異世界帰りの少年の大事件 ~TSした元男の娘の非日常~   作:九十九一

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47件目 師匠に報告

「それで、師匠? さっき、頭の中に直接会話をしていたあれって……なんですか?」

 

 お買い物を済ませ、師匠の家に帰るなり、ボクはそのことを問いただしていた。

 もちろん、ボク的にはちょっとだけ怒っている。

 なにせ、急に声かけられた上に、恥ずかしい思いもしたんだからね。

 

「は、ははは……い、イオ、顔が怖いぞ?」

「誤魔化さないでくださいね?」

「……あれは、あたしの持つ暗殺者の能力だよ」

 

 また、ボクの知らない師匠の能力が出てきたんだけど。

 本当に、師匠は一体いくつの能力とスキルを持っているのか、とても気になる。

 

「あれは『感覚共鳴』って言ってな。特定の相手……まあ、ある程度の信頼関係を築けている相手と、直接会話ができたり、五感を共有できるって言う能力だ。複数人で行う暗殺にもってこいの能力だな」

「そ、それはすごい能力ですね……って、うん?」

 

 ちょっと待って?

 

 その能力……ボクがまだ修業時代の時に、ボクに使われていないよね?

 

 ボクがお買い物に行ってきて、なぜか買ったものを言い当てたこととか、ボクしか使っていないはずの、お風呂用品が切れていることを言い当てたこととか、妙にボクについて詳しいなって思ったこととか……まさかとは思うけど、この人……

 

「師匠。もしかして……覗いてました?」

「そ、そんなことするわけないじゃないか!」

 

 スーッと目がボクを見ていない。明らかに、別の方向を見ている。

 

 つまりこの人……その『感覚共鳴』って言う能力を使って、ボクの買ったものとか、ボク専用の日用品が切れていることとか、実は少し寂しくてたまに泣いていたこととかを把握してた、ってことだよね?

 

「……師匠。あのテストの時、その能力……使いました?」

「いや、それは使ってない。面白くないし」

 

 そっちは使わないんだ。

 でも……

 

「いま、それ『は』って言いましたね?」

「はっ、しまった!」

 

 見事に墓穴を掘った師匠。

 この人、ボクのことを抜けてるって言ってたけど、師匠も十分抜けていると思うんだけど。

 

「……師匠。何に、使ったんですか?」

「え、えーっとだな……あ、あたしの個人的趣味、だぞ?」

「……そうなんですね~? じゃあ師匠。使用用途は? もちろん、いかがわしいことに使っていないのなら……言えますよね?」

「………………はい」

 

 師匠は正直に自白した。

 

 今まで、ボクのことをよく知っているなと思った出来事はすべて、『感覚共鳴』によるものだそうだった。

 正直当時から不思議だなぁ、と思っていたけど、まさか能力で覗きをされていたとは思わなかった。

 

 でも、普通男のお風呂覗いたり、日常生活を覗いたり、トイレを覗いたりする?

 ありえないよ、この人。本当にありえない。

 そう言うのって、逆なんじゃないのだろうか? いや、やろうと思ったことはないけど。

 やってバレたら、確実に殺されるだろうから。

 

「まったくもぅ……師匠、次からはそう言うことに使わないでくださいね?」

「はい……」

「次使ったら、ボク師匠のお世話しないで、王城に行きますからね」

「そ、それだけは勘弁!」

「だったら、使わないでくださいね? 使ったとしても、緊急なときとかにしてください」

「わかりました」

 

 ちゃんと反省してくれたかどうかはわからないけど、師匠だしちゃんと信用してあげよう。

 なんだかんだで約束はちゃんと守る人だし。

 むしろ、約束はちゃんと守れ、って脅してくるレベルだしね、この人。

 

「それじゃあ、この話はお終い、ということで」

「ああ。それで、イオ? お前、何か困ったことがあったのか?」

 

 話を終わらせた瞬間、いきなり師匠がそんなことを言ってきた。

 何も言っていないのに、困ったことがあったかどうかを尋ねる。

 

「ジトー」

「いや、今回は違うぞ!? 『感覚共鳴』は関係ないぞ!? ただ、あれだ。お前、困ったことがあると、右手で左手首を掴んで揉むような動作があるぞ」

「え?」

 

 言われて自分の手に視線を向けると、たしかに右手で左手首を掴んでいた。しかも、ちょっと揉んでる。

 無意識でやっていたから、気づかなかった……。

 

「んで? 悩みがあるなら、師匠に話しなさい」

 

 言い方が普通に命令なんだけど……。

 まあ、でも、一応言っておいたほうがいい、よね?

 

「えっと、実は、ですね……ボク、プロポーズ、されました」

「ほうほう。イオがプロポーズねえ……プロポーズ……プロポーズか」

 

 ちょっとした微笑み程度だった師匠の表情が、どんどん眩しい笑顔に変わっていってる! こ、これって……

 

「……ふむ。そいつ、殺すか」

 

 やっぱり!

 

「ちょっ、師匠!? なんでいつもボクに何かしらがあると、殺そうとするんですか!」

「は? だって、あたしの可愛い可愛いイオが、どこの馬の骨とも知らん奴に取られるとか、我慢ならん。だから当然、殺すだろ。で? そいつは何者だ?」

「正直、師匠が殺そうとしている時点で、相手の命の安全を考慮すると、言わないほうがいい気がしているんですが」

 

 言ったら、本当に暗殺しに行きそうなんだもん、この人。

 言おうものなら、確実にセルジュさんが殺されてしまう。

 

 一国の王子様が暗殺されるって言うのは、本当に洒落にならないし。

 でも、ね。

 

「言え」

 

 師匠の笑顔の圧力は、本当に怖いんです。

 言わないと、酷い目にあわされるのはボク。

 ボクが勝てる相手なら、別によかったんだけど、師匠には一生かかっても勝てないと思うので、ボクが撮る行動と言えば……

 

「お、王子様、です……」

 

 言うしかないです。

 本当に、しんどいんですけど。

 セルジュさん、ごめんなさいっ! あなたを売ってしまいましたぁ……!

 

「ほほ~う? 王子、ということは……あのクソ野郎の息子、か。ふむ……王城の警備はどれほどのものかは知らんが……まあ、このあたしを止められるやつなんざ、人間にはいないだろうな」

 

 な、なんて自身なんだろう。

 一体どこからそんな自信が出てくるの?

 

 あと、人間にはいないって言ってたけど、最初の仕事の時、普通に魔王城に侵入したとか言ってたけど、それだったら魔族の人たちでも師匠を止められない気がするんですけど。

 

 少なくとも、今代の魔王さんも歴代最強って言われて、ボクは死闘の末に倒したけど、そんなボクを一瞬で倒しちゃう師匠は、絶対におかしい。

 

「暗殺しないでくださいよ!」

「えー? だって、イオに悪い虫が付くのって、普通にやだし」

「過保護ですか!」

「何を言ってるんだ。あたしが過保護に見えるか?」

「見えます」

 

 断言した。

 ボクが異世界召喚で嫌な目にあっていたことに、師匠は怒り、その張本人の一人である、王様暗殺を企て、プロポーズされたらそいつを殺す、と言い出すんだよ? どう見ても過保護だよ。

 普通の師匠は、ここまでしないよ。

 

「いや、これくらい普通だろう」

「普通じゃないです! 普通の人は、プロポーズした人の暗殺を企てたり、ボクがこっちに来ることになった張本人の暗殺を企てませんから!」

「いや、しかしだな……可愛い可愛いイオを嫁に出すってのはな……」

「ボク、了承してませんから」

 

 あと、嫁って言うのはやめてほしいです、師匠。

 ……ちょっと一瞬、ウェディングドレス着た姿を想像しちゃったけど。

 

「そうなのか?」

「そりゃそうですよ。ボク自身、この先もこっちに来るかわかりませんし、今回の滞在だって、七日間だけですよ? しかも、七日経ったら、自動的にボクは帰ることになりますからね」

「ま、それもそうか。そんな、次いつ来るか分からない世界の奴と結婚するとか、普通は考えないわな」

「それ以前にボク、男ですしね」

「ま、見た目はとびっきりの上玉って感じだしな。そのクソ王子は、見る目がある」

 

 王様はクソ野郎。セルジュさんは、クソ王子、と。

 この人、気に入らない相手は、クソってつける癖でもあるの?

 

「むしろ? イオがモテないわけないと思うがな、あたしは」

「いや、ボクなんて全然ですよ」

 

 ……あ、いや。学園祭二日目の打ち上げの際に、結構告白されてたっけ。

 あれって……ミスコンで優勝したから、ってことだよね?

 

 告白してきた人には、女の子も混じっていたけど、大多数男だったし……。

 ボクが元男と言うのを踏まえて告白してきたのだろうか?

 ……わからない。

 

「お前、自己評価低くないか?」

「え? ボクはそれくらいだと思ってるんですけど」

「あー、うん。オーケーオーケー。んで、パーティー、だったか? お前、ドレスとかは?」

 

 なぜか呆れられた。しかも、微妙に流されたよね?

 まあいいけど。

 

「あ、それならさっき衣装合わせをしてきて、当日受け取る手筈になってます。というか、そっちが本命だったんですけどね、今日」

「ふむ……なあ、イオ。そのクソ王子がお前を初めて見た時……お前、何を着ていた?」

 

 うっ、また笑みが深まった!

 これ、本当にセルジュさんが危ない気がするんですが。

 いつ殺されてもおかしくない状況なんですけど。

 

「ど、ドレス、です」

「……そうかそうか。で、クソ野郎も見たのか?」

「ま、まあ……ボクを王城に連れて行った理由がそれでしたし、見てましたけど……」

「よし。……やっぱり殺そう。その二人」

 

 ……もう、ダメだこの人。

 

「師匠。なんでそこまでして殺そうと?」

「あ? んなの、イオはあたしのものだからに決まってんだろ?」

「いや、ボクはボクのものな気がする――」

「うるせえ! あたしのものはあたしのもの。弟子のものはあたしの物。といか、弟子はあたしの所有物!」

「ジャ〇アンよりひどくないですかそれ!?」

 

 ここまで理不尽なジャ〇アン宣言は初めて聞いたよ!

 あと、人を物扱いしている時点で、本当にひどい気がするんだけど!

 

「まあ、とりあえず殺すとして……」

「いやいやいやいや! 殺しちゃだめですよぉ!」

「だって、ねえ? イオを取られたくないし?」

「……師匠の生活レベルが圧倒的に悲惨すぎて、ボクに頼りたいのはわかりますが。いい加減自立したほうがいいですよ? じゃないと、師匠、いつまで経っても結婚できませんからね」

 

 師匠が今歳いくつかは知らないけど。

 

 でも、以前部屋に入った時に、置いてある物や記録のようなものからして、四十は超えてる気がするんだけど……この人、高く見ても、二十代前半、低く見ても十代後半くらいに見えるほど若々しいんだよなぁ……。

 本当に謎すぎる人物だよ、師匠。

 

「う、うるさい! あ、あたしはいいんだよあたしは! つか、お前はどうなんだ? 好きな奴とかいるのか? 例えば……あたしとか、あたしとか……あたしとか」

 

 師匠しか選択肢がないのはなんでだろう?

 どれだけ、ボクにお世話してもらいたいの? この人。

 

「いや、師匠は……どちらかと言えば、手のかかるお姉さん、って感じなので、恋愛感情を持っているかどうかと言えば……ないですね」

「ぐはッ……!」

 

 なぜか師匠が胸を押さえて悶え苦しみだした。

 ど、どうしたんだろう?

 

「あ、あの、師匠?」

「い、イオ、こ、このあたし、を、た、倒す、とは……つ、強く、なった、な……?」

「何もしてませんよ!?」

 

 というか、昨日弱くなった? とか言ってきていたのに、まるで手の平を返したように強くなったって言うのおかしくない!?

 ボク、一体何をしたの!?

 

「い、イオ……言葉は、な。時として凶器になる、んだぞ?」

「自殺に追い込んだりもできますからね」

 

 実際、元の世界でだって、いじめによる自殺が多いし、SNSで誹謗中傷を書き込まれた人も、精神が病んでいき、そのまま自殺、って言うことだって、珍しくないレベルで発生していたからね。

 言葉が凶器、っていうのは、この世界の人たちよりも、ボクたちの世界の人のほうが理解しているよ。

 

「く、脈なしだったかぁ……いやしかし、諦めんぞ、あたしは……!」

 

 あれ、今師匠が何かつぶやいていたような……?

 気のせい、かな?

 

「師匠、とりあえず、一旦起きてください。起きないと、ご飯作りませんよ」

「すまん」

 

 は、早い。

 言い終えた瞬間には、もう立ち上がっていたよ、この人。

 食欲に忠実だなぁ。

 

「じゃあ、イオ、頼んだぞ!」

「はいはい。ちょっと待っててくださいねー」

 

 苦笑いしながら、ボクは材料を持って台所に向かった。

 

 

「はい、どうぞ」

「よっしゃあ、食うぞ!」

 

 完成した料理を、今か今かと待ちわびていた師匠の前に置くと、速攻で食べ始めた。

 

「う、美味い! なんて美味いんだ! この、程よい歯応えに、噛めば噛むほど溢れ出る肉の旨味! しかも、脂は全然しつこくなくて、あっさりしている! やはり、イオの料理は最高だ!」

「あ、ありがとうございます」

 

 急に食レポ始めたんだけど。

 最後にドラゴンのステーキ食べたのいつなの?

 

 ……たしか、焼くだけならできるけど、上手く焼けなくて焦がす、みたいなことを言っていたっけ以前。

 碌に家事ができないしなぁ、この人。

 

 そう思いながら、ガツガツとステーキに食らいついている師匠を見ると、ボクが帰った後が本当に心配だよ。

 

「あ、そう言えば師匠。パーティーに行くとき、師匠ってドレスとか持ってるんですか?」

「んぐんぐ……ごくんっ。一応な。これでも、暗殺者なんだぞ? 当然、パーティーに紛れ込んで、ターゲットを殺す、なんて仕事もあったさ」

「あー、やっぱりあるんですね、そう言う仕事」

「イオが思っている以上に、貴族ってのは面倒なんだよ。恨まれやすいし、いざこざが発生しやすいからな」

 

 下手に権力があると、そう言うことが起こった時怖いよね。

 ボクも、巻き込まれないようにしないと……。

 

「表面上はすごく親しくしているやつも、裏では呪い殺しそうな勢いで恨んでる、なんてざらだからなぁ」

「そ、それは嫌ですね……」

 

 そんな話を聞いていると、プロポーズ受けなくてよかったとほっとする。

 いやまあ、受ける気なんてかけらもなかったけど。

 

「だろ? 過去に、何度もそう言う依頼を受けてるからな。あたしとしては、貴族と関わり合いになりたくないんだが……まあ、無理だわな。あいつら、自分の私利私欲のために生きているようなもんだし」

「そ、そこまで言います?」

「そりゃそうだ。中には、クソ野郎からの依頼もあったからな」

「そうなんですか?」

 

 あの人の好さそうな王様が、暗殺の依頼を。

 う~ん、全く想像できない……。

 

「ああ。孤児院への支援金を横領している貴族がいてな。そいつを始末してほしいと、あたしに依頼をしてきた」

「……どこにでもいるんですね、そういう私腹を肥やしている人って」

「まあな。いなくなる日なんて、それこそ人類が滅んだ時くらいのもんだよ」

 

 それは元の世界でも言えることだよね。

 

 子供を商売道具にしか見ていない人もいるし、自分は何もせず、立場の弱い人間に貢がせたりする人もいれば、国のお金を横領する汚職政治家だっている。

 

 日本は比較的平和、なんて言われているけど、実際は治安がそれなりにいいだけで、政治家の人たちにまともな人はほとんどいないよ。

 

 足の引っ張り合いをするだけで、蹴落とすことしか考えてないように思える。

 

 国全体の大きなことが起こったとしても、対応は圧倒的に遅いし、無駄に税金を使うだけで、大した対策にすらなっていない。

 

「っと、話が脱線しまくったな。まあ、そんなわけで、一応あたしはドレスは持ってるから、安心しな」

「……そうですね」

 

 この一週間で、まさか貴族絡みの面倒くさいことに巻き込まれないと思うけど……王様主催のパーティーなわけだし、用心して行こう

 

 そう決心したボクだった。

依桜の異世界に滞在していた三年間の話をやってほしいかどうか

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