そんなお話。
太陽も出たし、衛兵さん達も門を開けたり交代していたりと動き出し、今日が始まるんだなぁ、
後輩冒険者の
4日分の食料を買ったものの、2日半で帰ってきたので食料が余っているが、まあアイテムボックス? バッグ? どっちだっけか……。
兎に角、ソレのおかげで腐ることがないので安心だ。
服ごと
タイラーくんが特に文句を言わなかったのは、ジェシカさんがどうせなら「銀のウマの骨」での朝食を希望したのと、今ギルドに行っても時間が早すぎて、ハンスさんも来てないだろうという事で。
だったら、と、俺達は悠々と「銀の馬の骨」へと踏み込むのだった。
今日はデザイン違いの軍服といつもの仮面。
見た目が変わっただけで
魔法って便利。
便利は良いのだが、やはりこう、異世界モノお決まりの台詞は湧いて出る。
そろそろお風呂入りたいよ、魔法で綺麗になるって言っても、やっぱ風呂は大事だよ。
例の新居のお風呂がものすごく楽しみです。
「リリスちゃんって」
やはり「銀の馬の骨」の飯は美味い。
2日半ぶりの子供達に囲まれ、そんな事を思いながら幸せに浸っていると、ジェシカさんがニコニコと俺を眺めている。
「干し肉とパンが好きなのかと思ってたけど、ちゃんと美味しいご飯を美味しいって思えるんだねー」
酷くないです?
「あのね、ジェシカさん。外に出て、安全でもない環境で食べるのに、凝った物の用意なんかしないでしょ」
好きで干し肉齧ってた訳じゃないんだから。
嫌いでもないけれど。
歯ごたえが有るから、アレ噛んでるだけでお
「……意外と考えていたんだな」
スープを味わいながら、タイラーくんが心底驚いたように呟く。
「いい加減確認しとかないといけないと思うんで聞くけどな? お前、俺を何だと思ってるんだ?」
食事中なので仮面のない俺は、嫌そうな顔を隠しもせずに尋ねる。
「出来の悪い、口も悪い妹かな」
この野郎。
顔色ひとつ変えずに、人様を口も
挙げ句にコイツの妹とか、どういう系統の罵声だ。
「リリスお姉ちゃんが妹だったら、タイラーさんは私のお兄ちゃん?」
ティアちゃんが澄んだ眼でタイラーくんを見上げている。
やめて。
うちの子がお前の妹とか、勢い余ってお前を
「……ティアが妹になるなら、
自然にティアちゃんの頭を撫でるタイラーくん。
実に気が合うじゃねぇか、この野郎……!
「お前なんかにウチの大事なティアちゃんを預けられるかバァカ! 手ェ出すんじゃ
「いつもだが、お前の口調には品位がないな。しかも罵倒の語彙が少なすぎる。少しは本を読め」
「うるせぇよバーカバーカ!」
最早いつもの光景となったらしい俺とタイラーくんのやりとりを、宿の女将さんや亭主、それにジェシカさんやウチの少年少女達までもが笑顔で眺めている。
なんか俺の扱い、悪いとは
ポジションで言ったら、ペットじゃねえか? これ。
釈然としない気持ちで食事を終え、冒険者ギルドでハンスさんの出勤を待ちながらのんびりとバーの一角を占領する俺達。
報告は完全にタイラー組に任せるので、報告の為の地図と書類をチェックしている2人を眺めて、俺はする事が無い。
子供達はすぐに薬草採りに行こうとしたが、俺も一緒に行くということで、一緒にハンスさんを待って貰って居る。
「帰ってきたばかりだって言うのに、マメねえ、リリスちゃん」
俺が薬草採取に行くと知り、報告すべき事の抜けが無いか、説明に不足が無いかを再度確認しつつ、エールを呷ってからジェシカさんが口を開く。
……大丈夫なのそれ? 呑みながらとか、ホントにチェック出来てるの?
「確かに、仕事中の飲酒は褒められた物ではないな。特にジェシカは、呑みすぎるきらいが有るからな」
言いながら、ジョッキを傾けるタイラーくん。
……コントじゃねぇか。
ツッコまねぇからな?
そうこうしている間に、ギルドの入り口に熊さん登場。
手を振ってみせると、驚いた顔をしてからこちらに真っすぐ歩いてくる。
「まさかと思うが、戻ったのか? 早すぎると思うんだが?」
一応礼儀として仮面を外した俺の、その頭を掴んで、ハンスさんは不思議そうに尋ねる。
待て。なんで頭を鷲掴みなんだ。
「俺が吐きそうになって倒れたり
俺が端折りすぎたダイジェスト報告をすると、熊のハンスさんよりもウチの少年少女達の方が驚いていた。
そう言えば、その辺の話はしてなかったな。
なんかごめん。
「調査は出来たのか?
意外な事に、なんだか心配そうなハンスさん。
あれ? なんかそれはそれで居心地悪いんだけど?
「もう大丈夫だよ。調査は終わってて、そっちの2人が報告の資料纏めてる。バカ犬共のマーキング跡を見つけたぜ」
取り敢えず、体調不良で帰還して、調査終わってないとか思われたらイヤだったので、そうではないよとアピール。
俺の報告? に視線を巡らせるハンスさんに、資料を突きつける2人。
「ああ、すまんな。確認させてもらうが、先に規定分の報酬を持ってこさせる。追加に関しては、内容を確認してからだな」
資料を受け取り、地図に書き込まれた内容を軽く確認し、そこで漸くハンスさんは俺を解放する。
そう。今までこのオッサン、俺の頭を掴んだままだったのだ。
「それと、ハンスさん。俺とジェシカは訳有ってコイツ
頭を解放され安堵の溜息を漏らす俺と、資料を持って立ち上がろうとするハンスさんは、同時にタイラーくんへと顔を向ける。
いやまあ、暮らすのは事実だけど、報告要るのか?
特に後半、言わなくても良い気が……何かのケジメなのかな。
まあ、仕事減らすのは宿代かからなくなるし、臨時収入が有ったからだろうな。
二度と金貨つかみ取り大会はやんないけどな!
「うん? ああ、いやそれは構わんよ、緊急時に力を貸してもらえるなら、犯罪以外は好きにしてくれて良いんだが」
きょとんとした
ねえ、俺の目にはいつも通りの、徹頭徹尾無愛想なタイラーくんでしか無いんだけど?
ねえ、ちょっと
「随分楽しそうな顔じゃないか、何をするんだ?」
ハンスさん?
楽しそうに見えるの? あれが?
なに、ミクロン単位の表情の変化なの? 俺、そんなに眼が良くねぇよ?
なんであの仏頂面みて楽しそうな顔とか思えるの?
「ちび
あー、フレッドくん達の面倒見る感じなのね。
そう思いかけた所で、急に名前が出て驚く。
しかも、思わせぶりに言葉を切りやがって、なんなの?
そう思う俺が、取り敢えず手近な文句でもぶつけてやろうと口を開いた所で、それを遮る様にタイラーくん自身が、再度言葉を押し出してきた。
「クランを結成しようかと思ってる」
……なんて?
クラン結成。
ハンスは久しい響きに僅かに耳を疑ったが、目の前の男は本気なのだと悟ると上げかけていた腰を椅子に据え直す。
「詳しく聞こうか? 特に、リリスと、という辺りをな」
ハンスの左隣では、急に名前を出されたと
恐らく、今初めて聞いたのだろう。
そんな有様で
だが。
「詳しくも何も、言葉のままだ。クランマスターはリリス、その下に俺達」
初めて聞いたであろうリリスが、大口を開けてテーブルに手をつき、
テーブルの向こうでは、やはり驚いているジェシカ。
その周りで、子供達が不安そうに成り行きを見つめている。
この男は、あれ程言ったのにまだ。
言葉が足りないクセが治っていないらしい。
「子供達はどうするんだ? 随分お前たちに懐いているようだが?」
ハンスの言葉に、ハッとしたような顔でタイラーは、4人の子供達へと眼を向ける。
「当然、クランのメンバーとして迎えたい。勿論、本人の意思を優先するが」
タイラーの言葉に、安心したように相好を崩す4人。
あの様子ならば、子供達は大丈夫だろう。
ハンスは1人小さく頷くと、視線を隣に向ける。
「……当のリリスが、話に着いてこれて居ないようだが」
言われて全員が向けた視線の先では、ハンスの言葉に、壊れたリリスが動きを取り戻していた。
思いつきで行動する奴とか、ホント困るよね。
何よクランて。
予め相談くらい貰わないとさぁ。
ほら、急に家を買いたいとか言われても、言われたほうは急には反応出来ないじゃん?
そういう事だよ、うん。
うん? 最近似た事例を目にした?
へぇ、世の中には迷惑な人って居るもんだね?
「……当のリリスが、話に着いてこれて居ないようだが」
ハンスさんの声が不意に、明瞭に聞こえて、ハッとして周囲を見渡し、それから俺は事の発端に荒れた声を投げつける。
「おいタイラーお前この野郎!」
口調がどこかの芸人風になったが、そんな事は今どうでも良い。
「なんだ、
この野郎は自分が原因だとは、
「誰の所為だと思ってやがるんだコンチキショウ! クランとか、ひとっつも聞いちゃ居ねえぞ俺ァ‼」
テーブルを強く叩いてから、指先をタイラーに向けて突きつける。
「……嫌なのか?」
顔色を変えるような可愛げなんか欠片ほども見せず、タイラーはそもそも悪びれない。
「嫌かどうかの話はして
そりゃあ、俺の家の件も、周りを振り回したのだが、俺的には勝手に勘違いされた感じだ。
基本は「俺が個人的に」住むための家を買う
そもそもクランってのが、俺の知ってる「クラン」と
いや、同じだったら尚の事、それは「個人で」決める事柄じゃないだろう。
「なんで『
単なる思いつきの事に俺や子供達を巻き込むなら、幾ら
「子供達は元より孤児、身を寄せ合って必死に生きている。彼らはお前のクランに入ることに、抵抗は無いだろう」
勝手に話を進める様に見えるタイラーに激昂しかけるが、その俺の視界の端で、子供達が大きく頷いている。
視線を向ければ、不機嫌で酷いツラをしてるであろう俺に、精一杯の笑顔で頷いて見せている。
怒ってる俺が怖いのだろう、冷や汗が見え隠れしているのに。
……そんな顔されたら、怒れないじゃないの。
「俺もジェシカも、お前を気に入っている。すぐに暴走するし、目を離したらすぐ暴れるような危なっかしい奴だが、目を
少しも褒められている気がしないが、少なくとも「いつもの」軽口とは違うらしい。
タイラーの言葉に、今度はジェシカさんがのんびりと頷いて見せる。
「リリスちゃん、一緒にいると面白いからね。宛もなく旅から旅の冒険者も悪くないけど、落ち着けるならその方が楽だしね」
カラカラと笑い、ジェシカさんは大人の余裕を俺の方へ向けてくる。
「……なんでジェシカさんまで乗り気なのさ……」
げんなり顔の俺と、ニコニコ顔のジェシカさん。
役者が違う。
格が違い過ぎる。
この人にはこの先ずーっと、頭が上がらないんだろうな。
そう思うと、自然と溜息が漏れた。
「で、もう一度聞くが。嫌なのか?」
そんな諦めムードに肩まで浸かった俺に、タイラーくんの確認の声が振ってくる。
卑怯な野郎め……!
タイラーくんの、答えは判りきってる、
「……俺が怒ったのは嫌だからじゃなくて、勝手に話を進めるその態度に、だ。間違えんじゃねぇぞバーカ」
それで気が晴れる訳でもないが、言ってやらなきゃ気が済まなかったんだ。
深く大きく、今度は意識して溜息を
「運営はお前らに丸投げすんぞ」
「任せろ。組織の資金を食い潰すとか、やってみたかったんだ」
心底うんざり顔の俺と、全然楽しくなさそうなタイラーくん。
とても和解の顔合わせには見えないが、短い付き合いでお互いどころか、周囲がコレを日常の一幕と認識しているらしい。
どうにか纏まった
ごめんよ、君達はひとつも悪くないんだよ。
タイラーくんは、後程説教だ。
「やれやれ、纏まったか。クラン結成の届け出はキチンと手続きを踏めよ? 人数は5人からだが、成人前の子供はカウントされない。後2人頑張れよ」
もういい加減頭に入れるべき情報が増えるのは勘弁して欲しい、そう思いながら歩み去るハンスさんの背中を見送り、タイラーくんの顔に視線を戻した俺は思わず吹き出していた。
「子供が不可……だと……?」
心底驚いた顔のタイラーくんというのは、多分レアなものだと思う。
一度報酬を持ってきてくれたハンスさん――この人、意外とフットワーク
今日は東門の方に行くというので、5人でワイワイと移動。
キャイキャイとはしゃぎながら薬草を採取し、俺の能力……正確にはゲームのシステムだけど、ソレによって俺のアイテムボックスに、付近の薬草をごっそりと「回収」する。
子供達と薬草を探して俺が拾う、を何度か繰り返し、30分程度の時間で全員が12束納品できるほど採取し、ワイワイとギルドへと戻る。
薬草採りも、賑やかにやると楽しいねぇ。
え? 普通に採取しろ?
やだよそんな、腰に
ギルドで納品し、それぞれが報酬を受け取り、さてこれからどうすっかな、そう思っていると。
「リリス姉ちゃん、お家見に行こう!」
マシューくんが手を引いてくる。
「おいおい、まだ修繕中だし、
空いてる手をカレンちゃんに引かれ、俺はよたよたとギルドを出る。
何人か
媚びてるとか、そんなんじゃない、
そんなもん向けられる程、俺は愛想が良くない筈だし、そもそも心当たりも、と考えた所で気が付く。
……ああ! ありゃあグスタフさんトコの若いのか。
そう言えば出発前の晩とか、一緒に呑んでたか。
ちょっとづつ顔が広がっていく感じで、なんだかこそばゆい気持ちを味わいつつも、子供達に急かされるままに俺は歩く。
商店街を抜け、急に静かになった通りを曲がり、俺達は絶賛作業中の建物を、門の外から見上げる。
2階建てなのだが天井が高いようで、俺の知ってる2階建ての建築物より上背が有る。
「ねえ、僕たちは4人でひと部屋なの?」
見上げてくるマシューくんの頭を撫でながら、俺は答える。
「いや、基本は1人1部屋だよ? まあ、寂しかったら誰かの部屋に集まって寝ても
カレンちゃんとティアちゃんに飛びつかれ、ほんわかした気分でしばらく工事の様子を眺め、ギルド前の広場に向かって移動する。
適当に串焼きとか果実飲料でも楽しんで、のんびりしよっと。
ちょっと早めに宿に戻った俺は、難しい顔で腕組みしてベッドに腰掛けるタイラーくんを目撃する。
大変そうだねぇ、なんか知らんけど頑張ってね?
「待て。少し相談に乗れ」
ちっ。
逃げられなかったか。
「なんでい、相談って」
部屋だし、そもそも装備を外しても問題ない。
俺は仮面を外して、適当にタイラーくんの向かいのベッドに腰掛ける。
そんな俺とタイラーくんの周りには、子供達が腰掛けたり寝転んだり。
いいなあ自由で。
「あと2人だ」
真顔だし圧が強いし、もー。なんなの。
「言葉が足りないって、言葉が。もっと言葉を尽くせ、頑張って伝えて行こうぜ」
正直、言いたいことは何となく
でもホレ、聞いてるのは俺だけじゃない訳よ。
「メンバーがあと2人ってんだろ?
俺が言うと、丁度部屋に戻ってきたジェシカさんが頷きながら続く。
「そうなのよねぇ。まあ、最悪は適当なの2人誘ってクラン立ち上げちゃって、すぐに放逐しても良いと思うけど」
いつもの笑顔で、なんかとんでもねぇ事言い出すジェシカさん。
駄目だよ? そういう、禍根にしか成らないことは絶対駄目よ?
「考え方変えようぜ」
俺が事も無げに言うと、ポカンとした顔でタイラーくんが俺を見る。
「ウチのクランって、どういう集まりだい?」
俺が楽しげに質問を投げると、タイラーくんとジェシカさんが顔を見合わせる。
「仲間!」
「仲間ー!」
フレッドくんとカレンちゃんがほぼ同時に、手まで挙げて答える。
純粋なその意見は眩しいし羨ましい。
俺は2人の頭に手を載せ。優しく撫でてやる。
「だ、そうだぜ? 結局クランに何を求めるかなんて、人それぞれな訳だ。
俺にとってはどうなのか?
正直判らない。
なにせ、クランを結成するなんて、考えてなかった。
俺は少し背を反らせ、上体を両腕で支えるようにして軽く伸びをして、タイラーくんの方に改めて向き直る。
「別に躍起になって
つまり、ガンガン
そういうのは、現状で充分だから。
「俺が今仲間に欲しいのは、料理作れるやつと魔法道具を作れるやつ。こんなトコかな?」
虚を突かれたのか盲点だったのか、タイラーくんが目を見開いている。
珍しく考え込み過ぎなんじゃないの?
普段のタイラーくんだったら、絶対気づいてると思うんだ、こんなの。
「んで、そう言う連中って、研究やら開発やら修行やら終わるとか軌道に乗るとかするまで、色々大変なんじゃないかな? 具体的には、資金とかさ」
俺が言いたいのは気楽な仲間探しのアイディア、なんてもんじゃない。
そもそもがクランに求める事は違うが、結局どういう形であれ、メリットが有るからこそ参加するんだろう。
単純に冒険者なら、バランスの良いパーティで冒険したり、周辺の攻略を効率よくしたいとか。
そうで無ければ、冒険者しながら錬金術を研究してたり、魔法道具作ったり。
料理人として身を立てたい奴も居るかも知れない。
そういうタイプの連中は当然努力を重ねるが、必ずしも上手くいく訳でもないだろう。
例えば、実力は有るが、スポンサーが付かないとかね。
あとちょっとの資金で上手くいく、そう頑張ってる連中を取り込むのはある程度判り易いんじゃないかな?
「料理人目指してるんなら、ウチだったら料理作り放題だ。魔道具作ったりだったら、当然環境を整えるのも協力するし、その先に作ったもので商売できたら面白いだろうし」
だから、そういうのを、即物的なメリットを目の前にぶら下げて餌で釣れと、そういう現金な話をしているのだ。
具体的に、俺が欲しいと思える人材を指定しつつ。
こっちは食材やら資金を提供し、特に魔道具関連は商売にも出来ると。
異世界モノの定番、地球製品の異世界開発なら、アイディアは出せない事も無いのだから。
娯楽で言えば、トランプとか……この世界、紙も有るし。
紙に強度持たせられたら、案外作れそうじゃない?
んで、そう言う事になるのなら、欲しい人材もきちんと明言する必要が有るだろう。
欲しいと言えば、屋敷の管理を任せられる人も欲しいね、いずれは。
「後は、まあ、3人程度で、あの屋敷を維持できる人材が欲しいな。毎日掃除しろとは言わんけど、まあ、全体がそこそこ綺麗に保てるようにさ」
俺の話を、いつの間にかメモを取りながら聞くタイラーくん。
「成程……料理人か。それに魔道具作成のスキル持ちに『商品』を作らせるとは、考えたな。どういった物を作らせるんだ?」
ありゃ。乗り気なのは良いけど、出来るかは別問題だぜ?
まあ、言うだけならタダだし、良いけどさ。
「そうだな。例えば、改良された石鹸とか、食材やら酒やらを冷やして保存できる箱とか」
俺の言葉にピンと来ないのか、今ひとつな反応のタイラーくん。
「食材の保管? それはアイテムボックスでは無いのか?」
ジェシカさんもタイラーくんの隣で、同じ用に訝しげだ。
「いや、単純に保存するんじゃなくて、能動的に『冷やして』置く物さ。冷やすってのは、実際に出来ると馬鹿に出来んもんだぜ?」
例えば今はそういうアイテムが普及してないから、どうしても常温で飲むのが普通なエールが主流だが。
冷やすことが普通にできるようになれば、冷やして美味いラガーが台頭することになるだろう。
コレばっかりは完成したもので体感させないと、言葉での理解は難しいだろうなあ。
「ゆくゆくは開発は2人とかに増員しても良いだろうし、料理人も2人体制にして良いと思う。屋敷のメンテ役は他の人数が増えたら必要に応じて増員で」
使う部屋の掃除をメインに、使っていない部屋は最低でも週1で掃除しとけば、急な来客が続かない限り大丈夫だろう。
「お掃除は、僕たちも手伝えるよ!」
マシューくんが元気に手を挙げる。
良いね、頼もしいぜマシューくん!
「というわけで、最低でも欲しい人材が5人は居る訳だ。どうせあれだろ? あの家に住まわせろとか言うんだろ? だったらあの家に俺達が引っ越してから探しても良いし、焦ることもないだろ?」
マシューくんの頭を撫で回しながら俺が言うと、タイラーくんが大きく伸びをする。
「フン。一瞬は殺気を撒き散らすほど怒ってた癖に、案外前向きに考えてくれるじゃないか」
え、嘘。
やだなあ、殺気なんて出して無いっすよ……え、マジで?
「正直、タイラーくんが下手打ったと思ったわね。暴れだすんじゃないか心配したもの」
ジェシカさんまでそんな。
なんか怖くて子供達にその話題を振れない、聞けない。
「俺が怒ったのは内容じゃなくて、ちゃんと相談しろって事だからな。相談を持ちかけられてたら、混ぜっ返しはしても怒りゃしねぇよ」
だから、一応言い訳。
俺が言うと、タイラーくんが肩を竦める。
ホントに
……まあ、良いけどさ。
「敢えて言うなら、急いで欲しい人材は料理人だな。クランを立ち上げる事を説明して、その上で力貸してくれる様な奴が良いね。引っ越してすぐ、家で美味いもの
誤魔化しに、話を戻す。
誤魔化しの話題だけど希望しているのは本当。
腕が良ければ尚良し。
「成程、クランマスターの直々の指定だ、早速今晩にも調査に行くか」
調査? 今晩?
何やら晴れ晴れとした顔で、タイラーくんがメモを閉じる。
どうやら悩みはある程度晴れたのね、良かった良かった。
……ソレは良いんだけどね?
なんでだろうね? 今晩にも、って辺りに、すっごく嫌な予感がするよね?
もうさ。
飯食ってから移動するんだったら、飯も
「食事は素直に、『銀の馬の骨』のが美味い」
エールを水代わりに、タイラーくんが事も無げに言う。
あのな、料理も出してる店でそういう事を普通に言うんじゃないよ。
「んで、料理出来るやつを探してるんだって?」
何やら理由は判らないが、妙に上機嫌なグスタフさんが、俺の隣でジョッキを抱え込んでいる。
アンタはいつから
というかホントに冒険者か? 酒樽の妖精とかじゃないだろうな?
「うん、とは言え、都合よく見つかるとも思えないけどねぇ」
タイラーくんにはああ言ったが、実はコレが本音。
そうそう理想の人材が見つかるはずないじゃないの。
クランを立ち上げるのはこの際良いけど、急ぐ理由も無いし。
もっと言えば、俺は別にクランを必要として無い。
……寧ろ、なんでタイラーくんが強引とも言える程の勢いでクランを欲しているのかが
居場所が欲しいとか?
いやまさか、コイツがそんな感傷的な理由で動くもんかよ。
まあ、
「話は
「ああ、助かるよ。頼みます」
グスタフさんは顔が利く予感が有る。
そうでなくても既に世話になり過ぎてる、ちゃんと礼はその都度伝えねば。
「料理スキル持ちの冒険者か。それだけだったら該当は居るが、素行やら何やらに問題が有ると面倒だからな。慎重にもなるか」
そしてグスタフさんの反対側、俺を挟む位置にいるのはハンスさんだ。
最近ここに来ると大テーブルまで拉致されて、気が付くとなんかこのポジションなんだけど?
何? 俺、なんか悪い事した?
オッサンに挟まれると、俺、オッサンに戻っちゃうかも知れないぞ?
「まー、急がずのんびり構えとくさ。こういうのは、慌てるとロクな事がねェ」
既に飽きるほど言った気がするが、どうもタイラーくんがコレに関しては焦り気味な感がある。
事あるごとに言うくらいで丁度良いだろう。
焦らなくても、そのうち見つかるだろ、多分。
タイラーは焦りを隠せない自分に、微かな怒りを覚える。
ことこの件に関しては、リリスの言う通りだ。
慌てても良い事が有るとは思えない。
それが
自分が捨てられたのだと知った幼いあの日から、ずっと探し続けていた。
1年前にジェシカと出会い、手に入れたと思っていたモノ。
だが、お互い冒険者だからと、何処か冷めている部分は有った。
そんな半端な満足感に浸っていた日々、そして今。
考えられない程賑やかになった日常が、ジェシカと違う反応で正面からぶつかって来る新人が、何故か慕って懐いてくる子供達が。
タイラーの中で諦めかけていた、幼い頃の夢に光を当てていた。
家族。己の居場所。
それが手に入るのかも知れない。
そう思えば、
そんな事は、この仲間たちには――恥ずかしさから絶対に伝える事は出来ない。
特に、出会ったばかりの、まっすぐな瞳で、まっすぐに感情を向けてくる、その感情のままに走り出す妹分には。
どんな間違いが有っても、伝える訳にはいかない事だった。
何となく纏まった風だけど、リリスが丸め込まれただけ。
普通はこじれる。