異世界帰りの少年の大事件 ~TSした元男の娘の非日常~   作:九十九一

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275件目 五月三日:声優のお仕事 下

 お昼ご飯を食べたら、そのまま収録スタジオまで歩く。

 

 その道中、やけに視線がボクたちに集中していました。

 

 気にはなりつつも、原因はおそらく、有名人な美羽さんがいるからなんだろうなぁ。やっぱり、すごいね、美羽さん。歩いてるだけでも視線を集めるんだ。

 

 でも、美羽さんってすごく綺麗な人だし、当たり前なのかな。

 

 うーん、ボクも、これくらい大人っぽくなりたいなぁ……。

 ボク自身が大人っぽくなれるのは、大人モードと呼ばれているあの状態の時だけだからなぁ……。

 

 普段のボクは、大人っぽいとは言い難くて、みんなから、可愛い系、って言われる。

 うぅ、たしかに大人っぽくないけど……。

 

「あ、そうだ。ねえ、依桜ちゃん」

 

 ちょっと、自分の姿に悲しくなっていると、美羽さんが話しかけてきた。

 

「な、なんですか?」

「依桜ちゃんは今日、モブとはいえ声優として出演するんだけど……エンディングの時、キャラクターの横に、声優の名前があるでしょ? 依桜ちゃん、そこをどうしようかなと思って」

「あ、そう言えば……」

 

 一応、美羽さんは芸名らしく、本名は出していないとのこと。

 

 以前、本名を教えてもらったんだけど、できれば芸名の方で呼んでほしいと言われたので、普段は芸名で呼んでいます。

 

 あまり、本名バレしたくないみたいです。

 

「依桜ちゃんの場合、ネット上でも、テレビでも騒がれやすい存在だから、本名で記載されない方がいいよね?」

「そ、そうですね。それなら、どうしよう?」

 

 うーん、それ用の名前……。

 

 名前の方は、桜でいいとして……問題は名字。

 

 ボクにネーミングセンスなんてないし……あ、いっそのことゲームで使ってるプレイヤーネームから考えてみるのもありかも。

 

 ユキだから……雪白、とか?

 雪白桜。あ、うん。結構いいかも。

 

「えっと、雪白桜、ってどうですか?」

「なるほどー。うんうん、いいと思うよ。あれかな、コスプレの時に使っていた名前と、ゲームで使っている名前を掛け合わせたのかな?」

「そ、そうです」

 

 すぐに見抜かれちゃった……。

 

「とりあえず、それでいいんじゃないかな? 一応、見学に近いわけだし、依桜ちゃんは声優になる気はないんでしょ?」

「うーん、あんまり目立つこと自体が好きじゃないですからね。それに、ボクなんかじゃ慣れないと思いますから」

「そうかな? 依桜ちゃん、可愛いし、声も自由自在でいいと思うんだけど」

「あぅ……い、いきなり可愛いって言わないでくださいよぉ……」

「そう言えば、依桜ちゃんって褒められると顔を真っ赤にするんだったっけ。うんうん。やっぱり、そういう姿が可愛いと思うなー、私」

「ふゃ!? にゃ、にゃにをいってるんでしゅか!?」

「か、可愛すぎぃ……!」

 

 うぅ、何でいつもこうなんだろう……。

 

 褒められると恥ずかしくなって、変な声が出るし……しかも今、思いっきり噛んだし……はぅぅ、恥ずかしいよぉ……。

 

「ま、まあ、それはともかく、依桜ちゃん。そろそろ着くよ」

「は、はぃ……」

 

 顔の熱が引かないまま、スタジオに到着しました。

 

 

「こんにちはー」

 

 挨拶をしながら、収録スタジオに入っていく美羽さん。

 ボクは恐る恐る美羽さんの後をついて行き、中に入る。

 

「おー、美羽ちゃん! こんにちは!」

「こんにちは、日野さん」

「相変わらず、綺麗だねぇ。……お? そちらにいる可愛らしい女の子は……」

「前に話していた、モブ役を引き受けてくれた女の子です。自己紹介をお願い」

「あ、は、はい。え、えっと、お、男女依桜と言います……よ、よろしくお願いします!」

 

 かなり緊張していて、たどたどしいながらも、頭を下げて挨拶。

 

「うぉう、なるほど、美羽さんが連れてくるだけはあって、綺麗な娘だなぁ。しかも、銀髪碧眼と来たか……えーっと、依桜ちゃん、でいいのかい?」

「は、はい」

「とりあえず、モブの件を引き受けてくれる、って言うことでいいんだよね?」

「そ、そうです」

「ふむふむ。声もなかなかに綺麗で可愛い、と。いいねいいね。モブと言えど、やっぱりいい声を使いたいからね。グッジョブ、美羽ちゃん!」

 

 ぼ、ボクの声って、そんなに綺麗で可愛いかな……?

 そこまででもないと思うんだけど……。

 

「あぁ、そうだ。さっきの名前は本名だと思うんだけど、本名で出るのかい?」

「あ、い、いえ。さっき、美羽さんと話して、雪白桜、という名前でやろうかなって」

「なるほどなるほど。すでに決めていたわけだね。よしわかった。それでエンディングに流しておこう」

「ありがとうございます」

 

 話をしてみた感じ、日野さんは陽気な人、という印象を受けた。

 話しやすい人かも?

 

「まあ、モブと言っても、セリフはそこまでないし、あまり緊張しないで、リラックスしてね」

「は、はい」

「というわけで、はいこれ、台本。君がやるセリフの所には、マーカーを引いてあるから」

「ありがとうございます」

「うむうむ。それじゃあ、あと四十分はあるから、台本を読んでおいて。あと、わからないことがあったら、美羽ちゃんやあそこにいるプロの声優たちに訊くといいよ」

「は、はい」

「それじゃあ、頑張ってね!」

 

 そう言って、日野さんは別の所に行った。

 

「それじゃあ、軽く台本を読んじゃおっか。本来なら、ある程度事前に渡されるんだけど、まあ、今回は急遽だったからね。ごめんね、依桜ちゃん」

「い、いえ。大丈夫です。それで、えっと、演じる時って……?」

「そうだね。今回依桜ちゃんが出演する作品は、ラブコメ系の作品なの。で、依桜ちゃんが演じるモブキャラは、主人公のイケメンな親友に告白する女の子、って言うキャラでね。とりあえず、台本にある告白のセリフを言えば大丈夫!」

「な、なるほど……」

 

 とりあえず、どんなセリフなのか気になったので、台本を開いて、ボクが演じるキャラクターのセリフをいくつか見てみる。

 

『ずっと前から好きでした、付き合ってください!』

 

 うん。本当に告白だ。しかも、よくあるセリフの。

 それで、フラれて、

 

『ど、どうしてですか……?』

 

 って、訊くんだね。

 う、うん。

 親友のキャラクターがセリフを言ったら、

 

『……ごめんなさい。時間を取らせて……』

 

 と言って、走り去る。

 

 な、なんだろう、見たことがあるようなないような……。

 

 なんだかこの反応、ボクに告白して来た女の子がフラれた後に反応が似てるんだけど……ちょ、ちょっと心が痛い……。

 

「一応、線画の絵コンテはあるんだけど、表情は想像でやるしかないから……まあ、頑張ってね」

「は、はい」

「あと、この時の掛け合いの男性声優さんは、いい人だから、安心して大丈夫だからね」

「わ、わかりました……」

「うーん……ガッチガチだねぇ、依桜ちゃん。大丈夫?」

「さ、さすがに、こういうプロの現場には入ったことがなかったので……」

「あれ? でも、前にエキストラでドラマの撮影現場に来てなかった? というより、私と依桜ちゃんが出会った場所だったんだけど……」

「あ、い、いえ、あの時は歩くだけでしたし、大丈夫だったんですけど……声優として、声を当てる以上、その……歩くだけと違って、確実に関わるからつい、緊張しちゃって……」

 

 それに、あの時は微笑みながら歩くだけ、という指示があった。

 

 でも、今回は完全に自分の技量でどうにかしないといけないし、ド素人でも、声優として出演する以上、下手なことはできない……。

 

 だからこそ、心配なわけで……。

 

「そうかな? むしろ、声だけよりも、そのままの姿で映る方が緊張すると思うんだけど……」

「ボクは、その……あんまり目立ちたくないというか……あの時は、歩くだけで、そこまで目立ちませんでしたし……」

「え、全然目立ってたよね? ニュースで取り上げられるくらいには」

「うっ……」

 

 た、たしかにそうだけど……。

 

 テレビだけじゃなくて、インターネットでも取り上げられていたみたいだしね、あれ。

 ……ボクなんかを取り上げても、いいことなんて何一つないと思うんだけどなぁ。

 

「依桜ちゃんは目立っちゃうからね、その容姿で。でも、自信を持ってもいいと思うけどなぁ」

「じ、自信って言われても、ボクはそこまで可愛くないと思いますし……」

「……もはや、それがお決まりの返しみたいだね、依桜ちゃん」

「だ、だって、事実だもん……」

「うーん、どうやったら、自信を持つのかなぁ……」

 

 苦笑いを浮かべながら、そう呟く美羽さん。

 だ、だってボク、あまり容姿とか気にしないし……。

 

「まあ、依桜ちゃんの個性だもんね。私が口に出すような事柄じゃないか」

「そ、そうですか」

 

 

 その後も、美羽さんと話していると、

 

「えーっと、ちょっといいかな?」

 

 不意に、男の人に話しかけられた。

 

「は、はい、なんでしょうか?」

「えーっと、君がモブ役をやってくれる娘、でいいんだよね?」

「そ、そうです」

「よかった。俺は、大村悠二。君が担当するキャラクターと話す親友役だよ」

「あ、そ、そうなんですね。え、えっと、よ、よろしくお願いします……!」

「ははは! なかなか可愛い娘を連れて来たんだね、宮崎さん」

「はい。ちょっと、知り合う機会があったので」

「そうかそうか。まあ、そんなに緊張しなくても、大丈夫だよ。みんな、素人だって理解してるから、温かく見守ってくれるはずだ」

「そ、そうですか。あ、ありがとうございます……」

「うんうん。それじゃ、お互い頑張ろうな!」

「は、はい」

 

 ニッと笑みを浮かべて、大村さんが去っていった。

 

 気さくな人で、話しやすかったなぁ。それに、気遣いもできる人だったし……ああいう男の人になりたかったなぁ……。

 

「ね? いい人だったでしょ?」

「そ、そうですね。ちょっと安心しました……」

 

 美羽さんからいい人だと聞いていたけど、まだ話をしていなかったから、ちょっと不安だった。

 でも、いざ話してみると、全然怖い人じゃなくて、ボクを気遣ってくれるいい人だった。

 ちょっと緊張はほぐれたよ。

 

「そう言えば、御園生(みそのお)さんがまだ来てないけど……どうしたんだろう?」

「御園生さん?」

「うん。メインヒロインではないんだけど、作中の主要人物のキャラクターを担当している声優さん。いつもはすぐに来ているんだけど……」

「それはちょっと心配ですね……」

「うん……。でも、その内来るよね」

 

 

 それから、美羽さんに色々とレクチャーしてもらっていると、

 

『本番お願いしまーす』

 

 ついに、本番になりました。

 

 

 今回、ボクが出演するアニメは、『天☆恋』というタイトルのラブコメアニメ。

 

 原作は、漫画で、大雑把に中身を説明すると、ごく普通の男子高校生の主人公が、様々な天使と出会い、恋をして行く、そんな物語だそう。

 

 主人公は、心優しい性格なんだけど、どこか優柔不断で、甘い性格をしているんだけど、いざという時はやる、みたいなキャラクターなんだって。

 

 それから、主人公は彼女が欲しいと常日頃から思っていて、イケメンでよく告白される親友を羨ましがっているとか。

 

 主人公が好きになった女の子は、みんなその親友の人が好きらしくて、今回ボクが演じるモブの女の子も、その親友が好きのようです。

 

 かなり序盤のシーンらしく、早速ボクの出番が回ってきてしまった。

 

「依桜ちゃん、頑張ってね」

「は、はい……」

 

 小声で声援をもらい、ボクはマイクの前に立った。

 そして、暗殺者時代の事を思い出し、演技をしていた時の気持ちを表面化させる。

 ……うん。

 

「き、来てもらって、ありがとうございます……」

「この手紙は、君が?」

「は、はいっ……。え、えっと、あの……ず、ずっと前から好きでした! わ、私とっ、付き合ってくださいっ!」

「……ごめん、俺は君とは付き合えない」

「ど、どうして、ですか……?」

「……君からの告白は、すごく嬉しい。だけどね。俺は、恋愛をしないと決めているんだ。ここでもし、君と付き合ったとしても、勇気を出して告白してくれた君に申し訳ない……。だから、君とは、付き合えない」

「そう、ですか……ご、ごめんなさいっ……時間を取らせて……!」

『はい、OKでーす!』

『『『おぉぉぉぉぉ!』』』

 

 無事にOKがもらえて、内心かなりほっとしていると、周囲から感嘆の声が発せられていた。

 

『すごいな、あの娘……』

『うん。声も綺麗だけど、演技力が高い……』

『たしか、宮崎さんの友達、って聞いたんだけど……』

『声優に向いてるんじゃないかな、あの娘』

『……そう言えば、なんだかどこかで見たことがあるような……』

 

 ひそひそと何かを話されているような気がするんだけど……も、もしかして、なにかやっちゃった? ボク……。

 

 だ、大丈夫だよね? 一応、OKはもらったし、大丈夫だよね……?

 

「依桜ちゃん、お疲れ様」

「ど、どうでしたか……?」

「うんうん、ばっちり! とても素人とは思えない演技だったよ!」

「よ、よかったぁ……。声だけは初めてだったので、かなり緊張しちゃいました……」

「ふふっ、頑張ったね、依桜ちゃん」

 

 プロである美羽さんに言われると、すごく安心だよ……。

 

「いや、ほんとに、すごかったよ」

「あ、大村さん……」

「素人だからね。最悪、ある程度棒読みでも仕方ない、と思っていたんだけど……まさか、予想の斜め上を超えて、あんな演技をしてくるなんてね。依桜さん、だったかな? 君、声優に向いてると思うよ?」

「そ、そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど、ボクには難しいですよ」

「いやいや、依桜ちゃん、演技は上手いし、声はいいしで、本当に向いてると思うな、私は」

「み、美羽さんまで……」

 

 演技力はまだしも、声に関してはそこまででもない気がするんだけどなぁ……。

 うーん、どうしてみんな、ボクの声が綺麗、とか言うんだろう?

 

「そう言えば、肝心の御園生さんが来てないが……」

 

 と、大村さんが言った時だった。

 

「な、なんだって!?」

 

 不意に、日野さんの焦ったような声が響いてきた。

 

「いや、しかし……ああ、わかった。それは仕方ない……というか、一大事だ。ああ、ああ。わかった。こっちで代役を立てておくから、こっちの心配はしないでいい。自分の体を大事にしてほしい。それじゃあ、無事に成功することを祈っているよ」

 

 誰かと通話していたみたいだけど、話している間の表情はとても険しいものだった。

 通話を切ってすぐ、

 

「あー……突然だが、御園生さんは急遽来られなくなった」

『『『え!?』』』

「どうやら、癌が見つかったらしくてね……しばらく、声優業ができないとのことだ……」

「日野さん。御園生さんは大丈夫、なんですか?」

「ああ。なんでも、早期発見ができたらしく、今から入院すれば治せるそうだ」

「よかった……」

「……ん? じゃあ、今日の収録……というか、今後、御園生さんが演じることになってたキャラって……」

「代役が必要になった」

 

 その一言で、スタジオ内が少し重くなった。

 

 美羽さんがこそっと説明してくれたんだけど、どうやら今回の収録はまだ初回ではあるものの、今日この収録は終わらせないといけないということ。

 

 でも、代役を今から探すにしては難しくて、このままだと放送は延期になるかも、といったことが考え得るそうで、声優さんたちは少し暗くなっているそう。

 

「しかし困った……御園生さんが演じるキャラは、主要人物。声質的に、ここにいる声優で代役を取るにしても……難しいか。せめて、ロリボイスが出せる人がいれば……」

「あ」

 

 日野さんの最後の呟きを訊いて、美羽さんがそんな声を漏らしていた。

 

「ん、どうしたんだい、美羽さん?」

「そのロリボイスなんですけど……たしか、御園生さんが演じるキャラクターって、外見が結構幼い天使、でしたよね?」

「そうだね。たしかに、美羽さんも幼い女の子の声は出せるが、タイプが――」

「いえいえ、私じゃなくて……依桜ちゃん、そのタイプの声、出せるかも」

 

 そう言った瞬間、日野さんが勢いよくボクを見てきた。

 ………………え!?

 

「た、試しでいいんだ。試しに、幼い女の子の声を出してもらえないか?」

「あ、あの、さすがに期待しているような声は……」

「とりあえず。とりあえずでいいんだ! 頼む!」

「え、えっと……き、期待、しないでくださいね……?」

「もちろんだとも!」

 

 う、うわぁ、言葉とは裏腹に、すっごく期待した眼……。

 しかも、日野さんだけじゃなくて、他の声優さんたちまで期待の眼差しを向けてきてるんだけど!

 う、うぅ……と、とりあえず、や、やってみるだけやってみよう……。

 

「そ、それじゃあ……こほん。こ、こんな感じ、ですけど」

 

 ボクが小さくなった時に出している声をイメージして、声を出してみる。

 

「――ッ! す、すまない。ちょっと、ここ……ここのセリフを、その声で言ってみてくれないか。あ、演技を付けて」

「わ、わかりました……。え、えっと……『お兄ちゃん、だぁいすき❤』」

 

 恥ずかしいという気持ちを必死に抑えて、セリフを言ってみると……

 

『『『おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』』』

 

 周囲から歓声が上がった。

 

「す、素晴らしい! 依桜ちゃん、君はまさに救世主だ!」

「ふぇ……?」

「頼む、このキャラクターを演じてくれないか!?」

「……え、えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」

 

 いきなりすぎるお願いごとに、ボクは思わず素っ頓狂な声を上げてしまっていた。

 冗談だと思って、日野さんを見るも……どう見ても、本気の眼でした。

 

「え、えっと、ぼ、ボク、素人ですし……め、迷惑をかけるかもしれませんし……」

「そんなことはない! 君のさっきの演技を見ていたが、素人とは思えないほどに素晴らしかった!」

「で、でも、セリフは少なかったんですよ……? さ、さすがにそれで判断するのは……」

「いや、私の第六感が告げている! 君は天才だと! だからどうか……どうか頼む! 引き受けてくれないか? もちろん、ギャラは払う!」

「そ、そう言われましても……」

「依桜ちゃん、私からもお願い! できるなら、アニメを延期にしたくないの! きっと、このアニメを待ってくれているファンのみんなだっているはずだから!」

「うっ、そう言われると……」

 

 こ、断り難い……。

 

 たしかに、延期になるとすっごくがっかりするもんね……。

 女委だって、アニメが延期された時、すごくショックを受けてたし……。

 そ、それに、目の前で見てしまった以上、見て見ぬふりは……

 

「わ、わかりました」

「引き受けてくれるのかい……!?」

「は、はい」

「ありがとう! ほんっっっっっとうに! ありがとう!」

 

 両手を握ってきて、ぶんぶんと上下に振る日野さん。

 

 その表情は、一筋の希望を見出した、みたいな笑顔。

 

 よ、よっぽどなんだね……。

 

 周りを見れば、他の声優さんたちもほっとしていたり、嬉しそうにしていたりと、かなり前向きな反応。

 

 ……素人なボクに任せて、大丈夫なの? と、心配になりました。

 

 

 それからは、すぐに収録が再開し、ボクも当初予定にはなかったキャラクターを演じた。

 

 ボクという代打が入ったことで、スタジオ内は明るい雰囲気になり、他の声優さんたちもかなり気合が入ったことで、収録はかなりスムーズに行きました。

 

 その結果、予定よりもかなり早く収録が終了となりました。

 

「いやぁ、本当に美羽さんには感謝だね!」

「いえいえ、偶然依桜ちゃんとお友達だっただけですから」

「それがよかったのさ。依桜ちゃんも、今日は本当にありがとう!」

「お役に立てたのならよかったです」

 

 演技が大丈夫だったのか、すごく心配ではあるけど……。

 

「それじゃあ、今後もよろしく」

「はい。……って、え、今後?」

「ああ。このアニメが終わるまで、やってほしいんだが……」

「そ、そうなんですか!?」

「正直に言うとだね、依桜ちゃんが演じてくれたキャラクターと依桜ちゃんの声が絶妙にマッチしちゃってね。だからまあ……今回限りというのが惜しい」

「そうですね。私も、原作で依桜ちゃんが演じたキャラクターを見ましたけど、似合いすぎてました」

「まあ、そういうことなんだ。できれば、最後まで付き合ってくれると嬉しいんだが……どうだろう?」

 

 ……なんだかもう。変に片足を入れちゃったしなぁ……。

 今更、はいさようなら、ってするのもなんだか申し訳ないというか……。

 

「……このアニメは、何話で終わるんですか?」

「十二話だよ」

「そうですか……」

 

 まあ、一クールくらいだったら……。

 二十四話とか、三十六話、みたいに、長期じゃないだけまだマシ、かな……。

 

「わかりました。乗り掛かった舟ですし、最後までやり通します」

「そうか! ありがとう! 依桜ちゃんは学生って聞いてるから、なるべく、休日になるよう調整するけど、平日になったら申し訳ない」

「い、いえ。その場合は、友達からノートを借りたり、先生に尋ねるので大丈夫です」

「そうかそうか……。本当に、女神みたいな娘だな……」

 

 ……なんでみんな、ボク女神とか言うんだろうね、本当に。

 

「それじゃあ、改めて……今後とも、よろしく」

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 そうしてボクは、一時的な声優になりました。

 まさか、こんなことになるなんて、予想だにしていなかったよ……。

 人生、何があるかわからないね、本当に……。

 

 

 収録後、家に帰った後、美羽さんから連絡があった。

 

 美羽さん経由で、御園生さんから感謝の言葉が伝えられました。

 

 向こうも一般人であるボクを巻き込んで申し訳ない、って謝っていたのと同時に、最後までよろしくお願いします、ってお願いして来たみたいです。

 

 ほ、本人にまで認められちゃったよ……。

 

 ……頑張らないと。

 

 そう、気を引き締めたボクでした。




 どうも、九十九一です。
 依桜がどんどんおかしな方向に突っ走ってしまっている……いやまあ、考えなしに自由に書きまくっている私が原因なわけですが……。大丈夫かな、これ。
 さて、今日も一応二話投稿を予定していますが、いつも言っている通りですので、よろしくお願いします。
 では。

依桜の異世界に滞在していた三年間の話をやってほしいかどうか

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