異世界帰りの少年の大事件 ~TSした元男の娘の非日常~   作:九十九一

92 / 469
91件目 師匠来校

 翌朝。

 

「師匠、起きてください。師匠」

 

 師匠の初仕事の日。

 いきなり師匠は寝坊しかけていた。

 ボクはまだ遅刻になる時間帯じゃないけど、師匠は今日から教師なので、挨拶をしないといけないらしい。

 それで昨夜、

 

「起きなかったら起こせ」

 

 と頼んできたので、こうして起こしに来たんだけど……

 

「すぅ……すぅ……」

 

 この通り。全く起きる気配がない。

 声をかけても、揺すっても、目を覚ます気配がない。

 向こうでもそうだったなぁ……。

 

 早朝から修業するから、あたしを起こせ、って言われたから起こしたのに、全く起きなかった。

 起こしたら起こしたで、なぜか殴られた。

 ……あの時は、本当に死ぬかと思ったよ。結構本気だったんだもん……。

 

「師匠、お仕事ですよ。師匠―」

「ん……なんだぁ? あさかぁ~?」

「朝です。今日から仕事をするんですから、起きてください」

「仕事……ああ、エイコに紹介してもらったやつか……ふぁあぁぁ……」

 

 珍しく普通に起きてくれた。

 今回は殴られることもなく、普通に起きてくれて助かった……。

 また殴らるのかと思って、内心恐々だったよ。

 

「ありがとな、イオ」

「いえ、師匠に頼まれたので、当たり前です」

「そうかそうか。いい弟子を持ったなぁ、あたしは。炊事洗濯に、朝起こしてくれるとか、本当、できた弟子だ」

「できれば、掃除と起床くらいは自分でやってほしいんですけどね……」

「師匠の世話をするのが、弟子の務めだ。違うか?」

「ちが……わない、です」

 

 違うと言おうとしたけど、何をされるかわからなかったので、結局言えなかった。

 チキンと言われても反論できないよ。

 

「そういや、教師、ってのはどういう服装で行くんだ?」

「そうですね……学校によると思いますけど、体育教師の人とかは、ジャージとかで通勤してますけど、師匠の場合は特に言われてませんし、普段着でいいんじゃないですか?」

「そうか? んだとすると……さすがに、運動の時と同じ服装ってのはまずいな。んー……ま、あれでいいか」

 

 と言うや否や、師匠が手を宙に伸ばすと、その手が消えた。

 

「し、師匠、それって……」

「ん? ああ、別になくなったわけじゃないぞ? これは、アイテムボックスだよ」

「師匠、使えたんですか……?」

「当然」

 

 う、羨ましい……。

 ボクなんて、女神様からもらったの言語理解だけで、ほかの能力やスキルは、基本的に師匠に教えてもらってたけど……アイテムボックスは教えてもらってないんだけど。

 

「そう羨ましそうな顔をするな。今度教えてやるよ」

「ほんとですか?」

「ああ。……よっと。やっぱこれだよな」

 

 そう言って師匠が取り出したのは、ノースリーブシャツにジーンズと、カーディガンだった。

 ……あれ、おかしくない?

 そう言った洋服って、向こうの世界にあったっけ……?

 

「その服、どうしたんですか?」

「これか? エイコから貰ったんだよ。あったほうがいいだろうって」

 

 なるほど、学園長先生が。

 び、びっくりしたぁ……てっきり、向こうの世界から持ってきたものとばかり思ってたよ。

 

「それじゃ、あたしは着替えてから下に行く」

「わかりました。朝ごはんはもうできるそうなので、できるだけ急ぎ目でお願いしますね」

「ああ」

 

 それだけを伝えて、先に下へ降りた。

 

 

 すぐに着替えて降りてきた師匠と一緒に朝ごはんを食べてから、すぐに学園へ。

 

「しっかし、珍しいものばかりだな、この世界は」

「向こうとは、全く別の発展の仕方をしてますからね」

「そうだな。水道と言ったか? 向こうにも似たようなものはあったが、あれは魔石を使ったものだったからな。魔法のない生活ってのも、不思議なもんだ」

「ボクからしたら、魔法がある生活が不思議でしたよ」

 

 電気もガスも通っていないのに、明りは点くし、火も出る。

 最初見た時はどうなっているんだろう、ってずっと考えてたなぁ。

 結局魔法だったわけだけど。

 

「でも、言語理解を習得できてよかったですね」

「ああ。これがあれば、会話に困ることはないな。手に取るようにわかるぞ」

 

 それは同感です。

 向こうでは勉強しなくても問題なかったからよかったけど、結局のところ、言葉がわかるだけのスキルだったからね。

 チート的な能力やスキル、ステータスを貰えたわけじゃなくて、いきなり人生ハードモードだったもん。きついなんてものじゃなかったよ。

 

「ところでイオ。さっきから、妙にじろじろ見られてる気がするんだが……殺ってもいいか?」

「ダメです! 気に入らないことがあっても、向こうのノリでやっちゃいけませんっ!」

「……そうか」

「……なんで残念そうなんですか?」

 

 露骨にがっかりされても、ダメなものはダメ。

 ……まあでも、師匠の気持ちは分からないでもない。

 じろじろ見られるのって、気持ちのいいものじゃないしね。

 ボクだって、毎朝道行く人に見られてるもん。鬱陶しいとまでは行かないけど、ちょっと嫌かな。

 

「というか、いつもこんな感じなのか?」

「いえ、いつもなら、もう少し視線は少ないと思うんですけど……師匠がいるから、だと思います」

「あたし?」

「はい。師匠、綺麗ですからね。人目を引くんですよ」

「なるほど。つまり、美少女と美女が一緒に歩いてるから、こんなに注目を浴びるってわけか」

 

 美少女って……。

 別に、ボクはそこまでじゃないんだけどなぁ……。

 

 それはそれとして……やっぱり、師匠って目立つんだよね……。

 暗殺者の能力をフルに使えば、人目を引くことはないんだけど、こっちの世界では、使う機会なんて、ほとんどないからね。

 

 師匠って、すごく美人と言うのもあるけど、不思議なオーラがあるから、容姿も相まってすごく魅力的に映る。

 そんな人が暗殺者なんだから、世の中分からないよ。

 

「ところで、学園ってのはどんなとこなんだ?」

「え? 色々なことを学ぶ場所って……」

「いや、そうじゃなくてな。学園そのものだ。それは、学校と言う一括りでの回答だろ?」

「あ、そう言うことですか。うーん、そうですね……イベントが多い場所、でしょうか」

「イベント? 祭りのことか?」

「はい。最近だと、二ヶ月前に学生主導のお祭りがあったり、つい最近だと、ハロウィンパーティーがありましたね」

「なんだ。学生ってのは、貴族もいるのか?」

「パーティーと言っても、貴族がいるような、派手なものじゃないですよ。そもそも、貴族はいませんからね、この国には」

 

 似たような制度なら、昔あったけど。

 

「そうなのか。ほんとに、別世界なんだな」

「ほかの国に行けばないこともないですけど、この国では、基本的に人は平等ですよ。階級とかはありません」

「ほう、いい国じゃないか」

 

 師匠が感心するのもわからないわけじゃない。

 向こうの世界の国のほとんどは、自分の爵位を笠に着て、自分よりも位の低い人を虐げるような人が多かった。

 リーゲル王国は例外だったけど、隣の帝国とかはまさにそういう国だった。

 階級至上主義って言うのだろうか。

 

 とにかく、自分の地位を守ろうとして、冤罪をかけたり、ボクたちのような暗殺者に依頼して、邪魔なライバルを消そうとする人ばかり。

 

 ……もちろん、ボクも暗殺者だったので、依頼はいくつかこなした。

 でも、ボクが殺したのは、人を人とも思わないような、所謂外道と呼ばれるような人ばかりだった。

 もちろん、更生の余地ありと見れば、殺しはしなかったけど……そんな人はほとんどいなかった。

 

 そう言う人が多いということを考えれば、日本は比較的マシと言える。

 ……最も、お金ですべてを解決しようとする人もいるから、悪いところがないとは言えないけど。

 

「あー、視線が鬱陶しい……やっぱ、殺っちゃだめ?」

「ダメです」

「チッ……しゃーない。ここは、イオに免じで見逃してやるか……」

「……いつか師匠が本当にやるんじゃないかって、ボクは気が気じゃないですよ」

 

 理不尽な師匠だもの。

 その時は、ボクが全身全霊で止めよう。

 ……返り討ちに会って終わりだと思うけど。

 

 

「おはよー」

 

 校門のところで、ボクと師匠はそれぞれ別れた。

 師匠は職員室へ。

 もちろん、手続きとかも色々あるらしいけど、ほとんどは学園長先生がやってくれているそうだ。

 異世界の人だからね、仕方ないね。

 

「お、依桜。お前、また噂になってんぜ?」

「噂?」

 

 教室に入るなり、態徒が気になることを言ってきた。

 噂って何だろう?

 

「女神の横にいる黒髪美女は誰だって」

「……あー、なるほど」

 

 師匠のことか。

 やっぱり、誰から見ても美人だからなぁ……噂になるのも当然かぁ。

 

「まあ、その黒髪美人の人だけならまだしも、依桜と一緒だった上に、距離感が近かったから、余計噂になったみたいだけどね」

「そう、なんだ」

 

 別々に行く、って言う案が最初はあったにはあったけど、師匠は学園の場所を知らないので、案内がてら一緒に登校・通勤していた。

 

「で、依桜君、あの人は誰なの?」

「あー、えーっと……例の、ボクの師匠、です」

「「「「マジ?」」」」

「マジです。向こうの世界から来ちゃったんだよ」

「そんなことありえるの? 向こうからくるとか」

「物語だと、主人公と一緒に、っていうパターンばかりだけど、向こうの人だけで来る、ってまずないよね?」

 

 たしかにそうだね。

 仮にこっちに来るとすれば、その場合は何らかのアイテムを使ってくるか、主人公が一緒にいて、それでこっちに来るっていうパターンが多いけど、今回はどちらでもない。

 

 原因は、学園長先生と王様。

 その結果、向こうの人がこっちに来てしまう現象が起こっている。

 向こうの世界は今頃、行方不明者が出て、問題になっていそうだけど……。

 

「……じゃあもしかして、世界各地で見つかっている、誰も知らない言語を使っているのって……」

「……うん。向こうの人」

「そうか……。ん? じゃあ待てよ? 依桜の師匠は大丈夫なのか? 会話とか」

「あ、うん。問題ないよ。師匠には、言語理解のスキルを習得してもらったから」

「そんな簡単に手に入るものなのか?」

「ボクの場合は、女神様にもらったものだけど……ボク以外に使っている人は見たことないね。多分、習得は難しいと思うよ。師匠はちょっと異常だし……」

 

 あの人の場合、ちょっと見聞きしただけで、あらゆる能力、スキルを習得しそうだし。

 実際、言語理解のスキルは、一瞬で習得してたしね。

 

「まあ、会話が通じるなら問題ないか」

「だね。これで、異世界の言語を使われたら、依桜君を通さないといけなかったもんね」

「……ボクも、通訳は疲れるから嫌だから。それと、ボクがあの言語を使えることは他言無用でね?」

 

 世間的にバレたら、色々と面倒くさいことになりかねないので、みんなには言わないように釘をさしておく。

 この四人なら言うことはないと思うけど、一応、念のためね。

 

 クラスメートにも幸い聞かれていないようで、安心。

 木を隠すなら森の中。

 HR前の朝は、基本的に騒がしいからね。それを利用すれば、聞かれることもない。

 

「そういや、今日は朝会があるらしいんだが、依桜知ってるか?」

「あ、それ多分、師匠のことだよ」

「え、どうして?」

「うーんと、まだこの話はみんな知らないんだけど……師匠、体育教師として赴任するんだよ」

 

 そう言うと、四人の顔が凍り付いた。

 ……まあ、だよね。

 幼馴染、もしくは友達が異常な強さを身に着けるきっかけになった、世界最強の人が体育教師として来るわけだし……。

 

「大丈夫なの、それ?」

 

 少し震えた声で、未果が大丈夫なのかと訊いてきた。

 

「……分からない、かな」

 

 だって、師匠だもの。

 少なくとも、いきなり全力ダッシュ一万本をやらせるような人だし……大丈夫か大丈夫じゃないかと聞かれれば……何とも言えない。

 

「でもよ、美人なんだろ? その人」

「ま、まあ。すごくね……おかげで、朝から視線が凄かったよ」

「でしょうね。美少女と美女が一緒になって歩いていれば、見られるに決まってるもの」

 

 また美少女ですよ。

 ボクは違うと思うんだけどなぁ……。

 

「それに、依桜は目立つからな。銀髪碧眼だし」

「そうだねぇ。仮に、パーカーを着て、顔が見えなくなるくらいにフードですっぽり覆いかぶさっても、きっと目立つよね」

「まあ、銀髪碧眼なのは、元々だったしな。今さらじゃね?」

「生まれた時からの付き合いだからね。その辺りは慣れてるんだけど……いい加減、女の子って言うのにも慣れないといけないのかなぁ」

 

 むしろ、もう慣れ始めちゃってるけど。

 慣れるのは、決して悪いことじゃないけど、男だったと思うと、すごく複雑なんだよ。

 

 キーンコーンカーンコーン……

 

「っと、そろそろ朝会か。じゃあ行くか」

「そうだね」

 

 ここでチャイムが鳴ったので、ボクたちは講堂に向かった。

 

 

 講堂に入ると、もうほとんどの生徒がすでに集まっていた。

 早いなぁ。

 とりあえず、ボクたちも自分たちの席に着く。

 こういう時、椅子があるっていいね。

 

 小学校、中学校は、体育館の床に座っていたから、お尻が痛かったよ。

 それに、今の姿だと、パンツが見えちゃいそうでね……。

 

「生徒諸君、おはよう!」

 

 しばらく座って待っていると、学園長先生が壇上に表れ、挨拶をしていた。

 い、いつの間に。

 

「さて、今日急遽朝礼が入って、何事かと思っていると思う。噂では転校生なんじゃ? とか言われているけど、転校生が来たわけではない」

 

 きっぱりと言うと、目に見えて落胆する生徒が多く見受けられた。

 どうやら、転校生を期待していた人が多かったみたい。

 たしかに、急な朝会って、転校生の紹介って言う場合もあるからね。

 

「まあまあ、そんなに落胆しないで。転校生が来たわけではないが、新しい先生が赴任してきた」

 

 その瞬間、講堂内がざわつき始めた。

 見える範囲内にいる生徒の顔を見ると、期待していると言ったところかな?

 こんな変な時期に、転校生ではなく、新しい先生が来ると言うのだから、騒がないほうが珍しいか。

 だけど、ボクはその先生がどういう人か知ってるしなぁ……すごく理不尽な人だし。

 

「みんな知っての通り、体育教師の瑚梨沢先生が、家の都合などで海外へ行かないといけなくなった。こちらとしても、この時期にいなくなるのは困るので、新しい先生を呼ぶことにし、今日からこの学園で務めることになる。ちなみに、女性だ」

『うおおおおおおおおおおおおおっっっ!』

 

 にやりと笑いながら言うと、男子のみんなが騒ぎ始めた。

 た、単純……。

 逆に、女の子のほうは、少しがっかりしている人や、男子のみんなに、冷たい視線を向ける人、騒いでいる人たちと同様に騒ぐ人がいた。

 

「落ち着け落ち着け。その先生は、基本的に体育の実技方面だけど受け持つので、その辺りは覚えておくように。……さて、前置きはここまでにして。ミオ先生、お願いします」

「ああ」

 

 学園長先生が師匠を呼ぶと、堂々とした姿勢で師匠が壇上に上がってきた。

 ……あの人、絶対に気配遮断と、消音を使ってたよね。

 今、どこからともなく現れたように見えたんだけど。

 何してるですか、師匠……。

 

「あー、今日から体育教師として赴任した、ミオ・ヴェリルだ。まあ、よろしく頼む」

 

 師匠の挨拶はすごく簡素だった。

 まあ、師匠だし……。

 むしろ、長い自己紹介をする師匠なんて、全然想像できない。

 

『や、やべえ、めっちゃ美人なんだけど』

『あんな綺麗な人が、体育教師とか……最高かよ』

『てっきり、かなり歳が上の人かと思ったけど……若くない?』

『いくつなんだろ?』

『というか、体育教師に全然見えないんですけど』

『しかもあのスタイル……依桜ちゃんとは違った方向性で、スタイルいいよね……』

『均整がとれてるというか、バランスがいいよね』

『どこの授業を受け持つんだ? 内のクラスとか、受け持ってくんねぇかなぁ……』

『わかる。年上美人の指導とか受けてみたいよな……』

 

 美人な師匠の登場で、さらに講堂内が騒がしくなる。

 たしかに、体育教師には見えないよね、師匠って。

 

 見た目だけなら、知的美人って感じだから、理数系のイメージが付きそうだけど、ボクの場合は、体育のイメージしかないです。

 頭もいいけど、身体能力が異常すぎるもん、あの人。

 

 できることなら、ボクのクラスの体育を受け持たないでほしい。

 ……まあ、学園長先生が強制的にそうさせるだろうし、師匠も師匠でボクのクラスを希望しそうだよね。

 

「ミオ先生は、日本人ではないけど、この通り、日本語はペラペラなので安心してね」

 

 と言う感じで、講堂内がざわつきながらも、問題が起こることはなく、朝会が終了した。




 どうも、九十九一です。
 体育祭の話が一向に終わる気配がない……長い。長すぎる。寄り道しすぎた……。
 それに、行き当たりばったりで書いていたせいで、ちゃんと完走できるか不安になっています。大丈夫なのか、この作品……。
 とりあえず、明日もいつも通りですので、よろしくお願いします。
 では。

依桜の異世界に滞在していた三年間の話をやってほしいかどうか

  • やってほしい
  • やらなくていい
  • どっちでもいい
  • 知らぬ
  • 単体作品でやってほしい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。