異世界帰りの少年の大事件 ~TSした元男の娘の非日常~   作:九十九一

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31件目 読者モデル、依桜ちゃん 下

 結局、流されるまま、晶も着替えさせられ、ボクと同じようにモデルをさせられた。

 ちなみに、ボクと違って、晶の場合は一人で撮影するのではなく、

 

「いいわいいわぁ! 依桜ちゃん、晶君の腕に抱き着くようにしてもらってもいい?」

「は、はい」

「で、晶君は、爽やかな笑顔を浮かべて!」

「わ、わかりました」

 

 こんな感じで、ボクと二人での撮影だった。

 

 なんでも、今日の撮影では、カップルを演出した写真を撮るつもりだったらしいのだけど、急遽二人のモデルがこれなくなるという事態に見舞われたため、断念せざるを得なかったとか。

 

 でも、それだと何も撮影できないまま終わってしまうため、このショッピングモール内で代わりとなる人を探そう、というときにボクに白羽の矢が立ったらしい。

 男性用の写真に関しては、なんとか代用が利くとのことで諦めていたとのこと。

 

 そこからさらに、ボクに呼ばれて来た晶を見て、これならいける! と碧さんが思い、こうして写真を撮っている、というわけです。

 

「そうそう! いいわよぉ~!」

 

 筋骨隆々で、カラフルシャツを着た人が、おねぇ言葉を発しながら写真のシャッターを切りまくるって……傍から見たら、相当すごい絵図らなのでは? と失礼にも思ってしまった。

 

 それから、ここはショッピングモール。人が多く行きかう建物。

 ボクたちが今、撮影している場所だって、エスカレーターや入り口が近い位置にあるため、当然人が多いわけで……

 

『ねえあれって、何かの撮影かな?』

『そういえば、今日ここで写真撮影があるって聞いたよ!』

『へぇ~。じゃあ、あの二人がモデルさん?』

『でも、雑誌で見かけたことないよ?』

『だよね。でもでも、男の子はかっこいいし、女の子の方なんて、すっごい可愛いよね!』

『わかるー! でも、あんだけ可愛いんだから、絶対何かしらで出てるって!』

『探してみよ!』

『すげえ、生の写真撮影とか初めて見た』

『ああ、すげえんだな。何より、あの娘超可愛いしよ』

『くぅ、隣の奴が死ぬほど羨ましいッ……!』

『つか、帰ったら、あの娘が載ってる雑誌とか探してみようぜ!』

 

 こうして、かなりの人に見られているわけで……。

 なんだろう。ものすごく、デジャヴを感じる。

「じゃあ、次で最後ね。依桜ちゃんは、晶君の首に抱き着いて、とびっきりの笑顔をお願いね! 晶君は、依桜ちゃんをしっかり支えながら、笑顔でね!」

 

 え、えとえと、とびっきりの笑顔? って、えーっと……あ、学園祭の時ので大丈夫かな?

 

「(ニコッ)」

「あらあああああああああ! 素敵、素敵よぉ! そう、その笑顔よぉ! 晶君も、完璧とまでは言えないけど、とってもいい笑顔よ! うんうん! 二人とも、相性ピッタリで、すごく自然体ね!」

 

 ボクたちが、指示された通りに笑顔を浮かべて、ポーズを作ると、碧さんが大興奮した。

 傍から見た、ちょっとやばい人に見えなくもない。

 

「うん! 完璧! これで撮影は終わりよ! お疲れ様!」

『お疲れ様でした』

「「お、お疲れ様でした」」

 

 碧さんの言葉に続くように、スタッフさんたちが一斉に挨拶をした。

 ボクたちも慌てて、挨拶をする。

 それが終わると、片付けが始まった。

 

「二人とも、お疲れ様。はい、これ。コーヒーでよかったかしら?」

「だ、大丈夫です」

「ありがとうございます」

 

 碧さんがボクたちのところに来て、コーヒーを差し入れてくれた。

 お礼を言って受け取る。

 

「二人とも、今日はありがとね。撮影協力してくれて」

「い、いえ。ボクはさっきも言いましたけど、貴重な経験になりましたし、全然いいですよ」

「俺もです。モデルなんて、そうそうできる経験じゃないですからね」

「そう言ってもらえると、カメラマンとしてすごく嬉しいわ」

 

 素直な感想を言うと、碧さんはものすごく嬉しそうに破顔した。

 うーん、やっぱり見た目のせいで、結構危ない人にしか見えない。

 

「それでね、素人さんだから事務所的にもお金を渡す、っていうわけにはいかなくてね」

「いえいえ、気にしないでください。こうして経験できただけで、十分ですし」

「ううん。お仕事には、当然報酬がもらえるんだから、こういうの受け取るのが礼儀よ」

「そうだぞ、依桜。突然頼まれたから、っていう理由でこなしていたとしても、当然それは仕事だ。報酬が発生するのは当たりまえだろ?」

 

 バイトをやっている晶からの言葉だと、説得力あるね。

 でも、確かに二人の言う通りだよね。

 ボクだって、向こうの世界じゃいろんな仕事をしていたわけだし。

 

「……うん、そうだね。わかりました。それで、お金以外となるとなにがあるんですか?」

 

 お金が事務所的に無理となると、ほかに何があるんだろう?

 

「そうねぇ……あ、ちょうどいいものがあったわ。えーっと、あ、あったあった。はい、これ」

 

 碧さんが自分のカバンの中をあさり、何かの紙を取り出し、ボクたちに手渡してきた。

 

「これは?」

美天市(みあまし)内の飲食店全部に使えるフリーパスよ。期限は今年一杯。期限以内なら何度でも使えるパスよ。一枚あれば、五人まで食べ放題飲み放題の超レア物よ!」

「い、いいんですか? そんな貴重なものをボクたちがもらっちゃって……」

「それに、このパスって、たしか写真のコンテストか何かの景品だったはずですが」

「いいの! 今日は二人のおかげで、今までで一番いい絵が撮れたしね! これはそのお礼! だから受け取って」

 

 ここまで言われて断るのも、逆に失礼、だよね。

 チラッと晶の方を見ると、同じことを考えたらしく、笑顔を浮かべながら頷いた。

 

「わかりました。それじゃあ、ありがたくもらいます」

「うんうん! 素直が一番! あと、あなたたちが着ている服もプレゼントしちゃうわ」

「本当ですか? これ、結構大人しめでいいなぁと思っていたのでとっても嬉しいです!」

 

 それに、冬服はまだ持ってなかった気がするし。

 

「俺もいいのがあれば買おうと思っていたので、ありがたいです」

「よかった! それじゃあ、今日はありがとね! 片付けに関しては全部こちら持ちだから、二人は遊びに戻っても大丈夫よ!」

「今日はありがとうございました」

「ありがとうございました」

「うん。それじゃあね! あ、掲載される雑誌なんだけど、『Cutie&Cool』っていう雑誌に載るから、よかったら見てみてね!」

 

 という一言を残して、碧さんは戻っていった。

 

「うーん、雑誌の名前、どこかで聞いた気がするんだけど……」

「依桜もか? まあ、実は俺もだ。よく耳にするような気がしてるんだが……」

「……まあいっか。多分、その内思い出せるよ」

「だな。さて……いい時間だし、帰るか」

「うん、そうだね。さすがに疲れちゃったよ」

 

 時計を見ると、もうすぐ五時を回るところだった。

 えっと、モデルを始めた時間が、一時半だったから、少なくとも四時間近くやっていたことになる。

 ……随分長くやってたんだね。

 道理で疲れるはずだよ。

 

「行こっか」

「ああ」

 

 そうして、ボクたちは家路についた。

 お互いの撮影中の心境とか、晶がいなかったときにボクがしたことを話しながら帰路をたどった。

 

 

 依桜たちが帰った後、碧たちは依桜たちのことについて話していた。

 

「にしても、依桜ちゃんは可愛かったわぁ。晶君もかっこよかったし」

『ですよねぇ。なんだか、依桜ちゃんを見てたら、女の私ですらすごく癒されましたし』

『あれ、絶対癒し系よねぇ。しかも……スタイル抜群だったし』

「身長は低かったけど、補って余りある不思議な存在感や、魅力があったものねぇ。個人的には、なんで今まで騒がれなかったのか不思議なくらいよ」

『たしかに。アイドルとか、かなり向いてるんじゃないですかね? 撮影の時の笑顔も、少し恥ずかしそうでしたけど、はにかみ顔みたいでとっても可愛かったですからねぇ。あれで落ちない男はいませんね。それに、女性人気もかなりでそうですから』

「そうねぇ。今後、あの二人、特に依桜ちゃんの方に世間は目がいく。当然、ファッション誌関係もそうだけど、芸能界の人も、手に入れたいと躍起になるでしょうから、あの子たちの個人情報は、絶対に守秘義務よ。それと、あくまでも勘でしかないのだけど、依桜ちゃん。多分アクションもこなせそうだから、アクション女優みたいな感じでいけるかもねぇ」

 

 実際、碧の感はよく当たることで、有名である。もちろん、その業界で、だが。

 

『アクション、ですか』

「ええ。ワタシ、格闘技とかやってたから分かるのだけど……あの娘には、絶対敵わないと思ったわ」

『え、世界チャンピオンの碧さんが、ですか?』

 

 碧の素性だが、元プロレスの世界チャンピオンだったりする。

 今は引退して、昔から夢だったカメラマンの仕事をしているというわけである。

 

 戦闘力的には、現在もその力は失われておらず、引退しただけで、現役バリバリだ。

 そんな素性を知っているスタッフが、碧がたった一人の女の子に勝てないと言い切った。それも、絶対、という言葉を頭に付けて。

 

 当然、スタッフは困惑する。同時に、まさか、とも思う。

 

「まあね。うーん、多分純粋な腕力だけなら勝てるかもしれないけど……あくまでも、純粋なという言葉が付くわ。普通に戦っても、攻撃一つ当てられるかどうか……」

『そ、そんな娘が、なんでこんなところに? しかも彼女、どう見ても学生ですよね? あの男の子とタメで話してたところを見ると、同い年。だから、高校生くらい。そんな娘が普通に学生をしていることに驚きなんですが……』

「ま、世の中色々とあるのよ。自分の目で見えてることだけがすべてじゃないってことよ。それに、可愛いからいいじゃない。でしょ?」

『……それもそうですね。それを聞いてると、詮索は無駄に思えますし、放置ですね』

「そうそう。女ってのは、秘密があるからこそ、美しいのよ。まあ、依桜ちゃんが強かったとしても、個人情報のリークは別よ。もし、二人の情報を漏らそうものなら……ワタシが潰すわ」

 

 碧がくぎを刺したことにより、その場にいたスタッフ、ひいては事務所のスカウトマンは顔を引きつらせながら、こくこくと頷いたのだった。

 

 

 一週間後、依桜たちがあずかり知らぬところで、依桜と晶の写真が掲載された雑誌が飛ぶように売れた。

 モデル業界……どころか、芸能界の人も血眼になって探し回っている状況が続いている。

 

 いろんな有名な事務所や、大手プロダクションが探しているという情報が出回り、様々な憶測が飛びかっている。中には、写真の背景から場所を特定した猛者がいた。

 

 それによって、撮影場所の街までは絞れたらしいが、なぜか情報はある時から錯綜し始め、依桜に関する情報収集が難しくなった。

 

 その背景には、ある企業の社長兼、学園の長が暗躍していたが、それは誰も知らない。

 

 しかし、一度放たれてしまった情報は見た人の記憶に残るので完璧にふさぐことはできなかった。

 

 インターネットが無理なら自分の足で、と思い、少ない情報を頼りに依桜の調査が始まった。

 

 がしかし。それもまた、途中でぱたりと止んだ。

 やはり、社長兼、学園の長が裏で暗躍していた。が、これも誰も知らない。

 

 とはいえ、あくまでも個人情報特定に関する写真ばかりなので、結局世間をにぎわることになったのだが……この事実を依桜たちが知るのは、ほんの少し先のお話。

依桜の異世界に滞在していた三年間の話をやってほしいかどうか

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