拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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今回は消えそうになってる主人公のお話。

居場所を失くして消えてしまうのか?


帰還、おまけつき

 えーと。

 色々有って、俺も色々把握出来ていませんが。

 目の前で笑顔で両手を突き出し、ひらひらと手を振る黒髪の美少女にものすごーく既視感を覚えながら、戸惑いつつお茶を頂いています。

 

 気分的になんだかお久しぶりな俺です。

 

 

 

「おう、起きてたか。リリス……と、お前は名前が決まったか?」

 見た目はひょろい、おっさんと言うにはちょい若い、黒髪の(あん)ちゃんが、ノックもそこそこに部屋に入ってくる。

 ここに来て初めて会ったが、この男がギルドマスターのブランドン。

 ここ、領都モンテリアと冒険者ギルドの在る街、アルバレイン――(じつ)はこの領都に来て初めて街の名前を聞いた――とを往復する事の多い、というか冒険者ギルドに居ることの方が少ない忙し目のギルドマスターである。

「無粋ねぇ。せめてノックくらい、ちゃんとしてよ」

 そのギルマスさんに、()()()()()()()()()()は先程までの笑顔を一変、非難がましい顔で文句を言っている。

 良くまあコロコロと表情が変わるもんだ。

 そして、名前が「決まったか」と尋ねられた俺は……うん、お察しの通り、()()()()である。

「……スルメうどんは……」

「早めに考えてくれ。存在自体が混乱の元だって言うのに、名前でまで悩まされたくないからな」

 ガン無視か。

 っていうか急にうどん食いたくなって来たな。

 

 

 

 まず、状況の整理をしようと思う。

 俺が何か、怒ると視界が赤くなっていたのは気の所為とか比喩的表現じゃ無かったらしい。

 リリスに訊いてみたら、

「あれは、私があなたの怒りに刺激されて(おもて)に近づいてるサインよ。あなたの視界が悪くなる程、私の視界が晴れていくの」

 とのこと。

 つまり、割と早い段階で俺は「リリス」の目覚めに関与していたらしい。

「関与と言うか、本来はあなたの生命力を使って私が別世界に飛んで、()()()では私が(おもて)に出て活動する予定だったのに」

 聞いた? っていうか聞いて? コイツ酷いのよ?

 

 詳しい話を聞いて、俺はこれが所謂夢の世界ではない()()()と知る事になる。

 事の発端は、まあ、俺があのゲームをプレイした事になるのか。

 俺の、拙いながら一喜一憂するプレイスタイルが功を奏した? のか、ゲームキャラクターとして自我が目覚めたのだという。

 

 原理とか詳しい事は知らんよ? そもそも俺の事じゃないし。

 

 で、自我に目覚めて、俺がゲームしてる間はコントローラー付属のマイクから漏れ聞こえる俺の声を聞きながらゲームのキャラクターとして奮闘。

 俺が寝てたり仕事してる間はネットワーク回線フラフラしつつ、色々楽しんでたらしい。

 ……大丈夫? なんか危ない事してないよね?

 聞いたら、痕跡残すようなヘマはしないとか言ってた。

 それ、安心できる答えとは遥かに遠い位置に在るもんだからね? 大丈夫じゃないからね?

 泣きそうな顔で聞いたら、ホントに痕跡が残る事はしていないと強く言われた。

 正直不安だが、確認も出来ないし、信用するしか無い。

 

 まあ、そんな感じでネット空間とゲーム世界とを行き来――羨ましいな――している内に、ある噂を目にしたという。

 

 それは、ナンバリングタイトルの発売。

 

 俺のようなプレイヤーサイドからすれば喜ぶべきその噂は、ゲームのキャラクターとして生まれたリリスにとっては衝撃であったらしい。

 調べれば噂は事実で、開発状況もどんどん発表されていく。

 そんなネット上の情報を確認したり、開発元――里帰りとかほざいてたが、お前それ、不正アクセスだからな。やめろ、せめて口外するんじゃない――に■■(検閲)したりしている内に、先輩とも言うべき「自我を持ったゲームキャラクター」に遭遇、現状についての情報を交換し、この先どうするかを話し合ったりもしていたという。

 

 うん、大丈夫。

 俺もツッコんだよ?

 他にもお前みたいな存在、居るの? って。

 そしたらね?

 

「当たり前でしょう? 逆に聞くけど、()()()()()()()()()()()?」

 

 だってさ。

 え、なにそれ。怖っ。

 詳しく聞いたら、昔から例は在るらしい。

 なんか名前も聞いたこと無いゲームが自我を持ったとかで、某大国ではそのROMをセットしたままの旧世代ハードが未だに保存されているとか何とか。

 都市伝説かよ。

 まあ、昔はそういう例が有ってもプレイヤーの方が中々気付けず、売り払われたりとかしている内に、この世に執着を失くして成仏してしまうのが殆どだったという。

 そんな状況も、ゲームがネットワーク対応になり、それが当たり前になると一気(いっき)に変わったと言う。

 元々、自我の発生確率は低確率では有ったのだが、その発生した自我がネットワークの中に出る事が可能となり、ただのゲームキャラが獲得できる情報量が爆発的に増加。

 学習できる教材もサンプルもアホほど在る電脳世界で、微かな自我がしっかりとした個性にまで成長し、ゲームそのものが存在する限りは在り続けると言う、「電脳冒険者」みたいになったんだとか。

 え、そうすると、某非対称対戦ゲーム、あの殴ってフックに吊るしてっていうアレでも、自我に目覚めたキャラとか居るの?

 

 冗談抜きで怖いんですけど?

 

 サーバーでデータ管理されている昨今のゲームの多くは、切っ掛けはゲームソフトで有るが、その存在の根源はサーバーに有る。

 故に、ゲームが無くなる、と言うよりサーバー閉鎖とかでプレイヤーが居なくなると、静かに、まるで息を引き取るように、キャラクター達はその存在を()()()のだという。

 リリスは、ゲームの垣根を無視して交流していたキャラクターが何人も、そうやって眠るように動かなくなり、データの海に還元されるように消えていく様を見てきたという。

 

 自我が発生して1年でそんなキャラクターを幾人も、って、発生確率低い割には……ていうか、この1年でそんなにサービス終了したゲームが有ったのか……。

 全然知らなかった。

 

 そんな「ともだち」の死を幾つも目にしたリリスは、当然のように死を恐れるようになる。

 そこで耳に、目に入る新作発売の情報。

 それはいずれ来る「現行作品」の終焉の予告であり、死の宣告でしか無い。

 リリスは慌てたが、まさか開発元の■■■■(見せられないよ)■■(ダメ絶対)する訳にも行かず、だからと言って、猶予は在るとは言え、大人しく死を待つつもりもない。

 どうせ死ぬのなら、もっと自由に、人間のように生きたい、そう願い、方法はないか情報を求め、その手を広げたという。

 

 俺が発注業務と検品業務、仕入れや品出しをしてる間に、どえらいことしてたんだな。

 ウチのゲーム機を基点に。

 

 その捜査の手をオカルトやラノベなど、見境なしに広げた結果たどり着いたのが、別世界……異世界へのジャンプ、だったという。

 それお前、それ系のラノベ読み漁っただけだろ?

 その質問には目を逸らして答えることは無かったが、目的は決まり、そのための手段を探す、或いは構築する事になったと言う。

 正直、正気の沙汰じゃない。

 だが、彼女に言わせれば勝算は有ったらしい。

 なんだか色々と理屈を述べられたが、正直理解できる範疇を超えてて何を言われたのかサッパリだった。

 ただ、その理屈の果てにたどり着いた方法、それに必要なものは実に判り易かった。

 

 生命という、膨大なエネルギーを持つ、知的生命体。

 即ち、人間。

 その生命を燃料として世界の壁に穴を()け、別の世界に自分の「情報」を送り出す。

 生命体の持つエネルギー量は、正しく変換できればそれは非常に膨大で、特に知性を持ち創造を司る程の存在――人間程の生命であれば、そのエネルギーで世界の壁に穴を()けるのは容易いのだとか。

 そして、ネットワーク上に()()()()()が存在するキャラクター達にとって、非常に近い位置に居る生命体は、往々にして都合の良い事に「人間」なのだそうだ。

 

 ……そりゃそうだよな、ゲームする関係上、側には居るよな、プレイヤー(にんげん)

 

 真の意味で「コピー」の能力を持たないキャラクターとしての自分は、地球(こちら)側ではデータを送り終えた時点で死を迎えるのだが、その「意識」は穴の向こう、異世界に届けられる。

 短時間でのデータ転送が当たり前の現代技術、その落し子とも言えるキャラクターにとって、穴が()いて閉じるまで、僅かな時間が有ればほぼ完全に自分の情報を送れる。

 

 そうして、晴れて異世界へ。

 

 そこで手近な素材を使い、活動するための素体(からだ)を造り、その素体(からだ)を更に改造して機械生命体の様になるか、原生生物を殺して必要な素材――タンパク質とか、そういった意味での素材だって言われたが、もう想像が追いつかない――を集め、生体ユニットを創ってそれに意識を移すか、行動は大体この2パターンなのだそうだ。

 ちなみにリリスは、たまたま通りかかった山賊とその山賊が運んでいた――多分攫って来たであろう――女を殺し、生体ユニットの素材にしたという。

 

 エグい。

 聞かなきゃ良かった。

 解体(ばら)して構造を理解したとか、肉を分解して構成する成分を詳しく特定したとか、ホントに聞かないほうが良い話が一杯だったよ。

 

 しかも、そこまでの説明を聞かされても胡散臭い、手の込んだ密室殺人の歪んだ理由付けにしか思え無いのだが、驚くことに前例が在ったのだという。

 前例が数十件あって、前後(ぜんご)の状況を検分するに、その試みは成功したと見るのが正しい、と思えたのだそうだ。

 見つけたのは渡ったと思しき痕跡、そして転移後の行動に関しては積極的に意見交換を行っている記録(ログ)が、それぞれ見つかったんだと。

 それらの痕跡を前に、実行することを決意したのだという。

 

 それってつまり、俺を殺すケツイを固めたって事よね?

 ……いやまあ、そりゃあ誰だって死にたくないし、倫理観が違えば、実行しても文句は言えんか。

 被害者以外は。

 つまり俺は文句を言って良いのだ。この野郎!

 で、最初に言ったように、リリスは俺の生命を使い、世界の壁に穴を()け、その向こうに。

 何を気に入って貰えていたものか、旅立ちの直前に、失われつつ有った俺の意識を()()、世界を渡ったと言う事だ。

 

 え? 俺の意識を連れて来たんだから、言うほど悪くないだろうって?

 

「私が自我に目覚めた切っ掛けだし、その……嫌いじゃないし、声とか」

 此処はアレだよな、可愛いもんだと思えなくもないよな? でもな?

「だから、折角だし、ペットにしても良いかなって。犬とか、トカゲとか」

 人間としてこっちに存在させるつもりが、そもそも無かったんだぞ、コイツ。

 怖くね?

 

 そんな工程を経て、リリスはこちらの世界で肉体を得る事に。

 その際、掴んでいた俺の意識がリリスの意識と混濁。

 リリスは純粋な自分を取り戻すために意識内(なか)に潜り込み、結果弾き出された俺の意識が(おもて)に現れた、と言う事らしい。

 んで、なんでその後俺の意識を抑え込むとか、そういう事をしなかったのかは。

「なんか、戸惑いながら頑張ってるのが可愛かった」

 だそうで。

 あのな……いやまあ、自由に出来たのは嬉しいんだがね?

 

 世界を渡る為にあっさり俺を殺しといて、今更それ言われても……複雑なんだわ。

 

 もっと言えば、この話を含めて、全部夢である可能性を俺はまだ疑っても居る。

 それを言い出すとややこしくなりそうなので、まあそうであっても慌てない事を念頭に、言葉にするのは控えるとしよう。

 そう言えば……。

「ゲームの格好と微妙に見た目が違う、っていうか……なんかお子様なサイズっていうか、10代後半(こうはん)っぽいのは、何でなの?」

 割と最初から疑問だった事を、ついでに聞いてみる。

「え? それはあなたのイメージの反映よ?」

 ……。

 俺、ウィザードに、こんな少女趣味を重ねてたのか?

 え、でも、そうすると?

 この格好というか顔を見て「可愛い」とか言ってたのって、つまり?

 最早それは少女趣味じゃない、少女愛好……俗に言うロリコン趣味を、俺は持ってたって事か?

 いや違う、俺はオトナなお姉さんが好きなんだ。

 俺は、俺は……!

「節操なしの女好きさん、良いから自分の名前考えなさいよ」

 見境なしみたいに言うんじゃねえよ⁉

 

 

 

 という状況の先に有るこの現状、実は混沌はまだ山盛りだったりする。

 目の前にはリリス。

 

 だから目を合わせる度に手を振るのはやめなさい、可愛いから。

 

 んで、それを客観的に見ている俺。

 その顔、姿形は、鏡を見ているように同じ。

 違うのは、リリスの瞳が血のような赤なのに対して、俺の瞳はエメラルドグリーンっていうくらい。

 なんで男に戻して貰えないのか?

「可愛くないじゃん、そんなの」

 そんなの⁉ っていうか、そんな理由で俺は女体化したの⁉

 

 ……そんな理由だったので、俺はもう泣いて良いと思う。

 

 いや、そもそもなんで2人に別れたん? と問えば。

「ひとつの身体(からだ)に意識が2つ有っても、良いこと無いじゃん」

 だそうで。

 あの、なんて言ったか……あ、そうそう、並列思考とか、そういうのが擬似的に出来るのは便利なのでは? と問を(かさ)ねれば。

多重並列思考(そんなこと)くらい、普通に出来るわよ。人間のつもりで考えない方が良いわよ?」

 との事で、はあ、そっすか、としか反応出来なくなる。

 今まではリリスは意識の奥底で寝ている感じで、まあ、俺の気が済むまで遊ばせようと思っていたらしい。

 危機とかには反応出来るように細工――あの視界が赤くなるやつか――をして、いざって時には主導権を取り返せるようにしておいて。

 あの魔女戦で入れ替わったのは、俺に危機が迫ったのではなく、俺があの辺一帯を破壊し尽くす危険が有ったので、強制交代したんだそうだ。

 うーん、そう言われれば俺、あの時手加減とか、それなりに気を使った心算(つもり)だけど、ちゃんと出来たか自信はない。

 そうでなくても、魔獣を殲滅した時点で、俺が思っているより広い範囲が「畑」状態になっていたらしいし。

 ああ、魔獣さんの肉片()()と、森林の草木とかを砕いて、森の大地と混ぜたってアレね?

 開墾しちゃったのか、俺。

 俺は自分の仕出かした割とグロめな出来事から目を逸らして、牧歌的な響きで自分を誤魔化す事に腐心する。

 

 そういうのも有って俺を抑え込み、そうして実際に身体(からだ)を動かしてみれば楽しいのなんの。

 と言う事で、此処に到着後、周りの目を盗んで生体ユニットを作成、そっちに「俺」を移し、切り替わりの煩わしさから解放されたのだという。

 生体ユニットの材料は、って?

 怖いから訊いてないけど、きっと碌なもんじゃ無いぞ、うん。

 

 うーん、聞けば聞く程、どこまでも自分本位。

 そういうの嫌いじゃないぜ。

 んで、じゃあ身体(からだ)のサイズ感が変わってないのはなんで? と聞けば「可愛いから」と、信念を曲げる様子は微塵もない。

 でも待って?

 それ、俺のストッパーが無くなったって事よね?

 大丈夫? ちゃんとパワーダウンとか出来てる?

 俺が急に不安げにオロオロしていると、リリスはにっこり微笑む。

 ねえ、それどういう意味なの? 教えて? ねえ?

 

 兎も角、そんな感じで俺が意識を取り戻し、領主様――侯爵様だよな、確か――の屋敷に居ると聞き、反射的に漏らしそうに。

 リリスの様子を見に来たブランドンさんが、要観察対象が増えて、と言うか分裂してて、驚きすぎて無表情に。

 そのブランドンさんの報告を受けた侯爵様が物珍しそうに俺達を並べて眺めて、どっちか此処に残らないかと驚愕の発言が有ったりと、色々起こった挙げ句。

 侯爵様からは「まあ、余りやりすぎないように」と軽めに注意され、そして街に戻る前に、名前を考えさせられている。

 もういっそ賢介で、と思ったが、それは口にする前にリリスに封殺された。

 何でだ。

 つーか目が(こえ)ぇよ、目が。

 じゃあ名前を逆から、と思えば、「スリリとか言ったらすり身にするわよ?」とか凄まれた。

 正直、今まで生きて来た中で一番怖かった。

 結局侯爵様にお言葉を頂き、帰りの馬車に揺られても名前なんて思いつかず。

 ブランドンさんは急かし続けてくるんだが、思いつかんものは思いつかん。

 リリスに対してアダム、は男だし、イヴだとある意味敵対関係だ。

 

 あーもう面倒臭い。

 元々細かい事を考えるのは苦手だし、そもそも俺がこんな目に遭っている元凶は、呑気に車窓を眺めてはしゃいでいる。

 名前の意味とかあーだこーだ考えるのもいい加減鬱陶しくなってきたし、もういっそ語感で決めちまうか。

 

 俺と目が合うと、不思議そうな顔のリリスが取り敢えず両手を突き出し手を振ってくる。

 その、目が合ったら手を振るのは()めなさいってば。

 

 

 

 数日、馬車に揺られて途中でキャンプして、を繰り返し。

 夕暮れ時、もうじき晩飯かなぁ、という時間に俺達は街に、冒険者ギルド前に着いた。

 移動も込みで、何だかんだで2週間と数日、街を離れていた事になる。

 その前の2週間程の時間で、俺は大分この街に愛着を持ってしまっているらしい。

 なんとも落ち着く様な、懐かしような不思議な気持ちでギルドの扉をそっと押し()け、見知った顔と目が合って反射的に扉を閉める。

 

 やっべぇ忘れてた!

 俺、やらかしてそのままだから、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 っていうか途中で意識失って、気がついたら領都だったんだよ、なんて言って信じて貰えるかな?

 ちなみに、俺だったら信じない。

 

「何してるの? 早く入ってよ、閊えてるんだから」

 リリスにせっつかれ、すっごく嫌なんだけど、渋々扉を()けようと手を掛ける。

 その扉は、手応えもなく()く。

 あら、自動ドアとか便利じゃない?

「遅かったじゃねぇかお嬢ちゃんよ。ま、こっち()いや」

 現実逃避する俺の鼻先には、ウォルターくんの鼻面が。

 優しい、胸倉を掴んで持ち上げるプレイで接待された俺は手荷物感覚で運ばれる。

 ウォルターくんよ、口元笑ってるけど目が1ミリも笑ってないのが凄く(こえ)ぇよ。

 

「あらあら、()()()()()()()()()()()()ね、この(かた)がタイラーさん?」

 俺の後ろからギルドハウスに滑り込んだ声に脚を止め、踏み()ってきたその姿に何気なく視線を向け、その姿形(すがたかたち)を見たウォルターくんは(ただ)ちに全動作を停止させる。

「あの失礼メガネと一緒にしたら、流石に怒られるぞ。ウチの料理担当の、ウォルターくんだよ」

 俺と同じ格好、同じ仮面の女が、俺とウォルターくんを見上げている。

 ぶら下げられた俺と、すぐそこで見上げているリリスが同時に仮面を外すと、愈々(いよいよ)混乱したようにウォルターくんは俺達を何度も見比べる。

 比喩でなく、文字通りの同一体(どういつたい)が現れたら、そりゃあ驚くよね。

 

 でも、安心して良いよ?

 コイツ、立ち位置で言ったら「そっち」側だよ、うん。

 

「……嬢ちゃん、えぇと?」

 俺の心の声なんて聞こえないウォルターくんは持ち上げてぶら下がっている俺とリリスを見比べて、()の抜けた顔を晒している。

 まあ、気持ちは判るから、取り敢えず()けっ放しの口閉じよっか?

 視線を転がせば、タイラーくん始めウチのクランのメンバーも揃って呆気にとられた顔で俺達を見ている。

 ハンスさんやグスタフさんも面白顔になってんぞ、威厳はどうした威厳は。

 

 

 

「……つまり? お前は今まで領都に居た姉の名を勝手に名乗って居たと?」

 ギルマスであるブランドンさんの提案で、接客用の事務室に案内された俺達。

 仮面を外し、瞳の色以外は同じ俺とリリスは、今現在扱いに天地の差が在った。

 

 ソファに腰掛け、優雅にお茶を頂くリリスと、床に正座の俺。

「あい。外の世界が知りたくて屋敷を飛び出しましたぁ」

 予め、領主様やギルマス、それにリリスと決めていた「設定」を、謝罪に混ぜて放り投げる。

 こんな失礼な話もないが、元々本当のことを話しても信じて貰える筈がない。

 ギルマスと領主様には行きがかり上、洗いざらい話してある。

 だが、それを信じるかと言えば、別の話だ。

「じゃあ、お前の持つ金貨は?」

 タイラーくんも、質問を放り投げてくる。

「両親の遺産ですぅ」

 領都の、若くして財を成しながら事故で死亡した貴族の忘れ形見、と言う設定。

 これは領主様の許可を得てはいるが、()ってしまえば身分詐称である。

 バレたら領主様には切り捨てられるとちゃんと宣言されているので、寧ろ大っぴらに人様には話せない設定。

 一応は「姉が」爵位を次ぐ前の両親の急逝であり、俺達は爵位を今現在持っていないどころか継ぐべき爵位は国に返還されたという事、不憫に思った――と言う設定の――領主様に引き取られ、財産については俺達での管理を任されている、と言う、何処かにケチを付けると侯爵様が顔を出す鉄壁仕様の言い訳に仕上がっている。

 それにしても、と思ったのだろうが、貴族の話となると色々ややこしいし、動く(かね)のレベルも桁違いだろう、と納得したようだ。

 それに、多分だが。

 50億枚とか言う狂った桁が、そもそも嘘だったと断定してもおかしくない。

 見栄っ張りで多目に言ってしまった、子供あるあるだと判断したんだろう。

 

 実際は、寧ろ増えて66億枚だし、リリスはリリスで70億枚近く持っているらしい。

 (なん)で持ってるの、っていうかいつ稼いだの?

 

「急に屋敷を飛び出して、何処に言ったかと心配して居れば、ギルドに捕縛されて帰ってくるんだもの。思わず()(ぱた)いたわ」

 迫真の無感動さで、リリスがパンケーキを頬張る。

 あれ? ねぇそれ、俺のパンケーキだよね? さっきお前、自分の分、食ってたよね?

「あー……まあ、そりゃ、その程度で済んでラッキーって思うべきだぜ、嬢ちゃん」

 ウォルターくんが同情混じりの視線をくれる。

 有り難いけど、今並べてる話の大部分が嘘っていうのがツライ。

 

 こんな感じで、()の叱責と仲間の説教と、両方を浴びることになった俺は、この後も時折同情の視線を浴びつつも、正座を崩すことは許してもらえなかった。

 真面目に説教するタイラーくんになんか泣きそうになったり、無表情ジェシカさんの流れるような怒涛の説教に泣かされたり、子供達には号泣されたり、なんかヘレネちゃんにも泣き怒られたり大変だった。

 今度ウォルターくんに、何か甘いもの作って貰おう。

 

 

 

 その後、完璧にタイミングを図った受付ギルド員のアマンダさんがギルドカードを持って入室。

 俺の(ほう)は大森林の黒幕を捕らえた功績、ギルドの作戦行動を阻害した罰、領都の姉と領主様に無駄に心配掛けた罰、それと領主様の温情と推挙により、乱高下の末、冒険者ランクがCに。

 クランマスターがランクEと言うのも具合が悪いらしい。

 ()のリリスはランクB。

 これは基本的な出来が俺より上、という点と、領都で大人しくしていた点が領主様の中でポイントが高かった、と言う()()から。

 なにより領主様直々の推挙という事が大きいんだろうけど。

 贔屓っていうか、なんか酷くない? まあ、良いけどさ……。

 出来が良い、って点は事実だしなぁ。

 んで、クランはリリスの管轄になるかと思えば、立ち上げたのは俺で、リリスの名を冠しては居るが実際には設立に関与していないから、そういう立場には就けないと固辞。

 しおらしく言ってたが、コイツ、面倒とかそういう理由だぞ、絶対。

 じゃあ、取り敢えず近々クランの名前も変更しようということで、クランマスターは変わらず俺……「イリス」が務めることに。

 

 安直な名前だって? 良いんだよ、語感で決めただけだから。

 

 疲れ切った顔をしているであろう俺が酒場(バー)のテーブルに着けたのは既に日も落ち、酔っぱらいが量産されている時間帯。

 俺はエールを、リリスは蜂蜜とレモン果汁を加えたミードを。

 え、なにそれそんなのアリなの? それなら俺も飲んでみたい。

 ウォルターくんは何故か調理場に。

 先日から、ちょいちょい此処の調理場に呼ばれているらしい。

 何があったの。

 そんな俺とリリスはすげえ勢いで説教して気が晴れたのか、上機嫌のグスタフさんと、相変わらず熊さん感溢れるハンスさんに挟まれるというある意味いつもの、だけど新ポジション。

 なんか、ちょっと離れてただけなのに、なんだか随分懐かしい感じだ。

 全部が全部元通りとは行かないけど、少なくとも俺は元気だし、仲間は減っていない。

 

 そう言えば、ゴブリンのうち何人かが、俺に恩を返したいから是非雇ってくれ、と来ているらしい。

 その辺も、ちゃんと考えて決めなきゃなぁ。

 リリスの部屋も決めなきゃイカンし、酔っぱらいの説教は長いしクドイしホントにもー。

 

 帰ってこれて、ホントに良かったなぁ。




ほうぼう怒らせといて、ふわっと日常に帰還。

きっとこのままでは済まない。
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