拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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実際にテレポートが使えたら色々大変そう。


9 大森林調査・下

 朝日が夜の気配を完全に振り払っても、俺は考え事の殻から抜け出る事が出来ていない。

 夜警の役目を忘れはしないし、周囲の警戒を怠る事もない。

 それでも、獣も魔獣も現れる事も無かったのは有り難い。

 あ、たまには真面目な俺です。

 

 

 

 遮るもののない陽光に照らされて、先輩2人が目を覚ます。

 天気が良いのにかまけてタープすら使わなかったんだが、冷静に考えてどうなんだろう?

「おはよぉ、リリスちゃんありがとうね」

 大きく伸びながらジェシカさんが挨拶をくれる。

 大きく揺れる豊かな丘陵の存在感に見とれていると、むっつりとした顔のタイラーくんが俺を見ていることに気が付く。

「……まだ成長するかも知れんし、あまり悲観するな。どんなに絶望的でも、希望を持つのは悪い事じゃない。」

 仮面で表情が見えてない関係で、野郎には俺が羨んでいるように見えたらしい。

「やかましいわ!」

 これは図星を突かれた様に見えるかもしれんが、実際はお前を妬んでるんだよ!

 羨ましいなこの野郎!

 

 

 

 朝から考え込んだり落ち込んだり羨んだり妬んだり、我が事ながら忙しい事である。

 朝食は干し肉のスライスとパン、それと水。

 身体(からだ)が3周りくらい、上下左右全方位に小さくなった影響か、随分食事量が減った。

 燃費が良くなったんだと、喜ぶことにしよう。

 

 ふと気付くと、タイラーくんが果物を俺に差し出している。

 いや、なんか言えよ。

 たまたま気付いたけど、お前さん、俺が気付くまで黙ってるつもりだったのかよ。

「……なんだよ」

 恐る恐る、問う。

「果物は、良いぞ」

 真面目な顔というか、無表情で言われると(こえ)ぇよ。

「あ、ああ、ありがと……」

 受け取らないとずっとこのままっぽかったので、それもまた怖い。

 俺が受け取ると、何を納得したのか頷いて、自分も果物を食べ始める。

 ……あー、朝食には果物が欠かせない人?

 意外っつーか、うーん。

 受け取った薄紅色(うすべにいろ)の果物は見た目を裏切らず、酸味の強いりんご、って言う味で、さっぱりして美味かった。

 

 

 

 朝食を終え、身支度を済ませ、薪に砂を掛けて、いざ出発。

 

 あ、生ゴミは穴を掘って放りこみ、収束魔力束(しゅうそくまりょくたば)(弱)で灰にしてから埋めました。

 

「んじゃー、行くよー」

 出発準備完了の俺の合図に、タイラー&ジェシカがそれぞれ俺の腕を取る。

「方向は、このまま真っ直ぐでいいんだよな?」

「ああ、問題ない」

 俺が確認すると、タイラーくんが自信を持って答える。

 今ひとつやらかしそう感が漂うが、まあ良い、信じよう。

 

 昨夜言い訳にうっかり使ってしまったテレポート。

 魔獣撃退の時にも普通に使っていたが、激戦の中での見間違いか勘違いだと思われたらしく、特に誰にも咎められていなかったのでしれっと隠していたのだが。

 うっかりとは斯くも恐ろしいのだ。

「んーじゃあ跳ぶよ? まずは1回」

 使う以上、移動時間の短縮に成らねば意味がない。

 出来る限り遠く、マーカーが届く限界まで。

 遠すぎるとマーカーが青くなり、跳べそうな気がしない。

 赤くなるところを測ると、大体2~3キロくらい、だと思う。

 地平線の手前、くらいで、今の俺の身長が160有るかどうかだから、多分地平線までの距離は……あ、地平線は地形も関係してくるから一概には言えないのか。

 今度、街の城壁とかを使って測ってみよう。

 

 それは兎も角、あんまり大きく見積もるのも危ないな。

 ……どうせ連続で跳ぶ事になるし、1回でどれくらいとか、あんまり関係ないか。

 そろそろタイラーくんが騒ぎ出しそうなので、跳ぶとしよう。

 俺は穏やかに、意識を集中させた。

 

 

「よっとぉ。こんな感じだけど、あんま判んないだろ? 跳んだとか」

 距離を無視どころか、身体(からだ)を動かす事も無いので、下手したら移動した実感も無いかもしれない。

 景色がいきなり変わってビックリする、くらいかな。

 そう思いつつ振り向くと、青い顔で俯くタイラーくんが。

 え? と思う間もなく、逆側の腕ごと身体(からだ)を引っ張られる感覚。

 そちらに目を向けると、フラッフラなジェシカさんが俺の腕にしがみついている。

「え? え、なに?」

「の……」

 え? No?

 タイラーくんがなにか言おうとして詰まり、呼吸を整える。

「脳が追いつかん」

 あんだって?

 

 一度休憩ということで、フォーメーションを解除。

「急に切り替わる景色に、脳の処理が追いつかん」

 タイラーくんが少し落ち着いたのか、それでも青い顔で言う。

 あー。

 俺も跳び過ぎるとなるかも知れないが、俺の場合は跳ぶタイミングを自分で決めている分だけマシだろう。

 いつ跳ぶか決める事が出来ず、判断する事も難しい2人が、しかも事前情報無しで一瞬で景色が切り替わったら、脳が混乱して具体的な失調を起こすことも有るのかも知れない。

「便利な方法だと思ったんだけどな……これはちょっとキツイわね」

 タイラーくんより更に顔色の悪いジェシカさんがこぼす。

「お前は、これはどうやって克服したんだ?」

 タイラーくんの問いかけに、俺は考え込む。

 

 ゲーム内ならいざ知らず、リアル……かどうかは一旦置くか。

 細かく言い始めるとややこしくなるだけだし。

 兎も角、実際に使った時は、頭に血が昇ってた筈だから……。

 多分、俺、気持ち悪いとかそう言うのは無視してたと思う。

 んで、連続で跳んでたな……此処より景色が大きく変わりそうな、街の……ああ、殆ど街の上だったか。

 で、それをどう伝えるか?

 うーん、強引に纏めると。

 

「比較的短い距離を、連続で跳んで慣れた」

 端的に言うと、そう言う事だよな?

 極論すぎ?

「……慣れか……」

 タイラーくんの途方に暮れた声というのも初めて聞く。

 本人には悪いが、ちょっと面白い。

 イタズラ(ごころ)に後押しされ、俺は悪い笑みで言葉を放つ。

「もう、サクッと連続で跳んじゃって、有無を言わせない感じかな」

 追い打ち気味に言うと、小さく笑う。

 流石に今のテレポートで気持ち悪くなってる状況で、「じゃあ俺も」とはなるまい。

 諦めて、徒歩で移動しようじゃないの。

「……成程」

 そんな俺の思惑なんか完全無視で、タイラーくんが立ち上がり、そして俺は嫌そうな顔をする。

「それで行くぞ」

 嫌そうな顔が俺とジェシカさんの2つに増えた。

 

 

 

「成程、確かに。慣れる物だな」

 距離を短めにしての、有無をも言わせぬ連続ジャンプ。

 俺の時はある意味極限と言うか、気にしてる余裕もない緊急事態だったし、()()の言ってる場合じゃなかったんだけど。

 コイツ、単純に俺のドヤ顔が気に食わないとか、そういうレベルの気に入らなさで荒行に挑んだ。

 プライド高い……じゃないな、これはアレだ。負けず嫌いだ、ただの。

「まだちょっと気持ち悪いけど、ちょっと慣れたかも。あー、でもこれキツイわぁ」

 巻き込まれたジェシカさんも、数度連続で跳ぶ事で慣らされたらしい。

 キツイとか言いながら、もう顔色もそれ程悪くない。

「……」

 一方で、一番慣れてる筈の俺はと言えば。

「よし、じゃあもう大丈夫だ。一気に行くぞ」

「……」

 タイラーくんが手を引くが、大地にうつ伏せに五体を投げ出した俺は反応したくとも出来ない。

「いつまで寝てるんだ、行くぞ」

「うるせぇ。テレポート酔いとMP枯渇の反動で、気持ち悪いんだよ。アホほど跳ばせやがってこの野郎……!」

 

 ゲーム内でMPが切れても、こんな風に倒れたりするような事はない。

 単に魔法が使えなくなり、スキルの関係で防御力が極端に落ちてしまう程度である。

 ……いや、それはそれで大問題なんだけども。

 それは置いても、じゃあ今の俺のこの有様の原因は何かと言えば、ゲーム内の出来事と現実での事象の差、と言う奴だ。

 リアル……にテレポートで跳ぶことで、慣れてるとは言えノーダメージで済む筈もなく、負荷が蓄積した所にMP切れ。

 更に言えば、俺だけが単身で跳ぶ時と違い、3人で跳ぶとなると、どうやら使用するMPも相応に増加するらしい。

 ただでさえ「使い慣れている」とは言い(がた)いのに、気づかぬ内に増えた消費量により、一気にMPが底をついてしまったのだ。

 単体で使うのも、決して少ない消費量じゃないってのに。

 結果、この身体(からだ)になって初めてのMP切れで、それも多分マイナスに突き抜ける勢いで枯渇してしまった為、ちょっとハードにその結果を突きつけられた感じに。

 

 MP自体は、会話中に回復しつつ有るのは感じられたのだが、キツめの二日酔いに似た頭痛はガンガンと響く。

 多分、もう跳ぶ事は出来る程度には回復したと思う。

 心底跳びたく無いってだけで。

 

「はーい、リリスちゃんも元気に()ってみようねー」

 タイラーくんが引いてる、その反対の腕をジェシカさんが引っ張る。

 ちょっとまって、元気に逝けって、酷くないです?

 この、上級冒険者共(ぼうけんしゃども)が。

「現地についたら休んでるからな、俺」

 ホントは「(感嘆符)」付きで強めに言っているつもりなのだが、頭痛の所為で勢いが出ない。

 両側から抱えられると言うか、引っ張り上げられている形になって地味にキツイので、観念して立ち上がる。

 

 

 

 余裕が無いので跳べる限界までのテレポート数回で森林の(へり)に到達出来た。

 タイラーくんとジェシカさんが慣れる為の連続テレポートが、何だかんだで距離を稼がせてくれていたらしく、思ったより大森林に近付いていた。

 と、安心したのが間違いだった。

 

「もう一度だ」

「だから、どれくらいの距離だよ……!」

 タイラーくんの指示で(こま)かいテレポートにシフトし、担当エリアを探す。

 クリスタルが反応してくれれば目的地到着なのだが、タイラーくんの手にあるソレは反応が無い。

「通り過ぎてたりしてねェだろうなァ!」

「む、その可能性も有るのか」

「お前なァ!」

 耐えきれなくなった俺はそのやり取り直後のテレポートの着地と同時に転倒。

 ベテラン冒険者組は咄嗟の機転で俺の手を離し、転倒を回避。

 俺だけが大地とお友達に。

 ……チクショウメ。

 

 大地に沈む俺の耳に、小さな、澄んだ鈴の音が響く。

「む。この近くらしい」

 もう起き上がるのが嫌な俺の耳に、タイラーくんの声がその音の正体を告げる。

 こんなにうれしくない目的地到着も無い。

「近くだから、先に行くぞ。追いついてこい」

 タイラーくんの無表情な声が俺の傍らを通り過ぎる。

 

 はあ?

 

 おいおいおいおい、この状態の俺を置いて行くんじゃねぇ!

「あー、ホントに近そうだから、休憩してから来てね?」

 ジェシカさんは気を使った(ふう)に言葉を置いて、歩いていくようだ。

 気遣われてる(ふう)の俺はと言えば、顔を上げる余裕も無い。

 今魔獣が出てきたら、手加減してやれる自信が無い。

 色んな意味で。

 

 

 

 10分程で、何とか立ち上がれる様にはなった。

 しかし、テレポート酔いとMP切れが重なるとホントにしんどいな……帰りは気をつけよう。

 

 見た目のんびり、実際は息も絶え絶えに歩いて、近くとか言いながら結構遠くで作業しているらしいタイラーくん達の方へ歩く。

 ポーションでも飲めば多少違うかと試すが、元々MPの回復効果なんかないし、アルコールを取り込んでの酔いじゃないから当然のように効かない。

 寧ろ、無理に呑んだので胸焼けする始末。

 まぁ、仕方が無い。

 急いだ所で、俺が細かい調査の役に立てるとは思えない。

 開き直ってのたのた歩くが、妙に遠くのタイラーくんは、こちらに注意を払う事もしない。

 あの野郎、どうやって仕返ししてやろうか。

 そんな事を考えたお陰か気が紛れたらしく、歩くにつれて気持ち悪さが少しづつ遠退いていく。

 回復するなら、俺も仕事を手伝うとしますかね。

 

 大森林外縁の調査。

 やることは予め決められた範囲で、不審な形跡か魔獣そのものを見つける事。

 形跡は兎も角、魔獣そのものは難しいんじゃないかな?

 森の中なら居るかもだけど、外側まで来てるもんかな。

 まあ、ハンスさん含めた冒険者ギルドの幹部だって、その辺は織り込み済みなんだろう。

 

 ここ2~3日(に さんにち)で付いた疵などの痕跡を探す。

 地道な作業だ。

 一応俺も、便利魔法シリーズに含まれていた「探索(ディテクト)」とか言う魔法はある。

 だが、ゲームはもちろん「向こう」でも使ったことがない、というか魔法そのものを使ったことがないので、これでホントに役に立てるか全く不明である。

 試してみようかと思うが、まだこの辺りは他の冒険者の担当エリアだ。

 勝手な事をしちゃあいけない。

 

「酷い目に遭ったぜ」

 せいぜい不満げな声と不機嫌な顔――仮面で見えないが――でタイラー組と合流。

「来たか」

 見た目通りの無愛想さでタイラーくんが短くお出迎え。

「あ、もう大丈夫なの? 無理しちゃ駄目よ?」

 ジェシカさんは心配そうな顔をこちらに向けてくれる。

 基本優しい人だし、良いなあ、と、思わなくもないが。

 

 さっき、しれっと置いていかれたことは忘れないぞ。

 

「んで、調査はどうなってんだ? 俺は火力系ウィザードだから、そういう作業苦手なんだよ。何をすれば良いのか判らん」

 言いながら森の方を見るが、何が怪しいのか怪しくないのか全く判らない。

 探索(ディテクト)がどの程度の範囲をカバー出来るのか判らないが、これは思った以上に地道で大変な作業になりそうだ。

「まあ、調査はクラスで向き不向きが出るのは仕方がない。こういう仕事は俺達の様な斥候(スカウト)クラスに任せろ」

 さり気なくタイラーくんの(クラス)が判明。

 俺達、と言うのはジェシカさんもそうなのか、タイラーくんを含めた斥候(スカウト)に任せろ、と言う意味なのか。

 ボケた振りして聞いてみるか。

「ん? 俺達? ジェシカさんも斥候(スカウト)なのか?」

 言いながらジェシカさんの方に改めて顔を向ける。

 地図を片手に、何やら色々書き込んでいる様子。

 その佇まいと、ちょっと目を離した隙に音もなくさっき居た場所から移動している辺り、間違いない気がする。

「ええ、私は純粋な斥候(スカウト)ね」

 ちょっとだけ作業の手を止め、ちょっといたずらっぽく微笑んでみせる。

 うーん、あしらいの端々に見え隠れする大人感。

 たまに子供と一緒にはしゃいでるけど。

 

 って、純粋な? 私は?

 

「じゃあ、あっちは不純な斥候(スカウト)か……やらしー」

 特に意味はないが、思い付いたまま口にすると、不意を突かれたようで吹き出すジェシカさん。

「不純なって……不純……ふくく……!」

 変なツボに直撃したらしい。

「お前らな……俺は暗殺者(アサシン)系の斥候(スカウト)だ。とは言え、基本技能は持ってる」

 苦虫を噛み潰した様な顔をこちらに少し向けるだけで、タイラーくんは調査の手を止めない。

 ソツがないのは良いけど、今キミ、なんか不穏な事言ったよね?

暗殺者(アサシン)て……また物騒な(クラス)だな。俺の後ろに立つんじゃねーぞ」

「俺を後ろに回さないように気をつけるんだな」

 肩を竦めて言ってやると、面白くもなさそうに答えてくる。

 悪いやつじゃないが、なんと言うか、意外な職選択なのな。

 

 そのうち、コイツが暗殺者(アサシン)なんか選んだ理由も、聞くことが有るんだろうか?

 

 あと、そのうち言わなきゃいけないのだろうか。

 暗殺者(アサシン)だからって、ウサギを狩るのに走って近づいて斬るとか、しなくて良いんだよ、と。

 

「あ、俺も探索(ディテクト)使ってみて良いか? 昨日覚えたんだけど、使ったらどうなるのか判らんから」

 本職に任せた方が良いとは思うが、手持ち無沙汰で暇なので、多少なり手伝いが出来るかと声を掛けてみる。

「使ったら何が起こるか判らない魔法とか、危険な予感しかしないんだが」

 すると、手を止めたタイラーくんがこっちに向き直った。

 一瞬なんだこの野郎と思ったが、言われてみると確かに、禁呪(きんじゅ)感が凄いな。

探索(ディテクト)は周囲の違和感を強調する感覚(センス)系の魔法だ。使い慣れないと、強調されてもそれが何か判らない事もあるぞ」

 えー、なにその小難(こむずか)しい感じの魔法。

「唱えたら自動で怪しいとこが光るとか、そういう魔法じゃないのかよ」

 なんか思ってたのと違う、そう思って口を尖らせると、タイラーくんが再び口を開く。

「効果はそんな感じだが、なんで怪しいのか、パッと見て理解(わか)るか? つまりはそういう事だ」

 タイラーくんの講義に、珍しく棘がない。

「あー、調べるトコは教えてくれるけど、なんでそこを調べるのかは考えろって事か」

 中々、楽させてくれない魔法らしい。

 魔法とは一体。

「考えるにも、経験が必要になるという事だ。まあ、より深く使えるようになれば、探索(ディテクト)で知ることが出来る情報も深くなる」

 元来、この男は人に物を教えるのが好きなのかも知れない。

 より深く、か。

 それは熟練度と言う意味だろうか?

 或いは、魔法に振り分ける魔力量的な意味で、とか?

「お前さんも探索(ディテクト)を使ってるのかい?」

「無論だ」

 ふむ。

 今の俺が熟練度をどうこうすることは出来ないから、じゃあ、使う魔力を増やしてみるか?

 魔力って、MPの使用量って認識で良いのかな? 何か違う気がしなくもないけど。

 ……今関係ないけど、HP90万そこそこに対して、MPは22000くらい。

 歪過ぎやしないか俺のステータス。

 ホントに俺、魔導士(ウィザード)なんだろうな? 自覚も自信も無いぞ?

 ……うん、それはそれで良いとして、どうやってMPの使用量なんて増やせば良いんだ?

 目を閉じて、魔法に集中してみる。

 発動を直前で止めて、リソースを多く振り分けるイメージ。

 ステータス画面で見慣れた、MP総量の容量の2割を使うイメージ。

 テレポートと違って「酔う」感じも無し。

 魔法の効果が広がる様子をイメージしながら、ゆっくりと目を開ける。

 

「お前……何をしたんだ」

 目を開けきる前に、タイラーくんの声が聞こえた。

 

 ふわりと広がる緑色の光が木々を、葉の一枚一枚を、足元の草の表面を撫でる。

 半径10メートルくらいか、思ったより広がった光が通り過ぎた後に、数カ所引っ張られるような「反応」に気が付く。

 範囲が普通と比べて広いらしいことはタイラーくんの反応で、何となくだが理解(わか)った。

 しかし熟練度が不足しているからだろう、「深い情報」(など)というものは感じられなかった。

 まあ、それは仕方が無いのだが、あちこちに反応したポイントをいちいち調べるのが大変そうだ。

 そう思った時に、なんというか、一段と強く引っ張られるような、()()()()()感覚が俺に眼を向けさせた。

「今のは何だ? そもそもの範囲が尋常じゃない……それに、()()()使()()()()()()()()()()()()()って……」

 俺が目を向ける先に体ごと向き直りながら、タイラーくんが呻く様に声を押し出す。

「私にも理解(わか)ったわ。何箇所か反応が有ったけど、1個強めの反応が有るわね」

 地図を手にしたまま、ジェシカさんもこちらに歩いてくる。

 

 そう、ジェシカさんが今言った通り、俺の使った探索(ディテクト)の魔法は数カ所に反応したが、その中でも特に大きく反応した箇所があった。

 

 外側に面した……この大木の。

「……魔獣と言っても、獣と言うことか」

 コレほど大きな跡なら、今オレが何かしてもしなくても、タイラーくんかジェシカさんなら見つけていただろう。

 たださっき調査している位置から離れているので、もう少し後にはなったと思うが。

「マーキング跡、ね。ホントにあの魔獣のマーキングか判らないけど、体毛も付いてるし」

 恐らく、身体(からだ)(こす)り付けた跡。

 体躯が巨大なので、必然(ちから)も強く、木の表面を大きく削り、所々に体毛がこびり付いている。

 地図に場所を書き込むジェシカさんとタイラーくん。

 念の為、体毛もサンプルとして採取している。

「リリス。悪いが此処を起点に、もう一度探索(ディテクト)を頼む」

 タイラーくんの指示に、俺は即座に目を閉じ、意識を集中させる。

 さっきMPを2割も使っただろうって?

 

 わんさと敵に囲まれる、そんなハクスラゲー出身ウィザードのリソース回復力、舐めないで貰おうか。

 

 テレポートの時は、「酔い」の蓄積にMP枯渇が(とど)めになり、動けない程の体調不良に苛まれた。

 だが本来は、MPが(から)になることは珍しい事ではない。

 この世界に来て、感覚が色々変わった弊害でテレポートに副作用が発生したが、本来はそもそも「それほど多くもない」MPをやりくりして戦うクラスでも有るのだ。

 今のビルドにたどり着くまでに、何度MPが枯渇したかなど、いちいち数えていない。

 

 それで戦える秘密は――まあ実際は立ち回りが重要で、それがマズいと枯渇したら死ぬ訳だが――MPの()()()()()に有る。

 (から)になった所で、()っといても1分程度で回復する。

 ノービススキルで敵を叩けば、もっと回復は早い。

 しかもノービススキルはMPを消費しない。

 そんな特性を持っているが、今はそんなスキルを使わずとも、さっきの会話の間にMPの回復は完了していた。

 2割程度の回復なぞ、斯様に一瞬なのだ。

 

 そして、さっきと同じ規模で広がる探索(ディテクト)

 

 この近く、少なくとも半径10メートルの範囲には、細かい反応は有るが大きな反応は無い。

 念の為に細かい反応の有った所を2人が確認していく。

 流石にそういう実地の調査は、経験のない俺では判らない部分だ。

 さっきのマーキング跡のように、わかりやすい痕跡とは限らないのだから。

 出入りする場所を特定できれば、調査が楽になる。

 俺は適度にリソースの回復を行いながら、タイラーくんやジェシカさんの指示に従って探索(ディテクト)を次々と使用し、痕跡の発見に全力を注いだ。

 

 まさか、攻撃魔法以外の、しかも「この世界」の魔法で役に立てると思わなかったが、だからこそやりがいがある。

 夢か現実かわからないし、夢の確率のほうが高いとは言え、この世界で俺に出来ることが有る、出来ることが増えるのは喜ばしい事だった。

 張り切りすぎてバテないように気をつけながら、俺は覚えたばかりの新しい魔法を使いまくったのだった。

 

 

 

 3人で探索(ディテクト)を掛けまくり、昼までにはある程度の調査が済んでしまった。

 結果、俺達の担当したエリア内で、出入り口と思しきマーキングが有ったのは2箇所。

 一部か全部か判らないが、此処から出て街へ向かったという事だ。

 街へ向かい、街の外で薬草を採っていた子供達を。

 

 ざわりと胸中に湧き上がりそうになる殺気を押さえつける。

 無闇に暴れないと決めてある。

 襲われ、殺されたのは冒険者ギルドの年若い冒険者。

 仇をとるのは俺達の仕事だ。

 そう、冒険者(おれたち)の。

 

 血の気の多い冒険者(なかま)達の仕事を、俺が1人で抱えちゃ悪い。

 

「意外だな。てっきり、森の中に駆け込むものかと思ってた」

 森を眺めながら、簡単な昼食を摂る。

 俺は朝と同じメニュー。

 そんな俺に、タイラーくんがバナナそっくりな果物を突きつけながら言う。

 っていうかバナナだコレ。

「暴走したらハンスさんがおっかねえよ。それに、暴れてぇのは俺だけじゃないんだし」

 ハンスさんを筆頭に、グスタフさんと気のいい仲間達や、数少ない、挨拶を交わす程度の仲の、他の冒険者の顔が脳裏を通り過ぎていく。

 バナナを受けとり皮を剥きながら、答える。

「出てきた分に関しては、全部纏めて(はい)にしてやるけどな」

 そう笑うが、森から巨大な獣の気配は無い。

 本心で言えば今すぐ、この森を焼き払ってやりたい。

 だが、さっき考えたことをもう一度考え、知り合った中で気のいい冒険者達の顔を思い浮かべ、心を落ち着かせる。

 子供達の顔を思い浮かべ、あんまり心配掛けられないなー、とか考えながらバナナに齧りつく。

 普通にうまいな、うん。

 

 

 

 魔獣が出てくるようなら即座に(はい)にするつもりで構えていたのだが、思ったよりも担当エリアの調査が早く終わったんで、タイラーくんの提案で早々に引き上げることに。

 

 曰く。

 自然発生の魔獣だったら偶然の遭遇という線もあるが。

 しかし、もしも黒幕が居た場合、ここで魔獣に出会うと言う事は、その魔獣は命令を受けて見回りに来ている可能性がある。

 そいつを倒すことによって黒幕が攻勢に出てくるのも面倒だが、守勢に回り、最悪住処を移動されると面倒くさい事になる、と。

 

 成程もっともな話だけど、それって、他の冒険者が出会っても同じ事では? 

 そう思う俺に、タイラーくんが説明してくれる。

「この依頼(クエスト)に参加する他の冒険者は、運が悪くなければ勝てるか撃退出来るだろう。だが、お前は単身の癖に戦力が過剰だ。この森に居る奴が街へ侵攻しようとしてるかは不明だが、まあそう仮定するとして」

 ふんふんと頷きながら、真面目に授業を受ける俺。

「仮にお前がその黒幕の立場だとして、だ。そんな、自分の手駒を1人で壊滅させるような化け物じみた相手と、まともに戦うと思うか?」

 ふむふむ。言われてみれば、もしも俺がそういう立場で、敵にそんな化け物が居たら、逃げるわな。

 だけども。

()っても、それは前提として、敵さんが俺の実力を知ってる必要があるんじゃないか? こないだの魔獣は俺が全部塵(ぜんぶちり)にしたし、情報持ち帰った奴が居たとは思えないんだけど」

 なにせ全力の攻撃を叩き込んだのだ。

 そう易々(やすやす)と逃げられたとは思いたくない。

 俺がそう言うと、タイラーくんはメガネを直しながら言う。

「本当に1匹も逃していないのか、と言う疑問も有るが。それ以前に、戦場の確認や必要な報告をさせる役割のものを、前線に置いとく理由は無いだろう?」

 ……おお、なるほど、言われてみれば。

 言われて俺は得心する。

 黒幕は後方も後方、下手すると森から出ていない可能性すら有る。

 だったら、あの狼型の魔獣をけしかけ、指示を出し、かつ場合によっては前線の様子を伝えさせる者を間に置けば、まあ便利だろう。

 テレパシー的な能力でも有れば、伝達役をいちいち往復させる手間も省ける。

 

 万が一ヤバい敵が突っ込んできてその伝達役がやられたとしても、自分が直ちに危険になる可能性は減るし。

 

「んじゃあ、俺の存在はこっそりあの戦いで確認されてて、マークされてる可能性は有るのか。そうなると、成程、俺が暴れちゃうと……」

 なるほどね、と、俺は頷く。

 そんな俺がここで魔獣の迎撃に本気出しちゃったりしたら。

「即バレるな」

 それで逃げられて、どっか別の場所で悪さされても気分が悪い。

 黒幕が居ても居なくても、この大森林でケリをつける。

 そのために、今は過剰な刺激を与えるのを避けるという訳だ。

 

 

 

 昼食と並行して地図の書き込みの確認をして、タイラーくんとジェシカさんは報告の抜けはないと判断、荷物を纏めて帰還することに。

「帰りはテレポートとやらが有るから、夕刻までは帰れるか?」

 ごく簡単にコイツは何を言い()しやがるかな?

「途中で細かく休憩させろ。幾ら何でも、休憩無しで跳んだら死んでしまう」

 MPが尽きないように気を使いつつ、限界まで跳ぶ、コレが出来れば大丈夫だが、正直そんな器用な事ができる気が全くしない。

 原因は目の前にいる2人。

 こいつら、テレポートに慣れたら慣れたで急かすようになりやがった。

 

 調子狂わされたらMP管理が雑になる。

 非常に嫌な予感がするので、跳ぶにしても毎回MP残量を確認し、余裕の有無は見ておこう。

 

 きちんと管理出来れば、タイラーくんの言う通り、夕方くらいまでには帰れるとは思うが、余計な事を言うとホントに急かされ兼ねない。

 帰りは慎重に帰ろう。

 

 

 

 結局帰りに4回ぶっ倒れ、その都度休憩をとり――しかし万全の体調には戻せず――街に付いたのは、すっかり夜。

「使えない……」

「あぁ⁉ お前、言うに事欠いてこの野郎!」

 夜間は門が閉まる。

 門前の広場で、俺達は悪態を()きあいながら野営の準備である。

 野営だし、見張りも建てるのだが、すぐそこに大門があり、防壁の上では衛兵が警戒してくれている。

 警戒っていうか、俺とタイラーくんの仲良しコンビのじゃれ合いを見て笑ってる衛兵も居る。

 こっちは良いから仕事しろよもう!

 

 夜間は、余程やんごとなき方々の特使とかそういった証の有る者でもなければ、例えこの街出身の冒険者であろうとも中に入れないのがルール。

 そんな感じで衛兵さんが眼を光らせてくれるので、半端な場所で野営するくらいなら門の前まで来たほうが安心して眠れる。

 

「あー、頭(いて)ェ。悪いが先に休ませてもらう、交代の時間で起こしてくれ」

 タイラーくんとじゃれて遊んでいたのだが、キャンプの準備も整い薪に火が入ると、俺は夕食もそこそこに横になった。

 晩飯も朝昼と同じメニューだし、起きてから食おう。

 そう思いつつ、簡単な寝床を地面に設え横になると、俺の意識は急速に深い所へ潜っていく。

 

 

 

 タイラーくんの声で眼を醒まし、見張りを交代した俺は昨夜と同じく見張りで周囲を警戒しつつ。

 やはり昨夜と同じ疑問を胸中に、朝日が星々を追い払い、遠く稜線を浮かび上がらせる様を眺めて。

 昨日に続いて答えを見つける事が出来ず、今日も俺は、自分の立ち位置を保留する事しか出来ないのだった。




勢いだけの行動は失敗に繋がりがちだし、夜の考え事は暗くなりがち。

この小説は、大体夜間に勢いだけで考えられてます。
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