異世界帰りの少年の大事件 ~TSした元男の娘の非日常~   作:九十九一

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43件目 師匠のテスト

「……マジですか……」

 

 反転草の採取を終えて、一度それを家に置いてきてから、再び森の中へと入った。

 というのも、

 

「さあ、イオの今の実力がどれほどのものか、見せてもらおうか!」

 

 いきなり、こんなことを言い出したからです。

 

「あの、師匠? なんでいきなりこんなことに?」

「なんでってお前……あたしが送り出した後の一年で、どれくらい強くなっているのか気になるのは、師匠として当たり前だろう?」

「で、でも、師匠、ボク向こうに帰った後って、ほとんど体動かしてないですよ?」

 

 一番激しく動いた、学園祭ですら、ウォーミングアップくらいのもだったし。

 むしろ、あっちの世界で本気なんて出したら、そこら中クレーターだらけになるし、死体の山ができちゃうもん。

 

「ふむ。お前、どれくらい動かしてない?」

「一ヶ月半くらいですね」

「……そうか。ま、それくらいならほとんどブランクはないな。問題なし」

「……で、ですよねー」

 

 この師匠、試したくてうずうずしてるもん。

 何を言っても、『やれ』の一言でやらされるもん、ボク。

 理不尽だよぁ……。

 

「ま、安心しな。手加減するから」

「……師匠の場合の手加減って、かなり常識外れなんですが」

「気にすんじゃない。男だろ?」

「いや、まあ、そうですけど……」

 

 あくまでも、心が男なだけで、体は女なんですけどね……。

 

「あと師匠。この体、結構動きにくいんですが」

「どうしてだ?」

「胸が痛いです」

「……お前、暗殺者がそれを言っていられると思ってるのか? アアァ?」

「……が、頑張ります……」

 

 師匠には勝てません。

 

 そうだよね……どこの戦場に、胸が痛いから殺さないで、って言う人がいるのか、って話だもんね……。

 

 それを言っていたら、甘え、なのかな……?

 

「まあいい。とっととルール説明するぞ。勝敗は……そうだな、気絶か降参の二種類。フィールドは、この森の中全域。武器の使用も当然認める。あたしらには、無いと意味ないからな。ただし、毒物はダメだぞ。普通に危ない。魔法の使用はOKだ」

「結構シンプルなんですね」

「シンプルな方が、わかりやすくていいだろ」

 

 ……まあ、師匠が相手の時点で、シンプルなのに難易度は爆上がりなんですけどね。

 多分、魔王を相手取るのと同じくらいだと思うんだよ。

 

「でも、この森って広くないですか?」

 

 少なくとも、まっすぐ突き抜けて行って、向こう側に出るのって、ボクが全力で走っても二十分はかかる。と言っても、身体強化抜きの場合だけど。

 

 でも、普通の人がやると、一時間は平気でかかる。

 それくらいに広い。

 

「障害物があってこそ、暗殺者の本領が発揮できるんだよ」

「それもそうですね」

 

 むしろ、平原とかでやる、とか言われたら、師匠に魔法使われて終わりだもん。

 それに、暗殺者にとって、障害物は大事な武器だし。

 

「それじゃ、一分後に始めるから、森に入って適当に初期位置を決めてくれ」

「わかりました」

「それじゃ、解散!」

 

 ヒュッ! という音を残して、師匠が消えた。

 ……あの人、『影形法(えいぎょうほう)』使ったよね?

 いや、ボクも使えなくはないけど、師匠みたいに綺麗に行かないし……。

『影形法』というのは、影を操ったりすることを主とする能力のことで、ほとんど暗殺者専用の能力。

 

 影を操って相手を拘束したり、動けなくしたり、影の中を移動して別の影へ移動する、と言ったことが可能になる対人向け能力。

 

 ただし、周囲に影がないとできないことや、影移動は、視界が全く見えない状態で移動するため、どこに出るかわからない、という欠点もある。

 

 ただ、師匠の場合、影がないのはさすがに無理だけど、影移動は、本当は見えているんじゃないか、ってくらいに狙った通りの場所に出てくる。

 しかも、断然こっちの方が移動は早い。

 

 ボクでも、狙った通りの場所に出るのは、十回やって、四回ほどしか成功しない。まあ、一回でも成功するだけすごいんだけど……あの人、規格外だから。

 

「……とりあえず、ボクは普通に木を使って行こう」

 

 木から木へ飛び移ることを繰り返して、大体中心の方までくると、

 パァンッ!

 という、破裂音が森に響いた。

 

 これは、スキル『柏手』かな?

 

 あれ、元の世界じゃ、混乱した会話などを、一度止めて自分に意識を向けさせたりするのに使うものだけど、こっちの世界じゃ、どういうわけかスキルに存在する。

 

 そしてそれは、あまりいいスキルではない。

 

 なにせ、手を打ち鳴らして、大きな音を出すだけのスキルだからね。

 

 でも、師匠はあえてこのスキルを入手している。

 

 と言っても、このスキルを手に入れたのは、ボクがこっちの世界に来て、師匠の下で修業をするようになってからだけど。

 

 きっかけは、ボクが猫だましを使ったことだったっけ。

 どうやらこっちの世界、絶対にありそうなはずの猫だましがなかった。

 

 ブラインド的なものは多いのに、猫だましはなぜかなかった。

 

 ちなみに、師匠に初めて攻撃が入った時、猫だましでびっくりさせてから一撃入れました。

 

 この『柏手』は、鍛えれば鍛えるほど、音は大きくなる特徴を持っている。

 

 最初は、拍手よりもちょっと大きいくらいの音量だが、これを鍛えまくると、音爆弾くらいのけたたましい音を出せるようになる。

 

 ただし、使用者本人も、耳栓必須。

 

 まともに喰らうと、しばらく音が聞こえなくり、短い間動けなくなるということになる。

 

 弱いスキルと思われがちなものだって、鍛えれば強くなる、ってことなんだろうけど……

 

「師匠……開始の合図をそれに使うって……本気じゃないですか」

 

 暗殺者と『柏手』の相性はあまりいいとは言えない。

 なにせ、大きな音を出して、自分の位置を知らせるようなものだから。

 

 ……まあ、師匠の場合、それすらも計算に入れていたりするんだけど。

 それにしても……

 

「周りの木の枝や、草が大きく揺れるって……あの人、前より強くなってない?」

 

 ボクが前使った時は、ここまで揺れることはなかった。

 前は、そよ風が吹く程度の強い衝撃だったのが、今では、暴風が吹いたと錯覚させるほどの衝撃だった。

 

 ……『柏手』を鍛えると、こうなるんだ。

 

 やっぱりあの人、おかしい。

 物語だったら、絶対主人公ポジションにいそうだよ。それも、無双系の。

 師匠の下から去って、一年間ほとんど一人で闘っていたから、結構強くなっていたつもりだけど……

 

「はぁ……無意味かも」

 

 幸いなのは、女の子になっても、身体能力は低下しなかったこと、かな。

 いや、ある意味低下していると言えなくもないけど。

 

「……以前より、身長とリーチが」

 

 身長が八センチほど縮んだことで、体もそれに合わせて縮小した。

 未果やクラスの女の子たち曰く、ボクの腕や足は長いとのこと。

 十六年女の子していた人が言うんだから、多分そうなんだと思う。

 

 あとは、胸が大きくなったことで、狭い所に入るのが難しくなったことだね。

 ……今まで通れた場所とか、胸がつっかえて通れなくなっちゃってるし。

 

 ほかのデメリットと言えば、やっぱり飛び道具や魔法、近接武器なんかもそうなんだけど、前と違って、胸が膨らんだことで、当たる場所も増えちゃったことだよね……。

 

 ……あれ、ボクのほとんどのデメリット、胸に収束してるんだけど。

 なんで、大きくなっちゃったの……?

 

「……でも、今はこんなこと考えてる場合じゃない、よね」

 

 なにせ、師匠が動き出しているはずだから。

 あの柏では、ただ開始を伝えるだけではなかったはず。

 となると、何か――

 

「――やあ、イオ。後ろが……お留守だよ?」

「――ッ!」

 

 ゾワッと背中に悪寒が走り、振りむきながら飛びずさる。

 地面に着地し、声をした方を見れば、師匠の姿がそこにあった。

 

「ふむ。一ヶ月とはいえ、ブランクは結構大きいようだな? 少なくとも……余計なことを考えて、接近されるほどには」

「……気配遮断と消音使っていたのに、よくわかりましたね」

「ま、物は使いよう、ってな。少なくとも、お前が魔王討伐に行った後に習得した技だが」

 

 この人、やっぱり強くなってるよ……。

 か、勝てるの? ボク。

 

「さあさあ、余計なことを考えている暇があったら……かかってきな!」

 

 師匠は、上空に飛び上がると、風属性魔法『ストームエッジ』を容赦なくボクめがけて放ってきた。

 

「ちょっ、前より威力上がってませんか!?」

 

 無数の風の刃がボクに襲い掛かってくる。

 

 その刃が、木に触れれば、いとも簡単に切断され、木が倒れる。

 

 しかも、範囲がバカみたいに広い。

 

 以前、師匠にこれを使われた際は、大体半径二~三メートルほどだったのに対し、今は六メートル以上にまで広がっていた。

 

 木に当たっただけで両断されるような、すさまじい切れ味の魔法を、平気で撃ってくるこの人は、本当にひどい。

 

 ちなみにだけど、以前の威力は、一つの刃が木に当たって切断されるのは、二本ほどだったが、今はなぜか五本に増えていた。

 

 しかもこの魔法、風属性の中では中級程度で、威力も木を切断するに至らない程度の威力なのにも関わらず、木を易々と切断する威力をしている師匠の『ストームエッジ』は、本当にひどい。

 

「ほれほれ! よけないと死ぬぞ!」

「殺す気でしょ、師匠!」

 

 今もなお無数に飛んでくる風の刃を、紙一重で躱し続ける。

 

 木から木へ飛び移り、空中にいるときに飛んでくるものは、スキル『瞬刹』を使用して、回避していく。

 

 スキル『瞬刹』は、単純に思考能力を加速するだけのスキルで、意外と習得している人は多い。

 ただし、人によっての個人差が当然あり、一番効果が弱い人は、通常の1.1倍程度しかない。

 

 逆に、世界最高レベルの『瞬刹』持ちは、百倍以上らしい。

 

 と言っても、今の時代にはいないらしく、昔の人のようだけど。

 

 ボクは、二十倍くらいが限界。

 簡単な話、一秒が二十秒になる程度の能力だけどね。

 

 それに、あくまでも思考能力が加速するだけのスキルなので、当然体はいつも通り。

 

 もし、この状態で加速した思考能力と同じスピードで動くのであれば、かなりの身体強化をかけることになる。

 

 それでも、身体強化自体、完璧にマスターしないと燃費が悪いので、そうそうやらない。

 

 だけど、こういう無数の何かが飛んできていたりする際には、その刹那の時間で次に動くべき場所を見抜き、そこに移動することができれば、回避にかなり役立つスキルだ。

 

 ……まあ、師匠なんて手を抜いても五十倍くらいはできるみたいだけど。

 ……というか、人間の脳的に大丈夫なの? それ。

 

 あ、もちろん、使いすぎると、終わってからかなりの頭痛が来ます。

 

「やぁっ!」

 

 回避だけでなく、同時に攻撃も仕掛けていく。

 体を捻って回避する際に、一瞬だけ見えた師匠に向かって、ナイフを投擲。

 

 そしてそのナイフは、無数の風の刃をすり抜けるようにして突き進む。

 これなら師匠に届くと思っていたら、

 

「甘いよ」

 

 魔法を放っていた手とは逆の手で、しかも指二本でナイフをキャッチしていた。

 

「ええ!? おかしくないですかそれ!?」

 

 少なくとも、ボクが本気で投げたナイフは時速千キロを軽く超えているのにも関わらず、それを平然とキャッチする師匠は、本当に化け物だと思うんですが。

 

「はっはっは! 鍛え方が違うのだよ!」

「うぅ、こんなの勝てる気がしないよぉ!」

「というか、イオでもできるだろ、これくらい。少なくとも、最低限出来るように仕込んだつもりだが?」

「いや、できないこともないですけど!」

 

 だって、師匠には普通にレーザーをよけろ、って言われてたし。

 ……まあ、ついぞ光の速さの目視確認はできなかったけどね……。

 

 稲妻はできたんだけどなぁ。

 

 動体視力は鍛えていたとしても、瞬時にどこに避けるべきか判断し、動くことをするには、さっきの『瞬刹』が必要だから、どのみちあのスキルは必要。

 

 さっきの風の刃だって、かなりの速度で飛んでたし。

 あれを動体視力だけで避けきるのはちょっと難しい。

 できないことはないだろうけど、確実にダメージを貰うだろうから、安全マージンをとって、『瞬刹』を使ったわけだし。

 

「ほらほら! どうしたどうした! 逃げるだけか!」

「師匠の魔法のせいで、ほとんど近づけないんですよ!」

 

 近づいたら、無数の刃がボクを切り刻み続けるからね!

 本当に、理不尽に強い人だよ!

 

「近づけさせない。それが一番の防御だろう?」

「それを有言実行できるのは、師匠とか魔王みたいな人だけですよ!」

 

 まだボクが戦った魔王さんのほうがましだよ。

 隙があったもの。

 師匠にはその隙が全く無い!

 

「んー、まあ、回避能力は見れたし、次は……気配察知能力だな」

 

 そんなことを言いながら、師匠は撃ちっぱなしの魔法をやめ、地面に着地すると、そのまま茂みに隠れた。

 

 普通の人だったら、あの茂みに突撃するんだろうけど、ボクはしない。

 

 相手は、そこら辺にいるちょっと強い人というわけではない。

 紛れもない、師匠だ。

 

 これで突撃しようものなら、ボクは本当に殺されてしまう。

 

 ボクはその場にとどまり、二本のナイフを手に構える。

 周囲から変わった音は今のところない。

 

 だが、師匠は神出鬼没ともいえるレベルで、どこからでも現れる。

 

 前後左右だけでなく、上下からも。

 

 一体どうやっているんだと気になるレベルで、あの人は空から落ちてくるし、地面から出てくることもある。

 だからこそ、油断はいけない。

 常に、三百六十度全方向を注意していなければならない。

 

「………………」

 集中……。

 

 目を閉じ、周囲に気配を向ける。

 こちらの気配察知と同等以上の気配遮断と消音を使っていれば、当然察知することができない。

 

 相手はボクの師匠。

 

 しかし、それでもボクの気配察知や気配遮断、消音は師匠の能力と同等レベルだと言っていた。

 

 ……じゃあなんで、開始直後のボクの居場所が分かったんだろう?

 普通はわからないはず。

 

 いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 

 今もボクの周囲に師匠がいる。

 その事実を置いておくなんて、自殺行為も甚だしい。

 とはいえ、どうやって師匠を探す?

 

 一度、ボクの持つ能力、スキルを確認しよう。

 ステータスを意識すると、ボクのステータスが瞼の裏に映る。

 

『イオ・オトコメ 女 十九歳

 体力:6496/7000 魔力:9625/9800

 攻撃力:926 防御力:478 素早さ:1529

 幸運値:7777

 職業:暗殺者

 能力:『気配遮断』・『気配感知』・『音源感知』・『消音』・『影形法』・『一撃必殺』・『短刀術』・『双剣術』・『投擲』・『立体起動』

 スキル:『瞬刹』・『身体強化』・『料理』・『裁縫』・『柏手』・『鑑定(下)』・『無詠唱』・『毒耐性』・『精神攻撃耐性』・『言語理解』

 魔法:風魔法(初級)・武器生成(小)・回復魔法(初級)』

 

※ステータスの基準

一般的な農民

『体力:100/100 魔力60/60

 攻撃力:40 防御力:20 素早さ:60

 幸運値:120

 職業:農民

 能力:なし

 スキル:なし

 魔法:なし』

 

 ……ああ、世界にも女の子って認識されてるぅ……。

 本格的に、女の子認定喰らってるなぁ、ボク……。

 

「って、今は現実に打ちひしがれてるんじゃなくて……!」

 

 この中の能力やスキル、魔法を使ってどうやって師匠を探すか……。

 師匠はさっき、気配察知能力と言っていたところを考えると、あの人なりのテスト、なんだろうね。

 

 そう考えると、さっき師匠が見ていたのは、自身で言っていた回避能力だけじゃなく、とっさの状況判断、それから警戒能力を試していたのかも。

 

 ……つまり、今回は師匠が飽きる前に探さないといけないってことなのかも。

 

 というか、体力が普通に減ってるところを見ると、やっぱり躱しきれてなかったみたい。

 

 ……あれ、ボク『投擲』なんていう能力持ってたっけ?

 少なくとも、最後にステータスを見た時にはなかったような?

 もしかして、元の世界で、ほとんど投げて使用してたから習得した、とか?

 ……そうだろうなぁ。

 

 ……いや、今はそういう考察は後々。

 

「……はぁ。師匠が相手とか、本当に辛いんだよね……」

 

 魔王軍の精鋭に気づかれずに、魔王城に忍び込み、暗殺を成功させた人を探すとか、ほとんど不可能に等しいんだけど。

 

 ボクの察知能力と師匠の隠密能力はほぼ同等とか言っていたけど、どう見ても違う気がするんですけど。明らかに、師匠のほうが遥か彼方へ突き進んでいってる気がするんですけど。

 

 そんな人相手に、ボクはどうやって探せばいいの?

 

「……でも、見つけられなかった本当に怖いし……」

 

 実際何をさせられるかが全く持って未知数ということを考えると、師匠を見つけておきたいところ。

 ……だけど、この能力でどうやれば。

 

 使えそうなのは、『気配感知』・『音源感知』の二つ。

 師匠は、確実に『気配遮断』と『消音』は使っているはず。

 

 そう考えると、この二つの相性はとことん悪い。

 

 ほかに使えそうなのはないし……。

 

 あ、でも、消音って確か、自分自身から発せられる音と自信が触れている物にしか効果はなかったはず……。

 

 見つける鍵があるとすれば、多分消音。

 

 ……あ、風魔法でここら一体に強風を吹かせて音があまりしないところに師匠はいるかもしれない。

 

 でも、師匠のことだし、すでにそれは予想済みのはず。

 そう考えると、草むらや茂み、木の上にはいないかな。

 いるとすれば……

 

「地下、かな」

 

 地面に寝そべっている可能性も否定はできないけど、この森は基本的に自然豊かな場所だから、草が生えていないところのほうが珍しいくらい、生い茂っている。

 

 草を毟ってそこに寝そべっていたとしても、師匠はそんな馬鹿なことはしないはず。

 師匠の隠蔽能力は完璧すぎるほどに、わからない。

 仮に、その痕跡があったとしても、それはブラフのはず……。

 

「……うん。やっぱり、地下だ」

 

 問題は、どのあたりって言うところ、かな。

 わざわざボクに探させている以上、遠くに隠れるようなことは、さすがの師匠でもしないはず。

 そう考えると、ボクの近くにいると考えるべき。

 

『ふっふっふ! さあ、イオ! あたしがどこにいるか、わかるかな!?』

「って、師匠!?」

 

 どこにいるかを考えていると、まさかの探している本人の声が聞こえてきた。

 

 お、おかしくない?

 

 あの人、何で自分からバレに行こうとしているの?

 しかも今、下から声がしたんですが。

 

 ……やっぱり、地下みたいだ。

 

「師匠、地下にいるんですか?」

『さあ、それはどうかなー? というか、イオには見つけられないんじゃないのかー?』

 

 やけに挑発的なセリフを吐く師匠。

 ……ちょっとむっとしたので、ボクも一言。

 

「そうですか。……じゃあ、今日の夜ご飯、ドラゴンのステーキ出そうと思ったんですけど……いらないですよね」

『なぬっ!?』

 

 あ、反応した。

 

 正直、能力やスキル、魔法のどれを使っても見つからないのなら、いっそ言葉で釣ってしまおうということです。

 ……まあ、こんな芸当ができるの、師匠相手だけだけど。

 ちなみに、どうでもいい情報かもしれないけど、ドラゴンのステーキは師匠の好物です。

 と同時に、高級食材でもあります。

 

 師匠は、今までの仕事で稼いだお金で生活しているので、それなりに節約しながら暮らしている。

 そうは言っても、かなり余裕があるわけだけど。

 

 だとしても、ドラゴンのステーキを毎日買うのは不可能で、第一肉を買っても調理ができず、焦がすだけで終了となってしまうため、どうしてもボクが必要、となってしまうわけです。

 暗殺者は頭も使うってことです。

 

 ……まあ、こんなにあほらしい方法で気配察知能力も何もあったものじゃないけどね!

 

 誰も、言葉でおびき寄せるのはなし、なんて言ってないわけだから、ルール違反ではないですよー。

 

「しかも、今日は一番美味しい、喉元を焼こうと思ってたんですが……」

「わかった! 気配察知能力は合格! 合格にするから! どうか、どうかステーキを!」

「わっ!」

 

 師匠、まさかのボクの影から出てきた。

 たしかに、地下と言えば地下だったけど……まさか、影の中にいたとは。

 

 影の中って、真っ暗だし、ちょっとしたことで動くしで、とどまるのが本当に難しいというのに、完璧に使いこなしてるんだよね、師匠。

 

「食べたい、ですか?」

「あたぼうよ!」

「……わかりました。じゃあ、ドラゴンのステーキ出してあげますね」

「っしゃあ!」

 

 拳を突き上げて、喜びを表現する師匠。

 ……食欲に忠実だなぁ、この人。

 

「さて、イオ」

「は、はい」

 

 喜びの表情から一転。

 真面目な顔になる師匠に、声が上ずってしまった。

 

「とりあえず、気配察知能力は合格だ。それじゃあ、最後のテストな」

 

 あ、やっぱりテストだったんだ、今までの。

 やった自分が言うのもなんだけど、あの方法で合格ってありなの?

 ……師匠だし、まあ、あり、なのかな?

 

「戦闘だ」

「…………勝てる気しないです」

「ま、やれるだけやってみよう。もしかしたら、勝てるかもしれないぞ?」

「………………はあ。わかりました。やります」

「そう、その意気だ。じゃあ、始めるぞ」

「はい」

 

 お互い、距離を取って、それぞれの武器を構える。

 

「じゃあ、コインを投げるから、これが落ちたら開始な」

「わかりました」

「よし。いくぞ―。……それ!」

 

 ピンッとはじかれたコインが空中で回転しながら、地面に向かって落下していく。

 とてつもない緊張感がボクの中にはあった。

 

 すぐに出れるよう、『瞬刹』を使用。

 ゆっくりと進む時の中で、地面に当たるのを待つ。

 

 そして、ついにその時が訪れる。

 

 コインが地面についた瞬間、お互いに駆け出した。

 

 こうして、ボクと師匠の直接対決の火蓋が、切って落とされた。

依桜の異世界に滞在していた三年間の話をやってほしいかどうか

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