拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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戦闘のない日々。
なのに忙しい(飲酒的な意味で)。


結成! クラン、その前に

 あー、なんかクランとか言うの、立ち上げるらしいですよ?

 俺は特に何もしなくて良いらしいですが。

 

 そもそもクラン立ち上げて何がしたいのか、皆目見えてこない俺です。

 

 

 

 家を購入して1週間。

 元々管理はきちんとされていたが、住むに当たって不具合の無いようにと、万全を期して1週間の点検と修理作業が終わり、俺達は無事引き渡しを終えた。

 色々買い揃えなきゃなぁ、そう思いながら屋敷の中をぶらつき、各部屋を見て回って気が付く。

 家具がある程度揃ってるね、このお屋敷。

 細かいものとかは別として、簡単な、寝て起きてに困るような事は無さそうである。

 

 下見の時に、こんなの有ったっけ?

 

「下見の時には無かったぞ。恐らく古くなったものは処分して、邸宅だけの販売の予定だったんだろうな」

 俺の疑問を受けて、タイラーくんが教えてくれる。

 教えて貰ったのは良いが、それは疑問が1個減って1個増えただけだ。

「じゃあ、なんで新しく設置されてるのん?」

 いや、別に気に入らないとかじゃなく、本当に純粋な疑問。

 少なくとも俺、サービスでこんな事されるような覚えが全然ないよ?

「いやー、サービスじゃないと思うなあ」

 マットレスのスプリングの具合を確かめているっぽい動きのジェシカさんが、ベッドに腰掛けながら言う。

「金貨2000枚も追加されたら、やらざるを得なかったとか、そんな感じじゃない?」

 はて? それは俺、修理代として支払ったつもりだったんだけど。

 首を傾げる俺に、タイラーくんが溜息を()く。

 なんで溜息なんだよこの野郎。

「元々の価格に、修理代が含まれていたんじゃないのか? そこに余剰が2000枚も出たから、その分で色々都合してくれたのだろう」

 タイラーくんのうんざり顔には腹が立つが、言われる事には納得。

 というか、都合してくれすぎ。

 先に風呂場を見てきたけど、めちゃめちゃ綺麗だし広いし、何あの素敵空間。

 その上で各寝室には寝具他が。

 チェスト1台、鏡台、机、もちろんそれぞれに椅子も。

 各部屋備え付けのクローゼットの扉も開けてみるが、俺はこの中で寝れると確信出来る広さだ。

「これは……純粋な普段着を買っても、しばらくはクローゼットが埋まらないぞ……」

 俺の精一杯の女の子らしさをあざとく押し出した、そんなつもりの台詞は、誰に聞き咎められることも無い。

 突っ込まれても恥ずかしいが、これはこれで寂しいものだ。

 

 それはさて置き、改めて、エライ(いえ)を買ってしまった。

 

「予定変更だ、タイラーくん。料理人より先に、この家の保守が出来る人材を確保しないと。俺、仕事でもないのに毎日掃除だけで終わる生活は嫌だぞ」

 自分が嫌なことを人に任せるのはどうかと思うが、賃金で雇うのならどうだろうか。

 この際クランの員数外で、もしも本人が望むなら加入も可。

 クラン入りしても、給金は支払うものとする。

「だからクラン立ち上げの為のメンバー確保なんだから、クランに入ることが前提だ、たわけ」

 俺の提案に即座にタイラーくんの突っ込みが。

 ていうか、たわけって。

 久々に聞いたわ。

 

 

 

「そんな訳で、こういうレベルの屋敷で働く人のお給金の相場を知りたいんだけど、タイラーくんは知っているかね?」

 気を取り直した俺の質問に、即、首を横に振ってみせる。

 まあ、そうだよね。

 冒険者生活に関係してこないもの。

「じゃあ、知ってそうな人に聞きに行けば良いんじゃない?」

 打開策を提示してくれたのは頼れる大人、ジェシカさんだ。

 知ってそうな人……ご近所さん?

 何となくご近所の中級貴族さん達を想像するが、すぐに首を振ってその考えを頭から追い出す。

 いや馬鹿(ばか)か俺は。

 いきなり尋ねて「そちらの使用人さんには、月々如何ほどお支払いなんです?」とか聞かれて、答える筈がないだろう。

 そんなもん、喧嘩を売っているに等しい。

 単純に資産の程度を探っているように聞こえるし、穿(うが)って聞いてしまえば、その程度の給金で雇っているのか? と、マウントを取りに()っていると思われ兼ねない。

 そんな勘違いされる様な真似を、態々する必要は無い。

 じゃあ、冒険者ギルドで、と思い掛けるが、脳裏に浮かぶ顔で、使用人なんて存在と縁のある生活してそうな奴が居ない。

 大穴でハンスさん?

 熊は洞窟で寝起きしてるんじゃないの?

「……聞けそうなのは、ヘンリーさんとこ位かな」

 冗談抜きで真面目に考えても、そこしか思いつかない。

 ついでに食事でもしようという事で、俺達は全員でヘンリー不動産へと足を向けた。

 

 途中の菓子店(かしてん)――初めて気がついたけど、こんな店有ったのか。毎日()よう――で、手土産のクッキーのセットを買い、お礼のついでに質問と言う体裁を整える。

 

 買ってすぐにクレームか? とか思われないような配慮である。

 

 

 

「成程。使用人を雇う、ですか」

 受付でお土産をお渡しし、キチンと相談したい内容を伝えた上で、アポイントメントの取れそうな日付を聞いたらなんと今から大丈夫とのお返事。

 急な出来事にも即対応の頼れる紳士。

 ヘンリーさんは忙しいであろうに、真摯に話を聞いてくれる。

 なんか急に押し掛けてすみません、ホント。

「給金で言えば、月に銀貨80枚ほど必要になりますかな? 労働としては単純と言う者も居りますが、屋敷の手入れというのは気を使うものです。対価が無ければ、なかなか手は出てこないでしょうな」

 まず最初に金額を提示して、それに丁寧に理由まで添えてくれる。

 それは凄く助かるし嬉しいことなんだけど、俺今、すっごい聞き流しちゃいけない事を聞いた気がするぞ?

 

 銀貨、()()枚?

 

 えっと?

 薬草10本1束で銀貨1枚で?

 銀の馬の骨は朝晩の飯が付いて銀貨5枚で?

 飯付き宿泊で「元の世界」の安いとことざっくり比較して(拙い記憶のだけど)、銀貨1枚2000円(くらい)だと思ってた。

 此処までは良い。

 

 金貨銀貨の桁上り? って、もしかして100枚?

 10枚毎じゃないの??

 俺、今までそういう計算でいたし、そういうつもりで払ってたんだけど?

「……ちょっと失礼して宜しいですか? ヘンリーさん、」

 俺は一度ヘンリーさんに断って相談を中断。

 

 正直コイツに聞くのは非常に嫌なのだが、誰に聞いてもどうせコイツの耳に届く。

 だったらもう、聞いてしまったほうが良い。

 というか、今聞いておかないと非常にマズい。

 

「タイラーくんよ。金貨1枚って、銀貨10枚じゃねぇのか?」

 面倒くさそうに俺の話を聞いていたタイラーくんは、まず目を見開き、その顔でしばし俺の顔を凝視した後、表情を変えた。

 お前は馬鹿なのか、と。

「お前は馬鹿なのか?」

 おっとぉ、コイツ言葉にしやがった。

「いや、実はお前が金貨の価値を理解してないんじゃないかと疑っては居たんだがな? それにしても、お前の中の金貨の価値は10分の1だった訳か」

 もう、この時点で答だ。

「銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚だ」

 それなのに、タイラーくんは丁寧に教えてくれる。

 なるほど、背中を冷たい汗が伝う。

「……じゃあさ? 俺、今までさ?」

 恐る恐る尋ねる。

 

 今までのお支払い。

 提示された金額に関しては特に疑問を持つこともなく、銀貨なんかはそこそこ依頼(クエスト)で貰ってたから、払えていた。

 だが。

 大部屋を借りた時は1日分の価格を聞き、払った時。

 人数分と日数分で良いと言われ、俺は暗算した。

 

 1日5枚×人数7人×日数7日(イコール)245枚(単位銀貨)。

 

 銀貨10枚で金貨1枚だと思っていた俺は、「端数切り上げだ!」とか言って、25枚の金貨を宿に渡した。

 その時、しこたま驚かれて、俺は「金貨24枚と銀貨5枚が金貨25枚になったから驚いたのか? 大げさだなあ」等と思っていたが。

 本来、金貨2枚と銀貨45枚の所が10倍の金額を支払われた訳だ。

 そんなもん驚くし、不審がるわ!

「……あ、だからアレか。調査から帰って毎晩、サービスだからウチで飲んでくれって言われてたのか」

 タイラーくんが静かに頷く。

 ギルドのバーで飲んだ後に振る舞われるから、正直キツかったんだけどね。

 でも宿としちゃあ、そんくらいしないと気が済まないくらいは払ってたのか、俺。

 

 え、でもおかしくない?

 他に幾らでも気付くタイミング有ったよね?

 子供達との食事は?

 ……ああ、5人分纏めて支払って銀貨2枚とか3枚とか、えらい安いもんだと思ってたわ。

 冒険者ギルドのバーでは?

 ……酔っ払って気持ち悪い状態で払ってるから、覚えてねーわ……。

 って言うか、他の買い物も含めて、言われるままに払ってたわ……。

 

 ぶっちゃけて言うとね? 俺、銀貨1枚2000円だって思ってた訳じゃん?

 それが10枚分だから、金貨1枚20000円だと思ってた訳よね?

 だから、アイテムボックス金貨50枚って聞いた時、正直「あれ?」って思ったんだ。

 安くね? って。

 でも良く理解(わか)ったわ、充分過ぎるほど高価だったわ。

 

 そうすると、あれ?

 俺どんだけの金持ちな訳? 金貨、まだ51億枚有るんだけど?

 んで、あの5000枚のお屋敷、えっと?

 俺、1億円くらいかなって。そう考えると、規模的に随分お安いし、お得なんじゃないのとか思ってたけども。

 でも実は、10億円相当でしたって事?

 あの規模の邸宅ともなると、東京の相場で考えたらそれでも安い恐れさえ有る。

 敷地面積、あれどんくらい有るんだ?

 まあ、それにしても、だけど。

 

 ゲームでわんさか拾えるものが、この世界では随分高価なんですね?

 なんか今更足が震えてくるんですけど?

 

「そろそろ意識を取り戻せ。ヘンリーさんも暇じゃないんだ」

 タイラーくんのおかげで目の焦点が戻る。

 そうだ、今は相談中だった。

 慌てて顔を向けると、ヘンリーさんは営業スマイルをニッコリと浮かべてくれる。

 

 本当にごめんなさい。

 

「し、失礼いたしました、ヘンリーさん。そうしますと、雇うとするとそれを底値に、色をつける程度で良いという事でしょうか?」

 多分、俺の顔色は悪いと思う。

 今まで無駄に払ってたんだと思うと、幾ら余裕が有っても考えちゃうよね。

「はい。そうして頂けますと、働きたいと思うものも自然に出てくるかと思われます」

 成程。

 ついでに聞いておきたいことも聞いておこうかな。

「ちなみに、貴族様がお雇いになる場合も、それくらいの金額になるのでしょうか?」

 俺が質問すると、ヘンリーさんは少し眉を(ひそ)め、難しげな顔をした。

 だが、逡巡は一瞬。

 俺の疑問に、即座に回答をくれる。

「貴族様の場合は、我々の感覚とは多少違う場合が御座います。相場は高くなりがちですが、そもそも雇い入れる者が市井の者とは限りませんので……」

 

 あー。言いにくい理由が何個か重なってる感じがするね?

 

 我々の感覚と違うのは、見栄とか、かな?

 他所よりウチのが(かね)を出してるぞ、とか、そんなトコだろう。

 そりゃ相場も高くなるよね、だってプライド勝負だもん。

 ……下手(したて)に出てプライドくすぐって持ち上げれば、なんか普通に教えて貰えそうな気がしてきた。

 まあ、聞かないけど。

 だって、続きの言葉を考えてみれば理解(わか)るじゃんよ。

 雇うのは、市井の者とは限らない、ってさ。

 それは他の貴族、なんて可能性は低いから、後ろ暗い犯罪者絡みか、或いは奴隷。

 奴隷制なんてもんが、この世界に有るかは不明だし、確認したくも無いけど。

 あった所で、嫌な顔するくらいが精々かな。

 なんて、言ってみたけど、全然的外れな可能性も有るし、深読(ふかよ)みは程々にしとこう。

 例えば、他の貴族の子弟が社会勉強に、とか、普通に有り得そうだから、「他の貴族の可能性は低い」って言うのがもう怪しいし。

 

「有難うございます。最後の質問は、内密と言うことでどうか」

 俺がニッコリ笑うと、ヘンリーさんも安心したように笑ってくれた。

 

 

 

 仲間たちが、従業員さんの案内で部屋を離れた一瞬。

 俺の中で、小さく引っかかっていた事、1人の名前がまた浮かび上がった。

 俺の心に刻み込んだ、12の名。

 そのひとつ、13歳のアデラ。

 

 アデラ・マーカス・()()()()

 

「ヘンリーさん。不躾な事をお伺いしますが……」

 俺は部屋を辞するという事で着け直した仮面を、再び、静かに外す。

「アデラさんは、どの様なお子様でしたか……?」

 聞いて良い事とは思わない。

 だが、名を心に刻む以上、知っておきたい事も有る。

 

 その名が、確かに生きて、輝いて居たのだと。

 

「……ご存知でしたか」

 何事かと振り返るタイラーくんに、俺は静かに手で合図をした。

 頷き、歩き去るタイラーくん。

 俺はそれを見送ると、小さく続けた。

「私は、救えなかった12の命の名を心に刻んで()ります。こちらにお伺いし、私の名をお伝えした際の反応。それに、お聞きしたお名前……もしやとは思ったのですが、その時は聞けませんでした」

 それは、俺のミスで失われた命だから。

 唇を噛む俺に、ヘンリーさんは罵声ではなく、柔らかな労りの言葉をくれる。

「有難うございます。自分を救ってくれた英雄が、名前を覚えてくれるとは、あの子も喜んで居るでしょう」

 ヘンリーさんの言葉に、俺は目を閉じる。

 俺は英雄なんかじゃない。

 救えなくて、癇癪を起こして、暴れただけなんだ、俺は。

「元気で、いつも私を気遣ってくれる、優しい子でした。孤児で、縁があって引き取った子なのですよ、あれは」

 柔らかな声。

 確かに愛され、生きていた命の証。

「……私も、貴女(あなた)の名を伺った際に耳を疑いました。養女(むすめ)の為に死地に飛び込み、連れ帰って下さった貴女(あなた)と、直接お会いすることになるとは……考えて居りませんでしたので」

 俺は、その娘さんを救えなかった挙げ句、今こうして残酷にも思い出を語らせている。

 何という傲慢。だけど。

「有難うございます。確かに生きていた貴方(あなた)の娘さんを、私は忘れません。そして」

 俺は腰を折り、ヘンリーさんに頭を下げる。

 

 他に、何が出来るって言うんだ。

 

「ごめんなさい」

 言葉を尽くすことは出来なかった。

 涙は溢れるのに、述べるべき言葉は、これ以上湧いてこない。

「顔を上げて下さい、そして笑っていて下さい。娘は、人の笑顔が好きでした」

 ヘンリーさんが、肩に手を掛けてくれる。

「今後とも、よろしくお付き合い下さい。また、娘の話を聞きに来て下さい」

 俺はもう言葉を発することなんて出来なくて、ただ頷くだけだった。

 

 

 

 泣いちゃったのも有ってきっちり仮面を着け直し、ヘンリーさんに案内してもらいながら、俺も店の外へ。

 ちなみに、相談の代金は固辞された。

 代わりに、また娘の為に遊びに来て下さい、って。

 

 もう、また泣いちゃうから、やめて下さい。

 

 その辺のやり取りでタイラーくんは色々察したようで、その件について何か訊いてくることはなかった。

 そういう気遣いは、もっと普段から発揮しても良いのよ?

 

「じゃあ、募集は月に銀貨80枚って事にして、実際のとこは金貨1枚と銀貨20枚でどうかね」

 屋台で買った果汁飲料をストローで飲みながら、全員に向けて問いかける。

 ……このストロ―、何で出来てるんだろう?

 

 ちなみに、俺の確認に対しての返答は、全員異議がないようだった。

 

 冒険者に必要な経費を基本的な宿代で考えると、1日銀貨3~8枚、円で考えるなら、毎日泊まると30日で18万から48万円。

 それに薬草とかポーションのような消耗品や装備品まで、様々掛かることになる。

 銀貨3枚の宿はフレッドくん達少年組が使ってた宿で、我らが「銀の馬の骨」は平均よりちょっとだけお安い設定か。

 言われるだけ有って「銀の馬の骨」、優良なお宿なのな。

「宿暮らしって高く付くのな」

「何を言っているんだ、今更」

 遠くを見る俺に、冷ややかな目のタイラーくん。

 少年組は思うところがあるのか、俺と同じく遠い目をしている。

「で、今更だけど説明するよ? 家の掃除してくれる人を雇って、この人達には給料出す。それは俺の(かね)で。これは大丈夫?」

 俺の言葉に、全員が首を縦に。

「で、みんなの分の給料は無いけど、代わりに家賃は月に銀貨15枚くれれば良い。ウチで食う分に関しては俺が払うけどね」

 雇う人には給金で金貨1枚と銀貨20枚。

 ざっくり換算で2000円×銀貨120枚で、月24万円相当。

 此処から家賃を引くことはしない。家賃分は引いてある計算だ。

 対して、みんなには家賃を俺に払って貰う事に。

 1日平均銀貨5枚の収入が有れば、月20万、休み無く毎日依頼(クエスト)をこなせば30万円相当の収入が見込める。

 そんな無茶な稼ぎ方、絶対オススメしないし、子供達にはさせやしないけど。

 そこから銀貨15枚、大体3万円を家賃に。

 だいぶお安い気がするけど、どうかな?

 こっちの賃貸物件の相場が判らないから、なんとも言えないけど。

 まあ、その家賃を引いても手元には最低でも17万くらい余裕が出来るよね、って事なんだけど、当然それは依頼(クエスト)を順当にこなしての話だ。

 必ずしも計算したとおりに進むとは限らない。

 そもそも依頼(クエスト)というものは、依頼者が居てこそだ。

 極論、依頼が無ければ収入もない訳で。

「給料に関しては、いずれみんなの分も払えるようになりたいとは思うけど、今は収入がないのよ。当面は協力して欲しい」

 ケチ臭いって?

 うん、俺もそう思う。

「それは構わんが、15枚で良いのか?」

 タイラーくんが挙手。

 ていうか、いつの間に発言は挙手制になったん?

「うん、充分すぎるでしょ」

 俺が言うと、子供達も安堵の溜息。

「助かるわぁ。 月15枚ですむんだったら、ホントに仕事減らしても余裕が出来るわぁ」

 ジェシカさんもニコニコだ。

 良いね。

 俺は悪い顔で笑う。

 

 巻き添えで申し訳ないけど、俺のタイラーくんへの仕返しに巻き込まれてね?

 

「って訳なので、俺の資金の余裕が無くなったらそういう体制でよろしく。具体的には、俺の金貨の残りが2億枚切ったらお願いするよ」

 事も無げに言うと、全員が動きを停止させる。

 折角理解した所に、急に条件を追加。

 しかし悪くなるわけじゃないから、怒るに怒れまい。

「お前な。そういうつもりなら、なんで今言った……?」

 最初に反応したのは、当然のようにタイラーくん。

 ほう? お前、この件で俺に怒れるの?

「先に相談しとくのは基本だって言っただろうが。いきなり明日から家賃取りますって言われて、納得出来るのかお前は」

 どうやら俺が根に持ってると理解したらしい。

 タイラーくんがぐぬぬと黙り込む。

「え? じゃあ、お家賃は?」

 ジェシカさんも混乱したようで、すぐには飲み込めていない様子。

 そりゃそうだ、払えって言ったり払わなくて良いって言ったり、どっちだ! って話だわな。

「ああ、ごめんごめん。しばらくは家賃は要らないから、俺が苦しくなったら助けてね、って事ね」

 少年少女組もよく分からないながら喜んでくれた。

 

 よし、実はヒヤヒヤしてたけど、俺が怒られなければ何でも良しだ!

 タイラーくんに、何となく仕返しっぽい事も出来たしな!

 初めて黙らせてやったぜ!

 

 それはそれとして、いい加減お(なか)空いたし、なんか()おうぜ、と言う事で。

 折角だし、思い思いに屋台を物色。

 結果全員バラバラだったものの、たまにはこう良いのも良いね。

 ギルド脇のいつものテーブルで、みんなでお昼と洒落込むのだった。

 

 

 

 お(なか)いっぱいになったので、お昼寝という訳にもいかず。

 次の問題は家事スキル持ちの採用な訳だが。

「タイラーくんや、面接の時に、なんか役に立つスキルとか持っていないかね?」

 俺は冒険者ギルドの仲間募集掲示板の前で、隣に立つタイラーくんに尋ねる。

「……尋問スキルと拷問スキルはあるな」

 少し考えたタイラーくんの口から何やら物騒な単語が。

「やめろ。なんでそんな物騒なもん持ってんだ」

暗殺者(アサシン)だからな」

 いや、暗殺者が尋問だの拷問だの持ってるのはおかしいだろ。

 ていうか面接に来た人の命に関わるのは駄目だ。

「ふむ、じゃあ、魔道具になるが。真実の天秤はどうだ?」

 おお? なんか、名前的には良いね。

「で? それってどんなアイテムなん?」

 興味本位で、俺は説明を促す。

 頷きもせず、掲示板から目を離すことすらしないで、タイラーくんは口を動かす。

「まず、片方の天秤に手を翳して『嘘を()かない』と誓うんだ」

 訊いている俺は、何となく薄らぼんやりとイメージする。

 ふむふむ?

「そして、審問官の質問に答える」

 審問官?

 なんか急にキナ臭いぞ?

「その質問に嘘を()くと、心臓が体外に飛び出して破裂。嘘()きは死ぬ」

 そこだけ言われたままに忠実にイメージしてしまい、気分が悪くなる。俺が死にそうに。

「なんで具体的に言ったの? 嘘()くと死ぬ、でいいじゃん? ていうか面接の人の命に関わるのは駄目って俺、言ったよね⁉」

 心臓が体外に飛び出すとか、その時点で死んでるじゃん、なんで破裂させるの。

 どっちかで良いじゃん。

「まあ、質問するお前の隣で、俺が尋問系スキルで様子を伺えば良いんじゃないか? 少なくとも、嘘を()いているのは見抜けるぞ」

 え、そうなの?

 まさかコイツ、普段からそんなスキル使ってる?

「普段は使わん。疲れるからな」

 しれっと言うタイラーくん。

 嘘じゃん⁉ だって今オレ、心の中で思っただけで、声に出して無いじゃん⁉

 俺がそう思うと、タイラーくんは途中から俺に向けていた視線をすっと外す。

 コイツ、怖くね? 仲間に尋問スキルをデフォで使うとか……怖すぎなんですけど。

 そんな事を思いながら、仲間募集掲示板に張り出されている自己アピール用紙をつらつらと眺めると、結構面白いなこれ。

 

 重戦士。料理スキル有り、戦闘経験無し。中級以上のパーティ希望。

 おお、料理スキル持ち! と思ったけど、この子、随分個性的と言うか……無理じゃないかな?

 戦闘経験が無いのは厳しいと思うんだ、中級なんてガンガン戦闘したがるイメージだし。

 

 治療師。近接戦闘可。治療応相談。

 戦闘よりも仲間の治療優先して下さい。なんだ応相談て。

 場合によっては治療拒否なのか。

 

 大体は普通に分かりやすい自己アピールなのだが、たまにこういう妙なのが混じっている。

 

「お前だったら、どういうアピールを書く?」

 不意に飛んでくるタイラーくんの質問。

 それにしても唐突だなあ。

「俺? 俺はそもそもどっかに潜り込みたいとか思わないしなぁ……」

 言いながら考える。

「……当方魔道士(ウィザード)、火力自信有り。邪魔にならないメンバー募集」

 考えていたんだけど、結果おざなりに。

 段々考えるのが面倒になるなあ、こういうのって。

「……仲間を募集する気は有るのか?」

「んー? あんまり?」

 再びのタイラーくんの問いに、素直に答えながら視線を動かしていく。

 そんな俺の目に飛び込んでくる、1枚の仲間募集用紙。

「お。家事スキル持ち居た」

 保有スキルから書いてる珍しい子だ。

 

 家事スキル有ります。斥候(スカウト)です。戦いは苦手です。戦いたくありません。宜しくお願いします。

 

 ……。

 色々言いたいことは有るけど、まずは。

「……なんで俺を見る」

 差し出した、仲間募集してる斥候(スカウト)ちゃんの用紙を読んでいるタイラーくんを凝視。

「うん? いや、斥候(スカウト)って変わり者が多いのかなって」

 俺が言うとタイラーくんはもう何も言わず、ジェシカさんに仲間探し中斥候(スカウト)ちゃんの用紙を手渡す。

「……リリスちゃん? 私、この子ほど変わってないと思うけど」

 うん、ふたりとも反応が酷いってことは良く理解(わか)った。

 ジェシカさんから戻ってきた用紙を手に持ったまま、他に居ないかを探す。

「……リリスちゃん、その子に連絡するの?」

 俺が用紙をキープして居ることに気がついたジェシカさんが、何か信じられない物を見る目を俺に向ける。

 ちょっと。

 ジェシカさん、酷くないです?

「俺が今欲しい仲間は、ウチで掃除して買い物して、て言う生活が苦にならない奴だよ? この子なんてうってつけじゃん?」

 顔を見合わせる斥候(スカウト)2人は、俺の意図が伝わったのかどうか微妙な顔を向けあっているが、俺は気にせず他の募集用紙に目を通す。

 

 数分後、結局今日の成果は1人、だが1人は見つけた。

 まあ、面接してみなきゃ判らないけど、家の管理と掃除をお願い出来る様な人だったら良いな、と、心の底から願う。

 立ち去る前にカウンターに寄り、募集掲示板に貼り付けてあった、戦いたくない系斥候(スカウト)ちゃんに連絡を取りたい旨を伝え、冒険者ギルドを後にする。

 

 冒険者ギルドを出るつもりだったのに、グスタフ組の若い子に捕まり、酒を飲みたい系のウチの斥候(スカウト)2人と共に、まだ夕刻にもなっていないというのに酒の席に。

 どうせアレでしょ? これ、グスタフさんが来て、ハンスさんも来て、明日の朝は頭痛で最低なやつでしょ?

 こっちに来てからの俺の生活、荒れすぎじゃない?

 フレッドくんが苦笑いして、みんなを連れて先に帰ってくれた。

 晩御飯は何か適当に食べるそうだ。

 ホントにごめんよ?

 鍵とか、ちゃんと掛けるんだよー?

 

 

 

 ヘレネは信じられない思いで、教えられた場所へ急いでいた。

 いつまで経ってもパーティの誘いは無く、今日も薬草採取で宿代を稼ぐのか、と暗澹たる気持ちでギルドのドアを(くぐ)った彼女は、カウンターで思いもよらぬ報告を受ける。

 自分に連絡を取りたいと言う冒険者が居るという。

 話によるとパーティの誘いでは無いらしいが、戦闘の絡まない、長期の仕事を依頼したいとの事。

 理想(てき)過ぎる。

 

 冒険者になって2年、パーティ経験なし。

 人見知りで、気弱。

 それが組み合わさり、怖くてとてもパーティを組んで依頼(クエスト)を請ける、という事が出来ない。

 流石にそれはマズイと思い、仲間募集掲示板に紹介文を張り出すも、1年間お誘いなし。

 理解(わか)っている。

 気の弱い、戦いを怖がる自分が、誘われる事なんて無い。

 そうは思うが一縷の望みを掛け、募集掲示板に載せ続けている。

 戦いの無い依頼(クエスト)は、実際は簡単なものばかりで、ソロでも受けられる。

 だが、当然のようにその報酬は少ない。

 生活は(すこ)しづつ苦しくなり、気持ちは閉塞していく。

 そんな気持ちで1年。

 

 正直、冒険者を続ける自信が無くなっていた所だった。

 

 どんな話だろう?

 仕事って、何をするんだろう?

 もういっそ何処かのお屋敷のメイドにでも応募しようかと考えていたヘレネは、まさに想像したような大きなお屋敷の前で放心し、しばし見上げて立ち()くす。

 どうしようか悩む彼女に声を掛けたのは、この屋敷に住むという4人の子供達だった。

 

 

 

 ウォルターは身体(からだ)ごと(サブ)ギルドマスターであるハンスに向き直り、もう一度、確認するように声を上げる。

「俺の料理の腕を買いたいって奴がいるだと? 誰だ、いや何処だ?」

 濃いブラウンの髪を短く刈り上げ、屈強な身体(からだ)を着古したレザージャケットとレザーパンツに包み、腰に提げたダガーだけが新品のように磨き上げられて居る。

 中堅と言えるレベルの斥候(スカウト)で有りながら、ややもすると見窄(みすぼ)らしく見える装備だが、それも彼の(こだわ)り故であった。

 

 戦闘に関する(こだわ)りではない。

 

 料理の道具は一級品を揃える。

 斥候(スカウト)としての装備はあとに回しても、料理の道具だけは譲らない。

 それが彼の(こだわ)りだ。

 

 道具が全てではない、よく聞く言葉だ。

 だが、それは腕が有って初めて言える言葉。

 無論、自分の料理の腕はそこらの屋台の連中に劣るとは思っていない。

 だが、道具は何でも良いと言えるほど、自分の腕を過信しても居ないと言うだけだ。

「正直、冒険者としての仕事じゃない上に、下手にコイツを請けると、もう冒険者としての仕事をする余裕はなくなるかもしれん。それでも請ける気か?」

 念を押しながらも、ハンスにはもう、ウォルターの答えは判りきっていた。

 今まで短い付き合いでは無いし、その顔はもう既に、雄弁に語っていたからだ。

「構わねえ。俺の料理の腕を見もしねえ連中に、飽き飽きしてたんだ」

 うっかり討伐に参加すれば、料理をしようにも無理解な同行者に理解を得るのが難しい。

 最悪だと邪魔され、まともな料理も振る舞えない。

 屋台を引くには今から免許を取らねばならず、街の食堂では生来の真っ直ぐな性格からトラブルを起こしがちで、もう何処も雇ってくれない。

 八方塞がりにも似た閉塞感に、気分も腐り果てていたのである。

「ある意味似た者同士な部分があるから、喧嘩は()えんだろうが……まあ、気の悪い娘ではない。大目に見てやれるなら、良い職場だろうさ」

 最初から最後まで、引っかかる事だらけの台詞である。

 

 似た者同士? 俺がか? 誰と? 依頼主が?

 娘? 娘って、女か? いや、この口ぶりだとガキって事か?

 大目に見て()()()()()? 俺が目こぼしする方だってのか? 

 

 一息に尋ねられる事ではない。

 というか、気になることが多すぎてもう、いちいち質問するのが面倒くさい。

「上等じゃねえか」

 少なくとも、ウォルターが今まで経験してきた仕事、職場とは違うらしい。

「話を聞きてえ。紹介状をくれ」

 まずは会って話をして、後の事はそれからだ。

 

 こうしてハンスから受け取った紹介状を手に、依頼主の、「リリス」とかいう魔法師の(やかた)を目指す。

 ハンスの話では引っ越したばかりで入用(いりよう)の物を探しているだろうから、下手すると今は屋敷には居ないかも知れないとは聞かされているが、その時は出直せば良いだけだ。

 

 途中、受付脇に併設のバーで馬鹿騒ぎしている連中を横目に通り過ぎる。

 見慣れない仮面を着けた女冒険者が酔っ払いに囲まれているが、剣呑な雰囲気は感じない。

 いつもの腐った気分だったら、昼から酒を呷る連中など軽く見下すところだが、今日はすこぶる機嫌が良い。

 なんだか酷く楽しそうで、羨ましく見える程だ。

 

 俺の新しい雇い主も、あれくらい気分の良さそうな奴だったら良いな。

 

 「斥候(スカウト)ウォルター」は「料理人ウォルター」として新しく生きていけるかどうか、一世一代の勝負に挑もうとしていた。




楽しい飲酒のために、生活リズムは規則正しく!
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