクが異世界へ飛ばされた原因が判明した前日が過ぎ、ついに学園祭当日になった。

 

「みんな、絶対に成功させるわよ!」

『おーー!』

「それじゃあ、各自自分の持ち場について!」

 

 未果の号令でみんなが自分の持ち場に着き始めた。

 調理と給仕の人たちは、もうすでに衣装に着替えている。

 当然、ボクもすでに胸元が大きく開いたミニスカメイド服を着用している。

 全員が、自分の持ち場についたところで、開会の放送が始まった

 

『生徒の皆さん、ご来場の皆さん、大変長らくお待たせいたしました! 準備に費やすこと、三週間! 生徒の皆さんは、満足いく出来になりましたか? 仮に満足していなかったとしても! 大した問題ではありません! それも学園祭です! むしろ、全面的に押し出しましょう!』

 

 未完成の部分を押し出すというのは……どうなんだろう?

 

『ご来場の皆さんは、本校の生徒たちの成果を、思う存分、楽しんでくださいね! 今日の二時には、全員強制参加の叡董学園・ミス・ミスターコンテストも開催されます! 嫌かもしれませんが、生徒・職員・来場者全員強制参加ですので、必ず中庭に集まるようにお願いします! 野郎どもには、とびっきりの美少女が! 乙女たちには、心打たれるようなイケメンが! それぞれそろっておりますので、お楽しみに!』

 

 聞いていた通りとはいえ、やっぱり全員参加なんだ。

 うぅ……クラスのみんなだけならまだしも、知らない人もいるのかぁ……。

 

『さあさあ、開始時間の午前九時になりました! それでは、叡董学園・青春祭……スタートですっ!』

 

 その放送と共に、学園中から声が上がる。

 それと同時に、祭りの開始の合図となった。

 

 

 開始から数分後。

 最初の……というか、かなりの人数の人たちがすでに教室前で待っていた。

 開始と同時にCLOSEの文字からOPENの文字に変えると、我先にとお客さんが入ってきて、瞬く間に満席になった。

 

「さあ、頑張ろう!」

『うん!』

 

 ボクたち調理班も、ボクの掛け声で始まった。

 

「はい、特製ハンバーグランチ二人前!」

『了解!』

「こっちも、ポテトできたわ!」

『すぐに持ってく!』

『依桜ちゃん! 天ぷらに使う海老ってどこだっけ!?』

「コンロの下の棚に入ってるよ!」

『ありがと!』

「お待たせいたしました、お嬢様方。お席にご案内いたします」

『千四百五十円になります。……ちょうどですね、ありがとうございました!』

 

 こんな感じに、ボクたちのコスプレ喫茶は大繁盛。

 休む暇なく、みんな動き回っている。

 実際、まだ朝だというのに、ランチセットなどの注文が結構入っている。

 

 メインは予定通り、ハンバーグランチと、和食セット、あとはカレーライス。ちなみに、カレーには色々なパターンを付けた。

 普通のだけではつまらないという未果の発言により、エビフライを乗せたり、唐揚げを乗せたり、あとはチーズを乗せたりと、バリエーション豊富にしたところ、かなり売れ行きがいい。

 

 ほかのサイドメニューも順調に売れている。

 一応、軽食として、『美少女による手作りおにぎり』というのも存在している。

 

 このメニューは、調理班の人を一人指名して、その人におにぎりを作ってもらう、というメニュー。

 何がいいのかはわからないけど、このメニューを立案したのは、女委と態徒。

 なんでも、

 

『美少女が握ったんだから、売れる!』

 

 とのこと。

 で、実際に売れているのだからびっくり。

 特に、ボクと未果に集中していて、結構忙しい。

 

 おにぎりは、調理場で見えるように調理しているため、作っている風景が見える。

 それがかえってお客さんを興奮させるのだとか。

 ボクにはよくわからない領域だけど……売れてるからいいかな、と思っている。

 

 ……たまに、鼻息が荒い人がいたけど、おかしなことにはなってない……よね?

 あと、ケーキセットは、普通に出したら即完売、なんていうことが目に見えていたので、ちょっとした仕掛けを。

 謎解きをすると、注文できる仕組み。

 ただし、お一人様一回限りの注文としている。

 

 正解するまで、何度もチャレンジ可能で、一度注文したら注文ができないという仕組み。

 ちなみに、変装などをしても、給仕の人が変装を解くように言うので、問題にならない。

 問題はいくつか用意してあって、その中から番号を選択、その番号の問題が出題される、っていうシステムにしてあります。

 例として問題を一つ。

 

『空にはなくて、地上にはある雨は何? ヒントは雲ができる過程で発生する何かが原因』

 

 という問題。

 これの答えはシンプル。答えは霧。

 霧は空にはあるかもしれないけど、どちらかといえば地上にあるでしょ? しかも、水蒸気だから、自身も濡れる。

 だから、地上にある雨ということ。

 

 ……まあ、ちょっとした問題だし、化学的に違う、なんて言われたらあれだけど、あくまでも一学園生が作ったものだと、納得してください。というか、こんな頭の悪い問題を作ったのって態徒だからね。あと、雲も似たようなものだろ、と言いたいかもしれませんが、態徒が作ったので。態徒が作ったので!

 

 ただ、こういう問題だと、小さな子供たちが答えられないので、ちゃんと子供用のも作っています。

 ですので、ご安心を。

 

「依桜! ほうれん草のソテーが二つと、エビフライカレーも二つ! あとは……スマイルを一つ!」

「ええ!? 何その注文!」

「依桜、面白そうだし、昨日みたいにやってあげなさいよ」

 

 未果は楽しそうに笑いながらそう言ってきた。

 お客さんの方を見ると、みんな――特に男性――こっちを期待したような眼で見ていた。

 え、ええーっと……

 

「えへ☆」

『『『ぐはぁ!』』』

 

 注文通りにスマイルを提供したところ、男性のお客さんみんなが胸を抑えて悶えだした。

 

「あははは! さっすが依桜ね!」

「そうだな。まさか、笑顔一つで骨抜きにするとは……」

「も、もう! 二人とも!」

 

 ボクが二人に抗議しているとき、お客さんは、

 

『や、やべえ……あの、銀髪碧眼の猫耳ミニスカメイドさん、めっちゃ可愛いんですけど……』

『あ、あれが百万ドルの笑顔っていうやつか……?』

『ああ、アヴァロンはここにあったのか……』

『あのスマイル……天使は実在したのか……』

『み、貢がなければ……!』

 

 ボクは注目を集め始めていた。

 百万ドルかはわからないけど。

 あと、一人だけ、財布の中を見ながら、貢がなければ……と呟いていた人は、本当に心配なんだけど。

 

「ま、依桜のスマイルは実際かなり魅力的だしな」

「そ、そんなことは……」

「謙遜しないの、依桜君」

 

 ない、と言い切る前に女委に遮られた。

 

「って、あれ、女委? 女委は仕事しなくていいの?」

 

 女委は、見てくれはいいという理由で、給仕に回っていた。

 一応、買い出しのリーダーなんだけど、黙っていれば美少女、ということで急遽投入されたみたい。

 そんな女委は、なぜかナース服を着ていた。

 

 ……ただ、女委は胸がすごく大きいから、服の上からでもよくわかる。

 ……まあ、ボクに至っては、普通に胸元が大きく開いているんだけど。

 というか、女委がボクに対して、わたしより依桜君のほうが大きいよ、と言っていたけど……どっこいどっこいなんじゃないだろうか、ってくらい大きいんだけど……。

 

「わたしの仲間の話だと、うちのコスプレ喫茶はかなり評判らしいよ? なんでも、銀髪碧眼の美少女がおにぎりを直接手で握ってくれるとか、見えそうで見えない絶対領域が神がかってる、とか。あとは、可愛い巫女さんが見れたりとか、めっちゃカッコいいイケメンがいる、とかね。しかも、味もいいと、ビジュアルでも、味覚でも評判なんだってさ!」

「う、うーん、聞いてる限り、全部身内だね……」

「そうね。まさか、私も評判になってるとはね」

「……俺もなんだが、女委。その仲間って言うのは……どういう仲間だ?」

 

 聞きたくないような聞きたいような、という曖昧な表情を作りながら、晶が女委に尋ねる。

 ちなみに、スカートが捲れてパンツが見えないのは、単純にそう言う動きをしているからです。そうでもしないと、スカートが短いから見えちゃいそうだし……ものすごく恥ずかしいからね……。

 

「え? もちろん、腐女子の会だよ? あとは、コスプレ仲間とか、ネッ友とか?」

「幅広いな!」

「まねー」

 

 たまに、いろんなところから情報を仕入れてきたり、いろんな方面に伝手や知り合いがいたりと、結構謎だなぁ、と思っていたら、そう言うことだったんだ……。

 今までの謎が、全部解決したよ。

 

「さ、話すのは一旦終わりにして、注文を片付けましょ!」

「そうだね」

「んじゃ、わたしも戻るねー」

「俺も、さっさと料理運ぶよ」

 

 

「ふぅ~……つ、疲れたぁ……」

 

 現在の時刻は一時。喫茶店のような、飲食店などはかき入れ時にも関わらず、ボクは一人休憩をとっていた。

というのも、二時からは件のミス・ミスターコンテストがあるので、大抵の人は揃って十一時くらいからお昼を摂ったりするから。

 

 そのため、一時からは人が基本的に少なくなる、とのこと。

 今年が初めてだから、その通りかどうかはわからなかったけど、実際に動いていると、十一時くらいからが大変で、十二時がピークだった気もする。

 十二時を超えると、少しずつお客さんが減ったので、未果が、

 

『依桜はこの後コンテストがあるから、今の内に休んどきなさい』

 

 と言われた。

 なので、ボクは休憩に出てる。

 ボクがいなくても、未果たちがしっかりやってくれると思うので、多分大丈夫だと思う。

 肉体的には……というか、この世界の誰よりもスタミナはあると思うけど、精神的な疲れの方が溜まってそうだしね。

 今の内に休んで、コンテストに備えないと……。

 

「……それに、あの件もあるし」

 

 当然、テロ組織『ユグドラシル』のこと。

 今さっき、学園内を索敵したところ、案の定悪意を持った人が何人もいた。

 ただ、いくつかは単純に邪な感情を持っているだけ。

 

 それとは別に、悪意を持っているのは、見たところ……二十人ほど。

 武器を持っているかはわからないけど、テロ組織なだけあって、確実に武器は持っていると思う。

 万が一、銃火器を持って現れたら、被害が出ないように動かないと。

 

 一応、学園長先生とは今朝軽く打ち合わせをしてある。

 まず、襲撃すると思われているのは、お昼を過ぎたあたり。

 しかも、手引きしたのは教頭先生なので、こちらのタイムスケジュールも当然流れているはず。中庭では、ミス・ミスターコンテストをやる上に、その時人が全員そっちに行くので、狙うとしたらその時とのこと。

 

 最悪の場合は、学園生が警察を呼ぶ手はずとなっているみたい。

 ただ、そうなると学園祭が中止になる可能性が高いので、できれば避けてほしいとのこと。

 ボクももとよりそのつもりなので、異論はなかった。

 

 ……ただ、ボクの方も、最悪魔法を使わなくちゃいけなくなるかもしれない。なにせ、相手は国際指名手配中のテロリスト集団なわけで。

 あまり、騒ぎにならないといいなぁ……。

 

 それと、今の内に作っておくものもあって。

 ボクは誰もいないところで、生成を使用。

 創り出したのは、ナイフポーチとナイフを三十本ほど。

 理由は後程。

 

 このナイフポーチは、右足の太腿に付けておくため。

 これで、いつでもナイフを取り出すことが可能になった。

 と言っても、使う機会なんて、そうそうないと思うんだけどね。

 

 ……にしても、武器生成の魔法なのに、なんでナイフポーチも創れるの?

 もしかして、実際に武器であるナイフをしまうから、間接的に武器です、ってこと? いや、ナイフポーチが作れるのも、実際師匠が原因なんだけどね。

 師匠の頭の中を、一度でいいから見てみたかった。

 

『召集の連絡をします。ミス・ミスターコンテストに出場する人は、直ちに中庭、特設ステージ裏にお集まりください。繰り返します――』

「あ、そろそろ時間。いかないと……」

 

 アナウンスが流れ、ふと時計を見ると、一時四十分を指していた。

 集合は、十五分前だから、そろそろ移動しないと間に合わない。

 ボクは立ち上がると、足早に特設ステージを目指した。

 

 

「お、依桜、遅かったな?」

 

 ステージ裏に来ると、すでにボク以外の出場者は集まっていて、晶も来ていた。

 ボクが入るなり、晶はボクに話しかけてきた。

 

「ちょっと考え事をしてたらね……それより、ボクの水着ってある?」

「ああ、もちろん。俺がちゃんと持ってきたよ」

「ありがとう、晶。それにしても……」

 

 ボクは隙間からステージ前の様子を覗く。

 そこには、開始十五分前にも関わらず、かなりの人がいた。

 

「もうこんなに集まってるんだね」

「ああ。しかも、男女比は五分五分と言ったところか? 結構ちょうどいいんだな」

「そうみたいだね」

 

 男の方が多いのかな、と思っていただけに、この結果にはちょっとびっくり。

 多分、ミスコンだけじゃなくて、ミスターコンテストもやるからだと思うんだけど。

 

「……はぁ、緊張してきたよ」

「だな。まさか、高校生活最初の学園祭で、コンテストに出場させられるとはな……」

 

 少し遠い目をしながら乾いた笑みを浮かべる晶は、何と言うか……可哀そうだった。

 

「あれ? 晶って、意外とすぐにOKしてたよね?」

「あー、まあ……どのみち、依桜が出させられると思ってな。さすがに、性別が変わって、いきなり出されるのは可哀そうだったんで……それで、OKした」

「あ、晶……」

 

 親友の優しさに、思わず涙が出そうになる。

 うう、やっぱり晶は優しいよ……。

 クラスの女の子が、というより全学年の女の子が付き合いたいというのがよくわかるよ……。彼氏にしたい男子1位は伊達じゃないってことかな。

 

『皆様、大変長らくお待たせいたしました! 青春祭一日目の目玉! ミス・ミスターコンテストが始まりますよ!』

『おおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 司会の人が開会の言葉を言うと、会場が熱気に包まれる。

 

『このコンテストの審査員は皆さんです! まずは、ステージ中央に映し出されたQRコードをお持ちの携帯・スマートフォンで読み取ってください! 読み取りましたら、アプリを落としてください! それは投票用のアプリです! 一度消してしまうともう取れませんので、ご注意ください! それから、携帯・スマートフォンを持ってないよ! という人は、投票箱を用意してありますので、専用のマークシートにマークして箱に入れてください!』

 

 ず、ずいぶんお金がかかってるんだね。

 まさか、これのためだけにそう言うアプリを用意しているわけじゃないよね……?

 ……うちの学園だったらやりそうだなぁ。

 

『それでは、最初に注意事項を説明させていただきます! 撮影・録画は一向にかまいませんが、インターネットやSNSなどに流さないようにお願いします! 出場者のプライバシーを守るためですので、ご協力をお願いします! なお、インターネットやSNSなどに投稿いたしますと、すぐさまこちらに通知が入りますので、隠れてやろうとしても無駄ですからね! それから、審査中は大いに盛り上がって構いません! むしろ盛り上げてください! ただし、調子に乗ってステージに上がる、なんてことや、出場者に近づくなどのようなことはしないようにお願いします!』

 

 注意事項にツッコミどころは多々あるけど……今は気にしないでおこう。

 審査に集中できなくなりそうだし……。

 

『さて、注意事項を説明していたら、時間になりました! それでは、ミス・ミスターコンテストを開始いたします! 準備はいいか、野郎どもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

『Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhッッッ!』

『じゃあ、まずはミスターコンテストから! あ、こら男ども! 露骨にがっかりしない!』

「どうやら、男からみたいだな。んじゃ、俺も行ってくるよ」

「うん、頑張ってね、晶」

「ああ、じゃ、行ってくる」

 

 そう言いながらステージに向かう晶を、ボクは見送った。

依桜の異世界に滞在していた三年間の話をやってほしいかどうか

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  • 知らぬ
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