異世界帰りの少年の大事件 ~TSした元男の娘の非日常~   作:九十九一

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309件目 王、出現

 装置がある場所に向かって、あたしとエイコは歩く。

 

 いやまあ、正確に言えば、エイコは浮いているんだが。

 

「ああ、そう言えば言ってなかったが、戦闘時はあたしから離れた方がいい。存在が消し飛ぶから」

『わ、わかりました』

「まあ、消さないようにするんで、安心しな。そんな初歩的なへまはしないさ」

 

 それに、消すわけにはいかん。

 

 装置の場所もわからんし、それに、一人寂しくこの世界にいたんだ。こいつの願いをかなえてやるまでは、絶対に消すわけにはいかないんでね。

 

「そういやエイコは、元々そういう性格だったのか? あたしの知るエイコとは違うんだが……」

『いえ、本来なら、もっと明るく、自分で言うのもなんですが、テンションが高い性格でした。人からは、『ちょっとうざい』とか言われてましたね』

「そうなのか」

 

 まあ、微妙にあたしの知るエイコと被るな。

 だが、こんな世界だ、正確に変化があっても不思議じゃないな。

 

『ミオさんって、どこから来たんですか? この世界の人じゃないように見えるんですが……』

「ああ。あたしは何て言うか……ここと同じ世界――じゃ語弊があるな。簡単に言えば、お前が見つけた別の世界に住んでる人間だよ。まあ、あたしはちょっと違うがな」

『……もしかして、あの平和な世界?』

「ああ。だがまあ、あたしはそこの純粋な住人ではなく、ちょっとしたことが原因で、その世界に行ってしまった、異世界人だよ」

『異世界……』

「ちなみにだが、この世界にもあると思うぞ、あたしが出身だった世界は」

 

 もっとも、この世界がこんな有様なんじゃ、まだある保証はないんだがな。

 

 最悪の場合、滅んでいる可能性がある。

 

 そして、一番考えたくない可能性だが……もしかすると、あたしが邪神に敗北している、という場合も考えられる。

 

 それが原因で、向こうが少しずつ滅び、最近終わった。だから、こっちの世界も道連れに滅んでいる、と言う可能性だ。

 

 まあ、あり得ん話ではない。それかもしくは、あたしがそもそも存在していなかったか、と言う可能性だな。

 

 まあ、世界は無数にある。こういう世界線があっても、不思議じゃない。

 イオの世界の言葉で確か、並行世界だったか? まあ、それだろうな、ここは。

 

『ミオさんがいた世界……そうですか。そこは、どういうものなんですか?』

「あー、そうだな……魔法があって、能力やスキルと言った便利なものがある世界だよ。ここのように、科学で発展したわけじゃないが、魔法で発展した世界だ」

『魔法……魔法があるんですか?』

「ああ。というかだな、さっきからブライズを消滅させてるのは、魔法だ。より正確に言えば、魔力を聖属性に変化させて、体に纏わせているだけだがな」

『ブライズ、というのは……あの黒い靄、ですか?』

「ああ。その黒い靄だ。正直、いちいち黒い靄って言うのは面倒だったんで、あたしが名付けた。もっとも、名付けたのは結構前だけどな。あたしが今暮らしているあの世界に、こいつらが出現してな。あたしはそいつらを消す旅をしたりしていたんだよ。んで、その世界にいるエイコにブライズが住む世界を探してもらって、転移装置を創ってもらった。そうして、あたしはこの世界に来たんだよ。まあ、言っちまえばあたしは、異世界人って奴だ」

『……そう、だったんですね。やはり、黒い靄――ブライズは、そちらの世界に』

「ああ」

 

 申し訳なさそうな雰囲気を出すエイコ。

 

 正直言って、こいつは悪くないと思うんだがな。悪いのは全部、戦争なんて馬鹿なことをした人間どもだ。

 

『そちらの世界にいる私は、一体何を?』

「そうだな……異世界の研究をしているな。学園長をしている傍らで。まあ、それによってイオが異世界転移に巻き込まれて、三年間異世界で過ごしたりしたが」

『依桜君がいるの?』

「ああ。おそらく、こっちでは異世界に行っていないんだろうが、あっちのイオは異世界に行ってるんだよ。それで、かなり強くなった。だから、テロリストの襲撃があっても、無事に乗り切った。誰一人として、死者は出さなかった。ま、あいつの甘い考えと油断で、ミカに怪我を負わせちまったが……あいつに回復魔法を教えておいて正解だった。まあ、そんなわけで、あいつは死んでない。てか、楽しい日常を送ってるよ、あいつは」

『……そう、ですか。こことは違う依桜君とはいえ、楽しそうに生きているんですね……』

「ああ。安心しな」

 

 それに、今はあたしという存在がいるんだ。

 

 今更神の一柱や二柱、どうってことはない。

 

 あいつを守るのが、今のあたしの仕事だ。

 

 たった一人の愛弟子を死なせるとか、師匠として失格になっちまうんでね。あたしはいつだって、あいつを見守る義務がある。

 

 それに、仮に遠くにいても、あいつの存在は確認できるしな。『空間転移』は、マジで便利だよ。……そういやこれ、進化させたら、『次元転移』とかにならねぇかな。

 

 そうすれば、自由に異世界を行き来できるんだがなぁ。

 

 まあ、いつか鍛えてみるとしよう。

 

 あ、そうだ。一応これだけは言っておくか。

 

「言っとくが、あたしが知るイオは……今は男じゃなくてな。ちょっとしたあいつの油断で、女になっちまった。ちなみに、すっげえ可愛い」

『え、お、女の子……? 本当に?』

「ああ。マジだ」

『……そっか。でも、なんだか納得。あの子、男の子であることが似合っていませんでしたから。きっと、女の子らしいことをしているんでしょうね』

「そうだな。料理作ったり、怪我の手当てしたり、可愛いもの好きだったり……まあ、女らしい奴だ。だがな、あいつほど善良な人間を、あたしは知らん。どこまで行っても甘くて、どこまで行っても……優しい奴だ」

『……そうですね。私が知る依桜君も、そう言う人でした』

 

 あたしが鍛えたあいつは、どんなことにも対処できる。

 だが、一つ気になることがあるな……。あいつが、なぜ、テロリスト襲撃を事前に防がなかったか、だ。まあ、この辺後々考えよう。

 

『あの子は自分の命を賭してまで、接点のなかった司会者の生徒を助けた。でも、その代償に、命を落としました。でも、あの子はそれで満足しちゃったんでしょうね。死に際の表情と最後に発したセリフって、何だと思いますか?』

「……そうだな。あいつなら、死にかけでも笑って『大丈夫でしたか?』なんて言うんだろうな。で、大丈夫と答えると、微笑んで、そのまま息を引き取りそうだ」

『……さすがですね。そうです。ミオさんの言う通りのことが、起こりました。最後まで、人の心配をして、逝ってしまった。あの子はどこか歪んでいる、そう思えてしまうほどに』

「歪んでいる、ね」

 

 言われてみれば、そうかもしれない。

 

 あいつは、常人以上に、人を大切にする。

 

 それがたとえ、悪人であっても。

 

 いや、どうしようもなくて、自身の大切な者たちに危害が及ぶとわかれば、あいつは躊躇いつつも、そいつらを殺すだろう。

 

 だが、あいつはそれくらいの状況でなきゃ、絶対に人は殺さなかった。

 

 それは、あの戦争で歪に際立った。

 

 最近聞いた話だが、あいつは魔族をほとんど殺していない。

 

 それどころか、安全な場所に逃がすように協力するレベルで。

 

 怒りの沸点はハッキリ言って、相当高い位置にいるあいつだが、唯一沸点が低いものがある。それが、ミカたちが傷つけられること。

 

 いや、より正確に言えば、幼馴染、友人、家族、といったあいつにとっての大切な奴らが傷つくことを極端に嫌うような節がある。

 

 その中には、あたしも含まれているだろうな。

 

 あいつは、あたしを好きだと言った。それどころか、殺しを教えたあたしを好きだと言った。

 

 自惚れではないが、あたしが死んだら……あいつはきっと、号泣するんだろうな。

 

 だがまあ、あたしみたいなろくでもない人間が死んでも、あいつはきっと、大丈夫だろうな。

 

 ……つっても、あたしはまだまだ寿命がある。それこそ、イオ以上の寿命が。

 

 あいつの寿命は本来、魔力量の増加により、最低でも三百年は続くと思ったが、あの解呪の影響で、寿命が長くとも百二十年程度になってるからな。まあ、それでも強靭な肉体に、鋼のような精神は残っているんで、問題ないだろうがな。

 

 でも……あれか。あたしはまた、大切な奴の最期を看取ることになるのか。

 

 あたしが唯一、生涯で恋愛感情を持った奴だと言うのにまったく……。

 

 ほんっと、あたしは運が悪い。

 

 これもやっぱ、幸運値が666だからかね?

 

 悪魔の数字だ。

 

 あたし、悪魔に取り憑かれてんの?

 

 なんて、何度思ったことか。

 

 まあ、こんなんだからこそ、大切な奴らに出会えたわけだが。

 

「……ああ、そうだ。一つ訊きたい。イオを殺したテロリストたちってのは、どうなった?」

『それが、依桜君が殺し、研究データを持ち去った後、彼らはヘリで逃げました。ですが、原因不明の故障で、全員死亡。死体は発見されましたが……まあ、酷いものでしたよ。見るも無残な姿、と言う言葉がぴったりなほどの』

「……そうか。ならいい。ま、死んでいるのなら、少しは溜飲が下がるってものだ」

 

 まあ、だとしても、許せんがな。

 

『そうですね。でも……償ってもらいたかったです』

「……やっぱり、イオに会いたいか?」

『そうですね……。できることなら、会いたいわ。依桜君だけじゃなくて、学園生たちに。死んでしまったみんなに』

「……わかった。じゃあ、一つ取引と行こう。いや、別にお前にはデメリットなんざないが」

 

 エイコの寂しそうな雰囲気を感じたあたしは、あることを考え、エイコに取引を持ちかけた。

 

『取引、ですか?』

「ああ。内容は……あたしに取り憑き、あの平和な世界に行くことだ。どうだ?」

『で、ですが、私はまだ理性があるとはいえ、ブライズです。人に取り憑けば、悪感情を増幅させてしまう……』

「はっ! このあたしが、他人に体を許すわけないだろう。支配なんざされないさ。安心しな。で? どうする?」

『……もし叶うのなら、会いたいですね』

「おし、なら成立だ。向こうで、何の問題もなく存在できるようにしてやるよ。エイコ辺りに頼めば、何とかなりそうだ」

 

 ブライズをちゃんと存在できるようにするくらい、わけないだろう、あいつなら。

 もちろん、あたしも全力で協力はするさ。

 魔法と科学がありゃ、何でもできそうだ。

 

『……ありがとうございます、ミオさん』

「いや、いいんだ。正直、絶望だらけの人生、それはもう終わりにして、希望だらけの人生にしてやりたいからな。お前は、それくらいことをしてきた。だから、あたしは助ける。まあ、ちょっとしたあたしの我儘かもしれんがな」

『いえ、そんな我儘で希望が得られるのなら、全然大丈夫ですよ。私は、あの子たちに会いたいですから』

「ああ、わかった。絶対にどうにかしてやると、約束しよう」

『……本当に、ありがとうございます、ミオさん』

「いや、いいんだ。あっちの世界では、あたしとエイコは仲が良くてな。まあ、友人って奴かね? 確実にお前がそいつと同じ人間だというのはわかる。友人を見捨てるほど、あたしは非道な人間じゃないさ」

『そうですか。……お話をしていたら、目的地に着きましたね。ここですよ』

「やはり、二人の方が旅は楽しいな。さて……ほう、これが、世界を破壊するための装置か」

 

 あたしたちの目に前に現れたのは、大きな筒――なんか、波〇砲みたいな感じの、直径五十メートルはあろう、巨大な機械だった。

 

 だが、発射口は天を向いているところを見ると、空に向けて打ち出すみたいだな。

 

『そうです。名称は特に決めてないですが……そうですね、もう安直に『世界破壊装置(仮)』でいいでしょう』

「ほんっとに安直な」

『ま、まあ、ネーミングセンスはないですしね……』

「まあいい。それで? これの動かし方は?」

『はい。まずは――ッ! ま、まずいです! 気付かれました!』

「ん? 気付かれたって……ああ、なるほどな。理解した。世界を滅ぼす前に、ラスボス戦ってか」

 

 巨大な力の反応が、こちらへまっすぐ向かってきていた。

 それは、あたしがぶっ潰すために来た、今回の旅の目的の存在。

 それはかなりの速度で、あたしらに近づいてきて……現れた。

 

『GAAAAAAAAAAAAAッッッ!』

 

 あたしの目の前に現れたのは、人型の獣、と呼ぶにふさわしい外見をした、まさに怪物の王だ。

 

「ほう、他の有象無象とは違って、まともな咆哮だな。……エイコ、この場から離れてな。正直、手加減ははなっからする気はないんでね。逃げないと……お前を連れて行く前に、消し飛んじまう。だから、早く行け」

『わ、わかりました。ミオさん、お気を付けて』

 

 そう言って、エイコはこの場を去った。

 エイコが去った後、あたしは目の前のブライズの王と、去ったエイコに向けて言葉を発する。

 

「はっ、あたしは神だって殺す人間もどきだ。こんな奴に、負けるわけないさ。そんじゃまあ……あたしの世界で、散々悪さしたツケ、ここで払ってもらうぞ? 今からテメェを……ぶっ潰す!」

 

 不敵な笑みを浮かべ、あたしは戦闘態勢に入った。




 どうも、九十九一です。
 この作品で、最もシリアスな展開が多いと思ってるこの章。なんでこうなった、と思っています。なんか、実質作中の最強キャラが、本気を出しそうです。とはいえ、戦闘描写は苦手なので、あまり上手く書ける自身はないですし、なんかあっさり終了しそうですけどね……。ま、まあ、この作品は日常系がメインなのでね。戦闘がメインじゃないですしね。一応、昔に比べたら上達しましたが。
 それから。まあ、作中でミオが明言している通り、テロリスト襲撃の時のあれって、ちょっとした伏線だったりします。まあ、まだ全然出してないので、あれですけどね。
 明日もいつも通りだと思いますので、よろしくお願いします。
 では。

依桜の異世界に滞在していた三年間の話をやってほしいかどうか

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