拝啓、ハクスラ世界より 改訂版   作:naow

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のんびり日常イリス&リリス。
そんな話ばかり書いていたい……。


それいけ挨拶回り、新しい仲間を添えて?

 自分の名前に続いて、クラン名まで考える事になりました。

 みんなで考えよう、という俺の提案は「善処します」という言葉で受け止められました。

 その言葉通りに善処された経験が、前世を含めて無いんですけどねぇ?

 

 朝から愚痴っぽいのは勿論俺です。

 

 

 

 

 リリス加入で我がリリスクラン(仮)もメンバーが10人に。

 って言うかややこしいな。

 俺のせいなんだけどな!

 仲間だし、俺の死因で身内というすっごい複雑な存在なのだが、なんだか妙に(なつ)っこいリリス。

 素直に可愛いとも思うし、まあ、俺だけじゃなく、ウチの仲間をこれからも宜しくね、という意味でアイテムボックスを渡す。

 これは俺が金貨を避難させる為に使っていた物で、今は金貨を(もと)に戻している。

 ともあれ、これで手持ちのアイテムボックスの在庫は0に。

 

「イリスは、今日は何か用事が有るの?」

 リリスが俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。

 屋敷内でも有るし、仮面はない。

 あと、髪型を変えるのが面白いらしく、今日は普通に髪を下ろしているが、たまに仮面を着けれない様な髪型してたりする。

「あー。ギイちゃんとグイくんの分の、アイテムボックス買いに行こうかなって」

 ギイちゃんとグイくんは、ウチで働きたいと言い出したゴブリンだ。

 女の子のギイちゃんと、男の子のグイくん。

 2人とも年齢は10歳で、2人とも家族は失くしたらしい。

 他にも家族を失ったゴブリンの子供達は居るらしいのだが、ギイちゃんとグイくんは襲撃と逃走の最中(さなか)に家族だけでなく、同じ村のゴブリンが全て死んでしまい、他の村に知り合いも居ないのだという。

 そんな子供に、涙ながらに働きたい、恩返ししたいと言われたら、そんなもん俺、追い返せないよ。

 ウチの連中と馴染めないとか有っても、最悪でも俺が面倒見て、大人になったら自分の進む道を決めてもらえば良い、そんな(ふう)に思ってた。

 結果で言えば、全く問題なく馴染み、ウォルターくんやヘレネちゃんを手伝って居たりする。

 どうやら俺は、仲間を侮りすぎていたらしい。

 頼もしい仲間たちを見て、こっそり微笑んでいた。

 

「んー。じゃあ、私も一緒に行くわ。ついでに、ギルドに行かない? ちょっと探したい人材が居るの」

 へぇえ?

 欲しい人材ね……まあ、俺も思わなくもないけど、リリスは何を求めているんだろうか?

「りょーかい、そうすっと、ウチの幹部もつれて行くか」

 ギルドハウスに行くなら、顔の効く奴が居たほうが良い。

 ウォルターくんは仕込みが有るかもだし、ヘレネちゃんは顔が利く感じではない。

「そうなると、まあ古株しか居ないじゃん?」

「古株って、数日差でしか無いだろう」

 そんな訳で、タイラーくんとジェシカさんを伴ってのお出かけ。

 ……この2人、俺が外出誘って嫌がること、殆どない気がする。

 何でだろう?

「それじゃあ、まずは魔法道具屋さんなのね?」

 笑顔が消えると鬼怖(おにこわ)いでお馴染みのジェシカさんが、今日もにこにこと一緒に歩いてくれる。

 このお姉さん()きだなあ、なんかほのぼのするんだよなあ。

 

 (おこ)らすと本気で洒落になんないけど。

 

 微かに背筋を震わせて、今後はホントに気をつけようと思う。

「そうそう。アイテムバッグの補充と、(あと)はパルマーさんに、若手の有望そうな魔道具製作者が居ないか訊いてみたいんだよな」

 いい加減、魔道具作って大儲け計画を動かしたい。

 冷蔵庫とかさ。

「お前は理解(わか)って居ないだろうが、アイテムボックスというのは補充するとか、在庫を抱えておくものではないぞ?」

 タイラーくんがいつものように、メガネを指で押し上げながら何か言ってる。

「ん? でも、有ると便利じゃん?」

 便利な物なのだから、細かいことを気にするでない。

 俺の言葉に、タイラーくんは頭を振ってそれきり黙り込む。

 ふっ、勝ったな。

「イリス、呆れられてるだけだからね?」

 自分と同じ顔に突っ込まれるのは厳しいモンがあるな、うん。

 

 

 

 商業区……商店街の方がしっくり来るな。

 商店街でやることと言えば、まずはお菓子屋さんで焼き菓子のアソートセットを大量買い。

 まだ数えるほどしか来たこと無いのに、なんか名前とか覚えられてて軽くビビる。

 お菓子に興味を持ったリリスに後で分けることを約束して、アイテムボックスへ。

 そっか、リリスを連れてきたの初めてか。

 同じ顔の俺は何回か来てるけどね。

 買ったお菓子のうち、3箱はヘンリーさんのお店へ差し入れ。

 軽く立ち寄って帰るつもりが、俺の来店を聞いて飛んできたヘンリーさんに両手を捕まれ、涙ながら礼を受ける事に。

 

 そっか、そうだよね。

 

 俺はそんなヘンリーさんの様子に涙腺を刺激されつつ、また遊びに来ますと約束。

 従業員さんも貰い泣きしてる人も居て、ちょっと申し訳ない気分に。

 そんな俺達の様子を眺めて、なにやら神妙な顔をしていたリリスが少し印象的だった。

 

 ちょっと湿っぽい雰囲気になったりしながら、俺達は目的地のパルマーさんのお店に到着。

 いつ見ても人の良い老婦人に、お菓子を1箱おすそ分け。

 個人商店だし、1人で1箱は多いと言われたが、中味を分けるとかあんまりでしょ、と、どうにか受け取って貰える。

 そして商談、というか買い物開始である。

 まずはお目当てのアイテムボックスは入荷が滞っており、現在在庫として有るのは1000立方メートルの物が5つ。

 入荷が滞っている関係で仕入れ値も張ったとかで、お値段が高くなったんだとか。

「ふむふむ。お幾ら?」

 俺の「それが何か?」と言う反応を予想していたのか、パルマーさんは実にいい笑顔で言う。

「金貨58枚なのよぉ」

 ふむふむ。

 4枚増し、というと大した事無さそうに聞こえるけど、金貨1枚20万円相当だって知っちゃうと、ちょっと引くよね。

 80万円増しだよ? お(たか)いわぁ……。

 まぁ、躊躇なんかしないけどね。

「じゃあ、1個60枚で全部買うから、次の入荷分も優先して回して貰えるかなあ?」

 今回はサービス品のおねだりじゃなくて、次回も買うので宜しく代。

 目的の品を買っている間に、ウチのメンバーはそれぞれ商品を物色している。

 世間話なんかしながらすっごい頑張って金貨を300枚数え、フリーダムな仲間たちに合流。

「このメガネケースは良いな……」

 タイラーくんは本体を収納するケースを熱心に見ている。

 割と近くになんかカッコいいダガーとか有るけど、そっちは見なくて良いの?

「石鹸……ねぇ。洗浄(クリーン)持ちだと、あんまり興味ないんだけど……」

「うん、そうなんだけどね? でも、手軽に香りを身体(からだ)に纏えるから、それはそれで便利だし、こういうのって……」

 ジェシカさんとリリスはなにやら陶器っぽい小瓶を前に密談中。

 なんか、今首突っ込んじゃいけない気がする。

 漏れ聞こえた範囲で、リリスが造りたい物も大体見えたし、うん、良いんじゃないかな?

 女性の美容とかそういう系統の欲望は思ったより深かったりする。

 身嗜みは洗浄(クリーン)で全部解決、の世界の方が俺には楽だし有り難いんだけど、魔法を使えない人もそれなりに居て、そもそも覚える機会を与えられない人が大多数らしい世界では、俺もいた世界と同じく石鹸は身近な洗浄用品という訳だ。

 それに、リリスの言う通りで、風呂上がりの石鹸の香りってやつはグッと来る。

 

 こう、男の本懐的な部分を直撃するんだよね。

 日本語がおかしい? でも、何となく理解(わか)るでしょ? 俺だけ?

 

 そんな事を考えている頭を、唐突に鷲掴みにされる。

 その俺と変わらんちっさい手でよくもまあそんな力技が出来るよね?

「イリスも、ボディソープ欲しいよね? 石鹸の香りのお姉さんがどうとか言ってたじゃない」

 すっごいいい笑顔なんだけど、視線を(はず)させまいと込められたその右手の握力で、主に俺の脳天が大変なことになりそうなんです。

 助けて。

 あとお前、その言い方だと俺がお前を論評したみたいに聞こえるからヤメロ。

「ま、まあ、ボディソープも欲しいけど、そうなるとアレだね、シャンプーとコンディショナーとか、その辺も欲しくなるよね?」

 脳天に食い込むアイアンクローは緩まる気配が無い。

 今のリリスは「肯定」の言葉以外は受け入れないだろう。

 俺の身を守るためにも、此処は適当に言葉を返して逃げるしか無い。

 そう思った俺の「世間話は乗っかって拡げろ」作戦に、盛大に食いつくリリス。

 固定する圧力はそのままに、力いっぱい引き寄せられる。

 

 首がッ⁉ 今、首が変な音をッ⁉

 

「たまに天才的ね‼ サラりと香り拡がる髪、素敵よね‼」

 解放されはしたものの、首にダメージを受けて大地に沈む俺を完全無視で、胸の前で指を組んで、まるで祈るような姿勢で。

 この構図では、俺がまるで生贄のような有様だが、何やら浸りきってるリリスさんはそんな事気にしちゃくれない。

 そんなに香りの良い石鹸類が欲しかったのか。

 あー、なんか毎晩風呂に不満げだと思えば、浴室の装飾とかそういう部分じゃなくて、そっちだったワケね。

 

 っていうかたまにってなんだ、俺は常に天才的だわ。

 

 一応この世界でも石鹸は有るし、お風呂用のアロマオイルなんかも有るんだが、ウチじゃあ、っていうか俺が使ってないのよね。

 寧ろこう、疲れを芯から癒す系の入浴剤とか、そういうのが欲しいね、俺ぁ。

「なにそんな、オヤジ臭い事言ってるのよ……。でも、入浴剤か、それも良いわね」

 思案げなリリス。

 そう言えばリリスは、食べるもの、飲むもの、香りの良いものに興味を惹かれるきらいがある。

 女の子らしいと言えばそうなのかと納得していたけど。

 

 データ上の存在として世界中の防犯カメラやらライブカメラやらを通して世界を「見る」事が出来て、マイクで拾った音を「聞く」事が出来ても、それ以外は。

 触れる、嗅ぐ、味わう、その辺はしたくても出来なかった訳だ。

 だから、俺なんかに矢鱈ひっついてくるし、食べ物にも飲み物にも興味津々、香りも同じく、という事なんだろう。

 

 ……匂いフェチとかになんなきゃ良いけど。

 

「入浴剤の心地よさは、体験してみなきゃ理解(わか)らん世界だぜ。言ってたら俺も入りたくなってきた」

 ゆずの香りとか最高なんだよなぁ。

 こっちだと、レモンで代用出来るのかなぁ……?

「ふうん……なるほど、イリスだけ知ってるっていうの、ちょっと悔しいな。そうなると、やっぱり錬金術師を捕まえるしか……」

 やっぱり、俺と同じく商品開発要員の確保が目的だったらしい。

 ただし、俺と違って錬金術師。

 ……っていうか、両方の技能持ちが居てくれれば一番早いんだけど、そんな奴はもう個人で成功してるだろう。

 ウチのクランに入るメリットなんか無いだろうなぁ。

 そうなると才能持ちの新人くらいだろうけど、そんな都合の良い奴が居る訳もない。

 それは即ち、魔法道具技師と錬金術師を1名づつ探す必要が有る訳だ。

 つまり、俺とリリスが、代理で椅子を取り合う事になる訳で。

 どうしよう、俺、勝てる気がしない……!

 お菓子をお茶請けにお茶を楽しむ、パルマーさんのお気楽パワーが羨ましい……!

 え? 俺もそのパワーは持ってるって?

 

 あっはっはっ、またまたご冗談を。

 

 

 

 そんな訳で来ました、冒険者ギルド名物「仲間募集掲示板」前。

 本日も獲物は決まっていますので、4人で手分けする事に。

「で、探しているのは何だって?」

 付き合いが良いくせに、言動は凄く面倒くさそうなタイラーくん。

 俺、知ってる! これがツンデレって奴だよね!

 どうせデレるのはジェシカさんにでしょ、この。

「……だから、なんで殴るんだよ⁉」

 またしても脳天クリーンヒット。 

 頭防具変えようかな、マジで。

「殴るべきだと思ったからな。理由は知らん」

 コイツ、なんか強力な守護霊でも憑いてんのか?

 油断できねぇぜ。

「探してるのは、錬金術師ね!」

 そんな俺の隙を突いて、リリスが要望をねじ込む。

 この小娘、本気だな⁉

「違う、探してるのは魔道具製作者だ!」

 ジンジン痛む脳天を押さえつつ、俺も声を上げる。

 睨み合う、見た目は仲良しな双子。

 リリスの(ほう)は割と本気で殺気を放ちつつ在り、非常に危険が危ない。

「喧嘩するな、面倒臭い。錬金術師と魔法道具作成者だな、見つけたら教えるからお前らで好きなだけ吟味しろ」

 間に立っていたタイラーくんが俺達を押さえるようにそれぞれの頭に手を乗せ、グリグリと強めに撫でる。

「痛い痛い、タイラーくん(いた)ぁい!」

「コイツ、熊のハンスさん仕込(じこ)みの荒業で……(いて)ぇんだってこの野郎!」

 可愛いほうが俺の発言って言ったら、何人信じるんだろな?

 勿論嘘だけど。

 

 そんな寸劇を交えつつ、掲示板閲覧開始。

 中級以上希望の駆け出し重戦士くん、まだ頑張ってるのか。

 微妙に文面変わってるけど、申請し直したのかな?

 近接戦闘大好き治療師さんも、文面が変わってる。

 ……戦わせて下さい? なにその懇願。

 治療師だよね? ウチに、真逆(まぎゃく)の募集文載せてた斥候()がいるけど、2人足して2で割れば丁度いい性格なのかな。

 いや、ヘレネちゃんのほんのり天然風味が最近お気に入りだから、あのままで居て欲しいけどね。

 

「……下僕(いぬ)を探しています? ご褒美応相談? 獣使い(テイマー)かしら?」

 おおう、リリスもまたヘビーなの見つけてんな。

「そいつは字面(じづら)が危険だ。触るんじゃないぞー」

「えー? はぁい」

 知らなくて良い世界も有る。

 っていうか、ネット空間をあちこち渡り歩いていたリリスは、俺なんかよりだいぶヘビーな世界を知ってそうだけど、まあ、見た目の年齢通りの扱いくらいはしてやろう。

 こっちに話を振られても困るしな!

 

 結果として、俺もリリスも、お目当てのお仲間は見つからない。

 休憩という事で、バーでいつも通りの一服タイム。

 俺とリリスは蜂蜜とレモンの果汁入りのミードだ。

 リリスの注文から始めたメニューらしいが、女性冒険者にたちまち大人気。

 元々入荷の少なめだったミードが、日によっては売り切れる程だという。

 だよね、これ美味しいもんね。

 一説には、ギルドの女性職員の分を確保しているので、売り切れが起こるのだとか。

 そういう目でアマンダさんを眺めると……。

 

 今度、2人きりで飲みませんか? とか誘ってみたいよなー、うん。

 

「ねえ、変態エロイリス、これからどうするのよ」

 俺の名前随分長くなったね?

 呼ばれてリリスの方を見れば、何故かちょっと膨れて俺を睨んでいる。

 なんじゃい、話は聞いてるぞ?

「んー。募集掲示板に居ないんじゃ、探し様がなぁ。グスタフさんとかに聞ければ早いんだろうけど、居ないもんはしょうがない」

 そう、今日は珍しく酒樽の妖精ことグスタフさんが居ない。

 そりゃそうだ、幾らグスタフさんだって、いつでも昼から酒場に居る訳じゃない。

 冒険者としての仕事も有るんだろうし、ああ見えて若いのに慕われて――。

「んん? 呼んだか、リリス……じゃなくてイリスだったか?」

 ……今から呑む所らしい。

 上機嫌のグスタフさんが、俺の頭を鷲掴みにする。

 なんでどいつもこいつも、俺を見ると頭を掴むとか胸倉掴むとかするんだ?

 

 胸が掴むほど無いからだ? よぉし(おもて)に出ろこの野郎!

 

「誰と何の喧嘩してるのよ、バカちゃん」

 リリスに言われて冷静になり、グスタフさんの手を振り払う。

 ずっと人様の脳天掴んでるんじゃないよ、もう!

 俺は(わざ)とらしく咳払いすると、事の顛末を話し始める。

 

「――って言う訳で、掲示板にも居ないし、俺はそんな知り合い居ないし、八方塞がりでなぁ。酒樽の妖精さんの知恵を借りようかなって」

「誰が酒樽の妖精だコラ」

 余計な一言のせいでまた頭を掴まれたりしつつ、俺は事情説明をする。

 考え込んだグスタフさんは、ふいっと、視線をタイラーくんの(ほう)へ。

「お前ら、知らないはず無いよな? 何で教えてやらないんだ?」

 んん? 何? 何の事?

 不思議そうに顔を上げる俺から、視線を逸らすタイラーくん。

 

 こいつ?

 

()()()()()()()()()()()が有るだろ、なんでそっち案内しないんだ?」

 もの凄く不思議そうな顔のグスタフさん。

 目を逸らすタイラーくん、同じく目を逸らしつつ、肩を震わせるジェシカさん。

 

 こいつら? 知ってて黙ってたな?

 

「いや、すぐ隣に有るのに、いつまで経っても気が付かないのが面白くてな」

 開き直ったらしいタイラーくんがしゃあしゃあと言ってのける。

「いつ気付くかなって思ったら、全然気付かなくて、もうね……!」

 (こら)え切れなくなったのか、涙まで流して笑うジェシカさん。

「お前らな⁉」

「信じらんない!」

 俺とリリスの声がホールに響くが、すぐに周囲で様子を見ていた冒険者たちの笑い声に掻き消される。

 

 こいつら⁉ 全員知ってて黙って見てやがったのか⁉

 いつかこいつら全員、面白おかしい目に遭わせてやるからな⁉

 例えばお前ら、「唐辛子せんべい」とか知らないだろ⁉

 楽しみにしてろよコンチクショウ!

 

 

 

 ぷりぷりと怒りながら掲示板まで戻る俺とリリス。

 見ると確かに、仲間募集のすぐ隣に職人募集掲示板が。

 

 職人募集掲示板は、名前の通り「職人」を募集する物だ。

 だからこの場合は、俺かリリスが募集文を貼り出すのが正しい使い方なのだが、同時に此処には仕事を求める職人も仕事募集の文を貼り出している。

 なので、別名で「仕事依頼募集掲示板」。

 仕事募集の(ほう)は言うほど数が多くないので、独立した掲示板が作られる程では無いのだという。

 

「なるほどねえ、でも確かに、職人『を』募集してる(ほう)が多いわね……」

 視線を走らせながら、リリスが言う。

 言いながらも、あちこちの募集文をきっちり読んでそうだな。

「こりゃ、俺らも職人を募集するのが早いのかな?」

 並列なんとかなんてスキルのない俺は、文章をなんとなく目で追いながら、適当な返事を返す。

 こりゃあ、今日明日でどうにかなりそうな気がしないな。

 いっそ、単に錬金術見習いです頑張ります、みたいな単純なモンでも無いもんか、そんな事まで考え始める。

「んん?」

 そんな事を思う俺の目は、一枚の仕事募集の文章に停まる。

 

 魔法道具制作します。錬金術多少扱えます。生活魔法及び錬金術の魔法道具化の可能性を研究しています。ご用命は商業区の――。

 

「おい、おいリリス!」

 俺はリリスの肩を叩き、俺のテンションに鬱陶しそうなリアクションのリリスに、その募集文を指差す。

 これ、下手するとどっちも半端で使えない可能性も捨てられないけども。

 もしかしたら、すごい天才の可能性も⁉

「……大丈夫なの? なんか漠然としてて、不安しか無いんだけど」

 俺のテンションに対して、リリスは懐疑的だ。

「ダメだったらそれまでだろ、話聞いて見るだけでもどうなんだ、()ってみようぜ!」

 俺は勢いのままに募集文を引き剥がし、カウンターへ走る。

 なんか躍起になって魔法道具制作技師を探してる俺だけど、商品開発できてウチの利益に繋がるもんが出来るなら、実は何でも良いと思っている。

 ぶっちゃけると、魔法道具は後回しでも良いのだ。

 リリスの欲しがってるボディソープとか、そっちを作って貰えれば、リリスの気も晴れるんじゃないのか?

 気恥ずかしくて口にするのも憚られるが、最初こそ純粋に意見が対立した。

 だけど途中からは、リリスがちょっとでも元気づけばと、ワザと対立する様な言動をしていた。

 

 アイツ、なんか時々溜息()いてるし、感情的に複雑な部分は有るものの、嫌いな訳じゃない。

 リリスにはリリスの悩みも有るのだろう。

 そんなリリスの気晴らしになれば良いんだけど。

 

 思いがけない稀有な才能の持ち主か、中途半端な職人志望か。

 ダメ元ってのが本音では有るけれど、まあ、駄目なら駄目で、それでも気晴らしのネタくらいにはなるだろうと、俺はリリスの手を引いて走り出した。

 

 

 

 折角、念願の肉体を手に入れて、人間のように生きていける、生命(いのち)を精一杯謳歌して、死んでいける、そういう存在になったのに。

 

 なんだかつまらない。

 

 リリスはちらりと、カウンターで説明を受けているイリス――賢介に目を向ける。

 本当は、リリスの伴侶として、ちゃんと元の世界と同じ肉体を与えようと思っていた。

 だから、山賊の、男の身体(からだ)まで分解して調べたのだ。

 元の姿は見ている。

 声も聞いている。

 好みは知らないけれど、ずっと私一筋のゲームプレイだし、少なくとも嫌われては居ないんじゃないかな?

 そう思っていた。

 

 だが、いざ賢介の肉体を造ろうと思うと、どうしても疑念を(いだ)き、躊躇してしまう。

 

 他に賢介に言い寄ってくる女が居たらどうしよう?

 本当は私を嫌いだったりしたらどうしよう?

 

 考える程にどうしようも無く恐ろしく、作成は一時保留し、必要な素材は解り易い形にしてアイテムボックスに保管した。

 リリスだけが理解(わか)ればいいので、宝石の形に偽装し、リリスだけが見分けられる目印を着けた。

 

 だが、賢介を縛り付けたくない。

 そんな思いは葛藤になり、妥協案として出たのは、自分の身体(からだ)をとりあえず使わせる事。

 いつでも入れ替われるし、まずは、賢介にこの世界を見せる。

 もしもこの世界を拒絶するようなら一度私の中で眠らせ、時間を置いて、身体(からだ)を作ってあげよう、一緒にずっといよう、そう思って。

 だが目覚めた賢介は、この世界を受入はしないが夢であると割り切り行動を開始し、子供を助け交流を重ね、仲間を得て、このままではリリスの入り込む隙間が無くなってしまいそうだった。

 音は聞こえるのに、以前と違って好きなタイミングで(おもて)を見ることが出来ないのも、ストレスとなった。

 賢介を隔離するための内部空間、そのつもりだったのに、このままでは私がストレスで参ってしまう。

 

 何より、賢介と話が出来ないのがイヤだ。

 

 魔女騒ぎのどさくさで入れ替わった時、()()()()()()()()()()という事実に幸福を覚えた。

 そういう状況に持っていけた魔女に、感謝すらした。

 感謝したからこそ、賢介の想いも素直に酌めたし、殺さずに済ませる事が出来た。

 どちらかが欠けていたら、あの魔女は死体をこの世に残すことも出来なかっただろう。

 だが、領都とやらで過ごす内に、眠る賢介の気配を感じながら、思い出すのは賢介の――「リリス」の仲間の声、気配。

 このまま、賢介を眠らせたまま、彼ら、彼女たちに会って、私は仲間として振る舞えるだろうか?

 考えた末の結論は、賢介復活。

 だが、まだ割り切れない気持ちが創り出したのは、自身の似姿。

 仲間たちと馴染みやすいであろう、と言う逃げ。

 男の姿に別の女が寄って来た時に、自分を抑えきれる自信が無かったこと。

 

 リリスの勝手な悩みや嫉妬で、賢介は「イリス」として復活を果たす。

 

 その事を知ったら、イリスは――賢介は、自分(リリス)を軽蔑するだろうか?

 絶対に嫌われたくない、だから絶対に言えない。

 小さく、こっそりと。

 リリスは溜息をまたひとつ、零すのだった。

 

 

 

 また溜息()いてら。

 カラ元気なのかと思うと、なんかツラくなるね。

 石鹸でもなんでも、リリスの欲しいもんが出来て、気晴らしになってくれりゃ良いんだけど。

 そんでそれが商売になれば、万々歳なんだけどな。

 

 そんな事を思いながら、俺はリリスと、面白斥候(スカウト)2人組を率いて商店街へと戻っていた。

 この商店街の一角で、目当ての人物はここで店を構えているらしい。

 なるほど、店か! 若いらしいのに店とは、一角(ひとかど)の人物という奴か?

 楽しみだし、期待出来るってモンだ。

 残念なのは既に店を持っているって事か。

 ウチのクランに入って貰うのは兎も角、ウチに住んで研究に没頭、とかはして貰え無さそうだ。

 

 っと、気ばかり急いても仕方ないね、まずは話を聞いて貰わなきゃね!

 

 そんな事を呑気に思いながら向かった先で出くわしたのは、珍妙な……有り体に言って修羅場だった。

 

 

 

「どうか、どうかもう少しだけ待って下さい! 必ず家賃はお支払いしますから!」

 なんか、色んな荷物と一緒に放り出さされたと思しき若い女……つか、あれ、見た目的にはヘレネちゃんよりちょい年上、程度にしか見えん。

 そんな少女が往来で1人の男に取り縋っていた。

「しつこいですよ、レイニーさん。もう3ヶ月も待ったのです、これ以上は無理ですよ」

 冒険者ギルドでは見ないような線の細い、ヒゲの男が、無下に振り払うことも出来ずに、困ったように眉根を寄せている。

 ……この人、憎まれ役をやるには人選が悪過ぎだろう。

 妙な人の良さが全体から滲んでて、なんか俺、この場の両方に同情しちゃう。

 

「必ず、必ずお家賃はお支払いしますから、どうかお願いします!」

 必死で取り縋る女の子。

 俺はちらりと視線を滑らせる。

 視線の先では、またかと言う顔のタイラーくんが。

「お前は……大体、言いたい事は判るが。毎度言うが、ちゃんと相手を見極めてだな……」

 溜息と一緒に小言を吐き出すタイラーくんを遮ったのは、珍しいことにジェシカさんだった。

「まあまあ、だったらお話聞いてみれば良いじゃない。イリスちゃんだったら、両方助けられそうよ?」

 ジェシカさんの言葉で、どっちにも同情しちゃうのは俺だけじゃないと判った。

 なんか、やりたくもない憎まれ役も可哀相だし、当然追い出されそうな女の子だってそうだ。

 それにまあ、技術者が欲しいのは確かで、この状況なら上手いこと立ち回れば、というか余程の下手(ヘタ)を打たなきゃ、この女の子だったら取り込めそうな気さえする。

 

 えー、なにこれ、この場で一番悪い人が俺ってどういう事よ。

 

 考えても仕方がないので、俺は、泣き出しそうなオッサンと少女の間に立つ事に。

 用が有ってウチに欲しいのは女の子の方なんだが、心情的にはオッサンに多目に同情しつつ、話を聞きに回るのだった。




イリスこと賢ちゃんとリリスちゃんの心は、いつか向かい合えるのか。
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